Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Utility of PAS staining, MG staining, Pap staining, and HE staining in the diagnosis of Entamoeba histolytica
Kenji IRIMURANatsumi KAWAHARAChikako UCHIMURAYoshihiro MIZOGUCHIMasamichi OGATA
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2018 Volume 67 Issue 4 Pages 524-528

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Abstract

赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の検査は,直接塗抹法やヨード法が一般的である。今回我々は,過ヨウ素酸シッフ染色(Periodic acid-Schiff;PAS染色),メイ・グリュンワルド・ギムザ二重染色(May-Grünwald Giemsa;MG染色),パパニコロウ染色(Papanicolaou;Pap染色),ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin Eosin;HE染色)を赤痢アメーバ感染症3症例で行った。核染色に優れたMG染色,Pap染色,HE染色は栄養型(trophozoite)の核小体や染色質顆粒,嚢子(cyst),類染色質体の観察に有用であった。また,内質における赤血球の確認も可能であった。肝膿瘍の穿刺液では,PAS染色で赤紫色に染まる栄養型を確認できた。これらの染色は,赤痢アメーバ検査に有用であった。

I  序文

赤痢アメーバの検査には,内視鏡検査,超音波・CT等の画像検査,血清学的検査,PCR検査,病理組織検査などがある。検査材料は,糞便検体や肝膿瘍穿刺液が主に提出される。糞便検体は直接塗抹法とヨード法で嚢子や栄養型を検出する方法が通常よく用いられ,一般検査室が担当する場合が多い。肝膿瘍穿刺液は培養検査目的で細菌検査室に提出される場合が多いが,直接塗抹法やグラム染色で栄養型を検出するのは難しい。肝膿瘍穿刺液での栄養型検出は実際的ではないとの記載もある1)。しかし診断率の高い血清赤痢アメーバ抗体検査は2018年に試薬製造中止で検査ができなくなるため,形態的検査による検出率の向上が望まれる。

今回我々は,赤痢アメーバ感染症3症例において,形態的検査の検出率を上げる目的で,通常は生検組織標本に使用されるHE染色とPAS染色,細胞診で癌細胞スクリーニングに使用されるPap染色,白血球細胞などの血液細胞の鑑別に使用されるMG染色の4種類の染色法に注目し,糞便検体では陽性反応が多いPAS染色を除いたMG染色,Pap染色,HE染色を実施検討した。また肝膿瘍穿刺液では,嚢子はなく栄養型しかないので,PAS染色,Pap染色,HE染色を実施検討し,それぞれの検討で若干の知見を得たので報告する。

II  方法

糞便検体は,採取後保温して提出してもらい1),糞便を小豆大とりスライドガラスに直径2 cmになるように広げた。直接塗抹法はそのまま光学顕微鏡で観察し,MG染色,Pap染色,HE染色は染色後に観察を行った。光学顕微鏡(×400)で嚢子と栄養型を検索し,光学顕微鏡(×1,000)で詳細に観察した。

肝膿瘍穿刺液ではPAS染色して,光学顕微鏡(×100)で栄養型を検索し,陽性はPap染色,HE染色を光学顕微鏡(×1,000)で観察し,栄養型の形態的特徴を確認した。

【対象患者】

1)症例1:腸管外アメーバ症。

*44才,男性。渡航歴なし。*便から栄養型と嚢子は未検出。*肝膿瘍から栄養型を検出。*血清赤痢アメーバ抗体(陽性)。

2)症例2:腸アメーバ症。腸管外アメーバ症。

*45才,男性。渡航歴なし。*便から栄養型と嚢子を検出。*肝膿瘍から栄養型を検出。*血清赤痢アメーバ抗体(陽性)。

3)症例3:腸アメーバ症。

*43才,男性。渡航歴なし。*便から栄養型と嚢子は未検出。*画像診断で肝膿瘍の所見なし。 *血清赤痢アメーバ抗体(判定保留)。

III  結果

1. 糞便検査

症例1では,直接塗抹法,MG染色,Pap染色,HE染色を実施したが嚢子,栄養型は検出できなかった。

症例2は活発に動く栄養型が豊富で,直接塗抹法ですぐに栄養型を確認できた。Pap染色,HE染色でも栄養型と嚢子は確認できたが,特にMG染色で特徴的な4核の嚢子と棍棒状の類染色質体2)を確認できた(Figure 1 arrow)。

Figure 1 

Cyst with four nuclei seen in feces

MG staining (×1,000), the arrow is chromatoid body.

症例3では,直接塗抹法で栄養型を検出できなかった。MG染色で4核の嚢子(Figure 2A),HE染色で2核の嚢子(Figure 2B),Pap染色で栄養型(Figure 3)が検出され,内質に赤血球(Figure 3B arrow)も確認できた。確認のため国立感染症研究所にPCR検査を依頼した結果,赤痢アメーバ陽性であった。

Figure 2 

Cyst seen in feces

A: MG staining (×1,000). B: HE staining (×1,000).

Figure 3 

Trophozoite seen in feces

A: Pap staining (×1,000). B: Pap staining (×1,000) and the arrow is erythrocyte.

2. 肝膿瘍穿刺液

症例1では,直接塗抹法で栄養型を検出できなかった。PAS染色を実施して光学顕微鏡(×100)で検索すると,数視野に1個程度(Figure 4A)赤紫色に染まる栄養型を検出した(Figure 4B)。Pap染色ではライトグリーンに染まる栄養型と内質にはオレンジに染まる赤血球を認めた(Figure 5A arrow)。HE染色では好中球の約1.5~2倍の大きさで,核を1個有する栄養型を認めた。中心性の核小体は不明瞭だが,詳細に観察すると,核膜下にやや均一に並ぶ染色質顆粒2)が見られた(Figure 5B)。

Figure 4 

Trophozoite in the liver abscess pus

A: PAS staining (×100). B: PAS staining (×1,000).

Figure 5 

Trophozoite in the liver abscess pus

A: Pap staining (×1,000) and the arrow is erythrocyte. B: HE staining (×1,000).

症例2では,直接塗抹法で栄養型を検出できなかった。PAS染色を実施して光学顕微鏡(×100)で検索すると,数視野に1個程度,赤紫色に染まる栄養型を検出した(Figure 6A)。偽足,外質,内質の区別もできた(Figure 6B arrow)。Pap染色では核に中心性の核小体を認めた(Figure 7 arrow)。

Figure 6 

Trophozoite in the liver abscess pus

A: PAS staining (×100). B: PAS staining (×1,000), the arrows are pseudopodium, ectoplasm, and endoplasm.

Figure 7 

Trophozoite in the liver abscess pus

It is Pap staining (×1,000).

HE染色では特徴的な栄養型を検出できなかった。

IV  考察

我々が調べた範囲では,糞便検体をMG染色,Pap染色,HE染色して,嚢子と栄養型を形態的に同定した報告はなかった。また,肝膿瘍穿刺液をPAS染色,Pap染色,HE染色して栄養型を形態的に同定した報告もなかった。

今回の検討は,糞便検体2症例(症例2,症例3),肝膿瘍穿刺液2症例(症例1,症例2)と検討した症例数は少ないが,各染色について若干の有用な結果が得られた。MG染色は嚢子の形態的同定に適していた。類染色質体も明瞭に染まり確認できた(Figure 1 arrow)。Pap染色は栄養型の内質にある赤血球の確認に適していた。栄養型はライトグリーンに染まり,赤血球はオレンジに染まり分別が明瞭であった(Figure 3B arrow)。また核小体の染まりも明瞭であった(Figure 7 arrow)。HE染色は背景が鮮明で全体的に観察しやすかった。便には様々な細菌,残渣,細胞などが含まれているが,上皮細胞,組織球,白血球など有核細胞が見やすく,肝膿瘍穿刺液ではPap染色と同じく,栄養型の核観察に適していた(Figure 5B)。

肝膿瘍穿刺液は穿刺部位によって栄養型が少ない場合があり,直接塗抹法での検出は困難な場合が多い。症例1,症例2も栄養型が少ない穿刺液でありグラム染色やコーン染色も実施したが栄養型の検出は困難であった。しかしPAS染色して光学顕微鏡(×100)で検索すると,2症例とも,数視野に1個程度の赤紫色に染まる栄養型を検出できた(Figure 4A, 6A)。症例2では内質,外質,偽足が確認できる栄養型も少数認めた(Figure 6B arrow)。ほとんどは,症例1(Figure 4B)の様に濃染する栄養型が多いので,Pap染色,HE染色で核染色質顆粒,核小体,内質にある赤血球を観察すると,より確実に栄養型を同定することができた。

症例1は腸管外アメーバ症で,腸アメーバ症を伴っていなかった。肝膿瘍は赤痢アメーバ症例の30~40%に見られ,その約半数は腸アメーバ症を伴わない3)。症例2は糞便検体からの直接塗沫法で活発に動く栄養型をすぐに検出できた。しかし肝膿瘍穿刺液には栄養型が少なくPAS染色での検索が有効であった。症例3は血清赤痢アメーバ抗体検査が判定保留で,画像診断では肝膿瘍の所見がなく,腸アメーバ症と潰瘍性大腸炎の鑑別を必要とする症例であった。糞便検体での,MG染色(Figure 2A),HE染色(Figure 2B),Pap染色(Figure 3A, 3B arrow)から赤痢アメーバを強く疑い臨床に報告した。追加したPCR検査も陽性であった。

V  結語

糞便検体からの嚢子,栄養型の検索にMG染色,Pap染色,HE染色は有用であると思われた。それぞれの染色性に特徴があるため,3種染色を組み合わせることで形態的同定率が高くなると思われた。

肝膿瘍穿刺液については,PAS染色で栄養型を検索する方法は,非常に有用であった。

今後も更に症例数を増やして,各染色における形態的同定の有用性について検討したい。

血清赤痢アメーバ抗体検査が廃止されると,顕微鏡下での形態的検出が重要になると思われる。今回の検討結果が,赤痢アメーバの形態的同定の参考になれば幸いである。

謝辞

PCR検査を実施して頂きました,国立感染症研究所寄生動物部の八木田健司先生に深謝申し上げます。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  石井 明,他:「アメーバ類」,標準医動物学(第2版),24–32,医学書院,東京,2011.
  • 2)  石井 明,他:「アメーバ類」,標準医動物学,7–15,医学書院,東京,1986.
  • 3)  上村 清,他:「赤痢アメーバ」,寄生虫学テキスト(第2版),20–23,文光堂,東京,2006.
 
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