医学検査
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技術論文
新たに開発された「ARCHITECT CA72-4」試薬の妥当性評価―Cancer Antigen 72-4測定試薬の化学発光免疫測定法と電気化学免疫測定法の比較―
度會 理佳菊地 良介横山 覚鈴木 敦夫金 貞姫高居 邦友安藤 善孝松下 正
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2021 年 70 巻 3 号 p. 504-510

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Abstract

Electro chemiluminescent immunoassay(ECLIA法)によるCancer Antigen 72-4(CA72-4)測定は,1ステップ法であり測定時間が短い長所があるが,プロゾーンやビオチンによる影響を受けやすい短所がある。最近,chemiluminescent immunoassay(CLIA法)によるARCHITECT CA72-4試薬(アーキ試薬)が開発され,今回その妥当性評価を行った。対照試薬としてECLIA法に基づくエクルーシス試薬CA72-4(コバス試薬)を用い,試料は検査後の残血清を使用した。評価項目として併行精度,希釈直線性試験,相関性試験,検体の安定性評価とビオチン干渉試験を行った。その結果,アーキ試薬の併行精度は管理試料,プール血清ともに変動係数5%以下と良好であった。アーキ試薬は300 U/mLまでの直線性を認め,コバス試薬とアーキ試薬の相関は回帰式がy = 1.08x − 1.65,相関係数は0.974と良好であった。検体の保存安定性は,冷蔵1週間,室温24時間,そして凍結融解3回のいずれの条件下でも測定値に影響を認めなかった。また,ビオチン干渉試験から,コバス試薬はビオチン濃度依存的に測定値が低下したが,アーキ試薬は明らかな影響を受けなかった。以上より,良好な直線性とビオチンの干渉を受けにくい点を含め,アーキ試薬の性能は良好であると考えられた。

Translated Abstract

The Cancer Antigen 72-4 (CA72-4) assay by electrochemiluminescence immunoassay (ECLIA) is a one-step method with only one bound/free separation. However, the method is susceptible to the prozone effect and biotin interference during the immunochemical reaction. Recently, the ARCHITECT CA72-4 reagent, which is based on the chemiluminescence immunoassay (CLIA), has been developed. In this study, we carried out a basic performance evaluation of the CA72-4 reagent by the CLIA method. We used the same residual serum after routine testing by the CA72-4 ECLIA assay has been performed. The CA72-4 value obtained using the ARCHITECT CA72-4 reagent showed linearity up to 300 U/mL. The within-run precision of the CLIA method was excellent for both control samples and pooled sera with a coefficient of variation of less than 5%. The correlation between the ECLIA and CLIA methods was good (regression equation: y = 1.08x − 1.65; correlation coefficient (r): 0.974). Sequential data for CA72-4 showed stability under any storage conditions, including seven days of refrigeration, 24 hours at room temperature, and freezing and thawing. With the CLIA method, biotin did not interfere with the CA72-4 measurements, whereas the ECLIA method decreased the CA72-4 value in a biotin-concentration-dependent manner. Our results indicated that the performance of the CLIA method for the CA72-4 assay was sufficient.

I  はじめに

Cancer Antigen 72-4(CA72-4)は,B72.3およびCC49の2種類のモノクローナル抗体により認識される糖鎖抗原で,母核糖鎖関連抗原に分類される1)。ムチン様高分子状に発現される糖蛋白であり,卵巣がん,乳がん,消化器がんで高値を示す2)。Carbohydrate antigen 125(CA125)が偽陰性を示しやすい粘液性嚢胞腺がんにおいて高い陽性率を示し,CA125が偽陽性を示しやすい良性卵巣腫瘍においては偽陽性率が低いことが知られている3)~5)。また,産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020では,良性腫瘍と考えられる卵巣嚢胞の鑑別診断と管理における腫瘍マーカー測定に関して,「CA125を基本として,CA19-9・CA72-4・HE4・carcinoembryonic antigen・sialyl Tn antigenの中から組み合わせを考える」6)との記載もあり,CA125とCA72-4を組み合わせての活用が主流となっている。

しかし,免疫学的検査は標準化がほとんど行われておらず,測定原理による測定値の乖離がしばしば問題となる。現在CA72-4の測定は,1ステップ法の電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescent immunoassay;ECLIA法)のみが使用されている。1ステップ法はBound/Free分離を1回しか行わないため,測定時間が2ステップ法と比べて短いという利点がある。しかしその一方で,抗原または抗体過剰によるとプロゾーン現象の発生や,ビオチンによる測定値への干渉が課題として指摘されている。2020年12月現在,他メーカーもしくは他の免疫測定法で上市されているCA72-4測定試薬はないが,新たに化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay;CLIA法)を原理としたARCHITECT CA72-4試薬が開発され,2020年9月10日に薬事承認された。今回我々は,その試薬性能について妥当性評価を行う機会を得たので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2017年8月から2018年8月までにCA72-4測定依頼のあった2,160件のうち,重複患者を除く272件の検査後残血清を使用した。なお,本研究は名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号:2010-1038)。

2. 測定機器と試薬

1) 測定機器

測定機器は,全自動化学発光免疫測定装置ARCHITECTアナライザーi2000SR(アボットジャパン合同会社,CLIA法)と全自動電気化学発光免疫測定装置cobas 8000(e602)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社,ECLIA法)を使用した。

2) 測定試薬

測定試薬は,ARCHITECT CA72-4(アボットジャパン合同会社,以下:アーキ試薬),エクルーシス試薬CA72-4(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社,以下:コバス試薬)を使用した(Table 1)。

Table 1  Performance specification and reagent composition of cancer antigen 72-4 reagents
ARCHI reagent cobas reagent
Reaction principle Chemiluminescence Immunoassay Electro Chemiluminescence Immunoassay
Run time (min) 29 18
1st Ab Anti-CA72-4 monoclonal mouse antibody (CC49) coated microparticles Biotinylated antiCA72-4 monoclonal antibody (CC49)
2nd Ab Acridinium-labeled anti-CA72-4 monoclonal mouse antibody (B72.3) Ruthenium labeled anti-CA72-4 monoclonal antibody (B72.3)
Measuring range (U/mL) 0.95–200.0 0.2–300.0
Cut off (U/mL) ≤ 11.97 ≤ 6.9

ARCHI reagent: ARCHITECT CA72-4 reagent; cobas reagent: Elecsys CA72-4.

3. 基礎的性能の評価方法

1) 併行精度

試料にはARCHITECT CA72-4コントロール3濃度,エクルーシスプレチコントロールTM 2濃度および患者プール血清を用い,それぞれを10回連続測定して 平均値,標準偏差(standard deviation; SD)および変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。

2) 希釈直線性試験

ARCHITECT CA72-4コントロールおよび患者検体4件をARCHITECT i共通希釈液にて10段階希釈し,アーキ試薬およびコバス試薬で測定した。

3) 検体の保存条件と安定性評価

4例の患者検体を用いて,室温で24時間,冷蔵(2~8℃)で1週間保管した後にCA72-4値を測定し,保管前後での測定値を比較した。凍結融解の影響は,室温・冷蔵保管した検体と同一検体を −80℃で凍結し1週間保管したのち,1時間かけて流水で検体を融解し測定に用いた。測定後検体を再度 −80℃にて凍結を行い,これを3回繰り返した。対照として保管前の測定値を100%とし,各保存条件下による測定値の変動を相対変化率として評価し,±5%以内を影響なしと判断した。

4) ビオチン干渉試験

プール血清にビオチン(ナカライテスク,製造番号:04822-91)をジメチルスルフォキシド(dimethyl sulfoxide; DMSO)で溶解し,終濃度0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,1.0,2.0,3.0 μg/dLになるよう添加し,アーキ試薬とコバス試薬にてCA72-4を測定した。比較対照として,プール血清にDMSOを同容量添加し,アーキ試薬とコバス試薬でCA72-4を測定した。

5) 相関性試験

患者検体272件に対し,アーキ試薬とコバス試薬を用いてCA72-4を測定した。相関性はSpearmanの順位相関係数にて評価し,さらに差分分析としてBland-Altman解析を行った。

4. 解析方法

各種解析には定量測定法のバリデーション算出用プログラムを用いた(一般社団法人臨床化学会)。

III  結果

1. 併行精度

アーキ試薬のCVは,ARCHITECT CA72-4コントロールで2.05~3.14%,エクルーシスプレチコントロールTMで3.19~3.40%,プール血清で2.13%であった(Table 2)。一方,コバス試薬のCVは,ARCHITECT CA72-4コントロールで0.66~1.25%,エクルーシスプレチコントロールTMで0.59~1.39%,プール血清で0.71%であった(Table 3)。

Table 2  Within-run precision of ARCHITECT CA72-4 reagent
ARCHITECT CA72-4 Control Elecsys Preci Control TM Pooled serum
Low Middle High Low High
Mean (U/mL) 7.14 34.8 211.3 5.55 50.8 11.3
SD 0.22 0.95 4.33 0.19 1.62 0.24
CV (%) 3.14 2.73 2.05 3.40 3.19 2.13

SD; standard deviation, CV; coefficient of variation.

Table 3  Within-run precision of Elecsys CA72-4 reagent
ARCHITECT CA72-4 Control Elecsys Preci Control TM Pooled serum
Low Middle High Low High
Mean (U/mL) 8.01 40.0 256.6 4.79 34.9 13.3
SD 0.05 0.50 3.16 0.07 0.21 0.09
CV (%) 0.66 1.25 1.23 1.39 0.59 0.71

SD; standard deviation, CV; coefficient of variation.

2. アーキ試薬とコバス試薬の希釈直線性

アーキ試薬では300 U/mLまで直線性がみられた(R2 = 0.999~1.000)(Figure 1A, C, E, G, I)。コバス試薬では,200 U/mLまで直線性がみられた(R2 = 1.000)(Figure 1D)。一方,Figure 1B, D, F, H, Jはコバス試薬の結果であり,コバス試薬では 200 U/mL以上の一部の検体でシグモイド様の傾向(Figure 1F),測定値の高値傾向が認められた(Figure 1H, J)。この傾向は検体共通希釈液(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)で希釈を行った時も認められた(data not shown)。

Figure 1 Dilution linearity of ARCHITECT CA72-4 control and patients’ sera

Dilution linearity of ARCHITECT CA72-4 control and patients’ sera using ARCHI reagent (A, C, E, G, I), and cobas reagent (B, D, F, H, J). ARCHI reagent: ARCHITECT CA72-4 reagent; cobas reagent: Elecsys CA72-4 reagent.

3. 検体保管条件によるアーキ試薬の測定値への影響

CA72-4測定値への影響は,いずれの条件下においても相対変化率5%以内であり測定値に影響は認められなかった(Figure 2A, B, C)。

Figure 2 Effects of storage conditions on CA72-4 measurements of ARCHITECT CA72-4 reagent

A: Effect of refrigeration for one week on CA72-4 measurements.

B: Effect of storage at room temperature for 24 hours on CA72-4 measurements.

C: Effect of freezing and thawing on CA72-4 measurements.

4. ビオチンによるCA72-4測定値への影響

アーキ試薬では3.0 μg/dLまで影響は認められなかった(Figure 3A)。コバス試薬ではビオチン添加濃度0.5 μg/dLで測定下限値0.2 U/mLとなった。(Figure 3B)。

Figure 3 Biotin interference with CA72-4 measurements

A: Biotin interference with ARCHI reagent.

B: Biotin interference with cobas reagent. ARCHI reagent: ARCHITECT reagent; cobas reagent: Elecsys CA72-4 reagent.

5. 相関性試験

コバス試薬(x)とアーキ試薬(y)との相関性は,回帰式がy = 1.08x − 1.65,相関係数(r)が0.974であった(Figure 4A)。Bland-Altman 解析から,コバス試薬と比して,アーキ試薬では100 U/mL以下では低値,100 U/mL以上では高値となる傾向が認められた(Figure 4B)。一方で,CA72-4濃度20 U/mL未満での相関性を評価した結果,回帰式:y = 0.93x − 0.68,r = 0.982であり,基準値付近では良好な結果であった(Figure 4C)。判定基準であるアーキ試薬基準値11.97 U/mL,コバス試薬基準値6.9 U/mLを用いて一致率を算出した結果,一致率は86.8%(236/272)となった。乖離した36例の内訳は,良性疾患7例,婦人科がん24例,消化器がん(胃体部がん)5例であった。良性疾患7例の内訳は,子宮内膜症性嚢胞1例,卵巣嚢胞2例,卵巣繊維種1例,子宮肉腫1例,卵巣嚢腫2例であった。婦人科がん24例の内訳は卵巣がん(明細胞腺がん)8例,子宮頸がん2例,卵巣がん(漿液性腺がん)8例,悪性卵巣腫瘍(胚細胞腫瘍)1例,卵巣がん(類内膜腺がん)3例,卵巣がん(組織型分類記載なし)2例であった。

Figure 4 Correlation and Bland-Altman analysis of Elecsys CA72-4 reagent and ARCHITECT CA72-4 reagent by patient samples

A: Correlation analysis of cobas reagent (X-axis) and ARCHI reagent (Y-axis) with patient samples (n = 272).

B: Difference of CA72-4 measurements between ARCHI reagent and cobas reagent by Bland-Altman analysis.

C: Correlation near the reference range of cobas reagent (X-axis) and ARCHI reagent (Y-axis) with patient samples (n = 234) in the range lower than 20 U/mL. ARCHI reagent: ARCHITECT CA72-4 reagent; cobas reagent: Elecsys CA72-4 reagent.

IV  考察

アーキ試薬の基礎的評価として併行精度,希釈直線性試験,検体の安定性試験,ビオチン干渉試験,従来法との相関性試験を実施した。併行精度の結果として,アーキ試薬のCVは5%以内であり良好な結果であった。希釈直線性試験の結果,アーキ試薬はCA72-4濃度300.0 U/mLまで原点を通る良好な直線性が確認でき,測定範囲上限である200.0 U/mLまで問題なく測定できる。

ビオチン添加試験の結果から,アーキ試薬はビオチンの影響を受けにくい試薬であることが示唆された。コバス試薬は抗体にビオチン化抗体を使用しているため,検体中のビオチンと競合し偽低値になる7)。2019年9月には厚生労働省から,測定系にビオチンを用いる体外診断用医薬品の添付文書の自主点検等についての案内が出された。測定系にビオチンを用いている場合,検体中のビオチンが測定系に影響を与える可能性があるかを確認し,与える場合は妨害物質・妨害薬剤の項にビオチンの記載があること,測定結果に影響を与えないことが確認されたビオチンの最大濃度が記載されていることを確認し,不十分な場合は添付文章の改訂および情報提供を行うことが各メーカーに指示された。ビオチンは美容や健康維持を助ける栄養素としてサプリメントが海外直送品として市販されている。コバス試薬で測定した際,測定値が前回値と著しく乖離する場合はビオチンサプリメント摂取の有無について確認する必要がある。

相関性試験の結果,コバス試薬と概ね良好な相関性が得られた。しかし,一部の検体で乖離が認められた。CA72-4測定値が高値になるにつれ,アーキ試薬とコバス試薬で測定値の乖離が認められた。直線性試験の結果から,コバス試薬では測定値が高値になるにつれシグモイド傾向を示すことが認められており,直線性が得られていない濃度域であったことが一因であると考えられた。一方,20 U/mL以下の検体においても,数例の乖離が認められており,その原因について詳細は検証できていないが,ビオチンサプリメント服用の有無など解析が必要であると考える。また,両試薬の判定基準による比較では,一部検体に判定不一致が認められた。これは,それぞれカットオフ値が異なることが一因であると考えられる。カットオフ値が異なる理由として,それを検討した個体群の違いが挙げられる。すなわち,コバス試薬のカットオフ値設定に用いた健常人群が,アーキ試薬のそれよりもCA72-4濃度が低値を示したことが原因であると推察される。

外来診療における化学療法が増加しつつある現在,我々は迅速かつ正確に測定値を臨床へ報告することが求められている。測定時間だけに着目すればアーキ試薬(29分)よりも,コバス試薬(18分)の方が測定時間は短く,迅速性の観点では優れている。しかし,前述したようにビオチンや希釈直線性などの問題点があり,特にビオチンが与える影響については最近になってようやく注意喚起がされるようになった。また,免疫学的検査の標準化は未だ大きな課題の一つであり,測定原理による測定値の乖離が多々問題となっている。実際に,我々はCA19-9の測定では,測定法間で測定値の乖離があることを報告した8)。今回,試薬間の相関性は良好であったが,測定法による測定値の乖離が生じる可能性を今一度念頭におき,自施設が使用している機器・試薬の特性を正しく理解しなければならない。特に,地域連携が求められている現状において,施設間で測定法が異なる場合は特に注意が必要である。

V  結語

CLIA法による「ARCHITECT CA72-4」試薬の性能は良好であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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