医学検査
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資料
透析病棟における血管超音波検査の取り組み
田中 雅也實原 正明関島 康弘津金 雅之丸山 紘明
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2017 年 66 巻 4 号 p. 398-403

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Abstract

病棟常駐化を目的に,現在病棟で実施している様々な業務の見直しを図った。病棟業務の需要と必要性を問うために看護部を初めとする医療従事者および検査科職員に向けアンケートを実施したところ,検査技師の病棟業務に全師長が賛成し,まずは時間常駐での協力要請があった。病棟業務を遂行するうえで,専門性が発揮できる業務が職員の理解とモチベーションに繋がり,それらを率先し実践することとした。今回われわれは,透析病棟において新たに血管超音波検査を開始した。検査業務のみならず,チームの一員として円滑に業務が遂行できるよう,VA管理基準,フローチャートの作成,報告様式の見直し,スタッフへの教育に取り組み一定の評価を得たので報告する。

I  はじめに

日々の検査業務に勤しむ中で,検査室外での業務が増し,病棟へ出向く機会も増えた。当科では透析室でのバスキュラーアクセス(vascular access; VA)超音波検査を新たな病棟業務の一環として取り組み,定着に至ったので報告する。

II  当院の透析実施状況と管理体制の構築

当院腎センターは医師2名,看護師9名,臨床工学技士3名が在籍し,維持透析患者に対して昼夜2クールの透析を実施し,更に地域医療支援病院としてVA新規造設術のほか,手術・入院治療を要する透析患者の受け入れや周術期管理を主な業務としている。透析患者の血管管理の重要性はいうまでもなく,その中でVA超音波検査は,機能的評価・形態的評価を非侵襲かつ短時間で行える優れた検査法であり,治療の適切な時期を客観的に評価する上で必要不可欠な検査である。2014年4月,当科に透析室でのVA超音波検査の実施と指導の要請があり,病棟業務の一環としてこれに参加した。

III  検査技師の関わり

1. 人員体制

4名の検査技師が担当。

2. 時間常駐

月曜日15:00~16:00

火曜日13:00~16:30

金曜日13:00~16:30

3. 業務内容

超音波検査(定期検査1日2件,緊急検査6件/月,シャント増設前検査5件/月)。

カンファレンス参加(毎週月曜日開催)(Figure 1)。

Figure 1 

カンファレンスの様子

超音波ガイド下穿刺の介助(Figure 2)。

Figure 2 

超音波ガイド下穿刺の介助

看護師にむけて,穿刺困難部位に対するエコーを使ったレクチャー(Figure 3)。

Figure 3 

レクチャーの様子

患者にむけて,現在のシャント状況を説明。

透析病棟担当者によるPOCT精度管理業務。

IV  業務改善への取り組み

検査技師の介入から以下の改善を図った。

1. 報告様式の見直し

数値と画像主体であった従来の報告書のほかに,シェーマ報告書(Figure 4)を追加した。これにより視覚的判断が容易となり,正確な穿刺部位サポートの一助として有益な情報提供に繋がった。このシェーマ報告書は経時的観察に繰り返し用いられ,正確なマッピングが要求されることから,作成時には長時間を要していた。この改善を目的に,ドクターカンバス・液晶ペンタブレット(ワコム社製)を導入した。これにより2回目以降の検査所要時間が30分短縮し検査の効率化が図られた。

Figure 4 

シェーマ報告書

2. 学習会の開催

VA超音波検査の結果解釈等,透析スタッフの理解度を調査した結果,約半数以上が不安視する声があり,数値や画像の見方や考え方を中心にVA超音波検査の定期的な学習会を開催した。

3. VA管理基準およびフローチャート作成

日本透析医学会:2011年版「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」1)を参考に作成した当院のVA管理基準により,状態別にA~Dの4クラスに分類した(Table 1)。クラス毎に超音波検査の周期を決め,クラスAでは6ヶ月毎,クラスBは3ヶ月毎,クラスCは2ヶ月毎,クラスDは1ヶ月毎の定期検査を実施することとした。更に医師との協議のうえ,PTAを検討する適応基準(Table 2)を策定した。

Table 1  当院のVA管理基準によるシャントのクラス分類
当院のVA管理基準
クラス
分け
STS活用 シャント歴 エコーの評価 評価基準
本幹に狭窄部が
あるか
透析中の
静脈圧
シャント治療歴
シャント閉塞歴
上腕動脈血流量(FV) 上腕動脈血管抵抗指数(RI)
シャント音
A 狭窄なし 160 mmHg以下 PTA歴なし 自己血管 500 mL/min以上 自己血管 0.6未満 全てに
あてはまるもの
正常音 人工血管 650 mL/min以上
B 狭窄あり 160 mmHg以上 PTA歴あり 自己血管 500 mL/min未満 自己血管 0.6以上 いずれか1つ
あてはまるもの
高音あり 人工血管 650 mL/min未満 人工血管 0.8以上
C 狭窄あり 160 mmHg以上 閉塞歴あり 自己血管 350 mL/min未満 自己血管 0.7~0.8以上 いずれか1つ
あてはまるもの
常に高音 人工血管 350 mL/min未満
D 高音あり
拍動あり
160 mmHg以上 定期的PTA治療
頻回閉塞
人工血管 350 mL/min未満 0.7~0.8以上 全てに
あてはまるもの
VA超音波検査の周期
クラスA:6ヵ月毎 クラスB:3ヵ月毎
クラスC:2ヵ月毎 クラスD:1ヵ月毎
Table 2  当院のPTAを検討する基準
自己血管 人工血管
上腕動脈血流量(FV) 300 mL/min以下 500 mL/min以下
血管抵抗指数(RI) 0.72以上
狭窄部位 内径1.5 mm以下 内径1.5 mm以下
1.0 mm以下で緊急PTA 1.0 mm以下で緊急PTA

定期超音波検査のフローチャート(Figure 5)に沿って効率的な運用が可能となり,管理システム導入から,検査予約管理,検査履歴,治療履歴,理学的所見,VA超音波所見の数値的な変化やシェーマによる形態的な変化などを経時的に管理することとした。

Figure 5 

定期的VA超音波検査フローチャート

4. カンファレンスへの参加

医師,看護師,臨床工学技士,管理栄養士,理学療法士,検査技師によりカンファレンスを開催する。検査技師はVA超音波検査結果を報告し,このデータを基準にトラブル原因の解析,穿刺部位の検討について討論される。治療方針に直結するこのカンファレンスにおいて,検査技師にはデータに基づいた解析あるいは専門的見解が求められる。

V  アンケートによる検証

透析スタッフ19名を対象にアンケートを実施し,検査技師の介入による効果を検証した(Figure 6)。血管走行が正確に描かれたシェーマレポートは,血管の深さや径,血管壁内部の情報,さらに血管周囲の浮腫や炎症情報を事前に把握でき,穿刺者にとってよりイメージしやすい効果が得られたことが窺える。

Figure 6 

アンケート結果「検査技師介入とシェーマレポート導入の検証」

VI  考察

超音波検査の専門的知識・技術を生かし透析病棟におけるVA管理に率先して参加した。透析患者にとって生涯使用することとなるシャントは命綱でもありその管理は非常に重要である。日本透析医学会統計調査委員会のデータ2)によると,わが国で用いられているVAは,自己血管内シャント(AVF)90%,人工血管内シャント(AVG)7%,動脈表在化法2%,その他,長期留置カテーテルや動脈直接穿刺が1%程度と,AVFが最も多く使用されている。AVFは皮下の動脈と静脈を直接吻合するものであり,AVGに比べ,開存率が高く,感染症も少ないことから,当院でもAVF作製を第一選択としている。機能的なVAを作製するためには,血管の連続性あるいは適正な太さが必要であり,その血管径は動脈1.5 mm以上,静脈は駆血した状態で2.0 mm以上3),4)とされていることから,これを評価するうえで超音波検査による正確な血管の状態把握は重要である。

当院では2014年4月からVA作製前の血管評価として,年間約40例(50件)の超音波検査を実施し,血管をマッピングしたシェーマレポート(Figure 7)を添えて報告している。VA造設術を担当する形成外科医は,このシェーマレポートを参考に手術を実施する。

Figure 7 

VA造設前検査のシェーマレポート

透析中は,脱血不良,静脈圧上昇,再循環,穿刺困難等,様々なトラブルが発生しやすい。良好な血液透析を行うためには,通常200 mL/min程度の脱血が必要であり,上腕動脈では,少なくとも350 mL/min以上の血流量が必要であるといわれている5)。これ以外にも返血部より中枢側に有意狭窄が存在する場合,脱血不良がなくても静脈圧上昇や再循環といった弊害が生じてくる。検査技師は,患者に起こっているこれらの原因を,超音波所見とともにカンファレンスで説明する責任を担っている。

透析現場で行われるVA管理は,各々の専門知識を有する医療者によるチーム医療が求められる。その中で検査技師がカンファレンスへ参加することにより,電子カルテの記録からは読み取れない些細な情報も共有し良好な連携が構築できた。また,検査で培ったノウハウを活かしながら,診断や治療に,積極的かつ継続的に関わり,勉強会の開催を通し病棟全体の医療レベルの向上に繋がった。VA管理体制強化以降,病棟での超音波ガイド下穿刺や,超音波ガイド下PTA,VA造設術などに積極的に関わったことで,ガイドライン・プロトコールを活用した管理の標準化が可能となり,VA管理チームの構築に深く貢献できた。

こうした取り組みの成果はアンケート結果にも反映され,現在では穿刺時にはシェーマレポートを活用することが定着し,週平均9回あった再穿刺が,平均5回と,穿刺回数の減少にも繋がった。更には検査技師の介入は一定の評価を得られる結果となった。

VII  まとめ

病棟業務の一環としてVA管理チームに参加し,透析医療現場との連携強化を目指した。その結果,検査技師によるVA超音波検査は患者の抱えるトラブルや疾病の早期発見,重症化予防となり,患者QOLの向上に繋がった。また,検査技師が病棟に出向くことで,役割分担の明確化が成され効率化と医療従事者の負担の軽減,標準化と組織化を通じた医療安全の向上に繋がった。

 

本報告は,生体試料および臨床データを用いた検討ではなく,また,個人を特定する情報は含まれていないため,倫理委員会の承認は得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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