Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Effect of Personal Background of Children with Eating Disorders on Difficulty of Daily Life by Their Parents
Takaharu Hirai
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2017 Volume 37 Pages 179-184

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Abstract

目的:両親の生活困難度に影響を及ぼす摂食障害者の属性を検討することは,個別性のある家族支援を考えるための重要な判断材料となる.

方法:摂食障害者の両親を対象に自記式質問紙調査を行った.質問紙の構成は,属性4項目と生活困難度尺度15項目とした.

結果:有効回答数は45名(57%)であった.摂食障害者の年齢と「患児をおいて自由に外出ができない」「患児の世話で心身ともに疲れる」(P < .05),「自分だけの時間が持てなくなった」(P < .01)との関連を認めた.さらに,発症時期と「他の家族の結婚話などで気苦労が多い」(P < .05)との関連,入院歴と「患児をおいて自由に外出ができない」(P < .05)との関連を認めた.

結語:摂食障害者が現在19歳以下であること,あるいは発症が20歳以上であること,入院歴があることによって,両親は困難を経験しやすかった.そうした点を考慮し,家族への支援をおこなう必要がある.

Ⅰ. 緒言

摂食障害は,思春期・青年期の女性に好発する食行動異常に基づいた難治性の精神疾患であり,社会生活上の問題を生じ,自傷行為や万引きなどの様々な問題行動を抱えやすい(高木,2012).ゆえに,身体・行動面の障害だけではない,より広範な生活の機能に着目することが必要となる(西園,2003).

また,摂食障害者の家族の多くは,長期にわたって病気に巻き込まれ,(中本ら,2014),子どもに対する怒りや被害感,無力感や自責感を抱いている(佐々木,2010Cottee-Lane et al., 2004).国内外の研究では,このような摂食障害者の家族の認識や意識に関するものが先行し,その蓄積が多くみられる.

しかし,より実際的な支援策を考えていくためには,心理的な側面に加え,生活の中で生じる困難ごとやそれに伴った問題を包括的に考えていく必要がある.槇野(2004)は,摂食障害の子どもを持つ両親の生活上の負担には,症状に伴う負担や日常生活上の負担,家族自身の生活に関連した負担があると報告しているが,このような家族の生活を支援するという視点での研究は非常に少ない.特に摂食障害においては,家族の日常生活パターンや社会的な生活にまで広く影響を与えると言われ(小林ら,2002),家族の抱える困難度について,生活の様々な側面から検討される必要がある.

さらに家族の困難度を把握するためには,困難を生じさせている要因の構造的な把握を行わなければならない(高橋・吉賀,2004).例えば,統合失調症の家族では,患者の入院の有無や家族自身の性格などが家族の困難度に影響するとされるが(半澤ら,2008Magliano et al., 2002),摂食障害では家族の困難度と患者の属性の関係を明らかにした研究はない.患者のどのような属性が,家族の困難度と関係するかを明らかにすることは,家族支援を考える上での重要な判断材料となる.

そのため本研究では,両親の困難度に影響を及ぼす摂食障害者の属性を検討する.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象者

摂食障害自助グループに参加もしくは医療機関に通院している,摂食障害者の両親を研究対象とした.

2. 調査実施手順

事前に関係機関に研究依頼を行った上で,承諾を得た.その後に,研究の趣旨,調査実施手順,倫理的配慮について説明された研究協力依頼書と自記式無記名質問紙調査票を,協力機関を通じて対象者に配布した.対象となり得る者の選定は,協力機関に一任した.研究協力の意思を示した対象者は,質問紙に記入し,同封されていた返信用封筒を用いて筆者の元へ郵送をした.

また,回答者が両親以外の家族構成員のものや,記入内容が全体の2分の1以下であったものに関しては,信頼するに疑わしい無効票とした.

3. 質問紙の構成

1) 対象者の属性

摂食障害者の属性は,年齢,性別,発症年齢,入院歴を採用した.両親の属性は,年齢,続柄,摂食障害者との同居の有無,経済状況(世帯年収),摂食障害者に費やす1日平均時間を採用した.

2) 両親の生活困難度

摂食障害者の家族の困難度を測定するための既存尺度は存在しないため,本研究では大島(198719942012)の開発した生活困難度尺度を用いることにした.この尺度は15項目で構成され,統合失調症者家族の生活行動が患者と暮らすことによってどの程度障害されるかを測定するものである.各項目は,「ない」「少しある」「大いにある」の3段階で評価される.また,この尺度を摂食障害者の家族に用いた研究では,α係数0.79であったことや,統合失調症者の家族と異なる因子構造を示していたことからも(槇野,2004),信頼性と妥当性には課題を残している.したがって本研究では,尺度得点を算出せず,下位項目で得られたデータを順序尺度として扱い,項目ごとでの分析を試みた.

4. 分析方法

対象者の属性,生活困難度尺度の下位項目を単純集計した.摂食障害者の年齢と発症時期,入院歴は7件法で調査を行ったが,年齢と発症年齢は19歳以下と20歳以上,入院歴はあるとないに分類し,分析をおこなった.

なお,摂食障害者の属性と両親の生活困難度との関連をみるために,Wilcoxonの順序統計量の検定をおこなった.また,生活困難度の項目において,「大いにある」の回答数が0であった場合は,「大いにある」「少しある」を「ある」として分類し,χ2検定(Yatesの修正あり)を行った.なお,χ2検定(Yatesの修正あり)において,期待値に5未満の値が認められた場合,及びP≒0.05の場合は,Fisherの直接確率検定を行った.有意水準は両側検定5%とし,統計分析にはエクセル統計2012を使用した.

5. 倫理的配慮

対象者には,研究の目的と意義,方法,自由意思の尊重,同意と撤回の自由,個人情報の保護,不利益を被らないことに関して,文書を用いて明瞭に説明を行った.また,自記式無記名質問紙調査表を直接,研究者宛に返送してもらい,その返送をもって本研究への同意が得られたものとした.なお,本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得た(承認番号:17456).

Ⅲ. 結果

1. 摂食障害者と両親の属性(表1-1表1-2

調査用紙の配布数は79であり,このうち回収数は48(61%),有効回答数は45(57%)であった.

表1-1 摂食障害者の属性【n = 45】
項目 n %
年齢 10代前半 1 2.2
10代後半 4 8.9
20代前半 14 31.1
20代後半 7 15.6
30代前半 14 31.1
30代後半 3 6.7
40歳以上 2 4.4
性別 男性 2 4.4
女性 43 95.6
発症時期 10代前半 14 31.1
10代後半 19 42.2
20代前半 10 22.2
20代後半 0 0
30代前半 1 2.2
30代後半 0 0
40歳以上 1 2.2
入院歴 なし 13 28.9
あり 32 71.1
表1-2 両親の属性
項目 n %
年齢 65歳未満 8 18.6
65歳以上 35 81.4
続柄 父親 5 11.1
母親 40 88.9
摂食障害者との同居 している 31 68.9
していない 14 31.1
経済状況(世帯年収) 500万円未満 15 33.3
500万円以上 30 66.7
摂食障害者に費やす1日平均時間 1時間未満 28 62.2
1時間以上 17 37.8

摂食障害者の年齢は20歳以上が40名(88.9%),女性が43名(95.6%),19歳以下の発症が33名(73.3%),入院歴ありが32名(71.1%)であった.

両親の平均年齢は56.7歳(標準偏差SD:±6.8),母親40名(88.9%),摂食障害者と同居している者31名(68.9%),世帯年収500万円以上30名(66.7%),摂食障害者に費やす1日平均時間が1時間未満の者28名(62.2%)だった.

2. 摂食障害者の属性と両親の生活困難度との関連

両親の生活困難度の15項目において,「大いにある」「少しある」の合計が半数を超えたものは,摂食障害の子どもにかかる経済的負担がある(66.7%),将来設計が立てられない不安や焦りがある(64.5%),摂食障害の子どもの世話で心身ともに疲れる(62.2%)だった.

また,19歳以下の摂食障害者を持つ両親と20歳以上の摂食障害者を持つ両親の2群に分け,両親の生活困難度について比較した.その結果,19歳以下の摂食障害者を持つ両親の方が,「摂食障害の子どもをおいて留守ができない,自由に外出ができない」,「自分だけの時間が持てなくなった」,「摂食障害の子どもの世話で心身ともに疲れる」の項目で有意に困難があると回答した者が多かった(表2).

表2 摂食障害者の年齢と両親の生活困難度との関連【n = 45】
項目 回答 19歳以下(n = 5) 20歳以上(n = 40) Z P
n (%) n (%)
摂食障害の子どもにかかる経済的負担がある 大いにある 2 (40.0) 15 (37.5) .096 .923
少しある 1 (20.0) 12 (30.0)
ない 2 (40.0) 13 (32.5)
摂食障害の子どもの世話で仕事に出られない 大いにある 0 0.0 0 (0.0) .684 .494
少しある 2 (40.0) 10 (25.0)
ない 3 (60.0) 30 (75.0)
摂食障害の子どもの世話で家事に手がまわらない 大いにある 0 0.0 0 (0.0) .825 .410
少しある 2 (40.0) 9 (22.5)
ない 3 (60.0) 31 (77.5)
家庭内で口論が増えくつろげず一家団欒の機会が少なくなった 大いにある 1 (20.0) 7 (17.5) .604 .546
少しある 2 (40.0) 10 (25.0)
ない 2 (40.0) 23 (57.5)
摂食障害の子どもをおいて留守ができない,自由に外出ができない 大いにある 1 (20.0) 3 (7.5) 2.375 .017*
少しある 3 (60.0) 7 (17.5)
ない 1 (20.0) 30 (75.0)
近所に肩身の狭い思いで近所づきあいがうまくいかない 大いにある 1 (20.0) 0 (0.0) 1.562 .118
少しある 2 (40.0) 12 (30.0)
ない 2 (40.0) 28 (70.0)
親戚との隔たりができ,親戚づきあいがうまくいかない 大いにある 1 (20.0) 1 (2.5) .273 .785
少しある 1 (20.0) 15 (37.5)
ない 3 (60.0) 24 (60.0)
自分だけの時間が持てなくなった 大いにある 2 (40.0) 3 (7.5) 2.823 .004**
少しある 3 (60.0) 12 (30.0)
ない 0 (0.0) 25 (62.5)
摂食障害の子どもの世話で心身ともに疲れる 大いにある 4 (80.0) 11 (27.5) 2.322 .020*
少しある 1 (20.0) 12 (30.0)
ない 0 (0.0) 17 (42.5)
他の家族の結婚話などで気苦労が多い 大いにある 0 (0.0) 3 (7.5) 1.378 .168
少しある 0 (0.0) 9 (22.5)
ない 5 (100.0) 28 (70.0)
将来設計が立てられない不安や焦りがある 大いにある 2 (40.0) 15 (37.5) .999 .318
少しある 3 (60.0) 9 (22.5)
ない 0 (0.0) 16 (40.0)
服薬を続けさせる苦労がある 大いにある 0 (0.0) 0 (0.0) 1.063 .288
少しある 0 (0.0) 8 (20.0)
ない 5 (100.0) 32 (80.0)
家族に迷惑をかけたり暴力をふるったりする 大いにある 0 (0.0) 3 (7.5) .289 .772
少しある 2 (40.0) 9 (22.5)
ない 3 (60.0) 28 (70.0)
家族以外の人に迷惑をかけたり暴力をふるったりする 大いにある 0 (0.0) 1 (2.5) .585 .559
少しある 0 (0.0) 2 (5.0)
ない 5 (100.0) 37 (92.5)
病状の急変や再発,自殺などの心配がある 大いにある 0 (0.0) 2 (5.0) .472 .637
少しある 3 (60.0) 16 (40.0)
ない 2 (40.0) 22 (55.0)

***:P < .001,**:P < .01,*:P < .05

さらに,発症年齢が19歳以下の摂食障害者を持つ両親と20歳以上の摂食障害者を持つ両親の2群に分け,両親の生活困難度について比較した.その結果,15項目のうち「他の家族の結婚話などで気苦労が多い」の1項目で,20歳以上の発症の方が両親は有意に結婚話の気苦労を感じており(P = .048),他の14項目では両群の間に有意差がみられなかった.

入院歴の有無を2群に分けた比較では,15項目のうち「摂食障害の子どもをおいて留守ができない自由に外出ができない」の1項目で,入院歴のある摂食障害者を持つ両親の方が有意に自由に外出できないと感じており(P = .031),他の14項目では両群で有意差がみられなかった.

なお,摂食障害者の性別では両親の生活困難度との関連は認められなかった.

Ⅳ. 考察

1. 摂食障害者の年齢(19歳以下と20歳以上に分類)と両親の生活困難度

本研究では摂食障害者が19歳以下である方が,両親の困難度の高い項目が多かった.特に,摂食障害者をおいて自由に外出できないことや自分だけの時間がもてないこと,子どもの世話で心身ともに疲れていることは,摂食障害者が19歳以下であることと有意に関連していた.これらは,19歳以下の摂食障害者を持つ両親が,成人期の摂食障害者を持つ場合よりも親子関係が密になりやすいことを示唆している.その理由には,10代という時期が学業や就職などの様々なライフイベントによって親の責任の生じる機会が多いことが考えられ,病気の子どもを持つ両親が必要以上に気負ってしまう可能性がある.さらには,我が子を病気にさせてしまったという罪悪感や自責感によって(Cottee-Lane et al., 2004),子どもの世話に没頭して償おうとする思いが(佐藤,2006),19歳以下の摂食障害者を持つ両親で特に顕在化している可能性がある.

こういった両親の摂食障害者に対する過度な関わりは,共依存関係に繋がり,悪循環を生じさせてしまうと言われている(Treasure et al., 2009/2014山下,2012).すなわち,19歳以下の摂食障害者を持つ家族では,親子の関係性が不健全なものとなりやすく,悪化の一途を辿りやすいことが考えられる.

2. 発症年齢(19歳以下と20歳以上に分類)と両親の生活困難度

本研究では,発症年齢が20歳以上の摂食障害者の両親の方が,そうでない両親よりも他の家族の結婚話などで気苦労を感じることが明らかとなった.これは,壮年期にあたる摂食障害者が健常群よりも未婚の割合が高く,子どものいない割合も多いこと(知場ら,2012)を反映した結果と考えることができる.

ただ,結婚話による気苦労と言っても,摂食障害者の将来を憂いたものなのか,他の家族と自分たちの家族を比較した際の劣等感によるものなのか,それ以外の理由なのかを本研究で判断することは難しい.今後の調査によって,結婚話の気苦労の詳細を明らかにすべきであると考えられる.

また,摂食障害者のうち14歳以下で発症する者が4.5~10%と報告される中(Atkins & Silber, 1993宮脇,2001),本研究では10代前半の発症が14例(31.1%)と高率を示した.さらに,10代後半の発症が19例(42.2%)であったことからも,摂食障害の低年齢化(中村,2008)を顕著に示す結果だったと考えられる.しかし本研究では,発症年齢が19歳以下の摂食障害者の両親に特有の生活困難度は明らかとならなかった.低年齢化が広がりをみせる摂食障害においては,発症年齢の低年齢化による両親への影響について,今後検討を深めていく必要があるだろう.

3. 入院歴と両親の生活困難度

本研究では,入院歴のある摂食障害者を持つ両親が,自由に外出できないという困難を感じることが明らかとなっている.統合失調症者家族では入院回数が多いほど介護負担感が高いと言われているのに対し(酒井ら,2002),本研究では,自由な外出ができないという具体的な家族の困難が明らかとなったと言えるだろう.しかし,患者の入院歴と親の困難度との関連については,統合失調者家族においても一致した知見が得られていないのが現状であり,本研究の結果も安易に一般化できない可能性はある.

また,そもそも摂食障害者の両親にとって入院とは,恥の体験であり,子どもへの期待や希望を失う体験でもある(佐々木,2010).このような体験をした両親にとって,摂食障害の子どもとの生活は閉鎖的な束縛されたものにならざるを得ない.佐々木(2010)も,摂食障害者の母親が誰にも相談できずに自己犠牲的に子どもに尽くすことを述べている.すなわち,これらの背景が,両親の自由に外出することをも阻害し,社会的な孤立を生じさせる要因となっていることが考えられる.

Ⅴ. 研究の限界と課題

対象者数が45例と少ないため,本研究の結果が摂食障害者の両親すべてにあてはまるものとは言えない.さらに本研究は,検定の多重性の問題をはらんでいる.実際,Holm法をおこなった場合,入院歴があるほど両親が自由に外出できないこと以外は有意差が認められなくなり,第1種の過誤が生じている可能性を否定できない.また,摂食障害者に費やす1日平均時間を問う質問項目に関して,何のために費やされた時間なのか曖昧な表現もあった.これらの課題を克服するために,今後は質問項目をより精選し,対象者を拡大した調査をおこなう必要がある.

Ⅵ. 結語

1.19歳以下の摂食障害者を持つ両親は,20歳以上の摂食障害者を持つ両親よりも生活困難度の高い項目が多かった.

2.20歳以上で発症した摂食障害者を持つ両親は,19歳以下で発症した摂食障害者を持つ両親よりも,他の家族の結婚話による気苦労という困難を感じていた.

3.入院歴のある摂食障害者を持つ両親は,そうでない両親よりも,自由に外出できない困難を生じやすい.

謝辞:本研究にご協力頂きましたご家族の皆様に深く感謝致します.また,本研究においてご指導頂きました諸先生方に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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