北ヨーロッパ研究
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論文
国民年金機構Kela (Kansaneläkelaitos) の歴史展開から見るフィンランドの社会政策
柴山 由理子
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 16 巻 p. 67-80

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抄録

国民年金機構Kelaは、1937年国民年金法の制定によって議会直属の機関として設立されたフィンランド社会政策の主要な担い手である。本稿では、フィンランド社会政策の特徴をKelaの歴史的発展経緯から考察する。同組織は設立当初から農民政党との結びつきが強く、政治的な組織であることが指摘できる。Kelaは農民政党の意向を反映しながら管轄業務を拡大し、一律給付方式の保障や現金給付の割合の高いサービスを実現してきた。一方、社会民主党の役割は限定的で、同党が志向した所得比例方式の保障は妥協の産物としてKelaによる社会保障の枠外に置かれた。フィンランド社会政策の対立軸は「農村」対「都市」であり、Kelaを中心とする政治的対立に注目することは同国の社会政策の特徴を捉える上で意義深い。本研究では、フィンランド社会政策研究に「Kelaの視点」を加える必要性を主張し、比較福祉国家論の「社会民主主義レジーム」に多様性がある可能性を示す。

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