Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Research and Study on Actual Situation of Visiting Nursing Outside of the Insurance Benefits
Mari Kimata
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2017 Volume 37 Pages 329-335

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Abstract

目的:本研究は,保険制度外の訪問看護の実践を把握し,その実践をする訪問看護ステーションの特性を明らかにする.

方法:多職種が協働する場への参加がある5地域の訪問看護ステーション145カ所に,保険制度外の訪問看護の実態,事業所の体制に関する自記式質問紙を郵送した.分析は保険制度外の訪問看護実践の有無の2群に分けて,事業所の体制の属性を比較検討した.

結果:有効回答は58カ所,そのうち20件に保険制度外の訪問看護の実践があった.その実践は,利用者が看護を受けたい,家族が家庭内の役割を担いたい,という理由が多かった.保険制度外の訪問看護の実践は,職員の実人数,利用者の人数や延べ訪問回数,保険制度外の訪問看護の自費設定をしていた事業所が多かった.両群では多職種協働する場への参加に差はなかった.

結論:保険制度外の訪問看護は,規模の大きい事業所が利用者や家族からのニーズを汲み取り,実践に組み替えていた.

Ⅰ. 背景

我が国の訪問看護の制度は,平成3年に老人保健法の給付によって在宅の寝たきり老人等に対して創設され,平成6年から健康保険法によって老人以外の在宅の難病や障害者等に対しても実施されるようになった.平成12年からは介護保険制度の創設にともない,在宅の要介護者等に対しても実施されるようになった.介護保険法による訪問看護は最大1時間30分まで,加えて訪問看護も含めて介護サービスの利用は利用支給限度基準額内に収めることとなっている.健康保険法による訪問看護は,原則1週間に3回までの訪問を算定できる.このように,健康保険法あるいは介護保険法による保険制度内での訪問看護の提供は,訪問の時間・回数・場所の制限がある(社会保険研究所,2015).しかし,訪問看護の機能や役割は保険制度内の訪問看護サービスだけにとどまらない.保険制度内におさまらない訪問看護ニーズに対して,訪問看護ステーションは訪問看護の利用者負担とする自費設定をして,利用者に追加的に時間・回数・場所の拡大をする保険制度外の訪問看護を実践していた(伊藤,2005).その実態は,訪問時間の制限を超えた在宅人工呼吸療法の児への夜間滞在型訪問(生田・宮里,2011),訪問回数の制限を超えた頻回な訪問(鈴木・石垣,2004),利用者宅以外の場となる病院への小児の受診同行(谷口ら,2005)が明らかにされている.このように,保険制度外の訪問看護の実践により,継続して自宅での生活を支えている.しかし,明らかにされている保険制度外の訪問看護の実態は,小児などの専門領域や頻回訪問などの提供方法といった特定の領域の実践である.また,どのような保険制度外の訪問看護の実践の理由により,どのような訪問看護ステーションが保険制度外の訪問看護を実践しているのか,その特性もほとんど明らかになっていない.近年,医療と介護の連携強化が図られており(厚生労働省,2012),保険制度外の訪問看護が多職種連携によるチームアプローチでは対応できず,訪問看護でなければ対応できないニーズに対する実践であるかどうかについて明らかにする必要がある.そして,保険制度外でも必要とされる訪問看護のニーズとその実践,その実践をするための体制を明らかにすることで,保険制度に限らず地域住民に求められている訪問看護事業を網羅的に整理することが期待できる.

Ⅱ. 目的

本研究では,保険制度外の訪問看護の実践の実態を把握し,その実践をする訪問看護ステーションの特性を明らかにする.

Ⅲ. 用語の操作的定義

本研究において用いる用語について,次のとおり,操作的に定義した.

保険制度外の訪問看護:訪問看護ステーションが認めた健康保険法あるいは介護保険法による報酬以外の活動で,利用者あるいは訪問看護事業所の経費負担で提供している訪問看護を示す.

Ⅳ. 方法

1. 調査方法

訪問看護ステーション管理者(看護師)への自記式質問紙調査を実施した.

2. 対象選定

対象地域は,多職種協働による在宅医療の支援体制を構築し,医療と介護が連携した地域における包括的かつ継続的な在宅医療の提供を目指す都市部の市区町村のうち(厚生労働省,2013a),多職種が協働する場に訪問看護師の参加を確認できた5市区町村(東京都と千葉県)とした.この5市区町村の全ての訪問看護ステーション145か所の管理者宛に質問紙を送付した.

3. 調査項目

先行研究に基づいて,訪問看護ステーションが実践した保険制度外の訪問看護の実態(実践の理由と内容)(伊藤,2005木全,2012),訪問看護ステーションの事業所の体制(厚生労働省,2013b東京大学高齢社会総合研究機構,2014)に関する調査項目を作成した.作成した調査項目は調査実施前に,保険制度外の訪問看護を実践したことがある訪問看護ステーション管理者2名に確認を依頼して,回答可能であることを確認した.それぞれの調査項目の内容は,次のとおりである.

1) 保険制度外の訪問看護の実態

保険制度外の訪問看護が必要となった背景を知るため,訪問看護ステーション1カ所あたり,直近の保険制度外の訪問看護の利用者1名に関する情報をたずねた.項目は,利用者の状況(性別,年齢,要介護度,障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度,在宅療養を継続している原因の病名,訪問看護の内容),保険制度外の訪問看護の実践内容(訪問時間帯の拡大,滞在時間の延長,毎日頻回な訪問,外出支援,以上の4項目に関する内容),保険制度外の訪問看護を実践理由(利用者の理由は,看護を受けたい,病状の不安定期や家族不在の時(者)に安心して自宅にいたい,慣れ親しんだ訪問看護師から看護を受けたい,安心して受診や施設を利用したい,家族内役割を担いたい,気分転換をしたい,以上の6項目に関する内容,家族の理由は,介護の負担がある,医療行為の不安恐怖がある,家族内役割を担いたい,気分転換をしたい,以上の4項目に関する内容)とした.

2) 事業所の体制

設置主体,併設施設・事業所,加算の届出状況,職員の人数と常勤換算数,1ヶ月の訪問看護の利用者数と述べ訪問回数,保険制度外の訪問看護の自費設定の状況,管理者の属性(年齢・経験年数・多職種が協働する場への参加状況:在宅医療推進協議会,顔の見える関係会議,多職種による症例検討会,地域ケア会議,市民啓発)とした.

4. 調査手順

訪問看護ステーションの管理者宛に説明書,質問紙,返信用封筒を同封して郵送した.訪問看護ステーションの管理者は,質問紙に回答を記入の上,同封されていた封筒に入れて,研究者宛に返送した.調査は,2014年11月~2015年2月に実施した.

5. 分析方法

分析は,SPSS statistics Ver22を使用した.保険制度外の訪問看護の実態に関する項目について,記述統計量を算出した.保険制度外の訪問看護を実践していた事業所は,利用者の状況について記載があった事業所とし,保険制度外の訪問看護を実践していた事業所と実践していなかった事業所を2群に分けて,事業所の体制の属性を比較検討した.検定はχ2検定およびt検定(平均値)を用いて,有意水準は5%未満とした.

6. 倫理的配慮

研究の趣旨,匿名性の確保,守秘義務の遵守,データは本研究のみに使用すること,調査の同意は回答をもって同意の了承を得ることを説明書に記載した.利用者の氏名や住所などの個人を特定できる情報が調査項目には含まれておらず,公表にあたっても調査対象となる訪問看護ステーション及び利用者を特定することはできないことを説明書に記載した.調査は,東京大学ライフサイエンス委員会倫理審査専門委員会で審査を受けて,承認を得て実施した(承認番号14-120).

Ⅴ. 結果

58件が有効回答であった(有効回答率40%).そのうち,保険制度外の訪問看護の実践があったのは20件,保険制度外の訪問看護の利用者の状況の回答があったのは16件であった.

1. 保険制度外の訪問看護の利用者の背景

保険制度外の訪問看護の利用者16名の状態の特徴は,次のとおりであった.年齢は平均年齢が61.8±25.6歳,75歳以上が5名(31.3%)と最も多かった.要介護度は要介護5が5名(31.3%),障害高齢者の日常生活自立度はCが9名(56.3%),認知症高齢者の日常生活自立度は自立が7名(46.7%),在宅療養を続けている原因の病名は脳血管疾患と神経難病がそれぞれ5名(21.7%)と最も多かった.利用者が受けた看護24項目は,看護師による家族支援が12名(9.0%)と最も多く,次いで服薬援助・管理が11名(8.3%),看護師による他サービスの連絡調整と頻回の観察やアセスメントがそれぞれ9名(6.8%)であった.また,胃ろう・腸ろうによる栄養管理(8名),吸引・吸入(8名)といった医療機器・器具の対応や管理,リハビリテーション(8名)や口腔ケア(7名)といった機能訓練や機能の向上,ターミナル期のケア(7名)と多様であった.

保険制度外の訪問看護の実践内容は,訪問看護時間帯の拡大と滞在時間の延長,毎日頻回な訪問,滞在施設への訪問,外出支援の4つの項目について,利用者1名あたり1~4項目があった.訪問看護時間帯の拡大と滞在時間の延長は,訪問1回あたりの滞在時間が訪問時間の制限を超えて延長していた(7名).毎日頻回な訪問は,訪問回数の制限を超えて毎日複数回の訪問をしていた(6名).外出支援(9名)と滞在施設への訪問(7名)では,訪問場所の制限を超えた利用者宅以外の場への訪問であった.外出支援は,退院してから自宅までの移動への同行,退院前の病院や退院後に生活する自宅への訪問であった.滞在施設への訪問は,通所施設や就学先や施設入居者への訪問であった.

2. 保険制度外の訪問看護の実践理由(表1

保険制度外の訪問看護の実践理由は表1のとおり,利用者からの希望と家族からの希望の側面があった.利用者から「専門的な看護援助をしてほしい」(11名)という『看護を受けたい』という理由が最も多かった.次いで「最期まで自宅にいたい」(7名)と「病状不安定な時期にも自宅にいたい」(7名)という『病状不安定期・家族不在時(者)に安心して自宅にいたい』,「買い物に出かけたい」(7名)という『家族内役割を担いたい』といった理由であった.家族から「医療行為をすることに不安がある」という『医療行為の不安恐怖がある』(11名)といった理由が最も多かった.次いで「介護負担が大きい」(10名)という『介護の負担がある』,「子どもの世話をしたい」(7名)と「用事のため外出したい」(7名)という『家族内役割を担いたい』といった理由であった.

表1 保険制度外の訪問看護の実践理由
保険制度外の訪問看護の実践理由 合計
利用者
看護を受けたい
専門的な看護援助をしてほしい 11
在宅療養や訪問看護について教えてほしい 7
介護者の健康支援をしてほしい 6
病状の不安定期や家族不在の時(者)に安心して自宅にいたい
主介護者の不在時にも自宅にいたい 5
最期まで自宅にいたい 7
病状不安定な時期にも自宅にいたい 7
慣れ親しんだ訪問看護師から看護を受けたい
いつも訪問している看護師に対応してほしい 6
訪問していた看護師に対応してほしい 4
安心して受診や施設を利用したい
施設利用や受診のために送迎に付き添ってほしい 3
施設利用中に看護を補ってほしい 3
家族内役割を担いたい
子どもの行事に参加したい 5
買い物に出かけたい 7
気分転換をしたい
旅行や外泊をしたい 4
外出して遊びたい 5
その他
介護者に楽をさせたい 1
施設利用中の様子をみてほしい 1
毎日リハビリを希望している 1
自宅に戻りたい 1
家族
介護の負担がある
疲労がある 7
介護負担が大きい 10
休養したい 7
医療行為の不安恐怖がある
医療行為をすることが怖い 5
医療行為をすることに不安がある 11
家族内役割を担いたい
子どもの世話をしたい 7
葬儀や結婚式に参列したい 4
自宅で看取りたい 4
用事のため外出したい 7
気分転換をしたい
旅行に行きたい 5
散歩に行きたい 4
その他
介護に対する思いを知ってほしい 1
医師に確認すべきか悩む,買い物にいきたい 1
本人が望むようにサービスを利用したい 1
本人のニーズを可能にして思い出を作りたい 1

3. 保険制度外の訪問看護を実践する事業所の体制(表2

保険制度外の訪問看護の実践がなかった訪問看護ステーション38カ所と実践があった訪問看護ステーション20カ所を2群に分けて,表2のとおり訪問看護ステーションの事業所の体制の属性を比較検討した.保険制度外の訪問看護の実践がなかった事業所より実践があった事業所の方が,職員の実人数(なし5.3 ± 3.1,あり10.6 ± 5.5,t = 3.836,P < 0.001),1ヶ月の利用者数(なし62.0 ± 51.1,あり128.8 ± 73.4,t = 3.843,P < 0.001),1ヶ月の延べ訪問回数(なし390.8 ± 287.8,あり832.2 ± 426.4,t = 4.250,P < 0.001),保険制度外の訪問看護の自費設定(なしn = 3,7.9%,ありn = 13,65.0%,χ2 = 21.391,P < 0.001)は,いずれも有意に多くなっていた.実践前に行っていた保険制度外の訪問看護の自費設定のうち,訪問時間帯の拡大と滞在時間の延長(なしn = 0,0.0%,ありn = 8,40.0%,χ2 = 17.632,P < 0.001)と外出支援(なしn = 1,2.6%,ありn = 10,50.0%,χ2 = 19.131,P < 0.001)はいずれも保険制度外の訪問看護の実践がなかった事業所より実践があった事業所の方が有意に多かった.一方,保険制度外の訪問看護の実践があった事業所より実践がなかった事業所の方が,設置主体が医療法人(なしn = 10,26.3%,ありn = 1,5.0%,χ2 = 3.874,P < 0.05)は有意に多くなっていた.また,訪問看護ステーションの管理者の多職種協働する場への参加状況は,2群ともそれぞれ5つの場に6割以上の参加があり,2群間に有意な差はなかった.

表2 保険制度外の訪問看護を実践する事業所の体制
事業所の体制 保険制度外の訪問看護の実践なし事業所(n = 38) 保険制度外の訪問看護の実践あり事業所(n = 20) χ2 t P
n % 平均±SD n % 平均±SD
設置主体
営利法人*1 18 47.4% 11 55.0% 0.305 .581
医療法人*1 10 26.3% 1 5.0% 3.874 .049
医師会*1 4 10.5% 2 10.0% 0.004 .950
社団・財団法人*1 3 7.9% 2 10.0% 0.074 .786
消費生活協同組合及び連合会*1 0 0.0% 3 15.0% 6.001 .014
看護協会*1 0 0.0% 1 5.0% 1.933 .164
社会福祉法人*1 1 2.6% 0 0.0% 0.536 .464
同一敷地内の併設施設・事業所
居宅介護支援事業所*1 15 39.5% 12 60.0% 2.219 .136
訪問介護事業所*1 9 23.7% 7 35.0% 0.840 .359
通所介護事業所*1 5 13.2% 4 20.0% 0.468 .494
地域包括支援センター*1 5 13.2% 0 0.0% 2.880 .090
介護老人保健施設*1 3 7.9% 0 0.0% 1.665 .197
病院*1 3 7.9% 0 0.0% 1.665 .197
診療所*1 2 5.3% 0 0.0% 1.090 .296
小規模多機能事業所*1 1 2.6% 0 0.0% 0.536 .464
その他*1 6 15.8% 0 0.0% 3.522 .061
サテライト事業所*1 3 7.9% 5 25.0% 3.224 .073
加算の届出
医療保険
サービス提供体制強化加算*1 10 26.3% 8 40.0% 1.146 .284
緊急時訪問看護加算*1 32 84.2% 18 90.0% 0.369 .543
特別管理加算*1 33 86.8% 17 85.0% 0.037 .847
介護保険
訪問看護管理療養費 機能強化型1*1 1 2.6% 4 20.0% 5.018 .025
24時間対応体制加算または24時間連絡体制加算*1 34 89.5% 18 90.0% 0.004 .950
職員数
常勤換算数*2 5.5 ± 3.4 9.6 ± 6.4 –2.781 .008
実人数*2 5.3 ± 3.1 10.6 ± 5.5 –3.836 .001
1ヶ月の利用者数*2 62.0 ± 51.1 128.8 ± 73.4 –3.843 .001
1ヶ月の述べ訪問回数*2 390.8 ± 287.8 832.2 ± 426.4 –4.250 .000
保険制度外の訪問看護の自費設定*1 3 7.9% 13 65.0% 21.391 .000
訪問時間帯の拡大と滞在時間の延長*1 0 0.0% 8 40.0% 17.632 .000
毎日頻回な訪問*1 3 7.9% 3 15.0% 0.713 .398
外出支援*1 1 2.6% 10 50.0% 19.131 .000
滞在施設への訪問*1 2 5.3% 1 5.0% 0.002 .966
管理者の属性
年齢*2 43.7 ± 8.2 46.6 ± 7.9 –1.306 .197
看護職の経験年数*2 21.5 ± 8.3 20.8 ± 7.4 –0.318 .752
訪問看護の経験年数*2 8.3 ± 7.1 9.3 ± 6.2 –0.571 .570
管理者としての経験年数*2 4.6 ± 5.5 5.2 ± 5.6 –0.439 .662
多職種が協働する場への参加
在宅医療推進協議会*1 32 84.2% 14 70.0% 0.745 .388
顔の見える関係会議*1 35 92.1% 18 90.0% 0.081 .776
多職種による症例検討会*1 34 89.5% 16 80.0% 0.240 .624
地域ケア会議*1 30 78.9% 15 75.0% 0.000 1.000
市民啓発*1 27 71.1% 13 65.0% 0.038 .846

*1 χ2検定 *2 t検定

Ⅵ. 考察

1. 保険制度外の訪問看護の利用者の属性

伊藤(2005)によると,訪問看護の利用者が利用料を実費負担していた訪問看護の全国実態調査では,利用者の年齢の平均は女性が77.3歳と男性が70.6歳,要介護5,障害高齢者の日常生活自立度はC,認知症高齢者の日常生活自立度は自立,疾病は脳梗塞が最も多かった.本調査の保険制度外の訪問看護の利用者の状態の特徴も,伊藤(2005)の調査結果と同様の傾向を示した.よって,本調査で収集されたデータは適切であり,検討に値すると判断できた.

2. 保険制度外の訪問看護の実践

前述の調査においても,保険制度の利用者への追加的な頻回な訪問が最も多かったが(伊藤,2005),本調査でも保険制度の利用者に訪問の時間・回数・場所を追加していた.訪問時間帯の拡大と滞在時間の延長に関する報酬では,平成20年に診療報酬改定,平成21年に介護報酬改定で,それぞれ長時間訪問看護加算が創設された(全国訪問看護事業協会,2015).しかし,長時間訪問看護加算に追加する実践があったことが,本調査で示された.毎日頻回な訪問に関しては,14日間を限度に月に1回発行される特別訪問看護指示書があっても,訪問回数に追加する実践があったことが,本調査で示された.保険制度外の訪問看護の実践のうち半数以上あった外出支援や滞在施設への訪問では,病院と自宅の間の移動,退院前の病院や自宅への複数回の訪問,通所施設や就学先などの社会生活の場への訪問となり,報酬の算定ができなかった.退院前の自宅訪問では,平成24年の診療報酬改定で訪問看護基本療養費IIIにおいて,外泊中の入院患者に対する訪問看護1回が認められた(全国訪問看護事業協会,2015).しかし,複数回の訪問の場合は報酬を算定できず,訪問回数に追加する実践があったことが,本調査で示された.高橋ら(2010)の調査によると,東北地域の診療所医師や訪問看護師が潜在的と思う訪問看護サービスには,受診時の同行,長時間の滞在訪問や外出が多く,これらのサービスを実施している訪問看護ステーションもあった.この報告からも,利用者宅以外の多様な場への訪問看護も実践されていることが,本調査で示された.

3. 保険制度外の訪問看護のニーズ

本調査では,保険制度外の訪問看護を実践していた訪問看護ステーションは,利用者と家族からのそれぞれの希望を汲み取って,保険制度外の訪問看護を実践する理由としていた.訪問看護師は,がん・非がんの末期の兆候の違いに合わせて訪問をし(佐藤ら,2011),家族の意思決定も支援しながら自宅での看取りを支えており(Hirano et al., 2011),疾患別の予後の状態の予測もしている(片山ら,2014).これらの報告も踏まえると,訪問看護ステーションは保険制度外の訪問看護の実践によって,利用者や家族の希望を叶えることができると予測し,その予測も視野に入れて実践のニーズとして捉え,実践をしていたことが考えられる.

本調査では,保険制度外の訪問看護の実践理由は,利用者から『看護を受けたい』,家族から『医療行為の不安恐怖がある』という2項目が最も多かった.鈴木・石垣(2004)の全国調査によると,訪問看護師が捉えて頻回な訪問を実施していたニーズは,訪問看護の利用者の医療処置,家族の精神的支援,利用者や家族の介護の代行や療養指導であった.また,家族介護者は医療処置あるいは医療ケアに慣れるまでに緊張と疲労の蓄積を体験し(樋口ら,2007Smith et al., 1993),在宅移行時を過ぎてからも介護ストレスを示す(泉宗ら,2010).これらの報告からも,安心して療養生活を送るために,保険制度外の訪問看護の実践が介護者の医療行為への恐怖や不安に対して予測できない事態やリスク予防への対処となっていたことが考えられる.また,利用者からも家族からも『家族内役割を担いたい』という保険制度外の訪問看護の実践の理由が多くみられた.よって,保険制度外の訪問看護は,利用者も家族も家族としての役割を果たせるよう,家族には介護負担や医療行為の実施に対する恐怖や不安を軽減する一助となっていた.

4. 保険制度外の訪問看護を実践する事業所の特性

分析対象者数が十分とは言えないが,保険制度外の訪問看護の実践をしていた訪問看護ステーション群は,実践をしていない訪問看護ステーション群と比較すると,職員の実人数,利用者の人数と訪問回数が多く,保険制度外の訪問看護の自費設定をしていた.さらに,保険制度外の訪問看護の自費設定のうち,訪問時間帯の拡大と滞在時間の延長と外出支援を具体的に自費設定していた.生田ら(2010)によると,保険制度外の訪問看護となる小児への長時間滞在を実施していた訪問看護ステーションは,看護師数や月平均利用者,訪問回数が多い事業所であった.一方,保険制度外の訪問看護の実践をしていた事業所より実践していなかった事業所の方が,設置主体は医療法人である傾向があった.また,訪問看護ステーションの管理者の多職種協働する場への参加はどちらの群も参加者は多く,その差はみられなかった.よって,保険制度外の訪問看護の実践は,規模の大きい事業所が他の職種ではなく訪問看護が必要とされていたと考えられ,利用者に追加的に保険制度外の訪問看護の自費設定をして,その実践に着手していたと推察される.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の成果は,保険制度外の訪問看護のニーズと実践,その実践をしていた訪問看護ステーションの体制を明らかにして,保険制度外の訪問看護の実態を傍観できたことである.しかし,多職種連携の円滑な首都圏の訪問看護ステーションの利用者を対象とし,その一部の利用者のみのデータを分析したものである.よって,訪問看護の利用者以外の地域住民も含めた保険制度外の訪問看護ニーズも含め,地域や対象者数を増やして検証していく必要がある.また,多職種とともに保険制度外の訪問看護のニーズとその実践内容を共有しながら,求められる訪問看護の機能や役割を見出していくことも重要であると考える.

本研究は,平成25~26年度科学研究費助成事業を受けて実施した.また,第35回日本看護科学学会学術集会において発表したものを修正した.

謝辞:調査に協力いただいた訪問看護師の皆様,御指導をいただいた聖隷クリストファー大学大学院の川村佐和子教授に深謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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