2017 年 17 巻 1 号 p. 49-62
本研究の目的は,企業の社会的責任(CSR)と業績の関係を明確にすることで,企業経営におけるCSRの戦略的活用の効果を明示することである.近年日本企業もCSRに対する取り組みを強化しつつあるが,他社が行っているからという横並び意識で,明確な経営的意図がないまま取り組む企業もあり,景気変動による縮小や削減も行われている.しかし,CSRを企業経営ツールとして戦略的に活用すれば,中・長期的に見て業績向上に貢献するのではないか.そこで本稿では,東洋経済新報社が発行する「CSR企業総覧」2007年~2010年の4年分のデータを使用し,CSRと企業の財務パフォーマンス(ROA (Return on asset,総資産利益率),ROE (Return on equity,自己資本利益率))の関係性についてパネルデータ分析を行った.その結果,「年」のショックをコントロールしても,各分野のCSR項目のうち「人材活用」については,財務パフォーマンス(ROA, ROE)と正の関係に,「社会性」については,財務パフォーマンス(ROA)と正の関係にあるとの結果を得た.一方,「環境」「企業統治」の項目は,「年」のショックをコントロールすると,財務パフォーマンス(ROA, ROE)に対し,いずれも有意な結果は得られなかった.