日本看護科学会誌
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原著
P・ベナーのケアリング理論を用いた糖尿病患者へのエンボディメントケア
野並 葉子伊波 早苗米田 昭子馬場 敦子添田 百合子曽根 晶子魚里 明子鈴木 智津子小江 奈美子上野 聡子河田 照絵
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2016 年 36 巻 p. 247-254

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Abstract

目的:ベナーのケアリング理論を理論的前提として,糖尿病患者の身体に根ざした知性に働きかける看護実践に関する理論枠組みを新たに構築する.

方法:糖尿病患者を対象とした質的研究論文を一次資料として用いたメタ統合を行った.分析は解釈的現象学の手法を用い,研究者間でのグループ・ディスカッションを通してテクストに埋め込まれている意味を解釈し,ケアの基盤となる意味の共通性を明らかにした.

結果:7つの論文のメタ統合の結果,順序性を持った4つのケア〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉〈身体の理解を深めるケア〉〈身体への信頼感を取り戻すケア〉〈新しい対処法を身につけるケア〉が明らかになり,これらを統合して「糖尿病患者へのエンボディメントケア」と命名した.

結論:糖尿病患者へのエンボディメントケアは,身体に根ざした知性を持った存在である患者が安らぐことに向かい,身体が寛ぐことで日常生活を取り戻し,自立へと向かうことを支援する看護実践の新たな理論的枠組みとしてまとまった.

Ⅰ. 研究の背景

糖尿病患者への看護は,患者教育から行動変容を促進する方法論へと大きく変化し,セルフケアを促す教育プログラムの開発や自己管理のアウトカム指標を測定するプログラムの開発などが進められている(木下,1998清水ら,2009Moriyama et al., 2009Powers et al., 2015).しかし,多くの教育支援プログラムが開発される中,長い闘病生活に着目し,どのように生活を調整し,病気に対処しているのかを明らかにしたものや糖尿病看護を専門とする看護師の経験の意味に着目したものはほとんど見られなかった.

そこで,エキスパート・ナースの看護実践に注目し,糖尿病患者への看護の経験の意味に関する研究(野並ら,2000)を行い,看護師が患者に対し「自分自身で癒していくのを助ける」「身体の変化を体験できるようにする」といった専門的なケアリングを実践していたことが明らかになった.その結果をふまえて,本研究では,身体に根ざした知性(Embodied intelligence)として存在する人間の知と行為の働きにとって基盤となる身体(body)を主軸において,「看護師は理解,解釈や助言といった専門的なケアリングによって患者が病気というストレスに対処していくことを手助けできる」(Benner & Wrubel, 1989/1999)という考えのもとに,糖尿病患者への看護実践に関する理論的枠組みを新たに構築することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

・エンボディメント(embodiment):人間の主体的な身体の在り様で,日常的に捉えている考えや感情,心の持ちようということも含めて,それらが前認知的,習慣的に反応していくことで体現する.

・ケアリング(caring):ケアリングは思考と感情と行為を区別せず,人間の知の働きと存在を一体的に表現する.

・エンボディメントケア:看護の知識・技術と行為,思考,感情が一体となった気づかいを体現する.

・あいまいさ(vague):身体による感覚と認識は本質的に曖昧である.自分の身に起こっていることが情報として曖昧であっても,人間はそれを感知し,それに注意を向けることができる.

・身体(body):人の生き抜く器官であり,意味をおびた状況に反応する〈身体に根ざした知性〉の統合体である.

Ⅲ. 研究方法

本研究は,メタ統合の研究方法を用いた(Paterson et al., 2001/2010).ベナーらの解釈的現象学(Benner, 1994/2006),ケアリングの考え方(Benner & Wrubel, 1989/1999)を理論的前提として糖尿病患者を対象として行われた7つの研究論文(伊波,1997米田,1998馬場,2000野並ら,2000魚里,2001添田,2001西木,2001)の実践事例を一次資料とした.分析はグループ・ディスカッションを通して,テクストに埋め込まれている意味を解釈し,ケアの基盤となる意味の共通性を明らかにしていった.グループ・ディスカッションの手法は参加者間の議論を刺激し,そこで発展するダイナミクスが知見を得る鍵となる(Flick, 2007/2011)といわれており,本研究における実践知の創出プロセスの正当性及び妥当性を確保できるものと考えた.分析の過程で行ったグループ・ディスカッションの内容は後で参照できるように録音した.グループ・ディスカッションは2004~2006年の間に13回(75.5時間)行い,その逐語録を用いて,検討内容を再度見直すことを繰り返し,糖尿病患者へのエンボディメントケアの要素を明らかにしていった.

倫理的配慮:本研究で用いた一次資料は,研究倫理委員会での審査が始まる前の1997~2001年に行った研究のため組織化された委員会の審査を受けていないが,研究倫理原則にのっとり研究協力の依頼書・同意書を含めて倫理的配慮については研究計画書に明記されている.

Ⅳ. 研究結果

7つの論文のメタ統合の結果,順序性を持った4つのケア〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉〈身体の理解を深めるケア〉〈身体への信頼感を取り戻すケア〉〈新しい対処法を身につけるケア〉が明らかになった(表1).

表1 糖尿病患者へのエンボディメントケア
コアとなるケア ケアの構成 一次資料の具体例(抜粋)
あいまいな体験に輪郭を与えるケア 1)身体の感覚に働きかけるケア 患者は,自分から感じ取れない知覚障害を「わかるけど鈍い.」と表現した〔3〕.「足がサーと冷たくなる.」と自分の足趾に触れ,足がつった時の状態を再現して見せた〔7〕.下肢の冷感は左〉右が強いが,サーモグラフィー上は変わりがないことを伝えると,ひどいときには弾性ストッキングをつけると話した〔2〕.
2)見ていなかった足を見るケア 鏡に足底を映し,角化部位に触れることを促す.ひどい時の足は,痒みが強く,夜中も足を擦り合わせていたことに気づく〔7〕.右足親指がぴりぴりするという患者の足を一緒に見て,陥入爪について説明した〔3〕.「靴下を履かず,末梢が冷たい」患者に対して,血流を上昇するための保温について説明する〔2〕.
3)全身をくまなく見るケア 歯肉,舌など見る視点を伝える,手鏡で口腔内を見ながら,舌の正常な状態を説明する〔7〕.「おなかの音も聴いてみたい.」という患者の腹部に聴診器を当て,腸蠕動音を聴くように促した〔7〕.急に起き上がった患者の血圧が坐位と臥位で差がないことを伝え,高血糖状態が続くと血圧の調整が苦手になると説明する〔7〕.
4)生活の体験を聴くケア 患者は「年を取ると食べる量も減ってくる.それなのに残したらだめだと思って,無理して食べていた.」「こうやってお話しせんと生み出されてこないってことですね」と語った〔5〕.生活時間の柱になっている水泳がどのように食生活に影響しているかを説明する〔5〕.患者は「料理が足らないのは絶対嫌なので,いっぱい作る,肉も好き,ご飯を炊く量も多い.」「だから良くない.」と捉えた〔5〕.
身体の理解を深めるケア 1)身体の変化を理解可能なものにするケア 本人から「なくなってしまった.」と膝蓋腱反射軽度減弱とアキレス腱反射消失の知覚障害を初めて体験した〔3〕.血糖が下がらない体験を聴いて,現在の治療の経過と関連させて血糖が高いことの意味を伝えた〔5〕.患者は,ペンフィル30RとNで低血糖を感じる血糖値が違うと捉えていた.血糖値の閾値について説明した〔8〕.
2)状況に身を置けるように身体の来歴をつなぐケア 高血糖状態と「口が苦くなる」ことが繋がっていることを伝えた〔5〕.白癬に感染しやすいという体験を血糖値と実際の白癬のある足を見てそれと結びつけて説明した〔2〕.患者の「夜の血糖値が160なのに,どうして朝は180なのか?」という疑問に対して,看護師は血糖調節がうまくできない身体の理解を支援した〔5〕.
3)対処の手立てが見えてくるように理解を促すケア 調子の良くなってきたからだを血糖値やHbA1c,尿糖等の検査データから捉えた〔5〕.患者の「自分はどうして痩せてきたのか」という疑問に「食事や休息で体の負担がとれる.」と説明した〔5〕.「インスリンが出ているのに血糖が下がらない」という疑問に,血糖調節の仕組みや食事の量について説明する〔5〕.
4)手立ての方向性を確認するケア 高血糖状態で活力の低下,易疲労などを本人の体験と結びつけて説明した〔5〕.肥ったからだを「運動しなくてもすぐに疲れて,喉が渇く.」と捉え,「基本は食事と運動.体を大事にしていきます.」と話した〔5〕.足爪に抗真菌剤を実際に塗布する方法を示すと,自ら軟膏を塗擦し,足の洗い方も変えたことを伝えてきた〔7〕.
身体への信頼感を取り戻すケア 1)新しい対処法を体験するケア 足の手当てをすると,自身の手で触り,目で確認しながら「血の巡りが良くなっていますね」と捉えた〔2〕.看護師が患者へ爪切りと爪ヤスリの方法を示し,これまでの方法を確認する〔3〕.筋肉の状態を観察すると「筋肉が弱っているよ.」と言うことで,筋肉の収縮を感覚するように意識して膝関節の進展を促した〔7〕.
2)よくなっていく身体に出会うケア 「ただ血糖が下げるだけではいけないことが分かった」ことで,身体に合わせて無理のない下がり方が大事と捉えた〔5〕.患者が新しく取り入れた対処法により,足病変の予防に結びついていることを伝えた〔3〕.「ロッカーの鏡で口腔を見てる」「今は暴飲暴食しないから口内炎もできてない.」と話した〔7〕.
新しい対処法を身につけるケア 1)生活に取り入れた対処法について相談するケア 血糖が高くなった時の本人のからだの反応,解釈の仕方を伝え,からだの見方を用いて生活を見直していった〔5〕.「言われたようにストレッチして,休息して運動をやっています」と話し,いとおしむように見て「血管も出てきて,脱水だったのでしょうか.」「自分の体をもう少し大事にします.」と表現した〔7〕.
2)生活状況に応じて対処法を調整するケア 運動の方法を尋ねてきたため,ウォーミングアップと段階的に運動量を増やしていく方法を説明する.そうすると患者は,「ウォーキングで体重が減ってきた」「背筋・腹筋はやり過ぎ.」「以前は疲れていた.」と生活を捉えていった〔7〕.退院に当たって,症状の増減や日常生活の支障を感じ取れるようになったので,ABIを考慮しながら「これからもずっと付き合っていかないとね.」と話した〔3〕.

結果の記述ではコアとなるケアを〈 〉で示し,ケアの構成を《 》で示す.また,ケアが見出された事例部分を代表例として斜体で示す.代表例には,一次資料として用いた研究を〔1〕馬場(2000),〔2〕伊波(1997),〔3〕西木(2001),〔4〕野並ら(2000),〔5〕添田(2001),〔6〕魚里(2001),〔7〕米田(1998)と〔 〕で示す.

1. あいまいな体験に輪郭を与えるケア

〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉として,看護師は糖尿病患者が日常生活の中であいまいになっている身体の体験を意識にあげ,生活の中で捉えた身体の役割を伝える4つのケアを実践していた.

1) 《身体の感覚に働きかけるケア》

代表例として,『湯の入った試験管,冷水の入った試験管を手足の先端にあて,手足の知覚を刺激して反応を捉えるケアを行った.具体的には看護師が温覚を刺激する際「これが左です.これが右です.」と患者が皮膚感覚を意識できるよう声かけをした.患者は「右のほうが冷たいというか鈍い.」と反応した.看護師は「どこで温いか分かりますか?」と患者の表現を真似て問い返した.患者は「その辺で温いのが分かる.」と温覚を捉えた部位を言葉にした.看護師は患者の捉えた部位を確認し,伝えた〔7〕.』

このケアで看護師は,「からだはどこも悪くない」という糖尿病患者に対して,知覚を刺激して反応を捉えることを促し,そこで患者が発した言葉を看護師が確認して伝えていた.そうすると患者は「感覚がある」ということや,「実は,感覚が分からない」ということが分かってきて,自身の身体は悪い部分もあるが健康な部分もあるということに気づいていき,患者の中に何とかなるかもしれないといった可能性が生まれていた.

2) 《見ていなかった足を見るケア》

代表例として,『看護師が足を見ることを促すと,患者は椅子に足を乗せ,その足を手で隠し,自分からも看護師からも見えないようにした.足の皮膚の乾燥や皮膚剥離,白癬など見た結果を伝えると,「もともと足はきれいだったが,仕事柄長靴を履くことが多く水虫にやられた.」と話した.鏡に足底を映し,胼胝や角化症の部分をさして「ここに触れてみてください.」と促すと,患者は「ふーん,うんうんそうや.」と悪いところを手で隠し「見てない,それが悪い.」と自分の足を擦りながら話した〔7〕.』

このケアで看護師は,患者が見ていなかった足であり,見えるところにあるが促さないと目がいかない足であり,恥ずかしくて他人に見せられない足に対して,患者に足の血流・白癬・変形など足の状態を見ることを促しながら,生活する中で足をどのように使ってきたのか聴いていった.そうすると患者は,自身の身体の一部である足であり,糖尿病によって何らかの変化が見える足であることが分かったことで,足に関心が向き,足を通して身体を知る手がかりを得ていた.

3) 《全身をくまなく見るケア》

代表例として,『患者は看護師と一緒に腹部の蠕動音を聴いたり,触れていくことを通しておなかが動いていることを感じたり,皮膚の気になっている部分から全身の皮膚の状態を一緒に確認していくことで,皮膚に異常があることをわかっていき,普段意識していない身体を体験していた〔7〕.』

このケアで看護師は,患者が糖尿病とは関係ないと思っているが気になっていること,患者について看護師が気になっていることについて,口腔・皮膚・視力・血圧・腸蠕動など生活の中に表れた身体の部分を丁寧に見ていきながら,患者の反応に添ってからだの見方を教えていた.そうすると患者は,身体の全体の中の気づいている部分と気づいていない部分を浮かび上がらせていた.

4) 《生活の体験を聴くケア》

代表例として,『これまでどのような生活をされていたのかを看護師が問うと患者は「息子のこと,仕事のこと,誰にも頼れないこと,インスリン注射のこと,足の痛み等の自分の問題に気づいたこと,これからの食事を考えたこと,生活リズムには乗りたいけど乗れない.」という体験を語った.それを受けて看護師は,患者が意味づけ解釈した生活の体験を共通理解していた.そうすると患者は『残業の付き合いで夜食を食べたうえに,家では妻がせっかく作ってくれた夕食を食べているという生活を振り返り,食事の折り合いがつけられずからだに負担がかかっていること,家と職場で調整がとれず葛藤していたことに気づいていった〔5〕.』

このケアで看護師は,患者が自覚化しにくい生活習慣について,患者の意味づけを重視しながらライフヒストリーを聴いていくと,患者との間に「こういうことだったのですね」といった共通理解がとれていった.そうすると患者は,今まで過ごしてきた時間と身体の来歴や,どのような生活状況に関与しながら生きてきたかが分かり,患者が語る中で生活のまとまりがついていった.

2. 身体の理解を深めるケア

〈身体の理解を深めるケア〉として,看護師は患者が自身の身体に気づき,今の自身の身体を引き受けることができるように伝える4つのケアを実践していた.

1) 《身体の変化を理解可能なものにするケア》

代表例として,『患者は体格や体調を調べていく中で風邪をひきやすいこと,水虫があることなどから易感染状態にある身体に気づいていった.そこで看護師は患者と一緒に実際の白癬のある足を見て,易感染状態にある身体の体験と血糖値を結び付けて説明した〔5〕.』

このケアで看護師は,患者が生活の中で捉えている症状や気がかりを元に,それまでバラバラだった身体の体験をつなぎ,患者が疑問に思っていたことに対して説明をしていった.そうすると患者は,身体の変化が生活にどう表れているか理解できるようになり,生活の見通しが立つようになった.

2) 《状況に身を置けるように身体の体験の来歴をつなぐケア》

代表例として,『患者が「ウォーキングの時に階段を上がるたびに足に鉛をつけたような下半身のだるさがあった.」と話した時に,看護師は神経障害から来ているものだと分かるが,患者は生活状況の中の一つとしてだるいという体験をしていた.そこで看護師は再度身体の感覚に働きかけるケアを行い,患者は知覚が消失していることに気づいていった〔3〕.』

このケアで看護師は,患者の気になっている身体の体験を引き出したり,掘り起こしたりして,身体と生活の体験をつなぎ,生活の体験を浮かび上がらせていた.そうすると患者と看護師の双方で患者の気になっていたことの意味を見い出し,自身が身を置いている状況に気づけるようになった.

3) 《対処の手立てが見えてくるように理解を促すケア》

代表例として,『食事療法から話を始めたときに拒否された.患者の気になっていることは神経障害による下痢であった.下痢をしてしまった身体を理解しようと話し,症状の体験と疾患をつないでいったときに,こういう身体だから食事療法が必要なのだというところに目を向けていった.患者が目を向けることができたときに,あれを食べましょうとかではなく,口腔内を清潔にする,血糖が下がってきたら口の苦味が取れておいしく食べられる,禁煙したらおいしくなるとか,患者が今まで受けていない支援をしていくことで,食事療法を引き受けていくことができた〔5〕.』

このケアで看護師は,患者の気になっている症状の体験から自身の身体が置かれている状況を思い出せるように問いかけ,食べること・からだを動かすこと・薬の力を借りることへの理解を促すことで,対処の手立てが見えてくるようにしていた.そうすると患者は,これまでに取り組んできた対処の文化的な意味を捉え,何らかの対処が必要な身体であることを理解していった.

4) 《手立ての方向性を確認するケア》

代表例として,『BMIを算出し,体脂肪,ウエストヒップ比を患者と一緒に行い,看護師はこれらを合わせてみていくことで,体重や脂肪のつき方の変化が読み取れることを伝えた.そうすると患者は「こうやって見ていくと自分の体がよく分かる.」と話した〔5〕.』

このケアで看護師は,患者が取り入れた対処法やそれに対する患者の判断について聴いていった.そうすると患者は,取り入れた対処法によって起こった生活の変化や気持ちの変化を話し,今の自身の身体を引き受けることができるようになった.

3. 身体への信頼感を取り戻すケア

〈身体への信頼感を取り戻すケア〉として,看護師は患者が新しい対処法を体験することで自身の身体が手元にあるという感覚を捉え,よくなっていく身体を体験することを促す2つのケアを実践していた.

1) 《新しい対処法を体験するケア》

代表例として,『看護師がケアすることによって,患者は「ゴシゴシ洗わないと気が済まない.」「短く爪を切らないと気が済まない.」ことを思い起こした.改めて自分のからだがどうなっているのかをわかってもらうために,ここに胼胝がある,血流が悪いなど単にケアの仕方を伝えるのではなく,身体や生活の振り返りを強めていく.神経障害を持っている人でも生きている足だということを体験してもらうことで心配な身体であっても適切な対処,自分に見合った方法をとることでよくなっていくことを体験してもらう〔3〕.』

このケアで看護師は,ケアの方法を伝えるだけでなく,足の手当てをする,活動や食事により変化する身体を実感するよう促すことを継続して行っていた.そうすると患者は,自身が持っている身体の能力に気づき,身体が手元にあるということを実感していった.

2) 《よくなっていく身体に出会うケア》

代表例として,『足の裏がスベスベになり手入れの効果を伝えると「薬を毎日塗っているよ,それにきれいに洗っているからね,言われてから指の間もきれいに洗っている.」と足趾間に手指を一本ずつ入れて洗う仕草をし,「今まで足なんて洗ったことがなかった.」と話した〔7〕.』

このケアで看護師は,新しい対処法を提案し,患者が取り入れた後にどのように生活の中に組み入れていけるか助言し,実際に取り入れた対処法の効果を確認していた.そうすると患者は,自身の身体を手元に置けるようになり,手当てが継続できるようになった.

4. 〈新しい対処法を身につけるケア〉

〈新しい対処法を身につけるケア〉として,看護師は患者が新しい対処法を選択した後に,無理のない方法や自身にあったやり方をどのように生活の中に取り入れていくのかの判断を助け,生活の中に組み入れていく方法が馴染むように継続して見ていく2つのケアを実践していた.

1) 《生活に取り入れた対処法について相談するケア》

代表例として,『インスリンを受け入れてからだが楽になると,生活していく中でいろいろなことを体験する.例えば,外食でインスリンを忘れるとか,そういうことに対処するときどうすればいいかなどの疑問がどんどん増えていく.そこで患者が自分の方法を編み出し,創造していくことを支援する.低血糖の後に高血糖を起こすことを繰り返していた患者が,血糖のパターンを自分でつかんでいって,この時間に血糖値が80切ったら,何時には低血糖になる,こういう時にはラムネを1個とったら100ちょい位になる,以前のように低血糖の後に高血糖になることがなくなった.誰もラムネ1個とは教えていないが,患者が工夫して自分の方法を編み出していた〔5〕.』

このケアで看護師は,患者が新たな状況に踏み出すところへ助言し,対処法を創造していけるように知識・技術を提案し,患者が取り入れた対処法を確認し,自身で行っていけることができるように後押しをしていた.そうすると患者は,身体の理解が深まり,新しい対処法を体験し,取り入れた新しい対処法の持つ意味が変化していくことで,自分なりの方法を編み出す,生活を楽しめるようになった.

2) 《生活状況に応じて対処法を調整するケア》

代表例として,『「おやつを食べないように病院では断っているし,家ではおやつを出さないようにしている.自分は病気だと思うけど,友達づきあいで我慢してもらうのは申し訳ない気がする.」と語る患者に,看護師はカロリーのバランスが取れればおやつも取ることができることを伝えた〔5〕.』

このケアで看護師は,患者にとっておやつが大事なのではなく,患者の人づきあいの中でおやつの意味を捉え,生活していく中で状況に応じて調整できるように働きかけていた.そうすると患者は,不調はあるが生活していく上では余裕が持てるというようになり,身体が安らぎ,安定に向かった.

Ⅴ. 考察

ここでは,新たに構築された糖尿病患者へのエンボディメントケアの理論的枠組みとそのケアの中核にある安らぐこと(well-being)について論じる.

1. 新たに構築された糖尿病患者へのエンボディメントケアの理論的枠組み(図1

7つの論文のメタ統合の結果,明らかになった順序性を持った4つのケア〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉〈身体の理解を深めるケア〉〈身体への信頼感を取り戻すケア〉〈新しい対処法を身につけるケア〉を統合して,「糖尿病患者へのエンボディメントケア」と命名した.このケアは,実践の過程で看護師と患者の相互にケアの意味が見い出され,患者に新たな体験がつくりだされていくものであった.

図1

糖尿病患者へのエンボディメントケア

第一番目の〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉では,患者の反応を捉えるために聴く,語りを促すという看護師の行為が中心となる.Kleinman(1994/1996)が「語ること(ナラティブ)によって,病いをめぐるさまざまな出来事や経験や意味が整理され配列されて,ひとつのまとまりをもつようになる.また,病いの物語は過去の具体的な経験を組織化する一方で,経験を新しく創り出しさえする.」と述べている.〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉は,看護師が患者の身体と生活の繋がりが見えるようになる.患者にとってこのケアは,身体の体験として形づけられた生活に出会うという意味を持っていた.

第二番目の〈身体の理解を深めるケア〉では,身体の来歴の中で身につけている身体に根ざした知性について患者・看護師双方が理解を深めていくことになる.看護師は患者がどのような身体に根ざした知性を持ち合わせているかを理解し,患者も無意識的・無反省的に捉えている身体に根ざした知性をわかることによって,気づかいの必要な身体を引き受けられるようになる.〈身体の変化を理解するケア〉は,看護師がその患者に必要なケアを見出し,その患者のケアをする人となる.患者にとってこのケアは病気のある身体を引き受けることで新たな物語が生まれるという意味を持っていた.

第三番目の〈身体への信頼感を取り戻すケア〉では,看護師が手当てをしながら,患者が今までの対処方法を振り返り,新しい対処法を取り入れることで良くなっていく身体を体験する.このケアの段階で,患者が自身の持っている身体の能力を確認する.「人は自分のそれまでの経験に対する自分なりの解釈を持ってその都度の現在を生きており,過去と現在のこうした意味的結びつきを背景として,何かが未来の可能性として立ち現われてくる」(Benner & Wrubel, 1989/1999)というように,患者は自身の在り様が分かることで,身体がやっと手元にあることを実感し,思考がつながっていく.さらに,感情が生まれてくると,新たな生活状況が開けてきて,気づかいの行為が生まれる.〈身体への信頼感を取り戻すケア〉は,看護師が患者の元に居合わせ共に喜ぶ.患者にとってこのケアは,自身の身体が手元にあるという感覚を捉え,新たな身体に出会うという意味を持っていた.

第四番目の〈新しい対処法を身につけるケア〉では,患者が一歩前に居て,実際にやってみることを看護師が後押しする.患者が新しい対処法を身につけるために,看護師は効果があったときに根拠のある知識を提供すること,それでよいというような方向性を示すこと,共に喜ぶことを体験する.このことをBenner & Wrubel(1989/1999)は「感情には我々の注意と思考を特定の方向に導く働きがあり,自分の感情のきっかけとなったことと感情の意味に眼を向け,突き放すことなくそれらを心にとどめておけば,喜び,誇り,安心感,満足といった陽性の感情に何度も立ち戻るという技術が身につく」と述べている.〈新しい対処法を身につけるケア〉は,看護師が患者を信頼し安心する.患者にとってこのケアは,安定する状況に向かい,生活を楽しめるようになるという意味を持っていた.

看護師は「患者の単なる理解者という役割を超えて,患者自身の身になって当の状況を解釈するという役割を果たす」(Benner & Wrubel, 1989/1999)というように,糖尿病患者へのエンボディメントケアを通して患者のもとに居合わせ,共に喜ぶということを体験し,看護の実践者として成長していくことになる.

2. 糖尿病患者へのエンボディメントケアの中核にある安らぐこと

糖尿病患者へのエンボディメントケアを通して,生活習慣に伴う病気を生きる糖尿病患者は,合併症が進行し,病気が重篤であったとしても,「人間は身体に根ざした知性として存在するゆえに,世界の内,それを自分の世界,意味の世界として認識でき,この世界に安らぎを感じながら生きることができる.人間はここで寛ぐのである」(Benner & Wrubel, 1989/1999)と述べているように,糖尿病患者が安らぐこと(well-being)に向かい,患者の中に生活している個人が現れてきて,自立へと向かっていくようになる.

糖尿病患者へのエンボディメントケアによって,「人の持つ可能性と実際の実践と生き抜いている意味,この3つの間の適合として定義され,その人が他者や何らかの事柄を気づかうとともに,自ら人に気づかわれていると感じることから安らぎが生み出される」(Benner & Wrubel, 1989/1999)ように,身体に根ざした知性をもった存在である人間が安らぐこと(well-being)に向かい,身体が寛いで日常生活を取り戻していくことであった.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

今後,糖尿病患者へのエンボディメントケアに関するケアプロトコールの完成後に介入研究を行い,その研究結果をもとに,糖尿病患者へのエンボディメントケアそのものの洗練を重ねていく必要がある.

Ⅶ. 結論

糖尿病患者へのエンボディメントケアは,順序性を持った4つのケア〈あいまいな体験に輪郭を与えるケア〉〈身体の理解を深めるケア〉〈身体への信頼感を取り戻すケア〉〈新しい対処法を身につけるケア〉を通して,身体に根ざした知性を持った存在である患者が安らぐことに向かい,身体が寛ぐことで日常生活を取り戻し,自立へと向かうことを支援する看護実践の新たな理論的枠組みとしてまとまった.

謝辞:本研究は,日本学術振興会より基盤研究B「糖尿病患者へのヒューマン・ケアリングアプローチの有用性の検討」研究代表者野並葉子(課題番号:16390643)による研究助成を受け実施した研究である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:野並は研究の着想から最終原稿に至るまで研究プロセスに貢献した.伊波,米田,馬場,添田は,研究の着想および,分析,解釈,原稿への示唆に貢献した.河田は研究の分析,解釈,原稿の作成に関与した.曽根,魚里,鈴木,小江,上野は研究の着想から分析,解釈に関与した.

文献
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  • 魚里明子(2001):生活習慣病検診で血糖値に異常が認められた中高年女性の健康観と影響力,兵庫県立看護大学修士論文.
  • Flick U. (2007)/小田博志監訳(2011):新版 質的研究入門〈人間科学〉のための方法論,春秋社,東京.
  • 米田昭子(1998):高血糖にさらされている2型糖尿病患者の身体の感覚―看護ヘルスアセスメントを用いて―,兵庫県立看護大学修士論文.
 
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