医学検査
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臨床検査技師による鼻腔・咽頭からの検体採取への取り組み
中根 生弥高嶋 幹代青山 敦子
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2017 年 66 巻 4 号 p. 364-368

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Abstract

平成27年4月に施行された「改正臨床検査技師法」に早期対応することで臨床検査技師が外来診療で活躍できる場面を目指し,「鼻腔・咽頭」からの検体採取を開始した。実現に向け事前に病院各種委員会での情報提供と資格取得に向けた啓発活動ならびに臨床検査技師への具体的な技術習得研修を行った。また病院事業目標の一つに掲げられたことで,検査部門全体の目標が明確となり,初年度で45名全員が資格取得した。感染対策委員会と施設課の協力を仰ぎ「感染待合」を設置し,さらに「採取ポイント」のリーフレットを作成して改善を図った。外来患者での検体採取は,改正臨床検査技師法によって臨床検査技師の活躍(検査待ち時間の短縮・採取綿棒間違い低減・非感染患者さんへの配慮・再採取の迅速な判断など)を病院職員に認識させ,ひいては患者への安心・安全な医療提供に繋げる絶好の機会となった。

I  はじめに

当院では平成27年4月に施行された「改正臨床検査技師法」に早期対応すべく,臨床検査技師が活躍できる場面を外来診療で活かすことを目的に,院内における臨床検査技術科の具体的な診療支援事項として「鼻腔・咽頭」からの検体採取を開始した。これには,本会が開催する指定講習会(2日間)を受講することが義務付けられており,平成28年12月現在,全国117会場で開催され48,415名(47.8%)の臨床検査技師が受講を終えており,実施可能な施設より実臨床で開始している。一方,病棟における臨床検査技師の業務を推進する目的で「病棟業務推進施設情報連絡会」が立ち上がったことを契機に,「サイボウズLiveを使用したリアルタイムな情報提供」1)に同期して,目的に賛同する全国770施設が登録する本情報共有サイトを利用し,病棟や外来での新たな業務展開を目指している。今回は当院が平成27年11月より外来患者を対象に「鼻腔・咽頭」からの検体採取を実施するに当たり,事前に取り組んできた各種委員会での啓発や臨床検査技師への具体的な技術習得方法を中心に報告する。

II  改正臨床検査技師法の施行

昭和33年から長きにわたり改正されなかった臨床検査技師等に関する法律の一部改正が平成26年6月に成立したことに伴い,平成27年4月1日より「臨床検査技師は医師または歯科医師の具体的な指示を受け診療の補助として検体採取を業として実施できること」が可能となった。

また実施に当たっては,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」の附則第32条第1項において,臨床検査技師免許取得者は,厚生労働大臣が指定する研修会を受講することを義務付けており,安全で精度の高い検査情報の提供が求められている2)

III  具体的な事前準備事項

1. 改正臨床検査技師法に対する臨床検査技術科の対応

平成27年4月施行を見据え,前年度末より「平成27年度 臨床検査技術科部門目標」に外来での検体採取実施を掲げ,定例開催される「臨床検査運営委員会」・「病院運営会議」・「医師・看護師業務負担軽減委員会」・「感染対策委員会」等で丁寧に経緯説明を行い続けたことで,病院幹部にも十分な理解と協力を得ることができ,平成27年11月より外来採血室での運用開始に至った。

その過程においては大きく3点が挙げられ,①総合精度保証(採取・検査・判定),②看護師業務の負担軽減(チーム医療の実践),③感染対策(患者負担軽減)をポイントに説明した。各種委員会での説明では,臨床検査技師の活用により総合精度保証の担保と感染対策への貢献を目指すとし,結果として看護師業務の負担軽減にも寄与できることを中心に説明した。

これらの事前啓発が評価され,「平成27年度 豊田厚生病院事業計画」には,「重点事項と実施項目」の「1)診療機能の充実」における「④医療供給体制の充実」として「臨床検査技師による検体採取の充実を図る」の文言が組み込まれることとなり,病院事業目標の一つとして明確になった。このことは臨床検査科全体にも大きく影響し,臨床検査技師一丸となって指定研修会の受講や採取手順のトレーニングに励むことができた。

2. 検体採取指定講習会受講

指定講習会受講では,臨床検査技師への啓発と雰囲気作りを大切にすることからはじめ,検査部門での目標に掲載したことで,具体的な実施時期と必要なスキル取得意識を明確にした。また講習会参加推移の受講者管理を教育指導委員会が中心に行うことで,平均的に受講を勧めることができた。さらに委員会として未受講者には開催案内を掲示したことで,平成27年2月の受講者6名を皮切りに,翌年の1月で全員の研修(45名)を修了することができた。

更に講習終了者から名札にバッチの代わりに専用シール(Figure 1)を添付し,実際の検体採取業務を開始した。これにより,実践での検体採取実施の雰囲気や緊張感を共有することができ,実践に加わるための心の準備を整えた。一方,受講費用については施設負担を希望する意見もあったが,個人が有する国家資格に付随する追加資格であることを説明し,全員(正職員・非常勤職員)が自己負担で受講していただいた。また,平成28年度入学者からはカリキュラムが変更となり,臨床検査技師免許取得と同時に付与されるため,既卒者においては「検体採取が出来ないこと自体が恥ずかしいのではないか」との思いもあり,臨床検査技師に理解を求めた経緯もある。

Figure 1 

名札に添付した専用シール

3. 検体採取に向けての実践準備

11月からの外来採取実施に向け,10月の検査全体会議にて,耳鼻科医師による直前セミナーを開催した。特にセミナーでは,検体採取の際に気をつける上気道解剖を中心に,①本当に構造が理解できているか?②臨床の場で気をつけなければいけない疾患は?③採取手順がシミュレーションできているか?について耳鼻科医師にレクチャーしていただいた。その際,内視鏡カメラを用いた鼻腔内の確認(解剖と鼻出血)では臨床検査技師全員がモニターにくぎ付けとなり,改めて検体採取行為に緊張感を共有することができたと思う(Figure 2)。

Figure 2 

内視鏡カメラを用いた鼻腔内の確認

また,スワブ(綿棒)による検体採取の実践訓練では,耳鼻科医師の指導を受けたのち,臨床検査技師同士でお互いに実施したことで,検者・非検者の感覚や気持ちも理解でき,翌日からの検体採取業務に自信が持てたと考える。特に鼻腔からの採取では,スワブを充分に上咽頭壁まで挿入する感覚や,口腔内からの採取における視野の確保は,経験が重要であると感じた(Figure 3)。

Figure 3 

スワブ(綿棒)による検体採取訓練

IV  実践の中で改善した事項と効果

インフルエンザ繁忙期には,検者自身を感染から守る必要もあり,感染対策の重要性を改めて意識したことから,感染対策委員会や施設課の協力を仰いだ。以前は一般採血患者と同様に採血待合で待機し,採血室で検体採取を実施していたが,現在は発熱のある患者は「感染待合」(Figure 4)に誘導し,ヘパフィルターの設置してある椅子で採取を行い,診察までそのまま待機してもらう運用に変更した。また臨床検査技師からの発案であったが,採取ポイントを纏めたリーフレットを作成したことで,採取直前にポイントを再確認できるようになり,患者へ不安を与えず,自信を持って検体採取できるようになった(Figure 5)。

Figure 4 

感染待合(ヘパフィルター)

Figure 5 

採取ポイントリーフレット

改正臨床検査技師法の施行に伴い,外来での鼻腔・咽頭からの検体採取完全実施にこぎ着けたことで,臨床検査技師の活躍を他の医療従事者に認識していただく絶好の機会となった。また,我々臨床検査技師にも多くの気づきが生まれ,本来の目的である「総合精度保証」「患者サービスの向上」に寄与できると確信した。臨床検査技師からの意見にも多くの改善提案が挙がっており,次年度繁忙期に向け更なる高みを目指したいと考えている(Figure 6)。

Figure 6 

実践から得た感想と提案

また一年が経過した時点で臨床検査技師アンケートを実施し,検体採取に関する追加研修や要望事項を確認したところ,追加研修を希望する臨床検査技師は,30/42名(71%)であったことより,今年も10月末に直前研修を実施した。アンケートで「必要無し」と回答(12/42名)した臨床検査技師は,採血室に係る時間や機会が多い技師であったことから,経験値が全ての不安を取り除ける要因と判断し,多くの臨床検査技師に平均的に検体採取の機会を与えるよう業務調整を図ることを考えている。

V  考察

外来採血室での「鼻腔・咽頭からの検体採取」を実践したことで,これまで看護師に依頼し採取を行っていたが,臨床検査技師自ら採血と同時に実施できるため,採血室の稼働性も向上した。また看護師からも処置の手を止められる機会が減ったことで,患者治療に専念できるとの意見もいただいた。一方,臨床検査技師においては,1.鼻腔・咽頭からの検体採取は,採血に伴うリスク(採血合併症)よりも低いこと 2.検体採取について医学的講習を履修し,実施していることに自信を持つ 3.看護師や研修医には,臨床検査技師が採取手技を説明するなど総合精度保証の観点からも,採取・検査実施・判定・臨床症状までの一連を実施確認することが臨床検査技師としては大きな自信に繋がると考える。

また新たに外来での検体採取を実施したことで,検査目的に合致した適正な採取が正確な検査結果に繋がることを理解することができた。そのため,検体採取の重要性を広く院内に啓発する目的で今年度より,新人看護師向けの採血オリエンテーションや研修医研修の際,「鼻腔・咽頭からの検体採取」についてワンポイントアドバイスを加える予定である。

平成28年度診療報酬改定にて検体採取実施料5点が新設されたことは検査技術に対する評価と捉えている。これからも臨床検査技師による検体採取実施を病院経営者にアピールするきっかけとして,患者への安心安全を目的とした新たなチーム医療への参画を目指していきたいと考えている。さらに検体採取の取り組みが全国的に広がることで,臨床検査技師の業務拡大に繋がり,新たなニーズが発見できることを期待している。

VI  結語

平成27年4月施行の「改正臨床検査技師法」にて実施可能となった「鼻腔・咽頭からの検体採取」に検査室全体で取り組み,外来患者を中心に実施した。総合精度保証に向けた自己研鑽に加え,研修医や看護師への採取指導にも注力していきたい。

 

本報告は,生体試料および臨床検査データを用いた検討ではなく,また個人を特定する情報は含まれていないため,倫理委員会の承認は得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  深澤 恵治:「病棟業務推進施設情報連絡会へのアンケート調査結果について~サイボウズLiveを使用したリアルタイムな情報提供~」,第65回日本医学検査学会,2016. http://www.myschedule.jp/65jamt63jslm/search/detail_program/id:163
  • 2)  一般社団法人日本臨床衛生検査技師会:JAMT技術教本シリーズ 検体採取者のためのハンドブック,じほう,東京,2016.
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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