Japanese Journal of Medical Technology
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Effect of oxidative stress on pathogenesis of disseminated intravascular coagulation (DIC) syndrome
Mio YAMASAKIRisa KANESHIGEYukari MOTOKIHaruka FUJISAWAJunzo NOJIMA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 17-24

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Abstract

播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)は,重症かつ多彩な基礎疾患の存在下に著しい凝固活性化状態をきたし全身の細小血管内で血栓が多発する重篤な病態である。基礎疾患によりDICの発症機序は異なるが,多くのケースで組織因子(tissue factor; TF)が病因となることが示唆されている。近年の研究により,活性酸素の過剰発生による酸化ストレスが血管内血栓の発生に関連していることが知られているが,DICの病態形成における酸化ストレスの影響は明らかになっていない。本研究では,一般住人656人,急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia; AML)40症例,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia; CML)20症例を対象に,相対的酸化ストレス度(oxidative stress index; OSI)と血中TF濃度の測定を実施し,OSIの亢進およびTF濃度の増加がDICの合併に関連しているか否か検討した。その結果,OSIは一般住人およびCML症例に比較してAML症例で有意に高く,特にDICを合併した症例でOSIが明らかに亢進していた。さらにAML症例を血中TF濃度が増加していた症例群と増加していなかった症例群に分類し,DIC合併率を比較した結果,血中TF濃度が増加していた症例では72.7%の症例でDICの合併を認め,血中TF濃度が増加していなかった症例の10.3%に比較して明らかに高かった。これらの結果から,AMLにおいてOSIの亢進と血中TF濃度の増加がDICの発症に強く関連している可能性が示唆された。

Translated Abstract

Disseminated intravascular coagulation (DIC) is an acquired syndrome characterized by the systemic activation of blood coagulation occurring in the presence of various serious diseases, resulting in microvascular thrombosis in various organs. The main objective of this study was to clarify the role of oxidative stress and tissue factor (TF) in the pathogenesis of DIC in patients with acute leukemia. We measured both oxidation and anti-oxidation activities simultaneously in sera from 40 patients with acute myelogenous leukemia (AML), 20 patients with chronic myelogenous leukemia (CML), and 665 healthy volunteers. To obtain a parameter representing an overall shift toward oxidative stress, the oxidative stress index (OSI) was calculated using the following formula: OSI = (d-ROMs/BAP) × 8.85. We found that the OSIs were clearly higher in sera of AML patients than in those of CML patients and healthy volunteers, and the OSIs were significantly higher in AML patients with DIC than in those without DIC. In addition, the present study confirmed that the prevalence of DIC was significantly higher in AML patients with high TF concentrations (8/11 patients, 72.7%) than in those with normal TF concentrations (3/29 patients, 10.3%). These results suggest that the evaluations of OSI and TF are useful for predicting the development and progression of DIC in AML patients.

I  はじめに

播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)は,重症かつ多彩な基礎疾患の存在下に著しい凝固活性化状態をきたし,全身の細小血管内で微小血栓が多発する重篤な病態である1)。進行した場合には,消費性凝固障害や線溶の過剰亢進による出血症状が見られる。あるいは,多発した微小血栓に伴う微小循環障害により臓器障害が引き起こされる。DICの基礎疾患は多彩だが,その中でも急性白血病,固形癌,敗血症は三大基礎疾患として知られている。ベースとなる基礎疾患によりDIC発症機序は異なるが,多くのケースで直接的あるいは間接的に組織因子(tissue factor; TF)が重要な役割を演じている2)

悪性腫瘍,特に急性骨髄性白血病に合併したDICでは,腫瘍細胞由来のTF,さらには単球/マクロファージや血管内皮細胞に発現されるTFにより外因系凝固が活性化され,全身でフィブリン血栓が多発することが発症の原因だと考えられている。さらに,腫瘍細胞から放出されるプラスミノゲンアクチベーターにより線溶が過剰に活性化され線溶亢進型のDICに移行しやすいことが知られている3)~5)Figure 1)。

Figure 1 急性白血病に合併したDICの発症機序(仮)

私たちの研究室では,悪性リンパ腫患者で血中に活性酸素種(反応性の高い酸素種の総称;スーパーオキシド,過酸化水素,ヒドロキシラジカルなど)が増加していることを見出し,血中酸化ストレス度は,腫瘍の悪性度や臨床病期の進展度と相関して亢進していることを明らかにした6)~9)。さらに,近年の研究により,活性酸素の過剰発生による酸化ストレスが血管内血栓の発生に関連していることが示唆されているが10),DICの病態形成における酸化ストレスの影響は明らかになっていない。

本研究では,DICの基礎疾患として代表的な急性骨髄性白血病症例を対象とした臨床研究にて,血中酸化ストレス度の亢進とDIC合併との関連性を解析した。

II  対象および方法

1. 対象

一般臨床検査値(血液検査,生化学検査,尿検査,感染症検査,腫瘍マーカー,心電図)に異常が認められなかった一般住人656人,急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia; AML)40症例,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia; CML)20症例を対象とした。AML症例はFAB分類でM1(n = 11),M2(n = 10),M3(n = 9),M4(n = 4),M5(n = 6)に分類した。また,CML症例は全て慢性期であった。採血後速やかに血清を1,500 G・10分間遠心分離した後,測定まで−20℃で保存した。保存期間は1ヶ月~6ヶ月であった。

本研究は,山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(440-1)を得て実施した。

2. 使用機器および測定原理

測定にはJCA-BM 16501型自動分析装置(日本電子Bio Majestyシリーズ)を用いた。

1) 酸化ストレス値(d-ROMsテスト;ウイスマー研究所/株式会社ウイスマー)

血清サンプル10 μLを酢酸緩衝液(pH 4.8)1 mLに添加し,血清タンパク質の鉄をイオン化することによりフェトン反応を起こさせ,血清サンプル中の活性酸素代謝物(主にヒドロペルオキシラジカル)に置換する。生成したラジカルの濃度をクロモゲン(芳香族アルキルアミン)による呈色反応で定量することにより生体の酸化ストレス値を評価する。値はunit CARRという単位で表され,1 unitは0.08 mg/dLの過酸化水素水に相当する。

2) 抗酸化力値(BAPテスト;ウイスマー研究所/株式会社ウイスマー)

クロモゲンと塩化第二鉄を混和した測定試薬1 mLに血清サンプル10 μLを添加し,測定試薬中に存在するチオシアン酸塩と結合した酸化鉄イオンを,サンプル中の抗酸化物質が二価鉄イオンに還元させる能力を計測することにより生体の生物学的抗酸化能を評価する。

3) 相対的酸化ストレス度(oxidative stress index; OSI)

d-ROMsテストによる酸化ストレス値とBAPテストによる抗酸化力値の測定を実施し,両者のバランス比である相対的酸化ストレス度を「OSI≒d-ROMs ÷ BAP × 補正係数」で求めた。補正係数(8.85)は絶対的健常人のOSIの平均値が1.00になるように設定した8)

4) TFの測定

血清をELISAキット(Human Coagulation FactorIII/Tissue Factor Quantikine ELISA, R&D Systems, USA)を用いてプロトコルに従ってTFを測定した。

5) TNFαの測定

血清をELISAキット(Human TNF-α ELISA, R&D Systems, USA)を用いてプロトコルに従ってTNFαを測定した。

6) 統計解析

統計解析には,統計解析ソフト(StatFlex ver. 6)を用いて,全てMann-Whitney U検定で示した。

III  結果

1. 急性骨髄性白血病症例における酸化ストレス値・抗酸化力値・相対的酸化ストレス度の比較

一般住人(n = 665)を対照に,急性骨髄性白血病(n = 40),慢性骨髄性白血病(n = 20)における酸化ストレス値,抗酸化力値,相対的酸化ストレス度を比較した。その結果,酸化ストレス値は一般住人の305.4 ± 54.6(mean ± SD)CARR Uに比較して,AML群では,357.9 ± 130.9 CARR Uと有意に増加していた。一方,CML群では318.6 ± 35.5 CARR Uと有意な差は認められなかった(Figure 2)。抗酸化力値は,一般住人の2,696.3 ± 199.4 μmol/Lに比較してAML群で2,063.1 ± 488.5 μmol/L,CML群で2,400.7 ± 173.8 μmol/Lと両群で有意に低下していた。さらに,AML群ではCML群に比較しても抗酸化力値の明らかな低下が認められた(Figure 3)。酸化ストレス値と抗酸化力値のバランス比である相対的酸化ストレス度は,一般住人の1.00 ± 0.17に比較して,AML群では1.60 ± 0.63と明らかに高く異常亢進している症例が多数見られた。一方,CML群では,1.17 ± 0.10であり,一般住人と比較して有意な差は認められなかった(Figure 4)。

Figure 2 一般住人,AML群,CML群における酸化ストレス値の比較

d-ROMsテストによる酸化ストレス値の結果を示す。一般住人に比較して,AML群で有意に増加していた。一方,CML群では,有意な差は認められなかった。(Mann-Whitney U検定:vs. 一般住人,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

Figure 3 一般住人,AML群,CML群における抗酸化力値の比較

BAPテストによる抗酸化力値の結果を示す。一般住人に比較して,AML群およびCML群で有意に低下していた。さらに,AML群はCML群に比較しても抗酸化力値の有意な低下が確認された。(Mann-Whitney U検定:vs. 一般住人,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

Figure 4 一般住人,AML群,CML群における相対的酸化ストレス度の比較

酸化ストレス値と抗酸化力値の結果より算出したOSIの結果を示す。AML群では,一般住人およびCML群と比較して,OSIが異常亢進している症例が多数認められた。(Mann-Whitney U検定:vs. 一般住人,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

2. AML・FAB分類別の酸化ストレス値・抗酸化力値・相対的酸化ストレス度の比較

AML症例をFAB分類でM1(n = 11),M2(n = 10),M3(n = 9),M4(n = 4),M5(n = 6)に分類した。DIC合併率は,M1 = 9%,M2 = 20%,M3 = 78%,M4 = 0%,M5 = 17%で,M3で際立って高かった。CML症例群を対象に,AMLのFAB分類別に酸化ストレス値・抗酸化力値・相対的酸化ストレス度を比較し,DIC合併率との関連を検討した結果,酸化ストレス値は,M2症例群とM3症例群で有意に高かった(Figure 5)。一方,抗酸化力値は,M1,M2,M3,M4症例群でCML群と比較して有意に低下していた(Figure 6)。相対的酸化ストレス度は,M2,M3症例群で明らかに上昇していた。同時にDIC合併率を見ると,M2で20%,M3で78%とDIC合併率が高かったもので相対的酸化ストレス度が異常に亢進していた(Figure 7)。

Figure 5 AML症例のFAB分類別酸化ストレス値の比較

AML症例を,FAB分類し,CML症例を対照に酸化ストレス値を比較した結果を示す。CML症例に比較して,AML症例のM2,M3症例群で有意に増加していた。(Mann-Whitney U検定:vs. 一般住人,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

Figure 6 AML 症例のFAB分類別抗酸化力値の比較

AML症例を,FAB分類し,CML症例を対照に抗酸化力値を比較した結果を示す。CML症例に比較して,M1,M2,M3,M4症例群で有意に低下していた。(Mann-Whitney U検定:vs. CML,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

Figure 7 AML症例のFAB分類別相対的酸化ストレス度の比較

AML症例を,FAB分類し,CML症例を対照に相対的酸化ストレス度を比較した結果を示す。CML症例に比較して,DIC合併率の高かった M2,M3症例群で明らかに上昇していた。(Mann-Whitney U検定:vs. CML,*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

3. DIC合併と酸化ストレスの関連

AML症例をDIC合併例11例と非合併例29例に分類し,酸化ストレス値,抗酸化力値,相対的酸化ストレス度を比較した結果,DIC合併例では非合併例に比較して酸化ストレス値および相対的酸化ストレス度が有意に高かった(Figure 8)。

Figure 8 DIC合併例・非合併例における酸化ストレス値,抗酸化力値,相対的酸化ストレス度の比較

AML症例を,DIC合併例と非合併例に分類し,酸化ストレス値,抗酸化力値,相対的酸化ストレス度を比較した結果,DIC合併例では非合併例に比較して酸化ストレス値および相対的酸化ストレス度が有意に高かった。(Mann-Whitney U検定:vs. DIC(−),*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

さらに,AML症例をOSIが2.0以上と亢進していた症例群と亢進していなかった症例群でDIC合併率を比較した結果,OSIが亢進していた症例では,10例中6例(60%)の症例でDICの合併を認めた。一方,OSIが亢進していなかった症例では,30例中5例(16.7%)とDIC合併率は低かった。このようにOSIが異常亢進していた症例でDICの合併率が明らかに高く,相対的酸化ストレス度の亢進とDIC発症との間に強い関連性が示唆された(Figure 9)。

Figure 9 相対的酸化ストレス度とDIC合併との関連

AML症例を,相対的酸化ストレス度が異常亢進していた症例群と,亢進していなかった症例群でDIC合併率を比較した結果,相対的酸化ストレス度が亢進していた症例群で明らかにDIC合併率が高いことが分かった。

4. DIC合併と血中TF,TNFα濃度との関連

AML症例のDIC合併例と非合併例における血中TFおよびTNFα濃度を比較した結果,血中TF濃度はDIC合併例で非合併例に比較して有意に高かったが,血中TNFα濃度は,DIC合併例と非合併例で有意な差は認められなかった(Figure 10)。さらに,AML症例を,血中TF濃度が増加していた症例群‍と‍増加していなかった症例群で,DIC合併率を比‍較‍した結果,血中TF濃度が増加していた症例で‍は,11例中8例と実に72.7%の症例でDIC合併を認めた。一方,血中TF濃度が増加していない症例では,29例中3例とDIC合併率は10.3%であった(Figure 11)。

Figure 10 DIC合併と非合併例における血中TFおよびTNFα濃度の比較

DIC発症の誘因となる血中TFおよびTNFα濃度を比較した結果,DIC合併例では非合併例に比較して,TFの血中濃度が有意に高かった。(Mann-Whitney U検定:vs. DIC(−),*;p < 0.01,**;p < 0.001,***;p < 0.0001)

Figure 11 血中TF濃度とDIC合併との関連

AML症例を,血中TF濃度が増加していた症例群と増加していなかった症例群で,DIC合併率を比較した結果,血中TF濃度が増加していた症例群で明らかにDICの合併率が高いことが分かった。

IV  考察

AMLの重篤な合併症としてDICはよく知られている。特に急性前骨髄球性白血病(APL)はDICを高率に合併し,白血病細胞から放出されるTFにより血管内凝固が亢進して,消費性凝固障害が生じると共に,白血病細胞内にある線溶活性物質により強い線溶亢進を伴い,重症の出血症状を呈することから寛解導入が困難であった。近年,オールトランスレチノイン酸(ATRA)を用いた分化誘導療法によってAPL患者の寛解導入率が著明に高くなっているものの,このATRA不応例は多く存在しており,DIC合併率も依然として高い。それゆえに,DICの発症を早期に把握するための臨床検査項目の確立は重要な課題である。

本研究では,一般住人656人,AML 40症例,CML 20症例を対象に,血中酸化ストレス度の指標であるOSIと血中TF濃度の測定を実施し,OSIの亢進およびTF濃度の増加がDICの発症に関連しているか否か統計学的に解析した。まず,OSIは一般住人およびCML症例に比較してAML症例では異常亢進している症例が多数確認された。AML症例をFAB分類にて病型分類した結果,OSIはDIC合併率が高かったM2症例群(DIC合併率20%)およびM3症例群(DIC合併率78%)で明らかに亢進していた。実際,AML症例においてDIC合併群と非合併群でOSIを比較した結果,DIC合併群で有意に高かった。さらに,OSIが亢進していた症例群と亢進していなかった症例群でDIC合併率を比較した結果,明らかにOSI亢進群でDIC合併率が高かったこれらの結果より,血中OSIの亢進はAMLにおけるDICの発症に強く関連している可能性が示唆された。現時点では,酸化ストレス度を亢進させる活性酸素が腫瘍細胞から産生されるのか,あるいは生体反応として酸化ストレスと抗酸化力のバランスが崩れ相対的に酸化ストレス度が亢進するのか,解明されておらず,今後さらなる研究が必要である。

一方,DICの病態である血管内凝固症候群の引き金となる血中TF濃度を検討した結果,DIC合併群で非合併群に比較して有意に高く,さらに血中TF濃度が増加していた症例では高頻度(89.7%)にDICの発症が認められ,血中TF濃度もAMLにおけるDICの発症に強く関連していると考えられた。

本研究では,OSIおよびTFの測定が,初検査時の1ポイントであり,DICの重症化に両項目が関連しているか否かまでは検討できなかった。しかし,OSIとTFがDIC発症のリスクを予測できる検査項目として有用であることを見出した。本来ならば,DIC発症の直接的な病因である血中TF濃度を定量すればDIC発症の危険をいち早く予知できると考えられるが,血中TF濃度の定量はELISAキットを用いたバッチ測定であり,個々の症例に対応して迅速かつ簡便には測定できない。一方,OSIは自動分析装置で,酸化ストレス値と抗酸化力値を測定し計算式から求めるため,個々の症例毎に迅速かつ簡便に評価することができ,DIC発症の危険を予測する新たな臨床検査項目として有用であると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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