Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Structure of Family Attitudes towards Social Withdrawal among the Elderly
Junko KazamaMitsue IidaManami OsawaMotoi Saito
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2017 Volume 37 Pages 65-75

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Abstract

目的:高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造を明らかにすることである.

方法:A県内の8市町村の介護予防事業対象者の家族10人を対象とし,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識に関連する4点を質問項目として半構造化面接を行い,KJ法を用いて質的に分析した.

結果:高齢者の閉じこもりに対する家族の認識は,要素1【私は“家族の絆を背負っている”】,要素2【気がかりで“少し重い”存在である】,要素3【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】の3つから構成され,それぞれが関係性を持ち,家族の認識の構造を示した.その構造とは,要素1が基盤となり,要素2および要素3が相互作用する関係にあった.

結論:家族は高齢者の閉じこもりに対して,家族の家族観である家族の絆を基盤とし,適切な対応が分からず困惑する存在としての捉え方および主体的な生活を理想とする捉え方が相互に関係するという認識の構造を示した.

Ⅰ. 緒言

わが国では,2000年の介護保険制度導入以降,3年毎の制度見直しを経て,地域包括ケアシステムの構築に向け,介護予防を地域の特性に応じて展開する方針が打ち出されている.市町村が実施主体である介護予防事業では,介護予防事業体系の見直しに基づき,社会的な交流の場を継続的に拡大する地域づくりを推進しており,引き続き高齢者の閉じこもりを予防することが重視されている(厚生労働省,2016).高齢者の閉じこもりについては,1年間という短い閉じこもりの期間であっても寝たきりに移行することが指摘されており(藺牟田ら,1998),行動範囲の縮小により身体機能が低下し,最終的に寝たきりに移行することを示している(新開ら,2005).一方,閉じこもりは改善可能であることも明らかにされており(藺牟田ら,1998),要介護状態へ移行するリスクは高いものの改善が見込まれるため,介護予防の観点から重要な課題である.

介護予防事業の実施に当たっては,市町村保健師が中心的な役割を担い,高齢者とその家族を含めた総合的な援助を行っている(日本看護協会,2014).高齢者の閉じこもり予防・支援については,家族に対するアプローチの有用性が示唆されており(山崎ら,2008),保健師には高齢者とその家族との関わりを把握し,支援することが求められている.また,家族は情緒的な関係性が強く,日米を比較してみても,日本においては高齢者のケアに関して,妻や娘を中心とした家族の役割の一部であると見なされているため,家族成員間の相互作用が重要な視点となる(鈴木・渡辺,2012Wallhagen et al., 2006).

閉じこもり高齢者と家族との関係に関する研究では,閉じこもりの要因として,高齢者の意欲や自立に関して家族関係が影響を及ぼす特徴がみられる(河野・金川,1999河野,2000鳩野ら,2001)ことや,高齢者の閉じこもりを予防するためには,高齢者が外出する際の家族の協力が重要であることが示唆されている(栗原・桂,2003内田,2006古田ら,2010).一方,保健師の活動からは,閉じこもり高齢者とその家族に対して,家族の関係性や家族の気持ちを継続的に把握し,社会資源の利用につなげる働きかけの重要性が示されている(俵・時長,2008).

以上のように,これまでの研究では,高齢者の閉じこもりの要因として,家族関係の影響が明らかにされており,家族に対する働きかけの重要性が示唆されているが,閉じこもりに関して,家族を研究対象者とし,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を明らかにした先行研究は見当たらない.家族成員は互いに影響する存在であり,家族の対応によっては閉じこもりを助長する可能性もある.また,家族は,高齢者の閉じこもりを早期に察知できる重要な存在であることから,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造を把握することは,閉じこもり予防や閉じこもりを改善するための示唆が得られると共に,市町村保健師による閉じこもり高齢者の家族に対する支援に貢献できると考える.

そこで本研究は,閉じこもり高齢者を抱える家族に焦点をあて,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素を見いだし,その関係性から閉じこもりに対する家族の認識の構造を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

閉じこもり高齢者を抱える家族に焦点をあて,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素を見いだし,諸要素間の関係性を構造的に把握することができる質的記述的デザインを用いた.

2. 用語の定義

1) 閉じこもり

屋外への移動能力があるにも関わらず,身体的,心理的,社会・環境的要因等から外出が週1回程度,もしくは,昨年と比較して外出回数が減少している生活の過ごし方とする.

2) 閉じこもり高齢者の家族

閉じこもり高齢者との同居別居に関わらず,子どもや孫などの直系の親族,配偶者,同胞および情緒的な結びつきにより家族であると自覚している身近な者とする.

3) 閉じこもりに対する家族の認識

閉じこもりに対する考え方や感じ方,今後どのようにしたいか等の意思に関する質問に対して,家族が表現したことの全てとする.

4) 家族の認識の構造

家族の認識を構成する要素とその関係性とする.

3. 研究対象者

本研究の研究対象者は,A県内の市町村において,生活機能評価により閉じこもりと判断された高齢者の家族10人とした.

研究対象者の選定は,以下の手順で行った.

(1)多様な地域特性の研究対象者が選定できるよう,A県内35全市町村を対象とし,介護予防事業担当者である保健師に,生活機能評価で閉じこもりに関連する2項目(外出が週1回程度,昨年と比較して外出回数が減少)の一方あるいは両方に該当した高齢者とその家族の紹介を依頼した.その結果,8市町村から協力が得られた.

(2)協力の得られた市町村の保健師が,上記の要件を満たす高齢者の家族を1人選択した.なお,家族は,同居別居を問わず高齢者の日常生活の状況が把握でき,高齢者に中心的に関わる主な家族員であり,一家族につき1人とした.

4. データ収集及びデータ収集期間

研究対象者に対して,年齢や性別等の特性に関する調査(自記式質問紙)および半構造化面接を行った.半構造化面接では,高齢者の閉じこもりに対する家族の考え方,家族の感じ方,家族が今後どのようにしたいか等に関する質問を行った.面接は家庭訪問および公共施設において実施した.面接は40~60分程度であり,面接内容は研究対象者の同意を得て録音し,逐語録を作成した.データ収集期間は,平成27年4月から平成27年9月までであった.

5. データ分析

本研究は,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素を見いだし,その関係性から認識の構造を明らかにするため,混沌としたありのままの現象をデータとし,要素となるグループを編成して図解化・叙述化することにより,諸要素間の関係性を構造的に把握することができるKJ法を用いた(川喜田,1986).手順は以下の通りである.

1) ラベルづくり

研究対象者の逐語録を,意味のまとまりにより区切り,区切った部分の「言わんとする内容(以下エッセンス)」を取り出し,それぞれ1枚のラベルに記入し元ラベルとした(川喜田,19862008).

2) グループ編成

元ラベルのエッセンスの類似性に従って段階的にグループ化を行った.元ラベルの文章全体が訴えるエッセンスが似ているものを集めてグループを編成した.グループ全体の意味を一文で表す表札を付け,さらにその表札同士をグループ化していく作業を,表札の束がこれ以上まとまらないと判断できるまで繰り返し,最上位の表札を要素とした.なお,“ ”で括られた用語は,本来の意味に統合のプロセスの過程で生じた意味を付加した言葉である.

3) 図解化

まず最も適切な位置に各グループの最上位の表札を配置し,各々のグループを線で囲む島どりを段階的に行い,最上位の表札の島を作成した.島と島の関係づけは検討を重ね,関係性を的確に示す記号を用いて表した.

4) 叙述化

高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素の関係性について,順序性を持った適切なストーリーとなるよう文章化した(川喜田,1986).

5) 研究対象別の統合と全体の統合

研究対象者別の統合は,研究対象者ごとに(1)から(4)までの手順により統合した.その後,全体の統合については,研究対象者ごとの統合により抽出された最終段階の表札を研究対象者全員のものを集めて元ラベルとし,(1)から(4)までの手順により同様に統合した.

6. 信用性・妥当性の確保

KJ法の開発者である川喜田が設立した川喜田研究所の委託を受け,KJ法の研修を行う機関において研修を受講した.さらに,ラベルや表札,図解化などの妥当性については,個人指導を受け,KJ法の正確な方法論に基づき,研究対象者から得られたデータの分析を行った.また,分析の客観性を保つため,定期的に保健師経験や質的経験のある複数の共同研究者との検討を行った.元ラベルから最終段階の表札までの統合過程は,詳しい図解で示し結果の信用性を確保した.

7. 倫理的配慮

本研究の研究対象者の要件を満たす介護予防事業を担当する保健師(以下,研究協力者)の紹介を市町村長(関係部署の長)に依頼した.研究協力者の紹介に当たっては,研究協力は自由意思によることを強調して伝え,協力を得た.その後,本研究の要件に合致する研究対象者(家族)の紹介を研究協力者に依頼した.紹介が得られた研究対象者に対して,研究協力への強制力が働かないよう研究者が文書を用いて協力の有無を確認した.研究協力が得られた研究対象者に対して,さらに文書を用いて研究協力は自由意思であること,研究協力を撤回する権利の保障,個人情報の保護等の説明を行い同意を得た.なお,本研究は群馬県立県民健康科学大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認日:平成27年3月27日付け,健科大倫第2014-29号).

Ⅲ. 研究結果

1. 研究対象者の特性

本研究の研究対象者10人の特性は,表1の通りである.年齢は30歳代から80歳代であり,高齢者からみた続柄は,妻1人,長男3人,次女2人,長男の嫁2人,次男の嫁2人であった.高齢者の外出は数か月ごとに1回から1日1回程度(自宅周辺の散歩)であった.なお,外出・歩行状態は,研究対象者からの聞き取りによる結果である.

表1 研究対象者特性
研究対象者 高齢者
項目 年齢・性別 高齢者からみた続柄 職業 高齢者との同居・別居 年齢・性別 家族員数 外出頻度 居住地人口 自宅周辺の環境
A氏 80歳代・女性 同居 80歳代・男性 2人 1週間に1回程度. K町 約8千人 山間部であるが,町の中心部.
B氏 60歳代・男性 長男 同居 80歳代・女性 4人 2週間に1回程度. L市 20万人以上 市街地の住宅街.
C氏 40歳代・女性 長男の嫁 同居 80歳代・女性 4人 1週間に1回程度. M市 約7万人 市街地の住宅街.
D氏 50歳代・女性 次女 同居 70歳代・女性 2人 1週間に1回程度. N町 約2万人 平坦な田畑が多い農村地域.
E氏 30歳代・女性 次男の嫁 別居 80歳代・男性 2人 1週間に1~2回. M市 約7万人 市街地の住宅街.
F氏 50歳代・女性 長男の嫁 別居 70歳代・女性 3人 1週間に1回程度. N町 約2万人 平坦な田畑が多い農村地域.
G氏 50歳代・男性 長男 同居 80歳代・女性 4人 数か月ごとに1回. O村 約2千人 山間部で傾斜が多い地域.
H氏 40歳代・女性 次女 別居 70歳代・女性 5人 1週間に1~2回.昨年度より減少. P町 約1万5千人 平坦な田畑が多い農村地域.
I氏 40歳代・女性 次男の嫁 別居 80歳代・男性 独居 1週間に1回程度. P町 約1万5千人 平坦な田畑が多い農村地域.
J氏 60歳代・男性 長男 同居 80歳代・女性 3人 1日1回程度の自宅周辺の散歩.昨年度より減少. Q市 約8万人 平坦な田畑が多い農村地域.

外出・歩行状態は,研究対象者からの聞き取りによる結果である.本研究の高齢者は,生活機能評価において介護予防事業の対象者に該当し,生活機能評価で閉じこもりに関連する項目に該当した高齢者である.

2. 高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素

研究対象者10人を個別に統合した結果,各研究対象者につき3から4つの最上位の表札に統合され,各事例における最上位の表札32枚を元ラベルとしてKJ法を用いて統合した.その結果,【私は“家族の絆を背負っている”】【“気がかりで“少し重い”存在である】【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】という,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識を構成する要素となる3つの表札に統合された.

3つの表札ごとに島の統合のプロセスについて説明する(図1図2図3).なお,最上位の表札を太字として【 】,下位の表札は『 』,元ラベルは〈 〉で括り,記述した.表札の記号としては,統合のプロセスを追えるように,元ラベルは片仮名で符号をつけ,表札は段階ごとに,①,(1),1),1.等の番号を付した.なお,個別分析における研究対象者の元ラベルの一部を,「斜字体」で記述した.〔 〕内のアルファベットは,研究対象者を示す.

図1

「高齢者の閉じこもりに対する家族の認識」の要素1

図2

「高齢者の閉じこもりに対する家族の認識」の要素2

図3

「高齢者の閉じこもりに対する家族の認識」の要素3

1) 要素1【私は“家族の絆を背負っている”】について(図1

家族は,高齢者との関係について,『①私達は“生活と人生の共同体”である』のように,人生を支え合う特別な関係性があると考えていた.また家族は,『②高齢者に社会生活を継続させる段取りをつける』〈オ.高齢者の“交流”を私が取り戻す〉ことから,『(1)“他人”と関わるよう私が動く』のように,高齢者の少ない社会的交流に対して対処していきたいと考えていた.そのため家族は,“家族の絆”という情緒的なつながりの中で長期間生活していく高齢者に対して,何らかの対応をするべきであると考え,【私は“家族の絆を背負っている”】状態であった.

「家から出ないってのは急になった訳じゃない.夫のために家に居ないといけないならそうしてもいい.嫁いだのだから最後まで(高齢者を)みる.〔A〕」

「(高齢者の)外出する機会を私が作りたい.刺激になるから.でもなかなか難しいね.会話を増やすことも大切.〔J〕」

2) 要素2【気がかりで“少し重い”存在である】について(図2

上段の島において,家族は,『③根が生えたように動かない高齢者を気に(する)』しており,〈ク.なるべくしてなった高齢者の閉じこもり〉であることから,『(2)自分の殻に閉じこもる高齢者が気にな(る)』っていた.さらに,家族は,『④“なるようになってる”と“期待”との差に惑う』気持ちを抱え,『⑤(自然現象だが)高齢者の脆弱化が目につ(く)』き,『(3)外出できるはずだが,外出しない高齢者が気がかりであ(る)』った.これらのことから,家族は高齢者に対して,家族が考えるよりも早く活動性の低下が進み,『1)“老い急ぐ人”として心に引っかかる』状態であった.

次に下段の島において,家族は,高齢者に対して必要以上に気遣いをしており,『⑥先々を察知して配慮する』〈ソ.行く末を考えすぎて気をもむ〉ことから,『(4)先読みしてあれこれ気をつか(う)』っていた.また,家族は『⑦外部と交流してもらうのも負担に感じる』ため,高齢者に対して,『2)一緒にいるだけで心が振り回され(る)』ていた.そして,家族は,『⑧高齢者の“愚痴らしき嘆き”に少しうんざり(する)』しており,『⑨家族同士わだかまりを抱え(る)』ていたことから,『(5)家族内に“不全感”がある』状態であり,『1 物事も人もうまく回らない』と感じていた.

以上のように家族は,高齢者の外出の少ない現状の生活に対して対応に困る状況であり,高齢者について【気がかりで“少し重い”存在である】と捉えていた.

「外出が少ないと人と話す機会が減る.鬱々するかも.電話も出ない時があり,何をしているのかなって.〔F〕」

「(高齢者の)長男夫婦は都会在住.私達夫婦や親せきを当てにして,一人暮らしでも大丈夫だと思っている.〔I〕」

3) 要素3【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】について(図3

上段の島において,家族は,『⑩“私の生活”を優先した世話ならできる』と考え,〈ネ.“私の生活”が大事,私は協力者である〉ことから,『(6)私の“血縁家族”が一番で,“親戚”さんの世話は二番目である』のように,高齢者の生活援助について,実子以外の家族はあくまでも協力する立場であると考えていた.さらに家族は,高齢者の生活について,『⑪(私が管理しなくても)安全が確保されているとありがたい』と望んでおり,『3)自分以外の日常生活の主導権まで握らない』と考えていた.

また,下段の島において,家族は,『⑫家に居る状況が,少なくなるのが望ましい』〈ヘ.出不精なので,もう少し外出してくれればよい〉のように,高齢者に対して,『(7)自由に“外歩き”でもしてほしい』と考え,『⑬人は,自分で決める生活が基本となる』〈ミ.高齢者らしい自立が基本である〉ことから,『(8)人間は,自分が思うように動き回れることが良い』と考えていた.これらのことから,『4)高齢者自ら動いてつくりあげる生き方が望ましい』と考えていた.

以上のように家族は,家族自身の生活を優先し,高齢者がこれまでの経験を生かして,社会的交流を保ち自立・自律する【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】と考えていた.

「週末はそれぞれの家族の予定がある.何かあれば親(高齢者夫婦)から連絡が来るだろうし,その時は協力する.〔H〕」

「5年前に剣道の先生を辞めて,隠居生活だと思っている様子.歳でキツいのかも….でもリズムを持った生活をして欲しい.〔E〕」

3. 高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造(図4

高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造について,各要素の関係性を図4に示した.要素1に示すように,家族には,“絆”というつながりが存在し,これは,家族員を家族とみなす基本的な概念である.そのため,“家族の絆”を持ち生活している高齢者に対して,何らかの対応をしていきたいという考え方が基盤であった.さらに家族は,要素2に示すように,高齢者の外出が少ない生活を改善する対応に困る状況であり,家族であるからこそ生じる気がかりであった.また,要素3に示すように,家族は,高齢者が社会的交流を保ち主体的に生活することが理想であると考えていた.家族は,高齢者の自立・自律(要素3)を望むことで,高齢者の閉じこもりにさらに困惑する(要素2)状況となり,要素2と要素3は,相互に影響を受ける関係性を示した.

図4

高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造

Ⅳ. 考察

1. 高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の要素に関する特徴

要素1【私は“家族の絆を背負っている”】は,家族は“家族の絆”という関係性の中で生活していることを表していた.家族とは,複数の個人が相互に関連しあい形成される1つのシステムであり(法橋,2014),そのシステムは,情緒的な関係性を含み,家族の考え方に影響を及ぼすといえる.また,『①私達は“生活と人生の共同体”である』のように,家族は,高齢者との関係を,相互扶助と相互規制が存在する共同体(新村,2016)であると考えていた.本研究において,家族は一個人として生活しているとともに,家族という社会的な最小単位である集団を維持する役割を担うという考え方が確認できた.従って,家族は,家族の絆を持つことから,高齢者を支える役割があると捉えていた.また,家族は,『(1)“他人”と関わるよう私が動く』に示すように,高齢者の外出が少ない生活を放置せず何らかの対応をし,家族員の役割を遂行したいと考えていた.河野・金川(1999)は,高齢者の外出において,家族の協力が重要であることを指摘しており,本研究において,高齢者の外出が減少している問題に対して,家族は社会的交流ができるよう協力する意思を持っていることが明らかになった.このような家族の協力は,高齢者の閉じこもりを改善するために極めて重要であり,要素1は,互いに協力し合うことを前提とした家族成員の家族観であったと推察される.つまり要素1は,家族は高齢者の閉じこもりに対して,改善できるよう手助けしたいという意思があり,その考え方には家族の絆が存在しているという特徴を示した.

要素2【気がかりで“少し重い”存在である】は,家族が高齢者の外出の少ない生活に対して対応に困っている捉え方を表していた.

家族は,高齢者に対して,外出ができるにも関わらず,主体的な外出行動がみられず,自分の世界に閉じこもっていると捉えていた.そして,家族の見解とは異なる日常生活を営む高齢者に対して,高齢者の行動を変化させることが困難であると考えていた.さらに,家族は高齢者のあるべき姿への期待感があるが,期待通りにならない高齢者に対して戸惑いを示し,『1)“老い急ぐ人”として心に引っかかる』に至っていた.高齢者の外出が少ない生活は,家族が想定する範囲を超えた変化であり,その変化から気がかりが生じることを表していた.高齢者の外出が少ない生活は,いずれ生活の手助けが必要となることが予測され,家族は高齢者への手助けの程度がわからない状態であることに対して,心配や不安を抱いたと考える.Mancini & Blieszner(1989)は,高齢の親と成人した子どもとの役割逆転による関係性について,家庭内役割や責任,親子関係での接触パターンや援助が変化することで,両者に不安定な心理的変化をもたらすと述べている.つまり,高齢者が世話をする側から世話をされる側に変化していくことは,特に子の立場である家族にとって,家庭内の役割が逆転するため心配や不安のような心理的変化が生じることが推察される.

さらに,家族は,血縁間における介護の貢献度や責任感が異なることに対して不満を持っていた.家族は,家族同士が信頼し,協力し合うことへの理想を持ちつつ,理想とする家族のあり方と異なる現実にも不満を抱えていた可能性がある.Silverstein & Giarrusso(2010)は,長時間を共に過ごした家族は,各家族成員が変化する生活の中で,相反する感情のような複雑な心境を抱えることが多いと述べている.本研究において家族は,高齢者の外出が減少するという変化に対して,高齢者の外出が増え活動的となるような,適切な対応が分からず困惑する考えを示した.つまり要素2は,家族は,高齢者の外出が少ない生活に気がかりを生じ,高齢者の要介護状態を予測し負担感を持つことにより,家族のみでは改善しがたい困り事を抱えた存在として捉えるという特徴を示した.

要素3【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】は,家族が高齢者がこれまでの経験を生かし,必要なものは自ら獲得していく姿勢を基本として,社会的交流を保ちつつ生活することが高齢者のあるべき姿であると捉えていることを示した.家族は,同居・別居に関わらず,高齢者に対する手助けの範囲を家族自身が決めることを望んでいたと考えられる.生活の主体はあくまでも自分自身であり,このような考え方は高齢者に対しても,高齢者の生活の主体は高齢者自身であると捉えていたと推察され,『3)自分以外の日常生活の主導権まで握らない』に至っている.井上(2010)は,日本の家族は,地域共同体や制度としてのイエ(家)から,家族一人ひとりのライフスタイルを重視するようになったことを指摘している.本研究においても家族は,家族個人のライフスタイルを中心とし,必要に応じて高齢者への手助けをしていくことが望ましいと考えていたことが推察される.加えて家族は,不活発な高齢者に対して,家族が心配しない程度の活気ある生活をして欲しいと望んでいた.家族が高齢者の自立・自律生活を望む理由は,行動範囲が縮小することで体力や身体活動量が低下し,最終的に寝たきりに移行する(中田ら,2002)ことを懸念するとともに,高齢者に対して家族が多くの時間を費やしたくないと考えていたことが推察される.また,家族は身体的に外出可能な高齢者が自宅で漫然と時間を過ごすことに対して望ましくないと捉えていたと考える.さらに,家族は,高齢者の経験を生かした「活動」とは,生きがいを持ち主体的に生活することであると捉えていた.つまり要素3は,家族は各家族員のライフスタイルを中心として,必要に応じて高齢者への手助けをするが,基本的には高齢者がこれまでの経験を生かし,自立・自律生活を送り,社会的交流を保ちつつ生きていく“主体的につくる”生活を理想と考える特徴を示した.

2. 高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造に関する特徴

閉じこもりに対する家族の認識の要素は,本研究で明らかになった3つの要素がそれぞれ関係性を持ち,家族の認識の構造として示された.家族は,家族の紐帯(絆)によって帰属意識が生まれ,長い期間で常に成長や発達を遂げ(法橋,2014),情緒的な結びつきによる影響を受けながら生活している.そのため,要素1は,要素2および要素3の考え方の根幹となっており,高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の基盤であると考えられる.次に,要素2は,外出が少なくなり社会活動が変化した高齢者の生活について,心配や不安を抱き,高齢者の要介護状態を予測した負担感が生じ,家族のみでは改善しがたい困り事を抱えた存在となった高齢者に対する,家族の捉え方である.高齢期は,加齢による変化が顕著に顕れ,社会生活や役割に変化を生じる時期である(櫻井,2011).家族は,高齢者が外出不可能ではないにも関わらず,外出が少ない生活を送る高齢者に対してどのように対応することが適切であるのか困惑している.このような困惑は,家庭生活上の役割変化に関連した心理的変化や,家族が高齢者に対して抱く高齢者のあるべき姿との相違から生じるものと推察される.高齢者のあるべき姿とは,要素3のように高齢者がこれまでの経験を生かし,社会的交流を保ちつつ主体的に生活することである.高齢者の主体的な生活を理想とする考え方は,さらに要素2の家族が高齢者の外出が少ない生活に対して困惑するという受け止め方に影響を及ぼし,相互関係があると推察される.このように,要素1が基盤となり,要素2および要素3が相互作用する関係,すなわち,家族は高齢者の閉じこもりに対して,家族の家族観である,家族の絆による責任感と手助けしたいという意思を基盤とし,適切な対応が分からず困惑する考え方および高齢者の主体的な生活を理想とする捉え方が相互に関係する構造を示した.

以上のことから,高齢者の閉じこもり予防に向けた市町村保健師の家族に対する支援においては,家族だけの力では高齢者の外出を促すことに限界を感じている家族の困惑する考え方を理解し,家族の責任感による負担を考慮した関わりを基本とする必要があると考えられる.

Ⅴ. 結論

高齢者の閉じこもりに対する家族の認識の構造である,【私は“家族の絆を背負っている”】【気がかりで“少し重い”存在である】【高齢者が“主体的につくる”生活が理想である】という3つの要素は,家族は高齢者の閉じこもりに対して,家族の家族観である,家族の絆による責任感と手助けしたいという意思を基盤とし,適切な対応が分からず困惑する考え方および主体的な生活を理想とする捉え方が相互に関係することが明らかになった.本研究の結果から,高齢者の閉じこもり予防に向けた市町村保健師の家族に対する支援においては,家族の困惑する考え方を理解し,家族の責任感による負担を考慮した関わりを基本とする必要がある.また,本研究は,家族の立場から高齢者の閉じこもりをどのように捉えているかを明らかにしたものであり,家族への支援を検討する上で重要な成果である.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

研究対象者については,研究対象地域をA県内に限定していること,家族の続柄が妻,息子,娘,嫁であり,夫や婿がいないため多様な家族の閉じこもりに対する認識の実態を表していない可能性がある.また,同じ家族であっても続柄などにより,高齢者の閉じこもりに対する認識は異なる可能性があり,複数の家族員がいる場合,研究対象者の選定は,研究協力者を通して協力が得られた家族であったため,選定方法により結果に偏りが生じている可能性が否定できない.今後は,研究対象地域の拡大や研究対象者の人数を増やすこと,続柄別や同じ家族内での分析を試みる等,研究を継続する必要がある.

謝辞:本研究にご協力いただいた研究対象者のご家族の皆様,市町村保健師や担当部署の責任者の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は平成27年度群馬県立県民健康科学大学大学院に提出した修士論文に加筆・修正をしたものであり,2016 International Collaboration for Community Health Nursing Research Symposium(Canterbury, UK)にて発表したものに,加筆・修正をしたものである.

利益相反:本研究による利益相反は存在しない.

著者資格:JKは本研究の発想,研究計画の作成,その計画に基づいた研究の実施,得られた研究結果の解釈,研究論文の執筆を行った.MIおよびMOは,本研究の研究計画の作成,得られた研究結果の解釈や考察および論文の記述に対する助言を行った.MSは,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み承諾した.

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