Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Decision-making Process of Women who Discontinue Fertility Treatment after Unsuccessful Attempts: an Analysis with the Trajectory Equifinality Model
Akiyo MioMiki SatoMakiko Komatsu
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 37 Pages 26-34

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Abstract

目的:不妊治療を受療した女性が子どもを得ず治療終結を意思決定する過程の多様な径路と,多様な径路を辿る影響要因を明らかにし,その特徴から終結期の看護支援を見出す.

方法:子どもを得ず不妊治療を終結した女性15名に面接調査を行った.分析手法は,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた.

結果:終結過程は,治療を周囲に伝えるか否かの選択,治療継続か否かの葛藤,相談するか否かの選択,本当に治療をやめてよいかの葛藤などの分岐を経ながらそれぞれの径路で終結に向かっていた.周囲の期待・年齢の焦り,諦めきれない思いなどが治療継続を選択させ,夫や親の承認,医療者の対応,限界の自覚,産まれる子どものリスクと命の有限性の実感が,終結の意思決定に影響していた.

結論:治療継続・終結への思いと影響要因を把握し,適切な情報提供と相談の機会を確保し,本人と重要他者が納得し選択できるように支援することが重要である.

Ⅰ. 緒言

出生動向基本調査(2015)によれば,不妊を心配したことのある夫婦は,25.8%(2005)から35.0%に増加した.生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology: ART)による出生児は総出生児数の24人に1人に増加しているが,ARTにおいても生産率は20%程度であり,42歳では5%以下(日本産婦人科学会,2012)となる.このことは,ARTによっても子どもが得られるとは限らず,40歳前後で治療終結を決断せざるを得ない女性が多いことを示す.

先行研究においては,40歳以上の患者は自身の終結年齢の見通しには回答せず(杉本ら,2010),治療をやめて2年が経過しても,閉経前の女性は治療の再開を検討している(Johansson & Berg, 2005).また,終結を考えながらも受療し続ける理由(渡邊,2011),終結決断要因(渡邊,2010),終結に至る女性の心理過程(竹家,2008)が報告され,治療を継続してきた女性が,子どもを得ず治療終結を決断することは容易でないことが明らかにされている.

不妊治療終結期の看護の現状をみると,不妊患者支援のための看護ガイドライン作成グループが示すガイドライン(2001)には,悲嘆のプロセスの支援と終結の意思決定支援が必要とあるが,具体的な実践は,施設独自の実践報告(浅野,2007實崎,2010)に留まっている.

以上,不妊治療の終結に至る女性の心理や要因は明らかにされているが,当事者がどのような選択や対処によって治療終結に至るのか,当事者の意思決定の視点で捉えた研究は見当たらない.

そのため,不妊治療を終結した女性の体験から,様々な要因の影響を受け葛藤と選択を繰り返しながら治療を終結する女性の意思決定過程を明らかにする必要があると考えた.この過程を示すことは,治療の終結に迷う当事者,支援する看護職にとって,不安や困難への対処や支援を見出すうえで有益となる.

そこで,本研究では,ARTを受けてきた女性が子どもを得ず不妊治療終結を意思決定していく過程の多様な径路と,多様な径路を選択する影響要因を明らかにし,不妊治療終結に至る女性の意思決定モデルを提示し,終結過程や径路の特徴に応じた看護支援の内容と方法を見出すことを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:以下TEM)の分析手法を用いた質的研究である.TEMは,個々人が多様な径路を辿ったとしても,等しく到達するポイント(等至点)があるという考え方を基本とし,人間の発達や人生径路の多様性・複線性の時間的変容を捉える分析・思考の枠組みモデルであり,対象の理解を深めたり,起こりうる可能性について考察を深めることを目指している(安田,2005).TEM図を描くことで,対象の具体的な経験や時系列を保持し,どんな選択を迫られ,何に影響され決定したのか可視化できる.本研究では,様々な要因の影響を受けながら,不妊治療を終結する決断の様相を明らかにするためTEMを適用した.

2. 研究協力者

ARTを経験し,子どもを得ることなく治療を終結した女性15名

3. 調査方法

平成26年10月~平成27年9月に半構成的面接を2~4回行った.TEMでは,対象者と研究者の視点・見方の融合,すなわち結果の真正性(authenticity)に近づけるため,3回の面接を推奨している(サトウ,2012).1回の面接終了後にTEM図を作成し,次回の面接でそれを提示し認識のずれを修正し,内容を深く掘り下げ真正性の確保に努めた.面接内容は,不妊治療を始めた理由,治療継続に迷いが生じるまでの経過,治療の継続に迷い始めた理由,治療終結を決断した理由ときっかけ,終結決断までの行動や選択・気持ちの変化と影響要因とした.

4. 分析方法

TEM分析の手法を基に以下の手順で行った.

1)1事例ずつ,直面した出来事,行動や選択,その時の状況や影響要因,気持ちや認識の変化を示す意味内容ごとを切片化し,切片の時系列を整理した.

2)等至点(Equifinality Point: EFP)に「不妊治療を終結する」を設定し,EFPに至る径路の研究者の認識を拡張するために理論上EFPと対極に位置するP-EFP(Polarized-EFP)を設定する必要があり,本研究では,P-EFPに「治療終結に迷い逡巡する」を設定した.そして,全事例の類似の出来事,行動や選択,気持ちといった体験を摺合せ,論理的・制度的・慣習的にほとんどの人が経験する必須通過点(Obligatory Passage Point: OPP),行動が多様に分かれていく分岐点(Bifurcation Point: BFP)を抽出した.

3)等至点(EFP)に至る過程の中で,分岐点(BFP)と必須通過点(OPP),各径路(行動・考え)を記載し基本となるTEM図を作成した.

4)TEMでは,各径路の選択を後押しする認識,援助的な力を社会的ガイド(Social Guidance: SG)(促進的要因)といい,阻害的・抑制的に働く事象,認識を社会的方向づけ(Social Direction: SD)(抑制的要因)とする.どちらに該当するのか検討し意味内容の類似性に基づき,各径路(行動・考え)の選択に至った要因をカテゴリ化した.

5)基本となるTEM図にカテゴリ化したSGとSDを加え全体のTEM図を完成させた.

6)径路の類型化と特徴の明確化

TEMでは,9 ± 2人の体験で,径路の類型が把握できる(サトウ,2012)とあり,等至点(EFP)に向かう径路を類型化し,特徴を検討した.

7)切片化,カテゴリ化の過程を研究者2名が別々に行い,もう1名の研究者が中立的な立場で内容を確認し,一致するまで検討した.カテゴリ化の結果は,不妊看護の経験のある研究者1名と看護職1名に提示し確認した.また,研究協力者2名に逐語録とラベルと分析結果を提示し確認した.

5. 倫理的配慮

本研究は岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会の承認(26-191)を受けて実施した.研究参加は自由意思を尊重し,匿名化と守秘に努めた.面接中は答えたくないことは無理に答えなくてもよいことを説明しながら進めた.

Ⅲ. 結果

1. 研究協力者の背景

年齢は,40歳代6名,50歳代9名であった.治療期間は,4~12年であり,面接時は,治療終結後1~12年であった.不妊症の原因は,女性因子12名,男性因子2名,両方1名であった.

2. 不妊治療開始から終結を決断するまでのTEM

等至点(EFP)を『明朝体』,分岐点(BFP)と必須通過点(OPP)を「明朝体」,各径路(行動・考え)は「ゴシック体」,語りは「イタリック体」で示す.なお,「治療すれば妊娠できると信じて開始する」OPP①から「治療を繰り返しても結果が得られない」OPP⑤までを第1期,「繰り返し治療をすることに疑問を抱く」BFP③から『不妊治療を終結する』EFPを第2期とした.

1) 第1期「治療すれば妊娠できると信じて開始する」OPP①から「治療を繰り返しても結果が得られない」OPP⑤まで(図1

治療開始は,結婚し2人の生活が落ち着いた頃に,子どもが欲しい気持ちが浮上し,自然妊娠しないため受診し,「確率から5回やれば妊娠すると思った」など「治療すれば妊娠できると信じて開始する」OPP①であった.治療開始後,仕事の有無に関わらず,「治療を身内や友人に伝えるか検討する」BFP①ことを行ない,「母は何でも相談できる存在.分かってくれる」のように「A1:治療を伝える」選択と,「長男の嫁,義父は期待していたから義父母には内緒でした」のように「A1':治療を伝えない」選択があった.有職者では,「治療を上司・同僚に伝えるか検討する」BFP①ことを行ない,「上司に,子どもは自分達を成長させてくれる,早く作った方がいいと言われていたので伝えた」のように「A2:治療を伝える」選択と「誘発剤さえ使えば妊娠できるから言わない」のように「A2':治療を伝えない」選択があった.

図1

第1期:治療すれば妊娠できると信じて開始する~治療を繰り返しても結果が得られない までの基本のTEM図

治療を始めてから全例が,「ランチに誘われても,はぐらかして急にキャンセルする」「職場には,体調不良のため少し遅れると伝えて通院する」のように「可能な限り生活・仕事と治療を調整する」OPP②を行なっていた.

その後,生活・仕事と治療の両立に困難が生じた場合には,再度「治療を身内や友人に伝えるか検討する」「治療を上司・同僚に伝えるか検討する」を行ない,「A3,A4:治療を伝える」もしくは「A3',A4':治療を伝えない」選択を行ない,生活・仕事と治療を両立させていた.

その後,全例が期待に反し結果が得られない体験をしており,「結果が得られない」が必須通過点OPP③となっていた.そして,「簡単ではないことを認識し治療への向き合い方を検討する」BFP②が分岐点となり,「仕事は他の人が代われるが,治療は私がするしかないと思い仕事をやめた」のように「B:治療優先の生活にする」選択と「治療中の夫婦生活は決められた形で,ロボットのように感じ,嫌になり病院を離れた」のように「B':治療を中断する」選択に分かれた.この時点で,「B':治療を中断する」選択をしても,「治療再開を検討する」選択をし「治療を再開する」場合や,「養子を検討する」選択をしたが「養子を断念する」こととなり,「治療を再開する」場合があり,いずれの場合も,「B:治療優先の生活にする」選択に至っていた.

「B:治療優先の生活にする」なかで,「40歳までは取りあえず頑張ろうと目標を決める」のように「C:期限を決めて治療に向かう」選択と「仕事をやめたので,ジム,漢方などとにかく少しでもいいと思われることはやる.治療のことしか考えられなくなり,情報誌も買って情報を得る」のように「C':不妊に関する情報を収集し良いと判断したことを取り入れる」選択とがあった.しかし,「努力してもできないことがあると,初めて思い知らされた」のように,どちらを選択しても結果が得られないため気持ちが続かない体験をしており,「気持ちが続かない」が必須通過点OPP④となった.

その後,「情報も欲しい,辛い気持ちを打ち明ける友人も欲しいと思い,ネットで自助グループを探し入会した」のように「D:治療を続ける気持ちを維持するために様々な努力をする」選択と「私が死んだら保険金が入る,それで夫も生きて行ける,事故か何かで死なないかなあと常に思う,夫に子どもを抱かせてあげたい,身を引くというのもある」のように「D':治療から解放される方法を考える」選択に分かれた.また,始めは「D:治療を続ける気持ちを維持するために様々な努力をする」選択をしても,その後「D':治療から解放される方法を考える」に進む場合もあった.「D ':治療から解放される方法を考える」では,「他の女性と子どもを作ってもらった方が夫も幸せだろうかと離婚も話題にした」「一度治療をやめたら授かったという情報もあるから一度治療を休んで,夫と自由に過ごすことにした」のように,「離婚を考える」「治療を中断する」選択をしていた.しかし,気持ちを持ち直し,「治療を継続する・再開する」に至り,「ネットで検索し35歳以上の不妊の仲間の掲示板を見つけた.皆同じ気持ちであることを知り,ちょっとだけ落ち着いた」のように「D:治療を続ける気持ちを維持するために様々な努力をする」に至っていた.

その後,「全部やって一度も陽性反応が出なかった」など,出来得る限りの努力をしても結果に結びつかない体験をしており,「治療を繰り返しても結果が得られない」が必須通過点OPP⑤となった.

2) 第2期「繰り返し治療をすることに疑問を抱く」BFP③から『不妊治療を終結する』EFPに至るまで (図2

治療をしても結果が得られないため,「繰り返し治療することに疑問を抱く」が分岐点BFP③となり,「いつまで治療が可能かを医師や看護師に聞き,迷いながら治療を続ける」のように「E:治療を続ける」選択,または,「仕事もせず社会から孤立したように感じたので治療をやめて仕事を始めた」のように「E':治療を中断する」選択をしていた.「E':治療を中断する」選択をした場合でも今回の対象者は,「夫にもう一度だけ挑戦して欲しいと頼まれ,体外受精が可能な病院に転院した」のように,全員「治療再開・ステップアップし再開する」選択をしていた.

図2

第2期:繰り返し治療することに疑問を抱く~不妊治療を終結する までのTEM図

そのように治療を続ける中で,「教え子の結婚・出産報告の年賀状に限界を感じ始めた」のように,治療を諦めなければならないことを意識し始め,「治療の限界を意識する」が必須通過点OPP⑥となった.そこから,「治療を続けるか・諦めるべきか葛藤する」BFP④へ至り,「F:医師や自助グループに相談する」選択と「授かるかどうかは自分ではどうしようもない.神の領域だ」のように「F':相談せず諦める理由づけを始める」選択,「年齢的に産めないって分かってくるけど,執着してしまう.養子縁組を考えた」のように「F'':養子を検討する」選択に分かれた.「F'':養子を検討する」選択をした場合は,「養子縁組を考えたが,夫と義母に反対された」のように「養子を断念する」ことで「F':相談せず諦める理由づけを始める」に向かった.

「F:医師や自助グループに相談する」選択をした場合は,「相談して気持ちが楽になったが,どこかで区切りを付けないと身が持たない,いつまでも続けられないので,1年間頑張ることにした」のように「期限を決めて続ける」場合と「最後にと思ってハッキリ言う先生の所に行ってストイックな治療にはついていけないと思い,中断した」のように「治療を中断する」場合,「これまで費やしてきた時間と費用を無駄にしないためにも治療を続けることにした」のように「可能な限り続ける」場合があった.また,「F':相談せず諦める理由づけを始める」選択をした場合は,「50歳の出産報道に,背中を押された」のように「可能な限り続ける」「治療を中断する」に向かっていた.

その後,「採った卵子自体が壊れるようになった.やっぱりもう卵子がダメなんだって感じた」のように治療を続けられないことを悟るなどして「治療の限界を現実のものとして理解する」という必須通過点OPP⑦に至っていた.

その上で,「本当に治療を諦めてよいのか考える」BFP⑤ことを行ない,「治療をしたくても夫の事を考えないといけないと思い,夫の意思を確認してみた」「卵巣がんを指摘された.知人や友人の突然の死に命の有限性を実感し,治療の継続が恐くなった」のように「G:医師や夫に相談する」選択と「G':相談せず病院には行かないようにする」選択に分かれた.

その後,どちらを選択しても「医師は卵巣機能の検査をしてくれた.年齢に比べてかなり低い値だった.条件が全部揃った」や「高額な治療費,42歳,子どものリスク,子育ても大変だと,諦める気持ちになった」のように「H:諦める理由を確認する」選択をして,治療の終結に至っていた.一方,「G':相談せず病院には行かないようにする」選択をした中には,「テレビで養子をとるのをみて,養子もありと考える」のように「H':養子を検討する」に向かい,結果的に「子どもを諦めるしかないと覚悟する」ことで治療の終結に至っていた.

3) 各径路の選択に至る要因

要因のカテゴリは,【明朝体:SG番号またはSD番号,逐語録から抽出した出来事や思いの要約を「イタリック体」で示す.

本研究は,終結に迷う時期から終結に焦点を当てているため,「繰り返し治療することに疑問を抱く」BFP③以降の各行動に至るSGとSDを示す.

(1) 「E:治療を続ける」に向かうSG,「E':治療を中断する」に向かうSD

「E:治療を続ける」を選択する要因は,「夫や友人が支えてくれた.ペットが癒してくれた」などの【夫や治療仲間が支援してくれる:E-SG1,「年齢・時間がないことが気になり焦る」などの【年齢に焦りを感じる:E-SG2の他,【治療を変えたら妊娠するかもしれない:E-SG3【周囲からプレッシャーを感じる:E-SG4【母親になりたい:E-SG5の5つに分類された.

「E':治療を中断する」を選択する要因は3つに分類された.「卵管の手術もした.これでできないならもういい」のように【治療に費やしただけの成果が出ない:E'-SD1,「夫もうんざりしてきた様子をみせる」など【夫が面倒そうな態度をとる:E'-SD2の他,【医療者の共感のない言葉に腹が立つ:E'-SD3であった.

(2) 「F:医師や自助グループに相談する」に向かうSG,「F':相談せず諦める理由づけを始める」に向かうSD

「F:医師や自助グループに相談する」を選択する要因は3つに分類された.「41歳になった.やれることは全てやっておきたい」という【諦めきれない思い:F-SG1,「着床にも至らない,答えが欲しい」などの【可能性を確認したい:F-SG2の他,【諦めるきっかけが欲しい:F-SG3であった.

「F':相談せず諦める理由づけを始める」を選択する要因は6つに分類された.「医療者のやめた方がいいのでは?という無言の圧力」といった【医療者は可能性がないと考えていると感じる:F'-SD1,「悔しいけど誰にも解決できないこと」という【治療の限界を感じる:F'-SD2の他,【自分にできることはもうないと思う:F'-SD3【妊娠は人知を超えた神の領域と思う:F'-SD4【治療継続が夫や担当医に負担をかけていると思う:F'-SD5【家族の看病のために継続は無理と思う:F'-SD6であった.

(3) 「G:医師や夫に相談する」に向かうSG,「G':相談せず病院には行かないようにする」に向かうSD

「G:医師や夫に相談する」を選択する要因は2つに分類され,「諦め切れない」という【諦め切れない思い:G-SG1,「夫は治療をやめることを納得しないと思う」のように【夫の思いを知りたい:G-SG2であった.

「G':相談せず病院には行かないようにする」を選択する要因は5つに分類された.「目標の年齢に達した」など【目標の年齢・回数に達した:G'-SD1,「掲示板の年齢別治療成績一覧でみるとやはり無理かもと思う」など【年齢による限界を自覚する:G'-SD2の他,【妊娠は人知を超えた神の領域と思う:G'-SD3【自分にできることはもうないと思う:G'-SD4【自分や親,親しい人の病気で命の有限性を実感する:G'-SD5であった.

(4) 「H:諦める理由を確認する」に向かうSG,「H':養子を検討する」に向かうSD

「H:諦める理由を確認する」を選択する要因は9つに分類された.「夫は『体に負担をかけているのはお前だ.お前の判断に従う.俺はお前がいればいい』と言った」のような【夫や親はもう十分だと思っている:H-SG1,「採卵さえできず気持ちが向かなくなった」など【繰り返す不成功に心も体も続かないと感じる:H-SG2の他,【諦めきれない気持ちを尊重した医師の対応に納得する:H-SG3【親を亡くし治療への気力が無くなる:H-SG4【高齢の親から産まれる子どもが負うものを考えるH-SG5】【高齢による異常妊娠や子育ての負担を考える:H-SG6【高額な治療費に限界を感じる:H-SG7【相談員もやめることを肯定してくれる:H-SG8【目標の期限も過ぎた:H-SG9であった.

「H':養子を検討する」を選択する要因は,1つで「テレビで養子をとるのをみて,養子でもいい・欲しい」のように,【養子報道により養子を得たいと思う:H'-SD1であった.

(5) 「不妊治療を終結する」EFPに至る理由のカテゴリ

「不妊治療を終結する」理由は7つに分類された.「更年期症状の出現」など【年齢や体の限界から気持ちが続かないと思う】,「お金をこんなに使ってもできず無駄銭って思った」のように【費用の限界と無駄を感じこれ以上続けたくないと思う】の他,【夫や親が「もういい」と承認してくれる】【高齢の親を持つ子どものことや子育ての負担を考える】【異常妊娠・高齢出産のリスクを考える】【治療による自分の身体へのリスクを考える】【自分にできることはやった・無理なものは無理とふっきる】であった.

4) 類型の抽出とその特徴

類型化は,意思決定過程の視点から,「F:医師や自助グループに相談する」または,「F':相談せず諦める理由づけを始める」選択と,「G:医師や夫に相談する」または,「G':相談せず病院には行かないようにする」選択に焦点を当てて行った.その結果,4類型が抽出された.類型①は4例で,諦めきれない思いや可能性を求め,医師などに相談し(F),諦め切れない,夫の思いを知りたい気持ちから,再度相談し(G),夫の承認と医師の対応に納得し終結に進んだ.類型②は2例で,治療の限界の実感,夫や医師に負担をかけている思いから,最初は相談しない(F')が,諦めきれない,夫の思いを知りたい気持ちから相談し(G),夫・親の承認,産まれる子どものことを考え納得して終結に進んだ.類型③は4例で,可能性や諦める理由を求め相談し(F),年齢の自覚,妊娠は神の領域,今ある命の有限性を実感したことで,相談せず(G'),意欲の低下,他者の承認により終結に向った.類型④は5例で,医療者への猜疑心,治療の限界の実感,家族の看病を理由に相談せず(F'),目標の年齢に達したことや年齢の限界の自覚などにより,相談せず(G'),意欲の低下,高齢によるリスクや子育ての負担,異常妊娠,高額な治療費などを理由に終結に向かっていた.

Ⅳ. 考察

今回明らかになった子どもを得ず不妊治療を終結する女性の意思決定過程の特徴と,そこから見出された看護支援のあり方について考察する.

治療終結への迷いは,治療の継続に疑問を抱くことから始まっていた.治療を続けることを選択する要因には,夫や治療仲間の支援,年齢の焦り,周囲からのプレッシャーがあり,周囲の期待に応えたい気持ちと年齢的な限界が近づくからこそ続けずにはいられないことが分かった.反対に,治療を中断する選択は,成果が出ない閉塞感や夫や医師の態度が非支持的に映り治療への意欲が減退した結果の行動であると考える.どちらを選択しても追い詰められた状況における選択であると考える.

その後の治療を続けるか・諦めるべきかの葛藤では,諦めきれない思いから,可能性を求めて医師や自助グループに相談する場合と,諦めるきっかけが欲しいという意思決定を他者に委ねたい思いから相談する場合があった.杉本ら(2011)は,40歳以上の患者は終結点が見出せず医師に決定を委ねると報告しているが,相談する理由は様々であることに留意する必要がある.また,堀・小野(2010)が,治療の終結は,苛立ちと閉塞感,自信喪失を体験し,疲弊して終結に至ると述べているように,患者は度重なる落胆に心身共に疲弊し,決断力が低下し,他者に決断を委ねる場合もある.看護職は,医師に助言を求める患者の心情を把握し,それに配慮した対応がされるよう医師と患者の間を橋渡しする必要がある.自助グループに相談する理由は,同様の経験をしている人がどのように考え,行動したかを参考にしたいからと考えられ,自助グループや支援活動に関する情報を得ておきニーズに応じて紹介できるように準備をしておく必要がある.

一方,患者が医療者に相談せずに諦める理由づけを始める要因には,できることはもうない,医療者の対応に諦めざるを得ないと消沈して相談しない場合と,妊娠は人知を超えた神の領域と思うなど,自分なりに納得して相談しない場合があった.前者の場合は,繰り返される治療に疑心暗鬼になり,医療者の言動が否定的に映り,心を閉ざすことで相談しない選択をしていると考えられる.そのような患者の心情を理解しない対応は患者を追い詰めることになるため,治療継続への思いを傾聴し,どのような可能性や選択肢があるのか共に考え,今後の選択に寄り添っていく姿勢を示す必要がある.一方後者は,安田(2005)が,どれだけ尽くしても,子どもを持つことができない状況に直面した時に,神や仏という聖なるものが大きな救いとなって立ち現われうると述べるように,自分の力や今の医学でも及ばないとの悟りが納得を後押した結果であると考える.また,相談しない要因には,治療継続が夫や担当医に負担をかけていると思う,家族の看病のため継続は無理と思うなど他者への配慮という要因もあった.安田・やまだ(2008)は,状況依存的に終結した場合は,治療体験が意味づけられず,子どもが持てない辛さを抱え続け逡巡していると述べている.他者への配慮によって無理に気持ちを押し込めた場合は,その後の人生にも影響することを看護職は認識し,諦める理由,納得のいく選択であるかを確認する必要がある.

最後に,本当に諦めてよいのか考え葛藤する.この最終的な意思決定において,医師や夫に相談する要因には,夫の思いを知りたいという思いがあった.有森(2012)は,リプロダクティブヘルスに関して女性の意思決定が難しい理由の1つに,パートナーの合意を挙げている.治療の終結は,夫にとっても遺伝子を繋ぐこと,親になること,家族にとっては家系の継承に関わることである.そのため,不妊治療を終結する女性の意思決定には,パートナーや親との関係や思いを組み込む特徴がある.よって,カップル,もしくはパートナーとの面談の機会を設けるなど,カップルで納得のいく選択ができる支援が必要である.

また,相談せず病院には行かない選択をする要因には,限界の自覚,納得によるものの他,自分や親,親しい人の病気で命の有限性を実感したことがあった.自分の命や人生に目が向き,何が大切かを考え,子どもへのこだわりから価値が転換することも決断を後押していた.治療継続の意思を示さない場合は,治療に費やした日々の意味づけをし,無駄ではなかったと評価できるように支援することも必要である.

その後の諦める理由を確認することを選択する要因には,夫や親はもう十分だと思っている,諦めきれない気持ちを尊重した医師の対応,相談員の肯定があった.終結の決断には,夫からの承認,気持ちを尊重した医師の対応,医療者などからの決断の肯定が重要になる.また,高齢の親から産まれる子どもが負うものや,高齢による異常妊娠や子育ての負担を考えるという要因もあり,妊娠だけでなく,その先のことに目が向くことも決断を後押ししていた.そのため,医師からの今後生じ得る様々なリスクを含めた医学的な情報提供と努力への承認が得られる機会の確保や,子どもを望む理由を今一度考える支援を行い,カップルがお互いの努力を労い納得して次の人生を歩んでいけるような支援が必要である.

15名の意思決定過程から4つの類型が見出された.類型①~③は,治療終結か否かに対峙し,他者に相談し,納得し治療終結に至っていたが,類型④は,無理と決めつけ,相談することなく自身に言い聞かせる形で終結に至っていた.類型④は,納得できないままの終結であり,臨床においては,医療者との対話の無いまま通院が途切れた患者の中に存在すると考える.不妊治療の成果は不確実であり,医療者も明確な見通しを示すことができず,患者は迷い疑心暗鬼に陥りやすい.そのため,常に患者が思いを語りやすい環境に努めること,一方的に会話を進めず,患者の受け止め方を確認しながら会話を進めること,患者の表情の変化を捉え,患者の気持ちに寄り添うことが重要である.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,子どもを得ず不妊治療を終結した過程を語ることが可能な状態にある女性を研究協力者としている.そのため,時間により意味づけが変化している可能性がある.また,女性の語りのみの分析であるため,カップルとしての終結過程は明らかにしていない.今後は,パートナーおよび支援者である看護職のケアの現状も明らかにし,不妊治療終結期の支援を考える必要がある.

Ⅵ. 結論

子どもを得ず不妊治療を終結した女性15名の面接から以下を明らかにした.

1.子どもを得ず不妊治療を終結する女性の意思決定過程は,治療の限界を意識し,治療を継続するのか,または本当に治療を諦めてよいのか葛藤し,相談する選択や相談せず病院に行かない選択を行ない,子どもを得る別の方法の検討や諦める理由づけをするなどして,治療終結の決断に至っていた.

2.終結の意思決定には,年齢・身体変化の自覚,費用や医療の限界の認知,家族の看病,夫や親からの承認や気持ちを尊重した医師の対応,命の有限性の自覚,産まれる子どもが負うリスクを考えるなどが影響していた.

3.当事者が納得のいく意思決定を行えるように,治療継続への思いと影響要因を把握し,適切な情報提供と相談の機会を確保し,本人と重要他者が納得し選択できるよう支援する必要がある.

謝辞:本研究にご協力くださいました研究協力者の皆様,研究協力施設及び自助グループの皆様に心よりお礼申し上げます.本研究は,JSPS科研費25463467の一部として行われた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AMは,研究の着想からデータ収集・分析の実施および草稿の作成に貢献,MSは,分析,解釈,草稿への示唆および全体への助言に貢献,MKは,研究の着想から研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
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  •  杉本 公平, 泊 亜希, 針谷 則子,他(2010):治療終結に関する不妊患者の意識調査,受精着床学会誌,27(2), 323–231.
  •  杉本 公平, 加藤 淳子, 高橋 絵里,他(2011):不妊治療終結に関する情報提供の在り方―40歳以上の不妊患者を対象に,産婦の実際,60(6), 917–922.
  •  竹家 一美(2008):不妊治療を経験した女性たちの語り―「子どもを持たない人生」という選択,質的心理研,7, 118–137.
  •  渡邊 知佳子(2010):不妊治療を終結した女性の体験―治療終結に焦点をあてて―,日助産会誌,24(2), 307–321.
  •  渡邊 知佳子(2011):不妊治療の終結を考えながらそれでも受療し続ける女性の思い,日母子看会誌,5(1), 17–27.
  •  安田 裕子(2005):不妊という経験を通じた自己の問い直し過程―治療では子どもが授からなかった当事者の選択岐路から,質的心理研,4, 201–226.
  •  安田 裕子, やまだ ようこ(2008):不妊治療をやめる選択プロセスの語り―女性の生涯発達の観点から,パーソナリティ研,16(3), 279–294.
 
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