日本看護科学会誌
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原著
回復期リハビリテーション病棟看護師の多職種連携実践能力に関連する要因
藤田 厚美習田 明裕
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2016 年 36 巻 p. 229-237

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Abstract

目的:回復期リハビリテーション病棟に勤務する看護師の多職種連携実践能力に関連する要因を明らかにすることである.

方法:回復期リハビリテーション病棟に勤務する看護師539名を対象に,《インタープロフェッショナルワーク実践能力評価尺度(CICS29)》を用いて質問紙調査を実施した.単変量解析で有意な関連又は差がみられた変数について,カテゴリカル回帰分析を行った.

結果:《CICS29》の合計得点と関連がみられたのは,「臨床経験年数」,「役職」,「現任教育の専門職連携教育(IPE)」,「上司のサポート」,「同僚のサポート」,「日常の情報共有」,「院外のコミュニケーション」の7つの変数であり,分散の40.3%が説明された.

結論:看護師の多職種連携実践能力を高めるためには,継続的なIPEが有効であり,同職種間のサポートが提供し合える環境,また多職種とのタイムリーなディスカッションやインフォーマルなコミュニケーションの機会が必要であると考えられた.

Ⅰ. 緒言

現代の医療は,その高度化や疾病構造の変化に伴い専門分化が進められている.しかし,患者は多様な側面からなるニーズを持っており,特定の職種や領域が限られた側面から患者を捉えるだけでは,良質な医療を提供することは困難である.その為,多職種がそれぞれの専門性を活かして連携することが求められている.また「ICN看護師の倫理綱領」には,看護師の倫理的行為の基準として,看護および他分野の協働者と協力的で相互を尊重する関係を維持することが示されている(International Council of Nurses, 2012/2013).看護師には,上記のような関係において職種間の橋渡しを行い,多職種連携を推進していくことが求められているといえる.

こうした職種間の連携に関する研究は,実践と教育に関する研究の2つに大別される.前者としては,医師と看護師の協働に関連する看護師側の要因を明らかにした研究や(Friese, 2005宇城・中山,2006小味ら,20102011),多職種連携に関する看護師の認識を明らかにした研究(田村ら,2005袖山ら,2012)等が行われている.また後者の多くは,専門職連携教育(Interprofessional Education,以下IPE)に関する研究である.欧米では,基礎教育と共に現任教育のIPEに関する研究も盛んに行われており(Reeves, 2009Reeves et al., 2012),IPEの効果や多職種連携を測定する多様な尺度が開発されている(Thannhauser et al., 2010).これに対して国内では,基礎教育のIPEが中心であり,現任教育のIPEに関する報告は極めて少なく,関連尺度の開発も十分には行われていない.こうした状況の中,Sakai et al.(印刷中)は,専門職の多職種連携実践能力を測定する《インタープロフェッショナルワーク実践能力評価尺度(CICS29)》を開発し,多様な専門職の多職種連携実践能力と現任教育のIPEとの関連を明らかにしているが(Yamamoto et al., 2014),関連する要因の検討は十分には行われていない.

多職種連携が実践される典型的な領域としては,リハビリテーション(以下,リハ)医療があり(細田,2012),それに特化しているのが回復期リハ病棟である.つまり回復期リハ病棟は,多職種連携が既に実践されており,多職種連携の方向性を検討する際の病棟として適しているといえる.また,回復期リハ病棟は集中的なリハを軸とした,患者の日常生活動作に焦点を当てた医療を提供している.その為,患者の日常生活の場である病棟においてケアを提供し,多職種と連携しながら患者の療養生活をコーディネートする看護師の役割は重要であるといえる.

以上より,看護師が多職種連携を推進していくことが求められているが,看護師の多職種連携実践能力に関連する要因の検討は十分には行われていない.関連する要因についてさらに検討するためには,まず多職種連携が既に実践され,多職種連携における看護師の役割が重要な回復期リハ病棟において,看護師の多職種連携実践能力に関連する要因を明らかにする必要があると考える.

Ⅱ. 研究の目的と意義

本研究は,回復期リハ病棟に勤務する看護師(以下,回復期リハ病棟看護師)の多職種連携実践能力に関連する要因を明らかにすることを目的とした.これにより,看護師の多職種連携実践能力を高める方策への示唆が得られると考える.

Ⅲ. 研究の概念枠組み

1. 概念枠組み(図1

本研究の概念枠組みは,多職種連携や医師と看護師の協働に関する文献検討を基に構成した.『多職種連携実践能力』に関連する要因として,看護師を含む多職種の『多職種連携実践能力』の関連要因とされる『IPE』(Yamamoto et al., 2014),また医師と看護師の協働の関連要因とされる『基本属性』(Friese, 2005小味ら,20102011),『上司・同僚のサポート』と『多職種間のコミュニケーション』(宇城・中山,2006)の4つを設定した.なお本研究では,尺度を《 》,下位尺度を〈 〉,変数のカテゴリーを『 』,変数を「 」で表す.

図1

本研究の概念枠組み

2. 用語の操作的定義

本研究における多職種連携実践能力は,複数の領域の専門職がそれぞれの専門性を活かし,共通の目標達成を患者と共に目指して協働する多職種連携を(埼玉県立大学,2009田村,2012),所属する病棟において実践するための態度や知識,技術とした.《CICS29》の得点で表す.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象

対象施設は,研究代表者が実際に訪問し,留め置き法によるデータ収集が可能な東京都内の回復期リハ病棟を有する病院のうち,回復期リハ病棟協会に加入している66施設より選定した.当該協会ホームページを用いて無作為抽出した40施設のうち,研究協力に同意の得られた17施設の回復期リハ病棟看護師を対象者とした.

2. データの収集方法

無記名の自記式質問紙を用いてデータを収集した.対象施設の看護部長へ研究協力依頼書と研究計画書を郵送した後,電話で研究協力を依頼した.その後対象施設を訪問し,看護部長に同意書の記入,看護師長に質問紙の配布と各病棟の看護職員控室への回収箱の設置を依頼し,後日回収箱を回収した.

3. 調査内容

質問紙は,『多職種連携実践能力』,『基本属性』,『IPE』,『上司・同僚のサポート』,『多職種間のコミュニケーション』を問う項目で構成した(図1).なお,尺度の使用については尺度開発者の承諾を得た.

『多職種連携実践能力』を測定した《CICS29》の下位尺度は,〈プロフェッショナルとしての態度・信念〉,〈チーム運営のスキル〉,〈チームの目標達成のための行動〉,〈患者を尊重した治療・ケアの提供〉,〈チームの凝集性を高める態度〉,〈専門職としての役割遂行〉の6つであり,計29項目で構成される.回答方法は5件法とし,得点が高いほど多職種連携実践能力が高く,より適切な態度や技術を備えていることを示す.尺度の信頼性と妥当性は検証されている(Sakai et al.,印刷中).

『基本属性』は,「性別」,「年齢」,「看護専門教育」,「看護専門教育の環境」,「看護倫理教育」,「臨床経験年数」,「勤務形態」,「役職」,「専門・認定看護師資格」の計9項目を設定した.

『IPE』は,複数の領域の専門職が連携およびケアの質を改善するために,同じ場所でともに学び,お互いから学び合いながら,お互いのことを学ぶこと(Centre for the Advancement of Interprofessional Education, 2002)と定義したIPEの経験状況を問う,「基礎教育のIPE」,「現任教育のIPE」,「福祉専門職の参加」の計3項目を設定した.

『上司・同僚のサポート』を測定した《職場サポート尺度》の下位尺度は,〈情緒的サポート〉,〈評価的サポート〉,〈情報的サポート〉,〈手段的サポート〉の4つであり,14項目で構成される.回答方法は5件法とし,得点が高いほど看護師である上司又は同僚のサポートをより受けていると認識していることを示す.本研究では,上司と同僚それぞれからのサポートを想定して回答するため,計28項目を設定した.なお,上司とは同じ病棟に所属する看護師長や主任等であり,同僚とは同じ病棟に所属する先輩や同期,後輩とした.尺度の信頼性と妥当性は検証されている(井田・福田,2004).

『多職種間のコミュニケーション』は,複数の領域の専門職間で行われるコミュニケーションの機会の頻度を問う,「カンファレンス」,「ショートカンファレンス」,「日常の情報共有」,「院外のコミュニケーション」の4項目を設定した.質問項目は,宇城・中山(2006)を参考にして独自に作成した.回答方法は6件法とし,得点が高いほどその機会が多いことを示す.「カンファレンス」は20~30分程度,「ショートカンファレンス」は5~10分程度の予定された時間・場所で行うディスカッションの機会とし,「日常の情報共有」は必要に応じてその都度行うディスカッションの機会,「院外のコミュニケーション」は食事会やサークル活動等のインフォーマルなコミュニケーションの機会とした.なお,質問紙の内容の適切性については,臨床経験を持つ看護師15名を対象にプレテストを実施し,回答しにくい質問や理解しにくい表現等がないことを確認した.

4. 分析方法

収集したデータは,本研究の概念枠組みに基づいて以下の通り分析した.まず全変数の記述統計量を算出し,『多職種連携実践能力』を従属変数,『基本属性』,『IPE』,『上司・同僚のサポート』,『多職種間のコミュニケーション』を独立変数としてMann‐WhitneyのU検定,KendallのTau-B検定,Kruskal‐Wallis検定を行った.最終的に,『多職種連携実践能力』を目的変数,単変量解析で有意な差又は関連のみられた変数等を説明変数としてカテゴリカル回帰分析を行った.なお,説明変数の選定は以下の手順で行った.まず,単変量解析で有意な差又は関連がみられた変数のうち,VIF値を用いて多重共線性を確認した上で疑似相関が疑われた変数と,各選択肢のサンプル数が一桁である変数を除外した.さらに,単変量解析では関連が見られなかったものの,文献検討から重要な要因であると考えられた「基礎教育のIPE」,「カンファレンス」,「ショートカンファレンス」を追加した(酒井・金城,2010田村,2012).分析にはSPSS Ver22.0 for Windowsを用い,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号14005)を得て実施した.対象者に紙面を用いて,研究協力は自由意思に基づき,辞退しても不利益は生じないこと,また個人情報の保護について説明した.質問紙の回収箱への投函をもって研究協力への同意が得られたものとした.

Ⅴ. 結果

1. 研究対象(表1

対象施設に所属する看護師539名に質問紙を配布し,427名から回収した(回収率79.2%).このうち,カテゴリカル回帰分析で用いた変数に欠損値が認められた71名を除く356名を分析対象とした(有効回答率83.4%).

表1 基本属性と多職種連携実践能力の関連 n = 356
項目 内訳 人数 % 多職種連携実践能力
P τ 検定方法
性別 男性 33 9.3 n.s. #1
女性 318 89.3
無回答 5 1.4
年齢 21~25歳 36 10.1 *** 0.176 #3
26~30歳 96 27.0
31~35歳 80 22.5
36~40歳 45 12.6
41~45歳 43 12.1
46~50歳 25 7.0
51~55歳 18 5.1
56~60歳 9 2.5
61歳以上 4 1.1
看護専門教育 5年一貫教育 12 3.4 n.s. #2
2年課程 76 21.3
3年課程(専門学校・短期大学) 222 62.4
看護系大学 44 12.4
看護系大学院 2 0.6
看護専門教育の環境 あり(他学部・学科併設) 93 26.1 n.s. #1
なし(看護教育課程のみ) 261 73.3
無回答 2 0.6
看護倫理教育 あり 339 95.2 n.s. #1
なし 14 3.9
無回答 3 0.8
臨床経験年数 1年未満 6 1.7 *** 0.203 #3
1年以上~3年未満 21 5.9
3年以上~5年未満 55 15.4
5年以上~10年未満 109 30.6
10年以上~20年未満 111 31.2
20年以上~30年未満 41 11.5
30年以上~40年未満 12 3.4
40年以上 1 0.3
勤務形態 2交代 289 81.2 n.s. #2
3交代 8 2.2
夜勤のみ 3 0.8
日勤のみ 53 14.9
その他 3 0.8
役職 スタッフ 294 82.6 *** #2
主任など(チーフ,チームリーダー含む) 48 13.5
看護師長 14 3.9
専門・認定看護師資格 専門看護師 0 0 ** #1
認定看護師 7 2.0
なし 346 97.2
無回答 3 0.8

注)*P < 0.05 **P < 0.01 ***P < 0.001

注)#1 = Mann-WhitneyのU検定 #2 = Kruskal-Wallis検定 #3 = KendallのTau-B検定

注)各項目の有意差検定は「無回答」を除いて行った

女性が318名(89.3%)であり,21~35歳で過半数を占めていた.看護専門教育は3年課程(専門学校・短期大学)が最も多く222名(62.4%)であり,医療系他学部・学科の併設ありは93名(26.1%),看護倫理教育の経験ありは339名(95.2%)であった.臨床経験年数は10年以上~20年未満が最も多く111名(31.2%)であり,2交代が289名(81.2%),スタッフが294名(82.6%),認定看護師は7名(2.0%)であった.

2. 多職種連携実践能力(表2

《CICS29》のCronbach’s α係数は尺度全体が0.95であり,各下位尺度は,0.76~0.85であった.《CICS29》の合計得点の平均値は109.42 ± 13.44(平均値±標準偏差,以下同様)であった.

表2 多職種連携実践能力 n = 356
項目 平均値±SD
プロフェッショナルとしての態度・信念 21.99 ± 3.00
チーム運営のスキル 18.26 ± 2.68
チームの目標達成のための行動 18.19 ± 2.80
患者を尊重した治療・ケアの提供 20.07 ± 2.35
チームの凝集性を高める態度 15.77 ± 2.34
専門職としての役割遂行 15.14 ± 2.32
CICS29(合計得点) 109.42 ± 13.44

注)5点=そうである 4点=まあそうである 3点=どちらともいえない 2点=あまりそうではない 1点=そうではない

3. 多職種連携実践能力と各変数の関連

1) 基本属性(表1

《CICS29》の合計得点は,「年齢」(τ = 0.176, P < 0.001),「臨床経験年数」(τ = 0.203, P < 0.001),「役職」(P < 0.001),「専門・認定看護師資格」(P < 0.01)と有意な関連がみられた.

2) IPE(表3

IPEの経験ありは,基礎教育が49名(13.8%),現任教育が73名(20.5%)であり,福祉専門職の参加ありは58名(16.3%)であった.《CICS29》の合計得点は,「現任教育のIPE」(P < 0.001),「福祉専門職の参加」(P < 0.001)と有意な差がみられた.

表3 専門職連携教育と多職種連携実践能力の関連 n = 356
項目 内訳 人数 % 多職種連携実践能力
P
基礎教育の専門職連携教育 あり 49 13.8 n.s.
なし 307 86.2
現任教育の専門職連携教育 あり 73 20.5 ***
なし 283 79.5
福祉専門職の参加 あり 58 16.3 ***
なし 296 83.1
無回答 2 0.6

注)*P < 0.05 **P < 0.01 ***P < 0.001

注)Mann-WhitneyのU検定

注)各項目の有意差検定は「無回答」を除いて行った

3) 上司・同僚のサポート(表4

《職場サポート尺度》の合計得点の平均値は,「上司のサポート」が52.79 ± 11.50,「同僚のサポート」が54.28 ± 9.76であった.《CICS29》の合計得点は,「上司のサポート」の合計得点(τ = 0.226, P < 0.001)とすべての下位尺度(τ = 0.197~0.267, P < 0.001),「同僚のサポート」の合計得点(τ = 0.159, P < 0.001)とすべての下位尺度(τ = 0.117~0.235, P < 0.001)と有意な関連がみられた.

表4 上司・同僚のサポートと多職種連携実践能力の関連 n = 356
項目 平均値±SD 多職種連携実践能力
τ
上司のサポート
 情緒的サポート 11.17 ± 2.78 0.219***
 評価的サポート 15.12 ± 3.38 0.267***
 情報的サポート 11.33 ± 2.67 0.197***
 手段的サポート 15.17 ± 3.59 0.210***
 職場サポート尺度(合計得点) 52.79 ± 11.50 0.226***
同僚のサポート
 情緒的サポート 11.35 ± 2.51 0.152***
 評価的サポート 15.10 ± 3.00 0.235***
 情報的サポート 11.40 ± 2.39 0.117***
 手段的サポート 16.44 ± 2.77 0.139***
 職場サポート尺度(合計得点) 54.28 ± 9.76 0.159***

注)5点=いつもある 4点=たまにある 3点=どちらともいえない 2点=あまりない 1点=全くない

注)*P < 0.05 **P < 0.01 ***P < 0.001

注)KendallのTau-B検定

4) 多職種間のコミュニケーション(表5

「カンファレンス」と「ショートカンファレンス」,「日常の情報共有」は,ほぼ毎日が最も多く,それぞれ103名(28.9%),125名(35.1%),180名(50.6%)であった.「院外のコミュニケーション」は,なしが最も多く112名(31.5%)であった.《CICS29》の合計得点は,「日常の情報共有」(τ = 0.180, P < 0.001),「院外のコミュニケーション」(τ = 0.169, P < 0.001)と有意な関連がみられた.

表5 多職種間のコミュニケーションと多職種連携実践能力の関連 n = 356
項目 内訳 人数 % 多職種連携実践能力
P τ
カンファレンス ほぼ毎日 103 28.9 n.s.
2~3回/週 87 24.4
1回/週 55 15.5
2回/月 33 6.2
1回/月 69 19.4
なし 20 5.6
ショートカンファレンス ほぼ毎日 125 35.1 n.s.
2~3回/週 67 18.8
1回/週 41 11.5
2回/月 33 9.3
1回/月 48 13.5
なし 42 11.8
日常の情報共有 ほぼ毎日 180 50.6 *** 0.180
2~3回/週 80 22.5
1回/週 42 11.8
2回/月 17 4.8
1回/月 16 4.5
なし 21 5.9
院外のコミュニケーション 2~3回/月 6 1.7 *** 0.169
1回/月 32 9.0
1回/3ヶ月 90 25.3
1回/半年 71 19.9
1回/年 45 12.6
なし 112 31.5

注)*P < 0.05 **P < 0.01 ***P < 0.001

注)KendallのTau-B検定

4. 多職種連携実践能力に関連する要因(表6

『多職種連携実践能力』を目的変数,選定した10個の変数を説明変数としてカテゴリカル回帰分析を行った.《CICS29》の合計得点は,「臨床経験年数」(β = 0.349,P < 0.001),「役職」(β = 0.142,P < 0.01),「現任教育のIPE」(β = 0.245,P < 0.01),「上司のサポート」の合計得点(β = 0.256,P < 0.001)と「同僚のサポート」の合計得点(β = 0.182,P < 0.001),「日常の情報共有」(β = 0.159,P < 0.001),「院外のコミュニケーション」(β = 0.146,P < 0.05)と関連がみられた.調整済みR2は0.403であった.

表6 多職種連携実践能力に関連する要因 n = 356
説明変数 インタープロフェッショナルワーク実践能力評価尺度(CICS29)
多職種連携実践能力 プロフェッショナルとしての態度・信念 チーム運営のスキル チームの目標達成のための行動 患者を尊重した治療・ケアの提供 チームの凝集性を高める態度 専門職としての役割遂行
β β β β β β β
基本属性 臨床経験年数 0.349*** 0.320*** 0.335*** 0.319*** 0.227*** 0.303*** 0.470***
役職 0.142** 0.095* 0.164*** 0.133* 0.047 0.042 0.098*
専門職連携教育 基礎教育の専門職連携教育 0.074 0.144 0.014 0.043 0.110 0.000 0.035
現任教育の専門職連携教育 0.245** 0.241* 0.187** 0.162* 0.250** 0.107* 0.210*
上司・同僚のサポート 上司のサポート 0.256*** 0.248*** 0.176*** 0.213*** 0.220*** 0.254*** 0.184***
同僚のサポート 0.182*** 0.124 0.236*** 0.211*** 0.170** 0.206*** 0.129*
多職種間のコミュニケーション カンファレンス –0.043 0.085 –0.054 –0.112 0.091 –0.040 –0.096
ショートカンファレンス 0.031 –0.124 0.099 0.113 0.162* –0.165 0.018
日常の情報共有 0.159*** 0.134* 0.080 0.137** 0.211** 0.247*** 0.172**
院外のコミュニケーション 0.146* 0.122 0.104* 0.103 0.140** 0.197*** 0.065
R2 0.449 0.332 0.364 0.339 0.337 0.402 0.376
自由度調整済みR2 0.403 0.263 0.303 0.269 0.273 0.340 0.324

注)*P < 0.05 **P < 0.01 ***P < 0.001

注)カテゴリカル回帰分析

Ⅵ. 考察

1. 看護師の多職種連携実践能力

『多職種連携実践能力』の測定に用いた《CICS29》の合計得点と各下位尺度のCronbach’s α係数より,対象者を回復期リハ病棟看護師に限定した本研究においても,尺度及び質問紙の信頼性は概ね検証されたと考える.なお,《CICS29》を用いた先行研究は限られており,本研究の対象者の多職種連携実践能力について先行研究と比較検討することは困難である.しかし,冒頭で示した回復期リハ病棟の特性より,本研究の対象者の多職種連携実践能力は他領域の看護師より高い傾向にある可能性があると考える.看護師の多職種連携実践能力の特性について,今後検討していく上での基準が得られたといえる.

2. 看護師の多職種連携実践能力の関連要因

カテゴリカル回帰分析の結果,関連がみられた7つの変数が回復期リハ病棟看護師の多職種連携実践能力に肯定的な影響を与える要因であることが示唆された.なお,これらの変数の関連性は,多職種連携や医師と看護師の協働に関する先行研究(Friese, 2005宇城・中山,2006小味ら,20102011)とほぼ同様の結果であった.

『IPE』に関する結果より,現任教育のIPEは回復期リハ病棟看護師の多職種連携実践能力を高める有効な教育であることが示唆された.一般的にIPEは,基礎教育では対人援助の基本となる力を基盤とした多職種と協働する力,現任教育ではチームを動かしたり,組織に働きかけるといった高次な能力の習得を目指しており,段階的な介入を前提としている(埼玉県立大学,2009小野寺ら,2014).これらより,本研究の結果において《CICS29》が「現任教育のIPE」とのみ関連がみられた理由としては,回復期リハ病棟看護師は日頃から多職種連携が求められる状況にあるため,基礎教育のIPEが介入する基礎的な能力の個人差は小さく,現任教育のIPEによる高次な能力への介入が回復期リハ病棟看護師の多職種連携実践能力を高める上ではより効果的であることが考えられる.

『上司・同僚のサポート』に関する結果より,看護師である上司や同僚からの多様なサポートをより受けている回復期リハ病棟看護師は,多職種連携実践能力が高いことが窺えた.多職種連携という異なる職種間の協働においても,同職種間のサポートの有用性が示されたことは特記すべきことであるといえる.なお本研究では,サポートの内容を多職種連携に関するものに限定していないが,冒頭で示した回復期リハ病棟の特性より,回復期リハ病棟では多職種連携に繋がるサポートが提供される機会も多いと考えられる.

「日常の情報共有」に関する結果より,多職種と必要に応じてその都度行うタイムリーなディスカッションの機会は,回復期リハ病棟看護師の多職種連携実践能力に肯定的な影響を与えることが示唆された.回復期リハ病棟には,理学療法士等のリハ専門職が専従で配置されており,リハ専門職が病棟内で患者のリハを行う場面も多い.その為,他領域の病棟と比較してリハ専門職等の他職種とタイムリーにディスカッションすることが容易であり,こうした機会を多く持つことが多職種連携実践能力の向上に繋がると考える.また酒井・金城(2010)は,回復期のリハ医療における看護師の役割として職種間の調整を挙げている.職種間の調整は,定時のカンファレンスに限らず,タイムリーなディスカッションの機会を活用して行われることも多く,こうした機会は,回復期リハ病棟看護師の役割が発揮される重要な場であるといえる.

他方,「院外のコミュニケーション」に関する結果より,多職種での食事会やサークル活動等のインフォーマルなコミュニケーションの機会が多い回復期リハ病棟看護師は,多職種連携実践能力が高いことが示唆された.細田(2012)は,インフォーマルなコミュニケーションの機会は,業務における職種間の円滑なコミュニケーションを促すと示しており,専門職としての役割から離れた私的なコミュニケーションが,職種という垣根を越えた人間関係の形成を育む為であると考える.また,こうした機会において各職種特有の体験を共有することは,他職種の理解を促し,他職種へ敬意を抱くことにも繋がると考えられ,インフォーマルなコミュニケーションの機会は,多職種連携を実践する上での基盤となる対人関係の構築を促す重要な機会であるといえる.

以上,明らかになった要因は,回復期リハ病棟の特性によってその関連性が強化されている可能性はあるが,あくまでも病棟看護師を対象とした結果であることから,本研究の結果を他領域に適応することは可能であると考える.なお,回復期リハ病棟は多職種連携を実践する上では恵まれた環境にあることから,他領域に一般化する上では,本研究で明らかになった要因の重要性がさらに高まる可能性があるといえる.その上で,看護師の多職種連携実践能力を高める方策としては以下のことが考えられる.IPEに関しては,継続的なIPEの有効性が示されたことより,基礎教育のIPE同様に現任教育のIPEにも着目していく必要があるといえる.冒頭で示した通り現任教育のIPEは発展途上の段階にあり(菊池,2009),その実態は十分には明らかにされていない.その為,まずはその実態を明らかにする必要があり,その上で日本の医療や福祉の特徴を踏まえた教育プログラムの検討が求められると考える.また,同職種間のサポートに関しては,多職種間での相談を提案したり,多職種との効果的なコミュニケーション方法を教示したりといった多職種連携に繋がるサポートが,提供し合える環境を整える必要があるといえる.そして看護師は,必要に応じてその都度行うタイムリーなディスカッションの機会を積極的に設ける必要がある.また,食事会やサークル活動等のインフォーマルなコミュニケーションの機会の設定は,個人の努力に任せるのではなく,組織的な働きかけによって促すことも必要であると考える.

3. 本研究の限界と課題

本研究は,東京都内の回復期リハ病棟看護師のみを対象としており,カテゴリカル回帰分析の相関係数は全般的に低く,調整済みR2は0.403と必ずしも高くはない.これらより,本研究の結果を一般化するには限界があるといえる.さらに,本研究で用いた《CICS29》は,自己評価によって能力を測定しており,多様な専門職を対象とした汎用性の高い尺度であるため,多職種連携における看護師の専門的実践が十分に反映されていない可能性がある.よって今後,多職種連携における看護師の専門性や役割がより反映される尺度を開発し,看護師の多職種連携についてさらに探求していくことが課題である.

謝辞:本研究にご協力下さいました看護師の皆様,並びに対象施設の看護管理者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,平成26年度首都大学東京大学院人間健康科学研究科に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである.なお,本研究の一部は,第35回日本看護科学学会学術集会で発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AFは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献.ASは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.両著者共に最終原稿を読み,承認した.

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