日本看護科学会誌
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原著
分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の開発と信頼性・妥当性の検討
北村 万由美江口 瞳
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2017 年 37 巻 p. 426-436

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Abstract

目的:分娩介助実習における助産師の教授活動尺度を開発し,信頼性と妥当性の検討を目的とする.

方法:半構造化面接法で得られたデータを基に,79項目の分娩介助実習における助産師の教授活動尺度原案を作成した.分娩を扱う全国医療機関501施設に所属する3,988人を対象に調査を行い,項目の信頼性分析,探索的因子分析の後,併存尺度による基準関連妥当性を検討した.

結果:回収数906人,有効回答数は875人であった.7因子52項目が採択され,【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】【バースレビューの関わり方を伝える】【産婦の気持ちに沿うよう促す】【学生の自立を促す】【児娩出時は手に手を添える】【準備の極意を伝える】と命名された.Cronbach’s α係数は.960であり内的整合性が確認された.また助産師の専門職的自律性尺度,看護職の職業認識尺度との相関から基準関連妥当性が確認された.

Ⅰ. 緒言

助産師教育の中核となる分娩介助実習において,保健師助産師看護師学校養成所指定規則(別表二第三条関係)では「実習中分べんの取扱いについては,助産師又は医師の監督の下に学生一人につき十回程度行わせること.」と示されており,正常分娩の助産行為を扱う助産師は,母子の安全を担保するために,助産師学生(以下,学生)に密に関わる責務がある.緒方ら(2015a)は,実習指導にあたる助産師は,分娩経過中の産婦の瞬時の変化やわずかな分娩進行のサインを的確に学生が判断できるように,実習場面を教材化する能力や,学生個々の理解度,及び学習状況に応じて,学ばせ方を工夫する力量が問われると示し,助産師の教育的視点の必要性を論じている.このように,分娩介助実習指導を担う助産師は,学生の分娩介助実践能力の修得のための教育力を備えることが重要であるといえる.しかし,緒方ら(2015a, b)は,分娩介助を担当する臨床指導者は,指導者研修の受講経験が全体の半数に満たず,分娩介助実習に特化した研修を受ける機会を求めており,身近な経験のみに頼って指導を担当しているといった現状の課題を指摘している.したがって,学生の分娩介助実践能力の修得のためには,分娩介助実習における助産師の教育力を高めるための対策が重要な課題である.

舟島(2009)は,自己の教授活動を評価することは,課題や問題点を具体的にし,その課題や問題点の解決,現実的な目標設定が可能となることから,教授活動の自己評価の重要性を強調している.しかし,助産師の教育力を高める対策としての,助産師の分娩介助実習指導に特化した評価ツールは見当たらなかった.

そこで本研究では,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の開発と,その尺度の信頼性と妥当性の検討を目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 分娩介助実習

分娩介助実習とは,学生が産婦を分娩第1期から分娩終了後までを受持ち,正常分娩の介助を学ぶ学習をいい,振り返りを含む.

2. 教授活動

本研究における教授活動とは,分娩介助実習において,教える立場にある助産師の教育的意図を持った関わりであり,学生の分娩介助実践能力修得に向けて,学生に知識・技術を伝え,また諸能力や価値観の形成を促す行動とする.

Ⅲ. 研究方法

本研究は,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の開発に先駆けて,予備調査を行い,尺度原案を作成した.この尺度原案をもとに本調査を行い,尺度の信頼性と妥当性の検討した.

1. 予備調査(尺度原案の作成)

予備調査は,広島国際大学人を対象とする医学系研究倫理委員会で承認(倫15-091)を得て実施した.分娩介助実習指導に関わる経験年数5年以上の助産師10名を対象に,①正確かつ迅速な診断を指導する場面②分娩予測を指導する場面③安全な分娩介助を指導する場面④産婦にとって安心できる満足のいく分娩を指導する場面において,助産師が学生にどのように関わっているかを研究者が作成したインタビューガイドを用いて半構造化面接を行った.

データ分析は,Krippendorffの内容分析(Krippendorff, 1980/2013)を参考にした論文(江口・秋元,2013秋元,2015)の手法に基づき個別分析・全体分析の2段階の手順で行った.個別分析は,分析テーマを「助産師の教育的意図を持った関わり」として,文脈を取り出した.次に,抽出した文脈の意味を損なわないように,また隠された主語や目的語などを補足し,内容が明瞭になるようにした.得られた初期コードは508であった.個別分析の後,全体分析を行なった.最終的に79の表題が得られ,これを分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の原案とした.

分娩介助実習における助産師の教授活動は,【助産診断に関する教育的関わり】【分娩介助技術に関する教育的関わり】【倫理的配慮に関する教育的関わり】の3つの下位概念に集約された.これらの下位概念は,分娩介助実習の目標達成に向けて,助産師が行っている活動である.開発を目指す尺度の質問項目は助産師の教授活動を表す.

分析の全過程において5名の助産師および研究者の専門的立場からの助言を得ると共に,内容分析の手法に精通した研究者のスーパーバイズを受けながら,研究者間での繰り返しによる分析内容の妥当性を確認した.

2. 本調査

1) 研究対象者

インターネット上で年間分娩件数700件以上の病院・診療所(2015年,288施設)およびアドバンス助産師のインターネット上の公表を許可している施設(2015年,625施設)より,重複している施設を削除し,得られた501施設に所属する3,988人の分娩介助実習指導に携わる,あるいは携わったことのある助産師を対象とした.

2) 調査紙の構成

予備調査から得られた79項目の分娩介助実習における助産師の教授活動尺度と,併存尺度には,助産師の専門職的自律性尺度(石引ら,2013),看護職の職業認識尺度(國重,2002)を用いた.対象者の属性は,年齢,卒業した助産師教育機関,助産師経験年数,分娩介助実施件数,分娩介助指導経験年数,教員経験歴の有無,実習指導に関わる講習会・研修会等受講の有無,所属機関の分娩(経膣)件数と実習受入れの有無とした.

(1) 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度

予備調査から得られた下位概念より【助産診断に関する教育的関わり】30項目,【分娩介助技術に関する教育的関わり】28項目,【倫理的配慮に関する教育的関わり】21項目の合計79項目の質問項目を作成した.

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の回答は5件法とし,得点化については,「1点:ほとんど行っていない」「2点:あまり行っていない」「3点:時々行っている」「4点:たびたび行っている」「5点:いつも行っている」とした.得点が高いほど回答者の教授活動が優れていることを示すよう設定した.

(2) 助産師の専門職的自律性尺度

石引ら(2013)が開発した助産師の専門職的自律性尺度全体のCronbach’s α係数は.97で尺度の信頼性は確認されている.また因子分析では,因子構造を3因子構造と仮定し,再度因子分析を行った結果,尺度全体の共通性は.33から.64,因子負荷量はすべて.4以上であり妥当性は確認されている尺度である.この3因子は「助産ケア臨床的判断・実践能力」「助産ケア認知能力」「助産ケア自立的判断能力」から構成されている.助産師の専門職的自律性を育む要因として,専門的な臨床実践と経験の蓄積が必要であり,分娩介助における助産師の教授活動と類似する考え方をもつ概念と判断した.

(3) 看護職の職業認識尺度

國重(2002)が開発した看護職の職業認識尺度のCronbach’s α係数は.738~.843で尺度の信頼性は確認されている.また,既存の生きがい感スケールの「存在価値」尺度との相関係数はr = .489(P < .01)であり比較的強い相関がみられ基準関連妥当性が確認されている.さらに日本語版看護専門職役割認識尺度の理想値との相関係数はr = .309(P < .05)であり弱い相関がみられ構成概念妥当性が確認されている.この尺度は,看護師の看護職に対する考え方の特徴を測定する尺度であり,「教育」「思考・理解力」「人格」「役割理解」「社会的意義」から構成されている.教授活動は,教える側が教育的意図を持ち,学生の諸能力や価値観を形成を促す役割があることを認識する必要がある.したがって,看護職の職業認識は,分娩介助実習における助産師の教授活動と関連がある概念と判断した.

3) 調査紙の配布および回収方法

501施設に平均8部(助産師数に応じて流動)を配布し,無記名自記式質問紙調査を実施した.回収方法は,個別返送とした.

調査期間は,2016年9月下旬~12月初旬であった.

4) 分析方法

SPSS Statistics Version 25.0を使用し,以下の方法で信頼性と妥当性を検討した.

(1) 項目分析

データ入力後,欠損値の処理を行い,項目の正規性を確認し,天井効果とフロア効果さらにI-T相関,G-P分析にて,項目の信頼性分析を行った.

(2) 因子分析

探索的因子分析では,最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った.因子的妥当性を確認するため,各因子間の相関係数を求めた.

(3) 信頼性の検討

内的整合性を確認するため,Cronbach’s α係数を求めた.

(4) 妥当性の検討

助産師の専門職的自律性尺度と看護職の職業認識尺度を用いて,基準関連妥当性を確認するため,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度とのPearsonの積率相関係数を求めた.

5) 倫理的配慮

本研究は,広島国際大学人を対象とする医学系研究倫理委員会で承認(倫16-55)を得て実施した.研究協力候補である機関の看護管理責任者と所属する助産師に,研究概要として,研究目的,意義,研究の協力の自由,研究方法,データの取扱い,研究結果の公表方法,研究に関する問い合わせ先等を,文書を用いて説明した.調査紙は,無記名による自記式質問紙であり,記入された調査紙の封書による個別返信をもって同意が得られたことした.

Ⅳ. 結果

分娩を扱う全国医療機関501施設に所属する3,988人のうち,906人の助産師より回答を得た(回収率22.7%).このうち全ての調査項目に欠損値のない有効回答数は875人であり(回収数の96.6%),これを分析対象とした.

1. 対象者の属性

対象者の属性は,年齢,卒業した助産師教育機関,助産師経験年数,分娩介助実施件数,分娩介助実習指導経験年数,教員経験歴の有無,実習指導に関わる講習会・研修会等受講の有無,所属機関の分娩(経膣)件数と所属機関の分娩介助実習受入れの有無を示した(表1).

表1 対象者の属性n = 875
項目 人数 %
年齢 20歳代 87 9.9
30歳代 335 38.3
40歳代 306 35.0
50歳代 139 15.9
60歳代以上 8 .9
卒業した助産師教育機関 大学院・専門職大学院 24 2.7
大学 136 15.6
大学専攻科・別科 62 7.1
短期大学専攻科 192 21.9
1年課程養成所 461 52.7
助産師経験年数 5年未満 43 4.9
5年~10年 242 27.7
11年~15年 182 20.8
16年~20年 156 17.8
21年~25年 136 15.5
26年~30年 68 7.8
31年以上 48 5.5
分娩介助実施件数 100件未満 47 5.4
101件~300件 314 35.9
301件~500件 230 26.3
501件以上 284 32.4
分娩介助実習指導経験年数 5年未満 365 41.7
5年~10年 292 33.4
11年~15年 109 12.5
16年~20年 64 7.3
21年~25年 24 2.7
26年~30年 14 1.6
31年以上 6 .7
無回答 1 .1
教員経験歴 41 4.7
832 95.1
無回答 2 .2
実習指導に関わる講習会・研修会等受講の有無 532 60.8
343 39.2
所属機関の年間分娩(経膣)件数 100件未満 25 2.9
101件~300件 79 9.0
301件~500件 141 16.1
501件~700件 226 25.8
701件以上 403 46.1
無回答 1 .1
所属機関の分娩介助実習受入れの有無 819 93.6
54 6.2
無回答 2 .2

2. 項目の信頼性分析

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の,項目の平均得点,標準偏差,I-T相関を示した(表2).本尺度は正規分布を示しており,全項目のα係数は.968であり,G-P分析の結果,削除項目には該当しなかった.I-T相関の.40未満である項目番号21,41,48,58,61の5項目を削除した.また,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度のフロア効果を示す項目は認められなかったが,天井効果は複数認められた.項目内容を検討した結果,概念的に必要な項目であり,他の項目分析も考慮した結果使用することとした.

表2 分娩介助実習における助産師の教授活動の項目平均得点値・標準偏差とI-T相関n = 875
下位概念 項目 M SD I-T相関
I  1.学生が初期診断をするために必要な情報を得ているかをまず確認する 4.4 .80 .505
I  2.分娩開始の診断は,10分おきの陣痛と,他の所見も合わせて診断するよう指導する 4.4 .88 .476
III  3.観察とコミニュケーションで得た内容を正確に報告するよう求める 4.3 .76 .517
I  4.学生の得た情報が不足している場合,必要な情報のヒントを示す 4.3 .70 .600
I  5.学生の不足情報に対しなぜその情報が必要かを考えられるよう促す 4.2 .76 .634
I  6.学生が得た情報を基に,情報の持つ意味を考えるよう促す 4.1 .79 .638
I  7.得た情報の意味は自己判断に終わらず,参考書で確認するよう促す 3.9 .91 .514
I  8.得た情報より学生が分娩の三要素に沿って考えられるよう発問する 4.0 .93 .578
I  9.助産診断は,まず学生の考えを述べるよう促す 4.5 .67 .486
I 10.一つひとつの情報を確認しながら,学生が分娩進行の査定ができるよう促す 4.1 .77 .627
II 11.児の健康状態を正しく把握するために,CTGは正しく装着するよう促す 4.7 .60 .475
I 12.CTGにより児の健康状態を予測するよう問いかける 4.6 .62 .558
II 13.CTGに頼らず,産婦のそばに一緒に行き産婦の訴えや触診により観察するよう促す 4.7 .57 .565
II 14.内診は学生が考えた実施時期の根拠を確認したうえで共に行う 4.4 .73 .496
II 15.内診時は,産婦に負担や苦痛を与えない手技であるよう指導する 4.4 .76 .588
II 16.1例目から3例目までは,内診指を挿入するタイミングや挿入角度を指し示す 3.5 1.18 .519
II 17.分娩の進行状況や学生の力量に応じて学生より先に内診するか否かを判断する 4.0 1.10 .418
I 18.学生が内診で得た開大度,展退度,柔らかさなどの感覚と助産師の感覚とを参考書を基準にすり合わせる 3.9 1.13 .460
I 19.内診所見は,前回との変化をみて分娩進行状態を判断するよう促す 4.5 .72 .588
I 20.学生の内診所見が違っていても,否定せず学生が気付けるよう促す 4.0 .90 .533
II 21.内診所見の産婦への説明は,学生の所見を確認した上で学生に説明させ,不足内容を補う 3.4 1.16 .397
I 22.分娩予測は原則,フリードマン曲線とビショップスコアに基づいて行うよう指導する 3.8 .98 .500
I 23.分娩予測は初期診断で終わることなく,経過を確認しながら修正するよう促す 4.4 .74 .619
I 24.分娩進行を予測し,異常に転じていないかを判断するよう促す 4.4 .73 .682
I 25.分娩進行を予測し,優先するケアを考えるよう促す 4.5 .65 .676
I 26.児頭が骨盤腔に進入しにくいと判断した場合は骨盤や腹部の形も観察するよう説明する 3.5 1.12 .540
I 27.ケアをしながら分娩進行に影響している因子を予測できるよう導く 4.1 .82 .706
II 28.学生の立案した計画は,産婦の状態に応じた根拠あるものかを問いかける 4.1 .84 .650
I 29.産婦の状態は,適宜査定しながらケアに反映するよう指導する 4.2 .77 .690
III 30.産婦への全ての処置は一人でしないように事前に説明する 4.5 .81 .424
II 31.産痛緩和のためのさすり方が不十分な学生にはモデルを示す 4.1 .97 .517
I 32.児娩出時間を予測をした上で,分娩室の準備する時期を考えるよう促す 4.6 .61 .560
III 33.分娩介助の基本的技術は身につけて実習に臨むよう説明する 4.1 1.09 .504
II 34.分娩介助に必要な物品は安全と効率性を考えて準備するよう促す 4.4 .85 .584
II 35.産婦の観察を行いながら,分娩介助の準備をするよう促す 4.7 .58 .547
II 36.分娩第1期から安全性や他者への配慮を欠く学生には全ての場面で注意して関わる 4.6 .72 .529
II 37.分娩第2期の産婦の姿勢・体位は産婦の希望を取り入れることも可能であることを示す 3.9 1.22 .405
III 38.努責法や呼吸法のタイミング・方法を学生に指導する時は産婦の前では小声で指示する 4.2 .98 .403
II 39.学生は分娩第2期には手技に意識が集中するので,産婦への短息呼吸の声かけの瞬間は学生に伝える 3.8 .97 .525
II 40.産婦の状況に応じた声かけができにくい場合は,モデルを示す 4.5 .73 .547
II 41.分娩介助時は,いつでもサポートできるよう学生の手元で準備しておく 4.8 .50 .373
II 42.学生の会陰保護と肛門保護は力が入りすぎるので力加減を手を添えて示す 4.5 .74 .458
II 43.学生の分娩介助件数に応じ,児の体幹娩出までは学生の手に手を添えてゆっくり一緒に娩出する 4.5 .71 .451
II 44.児娩出時は,学生の手の上に手を添えて児頭の屈位を保ちながら手の当て方や力加減を体感を通して教える 4.5 .75 .464
II 45.学生の手技によって母児に危険が予測される場合,助産師が代わって介助する 4.7 .69 .407
II 46.児娩出後は児の健康状態を確認しながら出生直後に行うべきことを一つひとつ指示する 4.2 .87 .511
II 47.出生直後,児の啼泣・筋緊張を確認し,学生には児を拭き保温するよう促す 4.4 .81 .520
I 48.出生後30秒の時間を知らせ,新生児蘇生の初期処置の評価を意識づける 3.1 1.37 .385
I 49.出生後1分の時間を知らせ,アプガースコア評価を意識づける 4.0 1.13 .453
I 50.学生が出生直後の児の健康状態の評価ができなかった場合は振り返り時に確認する 4.5 .81 .554
II 51.児の健康状態が良ければ臍帯処置は学生が実施するのを見守る 4.7 .67 .429
I 52.胎盤剥離の診断は,胎盤剥離徴候と胎盤実質を手で確認しながら学生が査定するのを待つ 4.5 .75 .417
II 53.胎盤娩出介助時の力加減を示し,学生の力で娩出できるよう指導する 4.4 .79 .490
I 54.胎盤娩出後の母体の子宮底と出血の観察は学生が自力で実施できるよう指導する 4.4 .80 .528
I 55.胎盤娩出後は,産婦の査定をするための情報を得るよう指示する 4.2 .93 .593
II 56.分娩各期において,ケアは安全と安楽の両側面から考えるよう促す 4.6 .64 .637
I 57.分娩介助中に行った診断・ケアの根拠は振り返りで確認する 4.7 .60 .592
II 58.産婦または児に異常事態が生じた場合は助産師が対処する 4.9 .42 .386
I 59.異常時は助産師が対処し,振り返りで原因や処置の根拠が理解できるよう説明する 4.8 .52 .485
I 60.母児の早期接触や授乳が,母児ともに安全にできる状態かどうかを判断して行うよう指示する 4.5 .80 .540
II 61.分娩後2時間までの母児の観察は必ず学生と共に行う 4.6 .65 .332
II 62.分娩後帰室時の説明は学生の力でできるよう指導する 3.7 1.21 .425
III 63.安全・安楽に配慮した分娩介助技術を身につけるよう指導する 4.6 .65 .614
III 64.分娩介助件数に応じて学生主体の分娩介助ができるよう見守る 4.4 .71 .603
III 65.分娩終了後は,産婦と共に喜びを共有するよう促す 4.4 .85 .574
III 66.産婦への労いの言葉かけや産婦の気持ちに沿うような声かけをするよう促す 4.5 .78 .628
III 67.産婦への祝福と感謝の気持ちを言葉にして伝えるよう促す 4.5 .88 .579
III 68.家族が産婦をそばで支えられるようなケアを考えるよう促す 4.4 .78 .675
III 69.振り返りでは,前回と比較してできていることは認め,不足部分は新たな課題を提示する 4.6 .66 .612
III 70.産婦と学生の良い関係が保たれるよう,指導時は言動に注意する 4.6 .65 .560
III 71.分娩介助実習を通して感じ,考え,学んだことを表現するよう促す 4.3 .81 .637
III 72.学生が緊張している時には,落ち着かせるような言葉をかける 4.4 .73 .682
III 73.学生に指導・助言する時は,学生の反応や力量を見ながら指導方法を変える 4.4 .78 .692
III 74.産婦の気持ちを受け止め,産婦に寄り添う分娩になるよう促す 4.5 .65 .696
III 75.バースプランは必ず把握して分娩介助に臨むよう指導する 4.3 .97 .469
III 76.産婦にとって満足のいくお産だったか,バースプランを基に学生とともに評価する 3.8 1.17 .509
III 77.産婦の状況に合わせて分娩想起できる時期を考えるよう指導する 3.8 1.16 .605
III 78.産婦が肯定的な出産体験になるようバースレビューのモデルを示す 3.4 1.28 .519
III 79.助産師は,人の命に関わる責任のある職業であることに気づけるよう導く 4.3 .91 .581

注)下位概念I【助産診断に関する教育的関わり】 下位概念II【分娩介助技術に関する教育的関わり】 下位概念III【倫理的配慮に関する教育的関わり】

3. 探索的因子分析

項目分析で削除された5項目を除いた74項目について,固有値1以上を目安に,因子数を5から8因子とし因子分析(最尤法,プロマックス回転)を繰り返した.また,因子負荷量.350未満,複数の因子に.350以上の高い負荷量を示す項目を削除した結果,22項目が削除され,最終的に7因子52項目が採択された.これを分娩介助実習における助産師の教授活動とした(表3).7因子の各因子間は,正の相関を示し,因子間相関係数はr = .219~.722であった.

表3 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度 因子分析n = 875
項目 因子負荷量
第I因子 第II因子 第III因子 第IV因子 第V因子 第VI因子 第VII因子
第I因子(19項目)【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】α = .924
5.学生の不足情報に対しなぜその情報が必要かを考えられるよう促す .940 –.017 –.108 .057 .005 –.014 –.171
6.学生が得た情報を基に,情報の持つ意味を考えるよう促す .912 .003 –.019 –.009 –.052 –.025 –.117
4.学生の得た情報が不足している場合,必要な情報のヒントを示す .828 .062 –.149 .050 –.029 .033 –.152
8.得た情報より学生が分娩の三要素に沿って考えられるよう発問する .798 –.134 .094 .018 .032 .030 –.162
10.一つひとつの情報を確認しながら,学生が分娩進行の査定ができるよう促す .674 .084 .048 –.142 –.008 .001 .036
7.得た情報の意味は自己判断に終わらず,参考書で確認するよう促す .670 –.136 .038 .011 .048 –.044 –.008
28.学生の立案した計画は,産婦の状態に応じた根拠あるものかを問いかける .608 .139 .040 –.028 –.076 –.038 .088
27.ケアをしながら分娩進行に影響している因子を予測できるよう導く .580 .023 .088 .023 –.018 .013 .144
1.学生が初期診断をするために必要な情報を得ているかをまず確認する .564 .077 –.048 .046 .034 –.028 –.074
3.観察とコミニュケーションで得た内容を正確に報告するよう求める .545 –.070 .004 .037 .011 .008 .070
9.助産診断は,まず学生の考えを述べるよう促す .513 .178 –.106 –.073 .033 .027 –.069
29.産婦の状態は,適宜査定しながらケアに反映するよう指導する .500 .173 .030 –.090 –.012 –.013 .212
24.分娩進行を予測し,異常に転じていないかを判断するよう促す .486 .181 .013 –.090 .011 –.038 .211
2.分娩開始の診断は,10分おきの陣痛と,他の所見も合わせて診断するよう指導する .465 –.024 .104 .003 .059 –.014 –.020
25.分娩進行を予測し,優先するケアを考えるよう促す .460 .248 –.072 –.050 –.021 –.022 .215
12.CTGにより児の健康状態を予測するよう問いかける .433 –.013 –.023 .040 .009 .078 .141
22.分娩予測は原則,フリードマン曲線とビショップスコアに基づいて行うよう指導する .430 –.105 .104 .031 .029 .040 .093
26.児頭が骨盤腔に進入しにくいと判断した場合は骨盤や腹部の形も観察するよう説明する .411 –.096 .306 .059 –.092 –.035 .112
18.学生が内診で得た開大度,展退度,柔らかさなどの感覚と助産師の感覚とを参考書を基準にすり合わせる .406 –.133 .080 .062 .078 –.006 .063
第II因子(11項目)【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】α = .915
70.産婦と学生の良い関係が保たれるよう,指導時は言動に注意する –.047 .784 –.018 .040 .089 –.041 –.148
69.振り返りでは,前回と比較してできていることは認め,不足部分は新たな課題を提示する .025 .752 .004 .018 –.028 –.013 –.053
72.学生が緊張している時には,落ち着かせるような言葉をかける .039 .719 .177 .048 –.063 .019 –.108
73.学生に指導・助言する時は,学生の反応や力量を見ながら指導方法を変える .089 .704 .167 –.023 –.089 .017 –.047
74.産婦の気持ちを受け止め,産婦に寄り添う分娩になるよう促す –.033 .704 .114 .141 –.077 –.006 .008
71.分娩介助実習を通して感じ,考え,学んだことを表現するよう促す .079 .659 .187 .033 –.054 –.032 –.093
57.分娩介助中に行った診断・ケアの根拠は振り返りで確認する .010 .658 –.051 –.074 .068 .096 .014
64.分娩介助件数に応じて学生主体の分娩介助ができるよう見守る –.030 .609 .011 .002 .187 –.105 .046
59.異常時は助産師が対処し,振り返りで原因や処置の根拠が理解できるよう説明する –.004 .567 –.113 –.006 .016 .099 .004
63.安全・安楽に配慮した分娩介助技術を身につけるよう指導する –.072 .540 –.011 .096 –.001 .032 .186
56.分娩各期において,ケアは安全と安楽の両側面から考えるよう促す .106 .416 –.054 .132 .031 –.031 .184
第III因子(4項目)【バースレビューの関わり方を伝える】α = .861
78.産婦が肯定的な出産体験になるようバースレビューのモデルを示す .037 –.079 .842 –.001 –.031 .046 .007
77.産婦の状況に合わせて分娩想起できる時期を考えるよう指導する .071 –.008 .840 –.038 .015 .021 .044
76.産婦にとって満足のいくお産だったか,バースプランを基に学生とともに評価する –.082 .114 .810 –.050 –.005 –.001 .008
75.バースプランは必ず把握して分娩介助に臨むよう指導する –.054 .299 .491 –.019 .070 –.041 –.080
第IV因子(4項目)【産婦の気持ちに沿うよう促す】α = .910
67.産婦への祝福と感謝の気持ちを言葉にして伝えるよう促す –.013 .021 –.062 .903 –.052 –.004 .075
66.産婦への労いの言葉かけや産婦の気持ちに沿うような声かけをするよう促す .060 .055 –.078 .868 .012 .020 –.019
65.分娩終了後は,産婦と共に喜びを共有するよう促す –.108 .051 .054 .708 .052 –.014 .135
68.家族が産婦をそばで支えられるようなケアを考えるよう促す .127 .172 .062 .629 .024 .014 –.075
第V因子(5項目)【学生の自立を促す】α = .822
53.胎盤娩出介助時の力加減を示し,学生の力で娩出できるよう指導する .006 –.014 –.007 –.010 .836 .004 .025
52.胎盤剥離の診断は,胎盤剥離徴候と胎盤実質を手で確認しながら学生が査定するのを待つ .008 .060 –.039 .022 .776 –.018 –.098
54.胎盤娩出後の母体の子宮底と出血の観察は学生が自力で実施できるよう指導する .029 .012 .060 .015 .724 –.022 .024
55.胎盤娩出後は,産婦の査定をするための情報を得るよう指示する .170 –.082 .210 .075 .431 .031 .072
51.児の健康状態が良ければ臍帯処置は学生が実施するのを見守る –.005 .366 –.125 –.125 .381 .081 –.008
第VI因子(4項目)【児娩出時は手に手を添える】α = .813
44.児娩出時は,学生の手の上に手を添えて児頭の屈位を保ちながら手の当て方や力加減を体感を通して教える –.006 –.029 .014 .038 –.017 .907 –.042
43.学生の分娩介助件数に応じ,児の体幹娩出までは学生の手に手を添えてゆっくり一緒に娩出する –.008 .050 –.050 .019 –.027 .877 –.053
42.学生の会陰保護と肛門保護は力が入りすぎるので力加減を手を添えて示す –.036 .028 .071 –.051 .028 .658 .080
46.児娩出後は児の健康状態を確認しながら出生直後に行うべきことを一つひとつ指示する .129 .019 .106 –.010 .049 .369 .068
第VII因子(5項目)【準備の極意を伝える】α = .775
34.分娩介助に必要な物品は安全と効率性を考えて準備するよう促す –.059 –.021 .061 –.036 –.032 –.019 .889
33.分娩介助の基本的技術は身につけて実習に臨むよう説明する –.067 –.187 .076 .121 .027 –.019 .774
35.産婦の観察を行いながら,分娩介助の準備をするよう促す .127 .257 –.188 –.053 –.049 .032 .499
30.産婦への全ての処置は一人でしないように事前に説明する .074 –.034 –.030 .128 –.039 .024 .415
32.児娩出時間を予測をした上で,分娩室の準備する時期を考えるよう促す .254 .153 –.168 –.014 .055 .024 .361
因子間相関 第II因子 .722
第III因子 .491 .462
第IV因子 .479 .594 .558
第V因子 .474 .517 .333 .366
第VI因子 .449 .523 .219 .295 .400
第VII因子 .682 .655 .350 .495 .432 .452

全体のCronbach’s α係数=.960

因子抽出法:最尤法・プロマックス回転

第I因子は,19項目から構成され,助産診断をする際に,まず学生が考えることができるようにヒントを与えたり,問いかけたりしながら,学生が考える時間を待つ姿勢の内容であり,【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】と命名した.第II因子は,11項目から構成され,分娩介助件数に応じて学生の反応や力量を見ながら,出来ていることや課題を明確にしながら安全な分娩介助を補佐する行動や,安全に分娩介助ができるよう,学生の緊張に対する配慮などの内容であり,【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】と命名した.第III因子は,4項目から構成され,産婦にとって満足のいく出産になるように分娩前にはバースプランを確認し,分娩後には肯定的な出産体験になるためのバースレビューを指導する内容であり,【バースレビューの関わり方を伝える】と命名した.第IV因子は,4項目から構成され,分娩中は家族が産婦のそばで支えられるようなケアを考え,分娩終了後は産婦に祝福と感謝の気持ちを伝え,労いの言葉をかけることを促す内容であり,【産婦の気持ちに沿うよう促す】と命名した.第V因子は,5項目から構成され,胎盤剥離徴候を学生が査定するのを待ち,胎盤娩出は学生の力で介助できるようにすることや,胎盤娩出後の産婦の観察,診断も自力でできるよう指導する内容であり,【学生の自立を促す】と命名した.第VI因子は,4項目から構成され,学生の分娩介助件数に応じて,いつでもサポートできるよう学生の手元で準備し,分娩介助時の力加減を助産師が学生の手に手を添えて体感を通して教える内容であり,【児娩出時は手に手を添える】と命名した.第VII因子は,5項目から構成され,分娩介助に必要な物品の準備は安全性と効率性を考え,児娩出時間を予測して準備すること,分娩介助の基本的技術は身につけて実習に臨む内容であり,【準備の極意を伝える】と命名した.

4. 信頼性の検討

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度全体のCronbach’s α係数は.960であった.また,各因子間のα係数は,第I因子.924,第II因子.915,第III因子.861,第IV因子.910,第V因子.822,第VI因子.813,第VII因子.775であった.

5. 基準関連妥当性の検討

助産師の専門職的自律性尺度と看護職の職業認識尺度を基準とし,これらと本尺度とのPearsonの積率相関係数を示した(表4).

表4 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度と助産師の専門職的自律性尺度との相関n = 875
分娩介助実習における助産師の教授活動尺度
合計得点 第I因子 第II因子 第III因子 第IV因子 第V因子 第VI因子 第VII因子
助産師の専門職的自律性尺度合計得点 .455** .415** .416** .352** .306** .255** .240** .288**
第I因子:助産ケア臨床的判断・実践能力 .451** .412** .405** .369** .310** .251** .222** .278**
第II因子:助産ケア認知能力 .446** .405** .404** .341** .299** .253** .240** .286**
第III因子:助産ケア自立的判断能力 .121** .110** .149** –.005 .044** .073* .130** .105**
看護職の職業認識尺度合計得点 .356** .326** .347** .188** .251** .202** .193** .264**
第I因子:教育 .329** .308** .321** .184** .213** .194** .155** .232**
第II因子:思考・理解力 .337** .308** .310** .209** .265** .186** .160** .237**
第III因子:人格 .268** .241** .279** .087* .177** .148** .204** .229**
第IV因子:役割理解 .340** .313** .324** .183** .234** .199** .185** .245**
第V因子:社会的意義 .263** .233** .276** .131** .189** .139** .140** .209**

Pearsonの相関係数

** P < .01 * P < .05

本尺度と助産師の専門職的自律性尺度の合計得点の相関係数は,r = .455(P < .01)であり,中等度の相関を認め,因子別では,「助産ケア自立的判断能力」を除き,弱い相関から中等度の有意な相関が認められた.さらに,本尺度と看護職の職業認識尺度の合計得点の相関係数は,r = .356(P < .01)であり,弱い相関を認め,全ての因子において,有意な弱い相関が認められた.

全体的には,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】と両併存尺度の各因子との関係が強かった.

Ⅴ. 考察

本研究は,学生が分娩介助実践能力を修得するための教育的手立ての可視化をめざし,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の開発を行った.

1. 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の構造

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度は,【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】【バースレビューの関わり方を伝える】【産婦の気持ちに沿うよう促す】【学生の自立を促す】【児娩出時は手に手を添える】【準備の極意を伝える】の7因子52項目から構成された.

予備調査で得られた分娩介助実習における助産師の教授活動は,「助産診断」「分娩介助技術」「倫理的配慮」の3つの下位概念で示されたが,本調査では統計的手法により7因子が抽出された.予備調査と本調査で得られた下位尺度の合致性を検討した結果,第I因子は「助産診断」,第II・第VI・第VII因子は「分娩介助技術」,第III・第IV・V因子は「倫理的配慮」に該当すると解釈した.予備調査の下位概念は,分娩介助実習における助産師の教授活動の内容を示したものである.一方,本調査で得られた7因子は,分娩介助実習における助産師の教授活動の内容のみでなく,方法も同時に可視化された下位尺度を示すものといえる.

大崎ら(2014)は,助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力の構成因子として「実践者としての助産ケア指導力」「学生理解を基にした学習目標達成志向」「学生の状況に応じた指導の創造力」を抽出しており,助産師は,助産ケアの知識や技術を十分に備え,学生個々の状況や,刻々と変化する実習状況をとらえ,その場でしか伝えられないことを的確に学生に伝える必要性を述べている.本研究結果の【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】は,学生が考える時間を待ち,安全な分娩介助を補佐する行動であり,大崎ら(2014)の論述を裏づけるものであるといえる.

【産婦の気持ちに沿うよう促す】【学生の自立を促す】【児娩出時は手に手を添える】【準備の極意を伝える】は,段階的に分娩介助技術到達目標を達成するための教授活動である.10例の分娩介助実習では,段階を踏んで助産技術を習得していることが明らかになっており,学生の達成状況を念頭に置き指導する必要性が示されている(堀内ら,2007唐沢,2008清水ら,2012高島ら,2012松井ら,2014).但し,分娩介助実習は,母子の安全を担保し,産婦や家族にとって満足できる分娩であることが基本であり,1例目から助産師は母子の生命を守りながら,学生の主体性を尊重しながら指導する責務を担っている.さらに,分娩の経過は個々のケースによって違いがあるため,助産師の経験や技術,時にはパーソナリティーを,助産師が学生の手に手を取って伝授していくプロセスがあるといえる.つまり,母子の安全を担保し,【学生の自立を促す】よう学生の状況に応じて,【児娩出時は手に手を添える】【準備の極意を伝える】という助産師ならではの指導方法ととらえることができる.

【バースレビューの関わり方を伝える】【産婦の気持ちに沿うよう促す】は,産婦と家族にとって満足感のある出産体験になるための教授活動である.バースレビュー(出産の振り返り)とは,出産の当事者である褥婦は分娩体験を客観視できにくいことから,介助した助産師が分娩時の労をねぎらうと共に客観的・肯定的評価を伝え分娩体験の再構築の作業を助けることである(我部山・武谷,2013).バースレビューは,助産師が自身のケアを振り返り,産婦からの発言を通して,助産ケアの意欲を向上させることにつながり,助産師にとっても有効であるといえる.公益社団法人日本助産師会(2006)が示している助産師のコア・コンピテンシーのマタニティーケア能力からもわかるように,人生の一大イベントでもある産婦と家族が出産を前向きにとらえ,今後の育児につながるよう重要なケアを実践できることを意味する内容であるといえる.【バースレビューの関わり方を伝える】【産婦の気持ちに沿うよう促す】は,産婦に寄り添い産婦との信頼関係を構築していく過程である.産婦が出産を振り返り肯定的な出産体験となるように関わる助産師の役割モデルの存在は,学生にとって助産師としてのアイデンティティを高めることにつながる(佐藤・菱谷,2011).また,7因子の各因子間の相関係数はr = .219~.722であり,全体的には正の相関があることが示された.因子別では,第I因子と第II因子はr = .722であり,強い相関が,他の因子では中等度程度の相関があることが認められた.

以上のことから,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度は,先行研究より裏づけられた因子・項目から構成されていると考える.

2. 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の信頼性と妥当性

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の総得点が平均値を中心に正規性をなしており,本研究の尺度の信頼性・妥当性の検討に用いることが可能な偏りのないデータであると,データの適切性を確認した.

信頼性の検討では,Cronbach’s α係数.7以上を基準とし内的整合性を確認した.尺度全体のα係数は.960であり,各下位尺度のα係数は.775~.924で,第VII因子は若干低い値ではあったが,いずれも基準値以上を示しており,各下位尺度の内的整合性が得られた.これにより,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の信頼性が認められた.

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度と助産師の専門職的自律性尺度の合計得点は有意な相関が得られた.特に【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】と中等度の相関を示した.さらに,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度と看護職の職業認識尺度の合計得点においても,弱い相関であったが,有意な相関が得られた.これらにより,分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の基準関連妥当性が認められた.

以上のことから,本尺度の信頼性と妥当性が検証されたと考える.

3. 分娩介助実習における助産師の教授活動尺度の意義

前述したように,分娩介助実習で助産師は母子の生命を守りながら,学生の主体性を尊重し,助産師としての役割モデルを示しながら関わる責務を担っている.一方,助産師は,身近な経験のみに頼って指導を担当している現状も否定できない.本研究では,教授活動の実践者は,教員に限らないという前提に立ち,教授活動の担い手は,学生に実習指導者として関わる立場にある助産師であることを強調したい.

本尺度は,分娩介助実習における助産師の教授活動の評価を可能にし,助産師の教授活動の一助となるものと考える.すなわち,学生の分娩介助実践能力の修得に向けて教育的手立てを検討するデータとして使用できる.このことは,助産師もまたより良い教育とは何かを考える機会となり,助産師の教育力向上の手がかりとして有用であり,意義ある尺度と考える.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,実習指導に携わっている,あるいは携わったことのある助産師を対象に分析した結果である.本尺度と関連があると予測される助産師経験年数,分娩介助実習指導経験年数,分娩介助実施件数,実習指導に関わる講習会・研修会等受講の有無などの関連性は明らかになっておらず,次稿ではこれらを要因とした本尺度との関連性を検討することとする.また,共分散構造分析による検証的因子分析を行い,さらに,新たなグループへの尺度使用により構成概念の検証を行うなど,本尺度の妥当性を検討し,精度を高めていく予定である.

Ⅶ. 結語

分娩介助実習における助産師の教授活動尺度は,52項目が採択され,【分娩進行に伴う診断ができるよう思考を促す】【安全・安楽な分娩と学生の学びを同時に保証する】【バースレビューの関わり方を伝える】【産婦の気持ちに沿うよう促す】【学生の自立を促す】【児娩出時は手に手を添える】【準備の極意を伝える】の7因子から構成された.また,信頼性と妥当性が確認された.分娩介助実習における助産師の教授活動尺度は,助産師の分娩介助実習指導の評価ツールとして有効であることが示唆された.

謝辞:本研究にご協力いただきました関係機関と助産師の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献;HEは分析解釈,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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