Japanese Journal of Medical Technology
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Original Articles
Sensitive and specific method of screening for Group B Streptococcus in pregnant women using a new enrichment broth combined with latex agglutination testing
Daiki TANNORyuya SHOJIYuko SAKAMOTOYukiko TAKANOKazutaka OHASHIMasahiro TOYOKAWAYukio YAMADERAHiroki SHIMURA
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2021 Volume 70 Issue 1 Pages 15-22

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Abstract

Streptococcus agalactiae(Group B Streptococcus; GBS)は,母子垂直感染により新生児に重症GBS感染症を引き起こすことが知られている。本邦ではすべての妊婦に対してGBSスクリーニング検査が推奨されているが,従来の直接法では偽陰性がしばしばみられることから,より高感度な検査法が望まれている。今回,色調変化によりGBSの有無を推定できる新しいGBS増菌培地を用いた増菌法の有用性を,直接法と比較検討した。また,増菌法のサブカルチャーを行わずに増菌培養液からラテックス凝集法を併用し,直接GBSの検出が可能かどうかを検討した。GBS検出率は,直接法が13%(13/100),増菌法が18%(18/100)であった。増菌法ではGBSが検出された検体はすべて24時間後に黄色を呈し,陽性的中率は25.7%(18/70),陰性的中率は100%(30/30)であった。また,ラテックス凝集法は,サブカルチャー法で検出されたすべてのGBSを検出した。本増菌法は,直接法と比較してGBS検出率を5%増加させ,培養24時間後の色調変化によりGBS陰性を判定できる点で有用と考えられた。さらに,ラテックス凝集法は,サブカルチャー法と同等の精度でより短時間にGBSを検出でき,サブカルチャー法で判定困難なGBSの有無を客観的に判定できる点で,より有用な検査法であることが示唆された。

Translated Abstract

Streptococcus agalactiae (Group B Streptococcus, GBS) is a leading cause of sepsis and meningitis in neonates. In Japan, the universal screening for maternal GBS colonization is recommended to decrease neonatal infections. However, the conventional methods cannot fully detect GBS and produce some false negative results. In this study, we evaluated a new GBS enrichment broth, which changes its color in the presence of GBS, in comparison with the conventional direct agar plating. We also evaluated the usefulness of a latex agglutination (LA) test for the broth after 24-h incubation. First, we estimated the efficiency of the enrichment broth using 100 samples. The detection rates of GBS were 13% (13/100) and 18% (18/100) in direct agar plating and enrichment broth culture, respectively. The positive predictive value of GBS in the broth that changed to yellow was 25.7% (18/70), and the negative predictive value in the broth that did not change to yellow was 100% (30/30) after 24-h incubation. All GBS-positive swabs changed the color of the broth to yellow after incubation up to 24-h. The LA test for the cultured broth detected all GBS with no false positive or false negative results when using 246 additional samples. These results show that this new enrichment broth is more sensitive than direct agar plating in the detection of GBS. Furthermore, the LA test for the cultured broth can contribute to the improvement of GBS detection. In conclusion, our study indicates that the new GBS enrichment broth and the LA test are useful as sensitive and specific methods for GBS screening in pregnant women.

I  はじめに

Streptococcus agalactiae(Group B Streptococcus; GBS)は,母子垂直感染により新生児に敗血症や髄膜炎などの重症GBS感染症を引き起こすことが知られている。本邦における新生児早発型GBS感染症発症率は0.1~0.2/1,000出生程度と推測されているが,その死亡率は14.9%,後遺症残存率は5.7%と極めて予後不良である1)~3)。妊婦の10~30%は腸管や膣内にGBSを保菌していること,また,一旦発症した場合の重篤性を考慮して,本邦の産婦人科診療ガイドライン4)では,35~37週の全妊婦に対してGBSスクリーニング検査を実施することを推奨している。

本邦の産婦人科診療ガイドライン2017年版はアメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)のガイドライン2010年版5)に類似しているが,CDCのガイドラインでは増菌培地を用いたGBS検出を推奨しているのに対し,本邦では“選択培地を使用することが望ましい”との記載はあるものの増菌培地の使用に関しては明記されていない。本邦でも,これまでGBS増菌培地の有用性が報告されてきたが,増菌培養後のサブカルチャーの手間や感度・特異度,コストの問題などから,本邦ではGBS増菌培地がいまだに普及していないのが現状である。さらに,ガイドラインに則ってGBSスクリーニング検査が実施されているものの,本邦,欧米ともに全GBS感染症児の約半数はスクリーニング検査が陰性であるとの報告もあり1),6),GBS偽陰性が大きな問題となっている。米国では新生児GBS感染症予防がいまだ不十分である要因の一つとして,培地の選択や培養方法などが関連している可能性があると報告されており7),より感度の高いGBSスクリーニング検査法が望まれている。

今回,極東製薬工業株式会社より,増菌培地の色調変化によりGBSの有無を推定可能とする新規GBS増菌培地が製品化されたことを受け,その有用性について当院で採用されている従来法(直接法)と比較検討した。さらに,本増菌培地とラテックス凝集法の併用によって迅速かつ高感度なGBS検出が可能かを検証するために,24時間後の増菌培養液を用いてラテックス凝集法を行い,そのGBS検出率をサブカルチャー法と比較検討した。

II  対象および方法

1. 対象

2016年6月から9月までに当院産婦人科から提出されたGBSスクリーニング用膣分泌物検体100件を対象としGBS増菌培地の有用性を検討した(検討1)。加えて,2017年11月から2018年1月までに提出された246検体を対象とし増菌培地とラテックス凝集法併用の有用性について検討を行った(検討2)。GBSスクリーニング検体は,検討1は産婦人科診療ガイドライン2014に則り33~37週の妊婦から,検討2は産婦人科診療ガイドライン2017に則り35~37週の妊婦から,それぞれ1人につき1本のスワブで膣入口部ならびに肛門内から連続的に採取され,1検体とした。なお,本研究は福島県立医科大学一般倫理委員会の承認を得て実施された(整理番号:一般30073)。

2. 培地および試薬

検討には以下の培地を用いた。GBS増菌培地(極東製薬工業),ニッスイ分画プレート羊血液寒天培地/ドリガルスキー改良(以下,分画培地;日水製薬),CA添加5%ヒツジ血液寒天培地(M)(以下,CA培地;日本ベクトン・ディッキンソン)またはバイタルメディアCA加羊血液寒天培地(以下,CA培地;極東製薬工業),クロモアガーストレップB(以下,ストレップB;関東化学)。ラテックス試薬は,ストレプトLA「生研」(以下,ストレプトLA;デンカ生研)およびストレプトLA NX「生研」(以下,ストレプトLA NX;デンカ生研)を用いた。なお,本検討におけるラテックス試薬の使用方法は添付文書記載外の使用である。また,当院の培地の入れ替えに伴い,検討1では極東製薬工業のCA培地を,検討2では日本ベクトン・ディッキンソンのCA培地を用いた。加えて,試薬の製造中止に伴い,検討1ではストレプトLAを検討2ではストレプトLA NXを用いた。

本GBS増菌培地の原理は,GBS増菌培地で広く用いられているLim brothを基礎培地としGBSが100%分解可能な糖とpH指示薬(bromocresol purple; BCP)を添加することで,色調の変化によってGBSの有無が推定可能となっている。培養後の増菌培地が紫色から黄色へ変色した場合はGBS陽性,紫色のままの場合や紫色と黄色の中間色であった場合はGBS陰性と推定する。

3. 【検討1】GBS増菌培地の有用性の検討

検討1のフローチャートをFigure 1に示す。

Figure 1 本研究のフローチャート

【検討1】直接法:GBSスクリーニング検体を分画培地に塗布し,35℃,24時間培養した。GBS様集落を認めた場合,ストレプトLAにて群別試験を行い,GBSの判定を行った。48時間まで培養を継続して最終判定した。増菌法:直接法塗布後のGBS検体を増菌培地に接種し,35℃,24時間培養した。増菌培地が黄変した場合はCA培地にサブカルチャーを行い,紫色あるいは紫色と黄色の中間色であった場合は培養を48時間まで延長し培地の色調にかかわらずCA培地にサブカルチャーした。サブカルチャーは35℃,24時間で行い,GBS判定にはストレプトLAを用いた。本検討では,確認のためにCA培地に発育した全発育菌に対して質量分析装置で菌種同定を行った。【検討2】ラテックス凝集法:GBS検体を増菌培地に接種し,35℃,24時間培養した。培養後の培養液100 μLに対してストレプトLA NXにて群別試験を実施しGBSの判定を行った。サブカルチャー法:GBS検体を増菌培地に接種し,35℃,24時間培養した。培養後の培養液をCA培地またはストレップBにてサブカルチャーし,発育したGBS様集落に対して質量分析装置にてGBS判定を行った。

1) 直接法

GBSスクリーニング検体を直接,分画培地に塗抹し35℃,24時間好気培養した。GBS様集落を認めた場合,ストレプトLAにて群別試験を行いGBSの判定を行った。48時間まで培養を継続して最終判定した。

2) 増菌法

直接法塗抹後のGBSスクリーニング検体をGBS増菌培地に接種し35℃,24時間好気培養した。増菌培地が黄変した場合,1白金耳をCA培地に塗抹しサブカルチャーした。紫色,あるいは紫色と黄色の中間色であった場合,培養を48時間まで延長後,色調にかかわらずCA培地に塗抹しサブカルチャーした。サブカルチャーは,35℃,24時間好気培養で行い,GBS判定にはストレプトLAを用いた。本検討では,確認のためにCA培地に発育した全発育菌に対して質量分析装置(Microflex LT; Bruker Daltonics, Bremen, Germany)により菌種同定を行った。

4. 【検討2】GBS増菌培地とラテックス凝集法併用の検討

検討2のフローチャートをFigure 1に示す。

1) ラテックス凝集法

GBSスクリーニング検体をGBS増菌培地に接種し35℃,24時間好気培養した。培養後,増菌培地の色調にかかわらず培養液の一部を−80℃で凍結保存した。保存した培養液100 μLを用いてストレプトLA NXにて群別試験を行いGBSの判定を行った。

2) サブカルチャー法

保存した増菌培地の培養液を用いて,1白金耳をCA培地およびストレップBにて35℃,24時間,好気条件下でサブカルチャーした。CA培地にて発育したGBS様集落に対して,またはストレップBにて藤色に発育した集落に対して質量分析装置にて菌種同定を行いGBSの判定を行った。

5. 統計学的解析

GBS検出率の統計学的解析は,統計解析ソフトIBM SPSS statistics ver. 25を用いて行い,χ2検定にてp < 0.05をもって有意差ありとした。

III  結果

1. GBS増菌培地の性能評価

検討1において直接法と増菌法のGBS検出に差があるかどうかを検討した。結果をTable 1に示す。直接法におけるGBS検出率は13%(13/100)であったのに対し,増菌法におけるGBS検出率は18%(18/100)であった。統計学的な有意差は認められないものの,増菌法は直接法では検出することのできなかったGBSを5件検出することができた。

Table 1  直接法と増菌法におけるGBS検出率の比較(n = 100)
GBS GBS検出率 p
陽性 陰性
直接法 13 87 13.0%
増菌法 18 82 18.0% 0.329

次に,GBS増菌培地の色調変化とGBS検出の関係をTable 2に示す。培養24時間の増菌培地の色調は,70%(70/100)が黄色を呈し,30%(30/100)が紫色もしくは紫色と黄色の中間色を呈した。培養48時間では,96%(96/100)が黄色を呈し,4%(4/100)が紫色もしくは中間色を呈した。GBSが検出された検体はすべて24時間後に培地を黄変させた。培養24時間および48時間において,紫色や中間色を呈した増菌培地からはGBSは検出されなかった。増菌培地の色調変化に対するGBS検出の感度は,24時間,48時間培養ともに100%(18/18)で,特異度は,24時間培養で36.6%(30/82),48時間培養で4.9%(4/82)であった。陽性的中率は24時間培養で25.7%(18/70),陰性的中率は100%(30/30)であった。本増菌培地の性能をTable 3に示す。

Table 2  GBS増菌培地の色調変化とGBS検出の関係(n = 100)
培養時間 増菌培地の
色調
GBS
陽性 陰性
24時間 黄色 18 52 70
黄色以外 0 30 30
18 82 100
48時間 黄色 18 78 96
黄色以外 0 4 4
18 82 100
Table 3  GBS増菌培地の性能評価
培養24時間 培養48時間
感度 100%(18/18) 100%(18/18)
特異度 36.6%(30/82) 4.9%(4/82)
陽性的中率 25.7%(18/70) 18.8%(18/96)
陰性的中率 100%(30/30) 100%(4/4)

2. 増菌培地の偽陽性をきたした菌種の解析

GBS増菌培地の性能評価から,本増菌培地は黄変してもGBSが検出されるとは限らず,偽陽性が存在することが確認された。そこで,検討1において増菌培養24時間後に黄変を示し,かつGBSが陰性であった52件から検出された全菌種を質量分析装置で同定し,偽陽性の原因となる菌種の解析を行った。内訳をTable 4に示す。Enterococcus spp.が最も多く検出され,次いでStaphylococcus spp.,Streptococcus spp.の順に検出された。菌種別にみると,E. faecalisが最も多く検出され,次いでS. epidermidisが多く検出された。検出数が多いE. faecalisS. epidermidisに焦点を当て再解析を行うと,78.8%(41/52)にE. faecalisあるいはS. epidermidis,またはその両菌種が検出された(Figure 2)。さらに,E. faecalisS. epidermidis以外で増菌培地を黄変させる菌種にはE. faeciumE. raffinosusなどが含まれており,本増菌培地の偽陽性の原因となる菌種は90.4%(47/52)がEnterococcus spp.とS. epidermidisであった。

Table 4  GBS増菌培地を黄変させるGBS以外の菌種
Genus Species n
Enterococcus spp. E. faecalis 29
E. faecium 4
E. raffinosus 2
E. avium 1
E. gallinarum 1
Staphylococcus spp. S. epidermidis 21
S. hominis 2
S. lugdunensis 2
S. aureus 1
S. haemolyticus 1
Streptococcus spp. S. salivarius 7
S. oralis 6
S. anginosus 4
S. gallolyticus 2
S. lutetiensis 2
S. mitis 1
S. parasanguinis 1
Corynebacterium spp. C. amycolatam 8
C. kroppenstedii 1
Lactobacillus spp. L. gasseri 5
L. jensenii 2
L. fermentum 1
L. garvieae 1
Candida spp. C. albicans 4
Actinomyces spp. A. neuii 2
A. urogenitalis 1
Other A. omnicolens 1
B. subtilis 1
D. hominis 1
G. vaginalis 1
Figure 2 GBS増菌培地を黄変させるGBS以外の菌種

増菌培地を黄変させ,かつGBSが検出されなかった52検体についてE. faecalisS. epidermidisに焦点を当て再解析した。Enterococcus spp.は,E. faeciumE. raffinosusE. gallinarumE. aviumを含む。

3. ラテックス凝集法の有用性評価

検討2において,増菌培養24時間後の培養液を用いてラテックス凝集法にてGBS検出が可能かどうかを,246件の追加検体を用いてサブカルチャー法の結果と比較検討した。結果をTable 5に示す。CA培地によるサブカルチャー法でのGBS検出率は22.8%(56/246)であったのに対し,GBS集落を特異的に着色させる酵素基質培地であるストレップBを用いたサブカルチャー法でのGBS検出率は19.1%(47/246)であった。ストレップBに比べCA培地によるサブカルチャー法のGBS検出率は高いものの,CA培地でのサブカルチャー法では,弱溶血株2件,非溶血株1件,菌量が極めて少ないものが2件あり,GBS陽性と判定はできたが判定に苦慮した検体は合計5件あった。一方,ラテックス凝集法によるGBS検出率は22.8%(56/246)であり,CA培地によるサブカルチャー法で検出したすべてのGBSをラテックス凝集法で検出することができた。また,CA培地によるサブカルチャーの結果を真値とした場合,ラテックス凝集法にてGBS偽陽性,偽陰性と判定されたものは存在せず,ラテックス凝集法の感度,特異度はともに100%であった。ラテックス凝集はすべて3+の強い凝集塊で判定に苦慮するものはなかった。

Table 5  サブカルチャー法とラテックス凝集法におけるGBS検出率の比較(n = 246)
GBS GBS
検出率
p
陽性 陰性
サブカル
チャー法
CA培地 56 190 22.8%
ストレップB 47 199 19.1% 0.319
ラテックス凝集法 56 190 22.8% 1.000

検討2に用いた246件の追加検体において,培養24時間の増菌培地の色調は,78.9%(194/246)が黄色を呈し,21.1%(52/246)が紫色もしくは紫色と黄色の中間色を呈した。増菌培地の色調変化に対するGBS検出の感度は100%(56/56),特異度は27.4%(52/190)であり,陽性的中率は28.9%(56/194),陰性的中率は100%(52/52)であった。

IV  考察

CDCガイドラインによりGBSスクリーニング検査において増菌培地が推奨されていることから,本邦でも各学会においてGBS増菌培地の有用性に関する発表が行われてきている。しかし,学術論文はいまだ少ない上,検体を希釈してから検討に用いるなど臨床に即した検討がなされていないのが現状である。我々の検討と同様,特別な処理をせずに臨床検体をそのまま用いて直接法と増菌法でGBS検出率を比較した報告8)~10)によると,直接法と比べ増菌法では3.8~6.0%のGBS検出率増加がみられており,5%のGBS検出率増加が確認された本増菌培地の結果は,既報と比較しても妥当な結果であると考えられた。

検討1において,検出されたGBSはすべて24時間後に増菌培地を黄変させたことから,本増菌培地の培養時間は24時間で十分であることが示唆された。しかしながら,増菌培地の色調変化によるGBSの陽性的中率は25.7%にとどまり,偽陽性が数多く存在することが確認された。つまり,本増菌培地は,黄変したからといって必ずしもGBSが存在するとは限らず,サブカルチャーなどの追加試験によりGBSを確認することが必須といえる。一方,培養24時間後に紫色または紫色と黄色の中間色を呈した約3割の増菌培地からはGBSが検出されず,検討1,検討2ともに陰性的中率は100%であった。以上のことから,本増菌培地の色調変化によるGBS判定は偽陽性が多いものの,GBS陰性は判定可能であることが示唆された。本増菌培地の使用は,迅速な陰性報告が可能となることに加え,紫色または中間色を呈した増菌培地においてサブカルチャーの必要性が低いと考えられ,検査コストおよび仕事量の削減に繋がることが期待される。

検討2では,増菌培養24時間後の培養液を用いてラテックス凝集法とサブカルチャー法を比較することで,サブカルチャー法で検出したすべてのGBSをラテックス凝集法にて検出できることを確認した。つまり,本増菌培地にラテックス凝集法を併用することで,色調変化による判定においてGBS偽陽性が多いという本増菌培地の欠点を補い,検体提出後24時間と短時間でGBSの有無を臨床へ報告することが可能となる。CDCガイドラインでは,早産兆候により緊急入院となったGBS保菌状態不明妊婦の対応として,陣痛が始まる前であればスクリーニング検査によってGBSの有無を確認することを推奨している5)。GBS保菌妊婦の場合,分娩4時間以上前からの抗菌薬投与が早発型新生児GBS感染症の予防に有効であることが報告されており5),11),GBS増菌培地とラテックス凝集法を併用することで,切迫早産などの緊急時においても分娩開始前に正確なスクリーニング結果を報告できる可能性が高まることが期待される。

本検討では,非溶血株や弱溶血株のGBSにより判定に苦慮した検体が3件あった。報告によりばらつきはあるが非溶血株GBSは臨床から分離されるGBSの4%程度存在していると考えられており5),12),13),このような非溶血株GBSにはcyl遺伝子群に変異があることが確認されている14),15)cyl遺伝子群は12種のcyl遺伝子(cylX, cylD, cylG, acpC, cylZ, cylA, cylB, cylE, cylF, cylI, cylJ, cylK)からなり,これらGBSに固有のcyl遺伝子の突然変異がGBSの溶血性を変化させることが知られている16),17)。非溶血株GBSはCA培地上ではE. faecalisと極めて似通った集落であるためGBSを見逃す危険性が十分にある。また,CA培地上にGBSが1集落しか検出されないような菌量が極めて少ないものも2件あり,このような検体からGBSを見逃さないためには微生物検査技師の十分な技量と経験が必要と考えられた。一方,ストレップBは,CA培地において判定困難であった弱溶血株や非溶血株であっても,集落を藤色に着色させ容易にGBSを判定することができた。しかし,ストレップBではGBSを検出できなかった検体が9件あり,ラテックス凝集法やCA培地でのサブカルチャー法に比べGBS検出率が劣ることが示唆された。本検討では,CA培地にてGBSが数多く発育しているにもかかわらずストレップBではGBSの発育がみられなかった検体にも遭遇したことから,ストレップBでGBS検出率が劣る原因にGBSの菌量は関係ないことが予想される。先行研究においても,GBSの菌量にかかわらずストレップBでGBSが検出できなかった検体が1%程度あったことが報告されており18),今後の原因究明が期待される。以上のことから,増菌培地を用いてGBSスクリーニング検査を行ったとしても,サブカルチャー法ではGBSが偽陰性となる要因が過分に含まれていることが示唆された。

本増菌培地を黄変するGBS以外の菌種は,約9割がEnterococcus spp.とS. epidermidisであった(Figure 2)。これらの菌は膣の常在菌でありGBSと同様の薬剤感受性スペクトラムを有するため選択的に発育を抑制することが難しい。特に,GBS増菌培養においてE. faecalisの過剰発育はGBSの発育を抑制しサブカルチャー法によるGBS検出を困難にすることが報告されている19),20)。Parkらの検討19)では,E. faecalisの過剰発育によりサブカルチャー法にてGBS偽陰性となった7件について,ラテックス凝集法ではGBSの検出が可能であったことを報告しており,我々の報告を強く支持している。増菌培養後のサブカルチャーによるGBS偽陰性を無くすため,酵素基質培地によるサブカルチャー21)やPCRのような遺伝子検査法(nucleic acid amplification test; NAAT)による検出22)も検討されているが,ラテックス凝集法が最も簡便かつ低コストで高い検出率が得られる方法であると考えられる。欧米ではすでにラテックス凝集法の有用性が報告されており19),23),24),CDCのガイドラインにも追加試験としてラテックス凝集法の併用が明記されている。欧米の施設では,増菌培養後のサブカルチャー法を廃止しラテックス凝集法のみにすることで,GBS検出感度の向上が得られただけでなく,仕事量やコストの削減,turn around time(TAT)の短縮が認められたとの報告もされている19)。本研究結果からもラテックス凝集法のみでスクリーニング検査を行える可能性が示唆されたが,検討数がまだ少なく,ラテックス凝集法における偽陽性,偽陰性の存在も否定できない。ラテックス凝集法を新たなGBSスクリーニング検査法として本邦で確立するためには,さらに多くの検体数を用いて検討を重ねる必要があると考えられる。

V  結語

今回,我々は,本増菌培地が色調変化によりGBS陰性を判定できるだけでなく,ラテックス凝集法を併用することで24時間までに迅速に報告可能,かつ現状最も簡便で高感度なGBSスクリーニング検査法であることを報告した。さらに,本併用法はスクリーニング検査における仕事量の削減やTATの短縮に寄与するだけでなく,問題視されているGBS偽陰性の削減にも寄与する可能性が示唆された。本研究は,本邦のGBSスクリーニング検査における増菌培地の普及促進のための学術的根拠の一つとなることが期待される。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究の一部は,黒住医学研究振興財団第26回研究助成(代表:丹野大樹)を受けて実施されたものである。また,本研究の一部は,第67回日本医学検査学会において日臨技学術奨励賞「特別奨励賞」を授与された。

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