日本看護科学会誌
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NICUの看護師が認識する家族中心のケア(Family-Centered Care)の利点および促進・阻害要因
浅井 宏美森 明子
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2015 年 35 巻 p. 155-165

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Abstract

目的:新生児集中治療室(NICU)の看護師が認識する家族中心のケア(FCC)の実践,利点,促進および阻害要因を明らかにする.

方法:便宜的に抽出された首都圏内の総合/地域周産期母子医療センター10施設のうち,承諾の得られた6施設のNICUの看護師12名を対象にフォーカス・グループ・インタビューを実施した.

結果:NICUの看護師が認識する〈FCCの実践〉として7つ,〈FCCの利点〉として4つ,〈FCC実践の促進要因〉として【FCCに関する教育の充実】【ケアの方針決定への参画しやすさ】【FCCに関するチーム活動】【FCCに対する医師の理解・協力】【FCC実践に対する家族からの肯定的な反応】の5つ,〈FCC実践の阻害要因〉として6つのカテゴリーがそれぞれ抽出された.

結論:FCCの実践を促進するためには,家族の面会時間の拡大やコミュニケーションスキル・FCCに関する新卒および継続教育の充実,看護管理者や医師を含めた組織的な取り組みとスタッフへの支援が重要である.

Ⅰ.緒言

早産児・未熟児の出産は,両親にとって非常にストレスフルなできごとであり,喪失感,罪悪感,悲しみ,抑鬱,怒りなどの感情を引き起こすと言われている(Carter, Mulder, Bartram et al., 2005; Holditch-Davis & Miles, 2000; Sammons & Lewis, 1985).このような心理状況や子どもの新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit;以下NICU)への入院により親子が分離状態にあることから,両親が主体的に親役割を発揮することは難しく,NICUで直接,家族に関わる看護師が家族の心理的なサポートや愛着形成支援,親役割獲得への重要な役割を担っている.さらに,FCC先進諸国において家族は単なる面会者ではなく医療チームの一員として,医療者と情報を共有し,子どものケアや意思決定への参加を積極的に推奨する家族中心のケア(Family-Centered Care;以下FCC)の理念が重要視されている.

FCC先進諸国のNICUでは,FCCの理念を掲げ,家族を子どものケアにおける重要なパートナーと位置づけ,FCCの実践を推奨している.近年,日本のNICUにおいても,家族がより主体的に子どものケアや,治療方針の意思決定に参加することを目指す「ファミリーセンタードケア(FCC)」が注目されるようになってきた(浅井,2013井出,2013a水野,2009大木,2013).これは,以前からNICUで実践されてきた親子間の愛着形成や家族に対する育児・養育支援を指す「ファミリーケア(Family Care;以下FC)」に対して,より家族の主体性を重視し,広く捉えた概念である.海外の先行研究では,FCCの利点として,子どものケアに対する家族の理解度や満足度の向上(Bruce & Ritchie, 1997; Cockcroft, 2012),子どもの病状の回復促進や身体的な発達の促進,入院期間の短縮など(Als, Lawhon, Duffy et al., 1994; Forsythe, 1998),医療者の家族との良好な関係構築や仕事に対する意欲・肯定的意識の向上が明らかにされており(Shelton & Stepanek, 1995; Cooley & McAllister, 2004; Hurst, 2006; Gooding, 2011),子ども自身,家族,医療者の3者にとってFCCの実践が有益であることが示されている.日本のNICUでは,多くの看護師がFCCの重要性を認識しながらも実践できていないと認識しており,病棟のマンパワーや組織風土,スタッフの教育支援体制など様々な要因が影響し,FCCの実践の障壁となっている可能性が示唆されている(浅井,2009).

本研究の目的は,日本のNICUの看護師が認識する①FCCの具体的な実践内容,②FCCの利点,③FCCの実践を促進する要因,④FCCの実践を阻害する要因を明らかにすることである.まず第1段階としてNICUの看護師を対象にインタビュー調査することにより,量的横断的調査の質問項目を抽出する.第2段階としてインタビュー調査結果をもとに抽出した質問項目を用いて質問紙を作成し,量的横断的調査を行うことで,日本のNICUにおける看護師のFCCの実践や促進・阻害要因を明らかにすることができると考える.今回のインタビュー調査はその第1段階目に位置づけた研究である.最終的な意義として,NICUの看護師がFCCの理念に基づく行動レベルでの具体的な実践やFCCを実践する上での促進・阻害要因が明らかになることで,NICUにおける家族へのケア向上,日本の新生児医療におけるFCC推進の一助となると考える.

Ⅱ.用語の定義

家族中心のケア(Family-Centered Care; FCC)

本研究における家族中心のケアとは,以下のような視点を持ち,子ども・家族を中心としたケアを示す.①患児・家族に対する尊厳と敬意を持つこと,②家族と十分なコミュニケーションを図り,情報を共有すること,③家族が望むレベルで,ケアや意思決定への参加を推奨し,支持すること,④家族とヘルスケア専門職が協働すること.

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン

インタビューデータを内容分析した記述的研究である.

2.研究対象者

NICUに勤務する看護師.NICUの臨床で子どもと家族のケアに直接,関わっており,かつ所属病棟のケア方針などについて説明ができ,スタッフの教育に携わっている者を対象条件とした.

3.研究協力の依頼手順

便宜的に抽出した首都圏内の総合/地域周産期母子医療センター10施設のうち研究協力の承諾が得られた8施設の看護部またはNICU看護管理者を通して対象条件に合う候補者1~3名に研究依頼書を渡した.その後,協力意思のある対象者から研究者に個別に連絡を取ってもらい,研究の趣旨を説明し,最終的な同意を得た.

4.データ収集方法

フォーカス・グループ・インタビュー法を用いた.この手法を選択した理由は,日々,NICUの臨床で直接家族と関わり,かつスタッフの教育にも携わっている立場にある複数の施設に所属する看護師4~5名が1つのテーマで意見交換することにより,グループダイナミクスが有効に働き,互いの施設での組織的な課題にも気づきやすく,FCCを実践する上での促進・阻害要因についてより明らかにできると考えたためである.インタビューの際,メンバーの所属先や職位を知ることで相手に対する遠慮,パワーバランスなどから生じる発言内容への影響を最小限に抑えるため,氏名や所属先の匿名性を保証して行った.また,インタビューに先立ち,2~3週間前の時点で多くの文献で定義されているFCCの4つの中核概念とインタビューでの質問内容を記載した資料を参加者に送付し,当日も同様の資料に沿ってインタビューを進めた.1グループ4名で3グループ構成し,各グループ1回,計3回のインタビューを実施した.1回の所要時間は90分間程度で,調査期間は2013年5~6月,データはICレコーダーに録音し,逐語録に起こした.

5.データ分析方法

インタビューデータの逐語録を熟読し,意味・内容を損なわないように文脈を要約し,対象者が認識する〈FCCの実践〉,〈FCCの利点〉,〈FCCの実践を促進する要因〉,〈FCCの実践を阻害する要因〉についての文脈を抽出,コード化し,抽出したコードを分類してカテゴリー化した.分析はNICUを含め周産期医療での臨床経験がある母性看護学や小児看護学専攻の院生,インタビュー調査を用いた質的研究経験のある院生など複数の博士課程の学生間でピアレビューを行うとともに,母性看護・助産学の研究者からのスーパーバイズを受け,分析結果の真実性の確保に努めた.なお,〈 〉はコアカテゴリー,【 】はカテゴリーを示す.

6.倫理的配慮

聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:13-069).研究対象者へ事前に研究目的・方法,プライバシーの保護と匿名性の保持(名前と所属施設名を明らかにせずにグループ・インタビューが実施できるような場の設定),データの厳重な管理,研究協力辞退の自由意思の尊重,学会などでの結果の公表について文書を用いて口頭で説明し,同意を得た.データの録音と記録は対象者への承諾を得て実施した.

Ⅳ.結果

1.対象者の概要

対象者は6施設のNICUに所属する看護師,計12名で,副看護師長・主任・係長などの職位にある者,新生児集中ケア認定看護師などであった.

2.対象施設の新生児集中治療室(NICU・GCU)の面会方針

対象6施設のNICUの面会方針について表1に示す.両親の面会は24時間面会可が3施設,申し送りの時間以外自由が1施設,他科と同様の病院全体の面会時間が2施設であった.きょうだい面会は原則小学生以上が1施設,原則中学生以上が2施設,原則不可が3施設と各施設により異なっていたが,いずれも両親からの希望や必要性に応じて許可するなど,家族のニーズに合わせた臨機応変な対応がされていた.祖父母面会は5施設が病院全体の面会時間内で親の同伴を条件に実施していた.

表1 対象施設の新生児集中治療室(NICU・GCU)の面会方針

3.NICUの看護師が認識する家族中心のケア(FCC)の実践とその利点

NICUの看護師が認識する〈家族中心のケア(FCC)の実践〉について7つのカテゴリー,〈家族中心のケア(FCC)の利点〉について4つのカテゴリーがそれぞれ抽出された(表2).

表2 NICUの看護師が認識する家族中心のケア(Family-Centered Care; FCC)の実践とその利点

1)〈家族中心のケア(FCC)の実践〉

(1)【家族への多様なニーズを尊重した面会の実施】

NICUの限られたスペースや原則的にきょうだい・祖父母が面会できない方針であっても,各施設では家族の希望や必要に応じて主治医を含めたカンファレンスで話し合って面会許可するなど,実践可能な範囲で入院中の子どもときょうだい・祖父母との絆を形成できるよう看護師が様々な工夫をしながら,家族への多様なニーズを尊重した面会をしていた.

(2)【出生前からの妊婦・家族に対する子どものケアや養育のイメージづくり】

ハイリスク妊婦に対してNICUスタッフが出生前訪問して,子どもがNICUに入院することへの心の準備を促すために,NICU内で家族が実施できるケアについて,写真入りのアルバムを活用して家族が子どものケアについて具体的にイメージし,より理解できるような工夫を実践していた.

(3)【NICU内で家族が実施できる子どものケアに関する情報提供】

カンガルーケアや清拭,保育器内やベッドサイドでのベースン浴など入院中のケア,母乳に関する情報をNICU入室前の廊下の掲示板や家族へ渡すハンドブックなどで情報提供していた.

(4)【子どものケアに関する家族と看護師の情報共有】

「家族ファイル」「面会ノート」といった様々な情報共有ツールを用いて看護師が家族の面会予定を把握したり,看護師から家族へ子どもが初めてベースン浴をする日を伝えたりするなど,子どものケアに関する家族と看護師の情報共有が実践されていた.

(5)【子どものケアに関する医療チーム内の情報共有】

医師・看護師・臨床心理士など多職種間でチーム医療を実践するためのカンファレンスの実施など子どものケアに関する医療チーム内の情報共有が取り組まれていた.

(6)【家族に対する子どものケア参加の促進】

子どもの入院時から退院に至るまで家族の反応に合わせながら,早期からタッチングやカンガルーケアなど子どもと触れ合う機会を作り,親子間の絆の形成,養育に自信をつけるために家族に対する子どものケア参加を促していた.

(7)【家族間の情報共有と交流支援】

NICU退院児の親たちで作る家族会(卒業生の会)の情報共有や交流を病棟として支援する活動が実践されていた.

2)〈家族中心のケア(FCC)の利点〉

以下,カテゴリーごとに述べられた意見を記述する.

(1)【親の不安軽減・養育能力の向上】

早期に母親が子どもを抱っこしたり,カンガルーケアや子どものケアに参加したりすることで,母親の不安軽減や養育スキルの向上が見られ,スタッフ自身も親への育児支援がスムーズに進む,という利点を実感するようになる.

(2)【家族間の絆の形成・関係性の強化】

入院中の子どもときょうだい・祖父母が面会することにより,きょうだい・祖父母を含めた家族と子どもの間の絆を育んでいる,という実感を家族もスタッフも得られる.

(3)【コミュニケーション・情報共有の促進】

両親の24時間面会自由化や早期からの子どものケア参加により,親が長く病棟にいることで,スタッフとコミュニケーションをとる機会が増え,情報を共有しやすくなる,家族とケアに関する日程や時間帯の調整がしやすくなる.さらに医師と看護師間および,看護師同士のコミュニケーションも活性化し,円滑にいくようになる.

(4)【看護実践に対するスタッフの肯定的意識・意欲の向上】

両親の24時間面会自由化や早期からの家族のケア参加により,「家族に対してより何かをやってあげたい」というスタッフの気持ちが強化される.

4.NICUの看護師が認識する家族中心のケア(FCC)の実践を促進・阻害する要因

〈FCCの実践を促進する要因〉として5つ,〈FCCの実践を阻害する要因〉として6つのカテゴリーが抽出された(表3).以下,カテゴリーごとに述べられた意見を記述する.

表3 NICUの看護師が認識する家族中心のケア(Family-Centered Care; FCC)の実践を促進・阻害する要因

1)〈家族中心のケア(FCC)の実践を促進する要因〉

(1)【FCCに関する教育の充実】

新人教育にFCCの概念を取り入れ継続していくことで,その新人が中堅になると,医療者中心のケアから家族中心のケア(FCC)へ変えていく大きな力となる.

(2)【ケアの方針決定への参画しやすさ】

若手スタッフも意見や疑問などを言う機会がある,個々の意見を吸い上げようという雰囲気が病棟全体にある,といった組織内の意思決定への参画のしやすさが影響している.

(3)【FCCに関するチーム活動】

「ファミリーケア係/チーム」など家族へのケア向上を検討する係やチーム活動の存在と,そのチーム活動のメンバーとして医師など看護師以外の職種が入ることにより,各活動に対するスタッフのモチベーションや生産性を高めることにつながり,家族へのケアを含めた日々の看護実践に影響している.

(4)【FCCに対する医師の理解・協力】

子どもと家族へケアを提供する上での重要なパートナーである新生児科医のFCCに対する理解・協力を得ることが重要である.

(5)【FCC実践に対する家族からの肯定的な反応】

ケアの方針変更をする際,一時的にスタッフの抵抗があったとしても,導入後に家族の喜んでいる姿など良い反応を見ていけば,新しい方針もスタッフ皆に受け入れられるようになる.

2)〈家族中心のケア(FCC)の実践を阻害する要因〉

(1)【FCCに関する知識・スキル不足】

若手スタッフの自信のなさからくる家族とコミュニケーションをとることへの不安・苦手意識,マニュアルがないと実践できないという認識や他施設での勤務経験者(既卒者)がいないことにより,FCCに関する経験知や情報が病棟内に不足しており,新たな意見が出てこないといった障壁がある.

(2)【ケアの方針決定への参画しにくさ】

家族へのケアの方針決定の際,トップダウン形式での意思決定や発言力の強いスタッフの存在により,個々のスタッフの意見が反映されないことがFCCの実践に影響している.

(3)【家族のケア参加による子どもの安全性に対するスタッフの不安】

挿管中の子どもに家族が清拭するのは危ないのではないか,といった若手スタッフの不安や,家族へカンガルーケアをさらに推奨したいが,そのケアが安全に実施できるのかどうかという上司や医師からのプレッシャーがあることが,家族のケア参加の妨げになっている.

(4)【面会・ケアの方針変更や家族に対するケアの公平性をめぐる戸惑い】

個々の家族によってきょうだいや祖父母の面会を許可しているため,家族の希望をどこまで許容すればよいのかという公平性に対するスタッフの戸惑いがある.

(5)【家族に対応することへの負担感】

多くの対象者がスタッフの少ない夜間帯や休日などはマンパワー不足により,カンガルーケアなど家族の希望に対応できない,マンパワーが不足する夜間帯での家族の面会へスタッフが付き添うことが負担である.

(6)【医療者間のFCCに関する意見の相違】

自分たちの負担が増えると思う人と24時間子どもと家族のために何かしたいと思う人,とそれぞれのスタッフ間で賛否両論の意見がある,家族にとって良いことをしたいという気持ちはあるが,スタッフによってFCCの概念の捉え方が異なる.

Ⅴ.考察

1.NICUの看護師が認識するFCCの実践とその利点

調査結果から,NICUにおけるFCC実践の具体的な内容として,家族への多様なニーズを尊重した面会の実施(両親の24時間面会など),子どもの状態やケアに関する家族と医療者間の情報共有,家族に対する子どものケアに参加の促進などが主要なものとして抽出された.海外の先行研究におけるFCCの概念として,①患者・家族の意思を尊重すること(respect & dignity)や②家族と医療者の情報提供(Information sharing),③家族のケア参加(participation)が挙げられており(Institute for Patient- and Family-Centered Care, 2007),本調査結果のFCC実践の内容と共通性が認められた.また,FCCの利点として,親の不安軽減・養育能力の向上,家族の関係性強化など家族側の利点,スタッフの看護実践に対する意欲の向上など医療者側の利点の双方を看護師自身が認識していることが明らかになり,この点においても先行研究と共通した結果が得られた(Bruce & Ritchie, 1997; Cockcroft, 2012; Gooding, 2011).FCC先進諸国のNICUでは,子どもの権利の観点からも親が我が子にいつでも会えることを保証するため,両親の24時間自由面会ときょうだい・祖父母を含めた家族の面会が推奨,実践されている.

2.FCC推進の鍵となる両親の24時間自由面会

対象6施設のNICUのうち,3施設が両親の24時間自由面会可,1施設が申し送りの時間帯以外は自由面会,さらに6施設中5施設が祖父母面会可能な施設であった.関東圏内のNICU 30施設を対象にした先行研究によると,両親が24時間自由面会,きょうだい面会を表明している施設は2割程度,祖父母面会可能な施設は半数程度であり(浅井,2009),今回の対象施設は先行研究の結果と比較すると,家族に開かれた家族中心の面会方針であるといえる.家族を医療チームの一員として位置づけるFCCの理念を実践するためには,両親とコミュニケーションを図る機会が増える両親の24時間面会方針がスタッフの意識変革の大きな鍵となることが示唆された.一方で,両親の24時間面会導入や家族のケア参加に対して,スタッフ自身の負担が増える,両親が子どもの処置の場面を見ると不安を増強するため反対である,といった医療者間でのFCCに関する意見の相違が,阻害要因として抽出された.よって,まずは組織内での医療者間の意見交換を十分に行い,子ども・家族にとって,医療者自身にとっての利点・欠点を挙げ,コンセンサスを得るプロセスを踏むことが必要である.また,両親の24時間自由面会化や家族のケア参加を推奨するFCCの方針へ変革を試みるNICUの看護管理者やスタッフにとって,FCCの実践を後押しするようなFCC先進施設での取り組みを直接,聞く機会を設けたセミナーやプログラムを提供することが有効だと考える.

3.FCC推進に向けた新人・若手スタッフの教育の強化

FCC実践の促進要因のひとつとして,スタッフの新人研修や継続教育にFCCの理念を取り入れるといった【FCCに関する教育の充実】が挙げられた.臨床での取り組み例として,小児看護専門看護師や新生児集中ケア認定看護師が中心となりFCCの理念を反映させた教育プログラムを取り入れている施設がある(杉野,2012井出,2013b).プログラムに共通しているのは,家族とのパートナーシップ・コミュニケーションスキル,家族を含めたチーム医療に関する理解と実践能力の向上に焦点を当てていることである.今回の調査結果においても,FCCの阻害要因として「若手スタッフは家族とのコミュニケーションに対する自信がなく,苦手意識がある」といった【FCCに関する知識・スキル不足】が挙げられており,新人・若手スタッフに対する家族とのコミュニケーションスキルを含めたFCCに関する教育の重要性が明らかになった.海外の先行研究においても,医療者のFCCに関する知識やスキルの教育不足,医療者と家族の間のFCCに関する認識の違いなどFCC実践の理想と現実には大きなギャップがあることが指摘されている(Ahmann, 1994; Bruce & Ritchie, 1997; Bruce, Letourneau, & Ritchie, 2002).FCCに関する教育を新人研修に取り入れることで,スタッフ全員にFCCの理念を浸透させることができ,数年後,その新人たちが力を持つ中堅へ育った時に中心となってFCCを推進するための変革を起こすことができると考える.

FCCに関する教育に活用できるものとして,日本小児科学会が公表する『重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン』(以下,『話し合いのガイドライン』)(2012年4月公開)が挙げられる.このガイドラインには,両親と医療スタッフが相互の信頼関係の形成に努めることや対等な立場で十分な話し合いをもつことが明文化されており,家族と医療スタッフが合意形成するプロセスの重要性を示すものである.すなわち,医療スタッフが家族を子どものケアの“パートナー”と位置づけるFCCの理念と共通するものである.このガイドラインは重篤な疾患を持つ子どもの治療方針の決定場面などでの活用を想定して作成されたものだが,そのような場面に至るまでには,医療スタッフが日常的に家族と頻繁にコミュニケーションを図り,敬意ある対応や家族との信頼関係の構築に努めているか,という姿勢が問われる.家族への敬意ある対応や倫理的な感受性は,一朝一夕に培われるものではなく,特に若手スタッフを対象にFCCの理念や『話し合いのガイドライン』の基本理念について継続的に学習する機会が必要である.

4.FCC推進に向けた医療スタッフ間のチームワークとサポート体制

最後にFCC実践の促進要因である【FCCに関するチーム活動】,【ケアの方針決定への参画しやすさ】,【FCCに対する医師の理解・協力】について述べる.NICUでは「ファミリーケアチーム/係」などの名称で家族へのケアを検討するチーム活動が行われているが,その活動が活発に運営されるための要素として,「チーム/係活動に充てる時間を無償でなく有償労働(超過勤務扱い)とすること」「病棟のチーム/係活動に医師が入ること」が挙げられた.FCCの活動に限らずスタッフの看護実践へのモチベーション向上のためには病棟のための活動(労働)に適切な対価(報酬)を支払うこと,日常的な医師―看護師間の頻繁なコミュニケーションの機会,さらに若手も含め個々のスタッフの意見を吸い上げようという病棟の雰囲気の重要性が明らかになった.

前述の『話し合いのガイドライン』には,「多くの医療スタッフが話し合いに参加することで,限られた医療スタッフによる独断を回避し,決定プロセスを透明化すること」も明記されており,医療スタッフ間での対等な議論の重要性も明文化されている.新生児医療において子どもと家族のより良いアウトカムを得るためには,家族と医療者が対等な立場での『話し合い』が実践できるよう,まずは医療スタッフ間で対等な議論ができる医療チームが必要である.しかしながら,チーム間での多様で対等な議論の障壁として,①コミュニケーション不全,②職種間や同職種間内でのヒエラルキー,③メンバー間の信頼関係の欠如,など多くの影響要因が指摘されている(中野,2014).したがって,家族と医療者が対等な立場での『話し合い』を実践するための,医療スタッフ間のコミュニケーションを増やす取り組みとチームワークの強化など看護管理者や医師を含めた組織的な取り組みが重要である.

5.本研究の限界と今後の課題

本研究の結果は,便宜的に抽出した首都圏内6施設のNICUに所属する12名の看護師の語りに基づくものであり,特に〈FCCの利点〉に関しては,両親の24時間自由面会や家族のケア参加を積極的に実践する3施設の看護師からのデータであり,この結果を他施設にも当てはまるものとして一般化するには限界がある.対象施設は厚生労働省から総合/地域周産期母子センターとして認可された一定の基準はあるが,その施設の新生児科医および看護スタッフの人員や新人・中堅・達人レベルのスタッフ構成比などのマンパワー,母体搬送・新生児搬送など入院の受け入れ状況など,実質的な“忙しさ”や病棟内の組織風土など,各組織によって現状や課題が異なるからである.今後,今回の調査結果をもとに複数のNICUの看護管理者やスタッフを対象にFCCの促進・阻害要因に関する横断的調査を行い,FCCの実践への組織的な要因を探ることが課題である.また,今回は看護師対象の調査であるため,家族を対象にした調査により,家族中心のケア(FCC)が実践されているのか,NICUにおける家族中心のケア(FCC)を推進するにはどうしたらよいか,という真のアウトカムである家族の視点で明らかにする必要がある.

Ⅵ.結論

NICUの看護師が認識する〈家族中心のケア(FCC)の実践〉として7つ,〈FCCの利点〉として4つ,〈FCCの実践を促進する要因〉として5つ,〈FCCの実践を阻害する要因〉として6つのカテゴリーがそれぞれ抽出された.FCCの実践を促進するためには,家族の面会時間の拡大やコミュニケーションスキル・FCCに関する新卒および継続教育の充実,看護管理者や医師を含めた組織的な取り組みとスタッフへの支援が重要である.

Acknowledgment

本研究にご協力いただきました看護師の皆様,研究協力施設の看護部および看護師長の皆様に心より御礼申し上げます.なお,本研究は公益財団法人政策医療振興財団の平成25年度研究助成を受けて行い,本稿の一部は日本家族看護学会第21回学術集会において発表したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HAは研究の着想・デザイン,データの収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献,AMは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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