医学検査
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症例報告
培養継続中の血液培養から原因菌を診断できた侵襲性肺炎球菌感染症
澤井 恭兵菅野 のぞみ田口 裕大柳内 充櫻井 圭祐深澤 雄一郎中村 茂夫高橋 俊司
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2017 年 66 巻 2 号 p. 158-162

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Abstract

培養継続中であった血液培養にグラム染色を行い,菌の染色性と形態から早期に侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease; IPD)を診断することができた症例を経験した。症例は60歳代男性。全身に紫斑が出現し,急激に全身状態が悪化した。培養継続中であった血液培養にグラム染色を行ったところグラム陽性双球菌が認められ,尿中肺炎球菌抗原検査と併せてIPDが早期に診断できた。しかし,全身状態が改善することなく永眠された。本症例から培養継続中である血液培養にグラム染色を行うことで,血液培養自動分析装置で陽性を示すよりも早期に原因菌を推測できることが示唆された。実施には課題もあるが,検討に値する方法であり,この方法を臨床に周知・啓蒙したい。

I  はじめに

血液培養自動分析装置で培養継続中であった血液培養にグラム染色を行い,菌の染色性と形態から早期に侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease;以下,IPD)を診断することができた症例を経験した。培養継続中である血液培養にグラム染色を行うことで早期に原因菌を推測できることが示唆されたので,考察を加え報告をする。

II  症例

患者:60歳代,男性。

既往歴:特記事項無し。

現病歴:前日,発熱・悪寒戦慄を自覚し,近医を受診した。インフルエンザ抗原検査は陰性で対応され帰宅した。翌日,36℃まで解熱したが,下痢,嘔吐が見られ,当院に来院した。外来で待機している間に倦怠感が増悪したため,血液培養採取後,当院救命救急センターに搬入となった。

搬入時検査所見:血液検査では白血球・血小板の低下が認められ,分画では後骨髄球・骨髄球・杆状核球の増加が認められた。また好中球細胞質内に好中球空胞変性,赤血球内にHowell-Jolly小体が認められた(Figure 1a, b)。生化学検査では肝・腎機能の低下,CRPの上昇が認められた。凝固検査ではPT・APTTの延長,フィブリノゲンの低下とFDP・Dダイマーの上昇が認められた。動脈血液ガス分析では高乳酸血症を伴う代謝性アシドーシスであった。(Table 1)。尿中肺炎球菌抗原検査は陽性であった。画像検査では明らかな感染巣は認められず,CT画像では脾臓の低形成が疑われた(Figure 2)。

Figure 1 

a:Howell-Jolly小体(メイグリュンワルド・ギムザ染色),b:好中球空胞変性(メイグリュンワルド・ギムザ染色)

Figure 2 

腹部CT画像所見

Table 1  搬入時検査所見
血液検査 生化学検査 血清検査
WBC(×103/μL) 3.4 Bil-T(mg/mL) 1.6 PCT 3+
RBC(×106/μL) 5.04 γ-GT 277
Hgb(g/dL) 15.6 ALP(U/L) 359 凝固検査
Hct(%) 47.6 AST(U/L) 981 PT(%) 38
PLT(×103/μL) 26 ALT(U/L) 377 PT-INR 1.65
 Baso(%) 0 LD(U/L) 1,289 APTT(秒) 104
 Eos(%) 0 CnE(U/L) 335 Fib(mg/dL) 76
 Stab(%) 16 Alb(g/dL) 2.9 At III(%) 60
 Gran(%) 42 TP(g/dL) 5.1 FDP(μg/mL) 137.6
 Lym(%) 16 A/G 1.32 DD(μg/mL) 59
 Mono(%) 5 Na(mEq/L) 140
 A-Ly(%) 1 K(mEq/L) 4 血液ガス
 Blast(%) 0 Cl(mEq/L) 104 pH 7.36
 Meta(%) 4 Ca(mg/dL) 8.4 PCO2(mmHg) 25.4
 Mye(%) 16 UN(mg/dL) 2.56 PO2(mmHg) 100
Cr(mg/dL) 2.55 HCO3(mmol/L) 14
eGFR(mL/min) 21.1 BE(mmol/L) −9.4
AMY(U/L) 86 Lac(mmol/L) 6.8
CK(U/L) 192
CRP(mg/dL) 8.04 尿中抗原迅速検査
尿中肺炎球菌抗原 (+)

臨床経過:エンピリックにmeropenem(以下,MEPM),vancomycin(以下,VCM)の投与を開始した。時間の経過とともに全身に紫斑(Figure 3)が出現し,急激に全身状態が悪化した。そのため臨床側から原因菌の早期検出を依頼され,血液培養自動分析装置BACTEC FX(日本ベクトン・ディッキンソン,以下BACTEC)で培養を開始して3時間経過した血液培養ボトルを取り出し,血液培養液を原液のままグラム染色を行った。1~10/1視野のグラム陽性双球菌が認められた(Figure 4)。尿中肺炎球菌抗原が陽性であり,IPDと診断された。取り出した血液培養ボトルは再度BACTECに入れ,培養を継続した。人工呼吸器管理,昇圧剤,大量補液で治療を行ったが,全身状態が改善することなく永眠された。当院救命救急センターに搬入されてからおよそ5時間と急激な経過であった。感染巣の特定および侵入門戸特定のために病理解剖が行われた。明らかな感染巣は特定できず,侵入門戸は特定できなかった。脾臓は35 gと低形成であった(Figure 5)。病理学的な播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular cosgulation syndrome; DIC),両側副腎の著明な出血,紫斑が認められ,直接的な死因は肺炎球菌感染を契機に起こったWaterhouse-Friderichsen-syndrome1)と考えられた。

Figure 3 

全身に広がる紫斑像

Figure 4 

培養継続中の血液培養のグラム染色像。グラム陽性双球菌が認められた(矢印)

Figure 5 

脾臓

その後,BACTECで再培養2時間後に血液培養が陽性になった。ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて35℃,炭酸ガス培養を行った。翌日,菌種の同定をVITEK2GP同定カード(シスメックス・ビオメリュー),感受性をMICroFAST5J(ベックマンコールター)を用いて実施した。翌々日,ペニシリン低感受性肺炎球菌(penicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae; PISP)が同定された(Figure 6)。MEPM,VCMの感受性は良好であった(Table 2)。

Figure 6 

血液培養陽性時のグラム染色像

Table 2  感受性結果(CLSI M100-S18に準拠)
薬剤 MIC 感受性
Benzylpenicillin (PCG) 0.5 I
Clavulanic acid/Amoxicillin (CVA/AMPC) ≤ 1 S
Cefotiam (CTM) 1 I
Cefditoren pivoxil (CDTR-PI) 0.5 S
Cefixime (CFIX) ≥ 2 R
Cefotaxime (CTX) 0.5 S
Ceftriaxone (CTRX) 0.5 S
Cefepime (CFPM) 1 S
Meropenem (MEPM) ≤ 12 S
Erythromycin (EM) ≥ 2 R
Clarithromycin (CAM) ≥ 2 R
Clindamycin (CLDM) ≥ 2 R
Tetracycline (TC) ≥ 8 R
Chloramphenicol (CP) ≤ 4 S
Vancomycin (VCM) 0.5 S
Levofloxacin (LVFX) 1 S
Sulfamethoxazole/Trimethoprim (ST) ≤ 0.5 S
Rifampicin (RFP) ≤ 1 S

III  考察

IPDはStreptococcus pneumoniaeによる侵襲性感染症のうち,本菌が髄液または血液から検出された感染症と定義される2)。BACTECで培養継続中の血液培養にグラム染色を行い,早期からIPDを診断することができた症例であった。尿中肺炎球菌抗原検査の陽性反応は数日から数週間にわたって持続する場合もあり,過去の感染によるのか現在の感染によるのか判断が難しく,必ずしも現在の肺炎球菌感染を確定診断するものではない。本症例では血液培養でグラム陽性双球菌が認められ,尿中肺炎球菌抗原検査と併せて,早期にIPDを診断できた。また,脾臓低形成に加えて末梢血でHowell-Jolly小体が出現していることから,脾機能が低下していた可能性がある。そのため,肺炎球菌感染症が重症化しやすかったと考えられた3),4)

本症例で行われた培養継続中である血液培養にグラム染色を行う方法により,血液培養自動分析装置で陽性を示してからグラム染色を行う方法よりも早期に原因菌を推測できることが示唆された。この方法により早期に原因菌が推測できた時点でサブカルチャーを行えば,血液培養自動分析装置で陽性を示してから培養を行う従来の方法よりも同定・感受性結果を早期に報告できる。早期報告によって適正な抗菌薬の選択を臨床に促すことができ,患者の適正な治療にもつながる。

しかし,この方法を実施していくにあたり課題が3つ考えられる。まず,血液培養ボトルから血液を抜く行為はコンタミネーションを起こす可能性がある。防ぐには,通常の血液培養2セット採取に加えて,あらかじめ血液培養自動分析装置から培養継続中に取り出すための血液培養を1セット多く採取することでコンタミネーションによる影響を回避できる。1セット多く採取することは患者負担の増大・費用の増加になる可能性がある。しかし,前述の通り同定・感受性結果を早期に報告でき,早期に適正な抗菌薬に変更ができるため,結果的に抗菌薬投与期間や入院期間が短縮される。そのため,患者負担が増大しないこと及び総費用が増加しないことが見込まれる。

次に,血液培養自動分析装置が細菌の発育による代謝産物の増加を間接的に測定する原理であるために,血液培養自動分析装置から取り出した血液培養ボトルを再度入れ直すことは,陽性結果の遅延を招く可能性がある。前述の通り,あらかじめ血液培養自動分析装置から培養継続中に取り出すための血液培養を1セット多く採取することにより陽性結果の遅延も回避できる。これら2つの課題から,現時点ではこの方法を実施する場合には血液培養を1セット多く採取することを推奨したい。しかし,全ての敗血症を疑う症例について血液培養を1セット多く採取することは現実的な方法ではない。そのため,実際にこの方法を行う場合には臨床医との相談の上,敗血症を疑う症例の中でも重症敗血症や敗血症性ショックなど重症度の高い症例に対してこの方法を行うようにするなどの院内での工夫が必要になるであろう。また,追加の1セットに対してどの程度の頻度でグラム染色を行うべきかについては,本症例が培養を開始してから3時間後のグラム染色で原因菌を推測できたことから,現段階では培養を開始してから3時間毎にグラム染色を行うことを推奨したい。

最後の課題は,この方法の有効性は本症例で確認されたものの,過去の報告にはないことである。最終的な有効性の判断は症例の蓄積をみるほかは無い。臨床医との密な連携の上,例数を増やし,この方法の有効性およびこの方法の適応症例について注意深く検討していくことが望ましい。

IV  結語

本症例から培養継続中の血液培養にグラム染色を行う方法により,血液培養自動分析装置で陽性を待つよりも早期に原因菌を推測できることが示唆された。敗血症に対して早期に適切な治療を行うためにも,この方法を臨床に周知・啓蒙し,適応症例を重ね検討したい。

 

本症例は当院での倫理委員会の対象とならないため倫理委員会の承認を得ていない。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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