2025 年 74 巻 J-STAGE-1 号 p. 45-50
検査(診断)法が疾患の診断にどの程度寄与するかを評価することを総称して判断分析といい,症例対照研究のような後ろ向き研究から得られたデータが解析対象となる。そして,その定量的な指標となるのが,感度,特異度,オッズ比などの統計量である。これらの統計量は,検査法が有する疾患群(判別群)と非疾患群(被判別群)の判別特性を評価するうえにおいて重要な指標となる。また,感度・特異度曲線はカットオフ値の候補点を与える。さらに,感度,特異度から得られるROC曲線の曲線下面積から,その検査法の判別能を定量的に評価,比較することができる。オッズ比は判別群と被判別群における注目するイベントが起こるオッズの比であり,オッズ比が大きいほど判別群に属する可能性が高いと判断することができる。一方,χ2検定は,観測度数と期待度数から統計検定量としてのχ2値を求め,対応する自由度のχ2分布との関係から,期待度数からの観測度数の偏りの有意性を検定する方法である。χ2検定は,χ2適合度検定と独立性の検定に大別される。前者は観測事象が生じる確率が既知の場合の検定法であり,後者は観測度数から期待度数を確率論的に設定する。
感度と特異度を検査診断学の分野に特化して定義するならば,感度とは検査(診断)法の有する疾患群を鑑別できる能力であり,特異度とは,非疾患群であると判別できる能力を意味する。そして,これらの統計量を求めることに加えて,検査法が疾患の診断にどの程度寄与するかを評価することを総称して判断分析という1)。判断分析は症例対照研究(case-control study)のような後ろ向き研究から得られたデータが解析対象となる。
例として,ある検査法Tで疾患群と非疾患群を鑑別したとき,Figure 1に示すような結果が得られたとする(a~dは症例数)。

a~dは症例数
注意すべきことは,「疾患群」はその確定診断法で診断・分類されていることで,理想的にはその疾患の有無以外は「非疾患群」と有意な差がないことが重要な条件となる。したがって「非疾患群」は必ずしも健常者のみで構成されている必要はない。しかし2群間で疾患の有無以外,すべての患者属性・要因をそろえることは現実的には不可能ではあるが,最低限,年齢分布と男女比に偏りがないことを確認しておく必要がある。
検査法Tは疾患群で陽性となることが期待できるのであれば,感度とは疾患群において検査Tが陽性と判定されたものの割合,あるいは陽性となる確率として定義される。
感度 =
一方,特異度とは非疾患群において陰性と判定されたものの割合,あるいは陰性となる確率である。
特異度 =
また,検査で陽性と判定されたものに対する疾患群の割合を陽性的中率,逆に検査で陰性と判定されたものに占める非疾患群の比率を陰性的中率という。
陽性的中率 =
陰性的中率 =
ここで図中cは疾患群に属するが検査では陰性と判定されているので偽陰性を意味し,bは非疾患群に属するが陽性と判定されているので偽陽性を示している。そこで,次式で定義される統計量を陽性尤度比(ゆうどひ)という。
陽性尤度比 =
分母は偽陽性を意味するので,陽性尤度比が大きいほど判別特性能に優れていると判断できる。一方,偽陰性と特異度の比を陰性尤度比という。
陰性尤度比 =
上式の分子は偽陰性であるので,陰性尤度比が小さいほど判別特性能に優れていると評価できる。「尤度比」とだけ記載されている場合は,陽性尤度比を指している。尤度比は,複数の検査法の判別特性を比較する場合に有用である。例えばTable 1に示す判別特性が得られた時,両尤度比はいずれも検査Bの方が良好であり,総合的に検査Bの方が判別特性に優れていると判断できる。
| 感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
|---|---|---|---|---|
| 検査A | 0.9 | 0.8 | 4.5 | 0.25 |
| 検査B | 0.85 | 0.9 | 8.5 | 0.11 |
しかし,必ずしも尤度比が良好な検査法を選択しなければならないというわけではなく,取りこぼしてはいけない疾患の鑑別が目的であるならば感度の良好な検査法を選択すべきであるし,逆に偽陽性が多いことが問題になるならば,特異度の良好な検査法を用いるなど,臨床的な立場から検査法を選択する必要がある。
以上まで述べた検査結果の「陽性」と「陰性」の境界となる値のことをカットオフ値(病態識別値)という2)。定性検査のように,例えば反応液が呈色すれば「陽性」と判定する検査法ならばカットオフ値を動かすことはできないが,結果が連続的な数値として得られる定量的な検査では,どのレベルをカットオフ値に設定するかが問題となる。そこで用いられるのが感度・特異度曲線である。これはFigure 2のように,各検査値レベルをカットオフ値としたときの感度と特異度を求め,横軸に検査値,縦軸に検査値レベルに対応した感度と特異度をプロットしたのものである(Figure 3)。感度曲線と特異度曲線の交点で感度と特異度が等しくなるため,このレベルがカットオフ値の第1候補となる。しかし,その検査結果から見逃してはならない疾患を対象としているならば,つまりできるだけ偽陰性を小さくする必要があるならば,カットオフ値を下げるべきであり,反対に特異度を上げる必要があるならば,すなわち,偽陽性を小さくする必要があるならば,カットオフ値を上げる必要がある。つまり,尤度比の解釈と同様に,その検査法の臨床的な立ち位置を考慮してカットオフ値を設定する必要がある。


両曲線の交点で感度と特異度が等しくなる。
ROCとは,receiver operating characteristicsの略で,受信者操作(動作)特性の意である。ROCは第2次世界大戦中,レーダーのノイズから敵機を検出するために米国で開発された理論である。
ROC曲線は,感度・特異度曲線と同様に各検査値レベルをカットオフ値としたときの「1 − 特異度」を横軸に,それに対応する「感度」を縦軸にプロットしたものである。Figure 4にFigure 2の例から得られるROC曲線を示す(データ数が少ないため折れ線で示しているが,プロット数が多くなると曲線で近似することができる)。

ROC曲線と対角線の交点に対応する測定値レベルで感度と 特異度が等しくなる。
ROC曲線と感度 = 1,1 − 特異度 = 1を結ぶ対角線との交点に対応する検査値レベルで感度=特異度となる(Figure 4)。したがって,ROC曲線からもカットオフ値の候補値を設定することができるが,先に述べた感度・特異度曲線を用いた方が簡便である。
ROC曲線はFigure 5Aに示すように,2群の観測値が完全に重なっている場合には対角線となるが,2群の判別が進むと左上の方向に膨らむ性質を持つ(Figure 5B)。このことより,ROC曲線の曲線下面積(area under the curve; AUC)は,その測定法の有する判別能の定量的な指標となる。「1 − 特異度」および「感度」の最高値は1であるので,全く判別できていないFigure 5AのAUCは0.5となる。一方,2群が完全に判別できている,すなわち,2群の観測値の分布に重なりがない場合のROC曲線は,縦軸と横軸に一致することからそのAUCは1.0となる。つまり,AUCは0.5~1.0の間の値をとり,その値が大きいほど,判別特性に優れていると判断することができる。また,AUCの標準誤差を求めることにより,次式よりAUCの95%信頼区間を推定することができる。

判別群と被判別群の分布の鑑別が進むと,ROC曲線は左上の方向にふくらみ,分布が完全に分離するとその曲線下面積は1となる。
AUC ± 1.96 × 標準誤差
注目する判別群および対照群に対して,複数の検査法,診断法でのROC曲線を作成し,そのAUCを比較する場合,95%信頼区間に重なりがないならば,5%水準で有意差を認めると判断できる。
オッズとは,注目するイベントの起こる確率と起こらない確率の比として定義される。例として,サイコロを投げて1の目がでる確率は1/6であるが,これをオッズで表すと,
と計算される。確率,オッズともに注目するイベントの起こりやすさの指標であるが,確率は0~1の間の値をとるのに対して,オッズは確率と確率の比であるので0~+∞の範囲で定義される。
Table 2に,ある検査法Aで疾患群(判別群)と非疾患群(対照群)を鑑別したときの結果を示す(表中の数値は症例数)。オッズをこの結果から考えると,判別群において検査Aが陽性を判定されるオッズは,
| 判別群 | 対照群 | |
|---|---|---|
| 陽性 | 95 | 10 |
| 陰性 | 5 | 90 |
一方,対照群で検査Aが陽性と判定されるオッズは,
と計算される。これら2つのオッズの比,
OR =
分子は判別群のオッズ,分母は対照群のオッズである。この例でのORは,検査Aで陽性と判定された被験者は,判別群(疾患群)に属している可能性が陰性と判定された場合より約171倍高いことを意味している。
以上までは,検査Aが陽性と判定されるオッズよりORを算出したが,これを逆に陰性と判定されることに注目してOR'を求めると,
OR' =
となり,これは先に求めたORの逆数となっている。
これをORの対称性という。
オッズ,ORに対して,判別群と対照群で検査が陽性と判定されるなどのイベントが起こる確率(発生率)の比を相対リスクという。先の例では,
判別群での陽性率:
対照群での陽性率:
より,
相対リスク =
と計算される。すなわち,判別群での陽性率が9.5倍高いことを示している。直観的には,ORよりも相対リスクのほうがその意味は理解しやすいが,ORは第10章で述べるロジスティック回帰係数から容易に算出でき,イベントの発生率が低ければ相対リスクと近似するなどの利点がある。また,相対リスクにはORの有する対称性はない。ただし,判別群や対照群の症例数を解析者が自由に設定できる症例対照研究で相対リスクを指標とすることには意味はない。相対リスクはコホート研究など前向きな研究データにおいて評価することに意味がある。
標準正規分布にしたがう母集団から,任意に取り出したn個の標本の2乗和は,自由度;df = nのカイ2乗(以下,χ2)分布に従う(Figure 6)3)。自由度が大きくなるにつれて理論曲線のピークは低くなり,右方向に移動するとともに正規分布に近づいていく。

自由度が大きくなるにつれてχ2分布は正規分布に近づく。
χ2検定は,観測度数と期待度数から検定量としてのχ2値を求め,対応する自由度のχ2分布からそのχ2値の有意性を検定する方法である。χ2検定は,χ2適合度検定とχ2独立性の検定に大別される。
サイコロを60回連続して投げ,でた目の回数を記録したときTable 3に示す結果が得られたとする。
| 1の目 | 2の目 | 3の目 | 4の目 | 5の目 | 6の目 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 観測度数 | 19 | 8 | 11 | 8 | 9 | 5 |
| 期待度数 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 |
正しいサイコロであれば各目がでる確率は1/6であるので,各目の期待度数は60 × 1/6 = 10と計算される。しかし,実際の試行では,1の目の観測度数は期待度数の約2倍,6の目は期待度数の1/2であり,正しいサイコロであってもこの程度の偏りが許容できるかが問題となる。このように,p個に分類された観測事象(上の例ではp = 6)に対してn回の試行を行ったとき,観測度数と期待度数が適合しているかどうかを検定する方法をχ2適合度検定という3)。次式で定義される統計量χ2値は,df = n − 1のχ2分布に従う。
統計量χ2値 =
観測度数と期待度数が完全に一致しているとき,分子は0となるのでχ2値 = 0である。逆に,両者の差が大きい場合は分子も大きくなるのでχ2値も大きく算出される。つまり,χ2値は期待度数からの観測度数の偏りの大きさを表しており,適合度が良好なほどχ2値は0に近づく。サイコロ投げの例からχ2値を計算すると,
χ2値 =
観測事象は6であるので,帰無仮説のうえでこのχ2値はdf = 5のχ2分布に従う。χ2分布表より,df = 5,有意水準5%でのχ2値;χ20.05は11.07であり,χ20.05 < χ2値(11.6)より,有意水準5%で目の出方に偏りがある(正しいサイコロではない)と判定できる。
χ2適合度検定に対してχ2独立性の検定では,Table 4に示したような観測度数と期待度数の偏りを検定することができる。これは,薬剤A,B,Cを同一疾患群60例に投与し,一定期間後の治療効果の有無を比較したものである。この場合,期待度数を算出するための母比率は不明であるので,観測度数から以下の手順で期待度数を算出する。
| 薬剤A | 薬剤B | 薬剤C | 総数 | |
|---|---|---|---|---|
| 治療効果(有) | 20(14.5) | 7(8) | 3(7.5) | 30 |
| 治療効果(無) | 9(14.5) | 9(8) | 12(7.5) | 30 |
| 総数 | 29 | 16 | 15 | 60 |
まず全60例から任意に選んだ1例が治療効果(有)である確率は,
(20 + 7 + 3) ÷ 60 = 0.5
したがって,薬剤A投与群29例で治療効果(有)と期待できる度数(期待度数)は,
29 × 0.5 = 14.5
同様に,薬剤B投与群16例で治療効果(有)と期待できる度数は,
16 × 0.5 = 8
Table 4の分割表で行と列それぞれの総度数を周辺度数という。この例は2 × 3 = 6要因で分類されているが,この場合,周辺度数が既知であれば任意の2か所の期待度数が決まれば残り4つの度数は自動的に決まる。例えば,薬剤A投与群での治療効果(無)の期待度数は,
29 − 14.5 = 14.5
と,算出される。
一般的にl × m分割表の場合,(l − 1) × (m − 1)箇所の度数がわかれば,残りの度数は自動的に決まる。実はこの(l − 1) × (m − 1)がその分割表から求められるχ2分布の自由度である。この場合の自由度とは,その統計量や分布を決定するために実質的に貢献しているデータ数と理解することができる。例の自由度は(2 − 1) × (3 − 1) = 2である。表中( )内に期待度数を示す。従って,χ2値は,
χ2値 =
と計算される。χ2分布表よりdf = 2,有意水準5%でのχ20.05は5.991であり,5.991 < 9.822であるので,薬剤により治療効果に差があると判定される。
ここで注意点として,5以下の期待度数が含まれる場合は,χ2値の有意確率が低く計算されるため,一般にデータ数が少ないときを含めてFisherの直接確率計算法で検定する必要がある4)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。