医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
症例報告
Activated partial thromboplastin timeクロスミキシングテストが診断の一助となったLupus anticoagulant-hypothrombinemia syndromeの1例
盛合 亮介近藤 崇望月 真希山田 暁遠藤 明美淺沼 康一柳原 希美髙橋 聡
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 69 巻 4 号 p. 671-676

詳細
Abstract

ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(lupus anticoagulant-hypoprothrombinemia syndrome; LAHPS)はループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)陽性で低プロトロンビン血症を伴い,しばしば出血傾向を呈する。今回,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)クロスミキシングテストが診断の一助となったLAHPSの1例を経験したので報告する。症例は2歳,女児。扁桃炎を発症後,皮下出血が出現し,凝固検査でプロトロンビン時間(prothrombin time; PT),APTTの延長を指摘され,当院小児科紹介受診となった。PT,APTT延長原因の検索のため,APTTクロスミキシングテストを実施した。その結果,即時型,遅延型ともに同様な上に凸パターンを示し,LAの存在が示唆された。追加検査でLAが検出され,第II因子活性も4.1%と低下していた。抗核抗体は陰性であり,自己免疫疾患の可能性は低く,扁桃炎の既往歴があることより,何らかの感染を契機に発症したLAHPSと診断された。本症例を経験して,APTTクロスミキシングテストは凝固時間延長原因の迅速な推測に有用であることを再認識した。

Translated Abstract

Lupus anticoagulant-hypothrombinemia syndrome (LAHPS) is characterized by positivity for the lupus anticoagulant (LA) accompanying hypoprothrombinemia and bleeding symptoms. Here, we report a case of LAHPS diagnosed by the activated partial thromboplastin time (APTT) mixing test. A 2-year-old girl presented with subcutaneous hemorrhage after developing tonsillitis. Since the prolongation of prothrombin time (PT) and APTT was pointed out in the coagulation tests, she was referred to our hospital. The APTT mixing test was carried out to investigate the cause of the prolongation of PT and APTT. As a result, the immediate-type and delayed-type waveforms exhibited similar convex upward patterns, which suggested the presence of LA. Additional tests confirmed the positivity for LA and low factor II activity (4.1%). Because she was negative for antinuclear antibodies, she was considered unlikely to have an autoimmune disease. On the basis of these results and her history of tonsillitis, the patient was diagnosed as having LAHPS that developed concomitantly with an infection. Therefore, we again realized that the APTT mixing test was useful for rapidly differentiating the causes of clotting time prolongation.

I  はじめに

クロスミキシングテストはプロトロンビン時間(prothrombin time; PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)などの凝固時間延長原因の迅速な鑑別に有用であり,波形パターンにより,凝固因子欠乏,凝固因子インヒビターあるいはループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)の存在を推測することができる1)。一般的に凝固因子欠乏症や後天的に第VIII因子インヒビターが出現する後天性血友病Aなどでは,出血症状を呈する2),3)。一方,LAを含む抗リン脂質抗体が検出される抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)では血栓症状を伴うことが多く4),クロスミキシングテストの波形パターンと臨床症状を組み合わせることにより,凝固時間延長原因の推定がより確実となる。

LAは血栓症状と強く関連しており,血栓のリスクファクターであるが5),時に出血症状に関与することがある。出血症状を伴うLA陽性症例は,主に小児に認められ,プロトロンビン活性の低下を伴っており,ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(lupus anticoagulant-hypopro-thrombinemia syndrome; LAHPS)と呼ばれている5)

今回我々は出血症状を主訴とするPT,APTT延長症例にAPTTクロスミキシングテストを実施し,LAHPSの診断に至った1例を経験したので報告する。

II  症例

患児:2歳,女児。

主訴:皮下出血。

既往歴・家族歴:特になし。

現病歴:201X年5月初旬,扁桃炎を発症し近医で抗菌薬を処方された。5月中旬より下肢,背中および肘に皮下出血が出現し,同時期に下痢も認めていた。その後も皮下出血が消退せず,他院を受診したところ,血液検査でPT,APTT延長を認めた。抗菌薬の使用歴と下痢の病歴からビタミンK内服を開始するもPT,APTT延長は若干の改善にとどまり,皮下出血は増加傾向であったため,精査目的で当院小児科紹介受診となる。

入院時検査成績(Table 1):CBCはWBCが11.3 × 109/Lとやや高値であったが,異常な細胞の出現はなかった。また,貧血とPLTの低下は認められなかった。生化学検査では肝機能,腎機能の低下は認めなかった。凝固線溶検査では,PT 42.7%,PT-INR 1.67,APTT 98.3秒と延長を認めた。フィブリノゲン値は基準範囲内で,フィブリノゲン・フィブリン分解産物(fibrinogen/fibrin degradation products; FDP),Dダイマー,トロンビン・アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex; TAT)およびプラスミン・プラスミンインヒビター複合体(plasmin-plasmin inhibitor complex; PIC)値の増加はなかった。PT,APTT延長原因の検索のために,APTTクロスミキシングテストを実施した(Figure 1)。APTTは,試薬にトロンボチェックAPTT-SLAを用い,全自動血液凝固測定装置CS-5100(ともにシスメックス株式会社)で測定した。その結果,即時型および遅延型ともに同様の上に凸パターンを呈し,LAの存在が推測された。その後,追加検査(Table 2)で,希釈ラッセル蛇毒時間(diluted Russell’s viper venom time; dRVVT)法を用いたLAテスト「グラディポア」(株式会社医学生物学研究所)でLAが2.7と陽性となった。抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピン抗β2GPI抗体は陰性であり,低補体血症(CH50 30.1 U/mL,C3 110 mg/dL,C4 7 mg/dL)がみられた。本症例はLAが検出されたが,APTTのみならずPTの延長も認められているため,外因系と共通系凝固因子活性を測定した。その結果,凝固因子活性は,第II因子活性のみ4.1%と低下していた。また,PIVKA IIは基準範囲内であった。抗核抗体は陰性であり,自己免疫疾患の可能性は低く,扁桃炎の既往歴があることより,何らかの感染を契機に発症したLAHPSと診断された。

Table 1  Laboratory findings on admission
CBC Blood chemistry Coagulation test
​WBC 11.3 × 109/L ​TP 6.9 g/dL ​PT 42.7%
​RBC 4.84 × 1012/L ​ALB 4.4 g/dL ​PT-INR 1.67
​HGB 12.2 g/dL ​T-Bil 0.4 mg/dL ​APTT 98.3 sec
​HCT 37.9% ​D-Bil 0.1 mg/dL ​Fbg 268 mg/dL
​MCV 84.6 fL ​CK 134 U/L ​FDP < 2.0 μg/mL
​MCH 27.2 pg ​AST 42 U/L ​D-dimer < 0.3 μg/mL
​MCHC 32.2 g/dL ​ALT 13 U/L ​AT 123%
​PLT 462 × 109/L ​LD 304 U/L ​TAT 0.3 ng/mL
​ALP 836 U/L ​PIC 0.60 μg/mL
​CRE 0.20 mg/dL
​UA 4.0 mg/dL
​CRP < 0.10 mg/dL
Figure 1 APTT mixing test

Five samples involving mixtures of normal plasma and patient plasma at various ratios were used for the APTT mixing test. The patient plasma vs. normal plasma ratios were as follows: 0:10, 1:9, 2:8, 5:5, and 10:0. The APTT values of the five samples were measured immediately after mixing the plasma samples (〇) or after 2 hours of incubation at 37°C (●).

Table 2  Additional tests
Antiphospholipid antibodies
LA (dRVVT*) 2.7​ (< 1.1)**
Anti-cardiolipin IgG ≤ 8 U/mL​ (< 10 U/mL)
Anti cardiolipin-β2 glycoprotein 1 complex antibody ≤ 1.2 U/mL​ (< 3.5 U/mL)
Auto antibody and serum complement
Antinuclear antibody < ×40: (−)​ (< ×40: (−))
CH50 30.1 U/mL​ (31.0~57.0 U/mL)
C3 110 mg/dL​ (80~165 mg/dL)
C4 7 mg/dL​ (14~42 mg/dL)
Coagulation factor
FX 77.8%​ (71~128%)
FVII 68.4%​ (63~143%)
FV 97.1%​ (70~152%)
FII 4.1%​ (74~146%)
PIVKA II 14 mAU/mL​ (≤ 39 mAU/mL)

*dRVVT: diluted Russell’s viper venom time

**( ): Reference range in our hospital

経過:入院後,出血症状の進行がなく,凝固機能も改善傾向にあったことから,無治療で外来経過観察とした。入院から21日後の検査値は,入院時と比べてPTが84.2%,PT-INRが1.10と正常化し,APTTも62.3秒と改善傾向であった(Table 3)。また,APTTクロスミキシングテストの即時型波形パターンも入院時に比べ上に凸の程度が弱くなっており(Figure 2),出血症状も認められなかった。発症後1年が経過したが,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)などの自己免疫疾患の発症やLAHPSの再燃は認めていない。

Table 3  Transition of PT, APTT and fibrinogen
Day 0 Day 21
PT (%) 42.7 84.2
PT-INR 1.67 1.10
APTT (sec) 98.3 62.3
Fbg (mg/dL) 268 307
Figure 2 Transition of immediate-type waveform pattern of APTT mixing test

Five samples involving mixtures of normal plasma and patient plasma at various ratios were used for the APTT mixing test. The patient plasma vs. normal plasma ratios were as follows: 0:10, 1:9, 2:8, 5:5, and 10:0. ●: Day 0. 〇: Day 21.

III  考察

LAHPSは,LA陽性で低プロトロンビン血症を伴い,しばしば出血症状を呈する疾患であり,1960年にRapaportら6)のSLEを基礎疾患にもつ11歳女児の報告が初めてである。LAHPSは,小児に発症する頻度が高く,基礎疾患としては,SLEなどの自己免疫疾患や感染症,リンパ腫などがあり,薬剤性や基礎疾患のない特発性も認められる7)。Fujiwaraら8)は,1996年から2019年までに報告された15歳以下の小児LAHPS症例をまとめており,本邦における小児LAHPS症例で,最も多い基礎疾患は感染症(32/40: 80%)であり,胃腸炎,上気道感染症を契機に発症している例が多かった。また,感染原因としては細菌よりもウイルスが検出される頻度が高く,特にアデノウイルス感染後の報告例が最も多い。本症例でも出血症状が出現する前に,扁桃炎を認めており,何らかの感染を契機にLAHPSを発症したものと考えられた。

治療に関しては,感染を契機に発症したLAHPSは無治療で軽快する症例が多い。一方,SLEなどの自己免疫疾患を契機に発症したLAHPSは,再発する可能性があり,ステロイド投与や免疫抑制療法などが選択される7),9)。本症例も,無治療で凝固機能が改善し,新たな出血も認められず経過良好であった。

LAHPSの出血原因は,抗プロトンビン抗体が存在し,抗プロトロンビン抗体とプロトロンビンの複合体が血中から急速にクリアランスされ,低補体血症と低プロトロンビン血症を生じるためと考えられている10)。Mazodierらの報告7)では,LAHPS症例の88%(29/33)に抗プロトロンビン抗体が検出されている。

フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(phpsphatidylserine-dependent anti-prothrombin antibody; aPS/PT)はLAの責任抗体の一つとされており,APSの血栓症状と強く関連しているが11),LAHPS症例においても検出されている。Iekoら12)はLAHPS症例の40%(8/20)にaPS/PTを認めたと報告している。また,aPS/PTがLAHPSの臨床症状および血液検査の改善に伴い低下しており,aPS/PTの測定がLAHPSの診断や臨床経過の評価において有用な指標になることが示唆されている13),14)。しかし,LAHPSにおけるaPS/PTの作用機序については不明である。本症例では,抗プロトロンビン抗体やaPS/PTの検索は行っていないが,低補体血症および低プロトロンビン血症が認められており,抗プロトロンビン抗体あるいはaPS/PTが存在し,LAHPSの発症に関与した可能性が考えられる。

LAHPSでのPT,APTT延長原因は,LAの存在と第II因子活性の低下であるが,院内でLA検査や凝固因子活性を測定している施設は少ない。クロスミキシングテストは,PT,APTTといった凝固検査を実施している施設では容易に実施することができ,凝固時間延長原因を迅速に推測することが可能である。クロスミキシングテストの実施方法1)は,被験血漿と正常血漿を種々の割合で混合した混合血漿の凝固時間を測定し,測定結果をグラフ化し視覚的に判定する。測定は,混合直後(即時型)と37℃ 2時間加温後(遅延型)に行う。凝固因子欠乏例では,即時型,遅延型ともに下に凸パターンを示し,LA陽性例では即時型,遅延型ともに同様な直線または上に凸パターンを示す。凝固因子インヒビター例では即時型に比べ遅延型では上に凸パターンがより明確となる。本症例でもAPTTクロスミキシングテストを実施しており,波形パターン(即時型・遅延型ともに同様な上に凸)からLAが存在している可能性が高いと判断することができた。さらに,APTTのみならずPTの延長,出血症状からLAHPSを推測することができ,APTTクロスミキシングテストの有用性を再認識した。

IV  結語

LAHPSは未治療で自然軽快する症例が多いが,SLEやAPSなどの自己免疫疾患が隠れていることがある。出血症状があり,PT,APTT延長を認める場合は,LAHPSも念頭に精査することが重要である。

本症例を経験して,APTTクロスミキシングテストは凝固時間延長原因の迅速な推測に有用であることを再認識した。

 

本研究は当院での臨床研究審査委員会の対象とならないため,臨床研究審査委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top