2020 Volume 69 Issue 1 Pages 89-94
「ルミパルスプレストHBsAg-HQ」の日常患者データから本試薬の有用性を検討した。陰性検体92.05%(7,857/8,536)のうち,再検後の判定不一致は0.04%(3/7,843),HBs抗原は弱陽性であったが抑制試験の結果から偽陽性となったのは0.14%(11/7,843)であった。陽性検体7.95%(679/8,536)のうち,高感度領域(0.05 IU/mL未満)で陽性となったのは2.95%(20/679)であった。抑制試験が実施された検体のうち,抑制され陽性の判定となった検体は56%(14/25)で,そのうちHBc抗体の測定が実施された13例ですべて陽性が確認された。以上のことから本試薬は高い特異性を有し,かつ高感度にHBs抗原を捉え得ることが確認された。また,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus; HBV)再活性化早期検出のためHBs抗原とHBV-DNA量を経時的に測定した2症例における結果から,本試薬はHBV再活性化の予防に有用であることが示唆された。
We investigated the usefulness of hepatitis B virus surface antigen (HBsAg) highly sensitive quantitative reagent “Lumipulse presto HBsAg-HQ (HBsAg-HQ assay)’’ by analyzing daily patient data. Among negative cases (92.05%, 7,857/8,536), the mismatch after retest was 0.04% (3/7,843), and the rate of negative HBsAg suppression test was 0.14% (11/7,843). Among the positive cases, the highly sensitive area was 2.95% (20/679), the rate of negative HBsAg suppression test was 56% (14/25), and 13 cases tested were positive for HBcAb. From these results, we confirmed that the HBsAg-HQ assay has high specificity and can capture HBsAg with high sensitivity. In addition, the results of HBsAg assay and HBV-DNA continuous analysis in two cases of HBV reactivation prevention suggest that the HBsAg-HQ assay is useful for monitoring HBV reactivation.
近年,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus; HBV)感染患者で免疫抑制・化学療法などによりHBVが再増殖するHBV再活性化が問題視されている。HBV再活性化による肝炎は重症化しやすいだけでなく,肝炎の発症により原疾患の治療を困難にさせるため,発症そのものを阻止することが最も重要であると『免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン』において示されている1)。また,同ガイドラインにおいて,「免疫抑制療法中は,治療開始後および治療内容の変更後(中止を含む)少なくとも6か月間は月1回のHBV-DNA量のモニタリングが望ましい。なお,6か月以降は3か月ごとのHBV-DNA量測定を推奨するが,治療内容に応じて高感度HBs抗原測定(感度0.005 IU/mL)で代用することを考慮する」の注釈が2017年6月から追記されている1)。
当院では,2014年9月から「ルミパルスHBsAg-HQ」(富士レビオ株式会社;以下富士レビオ)による高感度HBs抗原測定をG1200(富士レビオ)により実施しており,既報にてその有用性を評価した2)。今回,L2400(富士レビオ)への機器更新に伴う「ルミパルスプレストHBsAg-HQ」の導入以後,日常患者データから本試薬の有用性を検討したので報告する。
2018年5月1日から9月11日までの当院でHBs抗原測定依頼のあった患者検体8,536例を対象とした。
2. 機器および試薬 1) HBs抗原測定ルミパルスプレストHBsAg-HQ(以下本試薬)を測定試薬,L2400(富士レビオ)を測定機器として用いた。本試薬は2ステップサンドイッチ法に基づいた化学発光酵素免疫測定(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)法であり,測定値が0.005 IU/mL以上を示す場合陽性と判定する。
2) 抑制試験ルミパルスII HBsAg-HQ抑制試薬(富士レビオ)を使用し,L2400を測定機器として用いた。結果は抑制率で表し,50.0%以上を陽性と判定した。
3) HBs抗体オーサブ・アボット(アボットジャパン株式会社;以下アボット)を測定試薬,アーキテクトアナライザーi2000(アボット)を測定機器として用いた。
4) HBc抗体HBc・アボット(アボット)を測定試薬,アーキテクトアナライザーi2000を測定機器として用いた。
5) HBV-DNA量測定コバスTaqMan HBV「オート」v2.0(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社;以下ロシュ)を測定試薬とし,コバスAmpliPrep(ロシュ)を検体前処理装置,コバスTaqMan 48(ロシュ)を測定機器として用いた。
3. HBs抗原測定の日常での運用方法当院でのHBs抗原測定運用方法をFigure 1に示す。抑制試験については,HBs抗原が0.005~1.000 IU/mLかつ①前回値がない場合,②前回値が陰性,③前回の測定日から1年以上経過している,④前回値が非特異反応の可能性がある,のうちいずれかの条件を満たす場合に実施している。
Flow of HBsAg quantitative at our clinical laboratory.
対象検体における測定値の分布から,陰性検体での特異性および陽性検体高感度領域での陽性検出率を算出した。
2) 抑制試験結果抑制試験結果および他のHBV関連マーカーの結果もあわせ,本試薬の有用性を評価した。
3) HBV再活性化早期検出におけるHBs抗原モニタリング対象検体のうちHBV再活性化早期検出のためにHBs抗原およびHBV-DNA量を経時的に測定した2症例において,本試薬によるHBs抗原測定によるHBV再活性化予防の有用性を評価した。
対象検体のHBs抗原測定値分布内訳をTable 1に,0.05 IU/mL未満の症例と0.05 IU/mL以上の症例の測定値分布をFigure 2,3にそれぞれ示す。陰性検体は92.05%(7,857/8,536),陽性検体は7.95%(679/8,536)であった。陰性検体のうち,再検後判定不一致(初回値陽性を再検査にて陰性確認)となったのは0.04%(3/7,843),HBs抗原は弱陽性であったが抑制試験の結果,偽陽性となったのは0.14%(11/7,843)であった。陽性検体のうち,高感度領域(0.05 IU/mL未満)で陽性となったのは2.95%(20/679)であった。
Judgement | Details | Number | % |
---|---|---|---|
Negative | Initial test negative | 7,843 | 99.82 |
Mismatch after retest | 3 | 0.04 | |
False positive (Supression test negative) | 11 | 0.14 | |
Positive | Within high sensitivity area (0.005 ≤ HBsAg < 0.05) | 20 | 2.95 |
Outside high sensitivity area (0.05 ≤ HBsAg) | 659 | 97.05 |
Values of HBsAg < 0.05 IU/mL among all cases.
Values of HBsAg ≥ 0.05 IU/mL among all cases.
抑制試験およびHBV関連マーカーの詳細結果をTable 2に示す。HBs抗原の偽陽性であった11例のうち1例でHBc抗体が陽性であった。抑制されHBs抗原陽性の判定となった検体は56%(14/25)で,そのうちの13例がHBc抗体陽性で,感染既往であることが確認された。また,HBs抗原測定の同日および後日にHBV-DNA量測定が実施された検体7例のうち2例で陽性が確認された。
No. | Day | HBsAg (IU/mL) | Supression test | HBsAb | HBcAb | HBV-DNA (Log copies/mL, Day) |
Comment | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Initial test | Resest | Supression rate | Judgement | ||||||
1 | 2018/5/21 | 0.005 | 0.005 | 0% | (−) | (−) | (−) | < 2.1 (−) | Same patient |
2 | 2018/5/14 | 0.005 | 0.005 | 0% | (−) | (−) | (−) | N.T | |
3 | 2018/5/24 | 0.006 | 0.006 | 0% | (−) | (−) | (+) | < 2.1 (−) | |
4 | 2018/7/16 | 0.007 | 0.007 | 0% | (−) | N.T | N.T | N.T | |
5 | 2018/8/2 | 0.005 | 0.006 | 17% | (−) | (−) | (−) | N.T | HBV-DNA < 2.1 (−) (2018/10/22) |
6 | 2018/8/1 | 0.009 | 0.009 | −14% | (−) | (−) | (−) | N.T | HBV-DNA < 2.1 (−) (2018/9/6) |
7 | 2018/5/1 | 0.010 | 0.009 | 0% | (−) | (−) | (−) | N.T | |
8 | 2018/5/22 | 0.009 | 0.013 | 0% | (−) | (−) | (−) | N.T | |
9 | 2018/5/10 | 0.034 | 0.035 | 0% | (−) | (−) | (−) | N.T | |
10 | 2018/7/19 | 0.127 | 0.124 | −1% | (−) | (−) | (−) | N.T | Same patient HBV-DNA < 2.1 (−) (2018/8/15) |
11 | 2018/7/2 | 0.147 | 0.136 | 1% | (−) | (−) | (−) | ||
12 | 2018/8/28 | 0.005 | 0.005 | 80% | (+) | (+) | (+) | N.T | HBeAb (+) |
13 | 2018/6/6 | 0.006 | 0.006 | 67% | (+) | (+) | (+) | N.T | |
14 | 2018/5/8 | 0.010 | 0.010 | 78% | (+) | (+) | N.T | N.T | HBV-DNA < 2.1 (−) (2018/5/9) |
15 | 2018/5/17 | 0.011 | 0.012 | 67% | (+) | (−) | (+) | < 2.1 (−) | |
16 | 2018/6/14 | 0.020 | 0.019 | 82% | (+) | (+) | (+) | N.T | |
17 | 2018/6/6 | 0.032 | 0.031 | 78% | (+) | (−) | (+) | < 2.1 (+) | HBV-DNA 3.5 (+) (2018/5/15) |
18 | 2018/7/6 | 0.049 | 0.050 | 91% | (+) | (−) | (+) | < 2.1 (−) | HBeAb (−) |
19 | 2018/8/28 | 0.050 | 0.048 | 79% | (+) | (+) | (+) | N.T | |
20 | 2018/5/18 | 0.060 | 0.060 | 78% | (+) | (−) | (+) | < 2.1 (−) | |
21 | 2018/8/28 | 0.071 | 0.067 | 82% | (+) | (−) | (+) | N.T | |
22 | 2018/5/1 | 0.088 | N.T | 81% | (+) | (+) | (+) | N.T | HBV-DNA < 2.1 (−) (2018/8/24) |
23 | 2018/8/14 | 0.085 | 0.081 | 80% | (+) | (−) | (+) | N.T | |
24 | 2018/8/15 | 0.114 | 0.112 | 83% | (+) | (−) | (+) | < 2.1 (−) | HBV-DNA 2.1 (+) (2018/9/19) |
25 | 2018/8/29 | 0.483 | 0.450 | 81% | (+) | (+) | (+) | N.T |
N.T: Not tested.
HBsAg (IU/mL) | HBV DNA (Log copies/mL) |
|
---|---|---|
2018/5/15 | N.T | 3.5 (+) |
2018/6/6 | 0.032 (+) | < 2.1 (+) |
2018/7/2 | 0.034 (+) | < 2.1 (+) |
2018/8/8 | 0.024 (+) | (−) |
2018/9/18 | 0.023 (+) | (−) |
2018/10/15 | 0.026 (+) | (−) |
2018/11/2 | 0.030 (+) | < 2.1 (+) |
2018/12/3 | 0.016 (+) | < 2.1 (+) |
N.T: Not tested.
HBsAg (IU/mL) | HBV DNA (Log copies/mL) | |
---|---|---|
2017/11/8 | 0.087 (+) | N.T |
2017/11/22 | N.T | (−) |
2018/2/5 | 0.069 (+) | (−) |
2018/3/13 | 0.126 (+) | (−) |
2018/5/9 | 0.094 (+) | (−) |
2018/6/13 | 0.107 (+) | (−) |
2018/7/11 | 0.099 (+) | (−) |
2018/8/15 | 0.114 (+) | (−) |
2018/9/19 | 0.145 (+) | < 2.1 (+) |
2018/10/31 | 0.154 (+) | < 2.1 (+) |
2018/11/28 | 0.122 (+) | (−) |
2018/12/26 | 0.126 (+) | < 2.1 (+) |
2019/1/30 | 0.118 (+) | (−) |
2019/3/6 | 0.107 (+) | < 2.1 (+) |
2019/4/3 | 0.097 (+) | N.T |
N.T: Not tested.
70歳男性。多発血管炎性肉芽腫症治療でステロイド(プレドニゾロン)投与中のHBVキャリア。2017年5月18日より予防的にエンテカビル(entecavir; ETV)投与中でのモニタリング。HBs抗原は0.016~0.034で弱陽性であるが,持続して陽性でありその間HBV-DNAは陰性,陽性と変動している。
2) 症例2(Table 3B)63歳男性。眼筋型重症筋無力症治療でプレドニゾロン投与中のHBVキャリア。HBV-DNAが感度以上で陽性となった場合,予防的にETV投与予定でのモニタリング。HBs抗原は0.069~0.154で弱陽性であるが,持続して陽性でありその間HBV-DNAは陰性,陽性と変動している。
HBV再活性化は,キャリアからの再活性化と既往感染者からの再活性化に分類される1)。HBV再活性化のリスクは,主にウイルスの感染状態と免疫抑制の程度に規定されており1),免疫抑制・化学療法を施行する際は,肝機能異常の有無にかかわらずHBV感染をスクリーニングする必要がある1)。その際,HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体いずれの検査方法も化学発光免疫測定(chemiluminescent immunoassay; CLIA)法やCLEIA法など高感度の測定系を用いる1)。
HBVは変異を起こしやすいウイルスとして知られており3),従来のHBs抗原試薬では一次抗体としてHBs抗原の外側エピトープ認識抗体が使用されているため,外表面領域では免疫や薬剤などの刺激により変異が生じる可能性が高く,そのため変異株による偽陰性が生じることが懸念されている4)。本試薬では処理液を添加し,第一免疫反応中に血中HBs抗原の変性を積極的に行い変異を受けていない内側抗原を露出させ,HBs抗原の外側エピトープに加えて内側を認識する抗体を用いて免疫測定を行うことで5),変異株に対しても良好な結果が得られるとされる6)~8)。
今回の検討において,陰性検体の99.4%は0.001 IU/mLに収束しており,再検後の判定不一致率は0.04%と極めて低値であった。HBs抗原が0.005~1.000 IU/mLかつ抑制試験の結果,偽陽性となったのは0.14%,特異度は99.86%と良好であった。陽性検体のうち2.95%(20/679)で0.05 IU/mL未満の高感度領域での陽性が確認され,抑制試験により陽性の判定となった56%(14/25)のうち13例において感染既往であることが確認されたことから,本試薬は高感度にHBs抗原を検出できることが示唆された。また,HBV再活性化の早期検出のためHBs抗原およびHBV-DNA量測定にてモニタリングされていた患者2症例の結果から,本試薬はHBV-DNA量測定と同等に高感度でHBVのウイルス量を反映することが示唆された。CLIA法によるHBs抗原およびHBV-DNA量測定よりも早期に本試薬がHBV再活性化を検出した症例報告7)のほか,従来のCLIA法試薬でHBs抗原陰性とされたHBV既往感染者のうち本試薬では25.8%で陽性となった報告もあり9),本試薬はHBV再活性化予防においても有用であると思われる。
高感度HBs抗原定量試薬はHBV-DNA量測定と比較してコスト面および迅速性において優れており,今後もさらなる臨床応用が期待される10)。検査室の運用においては高感度であるためコンタミネーションには細心の注意を払う必要がある10)。当院では生化学検体とは別の容器に移し,検体量が少量でその検体を共有する場合はHBs抗原の測定を最優先とすること,微細フィブリンの析出を防ぐため,高速凝固採血管の採血直後の転倒混和の実施を周知徹底している11)。以上に挙げたような点に留意し,施設によって運用方法を十分検討する必要がある。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。