2024 年 73 巻 4 号 p. 814-821
Ignatzschineria indicaはハエの腸管に常在する細菌で,劣悪な環境に居住する患者の創傷部位から検出される。今回我々は,I. indicaによる菌血症2例を経験した。症例1(66歳,男性)と症例2(89歳,女性)は,共通点として,深刻な経済問題のため,それぞれ,車上生活と不衛生な生活環境という社会背景があった。2例とも下肢潰瘍を合併し(症例1;蛆+,症例2;蛆−),血液培養でI. indicaを検出した。症例1は16S rRNA遺伝子の塩基配列解析により同定し,症例2は,質量分析装置により同定した。2症例とも,抗菌薬感受性は良好であり,抗菌薬投与で改善が得られた。本菌による感染症の症例報告は世界的に少なく,特に我が国からの報告はなく,劣悪環境下の創傷部位感染で蛆を伴う場合は,I. indica感染症の可能性を考慮する必要がある。