2017 Volume 37 Pages 244-253
目的:きょうだいが小児集中治療室(以下PICU)に入院中の子どもに面会する場で,両親と看護師はきょうだいにどのように関わり,それがきょうだいにどのような影響を及ぼすのかを明らかにする.
方法:A病院PICUで9名のきょうだいが面会する場面の観察と,きょうだいと一緒に面会した4名の母親と1組の両親へのインタビューを実施し,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
結果:両親と看護師による,《患児との対面の促し》《患児への関心につなげる説明》《患児に触れる促し》【きょうだいを主役にする】という一連の働きかけが適切に行われることで,きょうだいに《患児を身近に感じている様子のきょうだい》という変化が生じていた.
結論:きょうだいに《患児を身近に感じる》という変化が生じるためには,看護師が両親と協働してきょうだいの患児への関わりを促し,【きょうだいを主役にする】という働きかけを行うことが重要である.
子どもの入院が,そのきょうだいにストレスや不安などの心理的影響を及ぼし,情緒や行動に様々な問題が生じることが知られるようになり,入院児のきょうだいへの支援の必要性が指摘されている(小澤ら,2007;堂前ら,2011).きょうだいのストレスには,入院児との面会が可能であることや面会の頻度が影響すると指摘されており(Simon, 1993;新家・藤原,2007),きょうだいへの支援を考えるうえで面会に関する検討の意義は大きい.しかし,国内の655カ所の小児入院施設を対象とした調査では,35.5%の施設がきょうだいの面会を許可しておらず,52%が条件次第で許可しているという結果であり(小林・法橋,2013),きょうだいの面会は施設ごとの判断で行われている.
きょうだいの面会を制限する理由としては,入院児が感染するリスクと,きょうだいがショックを受ける可能性などの心理的影響への懸念が指摘されており,特に,重症児が入院するNICU(新生児集中治療室)やPICU(小児集中治療室)では一般病棟以上に厳しく制限されている(Meyer et al., 1996;Meert et al., 2013).しかし,感染のリスクに関しては,米国のNICUにおいて,きょうだいの面会によって新生児の感染徴候は増加しないことが報告されている(Solheim et al., 1988).そして,きょうだいの心理面への影響についても,NICUで面会したきょうだいに不安や恐怖の増加はなく,むしろ患児の状況を理解し,ネガティブな態度が減少したことが報告されている(Oehler et al., 1990).
このように,NICU入院児との面会はきょうだいに有害ではなく,むしろ有益である可能性が指摘されているが,面会の場における,両親や看護師のきょうだいへの関わりについては検討されていない.また,PICUにおけるきょうだいの面会についての研究は見当たらない.重症児が入院し,多くの医療者や医療機器に囲まれた特殊な環境であるPICUにおいて,単に入院児との面会を行うことがきょうだいに有益であるのかは疑問であり,両親や看護師のきょうだいへの関わりについて検討することは重要である.そこで本研究では,きょうだいがPICU入院児に面会する場で,両親と看護師がきょうだいにどのように関わり,その結果,きょうだいに何が生じているのかについて検討する.
きょうだいがPICU入院児に面会する場で,両親と看護師はきょうだいにどのように関わり,それがきょうだいにどのような影響を及ぼすのかを明らかにする.
A病院において,以下の条件を満たす人を対象とした.
1)PICU入院児と面会する15歳以下のきょうだい.
2)PICUに入院中の,ターミナル期ではない子ども.
3)PICU入院児ときょうだいの面会に立ち会う両親と看護師.
2. データ収集方法 1) 参加観察法PICU入院児にきょうだいが面会する場面の観察を行った.研究協力者(きょうだい,患児,両親,看護師)間の相互作用に焦点をあてて観察し,反応や言動の変化を把握するために,それぞれの研究協力者の行動や表情,視線,発言内容や声の大きさ,トーンなどの情報に留意して記述した.
2) 両親へのインタビュー観察実施後の両親を対象に,後日,面会実施に至る経緯や面会後のきょうだいの様子について,半構成的面接法によって情報を得た.
3. 分析方法データ分析には,当研究の目的を踏まえ,相互作用によって生じる変化のプロセスを現象として把握する研究方法である,ストラウス版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTA)(戈木クレイグヒル,2014, 2016)を使用した.
1) テクストの作成参加観察法やインタビュー法によって収集したデータを文字に起こし,テクストを作成した.観察とインタビューのテクストは別々に作成し,テクストごとに以下の分析を行ったうえで統合した.なお,GTAでは把握する現象に関するデータを,観察した言動の意図や理由の解釈も含めて詳細に収集する必要がある.その解釈の偏りを避けるために,観察直後に,観察中の言動の意図や理由について,両親と看護師へ口頭で質問して確認を行い,その内容は補足情報として観察のテクストに加えた上で分析を行った.また,きょうだいの年齢や入院児の疾患などの背景となる情報についても留意した.
2) テクストの読み込み分析の第一歩として,テクストに現れている内容を理解するためにテクストの読み込みを行った.
3) テクストの切片化読み込みを行ったうえで,文脈に縛られずに分析するためにテクストを内容ごとに細かく切片化した.
4) 概念の抽出まず,切片ごとにプロパティとディメンションという,抽象度の低い概念を抽出した.そして,抽出した複数のプロパティとディメンションに基づいて,その切片を表す概念名としてラベル名をつけた.全ての切片にラベル名をつけたあと,類似するラベルを集め,より抽象度の高いカテゴリー名をつけた.また,頻度や度合といったディメンションは,切片データ間の比較を行い,相対的に判断した.
5) アキシャル・コーディング抽出したカテゴリー同士の関連を検討し,カテゴリー関連図を作成した.抽象度の点で,生データに最も近い概念であるプロパティとディメンションを用いてカテゴリー同士を関連づけることで,データに根差しながら,相互作用による変化のプロセスを明らかにして現象を把握し,現象の中心となるカテゴリーを現象名とした.
以上の分析過程において,GTAの専門家による研究会で,作成したテクストや分析結果を提示する機会を定期的にもち,GTAに造詣のある複数の第三者のチェックを受けながら分析を行った.
4. 倫理的配慮本研究は,慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の倫理審査委員会の承認(承認番号:2013-18)を得て行った.対象となる両親および看護師に,研究の目的,方法,研究参加の自由,同意を撤回する権利の保証,不利益の排除,プライバシーの保護,結果の発表方法について,口頭と書面で説明し同意書への署名によって同意を得た.入院児ときょうだいについては,両親の意向を確認し,年齢や体調に配慮して説明を行った.また,同意取得後も,データ収集実施前に再度同意の意思を確認し,データ収集実施中も対象者への精神的負担に留意して観察した.
本研究では,6名の入院児にきょうだいが面会する場面を観察した.観察の対象となったきょうだいは9名,両親は10名(母親6名,父親4名),看護師は8名であった.観察後に,4名の母親と1組の両親へのインタビューを行った.観察日以降に状態が悪化した1名の患児については,両親への精神的負担に配慮してインタビューの依頼を控えた.なお,両親は入院児の様子を年齢に合わせてきょうだいに伝えていた.研究協力者の属性を表1に示す.
事例番号 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
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面会したきょうだい | 姉(1歳11ヶ月) | 姉(4歳) | 姉(7歳) 兄(3歳) |
兄(5歳) 兄(3歳) |
兄(11歳) 兄(9歳) |
兄(6歳) |
きょうだいの様子(母親より) | 患児との生活歴なし 患児の写真を見せても関心を示さない 妹の存在を分かっていないように感じる |
患児に会いたがる 心配している様子はない 患児の状態はよく理解できていない |
患児との生活歴が少ない 患児のことを忘れてしまっているように感じることがある |
患児に会いたがる 心配している様子はない 患児の状態はよく理解できていない |
患児に会いたいと言うことは無いが,患児の様子を自分から両親に質問し,気にかけている | 患児に会いたがる 急に入院した妹を非常に心配している |
入院児の年齢・性別 | 0ヶ月29日 女児:仮名A |
8ヶ月 女児:仮名B |
11ヶ月 女児:仮名C |
1歳6ヶ月 女児:仮名D |
2歳8ヶ月 男児:仮名E |
2歳3ヶ月 女児:仮名F |
診断名 | 両大血管右室起始症 総肺静脈還流異常症 |
新生児劇症肝炎 生体肝移植後,水頭症 |
気管狭窄症 PA sling |
左心低形成症候群(Glen術後) | 三尖弁閉鎖症 大動脈縮窄症 |
溶血性尿毒症症候群 |
使用中の医療機器 | 人工呼吸器,CV,胸腔ドレーン,腹膜透析 | CV | 人工呼吸器,PI | PI | PI | 人工呼吸器,血液透析 |
入院児の状況 | 入室17日目 開胸術後12日目 NO離脱後 |
入室192日目 VPシャント術後 16日目 抜管後13日目 |
入室30日目 | 入室26日目 開胸術後12日目 抜管後3日目 |
入室88日目 心臓カテーテル 術後5日目 抜管後4日目 |
入室10日目 |
面会家族 | 母親/祖母 | 両親/祖父母 | 両親 | 両親 | 両親 | 母親/祖母 |
関わった医療者 | 看護師A (30代前半,女性) 看護師B (20代前半,女性) 看護師C (30代後半,女性) |
看護師D (20代後半,女性) |
看護師E (30代前半,女性) |
看護師A (30代前半,女性) |
看護師F (20代後半,女性) 看護師G (20代前半,女性) |
看護師H (20代後半,女性) |
インタビュー協力者 | 母親 | 母親 | 母親 | なし | 母親 | 父親・母親 |
本研究の結果,【きょうだいを主役にする】という現象が明らかになった.以下,1)【きょうだいを主役にする】という現象のカテゴリー関連図,2)ストーリーライン,3)各カテゴリーの説明の順に示す.なお,本稿では,現象の中心となるカテゴリーを【 】,その他のカテゴリーを《 》で表記した.
1) 【きょうだいを主役にする】という現象のカテゴリー関連図【きょうだいを主役にする】という現象に関わるカテゴリーとして,12個のカテゴリーが抽出された.これらのカテゴリーの関連を図1に示す.なお,分析はきょうだいの年齢にも留意して行ったが,きょうだいの年齢だけでプロセスが変化することはなかった.
【きょうだいを主役にする】という現象に関するカテゴリー関連図
両親は,PICU入院児と《きょうだいをつなげたい思い》を抱いていた.そして《つなげたい思い》の度合が高く,《きょうだいの面会に関する心配》の度合が小さければ,両親は面会の場で《患児との対面の促し》を行っていた.
面会の場で両親が,きょうだいに患児の様子を伝える,きょうだいを患児に近づけるといった方法で《患児との対面の促し》を適切に行った場合には,きょうだいは《患児への関わり》をもつことができた.そして,《患児への関わり》をもつことができたきょうだいに対して,両親と看護師は【きょうだいを主役にする】という働きかけを行っていた.
両親と看護師がきょうだいを主役にする度合が高く,看護師が両親と協働して働きかけ,両親がきょうだいに関心を向けて,きょうだいの関わりに対する患児の反応を分かりやすく伝えたり,きょうだいの関わりをほめるといった方法で,繰り返し働きかけた場合には,《患児を身近に感じている様子のきょうだい》に変化した.きょうだいは,両親や看護師の働きかけによって積極的に患児に関わり,面会後にも,患児に関心を示すようになり,患児の状況に理解を示す言動や患児を思いやる言動が増えていた.
一方で,両親の《きょうだいの面会に関する心配》が大きい場合には,両親に対して,《看護師による面会実施の促し》が必要であった.また,面会の場で,両親が《患児との対面を促す》度合が低い場合には,《面会するきょうだいの緊張》の状況によって対応は異なっていた.
きょうだいの緊張の度合が高く,見慣れない環境に関心を示す度合が低い場合には,看護師が両親に代わって《患児との対面の促し》を行う.一方で,きょうだいの緊張の度合は低いが見慣れない環境に関心が向いてしまう場合には,両親と看護師は《患児への関心につなげる説明》を行った.また,きょうだいの緊張の度合が低く,見慣れない環境に関心を示す度合も低い場合には,きょうだいは自分から《患児への関わり》をもつことができた.両親や看護師が以上のように働きかけても,きょうだいが患児に関わることができない場合には,両親と看護師は《患児に触れる促し》を行い,きょうだいが患児に触れる機会をつくることで【きょうだいを主役にする】という働きかけにつなげていた.
しかし,一連の働きかけが適切に行われない場合には,きょうだいは《患児を身近に感じていない様子のきょうだい》という状況に至った.
3) 各カテゴリーの説明本項では,【きょうだいを主役にする】という現象に関わる12個のカテゴリーについて説明する.実際のデータを引用した部分は,イタリック体か「 」で表記し,子どもにはA~Fの仮名をつけた(表1 参照).
(1) きょうだいを主役にする【きょうだいを主役にする】とは,きょうだいの患児に対する関わりに対して,両親や看護師が,患児の反応を分かりやすく伝える,きょうだいの関わりをほめるといった方法で,きょうだいをその場の主役にする働きかけである.
母親が,兄たちと声を出して笑いながら関わっているEくんを見ながら「全然ちがうねー.きっと気持ちが紛れるんだろうねー.」と父親と兄たちに声をかけ,父親は笑顔で頷きながらEくんと兄たちの様子を見つめる.続けて,2人の看護師が「やっぱりお兄ちゃんたち来ると違うねー.」「きょうだいの力だねー.」と兄たちに声をかける.兄たちは看護師の方を振り返ると,兄同士で顔を見合わせてクスクスと笑い,再びEくんに笑顔で関わり続けている.
[事例5:Eくん(2歳8ヶ月,男児)と兄1(11歳),兄2(9歳)の面会場面]
母親は,Eくんの反応が自分だけで面会している時と違うことを伝え,兄たちの関わりをほめた.父親も笑顔で母親の言葉に頷き,両親が一緒に兄たちに注目して関わっていた.くわえて,2人の看護師が兄たちに関わることで,両親と看護師の注目が集まり,兄たちがその場の中心になっていた.
Eくんの場合には,きょうだいの関わりに対する反応が大きかったが,PICUでは,新生児や鎮静薬によって患児からの反応がない場合も多い.例えば,Dちゃんの場合には,鎮静薬の持続投与によって兄たちの関わりに対する反応がほとんど見られなかった.しかし,両親は2人の兄たちがDちゃんの手に触れたり,歌を歌うなどの関わりをもつ度に,「嬉しそうだよ!嬉しそうな顔した!」「ほら!握手してって言ってるよー.」と,Dちゃんのわずかな反応を捉えて,分かりやすく強調して伝えていた.そして,両親に続いて看護師が「お歌上手だねー.」「おうちで練習してきたのー?」と兄たちに注目して関わることで,兄たちがその場の主役のような状況となり,兄たちは「本読んであげるー!」「僕も読んであげるー!」と,競い合うようにDちゃんに関わり続けていた.
なお,看護師が中心となって【きょうだいを主役にする】という働きかけを行う場合には,看護師がきょうだいに働きかけた時に両親の関心がきょうだいに向いていなかった場面では,きょうだいはすぐに気が逸れてしまい,関わりをやめてしまっていた.しかし,看護師がきょうだいに働きかける時に,両親が笑顔で見守っていた場面では,きょうだいは笑顔で看護師に応えながら,両親の方を振り返りながら患児に関わり続けていた.
(2) 両親がきょうだいをつなげたい思い急に(兄が患児に)会えない日々が続いてたんで,(中略)うん.やっぱ一番ひどい時は「Fちゃん死んじゃうんじゃないかと思った.」って言うくらい,やっぱ心配してたんで.
[事例6:Fちゃん(2歳3ヶ月,女児)と兄(6歳)の母親]
Fちゃんは健康で既往歴のない子どもであったが,食中毒に伴う急激な全身状態の悪化でPICUに入院した.兄がFちゃんのことを心配する様子を見て,母親はFちゃんと兄をつなげたいと考えた.Fちゃんの様に緊急入院する子どもがいる一方で,PICU入院児の中には,先天性疾患で生後すぐに入院する子どもや,入退院を繰り返し,病院にいる期間が長い子どもも多い.先天性疾患により出生直後から入院し続けていたAちゃんの母親は,1歳11ヶ月の姉にAちゃんの写真を見せて様子を伝えていた.しかし,写真に見向きもしない姉に対して,母親はAちゃんの存在を分かって欲しいという思いを抱いていた.
(3) きょうだいの面会に関する心配PICU入院児の両親が,きょうだいを面会させることを心配する主な理由は2つあった.1つ目は,きょうだいの行動によって周囲へ迷惑をかけることである.今回の調査では,観察した全ての事例がオープンフロア病床での面会であった.個室病床に限らず,積極的にきょうだいの面会が行われていたが,両親は周囲に迷惑をかけることを心配していた.
2つ目は,面会するきょうだいにマイナスの影響が生じるのではないかということである.Fちゃんの父親は,6歳の兄が,Fちゃんと面会することでショックを受けてしまうことを心配していた.一方で,Cちゃんの母親は,7歳の姉について「死んじゃうっていうのが,たぶんまだ分かってないから,ああいう入ってる(挿管)っていうのも,『あっ,そう.』くらい.」と語り,きょうだいが患児の重症さを理解できないと考えていた.
(4) 看護師による面会実施の促し《看護師による面会実施の促し》とは,看護師が,きょうだいの面会について心配する両親に対して,きょうだいが騒いでも大丈夫であることや,他患児のきょうだいも面会していることを伝えて,面会の実施を促す働きかけである.
多くの小児病棟では,患児がターミナル期に入った時にだけきょうだいの面会を許可している.しかし,今回調査を行ったPICUでは,患児がターミナル期であるかどうかに関わらず,看護師の方からきょうだいの状況に関する情報を集め,生後1度も退院していない場合やきょうだいの不安が大きい場合などに必要性を検討し,きょうだいの面会を両親に提案していた.
(5) 両親による患児との対面の促しPICU入院児にきょうだいが面会する場で,「Dちゃん起きてるよー.」「ほら,お口が動いてるよー.」「Fちゃん頑張ってるよ.Fちゃんね,ずーっとこうやって寝てるの.」と声をかけることで,両親はきょうだいに患児の様子を伝え,きょうだいの関心が患児へと向くように関わった.また,きょうだいがベッドサイドへ近づこうとしない場合には,両親は,きょうだいの背中をそっと押して患児の近くへと促し,きょうだいが小さい場合には,両親はきょうだいを抱き上げたり,患児の顔を見ることができる高さの椅子に座らせていた.
(6) 面会するきょうだいの緊張同じくらいの年齢のきょうだいであっても,初めての面会時から笑顔でベッドサイドに向かい,緊張している様子のないきょうだいと,緊張した様子で,自分から患児に関わることができないきょうだいがいた.また,緊張しているように見える度合が低いきょうだいの中にも,患児に関心を示す度合が高く,自分から患児に関わることができたきょうだいと,見慣れない環境に関心を示す度合が高く,患児へと関心が向かないきょうだいがいた.後者の場合には,きょうだいが患児との関わりをもつために,周囲の働きかけが必要であった.
(7) 看護師による患児との対面の促し《看護師による患児との対面の促し》とは,《両親による患児との対面の促し》が適切に行われずに,緊張している様子のきょうだいに対する看護師の働きかけである.看護師は,きょうだいに患児の様子や,患児に近づいて良いことを伝えることで,きょうだいが患児に関心を向け,患児のそばに近づくことを促した.また,ベッドサイドのカーテン閉めることで周囲が気にならないようにしたり,きょうだいが患児を見やすいように踏み台を用意することで,きょうだいの関心が患児に向きやすい環境をつくり,患児との対面を促していた.
(8) 患児への関心につなげる説明《患児への関心につなげる説明》とは,見慣れない環境が気になり,患児へ関心が向かないきょうだいに,両親や看護師が,きょうだいが関心を示しているものと患児との関係や,それを患児に使用する理由などを説明することで,患児への関心を促す働きかけである.
それはね,Cちゃんの体に入ってるお薬だよ.Cちゃん今度手術するでしょう? 手術までね,あんまり動かないように,眠くなるお薬が入ってるんだよ.お薬いっぱいだねー.Cちゃん頑張ってるね.
[事例3:Cちゃん(11ヶ月13日,女児)の姉(7歳)に対する看護師の説明]
Cちゃんの姉は,点滴ラインやシリンジポンプなどの医療機器に関心を示し,「これはなに?」「じゃあこれは?」と,次々と看護師に質問をした.それに対して看護師は,患児の様子も盛り込みながら姉の質問に1つ1つ答えた.看護師の「お薬いっぱいだねー.Cちゃんがんばってるね.」という声かけのあと,姉はCちゃんの方へと視線を向け,Cちゃんに近づいて触れていた.
(9) きょうだいの患児への関わりきょうだいは,患児が重症で鎮静されているような状況であっても,患児に触れる,患児を人形であやす,患児に歌を歌う,患児に絵本を読み聞かせるなどの関わりをもつことができていた.一方で,両親や看護師の働きかけによって,患児に近づいて関心を向けることはできたものの,積極的に関わることができないきょうだいもいた.そのような場合には,きょうだいが患児との関わりをもつために,両親や看護師による,《患児に触れる促し》が必要となった.
(10) 患児に触れる促し《患児に触れる促し》とは,両親や看護師が,患児に関わることができないきょうだいに,触れても大丈夫だと伝える,患児に実際に触れさせる,患児が触れられることを望んでいると伝える,大人が患児に触れている様子を見せるという方法で,きょうだいが患児に触れる機会をつくる働きかけである.
母親は姉を抱き,「Aちゃんだよー」「かわいいねー」と姉に声をかけながら,Aちゃんの頭を撫でる様子を姉に見せると,姉の手をそっと握り,姉の手でAちゃんの顔に触れさせる.姉は,最初は,硬い表情のままAちゃんに触れていたが,徐々に表情を緩め,3回目にAちゃんに触れたあとには笑顔が見られる.
[事例1:Aちゃん(0ヶ月29日,女児)と姉(1歳11ヶ月)の面会場面]
Aちゃんの場合には,母親が《患児に触れる促し》を積極的に行っていたが,看護師が中心となって働きかける場合もある.Bちゃんのことを,4歳の姉が緊張した様子で見つめていた場面では,看護師が姉に「Bちゃんだよー.いい子いい子ってしてあげてー.」と声をかけ,看護師と母親がBちゃんに触れる様子を見せることによって,姉がBちゃんと関わることができた.
両親や看護師は《患児に触れる促し》を繰り返し行いながら,きょうだいが患児に触れることができると「できたねー!」「握手したのー?」ときょうだいに声をかけ,【きょうだいを主役にする】働きかけにつなげていた.
(11) 患児を身近に感じている様子のきょうだい《患児を身近に感じている様子のきょうだい》とは,PICU入院児に面会したきょうだいが,面会の場で患児に積極的に関わることができ,面会後の日常生活の中でも,患児に関心を示すようになったり,患児の状況に理解を示す言動や,患児を思いやる言動が見られるようになる変化のことである.
面会したあたりから,「Aちゃん」て言うと,(姉が)時々そのAちゃんの写真を指差したりとか.うん,あの,ちょっとこう写真のこの子がAちゃんで,自分が会ってきた子なんだっていうのが,何かこう分かったみたいで.
[事例1:Aちゃん(0ヶ月29日,女児)と姉(1歳11ヶ月)の母親]
先天性疾患のために生まれてすぐにPICUに入院したAちゃんに,姉は一度も会ったことがなく,母親が写真を見せてAちゃんの話をしても関心を示さない状況だった.しかし,初めての面会後から,自宅でもAちゃんに関心を示す様子が見られるようになった.その後も,2回目,3回目の面会を行ううちに,姉は,母親が自宅に持ち帰ったAちゃんの洋服を見て,「Aちゃんの!」と言うようになったり,面会の場で,自分からAちゃんに触れるようになった.
でもそれから,家でも,「Fちゃんが早く元気になりますように」って.「お手紙書くんだ」って言って.(中略)もう,Fちゃんのためにあれをやるこれをやるって.自分でもその状況(Fちゃんの状況)を見れて,あ,Fちゃん頑張ってるんだって,じゃ自分も頑張んなきゃって気持ちもあるみたいですね.
[事例6:Fちゃん(2歳3ヶ月,女児)と兄(6歳)の母親]
Fちゃんの兄は,Fちゃんの入院直後には「Fちゃん死んじゃうかと思った.」という言葉が見られ,強い不安を示していた.兄は,面会の場でも強い緊張を示して不安そうな様子であったが,母親や看護師の働きかけによって徐々に緊張を緩め,Fちゃんと向き合うことができた.そして,面会後には,不安を示す言動が減少し,Fちゃんを思いやり,応援するような言動が増えていた.
(12) 患児を身近に感じていない様子のきょうだいもう,すぐ(きょうだいがCちゃんのことを)忘れちゃいますね.やっぱり.(中略)離れてる時の方が多いんで,そんな生活に組み込まれてないので.
[事例3:Cちゃん(11か月13日,女児)と姉(7歳),兄(3歳)の母親]
Cちゃんときょうだいの1回目の面会は,Cちゃんへの負担を最小限にしたいという両親の意向により短時間で行われ,きょうだいはCちゃんの顔を見て,すぐに退室したという状況であった.そのため,看護師がきょうだいに十分に関わることはできず,両親の意識も,Cちゃんに対する心配から,きょうだいよりもCちゃんの方に向けられていた.面会後のきょうだいの様子について,母親は以上のように語り,面会の場で,両親や看護師の働きかけが適切に行われず,入院児ときょうだいがただ顔を会わせただけという場合には,面会の場で患児への関わりをもつことができず,面会後にも,患児に関する話題や,患児の状況を理解する言動が増えるといった変化は生じていなかった.
本研究の結果から,きょうだいがPICU入院児に面会する場における【きょうだいを主役にする】という働きかけが,《患児を身近に感じている様子のきょうだい》という変化を生じさせるために重要であることが分かった.
【きょうだいを主役にする】という働きかけを行ううえで,特に重要だと思われた点は,両親が【きょうだいを主役にする】という働きかけに参加していることである.例えば,看護師がきょうだいに働きかけた時に,両親の関心がきょうだいに向いていなかった事例では,きょうだいはすぐに気が逸れてしまい,関わりをやめてしまっていたが,看護師ときょうだいの様子を両親が笑顔で見守っていた事例では,きょうだいは笑顔で看護師に応えながら,両親の方を振り返って患児に関わり続けていた.これらの事例は,いずれも直接的にきょうだいに働きかけたのは看護師だが,両親がきょうだいに関心を向けていたか否かという点が異なっていた.したがって,見守るという方法であっても,両親がきょうだいに関心を向けて【きょうだいを主役にする】という働きかけに参加することは重要であり,両親が自分から働きかけることができない場合には,看護師が両親と協働してきょうだいに働きかけることが重要である.
先行研究では,一般の小児病棟に入院した子どものきょうだいに引きこもりや抑うつ,自己存在感が乏しくなるなどが生じる原因として,両親をはじめとした家族の関心が患児だけに集まること,両親と過ごす時間が減少することによって,きょうだいが孤独感や家族からの疎外感をもつことが指摘されている(新家・藤原,2007;小澤ら,2007).きょうだいが患児に面会する場で,両親がきょうだいに関心を向けて働きかけることにより,きょうだいの孤独感や疎外感が和らぐ可能性があり,【きょうだいを主役にする】という働きかけに両親が参加することの重要性につながっていると考えられた.
また,入院児のきょうだいに,前述のようなネガティブな影響だけではなく,精神的に成熟する,患児や家族の気持ちを思いやるようになる,自立的な行動が増えるなどのポジティブな変化が生じることも報告されており(新家・藤原,2010),両親や医療者が,きょうだいの自己肯定感が高まるようにサポートすることの重要性が指摘されている(尾形ら,2012).【きょうだいを主役にする】という,きょうだいに注目してきょうだいを場の中心にする働きかけは,きょうだいの自己肯定感に良い影響を及ぼす可能性があり,《患児を身近に感じている様子のきょうだい》という変化が生じた一因であると考えられる.
2. きょうだいの面会における看護師の役割きょうだいがPICU入院児に面会する場において,面会するきょうだいの状況に合わせて,《患児との対面の促し》《患児への関心につなげる説明》《患児に触れる促し》【きょうだいを主役にする】という一連の働きかけが適切に行われることで,きょうだいに《患児を身近に感じている様子のきょうだい》という変化が生じていた.これらは,いずれも両親が行うことができる働きかけであるが,両親が適切に働きかけることができない場合に,看護師はそれを補うようにきょうだいに関わっていた.例えば,両親ときょうだいが面会中に,医師が両親にベッドサイドで病状説明を始めた場面では,患児の周りの医療機器に関心を示して質問するきょうだいに対して,医師の説明に集中し,きょうだいの質問に反応しない両親に代わって,看護師がきょうだいに《患児への関心につなげる説明》を行い,患児との関わりを促していた.そして,医師の説明が終わると看護師は,両親にも声をかけながら,両親を巻き込んで《患児に触れる促し》や【きょうだいを主役にする】働きかけを行い,結果的に,きょうだいは医療機器から患児へ関心を移して,患児と関わりをもつことができた.
今回の結果から,PICU入院児ときょうだいが面会する場における看護師の役割として重要だと思われたのは,看護師が,きょうだいだけではなく,きょうだいと両親との関わりにも留意しながら,両親と一緒にきょうだいに働きかけている点である.先行研究では,患児の入院によってきょうだいに生じる情緒や行動の問題は,きょうだいと患児との関係の変化だけではなく,生活環境や両親の行動の変化による,きょうだいと両親との関係の変化が一因であることが知られている(Simon, 1993;新家・藤原,2007).また,きょうだいの,患児の闘病による生活環境の変化への適応には,きょうだいが両親から配慮されていると感じる度合いが影響することが指摘されている(戈木クレイグヒル,2002).これらのことから,入院児のきょうだいへの支援を行ううえで,きょうだいと両親との関係に留意し,きょうだいが両親からの配慮を感じられるように支援することは重要だと考えられる.したがって,PICU入院児にきょうだいが面会する場において,看護師は,両親がきょうだいに積極的に働きかける場合には,それを尊重して支援すること,反対に,両親が働きかけを行えない場合には,それを補いながら,両親と協働してきょうだいに関わることで,きょうだいが両親から注目される状況につなげることが重要であると思われた.
また,患児の入院によって,きょうだいに実際に生じている情緒や行動の問題の方が,両親が認識しているきょうだいの情緒や行動の問題よりも大きいという報告もあり(Craft et al., 1989),両親がきょうだいに生じている問題を認識できていない状況も存在する.したがって,きょうだいが面会する場を通して,看護師が直接きょうだいに関わる機会をもち,きょうだいと両親の関わりを支援することは重要であり,両親からの要望の有無に関わらず,看護師の方からきょうだいに関する情報を収集し,必要に応じて,適切にきょうだいの面会を促すことも看護師の重要な役割であると考えられる.
3. 本研究の限界本研究結果は,PICU入院児にきょうだいが面会する場面の観察と,両親へのインタビューに基づく結果であり,きょうだい自身の主観的なデータが含まれていない.また,きょうだいの面会を許可する条件や環境が異なる施設で調査を行い,検討を重ねる必要もある.
謝辞:本研究に快くご協力をいただきました,すべての研究参加者の皆様,ならびに協力施設の皆様に心より御礼申し上げます.また,本研究の実施にあたり,臨床の立場から大変貴重なご意見を賜りました,村山有利子さま,渡井恵さまに深謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:RNは研究の着想から最終原稿作成に至るまで,研究プロセス全体に貢献.SSは研究のデザインから分析,原稿への示唆に至るまで,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.