日本看護科学会誌
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原著
健康診査受診者の生きがいと首尾一貫感覚(Sense of coherence: SOC)およびソーシャル・サポートとの関係
小島 亜未加藤 佳子
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2017 年 37 巻 p. 18-25

詳細
Abstract

目的:健康づくりと生きがいづくり推進の必要性が言われている.本研究では,生きがいを日本発祥のWell-beingとしてとらえ地域住民の生きがいに影響する健康生成要因として,首尾一貫感覚(Sense of coherence: SOC)およびソーシャル・サポートとの関係を検討した.

方法:健康診査受診者532名(男性275名44.2 ± 13.7歳,女性257名41.4 ± 12.7歳)を分析対象とした.調査内容は,SOC,ソーシャル・サポート,生きがいであった.

結果:生きがいの全体および下位尺度を従属変数とし,SOCと重要な他者からのソーシャル・サポートを独立変数として重回帰分析を行った.その結果,SOC(β = 0.285~0.398)と重要な他者からのソーシャル・サポート(β = 0.184~0.331)は生きがいに影響していることが示された.

結論:SOCと重要な他者からのソーシャル・サポートに着目することが,生きがいを高める支援につながることが示唆された.

Ⅰ. 緒言

健康増進の総合的な推進を図るための基本方針として,21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)が策定されている.また近年では,生活習慣が要因となり引き起こされるメタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome: MetS)に着目した対策が進められている.MetSの予防を含めた健康づくりには,生活習慣の改善が重要である.そのため,生活習慣の決定要因である社会環境のあり方の検討を通じて,性別や年代別の特徴を踏まえながら,全ての国民が生きがいを持ち健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現することが目指されている(厚生労働省,2012).この方針に基づき生きがいづくりを支援するためには,生きがいを評価し,生きがいを強化する要因を検討する必要がある.今井ら(2012)は「現在の生活・人生に対する楽天的・肯定的感情(以下,楽天的・肯定的感情)」,「未来への積極的・肯定的姿勢(以下,積極的・肯定的姿勢)」,「社会との関係における自己存在の意味の肯定的認識(以下,自己存在)」によって生きがいを評価する尺度を開発している(今井ら,2012).

世界保健機関(World health organization: WHO)は,健康とは単に病気あるいは虚弱でないというだけでなく,肉体的,精神的,社会的に完全に良好な状態(Well-being)であると定義した.WHO(2014)はこの定義を踏まえ,心の健康に注目し,心の健康こそが Well-beingの状態であるとしている.そしてWell-beingの状態では,個人が自分自身の可能性に気づき,日常のストレスに対処し,生産的かつ効果的に働き,コミュニティで貢献できることであるとしている(WHO 2014).このようなWell-beingの内容は,今井ら(2012)が概念化した生きがいの概念の「積極的・肯定的姿勢」,「自己存在」に一致すると考える.

一方,社会科学者によって自己存在の認知に関する研究が進められる中,Well-beingには二つの側面があるとされる.一つは感情面に注目したEmotional well-beingであり,二つ目は機能面に注目したPsychological well-beingとSocial well-beingである(Keyes & Magyar-Moe, 2003).

これら三つの領域も,生きがいの概念と類似している.すなわち,Psychological well-beingは生きがいのうち「積極的・肯定的態度」に,Social well-beingは「自己存在」,Emotional well-beingは「楽天的・肯定的感情」にほぼ対応する.このように生きがいは,わが国固有の概念とされながら(西村,2005),WHOが示している心の健康や学術的に検討が進められている自己存在の認知としてのWell-beingと共通性を有している.そして,生きがいをWell-beingとしてとらえた研究も進行している(堀口・小玉,2014).

Well-beingつまり生きがいが,生活習慣と同様に健康や寿命に重要な影響を及ぼすことが指摘されており(Elovainio, 2000),わが国の高齢者保健福祉施策,健康増進施策においても,生きがいづくりが目標とされることが多い.そこで,疾病予防や健康の維持増進の対策を推進すると同時に,生きがいに注目することが必要である.本研究では,今井ら(2012)が構成概念を提案した生きがいをわが国発祥のWell-beingとして研究を進めることとする.そのため,本研究で調査した生きがいを以下,生きがい(well-being)として記す.

ところで,従来の医療では,病気になる原因,危険因子を取り除くことで健康を回復するといった疾病生成モデルに基づくアプローチが中心であった.しかし,健康の維持増進においては,健康を積極的に生成する力を強化するアプローチが必要である(魚里,2013).これは健康生成モデルに基づくものであり,病原体や心理社会的なストレッサーに囲まれた中で健康の獲得を可能にする健康因子を究明し(山崎ら,2012),活性化することで人々の健康に貢献できる可能性がある.このモデルは,よりよい生活習慣の獲得を支援するうえで有効である.

健康因子には,首尾一貫感覚(Sense of coherence: SOC)などの人の内側にある内的資源とソーシャル・サポートに代表される人の外側にある外的資源がある.SOCは健康生成モデルの中核概念であり,ストレス対処・健康保持力概念として提唱された(Antonovsky, 1979).SOCが高い人は,ストレッサーに直面した際に首尾よく対処し,健康の維持増進が図られる(桝本,2001).また,SOCが高い人はより良い生活習慣を送ることが報告されている(浦川,2012).SOCに関する研究では,ソーシャル・サポートとの関係についても報告されている(青木,2015).

ソーシャル・サポートとはCaplan(1974)によって概念化され,個人を取り巻く人々からの援助を指す.ソーシャル・サポートが十分に得られるときに,人はストレスフルな状況によく対処すると報告されており(嶋,1992),ソーシャル・サポートが精神的健康の維持に有効であることは,多くの先行研究で確認されている(三浦・上里,2012嶋,1992).

国外の先行研究では,Well-beingの影響要因にソーシャル・サポートとSOCがあると報告されている(Elovainio, 2000).わが国の健康施策では,日本発祥のWell-beingである生きがいの向上を目指しているが,ソーシャル・サポートは生きがいを高めると報告されている(蘇・林,2004小窪ら,2014).しかし,生きがいとSOCとの関連は,未だ確認されていない.

これまで生きがいに関しては,高齢期に焦点があてられた研究が多かった(中野,2011藤本ら,2004).しかし,生きがいは自我の確立する青年期より成立するとされ,青年期を対象とした生きがいの研究もなされている(藤木・井上,2007阿知波・山田,2012).生活習慣病やうつ病を起因とする自殺などわが国が抱える健康課題が急増する成人期を考慮し,青年期を含め,生きがいを検討することは,健康づくりの推進に重要な知見となり,健康寿命の延伸に寄与すると考えた.

以上のことから,健康診査(以下,健診)や保健指導などの健康づくりは,生理指標に示される疾病の有無だけでなく,健康としてのWell-beingもあわせて着目する必要があると考えた.そして,保健指導に資する知見の獲得をめざし,健診受診者を対象に,健康生成モデルの概念に基づいて,生きがいに影響する主要因としてSOCとソーシャル・サポートを想定し,他の外的資源でもある居住形態,最終学歴,就労状況,経済に対する満足感の影響を考慮し,SOCとソーシャル・サポートが生きがいに影響する程度について検討することを本研究の目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 調査時期および対象者

18歳以上の者を対象として健診(40歳以上に行われる特定健診も含む)を実施しているM市に調査依頼をした.協力が得られた健診実施医療機関である市民病院と市役所の健診受診者を対象に質問紙調査を行った.市民病院の調査期間は2014年7月~9月,回収率は44.9%,有効回答率は96.6%であった.最終的に,532名(男性275名,女性257名)を分析対象とした.男女別の平均年齢と標準偏差は,男性44.2 ± 13.7歳,女性41.4 ± 12.7歳であった.

2. 調査内容

1) 首尾一貫感覚(Sense of coherence: SOC)

Antonovsky(1979)が開発した人生の志向性に関する質問票日本語短縮版SOC-13を使用した(山崎ら,2012).この尺度は13項目で構成され,7件法で回答を得た.得点が高いほど,適切な対処方略を選び取り駆使することができる(Antonovsky, 1979).

2) ソーシャル・サポート

Zimet et al.(1988)によって開発されたソーシャル・サポート尺度(Multidimensional Scale of Perceived Social Support: MSPSS)の日本語版を使用した(岩佐ら,2007).家族,重要な他者,友人(各3項目)からのサポートに対する知覚について尋ねている.「まったくそうは思わない」(1点)から「非常にそう思う」(4点)の4件法で回答を得た.

3) 生きがい(well-being)

今井ら(2012)によって作成された生きがい意識尺度(Ikigai-9)を使用した.「現状の生活・人生に対する楽天的・肯定的感情」,「未来への積極的・肯定的態度」,「社会との関係における自己存在の意味の肯定的認識」(各3項目)から構成されている.「ほとんどあてはまらない」(1点)から「とてもあてはまる」(5点)の5件法で回答を得た.

4) 基本属性等

年齢,性別,身長,体重,MetSに対する認知度,休養の状況,3日間に感じたストレスの程度について尋ねた.

3. 倫理的配慮

本調査は所属大学の倫理審査委員会の承認(2014年6月30日承認)を得て実施した.調査時に,調査の趣旨と内容の説明,協力を求める文章を添付した.調査は無記名とし,同意が得られた対象者のみ質問紙の提出を求め調査への参加は自由意思とした.

4. 分析方法

Ikigai-9とMSPSSは中高年者を対象に妥当性と信頼性の確認がされている.そこで,青年期を含めた対象についての構成概念妥当性を検討するため,下位尺度ごとで,固有値を1以上とし主成分分析による確証的因子分析を行った.そして,下位尺度が一次元構造であるかを確認した(村上,2013).また,クロンバックα係数を算出した.

次に,男女別の特徴を明らかにするため,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),居住形態,最終学歴,就労状況,経済に対する満足感,MetSに対する認知度,休養の状況,生きがい(well-being),SOC,ソーシャル・サポート,ストレスについてt検定またはχ2検定を行った.年代,居住形態,最終学歴,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況を独立変数とし,生きがいを従属変数として分散分析を行った.その後,ボンフェローニの多重比較を行った.次に,生きがい(well-being),SOC,ソーシャル・サポート,ストレスについて,ピアソンの積率相関係数を算出した.また,生きがい(well-being)を従属変数,SOCと重要な他者からのソーシャル・サポートを独立変数とし,生きがい(well-being)と関連のあった変数を調整変数として重回帰分析を行った.分析には,SPSS ver. 21を用いた.

Ⅲ. 研究結果

1. 各尺度の妥当性と信頼性の検討

Ikigai-9とMSPSSの下位尺度ごとに主成分分析を行ったところ,1つの主成分が抽出された.主成分負荷量は 0.811以上で寄与率は 72.8%以上であり強い一次元構造が確認された.クロンバックα係数は 0.812~0.915であった.

2. 対象者の男女別特性(表1

表1に対象者の男女別特性を示した.年齢,BMI,最終学歴,就労状況,ソーシャル・サポート,ストレスに男女差が見られた.

表1 対象者の基本属性,諸要因の男女比較
全体(n = 532) 男性(n = 275) 女性(n = 257) P
年齢(歳)平均(標準偏差)範囲 42.8(13.3) 21–76 44.2(13.7) 22–76 41.4(12.7) 21–70 0.020a
n = 487 欠損値n 45 24 21
BMI平均(標準偏差)範囲 22.2(3.0) 15.8–33.1 23.0(2.9) 17.0–33.1 21.2(2.9) 15.8–32.4 P < 0.001a
n = 468 欠損値n 64 28 36
居住形態n(%)
 一人暮らし 43 (8.2) 22 (8.1) 21 (8.2) 0.998
 配偶者と二人暮らし 85 (16.2) 44 (16.2) 41 (16.1)
 家族と同居 398 (75.7) 205 (75.6) 193 (75.7)
欠損値n 6 4 2
最終学歴n(%)
 中・高等学校 110 (22.4) 61 (24.5) 49 (20.3) P < 0.001
 専門学校 57 (11.6) 19 (7.6) 38 (15.8)
 短期大学 80 (16.3) 7 (2.8) 73 (30.3)
 大学(学部) 222 (45.3) 147 (59.0) 75 (31.1)
 大学(大学院) 21 (4.3) 15 (6.0) 6 (2.5)
欠損値n 42 26 16
就労状況n(%)
 フルタイム就労 425 (82.4) 232 (87.5) 193 (76.9) 0.001
 パートタイム就労・アルバイト 34 (6.6) 8 (3.3) 26 (10.4)
 自営業 12 (2.3) 8 (3.3) 4 (1.6)
 無職 45 (8.7) 17 (6.9) 28 (11.2)
欠損値n 16 10 6
経済に対する満足感n(%)
 十分満足している 24 (4.9) 12 (4.8) 12 (5.0) 0.470
 満足している 295 (60.1) 142 (57.0) 153 (63.2)
 あまり満足していない 149 (30.3) 81 (32.5) 68 (28.1)
 全く満足していない 23 (4.7) 14 (5.6) 9 (3.7)
欠損値n 41 26 15
メタボリックシンドロームに対する認知度n(%)
 十分知っている 89 (18.1) 48 (19.1) 41 (16.9) 0.370
 まあまあ知っている 319 (64.7) 163 (64.9) 156 (64.5)
 あまり知らない 80 (16.2) 36 (14.3) 44 (18.2)
 まったく知らない 5 (1.0) 4 (1.6) 1 (0.4)
欠損値n 39 24 15
休養の状況n(%)
 十分とれている 60 (11.5) 31 (11.5) 29 (11.5) 0.312
 まあまあとれている 272 (52.2) 133 (49.4) 139 (55.2)
 あまりとれていない 167 (32.1) 90 (33.5) 77 (30.6)
 まったくとれていない 22 (4.2) 15 (5.6) 7 (2.8)
欠損値n 11 6 5
生きがい(well-being)平均(標準偏差)範囲
 全体 30.0(6.4) 9–45 30.0(6.6) 9–45 29.9(6.2) 13–45 0.904a
欠損値n 13 8 5
 生活人生満足感 3.3(0.8) 1.0–5.0 3.2(0.8) 1.0–5.0 3.3(0.8) 1.3–5.0 0.386a
欠損値n 11 6 5
 未来への肯定 3.5(0.9) 1.0–5.0 3.6(0.9) 1.0–5.0 3.5(0.9) 1.0–5.0 0.549a
欠損値n 11 7 4
 自己存在意味の認識 3.2(0.8) 1.0–5.0 3.2(0.8) 1.0–5.0 3.2(0.8) 1.0–5.0 0.542a
欠損値n 11 7 4
SOC 平均(標準偏差)範囲 4.4(0.9) 1.08–6.77 4.4(0.9) 1.08–6.77 4.4(0.9) 1.92–6.54 0.906a
欠損値n 18 8 10
ソーシャル・サポート 平均(標準偏差)範囲
 家族 3.2(0.6) 1.0–4.0 3.2(0.6) 1.0–4.0 3.3(0.6) 1.0–4.0 0.033a
欠損値n 20 8 12
 重要な他者 3.2(0.6) 1.0–4.0 3.1(0.6) 1.0–4.0 3.3(0.6) 1.0–4.0 P < 0.001a
欠損値n 14 7 7
 友人 2.9(0.7) 1.0–4.0 2.8(0.7) 1.0–4.0 3.0(0.7) 1.0–4.0 P < 0.001a
欠損値n 17 9 8
ストレス(%)平均(標準偏差)範囲
51.6(25.0) 0–100 49.3(24.5) 0–100 53.9(25.4) 0–100 0.035a
欠損値n 9 6 3

無印:χ2検定,a:t検定

3. 生きがい(well-being)と諸要因との関係(表2

生きがいの得点に有意な差がみられたのは,生きがい全体では,年代,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況であった.「楽天的・肯定的感情」では,年代,居住形態,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況であった.「積極的・肯定的態度」では,年代と休養の状況であった.「自己存在」では,年代,居住形態,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況であった.

表2 生きがい(well-being)の下位尺度と年代,居住形態,最終学歴,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況の分散分析および多重比較の結果
全体 現状の生活・人生に対する楽天的・肯定的感情 未来への積極的・肯定的態度 社会との関係における自己存在の意味の肯定的認識
Mean SD P 多重比較 Mean SD P 多重比較 Mean SD P 多重比較 Mean SD P 多重比較
年代
20歳代 a 29.5 ± 6.8 .000 e > a, b, c 3.2 ± 0.9 .000 e > a, b, c 3.7 ± 0.9 .012 e > c 3.0 ± 0.9 .000 d, e > a, c
30歳代 b 29.9 ± 5.7 3.2 ± 0.7 d > c 3.5 ± 0.9 3.2 ± 0.8
40歳代 c 28.4 ± 6.3 3.0 ± 0.8 e > d 3.4 ± 0.9 3.0 ± 0.7
50歳代 d 30.5 ± 6.1 3.3 ± 0.8 3.5 ± 0.8 3.4 ± 0.8
60歳以上 e 32.4 ± 6.1 3.7 ± 0.8 3.7 ± 0.9 3.4 ± 0.8
居住形態
一人暮らし a 28.2 ± 6.1 .160 n.s 2.9 ± 0.8 .003 b, c > a 3.6 ± 0.8 .686 n.s 2.8 ± 0.8 .020 b, c > a
配偶者と二人暮らし b 30.4 ± 7.1 3.4 ± 0.9 3.5 ± 1.0 3.2 ± 0.8
家族と同居 c 30.0 ± 6.3 3.3 ± 0.8 3.6 ± 0.9 3.2 ± 0.8
最終学歴
中・高等学校 a 29.7 ± 6.5 .749 n.s 3.3 ± 0.8 .904 n.s 3.4 ± 0.9 .273 n.s 3.2 ± 0.8 .429 n.s
専門学校 b 29.9 ± 6.4 3.3 ± 0.8 3.5 ± 1.0 3.2 ± 0.8
短期大学 c 29.4 ± 6.2 3.2 ± 0.8 3.4 ± 0.9 3.1 ± 0.8
大学(学部) d 29.9 ± 6.2 3.2 ± 0.8 3.6 ± 0.9 3.1 ± 0.8
大学(大学院) e 31.6 ± 6.1 3.4 ± 0.9 3.7 ± 0.9 3.5 ± 0.9
就労状況
フルタイム就労 a 29.5 ± 6.4 .003 b > a 3.2 ± 0.8 .000 b, d > a 3.5 ± 0.9 .612 n.s 3.1 ± 0.8 .014 b > a
パートタイム就労・アルバイト b 33.3 ± 6.9 3.8 ± 0.7 3.8 ± 1.0 3.6 ± 0.9
自営業 c 32.5 ± 3.3 3.5 ± 0.4 3.7 ± 0.7 3.6 ± 0.4
無職 d 31.5 ± 5.4 3.7 ± 0.7 3.6 ± 0.7 3.3 ± 0.7
経済に対する満足感
十分満足している a 33.4 ± 7.0 .000 a, b > c > d 3.7 ± 1.0 .000 a, b > c > d 3.9 ± 0.9 .043 n.s 3.6 ± 0.8 .000 a > c, d
b > d
満足している b 30.8 ± 5.7 3.4 ± 0.7 3.6 ± 0.8 3.3 ± 0.8
あまり満足していない c 28.3 ± 6.5 3.0 ± 0.8 3.4 ± 1.0 3.0 ± 0.8
全く満足していない d 24.2 ± 6.4 2.2 ± 0.7 3.2 ± 1.0 2.6 ± 0.9
休養の状況
十分とれている a 33.8 ± 6.0 .000 a > b > c > d 3.8 ± 0.8 .000 a > b > c > d 4.0 ± 0.8 .000 a > b, c, d 3.5 ± 0.9 .004 a > c, d
まあまあとれている b 30.4 ± 5.9 3.4 ± 0.7 3.6 ± 0.8 3.2 ± 0.8
あまりとれていない c 28.6 ± 6.3 3.0 ± 0.8 3.5 ± 0.9 3.1 ± 0.8
まったくとれていない d 25.4 ± 7.4 2.5 ± 0.8 3.2 ± 1.0 2.8 ± 0.9

4. 生きがい(well-being)とSOC,ソーシャル・サポート,ストレスの相関(表3

生きがい(well-being)とSOCとの間のピアソンの積率相関係数(r)は0.342~0.593であった.また,「家族」,「重要な他者」,「友人」からのソーシャル・サポートとも正の相関があった(r = 0.235~0.543).ストレスとは,負の相関があった(r = –0.138~–0.513).

表3 生きがい(well-being),Sense of coherence,ソーシャル・サポート,ストレスとの相関(ピアソンの積率相関係数)
生きがい(well-being)
全体 現状生活・人生に対する楽天的・肯定的感情 未来への積極的・肯定的態度 社会との関係における自己存在の意味の肯定的認識
SOC .559*** .593*** .342*** .498***
ソーシャル・サポート 家族 .404*** .432*** .235*** .368***
重要な他者 .503*** .543*** .306*** .438***
友人 .417*** .391*** .339*** .326***
ストレス –.329*** –.513*** –.138** –.197***

*:P < 0.05,**:P < 0.01,***:P < 0.001

注)ピアソンの積率相関係数

5. 生きがい(well-being)に影響する要因について(表4

生きがいに影響する要因について重回帰分析を行い検討した(表4).なお,事前に独立変数間の相関について検討したところ,ソーシャル・サポートの下位尺度間の相関が中程度以上であった(r = 0.525~0.752).そこで,多重共線性の問題を回避するために,生きがいと最も強い関連がみられた重要な他者からのソーシャル・サポートのみを独立変数として投入した.SOCからの標準偏回帰係数(β)は0.285~0.398,ソーシャル・サポート(重要な他者)からの標準偏回帰係数(β)は0.184~0.331であった.

表4 生きがい(well-being)を従属変数としたSense of coherenceおよび重要な他者からのソーシャル・サポートとの重回帰分析の結果
生きがい(well-being)(全体) 現状の生活・人生に対する楽天的・肯定的感情 未来への積極的・肯定的態度 社会との関係における自己存在の意味の肯定的認識
単回帰分析 重回帰分析a 単回帰分析 重回帰分析b 単回帰分析 重回帰分析c 単回帰分析 重回帰分析d
SOC .559*** .394*** .593*** .285*** .342*** .328*** .498*** .398***
R2 = .311 R2 = .350 R2 = .115 R2 = .247
重要な他者からのソーシャル・サポート .503*** .300*** .543*** .331*** .306*** .184*** .438*** .228***
R2 = .252 R2 = .293 R2 = .092 R2 = .190
R2 = .416 R2 = .563 R2 = .169 R2 = .325

* P < 0.05 ** P < 0.01 *** P < 0.001

注)標準偏回帰係数

a:調整変数 年代,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況,ストレス

b:調整変数 年代,居住形態,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況,ストレス

c:調整変数 年代,休養の状況,ストレス

d:調整変数 年代,居住形態,就労状況,経済に対する満足感,休養の状況,ストレス

R2:調整済み決定係数

Ⅳ. 考察

1. 生きがいの性差および年代別特徴

本研究では,生きがいに性差は見られなかった.35歳から74歳を対象とした先行研究でも性差が見られなかったことから(西村,2005),本研究結果には一定の妥当性があると考えられる.しかし,60歳以上の高齢者を対象とした調査では,女性のほうが生きがい得点が高いことが報告されている(近藤・鎌田,2004).生きがいを評価する尺度の構成に相違があるために,異なった結果となった可能性もある.年代によっては生きがいに影響するライフスタイルに顕著な男女差がある可能性もある.さらに詳細な検討を進めるためには,年代別の性差の検討についても必要である.

生きがい得点は60歳以上が他の年代より高く,40歳代は他の年代より低かった.この傾向は先行研究と一致している(佐藤,2006細田ら,2015).40歳代は,うつ病による自殺や生活習慣病の増加など健康課題の急増が報告されているが(内閣府,2015),対象者の職場環境が生きがいの促進に関連していることなども見いだされており(細田ら,2015),今後は,中年層の生きがいづくりの阻害要因と促進要因を明らかにし,改善に取り組む必要がある.

2. 生きがい(well-being)とSOC,ソーシャル・サポートとの関連

SOCとソーシャル・サポートがわが国発祥のWell-beingである生きがい(well-being)に影響している可能性がみいだされた.国外でもWell-beingとSOCの関係が報告されている(Elovainio, 2000Pallant, 2002).これらの報告を合わせて考えると,SOCを高めることは,生きがい(well-being)を含めたWell-beingを強化することにつながると考える.

次に,生きがい(well-being)とソーシャル・サポートとの関連についてみてみる.ソーシャル・サポートが生きがい(well-being)に関連する要因の一つであることはこれまでの研究で報告されている(青木,2015蘇・林,2004).今回,生きがい(well-being)に影響する要因として重要な他者からのサポートが比較的強く関わっている可能性が示唆された.石井(2011)は,重要な他者とは,個人にとって,パーソナリティや態度,価値規範などの形成や変化に大きな影響を及ぼした人物を指すと述べており,認識された重要な他者から支えを得ていると感じることが生きがいを高めるうえで重要であると考える.

生きがい(well-being)の影響要因としてSOCとソーシャル・サポートを想定し検討したところ,SOCおよび重要な他者からのサポートを強化することが生きがいを高めるうえで有効であることが示唆された.SOCを高める介入として,マインドフルネスによるストレス軽減プログラム(Weissbecker et al., 2002)やストレス対処能力を増強することを目的とした健康生成プログラム(Langeland et al., 2006)などによる効果が報告されている.看護においても対象者が自らのストレスの軽減をはかことができるような支援を行ったり,対象者が自己のストレス対処能力や資源に気づくことを促し,これを利用できるようにすることでSOCを高め,生きがいづくりの一助となることができると考える.また,SOCは良好な生活習慣と関連していることが報告されている(浦川,2012)こともあわせて考えると,SOCを高めることは,生きがいの向上にとどまらず良好な生活習慣を導く可能性がある.これらの結果は,今後の健康づくりの推進において,重要な知見となる.

本研究は,限定した地域を対象としているうえ,対象者が健診受診者であり,健康意識が高い集団である可能性が考えられる.今後,他の地域および健診受診者以外の対象で行った場合も同様の結果が得られるか検証が望まれる.

Ⅴ. 結論

生きがい(well-being)にSOCおよびソーシャル・サポートが影響している可能性が示唆された.特に,重要な他者からのサポートが生きがい(well-being)に影響していた.

謝辞:調査にご協力いただいた関係機関とスタッフの皆様に深謝します.本研究はJSPS科研費15K00871の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AKは研究デザイン,研究対象者の交渉,データ収集と分析,草稿の作成;YKは研究全体の流れ,分析および草稿への助言;全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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© 2017 公益社団法人日本看護科学学会
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