日本看護科学会誌
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研究報告
小児科一般外来における看護師の働き
─ある地域密着型中規模病院におけるエスノグラフィー─
飯村 直子
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2014 年 34 巻 1 号 p. 46-55

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Abstract

本研究は,地域密着型中規模病院の小児科一般外来における看護師の働きを明らかにすることを目的に,エスノグラフィーの方法を用いて,首都圏のベッドタウンにある病院(約300床)の小児科一般外来で,参与観察,インタビューを行った.研究参加者は小児科外来の11名の女性看護師を中心に,子どもと家族,他の医療職者など,小児科外来に交流する人々であった.その結果,看護師の働きとして,(1)気になる親子を見つけて診察室へつなぐ,(2)診察室での気がかりを補足し,家族の背中を押す,(3)子どもを育てる家族の力を支える,(4)子どもと家族との間を調整する,(5)見過ごしてはいけない親子に関わり,つなぎとめる,の5つのテーマが明らかになった.さまざまな健康レベル,発達段階の子どもと家族がさまざまなニーズを抱えて来院する,混沌とした小児科外来における看護師の働きは,単なる「診療の補助」以上の意味があった.先の展開を読むことが難しい緊張した場で,看護師は常に「アンテナを張って」気になる子どもと家族を見つけ,援助の機会はこの場限りかもしれないことをふまえて,そのとき,その対象に合った個別のアプローチに素早くつなげようとしていた.

Ⅰ.はじめに

医療技術の進歩により,先天性の疾患や慢性疾患に罹患した多くの子ども達の生命が救われるようになり,日常的に治療やケアをしながら地域で生活する子ども達が増加している(二宮,勝田,武田,2004).こうした子ども達は,特殊外来や専門外来で定期的な支援を受けており,継続ケアの場として外来看護の重要性が強調されるようになってきた(小島,上中,2003及川,2003).しかし,外来の看護の役割は継続看護だけではない.近年,核家族化,少子化が進行し,育児や家庭看護の知識や経験が乏しく,孤立している親が増えており,外来での看護指導や育児支援が重要になってきている.

一般に地域に密着した小・中規模病院の外来やクリニックは,成長発達途上の子どもが日常的な疾患にかかったときに関わり,いわゆるホームドクター的な役割を果たしている.中でも,子どもが入院できる病床を持つ中規模病院では,急性期の重症患児を近隣のクリニックから紹介されたり,大病院や専門病院から慢性疾患を抱える子どもの日常的な健康管理と生活支援を託されたりすることがある.逆に専門的で,より高度な治療を必要としている子どもを大病院や専門病院に紹介することもある.このような中規模病院の小児科一般外来で展開される看護は,成人の外来看護とも子どもの病棟看護とも違う特徴があると思われる.しかし,これまでにそのような小児科一般外来で,看護師が限られた時間の関わりの中で実際に子どもと家族に対し,どのような看護を展開しているのかについて明らかにした研究はあまり見られなかった.

本研究では,地域密着型中規模病院の小児科一般外来において看護師がどのような働きをしているのかを明らかにすることを研究目的とした.具体的には,看護師が子どもと家族をどのように捉え,判断し,看護を行っているのか,どのように関わっているのかを記述する.

Ⅱ.用語の定義

この研究では次のように用語を定義する.

地域:子どもと家族が生活を営む地理的な範囲とその社会.

地域密着型中規模病院:その周辺に住む人々の日常生活圏内にあり,住民のプライマリーケアに関わり,その健康を守ることを主な目的として診療をしている,病床数100~300床程度の病院.

Ⅲ.研究方法

本研究では,地域密着型中規模病院の小児科外来における看護師の働きを明らかにするために,研究者自身が実際に地域密着型中規模病院の小児科外来に赴き,そこで展開される診療や看護の現場の出来事を見,聞き,肌で感じたことを詳細に記録し,また小児科外来という独特の文化を持つ社会を描き出すエスノグラフィーを研究方法として採用した.エスノグラフィーは,研究者がフィールドワークという手法を用い,人々の暮らしの全体像を伝えるために書いたもの(箕浦,1999),およびそのような研究方法やアプローチを指す(佐藤,2006).その特徴は,調査者が調査対象とする人々の生活する現場に密着し,行動と体験をともにする中で,人々の社会と文化をそこに生活する内部者(emic)としての目で観察し,また一方では外部者(etic)として見たものを理解し,分析し,記述することである(Emerson et al., 1995/1998).

1. 研究施設および研究参加者

研究施設は東京近郊のベッドタウンにある,総病床数約300床,22診療科を有する一般病院の外来部門の小児科外来であった.主要な研究参加者は,小児科外来の30歳代前半から60歳代の11名の女性看護師であった.また,子どもと家族,他の医療職者など,小児科外来に交流するさまざまな人々から情報を収集した.データ収集期間は2005年10月~2007年3月であった.

2. データ収集方法

1) 参与観察

看護師の子どもと家族への関わりを中心に,外来の様子,起こっている出来事およびそこに関わるすべての人の言動,表情,行動について観察し,参加者の目に触れない場所で速やかにメモした.

2) インタビュー

参与観察中に疑問に思ったことなどについて,小児科外来の現場で当事者達にインフォーマルなインタビューを行った.また,予め参加を依頼し,承諾を得られた看護師に,小児科外来における子どもと家族への看護についてフォーマルインタビューを実施した.看護師が普段から意図していること,病棟の看護や成人の看護との違い,困難を感じることなどについて自由に語ってもらい,承諾を得て録音をした.

3) 印刷資料および記録類

小児科外来で配布している「診療のお知らせ」などの印刷物,家庭での看護方法の指導などに用いる冊子類,待合室に掲出されているポスターなど,広報,指導用の資料を,許可を得て収集し,データ分析の参考とした.

3. データ分析方法

データの収集と分析は平行して進め,分析の手続きは以下のとおりであった.

1) メモした観察内容をフィールドノーツに整理し,フォーマルインタビューは音声記録から逐語録を作成した.その際,参加者のしぐさや声の抑揚,表情の変化など,インタビュー時に気づいたことや気になったことも書き込んだ.

2) フィールドノーツと逐語録を繰り返し熟読し,全体的な印象を把握した.

3) 研究目的に沿って重要と思われる部分に注目して,特徴的な語りや場面を抽出した.同時に,読み返しながら気づいたことや解釈を加えていった.エスノグラフィーでは,場における文化的関係や社会的関係についてのパターンを扱っており,その解釈は文化的な文脈の中でその構成員にとってその活動やできごとがどのような意味を持っているのかを明らかにすることである(Holloway & Wheeler, 2002/2006).したがって,分析者の外部者(etic)の視点を大切にしながらも,研究参加者である当事者の内部者(emic)の視点を尊重して,その活動や出来事の意味に注目して解釈した.

4) 語りや場面ごとに小児科一般外来における看護師の働きの意味を考えながらテーマを見出した.

5) さらにフィールドノーツに立ち返り,研究目的を意識しながら,テーマごとの関連性や意味を明確にしていった.

6) 最後にもう一度,全体の構成を検討し,テーマを貫いて見て取れる看護師の働き,つまり,看護の技の意味や専門性,実践上の困難などについて探った.

データの解釈や分析については小児看護の研究者によるスーパーヴィジョンを受け,さらに小児看護の専門家グループからもアドバイスを受けながら進めた.また,必要に応じて,データの解釈について研究参加者に確認した.

4. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字看護大学の研究倫理審査委員会および研究施設の管理会議の承認を得て実施した.小児科外来の看護師および他の医療職者には,個別に研究の趣旨,参加観察およびインタビューの方法,研究参加は自由意思であり途中辞退が可能であること,プライバシーを守り匿名性を厳守すること,研究論文として発表することなどを書面および口頭で説明し同意を得た.子どもと家族に対しては,研究についての説明を書いたポスターを研究期間中,外来の待合室に掲示し,必要に応じて個別に承諾を得た.なお,フィールドの看護師など医療職者は容易に個人が特定される可能性があるので,経験年数等の記述は控え,必要に応じてベテラン,中堅,若手などの大まかな記述に留めた.

Ⅳ.結果

本研究では,地域密着型中規模病院の小児科外来において,その地域で生活しているさまざまな健康レベル,生活環境にある子どもと家族が持ち込んでくる問題に次々と対処していく看護師の働きに焦点を当てた.地域の最前線に位置して,子どもと家族のさまざまなニーズに応える看護師の働きが一番よく現れている一般外来の場面を中心に結果を述べる.

まず,小児科外来とはどのような場であるのか,その世界について,次に,小児科外来において子どもと家族に関わる看護師の働きについて述べる.

1. 小児科外来という世界

小児科一般外来の待合室には,乳児から中学生,高校生,時にはキャリーオーバーの患者までさまざまな発達段階の子どもが家族に付き添われて診察を待っていた.その健康レベルもまたさまざまであったが,急性の呼吸器疾患や消化器疾患の子どもが比較的多く見られた.季節によって特徴的な疾患もあるが,その日の受診者数や患者の状況,また診療の展開を予測することは難しかった.こうした状況は,少子化の影響で近隣の病院が小児科の診療を次々と取りやめているという昨今の小児科医療の変化とも関連していた.小児科一般外来の診療には,看護師による問診,医師による診察,場合によって検査や処置,そして最後に会計という一連の流れがあったが,看護師は体調の悪い子どもと家族を長く待たせないために,常に診療がスムーズに進行するよう配慮をしていた.

2. 子どもと家族に関わる看護師の働き

小児科外来で子どもと家族に関わる看護師の働きを表す5つのテーマについて,具体的な場面を示して記述する.

1) 気になる親子を見つけて診察室へつなぐ

看護師が一番はじめに子どもと家族に関わる問診係の役割について,ベテランのA看護師は次のように語っていた(語りの部分は斜字体で示す).

以前に問診する人は必要ないじゃないかという話も出てたんですけど,あそこでアンテナを張って,もしなんかお母さんがこうつらそうにしてるとか,お子さんが泣いてるのに,(腕組みをして,そっぽを向いて)こーんなふうに知らん顔しているとか,そういうことは(診察室や処置室の)中にいるとわかりませんので,そういうことをキャッチできる場にしようって….

問診の際に看護師はひとり一人の子どもと家族の状況を把握するだけでなく,待合室全体を見渡して,何か異常なことはないか,緊急に判断しなければならないことはないかと常に「アンテナを張って」優先順位を判断していた.

吐いて,ぐったりしてるときは問診係のところの引き出しにクリップが入ってるんですよ.それを挟んで「この人吐いててぐったりしてるから早めにするね」って一番前にカルテを置くんです.(B看護師)

その際に,子どもだけを見るのではなく,連れてくる母親の様子も重要な判断材料であった.

問診で聞くことは,「いつからお熱が出てますか」,とか「お咳はどうですか…」とか,ほんとうに普通のことを聞くだけですけど….子どもの顔色,様子,それからお母さんの顔つきを見ますね.1, 2, 3歳くらいの子の親で,きいても「さあー」みたいにあんまり答えられない人は心配ですね.逆に,ずらーっといっぱい(メモを)書いて持って来てる人も,どっちも心配…,中(診察室)の人に「気を付けて見て!」と言うようにしています.(A看護師)

問診係の看護師は,まず,子どもの症状を見て,緊急性を判断し,家族の言葉を頼りに家庭での子どもの様子を知ろうとしていた.母親の顔つきや質問したときの状況から,「気を付けて見る」必要があるかどうかを判断し,診察室係の看護師に申し送りをしていた.しかし,短い時間で判断をすることは難しかった.専門外来のように定期的に通ってくる子どもについても,「毎月通ってくるのでおなじみさんになると,きょうは調子がいいとかは何となくわかるようになるけど,病棟の人たちみたいにじっくり関わることがないから,…そんなに細かいことまでは把握できてないことも多いですね」とわかることと把握できないことを見極めていた.

そのほかに「気を付けて見る」必要を感じるのは,「お子さんが泣いてるのに,(腕組みをして,そっぽを向いて)こーんなふうに知らん顔している」と描写したような,子どもと家族の様子に何かちぐはぐな印象を受けたときであった.

若手のC看護師は8ヶ月の男の子a君が発熱してぐったりしているにもかかわらず,全然危機感がなく遊びに連れて行く相談をしていた両親の様子に違和感を覚えた.看護師は最優先の印であるクリップを付けたカルテを最も信頼できるZ医師の診察室のカルテ置き場の先頭に入れるとともに,診察係の看護師に「気を付けて見て」と,申し送りをしていた.

2) 診察室での気がかりを補足し,家族の背中を押す

小児科一般外来では,多くの場合,診察後処方された薬をもらって,帰宅するのだが,ここで家族が子どもの状況を十分理解し,与薬や安静の方法など,必要な看護知識と技術を理解し,家庭に帰ってから実行できるかということが鍵となる.看護師は家族のこうした力量を判断し,診察の際の医師の説明を補足し,必要な知識や技術について伝えたり,関わったりしていた.

診察室担当のA看護師は,医師と話をしている母親と10ヶ月の男の子b君を診察室の後ろの通路に立ってじっと観察していた.見逃してはいけないとばかりに目線を親子に向けたまま,右手をそばにある棚に伸ばし,手探りで,さまざまな冊子の中から「おくすり相談室」と「喘息教室のご案内」を手に取った.診察後,処置室で吸入をしている親子に声を掛け,冊子を用いて説明した.

なんか診察の時に気になったのね.どこかピントがずれているというか,「あっ,先生の話があんまりわかってないな」と感じたので….

診察室の看護師は3つある診察室を通常1人で担当している.実施していることは処置室で使う診療器具の準備,環境の整備など,いわゆる診療の介助である.しかし,それらを行いながら看護師は診察室での子どもと家族の状態を観察し,独自の看護に展開していくこともしばしば見られた.

家庭のアイロンで下腿部に熱傷を負ったという2歳の男の子c君の診察を終えた医師が母親に向かって突然,「それよりお母さん,この子しゃべる? ことばはどう?」と語りかける場面があった.母親は急に緊張した表情になり,「やっぱり遅いですよねー」とc君の言葉の発達が遅いことを意識している発言をしていた.このあたりまで会話が進んできたときに,すでに若手のD看護師は診察室の後ろの棚にあるこの地域の健康相談サービスの冊子を探し始めていた.

医師に地域の「ことばの相談室」へ行くことを勧められて診察室を出た親子を追って,看護師は地域の冊子のコピーを持って待合室まで行き,子どもを抱いてすわっている母親のそばにしゃがんで低い声で説明し始めた.

(説明の内容は)書いてあることをそのまま説明しただけ.あとは予約制になっているので,「必ず行く前に電話で予約を取って」と言いました.お母さんも突然言われたからショックだったと思うので,できるだけ丁寧に話しました.でも,お母さんはしっかりしていて,「行ってみます」と言ってましたよ.

D看護師は「書いてあることをそのまま説明しただけ」と言っていたが,熱傷で受診したはずが,思いがけずことばの遅れを指摘され,動揺していると思われる母親の気持ちを察し,「できるだけ丁寧に」という関わりをしていた.ほとんど急性期の子どもの受診が多く,「はい,次.はい,次」というように一定のテンポで流れていく一般外来診療の中で,看護師は突然子どものことばの遅れを指摘された母親を気遣って,半ば無意識にテンポをゆるめて関わっていた.また,看護師は母親の態度が「しっかり」していたこと,「行ってみます」と前向きな発言があったことも確認していた.

以上のように,家族には家庭で子どもを育て,病気になったときには子どもの看護をするなどの力量が求められており,このような家族に医師の説明を補足し,必要なことを伝えるという関わりを看護師はしていた.

3) 子どもを育てる家族の力を支える

小児科外来を訪れる最近の親達には,子どもを育てたり,病気の時に看護をしたりする力がだんだんと弱くなってきていると感じると看護師は話していた.

朝のミーティングで,夜中に子どもが「泣きやまない」「熱が38度あるから」という理由だけで,親が「どうしていいかわからない」と救急車を呼んで救急外来に子どもを連れて来たという報告がされることがあった.実際に昼間の一般外来に来る親達にも似たような傾向が見られていた.ベテランのB看護師は診察に来る最近の母親の状況を次のように語っていた.

なんか,看護師になりたての頃と今と違うような気がしますね.昔はお母さん達がきちんと家でいろんなことをしたうえで,こう病院に来てた気がするけど.熱もきちんと測ってあったとか…今のお母さんはやってないですもんね.

また,同じくベテランのA看護師は次のように語っていた.

(子どもが発熱すると)お母さん達はもう待てない.で,(医療者に)ゆだねる.「これはこういう風にしたらいいよ」って(医療者に)言われたらもう安心して帰る.ただ自分ではなかなかこの子に「こうしてあげたらどうかしら」ってトライするということはあまりしない.…だから,私たちは「こうしたらいいよ,ああしたらいいよ」とか,それをお母さんに根付かせるようにするためにはどうしたらいいかなっていつも考えてるんですよ.

親が子どもを受診させる前に,自分で判断してとりあえず家庭でできることを実施せず,すぐに安易に医療者を頼ってしまうことをA看護師も,B看護師も最近の母親達の傾向と捉え,言われたことだけをするのではなく,自ら判断したり,今までの経験の中から知恵を絞って家庭で工夫をしたりしてほしい,子どもを育てる力を付けてほしいと考え,関わっていた.

4) 子どもと家族との間を調整する

検査や処置の際に,看護師は子どもと家族に説明し,また,両者の間を調整する働きをしていた.

小児科外来の処置室は,外来で最も手間と人手がかかり,場合によっては大騒ぎになる場であるが,ここでは検査や処置の際に子どもに説明をしてから実施すること,また希望があれば家族が立ち会うことを導入していた.そのきっかけとその後の変化について,A看護師は次のように話した.

前に外来にEさんという看護師がいましてね,その人がはじめに外の研修会に行って,プリパレーションのことを勉強してきて,私達に教えてくれたんですね.「子どもは話をすればわかる」って.そこから,また,みんなで勉強しましてね.…それで,やっぱり子ども達の反応は変わりましたよね.

プリパレーションについて外部で研修を受けてきたE看護師から子どもへの説明が必要であることを学び,実際に試してみてその効果を実感していた.

ある日,採血が始まる前から泣いている4歳のdちゃんに向かって,母親が,「大丈夫,痛くない,痛くない,痛くないから」と言いながら無理矢理処置用のベッドに押し上げようとしていた.

D看護師:(採血の準備をしていたが振り返って母親に向かって穏やかな口調で)お母さん,ちょっと待って.採血は針を使ってするのでやっぱり痛いと思いますよ.私たちもなるべく痛くないように努力するけれど,やっぱり痛いと思うの.だから「痛くない」って言うとdちゃんに嘘つくことになるから….そうするとね,今度また病院につれてくるときにいやがったりするようになるし,これからお母さんの言うことを信用しなくなると大変だから…ね.

母親:あっー,そうですねー.

D:(dちゃんに向かって)今からちっくんするから少し痛いけど,がんばって看護師さんとお母さんと一緒にばいきんマンやっつけようね.

D看護師は痛い処置を「痛くない」と言って実施することは,子どもに嘘をつくことになり,そのことが次の受診や処置の際に子どもがいやがることにつながると言っていた.看護師は目の前の処置を成功させればよいとだけ考えるのではなく,子どもの過去の処置の経験が今につながり,今の処置の経験が将来につながると考えていた.さらに母親が痛い処置を「痛くない」といって,とりあえず子どもを処置に向かわせようとする行為が将来的に親子の関係性にも影響があるかもしれないと捉え,母親にそのことを伝えていた.

5) 見過ごしてはいけない親子に関わり,つなぎとめる

外来で家族と関わることの難しさについて,看護師は次のように語っている.

難しいのは,やっぱりその場で過ぎていってしまうから,その後のフォローがね,なかなか難しいですね.…見過ごしてもいけないし,トラブル起こして変な方向に行ってもいけないし….(B看護師)

外来で決して見過ごしてはいけないものとして,虐待などの兆候があった.

そういうのを疑われる場合には,身長,体重は親はけっこう気にするんで,「裸になって,身長と体重,計ろう」って言って,保健指導室に連れて行ってそのときに(身体を)見るんですよね.…でも,そういう家族に何か聞いたり,言ったりするのは,どきどきしますね.…「あそこ行くといろいろ聞かれる」とか,トラブル起こしたらもう次来ないですよね.(B看護師)

虐待を疑われる家族には,看護師はいろいろと観察したり,質問したり,関わりを持ったりしたいと思うのだが,そのことで親が反発したり,警戒したり,干渉を嫌ったりして,いわゆる「トラブル」になってしまうと,外来に二度と来なくなってしまう恐れがあり,対応が難しいことをB看護師は言っている.子どもが外来に来なくなることは,家族と病院との関係性が切れてしまい,親がどこにも助けを求めることができず,家庭の中で子どもへの虐待がエスカレートして子どもが危険にさらされる可能性が高まることを意味している.そのため,看護師は「見過ごしてもいけないし,トラブルを起こしてもいけない」というジレンマの中で,子どものために,家族のためになんとか病院との関係をつなぎ留めておきたいと常に緊張感を持って関わっていた.

半年ほど前に児童相談所が「重症脱水」で強制的に入院させた1歳の男の子e君と家族が外来にやってきた.入院当初は「ネグレクト疑い」ということで大幅な発達の遅れも認められたが,症状が改善し,「保育園に通わせる」ということを条件に児童相談所が退院に同意し,引き続きe君は外来に通院することとなった.この日,B看護師は母親にe君の家庭での様子を聞きながら,聴診をするふりをして,さりげなくe君の身体に触り,身体に傷などはないかを確認していた.

その家族についてB看護師は,「お父さんもお母さんもがんばりたい気持ちはあるんだけど,どうしていいかわからなくなるときがあるみたいね」と言っていた.家族は自らの意志で病院に何かを期待してやって来ており,その機会を捉えて,看護師は,家族が次の外来まで自分たちで努力して子どもを育て,元気で生活できるように,医師など他の専門職と協力して支援していた.

Ⅴ.考察

地域密着型中規模病院の小児科一般外来における看護師の働きについて,5つのテーマが明らかになった.小児科外来看護師は,「アンテナを張って」気になる親子を見つけ,他の医療職者と協力して,声をかけて助言をし,労わり,また必要な検査や処置を実施していた.そこには,地域密着型中規模病院の小児科一般外来に特徴的な子どもと家族の姿と,そこに関わる看護師の細々とした気遣いがあり,援助の技があった.考察では5つのテーマを貫くこうした看護師の働きを,①気になる親子を見つけるために看護師が「アンテナを張る」ことの意味,②「診療の補助」と言われる看護行為の中にある看護の専門性,③外来で子どもの家族と関わることの難しさ,という3つの視点から検討する.

1. 「アンテナを張る」小児科外来看護師

毎日数十組もの子どもと家族が次々と訪れる地域密着型中規模病院の小児科一般外来の看護について,A看護師は問診の場で待合室全体を見渡し,何か異常なことはないか,緊急に判断しなければならないことはないかと「アンテナを張って」いると言っていた.それにはさまざまな理由と意味があると考えられる.

1) 対象の多様性と予測の不確実性

小児科一般外来に訪れる子どもは,発達段階も幅広く多様であったが,健康レベルもまた多様であった.ほとんどは日常的な疾患であり,医師の診察を受け,処方された薬を薬局でもらって帰る軽症の子どもであったが,その中に決して見過ごしてはいけない重症の子どもが混じっていることもあり,看護師には次々に訪れる子どもをよく観察して,重症の子どもを見分けることが求められていた.問診の際に,吐いてぐったりしている子どもに気づき,診療を早める必要があると判断したB看護師が,即座にカルテに最優先の印であるクリップを挟んで診察室のカルテ置き場の先頭に並べたように,看護師は常に子どもの状態を見て判断したことを診療につなげていた.

また,実際どのような子どもと家族がその日外来にやって来るのか,どのようなことが起こるのかを予測することが難しいため,看護師はいつも緊張して「アンテナを張って」いた.病棟でも患者の病状の変化や入退院はあるが,外来では子どもの数の多さに加え,付き添ってくる家族もおり,その多様性によって引き起こされる出来事の種類も数限りなく,その予測は非常に難しかった.

2) 「一期一会」の関わり

小児科一般外来の関わりは,基本的に現在だけの一回限りの関わり,いわば「一期一会」の関わりであると言えよう.

渡辺(2002)は,看護師の感覚から始まる臨床判断の起点を明らかにする研究の中で,看護師が患者の様子を最初に「何か変」と感じた起点を分析し,今までの患者と目の前の患者の状態とがつながらないと感じる「今までとは違うという感覚」を挙げている(p. 367).また,西田,江本,筒井他(2007)は,小児病棟の看護師が子どもや家族の様子を普段と比べて「違う」「何か気になる」と捉え,看護実践のきっかけになった理由を質的に明らかにしていた.

このように,看護師は患者や家族を時間の流れの中で捉え,過去の状況と照らし合わせて,現在の状況を判断している.しかし,外来では子どもと家族の様子を時間の流れの中で判断できない場合もあった.定期的に健診を受けていたり,慢性疾患で専門外来を毎月受診したり,病弱で一般外来受診を繰り返している場合は,看護師は過去の情報を持っており,受診ごとの関わりをできる限りつなげて見ていた.一方,初診の子どもの場合は,普段の情報はなく,過去と現在を照らし合わせて状況を判断することはできなかった.このため,看護師は常に「アンテナを張って」子どもと家族の状態を把握し,判断していた.

また,B看護師が,「その場で過ぎていってしまうから,その後のフォローが難しい」と言っていたように,その日の子どもと家族への関わりの結果を後で確認したり,補足したりすることもできなかった.外来で伝えたことを家族が実行できているか家庭まで追いかけていって確認することは現実的にはほとんど不可能であったし,また,必ずもう一度外来に来るという保障もなかった.地域密着型中規模病院の小児科一般外来の看護は,過去も未来もあてにはできない,基本的にそのとき,その場での関わりがすべてであった.

2. 「診療の補助」という看護の専門性

過去と照らし合わせることができない外来で,看護師はまず問診の際の様子から判断して「気になる」子どもと家族を選び出していた.家庭での様子を尋ねてもほとんど何も答えることができない場合には,親の子どもに対する関心の低さ,子どもを見て判断する力や養育力の不足などを懸念し,逆に極端に細かく書いたメモを持参してくる場合には,親の不安を心配していたと考えられる.さらに両者の表情,態度や行動にずれが感じられる場合には,そこに親子関係の問題が潜んでいるのではないかと考えていた.ときには,漠然と通常とは何か違うと違和感を覚え,さらに観察を続けることもあった.また,医師との会話の内容や態度などから,家族が説明を理解しているかを素早く判断し,待合室に戻る際に声をかけ,説明を補足し,帰宅後の看護の要点を伝えていた.

「保健師助産師看護師法」によれば,看護師は「療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする」とされている(看護行政研究会,2007, p. 3).病棟のように療養する患者を看護するわけではない外来の看護師は,主に「診療の補助」を役割とし,看護としての独自の働きが見られないと軽く考えられてきた(野中,2006).しかし,そこには単なる「診療の補助」以上の意味があると思われる.

4歳の女の子の処置の際に,「大丈夫,痛くない」と言って無理矢理子どもを処置用のベッドに押し上げようとする母親に対して,看護師は「採血は…やっぱり痛い…『痛くない』って言うと嘘つくことになるから」と声をかける場面があった.

岡本(1999)は,小手術を受ける幼児後期の子どもは,手術前に説明されていないことや説明と異なることが術後に起こると,怒りを感じたり,混乱したりしていたと報告している.処置について説明せず,事実と異なることを伝えることは,たとえ子どもにとって「良かれ」と思う親心から出た言動であっても,幼児後期の子どもが処置に取り組むことへの助けにはならない.看護師が採血の前にとった行動は,子どもの発達段階を捉えたものであったと考えられる.そればかりでなく子どもの次の受診や処置の機会,母親との関係性にも看護師は言及しており,子どもを日々成長発達する存在として捉え,そのような視点を母親にも示していたと言える.小児科外来での関わりは,短時間の「点」であったが,看護師達は常に成長発達する子どもの未来を見据えながら,子どもと家族の間を調整していた.

熱傷で受診した2歳の男の子の母親に,医師から突然「ことばの遅れ」を指摘された場面があった.診察後に看護師は,待合室で地域の専門機関への受診の方法などを母親に「ゆっくりと」したテンポで「丁寧に」説明していた.

外来で専門機関の紹介をしても,実際にそこに足を運ぶのは子どもと家族であり,次の一歩を踏み出せるかどうかは子どもと家族にとって大きなハードルであろう.一斉に一定のテンポで慌ただしく流れていく印象がある一般外来の中で,看護師があえて「ゆっくりと」したテンポで語りかけ,「丁寧に」説明したという行為は,母親の気持ちを気遣い,次の一歩を踏み出せるように後押しする個別の関わりであり,看護としての独自の働きであったと考えられる.

3. 小児科外来で家族と関わる難しさ

小児科外来での看護師の働きを難しくしている一因として,家族との関わりがあった.看護師は小児科外来での看護について,「見過ごしてはいけない」ということと並べて「トラブルになって変な方向に行ってもいけない」と言っていた.その背景には,子どもを育てるという初めての体験の中で起こってくるさまざまな困難への対処方法がわからないという親達の大きな不安が根底にあった.つまり,地域での人間関係が希薄化している現代社会の中で,若い親達の多くは,子どもが病気になったときの判断や対処の仕方,受診のタイミングや育児上のトラブルについて相談できる人が周りにおらず,孤立している(千葉,堀切,2007).

こうした家族は子どもの反応を読み取れず,虐待をしかねない家族でもあると考えられる.ネグレクト疑いで入院し,退院後定期的に外来で発達チェックを受けていた子どもの両親について,「がんばりたい気持ちはあるんだけど,どうしていいかわからなくなるときがあるみたいね」と看護師が言っていたように,家族は強がっている態度とは裏腹に助けを求めているのである.

しかし,多くの場合,このような援助を求めている家族に対して小児科外来で積極的に関わっていくことは非常に難しく,看護師は常に緊張していた.それは,治療を受ける者として,ある一定の期間,病院の中に身を置き,病院や病棟の規則というものに従うことが要求される入院患者や家族とは異なり,外来は患者が自らの意志で受診するかどうかを決定して来る場所であり,特に小児科の場合は親が子どもを受診させるかどうかを決定する主導権を握っているからであった.立ち入りすぎて家族が怒って「トラブル」になって外来に来なくなるということは,親が二度と助けを求めにやって来ることができなくなる恐れがあることを意味していた.「子どもの権利条約」の第3条(日本ユニセフ協会,2012)には,成長発達の途上にある子どもに対して,周囲の大人が「子どもの最善の利益」を守るように行動することが求められており,小児科の看護師は常にこの「子どもの最善の利益」を意識して行動していたと思われる.虐待を疑われる場合などは特に,家族が怒って外来に来なくなることが子どもに不利益な状況をもたらす可能性も考えられるため,看護師は親達との関係を何とかつなぎ留めておきたいと考えながら,関わりを模索していた.

以上のように,地域密着型中規模病院の小児科一般外来はただ単に受診する子どもの疾病を治療する場ではなく,その地域で暮らす子どもの健康を守る役割を担っており,実際に看護師は,援助のタイミングを見極めながら,家族に声をかけ,その不安を解消し,子どもを育てる力を育むように関わっていた.

Ⅵ.看護への応用と今後の課題

さまざまな発達段階,健康レベルの子どもが受診する小児科一般外来で,看護師は子どもと家族に関わり,優先順位を判断したり,必要な情報を伝えて家族を支えたりしていた.それは単なる「診療の補助」ではなく,専門性の高い独自の看護実践であった.地域密着型中規模病院の小児科外来は地域に開かれた最前線基地であり,日々の子育てに不安や悩みを抱える家族にとって気軽に相談でき,安心感を与えてくれる看護師の配置は必須である.

しかし,複雑な小児科一般外来の子どもと家族への対応を看護師のみで行うことは不可能であり,他の専門職との連携が不可欠である.また,外来における看護実践の高度な技を看護師同士で伝達,継承していくことも重要である.この2点について今後さらに明らかにしていきたい.

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本研究に快くご協力いただきました研究参加者の皆様,研究施設の皆様,ご指導いただきました日本赤十字看護大学の筒井真優美教授,武井麻子教授に心から感謝申し上げます.なお,本研究は日本赤十字看護大学大学院看護学研究科博士後期課程へ提出した博士論文に加筆,修正したものである.また,本研究の一部は,第28回日本看護科学学会学術集会において口頭発表した.

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