医学検査
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技術論文
超音波検査用ゼリーとゼリーウォーマの細菌学的環境調査
小川 綾乃浅井 さとみ宮澤 美紀髙梨 昇下野 浩一梅澤 和夫宮地 勇人
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2021 年 70 巻 3 号 p. 448-455

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Abstract

診療のために多用されている超音波検査は,感染対策を怠ればアウトブレイクの原因につながる可能性があり,超音波検査用ゼリー(以下,ゼリー)の衛生管理は院内感染防止のために重要である。本研究は超音波検査実施におけるゼリーとゼリーウォーマ(以下,ウォーマ)の衛生的使用状況を明らかにするため,細菌学的な環境調査を行い,結果に基づく衛生的使用方法について検討した。ゼリーボトル使用開始から終了まで,始業時と終業時にゼリーおよびウォーマから培養検査を行った。その結果,検出された細菌はいずれも環境中またはヒトの常在菌であり,著明な細菌の増殖は確認されず,衛生的な運用がなされていると考えられた。しかし,易感染患者の検査の実施ではより衛生的に使用することが望まれる。リスク低減のため検査開始時には汚染の危険性のあるボトル先端部のゼリーを破棄することや,終業時にはウォーマを清掃・消毒することも有用であると考えられた。

Translated Abstract

Ultrasonography, which is frequently used for medical examination, may transmit pathogens from one patient to another and lead to a disease outbreak if infection control is neglected. Maintaining hygiene standards while using the ultrasound gel is essential for preventing nosocomial infections. In this study, to examine the hygiene standards of the gel and gel warmer used for ultrasonic examination in hospitals, a bacteriological survey of the environment was conducted. On the basis of the results of the survey, hygienic methods of using the gel and gel warmer were explored. Samples collected from the gel and gel warmer prior to the first use and after the last examination of the day were cultured. All the detected bacteria were indigenous to the environment or were a part of the human microbiome. No prominent bacterial growth was observed, suggesting the sanitary handling of the gel. However, it is recommended that the environmental conditions should be maintained as aseptic as possible while examining immunocompromised patients. To reduce the risk of infections, the gel at the tip of the bottle, which poses a risk of contamination, should be discarded prior to use, and the gel warmer should be cleaned at the end of daily work. The equipment should be cleaned and disinfected daily as well.

I  序

超音波検査は簡便かつ非侵襲的な検査であり,診療のために多用されている。多数の患者に使用されるため,標準予防策や感染経路別予防策など基本的な感染対策を怠ればアウトブレイクの原因につながる可能性がある。実際,患者の皮膚に直接接触するプローブ,超音波検査用ゼリー(以下,ゼリー)のコンタミネーションやアウトブレイクが報告されており1)~3),ゼリーの衛生的管理は院内感染対策防止のため重要である。

当検査室では詰め替え用ゼリーをゼリーボトル(以下,ボトル)に終業後に小分けして使用している。ボトルへのゼリーの継ぎ足し補充は行わず,ボトル内のゼリーを使い切った後,ボトルは水洗・乾燥で再利用している。生理機能検査室で行われるこれらの詰め替え作業がゼリーの汚染に与える影響は,未だ不明である。今回我々はゼリーとゼリーウォーマ(以下,ウォーマ)の衛生的使用による交差感染リスクを評価するため,細菌学的環境調査を行った。

II  材料

ゼリーは東芝医療用品株式会社製「ソノゼリーM(以下,ソノゼリー)」(5 L入りゼリーを250 mLボトルに小分け)とPARKER社製「アクアソニック」(5 kg入りゼリーを350 gボトルに小分け)を用いた。ゼリーの構成は水,グリセリン,カーボンポール樹脂(粘度調整用),pH調節剤,中和剤などで,防腐剤としてパラベンを含む場合がある。

腹部・表在超音波検査ではソノゼリーを,心臓超音波検査ではアクアソニックを使用しており,腹部・表在用より心臓用は硬めに調整されている。

III  方法

1. ゼリー内での菌株の増殖能と運動性の確認

ゼリー内での菌株の増殖能を確認するため,10 mL滅菌スピッツにソノゼリーを入れ,接種しない状態,無菌の白金線を接種,運動性を有する細菌としてEscherichia coli,運動性を有さない細菌としてStaphylococcus aureusを白金線で接種した4パターンで36℃ 48時間培養を行った。増殖能は,培養前と比較して穿刺部白濁の拡大の有無,運動性は穿刺部から混濁の広がりの有無により判定した(Figure 1)。

Figure 1 ゼリーでの接種部の白濁の拡大と混濁の広がりの判定方法

A:培養前 白濁(−)      培養後 白濁(−),混濁の広がり(−)

B:培養前 接種部の白濁(+)  培養後 接種部の白濁の拡大(−),混濁の広がり(−)

C:培養前 接種部の白濁(+)  培養後 接種部の白濁の拡大(+),混濁の広がり(−)

D:培養前 接種部の白濁(+)  培養後 穿刺部の白濁の拡大(+),混濁の広がり(+)

その後,白濁があった場合は滅菌スピッツ中央の白濁部分を,白濁がなかった場合は滅菌スピッツの中央のゼリーを滅菌スポイトで採取しヒツジ血液寒天培地に塗布,36℃ 48時間培養後にコロニーの発育を観察し,ゼリー内での細菌の生存の有無を確認した。

2. ゼリーの汚染度調査

腹部・表在用の検査室据え置き超音波診断装置(ア),腹部・表在用のベッドサイド専用超音波診断装置(イ),心臓用の検査室据え置き超音波診断装置(ウ),心臓用のベッドサイド専用超音波診断装置(エ)にそれぞれ専用のゼリーを設置し,始業時と終業時に細菌学的検査を実施した。調査開始日程は各ボトル揃えて,調査終了はそれぞれのボトルのゼリーを使い切るまでとした。対照として,常温で静置した未使用のソノゼリー(オ)を検査用ゼリーと同様の方法で,調査期間中の始業時と終業時に調査を行った。

細菌学的検査方法は,ボトル先端のゼリー約0.8 gを生理食塩水9 mLに入れよく撹拌し調整液を作製し,調整液を1 mLずつヒツジ血液寒天培地に塗布した(Figure 2)。36℃で48時間培養後,コロニー数を調査した。細菌は同定した後,1,2日目の始業時では,ボトル先端のゼリー約0.8 gを始業時前として採取した後に1~2 g破棄し,その後の約0.8 gを始業時後の検体として採取した。

Figure 2 ゼリーの培地塗布方法

また,各装置の1日当たりの検査件数を調査し,汚染度との関連を比較検討した。

3. ウォーマの細菌学的環境調査

ウォーマはいずれも装置付属の縦型であり(Figure 3),ウォーマ底部を生理食塩水で湿らせた滅菌綿棒で拭き上げ,綿棒をヒツジ血液寒天培地に塗布した(Figure 4, 5)。36℃で48時間培養後,コロニー数を調査した。

Figure 3 装置付属の縦型ウォーマ
Figure 4 ウォーマ底部の検体採取
Figure 5 ウォーマ底部の培地塗布方法

なお,検体採取場所はTable 1の通りに略し記載する。

Table 1  検体採取場所の略語一覧
①:ゼリー ②:ウォーマ
ア:腹部・表在用の検査室据え置き超音波診断装置 ア-① ア-②
イ:腹部・表在用のベッドサイド専用超音波診断装置 イ-① イ-②
ウ:心臓用の検査室据え置き超音波診断装置 ウ-① ウ-②
エ:心臓用のベッドサイド専用超音波診断装置 エ-① エ-②
オ:常温で静置した未使用のゼリー

IV  結果

1. ゼリー内での菌株の増殖能と運動性

何も接種しないゼリー,無菌の白金線を接種したゼリーで白濁は確認されなかった。Escherichia coliStaphylococcus aureusを接種したゼリーで接種部の白濁が確認されたが,いずれも培養前と比較し白濁の拡大はなく,細菌の増殖能および運動性はないと示唆された(Figure 6)。

Figure 6 ゼリー内での菌株の増殖能と運動性の確認

何も接種しないゼリーと無菌の白金線を接種したゼリーで白濁は確認されなかった。Escherichia coliStaphylococcus aureusの菌株を白金線で接種したゼリーで接種部の白濁が確認されたが,培養前と比較し培養後で白濁の拡大は確認されなかった。

滅菌スピッツ中央のゼリーの培養ではいずれもコロニーは検出されず,細菌の生存はないことが確認された。

2. ゼリーの汚染度調査結果

培養結果をTable 2に示す。

Table 2  各装置専属ゼリーとウォーマの細菌検査の結果
検出菌とコロニー数
ア-① イ-① ウ-① エ-① ア-② イ-② ウ-② エ-②
1日目 始業時 Coryne: 2 Coryne: 2 (−) (−) GPC: 1 Fungus: 2 GPC: 1 (−) (−)
Fungus: 1 Coryne: 1 Coryne: 2
Fungus: 1
GPC: 1 Fungus: 1 (−) (−)
Micro: 2
Coryne: 5
終業時 Bacillus: 4 Fungus: 1 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
2日目 始業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
(−) CNS: 1 (−) (−)
終業時 CNS: 1 (−) (−) (−) (−) Fungus: 1 (−) (−) (−)
3日目 始業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
終業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) CNS: 1 (−) (−)
4日目 始業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) CNS: 8 Micro: 1 (−)
Bacillus: 1
終業時 (−) (−) (−) (−) Coryne: 1 (−) (−) (−) (−)
Fungus: 1
5日目 始業時 GPC: 1 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
Fungus: 1
終業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
6日目 始業時 (−) (−) (−) Coryne: 1 Bacillus: 1 (−) (−)
Fungus: 1
終業時 (−) Yeast: 1 (−) (−) (−) (−) (−)
7日目 始業時 (−) (−) (−) Bacillus: 1 (−) (−) (−)
終業時 (−) Bacillus: 1 (−) GPC: 2 (−) Yeast: 1 (−)
Fungus: 3
8日目 始業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
終業時 (−) (−) (−) (−) CNS: 1 GPC: 1 (−)
9日目 始業時 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−)
終業時 (−) (−) (−) GPC: 1 (−) (−) (−)
Coryne: 1
10日目 始業時 (−) (−) (−) CNS: 1 (−)
終業時 (−) (−) (−) (−) (−)
11日目 始業時 (−)
終業時 (−)
12日目 始業時 (−)
終業時 (−)

・数字:コロニー数

・前:ボトル先端のゼリーを破棄する前,後:ボトル先端のゼリーを破棄した後

・表において菌名は下記の通り省略する。

 Bacillus: Bacillus sp. Coryne: Corynebacterium sp. CNS: Coagulase-negative staphylococci. Fungus: Fungus GPC: Gram positive cocci.

 Micro: Micrococcus sp. Yeast: Yeast

1) 検出された細菌について

検出された細菌はいずれも環境中またはヒトの常在菌であり,グラム陰性桿菌は検出されなかった。また,最も多く検出されたのはア-①の1日目のCorynebacterium sp. 5コロニーであった。ア-①,イ-①で高頻度かつ多数検出されたものはCorynebacterium sp.であった。ウ-①で検出されたものはYeastおよびBacillus sp.であった。また,ア-①,イ-①とウ-①で比較するとウ-①の方が検出頻度,検出数いずれも少なかった。エ-①においては1度も細菌が検出されなかった。

なお,各装置の1日当たりの検査件数をTable 3に示す。1本のボトルを使い切るまでの1日当たりの平均検査件数が最も多かった装置はアであった。最も合計件数が多かった装置はエであった。

Table 3  各装置1日当たりの検査件数
腹部・表在用超音波診断装置 心臓用超音波診断装置
ア:検査室据え置き用 イ:ベッドサイド用 ウ:検査室据え置き用 エ:ベッドサイド用
1日目 7 4 6 7
2日目 5 1 3 5
3日目 8 2 6 9
4日目 5 3 7 8
5日目 9 1 7 8
6日目 3 6 6
7日目 2 5 8
8日目 1 3 3
9日目 2 6 7
10日目 2 2
合計 34 21 49 63
平均 6.8 2.1 5.4 6.3

2) 始業時でゼリーを廃棄する前後について

1,2日目の始業時でゼリーを捨てる前後で細菌が減少していたのはイ-①の1日目だけであった。ア-①の1日目およびイ-①の2日目は細菌が増加していた。ア-①の2日目,ウ-①とエ-①の1日目および2日目はゼリーを廃棄する前後いずれも細菌は検出されなかった。

3) 終業時から翌日始業時でコロニー数が増加したものについて

終業時から翌日始業時でコロニー数が増加したのは,ア-①の5日目始業時,オの6日目始業時と7日目始業時であった。いずれも終業時に細菌は検出さなかったが,翌日始業時に検出された。

4) 終業時から翌日始業時でコロニー数が減少したものについて

終業時から翌日始業時で細菌が減少していたのはア-①の1~2日目,イ-①の1~2日目,ウ-①の6~7日目と7~8日目,オの4~5日目と7~8日目および9~10日目であった。

5) 対照として静置したオについて

細菌は検出されたが,いずれも環境中またはヒトの常在菌であった。

3. ウォーマの細菌学的環境調査

培養結果をTable 2に示す。

1) 検出された細菌について

検出された細菌はいずれも環境中またはヒトの常在菌であり,グラム陰性桿菌は検出されなかった。また,最高はイ-②の4日目のCoagulase-negative staphylococci(以下,CNS)8コロニーであり,それ以外はいずれも2コロニー以下であった(Figure 7)。

Figure 7 ヒツジ血液寒天培地の培養結果

A:培養陰性

B:イ-② 3日目終業時

C:イ-② 4日目始業時

ア-②,イ-②で高頻度かつ多数検出されたものはCNSであった。ウ-②で検出されたものはMicrococcus sp.,Yeast,Gram positive cocci(以下,GPC)であった。

また,ア-②,イ-②とウ-②で比較すると,ウ-②の方が検出頻度,検出数いずれも少なかった。エ-②においては1度も細菌が検出されなかった。

2) 終業時から翌日始業時でコロニー数が増加したものについて

終業時から翌日始業時でコロニー数が増加したのは,イ-②の4日目始業時と6日目始業時および10日目始業時,ウ-②の4日目始業時であった。このうち,終業時に検出された細菌が翌日始業時に増殖していたのはイ-②の4日目始業時だけであった。その他は終業時に細菌は検出さなかったが翌日始業時に検出された。

3) 終業時から翌日始業時でコロニー数が減少したものについて

終業時から翌日始業時で細菌が減少していたのは,イ-②の8~9日目,ウ-②の7~8日目・8~9日目であった。

4) ゼリーとウォーマの関係性について

1日目の始業時のイ-①とイ-②は同一の細菌が検出された。この他,ゼリーとウォーマが同じタイミングで同じ細菌が検出されたことはなかった。また,終業時から翌日始業時でもゼリーとウォーマで同じ細菌が検出されたことはなかった。

V  考察

当大学病院の生理機能検査室では,ゼリー詰め替え時のボトルの水洗と乾燥や検査時にボトル先端が患者や探触子に触れないようにする等,衛生的に留意しつつゼリーを運用している。しかし,無菌的な操作ではないため雑菌の繁殖等が懸念された。そこで今回我々は,ゼリーとウォーマの衛生的使用による交差感染リスクの評価のため,用途の異なる超音波診断装置4台にて使用している各装置専用ゼリー およびウォーマを,ボトルを使用開始してからゼリーを使い切るまで,始業時と終業時に細菌学的環境調査を行った。

ゼリー内で菌株の増殖能および運動性は確認されなかった。このことは,ゼリーの硬度と防腐剤による発育抑制のため,ボトル内で広範囲に細菌が増殖する可能性が低いのではないかと考えられた。そのため,ボトル先端にあったゼリーに付着した細菌は,数回の使用によりボトル外に排出されると推測された。

調査開始日の始業時のゼリーに細菌が検出されたことや破棄前後で細菌が増えていることは,詰め替え用ゼリー内に細菌が存在していた可能性は低く,検査に使用していないゼリーであってもゼリーやボトル先端の溝などに細菌が存在していた可能性が考えられた。未使用のゼリーに細菌が存在していた原因として,詰め替え時に手袋の着用なく,アルコールによる手指およびボトル消毒は行っていなかったことが挙げられる。そのため,詰め替え時に細菌が混入した可能性や,ボトルに細菌が存在した可能性が考えられた。これより,ゼリー詰め替え時には手袋の着用や手指およびボトルをアルコールで消毒することも細菌汚染のリスクを低減させられると考えられた。

ウォーマにおいて同種の細菌が終業時より翌日始業時に増殖していることは,長時間ウォーマを静置したことにより細菌が増殖した可能性が考えられた。また,終業時に細菌は検出さなかったが翌日始業時に検出されたことからは,終業時に検出感度以下であった細菌が長時間ウォーマを静置したことにより増殖した可能性や,ボトル先端の溝などに存在していた細菌がウォーマに排出された可能性が考えられた。平田ら4)の報告では薬剤感受性試験のディスク拡散法に準じ,標準菌株6菌種の菌液をBHI培地に塗布した後ゼリーを中央に置き培養後,発育阻止円の有無を確認したが,ゼリー周囲およびゼリー塗布下部まで全菌種の発育を認めたと報告されている。これよりゼリーに接しているだけでは細菌の発育を抑えることはできず,ボトルの最先端のゼリーと細菌が混和されていない部分で細菌が増殖する可能性が高い。したがって,検査終了時にボトル先端を消毒することも必要であると考えられた。

また,平田ら4)の報告で標準菌株6菌種の菌液をゼリーに接種混和し培養後,経時的に菌数を算出した結果に,接種後1日後に4菌種では発育を認めず,2菌種で発育は認めたが菌数は著しく減少しており,接種2日後には6菌種全てに発育を認めなかったと報告されている。これよりゼリー内に細菌が存在していた場合,ゼリーの成分により細菌の発育が抑制されると考えられた。終業時から翌日始業時で細菌が減少していた理由として,ゼリーの防腐剤による細菌の死滅が示唆された。他には,ウォーマの乾燥や終業時のゼリー採取時に,細菌が存在していたボトル先端部のゼリーが全て排出された可能性などがあった。

1日目の始業時にゼリーとウォーマで同一の細菌が検出されたことからは,ゼリーまたはウォーマのいずれか一方の細菌が他方を汚染した可能性も考えられた。しかしながら,わずか1例が1日のみであり,検出菌は常在菌であったことから断定はできない。

腹部・表在用超音波診断装置のゼリーとウォーマではヒトの皮膚や上気道に常在するCorynebacterium sp.や皮膚や口腔粘膜に常在するCNSが多く検出され,腸内常在菌であるEscherichia coliなどの腸内細菌は検出されなかった。心臓用超音波診断装置のゼリーとウォーマには生活環の中に存在するYeastが多く検出され,口腔内常在菌は検出されなかった。また,対象として静置していたボトルからも細菌が検出されており,いずれにおいても検体採取の際に環境中の細菌のコンタミネーションの可能性も否定できないと考えられた。

心臓用超音波診断装置のゼリーとウォーマは腹部・表在用超音波診断装置のゼリーとウォーマに対し細菌の検出数および検出頻度が低かった。使用しているゼリーの種類が異なるため,一概に比較はできないが,心臓超音波検査用のゼリーは,腹部・表在超音波検査用のゼリーと比較して硬めであることが細菌の運動性を阻害する理由の一つとして挙げられた。また,心臓超音波検査で使用している探触子はセクタプローブであり,腹部・表在超音波検査で主に使用しているコンベックスプローブやリニアプローブに対し,ボトル先端部がプローブに接触する面積が少ないことも要因と考えられた。

心臓用のベッドサイド専用超音波診断装置で使用しているゼリーとウォーマで細菌が検出されなかったことは,当院ではベッドサイド超音波検査終了後は患者毎に装置やボトルのアルコールによる徹底した拭き消毒を行っている影響も考えられた。腹部・表在用のベッドサイド専用超音波診断装置も検査毎に拭き消毒は行っているが,心臓用に比較して使用頻度が低く,装置を静置している時間が長かったことが細菌が検出された原因の一つであると考えられた。また,検査担当者はそれぞれの臓器別にある程度は固定されているが,検査とその後の拭き消毒も複数の担当者によって実施された。特に心エコー担当者が他の担当者と比較して意識が高いとは言い難いが,心臓超音波検査は集中治療室からの検査依頼が多いなど,クリティカルな患者対応が多いため,拭き消毒をより丁寧に実施する傾向があった。これより,検査毎かつ頻回に,丁寧にアルコールを用いた拭き消毒を行うことで細菌汚染のリスクを低減させられると考えられた。

今回検出された細菌はいずれも環境中の常在菌であり,病原性を有する細菌は検出されなかった。また,著明な細菌の増殖は確認されなかった。以上より,ゼリーの衛生的運用がなされていると考えられた。しかし,患者の皮膚に直接塗布するゼリーは,易感染患者の検査の実施では特に,より無菌状態に近い方が望ましいと考えられ,汚染の危険性のあるボトル先端部のゼリーを破棄してから検査を行うことが望ましい。また,ウォーマが汚染されていた場合は,ボトルをウォーマに長時間セットするとゼリーが汚染される可能性も否定できず,終業時にウォーマを清掃・消毒することも有用であると考えられた。

VI  結語

ゼリーおよびウォーマから細菌は検出されたが,いずれも環境中の常在菌が少数確認されたのみであった。衛生的使用により,ゼリー内における細菌の増殖は防止できると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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