法哲学年報
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法解釈学における理論と法形成
法解釈学の再構成のために
北川 善太郎
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1972 年 1971 巻 p. 43-73

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抄録

最後にこれまでの要約をしておこう。
「法解釈学の再検討」(二)では、従来の法解釈論争が解釈を一つの実践的行動であるとする点で一致したまとまりをみせているが、そこではもっぱら裁判を前提とした法解釈であり法解釈学が考えられている。しかし、判例中心の法解釈学では、社会的現実をとらえることには限界がある。このことはアメリカにおけるケース・メソッドがはっきり示している点である。法解釈学における事実は、社会的現実に焦点をあわす必要がある。他方、わが私法社会に生起する問題解決のために法解釈学が動員され、法理論がつくられていくが、そうした法形成のプロセスとならんで、わが法独特の事情として、かつて現実とは一応遮断して外国法ないし法学を完成品として輸入したことによる問題もなお現代のものとしてのこっている。こうした諸点は法解釈学のいずれの分野でもみられるのであり、これらを検討するたあには、法解釈学の視野拡大が必要である。
三の「問題解明のための枠組」では、法解釈学の視野拡大をうけとめるために、問題領域のひろがりをまずおさえることを試みた。本稿では、法形成の行なわれる立法、行政、裁判、社会、学説の各局面に対するに、継受法と社会規範内抽象的体系と社会的現実、判例中心の実用法学といったわが法の与件を配して、それぞれの組合わせによって法解釈学の問題領域のひろがりをとらえようとした。ここでえられた問題領域はきわめてひろいが、それぞれに対してこれまでの法解釈学は無意識的にせよ個々的にアプローチをしてきたといえる場合も少なくない。
かように法解釈学の視野拡大のスコープがきまると、つぎはそれぞれについて具体的な検討をすることになる。
四の「若干の問題へのアプローチ」では、A「裁判による紛争解決の実効性」、B「形式的な概念主義」、C「法.曹の契約理論・契約意識」、D「私法体系のアンバランス」のテーマについて考察した。Aでは、法的紛争解決において、裁判による解決と話し合いによる解決とがわが国ではいずれがより合理的で満足のいく解決となるかのコンクール関係にあるという視点をといた。Bのテーマでは、裁判所による法形成と行政官庁の有権解釈によ、る法形成との対立の例をとりながら、法理論・法形成のユニークな一面を検討した。Cはわが私法体系が契約法体系をまとまったものとして構築していないので、契約の論点が、民法総則、債権総論、各論とあちこちで扱われることになっていることを指摘し、法律家自らの喫約理論、契約意識に問題がないかを考えてみた。Dでは、今日なお存続するパンデクテン・ジステームがどういう問題を法理論・法形成になげかけているかを分析した。判例中心の実用法学は問題に即した法形成を着実にフォローするが、これがそのまま伝来的な抽象的体系にはめ込まれると、まま一般化される危険に抗しがたくなる。これでは問題思考は体系思考の従属物になりかねないわけである。あるいは、伝来的な抽象的体系に欠缺があれば、現実には頻繁に生ずる問題であっても、適切な法理論を見出さないままにおかれることが生じる。
以上が本稿の要旨である。本稿は、法解釈における論理のはたらき、それによる法形成の問題を法解釈学のあり方との関係で考察したものである。すでにあきらかにしたような理由で、裁判における法解釈に焦点をあわせて法理論・法形成をとらえること-そのことはきわめて重要であるが、そこでの法形成が、わが私法社会にとりどういうものかをしらないままこれをすすめることにはちゅうちょを感じる。-よりも、筆者には、法解釈学の視野拡大・それの再構成が先決問題であった。そこで、この拡大された問題領域で、法理論といい法形成といっても、かなり色合いのことなる特質のものがあることを試論的に具体的なテーマを検討しつつ考えてみたわけである。したがって、同一手法による具体的制度の解釈論の分析をもふくめたそれぞれの問題領域での法理論・法形成そのものの分析は今後の課題としてのこっている。

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