Japanese Journal of Medical Technology
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Capsular types and antimicrobial susceptibility profile of Haemophilus influenzae isolates at our pediatric department in 2016: Comparison with three previous studies
Kana OIKAWAKeiji FUNAHASHIYuki UOZUMIMakoto KAWACHIYumiko NODAYasushi IWATANaoko NISHIMURATakao OZAKI
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 430-436

Details
Abstract

2016年1月~12月の1年間に,当院小児科において318例(29日~12歳9か月,中央値3歳0か月)からHaemophilus influenzae 318株が分離された。分離株の莢膜血清型,β-lactamase産生および13種抗菌薬(ABPC, PIPC, CTX, CTRX, CDTR, CFTM, AMPC/CVA, PAPM, MEPM, CAM, AZM, TFLX, LVFX)のMICを測定し,われわれが行った過去3回(1999年,2005年,2009年)の調査成績と比較した。莢膜血清型はNT 97.8%,e型1.9%,b型0.3%であり,NTの分離率はこれまでの4回の調査の中で最も高く,b型は最も低かった。ABPC,CTX,AMPC/CVA,MEPM,CAM,AZMに対し,それぞれ74.8%,0.9%,55.7%,5.3%,25.8%,1.6%が耐性(中間を含む)を示し,CTRXおよびLVFXに耐性の株はなかった。ABPC耐性株の内訳はBLNAR 64.5%,BLPAR 6.6%,BLPACR 3.8%であり,BLNAR率の上昇傾向を認めた。わが国では2013年4月からHibワクチンが定期接種となっており,H. influenzaeの莢膜血清型と薬剤感受性の今後の動向を注視していく必要がある。

はじめに

Haemophilus influenzaeは呼吸器感染症や中耳炎の起因菌として広く知られ,特に小児においては,髄膜炎,関節炎,喉頭蓋炎などの侵襲性感染症を惹起するとして臨床上重要である。H. influenzaeは莢膜の有無により莢膜型と無莢膜型(nontypable; NT)に分けられている。莢膜型は多糖体の抗原性によりa~fの6種の型に分類され,侵襲性感染症の多くがb型によるものである。わが国では,2008年にH. influenzae b型(Hib)感染症を予防するHibワクチンが任意接種ワクチンとして認められ,2013年には予防接種法で定められた定期接種ワクチンとなった。

今回,2016年に当院小児科において分離されたH. influenzaeの莢膜血清型と薬剤感受性を調査し,Hibワクチン定期接種化以前に行った3回の調査成績と比較検討した。

I  対象と方法

1. 対象

2016年1月~12月の1年間に,当院小児科受診患児のうちH. influenzaeが分離された318例(29日~12歳9か月,中央値3歳0か月)を対象とした。318株の分離用検体は咽頭ぬぐい液304株,鼻腔ぬぐい液12株,喀痰1株,血液1株であり,318株すべてについて細菌学的検討(莢膜血清型,β-lactamase産生試験,薬剤感受性試験)を行った。

2. 分離同定

咽頭および鼻腔ぬぐい液,喀痰はチョコレート寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)に直接接種し,5%炭酸ガス条件下で,35℃,18~24時間培養した。培地上に発育した灰色~灰白色を示すスムースまたはムコイド状のコロニーを同培地上に純培養し,ヘモフィルスID 4分画培地(日本ベクトン・ディッキンソン)にてX因子V因子要求試験および溶血性の確認を行った。なお,判定困難であった株については保存株を用い,IDテストHN 20 Rapid(ニッスイ)にて確定した。血液はBACTECTM94F小児用レズンボトル(2016年1月~9月)またはBACTECTM20F小児用レズンボトルP(2016年9月~12月)に接種し,BACTECTM9240(日本ベクトン・ディッキンソン)で検出された菌を上記方法にて同定した。

3. 莢膜血清型

莢膜血清型は,インフルエンザ菌莢膜型別用免疫血清「生研」(デンカ生研)を用い,スライド凝集法にて判定した。

4. β-lactamase産生試験

β-lactamase産生試験は,ニトロセフィン法であるセフィナーゼディスク(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて行った。

5. 薬剤感受性試験

薬剤感受性試験は,ドライプレート(栄研化学)を用い,微量液体希釈法にて抗菌薬の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)を測定した。検討した抗菌薬は,ampicillin(ABPC),piperacillin(PIPC),cefotaxime(CTX),ceftriaxone(CTRX),cefditoren(CDTR),cefteram(CFTM),amoxicillin/clavulanic acid(AMPC/CVA),panipenem(PAPM),meropenem(MEPM),clarithromycin(CAM),azithromycin(AZM),tosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX)の13種とした。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100-S261)の判‍定基準に従って感性(susceptible; S),中間(intermediate; I),耐性(resistant; R)を判定し,S以外の株を耐性株として検討した。ただし,ブレイクポイントが設定されていない5種類の抗菌薬(PIPC, CDTR, CFTM, PAPM, TFLX)についてはMIC分布のみ示した。

6. ABPC耐性率

β-lactamase産生の有無とABPCおよびAMPC/ CVAのMICによりABPC耐性の識別を行い,それらの分離率を調査した。β-lactamase非産生株につ‍い‍ては,ABPCのMICが1 μg/mL以下の株をβ-lactamase-non-producing ABPC-susceptible strain(BLNAS),ABPCのMICが2 μg/mL以上の株をβ-lactamase-non-producing ABPC-resistant strain(BLNAR)とした。また,β-lactamase産生株については,AMPC/CVAのMICが4/2 μg/mL以下の株をβ-lactamase-producing ABPC-resistant strain(BLPAR),AMPC/CVAのMICが8/4 μg/mL以上の株をβ-lactamase-producing AMPC/CVA-resistant strain(BLPACR)とした。

7. 過去3回の調査成績との比較(莢膜血清型,ABPC耐性率)

われわれは今回と同様の調査を過去にほぼ5年毎に3回(1999年2),2005年3),2009年4))行っている。すべて同じ方法で実施したが,使用培地および検討抗菌薬の種類は調査年によって一部異なっている。今回の調査成績と比較し,莢膜血清型およびABPC耐性率の推移を検討した。

なお,本研究は当院臨床研究審査委員会の許可を受けている(29-015(0269))。

II  結果

1. 月別分離状況と年齢別分離状況

Figure 1に月別分離状況と年齢別分離状況を示す。月別分離状況は6月に46株と最も多く,次いで12月41株,7月,8月ともに33株の順であり,季節性はなかった。年齢別分離状況は,1歳が76株と最も多く,次いで4歳52株,3歳50株の順であり,1~4歳で全体の69.8%を占めた。

Figure 1 

The number of the isolated H. influenzae strains (n = 318)

A: The number according to calendar month.

B: The number according to age of the H. influenzae isolated patients.

2. 莢膜血清型

NTが311株(97.8%)と大部分を占め,次いでe型6株(1.9%),b型1株(0.3%)の順であった。Figure 2に過去3回の調査成績を併せて莢膜血清型別分離率の推移を示す。NTの分離率はこれまでの4回の調査の中で最も高く(1999年74.8%,2005年59.5%,2009年90.8%),一方b型は最も低かった(1999年6.7%,2005年14.5%,2009年3.3%)。

Figure 2 

The capsular types of the isolated H. influenzae strains in our 4 studies

Hib vaccination was started as voluntary vaccination in 2008, and was changed to routine vaccination in 2013.

3. 薬剤感受性

Table 1に13種抗菌薬のMIC分布を示す。ABPC,CTX,AMPC/CVA,MEPM,CAM,AZMに対し,それぞれ74.8%,0.9%,55.7%,5.3%,25.8%,1.6%が耐性を示し,CTRXおよびLVFXに耐性の株は認められなかった。Table 2に過去3回の調査成績を併せて検討抗菌薬のMIC50およびMIC90の推移を示す。ABPCのMIC50およびMIC90は,1999年の≤ 0.25 μg/mLおよび4 μg/mLから8 μg/mLおよび> 8 μg/mLに,CTXのMIC50およびMIC90は,1999年の≤ 0.25 μg/mLおよび≤ 0.25 μg/mLから0.5 μg/mLおよび1 μg/mLに,それぞれ大きい値に移行した。しかし,その他抗菌薬では明らかな変化を認めなかった。Figure 3に過去3回の調査成績を併せてABPCおよびCTXの累積MIC分布を示す。ABPCは1999年から経年的にグラフが耐性側にシフトしており,CTXでは感性の範囲内ではあるが,MIC値が大きい値の方にシフトしていた。

Table 1  The MICs of 13 antimicrobials for the isolated H. influenzae strains (n = 318)
Antimicrobials MIC (μg/mL) Resistance rate (%)
≤ 0.25 0.5 1 2 4 8 > 8
ABPC 46 7 27 17 42 94 85 74.8
PIPC 281 4 2 2 3 26 *
CTX 113 88 89 25 3 0 0 0.9
CTRX 294 21 3 0 0 0 0 0
CDTR 300 18 0 0 0 0 0 *
CFTM 112 113 87 6 0 0 0 *
AMPC/CVA 20 41 27 16 37 97 80 55.7
PAPM 42 39 94 50 80 13 *
MEPM 244 57 14 3 0 0 0 5.3
CAM 2 0 75 159 82 25.8
AZM 1 24 145 132 11 5 1.6
TFLX 308 8 2 0 0 0 0 *
LVFX 305 6 7 0 0 0 0 0

The dashed lines show breakpoint values of susceptible category and others.

* The break point of the antimicrobial is not determined in CLSI M100-S261).

Table 2  The MIC50s and MIC90s of 14 antimicrobials for the isolated H. influenzae strains in our 4 studies
Antimicrobials 19992)
(n = 282)
20053)
(n = 489)
20094)
(n = 272)
2016 The present study
(n = 318)
MIC50
(μg/mL)
MIC90
(μg/mL)
MIC50
(μg/mL)
MIC90
(μg/mL)
MIC50
(μg/mL)
MIC90
(μg/mL)
MIC50
(μg/mL)
MIC90
(μg/mL)
ABPC ≤ 0.25 4 1 8 2 8 8 > 8
PIPC ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 1
CTX ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 1 ≤ 0.25 1 0.5 1
CTRX ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25
CDTR ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25
CFTM ≤ 0.25 0.5 ≤ 0.25 0.5 0.5 1
PAPM 1 4 1 4 1 4
MEPM ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 0.5
CAM 8 > 16 8 8 8 8 8 > 8
AZM 1 2 1 2 1 2
AMPC/CVA 8 > 8
NFLX ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25 ≤ 0.25
TFLX ≤ 0.25 ≤ 0.25
LVFX ≤ 0.25 ≤ 0.25
Figure 3 

The cumulative percentage of the MIC of ABPC and CTX for the isolated H. influenzae strains in our 4 studies

4. H. influenzaeのABPC耐性率

74.8%(238/318)に認められたABPC耐性の内訳は,BLNAR 64.5%(205/318),BLPAR 6.6%(21/318),BLPACR 3.8%(12/318)であった。Figure 4に過去3回の調査成績を併せてH. influenzaeのABPC耐性率の推移を示す。BLNAR率は1999年12.8%から今回の64.5%まで徐々に上昇した。一方,BLPAR率には大きな変動はみられなかった。BLPACRは過去3回の調査での分離例はなく,今回初めて3.8%に分離された。

Figure 4 

The ABPC resistance rate of the isolated H. influenzae strains in our 4 studies

Hib vaccination was started as voluntary vaccination in 2008, and was changed to routine vaccination in 2013.

III  考察

H. influenzaeにおいて,莢膜型b型は侵襲性感染症を惹起し,NTは呼吸器感染症や中耳炎などの非侵襲性感染症を引き起こす。H.influenzae外膜タンパク抗原のひとつであるP5タンパクが,ムチンやCEACAM1などの細胞接着因子と結合することでNTの気道上皮への接着および侵入に関与していることから,NTは気道に定着しやすいと考えられている5),6)。Hibワクチン導入前のわが国では,H. influenzaeは小児細菌性髄膜炎原因菌の約60%を占めていたが7),2013年4月にHibワクチンが定期接種化され,侵襲性H. influenzae感染症は激減した8)。ちなみに,2008年5月~2010年8月に当院こども医療センターでは侵襲性H. influenzae感染症を12例(髄膜炎例6例,非髄膜炎例6例)経験しており,全株がHibによるものであった9)。今回の調査では,NTが97.8%と大部分を占め,Hibの分離率は0.3%(1株)と,過去3回の調査成績(1999年6.7%,2005年14.5,2009年3.3%)と比べて最も低下していた。2009年以降のHibの分離率の低下は星野らの報告10)でも同様の結果であり,2008年12月に導入されたHibワクチンの影響だと考えられる。また,血液から分離された1株はNTで,莢膜型の7株はすべて咽頭ぬぐい液から分離されたものであった。米国では1985年にHibワクチンが導入されて以来,侵襲性Hib感染症は年間20,000例から年間40例に激減したが11),NTによるH. influenzae侵襲性感染症が増加した12)。わが国を含む他のHibワクチン導入国においても,米国と同様の報告が出されている13)~15)。一方,小児の侵襲性感染症患者からHib以外の莢膜型株の分離も報告されており8),16),その増加が懸念されている。今回,b型だけでなく他の莢膜型も分離率が低下しており,少なくとも莢膜血清型における型置換は認められなかった。今後H. influenzaeの莢膜血清型の動向には注意が必要であり,そのためには分離株の型別検査を欠かすことはできない。

H. influenzaeの薬剤感受性は,CTX,CTRX,MEPM,LVFXが良好とされており10),17),今回の調査においてもCTRX,およびLVFXは良好な感受性を示した。近年,LVFX耐性株が報告されているが18),今回の調査ではLVFX耐性株は認められなかった。小児における本菌の細菌性髄膜炎の第一選択薬としてCTX,CTRXおよびMEPMが推奨されている19)。われわれが行った過去3回の調査結果では,CTX耐性株はみられなかったが,今回は耐性株3株(0.9%)が認められた。CTXのMIC50およびMIC90は以前よりも1~2管上昇し,MIC低値域の感受性率が低下していた。MEPMに対しては,2005年5.3%,2009年0.4%,本調査5.3%に耐性を認めており,細菌性髄膜炎においてMEPMを使用する場合には耐性菌に注意する必要がある。

H. influenzaeのABPC耐性は,β-lactamase産生によるBLPARと,penicillin binding protein 3(PBP3)の変異によるBLNARに大別される20)。わが国におけるH. influenzaeのABPC耐性は,1990年代後半以降BLNARが増加しはじめ,Hibワクチン導入後も38.2%~64.4%を占めている10),17),21)~23)。われわれが行った4回の調査では,BLPARおよびBLPACRはいずれの調査期間においても10%以下と少なく,BLNARは13%,43%,46%,65%と経年的に増加を認めた。H. influenzaeの薬剤感受性の今後の動向に注視していく必要がある。

IV  結語

2016年に分離されたH. influenzaeの莢膜血清型はNTが大部分を占め,b型は0.3%と以前の調査から著しく減少した。ABPC耐性率は74.8%と上昇傾向を認め,BLNAR率は64.5%であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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