Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Nurses’ and Patients’ Perceptions of Nursing Care Provision during the Initial Phase of Involuntary Admission to an Emergency Psychiatric Hospital
Tomomi KajiwaraYoshimi Endo
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2017 Volume 37 Pages 308-318

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Abstract

目的:精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対する認識を看護師,患者の視点から明らかにする.

方法:看護師,患者に半構造化面接を行い,質的統合法(KJ法)を用いて分析した.面接は,入院初期の参加観察を参考にした.

結果:対象は,看護師,患者,各5人であった.看護師の認識は9枚のラベルに分類され,【暴力につながり得るリスクの排除】の一方,【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】といった論理構造となった.患者の認識は6枚のラベルに分類され,【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】の一方,【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】といった論理構造となった.

結論:看護師,患者とも,看護援助に対し,強制的な治療遂行の一方,主体性の支持という2つの側面があると認識していた.患者の意に反した治療の遂行は,必要な治療でも,患者に強制力を認識させる.一方,主体性の支持は,治療を安全に行いつつ,患者の強制力の認識を減らすと考えられ,入院初期から意識すべき側面といえよう.

Ⅰ. はじめに

今日,国内外の精神保健医療は,病院中心から地域中心へ移行し,病院には,急性期に特化した短期間の質の高い医療が求められてきている.我が国では,2002年の診療報酬改定において,より急性症状に特化した「精神科救急入院料病棟」(以下精神科救急病棟とする)が新設された.算定要件は,非自発的入院患者の割合を高くし,入院期間を短く設定しており,医療者の配置や隔離室の設置も,他の病棟に比べ充実したものとなっている(澤,2014).

一方,短期集中的に急性症状をケアするにあたり,その困難さも明らかになっている.精神科救急病棟は,制限された入院期間と,混乱し,ストレスを抱えた急性症状を呈する患者のケアに特徴づけられ(Bowers et al., 2015),看護師は患者が主体的に治療できるようケアすることを望んでいるが,治療効果の要求,医学モデルの支配によって,そのケアが妨げられていると報告されている(Hummelvoll et al., 2001).我が国でも,精神科救急病棟の看護師は,‘頻回なベッド移動によりケア時間がとれない’‘患者の状態に合わせた治療環境が提供できない’といった患者へのケアとその他の業務との間で困難を抱えていることが明らかになっている(西池,2010).

患者にとって,精神科救急病棟への非自発的入院は,強制力の認識と有意に関連した体験であり(Sheehan & Burns, 2011),後の抑うつ状態につながり得ることが明らかになっている(Svindseth et al., 2007).一方,患者の強制力の認識には,医療者との否定的関係も影響していることが明らかになっており(Sheehan & Burns, 2011),強制的な非自発的入院であっても,看護師の関わりにより,強制力の認識を減らせる可能性があると言えよう.

非自発的入院において,強制力を減らし,患者が自ら回復や健康を高めることを支える看護に関する研究は,看護師のインタビューにより調査したものが多い(Chiovitti, 2008).このことは,患者の視点の不足に加え,看護援助の描写が,看護師の記憶に影響される可能性がある.また,精神科救急を対象にした研究のうち,入院初期に言及したものは少ない(東,2011).入院初期は,更なる慌ただしさにより,看護師にとって,無意識に行われた援助に焦点が向けられなかったり,患者にとって,提供された看護援助が記憶から抜け落ちたりする可能性がある.したがって,本研究では,看護師,患者,双方の調査を行うことにより,両者の視点からみた看護援助を検討すること,更に,面接の際には,入院初期の場面の参加観察を参考にすることで対象者の記憶の再生を助けることを試みた.

以上より,本研究は,精神科救急病棟への非自発的入院初期に実践された看護援助への認識を,看護師,患者,両者の視点から明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 用語の定義

・精神科救急病棟;我が国の診療報酬点数表に掲載された精神科救急入院料病棟の施設基準を満たす病棟とする.

・非自発的入院;精神保健福祉法にもとづく医療保護入院,措置入院,応急入院,緊急措置入院に分類される,自らの意志に反する入院とする.(精神保健福祉法,第29条,第33条)

・入院初期;入院から72時間以内とする.入院から72時間は,緊急措置入院や応急入院が認められている期間であり,特に緊急に保護が必要な急性症状の強い場面を抽出するために操作的に設定した.

・看護援助への認識;看護師,患者が,それぞれ看護援助に対し,考え,理解していることとする.

Ⅲ. 研究方法

1. データ収集場所と期間

精神科救急医療システムに参画し,24時間救急体制を取る精神科単科病院(1施設)の精神科救急病棟(2病棟)にて,2012年2~5月にデータ収集を行った.

2. 研究対象と対象選定方法

参加観察の対象場面

研究者が,看護師の申し送りに参加し,非自発的入院の情報を得,主治医,担当看護師より研究者の同席が可能と判断された場面.看護師が援助を行った場面を対象とし,他医療スタッフが同席している場面は対象としなかった.

研究対象者

(1)対象場面において援助を行った看護師.複数で対応した場合は,主立って対応した看護師を対象とした.

(2)場面の対象患者.統合失調症や気分障害といった機能性精神障害を対象とし,認知症や昏睡状態といった脳の器質的な障害が原因である患者は除外した.

3. 同意の取得手順

1) 看護師

研究開始前に,対象病棟の看護師に対し,看護師長より研究の概要を説明すると共に,研究の詳細に関して記された紙を掲示した.研究参加に同意した看護師には,病棟に設置した箱に署名した紙を入れてもらった.署名した看護師が援助に入る場面のみを対象とし,さらに口頭で同意を得た後,場面に同席した.場面観察後,面接を行う前に,紙面を用い,研究の目的,意義,方法,倫理的配慮といった詳細な研究説明を行い,正式な同意として同意書への署名を得た.

2) 患者

場面観察時,患者への研究説明は,看護援助の調査のために入室するという口頭での説明に留めた.観察場面を構成した患者のうち,主治医にて症状が落ち着いていると判断されるか,任意入院へ切り替わっている者に対し,紙面を用いて詳細な研究説明を行い,正式な同意として同意書への署名を得た.

4. データ収集方法

(1)対象と判断された場面において,研究者が同席し,参加観察を行った.

(2)観察後すぐに,研究者の記憶にもとづき,場面の状況と看護師の行動(しぐさ,表情,発言内容)について可能な限り詳細にフィールドノートに記載した.

(3)記載したフィールドノートを対象看護師に示し,場面の援助に関する意図や思い,注意点等について,半構造化面接を行った.面接時間は,記憶による影響を可能な限り少なくするため,当日中に対象看護師が指定した時間に実施した.

(4)対象患者の症状が落ち着き,治療を受け入れることができるようになった際,場面において提供された援助に関して,印象に残ったもの,良かった点,悪かった点等について,半構造化面接を行った.面接時間は,患者が治療を受けることを妨げないよう,担当看護師に情報を得た上で,患者自身が指定した.面接はいつでも中止可能であることを患者に保証し,疲労や症状悪化が観られた場合は,即座に中止し,医療者に報告した.

(3),(4)において,面接内容は,対象者の同意のもとICレコーダーにて録音した.

5. 分析方法

分析は,質的統合法(以下KJ法)を用いた.KJ法は,混沌とした現実の状況から,その意味や本質を見出そうとする分析方法で,現象にみられる多くの要素を取捨することなく,構造的に表すことが可能である(山浦,2012).本研究では,精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対する看護師,患者,両者の認識を照らし合わせることを目的としており,語られた多くのデータから,それぞれの論理構造を表すことのできるこの分析方法が適切であると考えた.

・個別分析;個別分析の目的は,事例の論理の抽出と個別性の把握である.

各対象者に(1)~(3)の手順で行った.

(1)単位化とラベル作成;対象者の逐語録を精読し,1つのラベルに中心的主張が1つ入るように心がけて単位化し,ラベルを作成した.

(2)グループ編成;ラベルを一面に広げて複数回読み,意味の「類似性」に着目してラベルを集め,集めたラベルの意味を表す一文を考え「表札」として記載した.この作業を数段回繰り返し,最終的にラベルが10枚以下になるまで行った.この枚数は,空間配置が無理なく行え,空間配置に対して研究における関係者間で合意が得られる目安として経験的に示されたものである(川喜田,1986).

(3)図解化;最終的に残ったラベル(=最終ラベル)を複数回読み,意味の上で最も判りよい相互関係を探り,空間的に配置した(=空間配置).最終ラベルの内容から,ラベル間の関係性を示す関係記号と添え言葉を作成し,最終ラベルを一言で表すシンボルマークをつけ,最後に空間配置を説明する結論文を作成した.

・総合分析;総合分析は,個別分析を踏まえた理論化の作業である.看護実践は,看護師,患者1対1の相互作用を基本としている.したがって,各対象の個別性を踏まえた理論化を可能にするために,個別分析を経て総合分析を行った.個別分析と同様の手順で行った.分析に用いるラベルは,“個別分析の具体性を残しながら,かといって抽象度が高すぎないレベル(山浦,2012,P. 103)”として,各個別分析の最終ラベルから2段前の状態まで戻したラベルを用いた.

6. 真実性と妥当性の確保

KJ法の研修を受講し,データ収集および分析の際には,質的研究に精通した研究指導者からスーパーバイズを受けた.

7. 倫理的配慮

本研究は,大阪大学医学部保健学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:207).上述した「同意の取得手順」をとることで,入院初期の看護援助がスムーズに提供されることを妨げたり,活発な精神症状や強い疲弊が考えられる入院初期の患者の病状に悪影響を与えないよう配慮した.同時に,入院初期の同意は正当性に欠ける可能性も考慮した.研究者の同席は,患者の病状に影響する可能性が考えられるため,主治医や担当看護師により,可能と判断された場合のみ行った.さらに,研究者は看護師として,精神科救急病棟で看護を行った経験があり,患者の病状に負担が生じないよう状態を十分に観察しつつ場面に同席し,少しでも病状への影響が考えられる際は,即座に退室した.看護師の研究参加を募る際は,強制力が働かないよう,提出された署名は研究者のみが確認できるようにした.患者への面接時,行われた看護援助を示す際は,患者が入院初期の状態を振り返り,ストレスを感じないよう,状態には言及せず,提示した看護援助に対する自由な語りを重視した.場面を構成する看護師,患者,両者から同意を得た際,初めてデータとし,いずれかの同意が得られないデータはその時点で破棄した.

Ⅳ. 研究結果

1. 対象者の概要

全10場面中,看護師,患者双方の同意を得た5場面,各5人を対象とした(表1).対象の入院形態は全て医療保護入院であった.

表1 対象者と参加観察場面の概要
参加観察場面 看護師 患者
場面収集日 場面で行われた看護援助の概要 性別・年代 精神科看護師歴 性別・年代 病名(状態) 面接時期
A 入院初日 入院決定後,病棟へ入ってから,保護室にて身体拘束を行う場面.自傷行為のリスク高く,看護師3名で対応.扉に手を掛け,看護師の腕に噛みつこうとし,病棟に入らないよう抵抗する患者に対し,もう1人の看護師と共に両脇を抱え,病棟内へ誘導する.同時に,突然の入院に対する患者の驚きに共感しつつ,一度落ち着かなければ,患者自身も自分たちも危ないと伝え,休息の必要性を伝える.話を聞いて欲しいと訴える患者に対し,病室でゆっくり話をしようと提案する.患者が転びそうになった際は,「大丈夫ですか?」と患者の安全を確認しつつ,保護室へ誘導.「窮屈ですね……」と話しながら,指示の拘束をすると,患者は,力を抜く.患者の協力に対し,感謝を伝え,「少し落ち着いたら,お話をしましょう.」とベッドサイドに座る. 男性・40代 20年 男性・20代 統合失調症 入院32日目
B 入院初日 個室へ入院するも易怒性高く,保護室ゾーンへ移動する場面.ナースステーションに向かって,「お金も無く,仕事もあるから,退院する」と怒り,大声で訴える患者に対し,周囲の患者の状況を観つつ,「お金のことはケースワーカーに伝えましたよ.もうすぐ説明に来ます.」と話しつつ,病室に誘導する.患者は,病室の前まで行くも,病室には入ろうとしない.部屋の前をうろうろする患者に対し,「それでは,廊下を歩きながら,お話しましょう.」と伝え,廊下をゆっくりと歩き出す.早口で怒りながら,不都合を訴える患者に対し,穏やかな口調で共感を示す.一度,患者の興奮は収まるも,再度徐々に強くなるため,ゆっくり歩きつつ,ナースステーションに誘導し,男性看護師に応援を依頼.「1度静かな場所で話しましょう.」と保護室ゾーンへ移動する. 女性・50代 6年 男性・50代 双極性障害(躁状態) 入院25日目
C 入院2日目 個室へ入院.病棟デイルームにて会話をする場面.デイルームを落ち着きなく歩いている患者に対し,時間があるか確認した上で,デイルームの窓際のテーブルに誘導する.患者から話し始め,10分程話し続ける.特に話を止めることなく,言葉を繰り返したり,相づちを入れつつ,真剣に聞いているが,患者から薬の話が出た際には「今は,薬はどうですか?」と尋ねる.もう少し減らしてほしいこと,以前自己判断でやめたら倒れたことを話す患者に対し,「それは大変でしたね.身体のために安全な服用方法を薬剤師からもう一度お伝えしましょうか.」と返答,患者も依頼する.再び患者の話は変わっていき,15分程話すが,一つの話題が終了した際に「では,何か気になることがあったらいつでも仰ってくださいね.」と席を立つ.患者も「分かりました.では…」と席を立つ. 男性・30代 8年 男性・40代 双極性障害(躁状態) 入院13日目
D 入院初日 入院決定後,外来診察室から病棟へ移動し,保護室にて身体拘束を行う場面.暴力と入院拒否による逃走のリスクがあるため,看護師4名で対応.入院を拒否し,出口に向かう患者に対し,腕をとり,制止する.患者が身体に触れることを嫌がるため,逃げないことを約束した上で,患者の身体に触れず,周りを囲むようにして病棟に案内する.保護室入室時,逃げ出そうと扉に体当たりするため,患者に身体に触れる理由を伝えた上で,指示の拘束を行う.拘束の不当性を大声で訴える患者に対し,黙って患者を観る.少し落ち着いた患者に対し,今のように大きい声でまくしたてることが無くなれば,拘束を外したい,大きい声出してたら,僕たちも怖いし,親御さんだって怖いだろうから,連れてこれないとゆっくり話す.検温を行い,患者の協力に感謝の意を述べる. 男性・30代 8年 男性・30代 双極性障害(躁状態) 入院22日目
E 入院初日 夜間入院後,翌朝,状態を確認し,拘束解除となる場面.胴下肢拘束中.オーバーベッドテーブルにコップを打ち付けて看護師を呼ぶ患者に対し,声を掛け,部屋の中を確認してから入室.患者は,対応が遅い,拘束されてイライラすると訴える.拘束の辛さに共感しつつ,拘束以外でイライラすることを聞く.患者は入院の発端となった家族間のトラブルについて話す.それだけのことで入院になってしまったという患者の思いを批判することなく,笑顔で対応すると,患者も笑顔となる.状態を確認した上で,拘束を外せるか医師に相談する時間が欲しいと伝える.医師の診察後,頓服服用後,拘束解除可の指示を受け,再度訪室.頓服に関して,イライラを鎮めるという効果と共に,飲み心地を伝えた上で促す.患者は落ち着いて服用.昨夜みたいに大声で暴れると,安全のために拘束しなければならなくなってしまうと伝え了承を得た上で,拘束を解除する. 男性・30代 15年 女性・10代 急性一過性精神病性障害 入院7日目

2. 分析結果

本稿では,看護師と患者の総合分析の結果を示す.【 】はシンボルマーク,〈 〉は最終ラベルを示す.元ラベルは‘内容(アルファベット・番号).’で示し,看護師はアルファベットの大文字,患者はアルファベットの小文字で示す.

1) 看護師の総合分析結果

看護師の総合分析は,各看護師の個別分析の最終ラベルから2段前の状態まで戻したラベル102枚を元ラベルとして行った.12段階のグループ編成を経て,9枚の最終ラベルに統合された.シンボルマークと最終ラベルを表2に示す.

表2 看護師総合分析シンボルマークと最終ラベル
シンボルマーク 最終ラベル
【不測の事態が生じ得る緊急入院への覚悟を決める必要性】 〈入院時は,患者の精神状態によって情報が錯そうしたり,不測の事態が起こりやすく,緊張も強いが,患者と話すことで情報も増え,アセスメントの深さも変わってくるし,経験を積み重ねることも必要なので,取りあえず行ってみる.〉
【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】 〈情報の少ない入院時は特に,安全のために人数で対応しつつも,同時に冷静に客観的に患者を観なければならないが,非自発的入院に対し怒っていることは当然なので,その興奮を取り除いた上で,こちらの声が聞こえているか,どのレベルの指示なら協力が得られるかといった点から状態を判断しなければならない.〉
【暴力につながり得るリスクの排除】 〈入院時,暴力のアセスメントには暴力歴と暴力を引き起こし得る不安の程度のアセスメントが必要で,暴力を引き起こさないために,複数で対応するが,その中でも患者の不安を減らすため,脅威とならない立ち位置を考えたり,今後の予測を伝えたり,患者を身構えさせないよう,怖がったり,身構える可能性のある新人では無く,経験者がメインとなって対応すべきである.〉
【相互作用における緊張緩和】 〈患者が興奮している時,そんなに怒ったら怖いと伝え,大きい声を出していることを認識させたり,自分が落ち着くためにも,患者を更に興奮させないためにも,ゆっくり話したり,対面しない関わりを心がけている.〉
【1人で抱えず病棟全体で行う関わり】 〈患者の攻撃的だったり,否定的な言動は,時に苦しくなることもあるが,患者の怒りは自分に対してではなく,病状や意に反した入院のためであると理解し,受け持ちだけでなく,病棟全体で患者を観ることで,患者との距離もとれるし,患者の多面性にも気付くことが出来る.〉
【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】 〈強制的な入院の中で,患者の興奮が激しくどうしようもない時もあるが,患者への敬意を忘れず,安心感を与えるような声掛けをしたり,なんとか良い環境を提供することで,入院は嫌でも,まぁここはいけるかと思ってもらえるようにすべきである.〉
【患者-看護師間の問題の共有】 〈非自発的入院の原因となった行動だけに焦点を当てられた問題は,患者が解決したい問題と異なることが多く,患者が何を問題に思っているのか,どのような対処方法が良いのか,一緒にとことん考え,会話の中で情報を整理したり,体験を振り返ることで,治療と体験をつなげたり,患者-看護師両者が同じ問題に向かって一緒にやっていける.〉
【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】 〈入院の原因となった行動を批判せず,看護師にとっては当然のことや分かり切ったことでも省かず話を聞くことで,患者は落ち着き,信頼は構築されると思うので,聞きたいことを聞くより,まずは患者の話を聞く必要がある.〉
【病状に影響しかねない問題への直面化の回避】 〈彼女と連絡が取れない,彼女から病状が悪いということを聞いたという情報は,彼女が裏切ったという形になり,患者の逃げ口を奪ってしまうことになり兼ねないので,症状の急性期に人間関係の問題等,プライベートな問題に直面させることはしないようにしている.〉

(1) 看護師の総合分析 シンボルマークの内容

精神科救急病棟への非自発的入院において看護師は,‘患者さんは,入院時どういう行動をとられるか予測不能なので,自分の顔に(患者の)手が跳んできたら,どう動こうかとか,色々なことを意識する(A3).’や‘(確かに怖いこともあるが,予測不能な中でも会話をしに行くのは,)話すことで,アセスメントの材料が増え,アセスメントの深さが全然変わってくるから(D14).’と【不測の事態が生じ得る緊急入院への覚悟を決める必要性】を認識していた.

そのような認識をもとに,看護師は‘暴力は不安から引き起こされることが多く,大人数で無理矢理部屋まで連れてって,それ以上人数が増えたら,患者にとってさらに不安を増長する脅威が増えるので,端から見たり,話をする時でも,敵対しないよう真正面でなく目線を下げて立ち位置を考える(D1).’といった【暴力につながり得るリスクの排除】を行っていた.さらに‘患者が興奮している時に,自分も同じように声を上げると,より患者も興奮するので,相手を興奮させないためにも,自分が落ち着くためにも,ゆっくり話したり,行動したりするよう気を付ける(B3).’と【相互作用における緊張緩和】も行っていた.また,‘強制入院の場合,嫌がっていることは当然なので,時間を置く等して,その興奮をできる限り除いて精神状態の判断をする(D23).’と【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】が語られた.患者の攻撃性や否定的な言動に対しては,‘苦手意識のある患者でも,受け持ちであれば行かなければならないという義務感があるが,患者が別のスタッフと話すことで落ち着いたり,なんとか自分の中で考えたりしているのであれば,自分はそれを見守るという形で良いし,色々なスタッフが患者と関わることで,患者の色々な面を観られるという利点もある(B2).’と【1人で抱えず病棟全体で行う関わり】が語られた.

一方,‘入院を拒否して,制限ばかりされてきた入院経過に対し,病室では,選択肢は限られているが,患者が望んでいることに答えようとする.なんとか良い環境を提供することで,入院自体は嫌だが,まぁここはまだいけるかと思う患者が多いと思う(D26).’と【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】も行っていた.同時に‘患者の衝動行為に対して,批判するのではなく,そうしてしまうくらい辛かったんだねって共感する(E15).’といった【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】が語られた.そして,‘(入院時)看護問題はまず紙面の情報だけでぱっと立てるが,本当の問題は,患者自身が持っているので,こういう風にしたいと患者が思っている問題を一緒に明らかにしていくことが大切(E1).’と患者の主観的問題を意識し,‘「薬を飲みなさい」というのでは無く,患者自ら話したことをもとに,怠薬によって不具合が生じた体験を一緒に振り返る(C2).’と治療の必要性と患者の体験を結び付ける【患者-看護師間の問題の共有】を行っていた.この際,精神症状が落ち着く前には,社会関係において生じている,患者にショックを与え兼ねない問題は棚上げしておくという【病状に影響しかねない問題への直面化の回避】が意識されていた.

(2) 看護師総合分析 空間配置と結論文

看護師総合分析の空間配置図を図1に示す.最終ラベルの内容から,論理構造の最下部に位置するラベルは,入院場面への参加という点で基盤となる.左に位置する4つのラベルは,興奮へ対応しつつ,治療を遂行するという点,右に位置する4つのラベルは,患者の主体性へ働きかけるという点で類似しており,各ラベル間に,同時に行われること,意識されることといった関係性が見出された.

図1

看護師総合分析の空間配置

結論文;精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対し,看護師は【不測の事態が生じ得る緊急入院への覚悟を決める必要性】をもとに,【暴力につながり得るリスクの排除】,【相互作用における緊張緩和】,【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】を同時に行っており,その際には,【1人で抱えず病棟全体で行う関わり】を意識していた.一方,【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】,【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】,【患者-看護師間の問題の共有】を同時に行っていたが,その際には,【病状に影響しかねない問題への直面化の回避】を意識していた.

2) 患者の総合分析結果

患者の総合分析は,各患者の個別分析の最終ラベルから2段前の状態まで戻したラベル62枚を元ラベルとして行った.7段階のグループ編成を経て,6枚の最終ラベルに統合された.シンボルマークと最終ラベルを表3に示す.

表3 患者総合分析シンボルマークと最終ラベル
シンボルマーク 最終ラベル
【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】 〈急に社会生活が分断される理不尽な強制入院に対し,驚き,帰ります,と立ち上がったが,体格の良い看護師さん達に押さえられ,どうすることもできず,看護師さん達が,あそこまで力づくで脅迫的に入院させるとは想定外だったし,抵抗したら,身体拘束までされるし,文句を言ったら,入院期間が長くなるかもしれないし,結局自分が不利になってしまうため,怒りとあきらめがあった.〉
【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】 〈入院前,人と揉めていたり,家族との言い分の違いがあったこともあり,気になるが,携帯がないから,必要な人にこっちから連絡が取れないし,生活での心配事を抱えていても,ケースワーカーとの連携も上手くいっていないのか,すぐに対応してくれないし,看護師には,もう少し担当患者の入院前の状況を知った上で状況にあわせて対応して欲しかった.〉
【十分な対話なく本心を伝えようと思えない関係】 〈まずは1対1で話し合える状況が必要だと思うが,看護師が3,4人来て周りを囲み,短い診察時間で決められた入院に関して,その必要性に対し,患者の立場に立った納得のいく説明が誰からも行われず,こちらから声を掛けようにも,看護師は皆バタバタしており,難しく,看護師との心の通った関係性ができていないと感じ,本心を伝えようとも思わなかった.〉
【苦しい現状の印象を変える声かけ】 〈入院時,家族に腹が立っていたり,トラブルを起こして辛くても,看護師が笑顔だったり,ユーモアのある対応があることで冷静になれたり,看護師が時間をおいて,説明に来たり,状態を確認に来ることで保護されていることが分かって安心できたり,身体拘束するにしても,患者の気持ちに寄り添った声かけによって印象が変わった.〉
【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】 〈じっくり時間をかけ,優しく,親身になって聞いてくれたことで,何年も前から苦しかったという話を最初から落ち着いてできたことが嬉しかったし,気持ちが楽になった.〉
【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】 〈大変だったねって,非自発的入院という体験に共感してくれたり,家族への暴言を心から制止してくれた看護師の態度から,自分の行動を振り返ることができたし,患者の立場に立った服薬の必要性の説明に納得し,治療を受入れることにした.〉

(1) 患者の総合分析 シンボルマークの内容

非自発的入院を体験した患者は,看護援助に対して,‘看護師さんがあそこまで力づくで入院させたのが想定外で,もうどうしようもないから,何とでもして下さいと思った(a8).’と【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】を認識していた.さらに‘(携帯が取り上げられているから,)必要な人に連絡が取れないのに,連携が上手くいっていないのか,すぐに対応してくれないし,(対応が)いつになるのか十分な返答もない(c19).’と【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】が語られた.また,‘複数人で回りを取り囲むのではなく,まずは1対1で話し合える状態が必要(a10).’や患者の立場を考えて,(入院や治療の必要性を)説明してくれた人は一人もいないが,きちんと説明して欲しいという本音さえも言おうと思わない関係だった(c5).’と【十分な対話なく本心を伝えようと思えない関係】が語られた.

一方,‘拘束中でも,イライラしているかもしれないけど,もう少しで外れるから頑張ろうと言った看護師さんの一言で印象が変わった(e5).’という【苦しい現状の印象を変える声かけ】があったことが語られ,さらに,‘こんなに最初から,15年前から,苦しかったってことを聞いてくれたのは初めてだった(a22).と【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】を認識していた.そして,‘今後のことを(担当看護師と話し)前向きに考えると,きちんと治療しようと,心境の変化が生まれまして(c1).’と【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】を認識していた.

(2) 患者総合分析 空間配置と結論文

患者総合分析の空間配置図を図2に示す.最終ラベルの内容から,論理構造の下部に位置する3枚のラベルは,看護援助への否定的認識という点,上部に位置する3枚のラベルは,肯定的認識という点で類似しているが,否定的認識は,理不尽な対応を発端とし,ますます助長されるといった関係性,肯定的認識は,治療の受け入れを支えるといった各ラベル間の関係性が見出された.

図2

患者総合分析の空間配置

結論文:精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対し患者は,【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】を認識していた.その認識は,【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】と【十分な対話なく本心を伝えようと思えない関係】を引き起こすが,そのような看護援助は,ますます【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】を助長していた.一方で,【苦しい現状の印象を変える声かけ】と【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】も認識していたが,それらはあいまって,【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】という認識を支えていた.

Ⅴ. 考察

1. 精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対する看護師の認識

看護師の認識は,【不測の事態が生じ得る緊急入院への覚悟を決める必要性】をもとに,2側面の論理構造を持つことが分かった.1つは,【暴力につながり得るリスクの排除】,【相互作用における緊張緩和】,【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】であり,もう一方は,【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】,【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】,【患者-看護師間の問題の共有】である(図1).

まず,【暴力につながり得るリスクの排除】,【相互作用における緊張緩和】,【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】は,非自発的入院時,意に反したものであっても,必要な治療を安全に遂行しなければならないという看護師の認識を表す側面であると考えられる.これは,暴力のリスクが高いが(Biancosino et al., 2009),患者と関わり,多角的に状態を判断しなければならない(Bowers, 2005)という非自発的入院の特徴から生じる認識と考えられる.

看護師は,意に反した治療を遂行する必要性を認識しつつも,その際には,少なからず恐怖心や苦手意識を持つことが分かった.先行研究において,精神科救急病棟の予測不能性という特徴は明らかにされているが(Hummelvoll et al., 2001),そのような緊張状態の中,看護師がどのように自身の感情に対処しつつ援助を行っているかを明らかにした研究は少ない.本研究において,看護師は〈患者の攻撃的だったり,否定的な言動は,時に苦しくなることもあるが,患者の怒りは,自分に対してではなく,病状や意に反した入院のためであると理解し,受け持ちだけでなく,病棟全体で患者を観ることは,患者との距離もとれるし,患者の多面性にも気付くことができる〉と【1人で抱えず病棟全体で行う関わり】を意識することによって,この状況への解決を試みていることが明らかになった.精神科救急病棟では,患者同士の相互作用の調整が必要であるため,担当以外の患者との関わりも多いが,そのことは,看護師に,看護師同士の距離が近く,相互に助け合っているという意識を引き起こすと言われている(Deacon et al., 2006)以上より,患者の意に反して治療を遂行しなければならないという看護師の認識は,時に葛藤も生み出すが,自身の感情と正直に向き合い,看護師間の助け合いを意識することで,支えられるものであることが示唆された.

一方,【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】や【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】,【患者-看護師間の問題の共有】は,非自発的入院の中でも,患者の主体性を支えたいという看護師の認識を表す側面であると考えられる.精神科救急病棟では,非自発的な治療や,スタッフと患者間のアンバランスな力関係,重度な精神症状,患者の認知の問題,向精神薬の使用といったことから,信頼関係の構築に特に努力を要すると言われている(Hem et al., 2008).そのような状況において看護師は,患者との相互作用の中で,信頼関係の糸口を探し,どうにか信頼を勝ち取りながら,少しずつ患者が治療の必要性を実感できるよう意識していると考えられる.

2. 精神科救急病棟への非自発的入院初期の看護援助に対する患者の認識

患者の認識は,【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】,【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】,【十分な対話なく本心を伝えようと思えない関係】といった否定的認識と,【苦しい現状の印象を変える声かけ】,【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】,【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】といった肯定的認識の相反する論理構造を持つことが分かった(図2).

非自発的入院において,患者は高い割合で強制力を認識している(Svindseth et al., 2013)が,その中でも強制力の認識を減らし,満足感を得る可能性も示されている(Sheehan & Burns, 2011Katsakou et al., 2010).しかし,強制力の認識を減らす具体的看護援助として,患者の視点を通し検討されたものは少ない.本研究における【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】は,患者の強制力の認識を表していると考えられる.一方,患者は看護援助を【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】という強制力の認識を減らし,治療への主体性の一歩を支えるものと捉えていることも示唆された.つまり,患者の認識の論理構造から,【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】,【十分な対話なく本心を伝えようと思えない関係】によって強制力の認識はますます助長されるが,【苦しい現状の印象を変える声かけ】,【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】によって減らせる可能性があると考えられる.

3. 看護師-患者両者の認識から考える効果的な非自発的入院初期の看護援助

本研究では,入院初期の看護援助に対し,看護師,患者,両者とも,主体性を支える援助と強制的な治療の遂行という2側面の相反する認識を持っていることが明らかになった.具体的に,看護師は,【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】,【省略したり批判したりすることなく行う傾聴】,【患者-看護師間の問題の共有】という患者の主体性を支える援助を認識する一方,【暴力につながり得るリスクの排除】,【相互作用における緊張緩和】,【緊張を解きつつ行う精神状態の査定】という意に反した治療であっても,安全に遂行しなければならないという認識も持つ.患者も,看護援助に対し,【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】という主体性を支えられたという認識を持つ一方,【入院時の理不尽な対応への怒りとあきらめ】という強制的な治療の遂行も認識していた.

このように,両者の認識を比較すると,看護師が認識する患者の主体性を支える援助は,患者にとっても,主体性を支えられたという認識として捉えられると考えられる.一方,意に反していても,必要な治療を安全に遂行すべきという援助への看護師の認識は,患者の強制力の認識に影響していると推測できる.つまり,看護師の看護援助に対する相反する認識は,患者の看護援助への相反する認識を生み出すものと考えられる.

しかしながら,看護援助への認識の2側面は,相反するものであると同時に,関連していると考えられる.つまり,患者が主体的に治療に参加できるよう援助することは,強制的に治療を行う必要性が減ると考えられ,必要な治療を安全に遂行しつつ,患者の強制力の認識を減らすことは可能だと言えよう.

以上より,看護師,患者とも,看護援助に対し,強制的な治療の遂行と患者の主体性を支える援助という2つの側面があると認識していた.患者の意に反した治療の遂行は,安全と必要な治療提供のためであっても,患者に強制力を認識させる.一方,主体性の支持は,必要な治療を安全に遂行しつつ,患者の強制力の認識を減らすと考えられる.したがって,看護師は,入院初期という慌ただしい状況の中でも,いま以上に,患者の主体性を支える援助に力を注ぐ必要があると言えよう.例えば,本研究の結果からは,【入院により途切れるこれまでの生活への対応の不十分さ】から,患者の入院前の状況や気がかりに意識を向けること,【苦しい思いを表出できる時間をかけた対応】から,患者が思いを表出出来る時間や場を設けること,そして,【苦しい現状の印象を変える声かけ】【治療の受け入れにつながる患者の立場に立った関わり】から,患者にとっての入院の意味を考え,言葉かけや態度で,少しでも現状を肯定的に捉えられるような視点を提供するといったことが具体的方法として提示できる.

4. 限界と今後の課題

本研究の対象は1施設における看護師と入院患者であり,物理的環境やその病院特有の習慣等に研究結果が左右される可能性が挙げられる.また,場面の特性上,研究への同意取得が難しかったことと,研究期間の限界により,看護師,患者それぞれ5名でデータ収集を打ち切った.本研究の目的を十分に達成するためには,さらに対象者数を追加し,データの飽和を確認する必要があると考えられる.しかし,本研究の結果は,患者の意に反し,強制的な治療遂行や行動制限が行われる場面であるがゆえに,患者の同意を得にくく,客観的な調査が入りにくかった場面に対する語りである.したがって,十分な対象者数とは言えない段階にあったとしても,研究に同意された患者の言葉を公表することは,精神科救急の看護援助を発展させることに貢献すると判断した.また,看護師,患者両者の認識を照らし合わせるにあたり,看護師と患者の調査時期にずれが生じた.これは,患者に記憶バイアスが生じる可能性に加え,患者の治療満足度は,入院からその後に向かい有意に改善するという報告や,症状がより改善した患者の方が,満足度が高いという報告もあり(Katsakou, 2010),患者の認識は,病状の落ち着く面接時までに生じる様々な事柄に影響を受ける可能性がある.

今後は,上記限界に対し,データの蓄積を続けるとともに,主体性を支える援助が行えない現状を,客観的調査をもとに明らかにし,精神科救急病棟への非自発的入院初期に,患者の強制力の認識を減らしつつ,必要な治療を安全に提供するための具体的看護援助を明らかにする必要があると考える.

謝辞:本研究にご協力頂きました研究対象者の皆さまに深く感謝いたします.なお,本研究は平成24年度大阪大学大学院医学系研究科博士前期課程修士論文の一部に加筆修正したものである.また,本研究の一部は,第33回日本看護科学学会学術集会において発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TKは研究の着想,デザイン,データの入手,文責,草稿の作成に貢献;YEは研究デザイン,データ分析,原稿への示唆,および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
  •  東 修(2011):精神科救急医療における看護実践のプロセス,北海道医療大看福祉会誌,7(1), 65–69.
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  •  Bowers  L. (2005): Reasons for admission and implications for acute psychiatric nursing, J. Psychiatr. Ment. Health Nurs., 12, 231–236.
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  •  Chiovitti  R. F. (2008): Nurses’ meaning of caring with patients in an acute psychiatric hospital settings: A grounded theory study, Int. J. Nurs. Stud., 45, 203–223.
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  • 川喜田二郎(1986):KJ法 渾沌をして語らしめる(第10版),中央公論社,東京.
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  •  Svindseth  M. F.,  Nottestad  J. A.,  Dahl  A. A. (2013): Perceived humiliation during admission to a psychiatric emergency service and its relation to socio-demography and psychopathology, BMC Psychiatry, 13, 217.
  • 山浦晴男(2012):質的統合法入門 考え方と手順(第1版),医学書院,東京.
 
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