日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2005年 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G1-02
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G1:サブダクションファクトリー
北部マリアナトラフ、アマグマティック拡大軸における海洋地殻アナテキシスと変成作用
*有馬 眞増田 純一
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抄録

マリアナトラフは,フィリピン海プレートと太平洋プレートの収束帯に形成されたマリアナ弧が分裂・拡大し形成された背弧海盆である.マリアナトラフの北緯20度付近に位置するCentral Grabenは,アマグマティック拡大軸に位置し,ここでは水深5500mに達するグラーベンが発達し下部地殻や上部マントルの岩石が地表に露出している (Yamazaki et al.,1993;Stern et al.,1996). 2002年1月に行われたJAMSTEC深海調査研究船「かいれい」による調査航海「KR02-01」で行われた、Central Graben South (20゜04´ N,144゜04´ E,水深4868∼4309m)ドレッジにより,カンラン岩類、角閃石はんれい岩類、ト−ナル岩類、および面構造の発達した角閃岩が採取された.珪長質深成岩は,その鉱物学的・地球科学的特徴から,玄武岩海洋地殻の部分融解によって生じた安山岩質メルトの結晶分化作用及び集積作用により形成されたと考えられた(増田・有馬, 2003[3]). 安山岩質メルトを生成した背弧海盆玄武岩地殻の部分融解は比較的低圧(>0.2 GPa)で起こったと推定される.本研究では,Central Graben角閃岩を出発物質とした0.3-0.7 GPa,900∼1200℃の条件下での融解実験を行ない,安山岩質メルトの形成過程について考察した.  Central Graben Southから採取された角閃岩を1500℃で加熱ガラス化し、蒸留水3%を加え出発物質とした.出発物質を2mmφPtカプセル中に入れ,1/2inchタルク−ガラスセルに組み込み,ピストンシリンダー型高圧装置を用い実験をおこなった. SEM-EDSにより実験生成物中の相同定と化学組成の分析を行なった.実験生成物のSEMデジタル画像のモード測定を行い鉱物相およびメルトの量比を求めた. 温度上昇によりメルトの量比は増大し,1200℃では完全に溶融した.斜長石・角閃石・単斜輝石・斜方輝石・磁鉄鉱・チタン鉄鉱がメルトと平衡に共存した.斜長石はいずれの温度・圧力条件下でも最も多量に晶出し,鉱物相の50%以上を占めた.角閃石は低温領域で主要なマフィック鉱物として晶出した.輝石類は高温領域に晶出し,単斜輝石は1000℃,1100℃の実験において,斜方輝石は1100℃の実験時にのみ晶出が確認された.実験で生成したメルト組成は,マリアナトラフ深成岩類と同様にカルクアルカリ系列に属し,比較的低圧下(0.3GPa)の実験でマリアナトラフ深成岩類と類似した組成を持つメルトが生成した。0.15 GPa,1000℃のPムT条件に外挿し推定されるメルト組成は,マリアナトラフ深成岩類の安山岩質本源マグマ組成と類似している.  以上の実験結果から,マリアナトラフ深成岩類の生成過程を考察した.マリアナトラフのような低拡大速度海嶺下に位置するマグマだまりは,定常的に存在するのではなく,マントルからのメルト供給イベント時にのみ海洋地殻中に形成される.マントルからのメルト供給が充分行われない時期には,断層運動による海洋地殻拡大が卓越する.この時期には,断層に沿い海水が海洋地殻下部まで供給され,玄武岩は変成作用により角閃岩化する.その後,メルトの供給が再開され温度が上昇すると,マグマだまり周辺の角閃岩のアナテキシスにより安山岩質メルトが生成される.部分融解時の圧力は最大で0.15 GPa,温度は1000℃程度だったと推測される.安山岩質メルトの地殻深部における結晶分化作用によりトーナル岩類,それに伴う沈積作用により斑レイ岩類が生成された.これら深成岩類は,その後の断層運動により現在の海底面に露出したと考えられる.

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© 2005 日本鉱物科学会
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