日本看護科学会誌
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総説
看護職の職場文化の概念分析
田中 由美子
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2018 年 38 巻 p. 1-8

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Abstract

目的:看護職の職場文化の概念分析を行い,職場の文化を作り出す要因を明らかにする.

方法:5つのデータベースを用いて収集した27文献を,Rodgersの概念分析方に基づいて分析した.

結果:【共有している判断の基準】【管理者の管理方針】【メンバーに共通している態度】【職場の特徴】の4つの属性及び,2つの先行要件,5つの帰結が抽出された.

結論:看護職の職場文化は職場管理者の管理方針と職場のメンバーが共有している判断基準や態度が重要な形成要因であった.

Ⅰ. 諸言

総務省(2017)によると平成28年の生産年齢における女性の就業率は66%で,この数値は近年上昇している.国も女性の雇用環境改善のため,男女雇用機会均等法(以下,均等法)の制定や労働基準法の改正などを行ってきた.しかし,未だ就業女性の約6割が第1子出産前後に離職をしている(厚生労働省,2016).一方,ドイツやアメリカなどは女性の労働力率が日本のように特定の年齢層で低下しない.国際的にみても日本の社会制度が他の先進国より劣っているとは言えず,高い離職率には制度以外の要因もある(大原ら,2012)としている.さらに,均等法等の施行前に子育てしながら就業を継続した世代は,現在の就業する子育て世代の姿に甘えを認識することもあり(中野,2014),同じ就業しながらの子育てでも,世代間の認識は同じではない.

看護職の職場も様々な世代の者が就業し,産前就業や育児休業などが異なる経験を持つ者も多い.また,女性看護師の育休利用率は90%以上だが,男性看護師の利用率は8.4%(小島,2016)と低い.男女を問わず親になる人たちが就業を継続し易い職場にするには共に働くスタッフの間の妊娠・出産・育児に対する認識の差を縮め,変わる社会の制度とともに私たちの働く意識や職場を変えていく必要がある.

Kim & Cameron(2006/2012)は,職場を変えるには道具や方法の改善だけではなく価値観や考え方,経営スタイルといったその職場の文化にも目を向けることが不可欠としている. そのため,看護職の職場を妊娠・出産後も就業継続可能な職場へと変えるためには,女性の労働力が世代によって変動しにくい海外の看護職の職場文化も含め広く検討し,文化を創り出す要因を明らかにすることが必要であると考えた.

Ⅱ. 目的

看護職の職場文化の概念的な特性を知り,職場文化を作り出す要因を明らかにすることが本概念分析の目的である.

Ⅲ. 方法

1. 研究方法

Rodgers(2000)の概念分析方法を用いた.この方法は,概念を時間と状況に応じて変化する発展的なものという哲学的基盤に基づき,言葉の性質や使用方法に焦点を当て概念が持つ特性を明らかにする方法である.そのため,社会背景や職種により変化すると思われる職場文化の概念分析に適当と考えた.

2. データ収集方法

学術論文データベースPubMed,ProQuest,Ovid SP,CINAHL Plus With full textを用い,英文献検索を行った.キーワードは「workplace culture」OR「organizational culture」AND「Nurse」で,検索範囲は2017年から5年以内とした.Rodgers(2000)は着目した分野から30文献或いは,総数の2割程度の文献を抽出することを推奨しているため,本分析でも検索した270文献の約2割にあたる58文献を無作為に抽出した後,27文献を選択した.本研究目的は妊娠・出産しながらの就業継続に繋げることであるため,選択基準は原著論文で,職場文化が職場環境や看護職に及ぼす全般的な影響について述べているものとし,医療安全や感染予防などの特定のテーマと関連した職場文化や看護職が分析対象に含まれていない研究は除外した.和文献は医中誌webを利用し,(職場文化)or(組織文化/AL or 組織の文化/TH)and(看護職/TH or看護職/AL)の検索式を用い46文献を検出したが,内容が選択基準に合致しなかったため最終的に英文献27件を分析対象とした.

3. データ分析方法

データシートを作成し,対象文献において「職場文化」という概念の性質を示している用語を属性,概念に先立って生じる出来事を示す用語を先行要件及び,概念が生じた結果として起こる出来事を示す用語を帰結とし,それぞれに該当する内容を抽出した.抽出した内容をコード化し,共通性や相違性に注目してカテゴリ化を行った.分析の妥当性の確保のため博士課程を修了した看護師,概念分析経験のある博士課程の学生から示唆を得た.また,理論看護学,ウィメンズヘルス・助産学の専門家によるスーパーバイズを受け分析内容の検討と修正を行った.

Ⅳ. 結果

1. 属性

看護職の職場文化の属性として4つのカテゴリを抽出した(表1).以下,カテゴリは【 】,サブカテゴリは[ ]で示す.

表1 看護職の職場文化の概念の属性
カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
共有している判断の基準 共有している価値観 職場を通して学ぶ価値観 Eskola et al., 2016
共有された価値観 Azizollah et al., 2015; Mijakoski et al., 2015; Mirjam et al., 2015; Rocha et al., 2014; Scammon et al., 2014
専門家グループが発展させた価値観 Catrin et al., 2014
仕事に関連する価値観 Jane et al., 2013
行動に表される価値観 Alharbi et al., 2012; Farahnaz et al., 2012
共有している信念 職場を通して学ぶ信念 Eskola et al., 2016
共有された信念 Azizollah et al., 2015; Mijakoski et al., 2015; Mirjam et al., 2015; Rocha et al., 2014; Scammon et al., 2014
共有されている規範的な信念 Pelieu et al., 2013
行動に表される信念 Alharbi et al., 2012; Farahnaz et al., 2012
共通認識 共有された認識 Eskola et al., 2016
組織能力に関するメンバーの認識 Farzianpour et al., 2016
社会的に構成された潜在的な認識 Scammon et al., 2014
看護職の判断意識に影響をおよぼすもの Pelieu et al., 2013
基本的な前提 看護職の情動,満足度や態度に影響する基本 Gountas & Gountas, 2016
組織メンバーに無意識に作用する根本的な前提 Mirjam et al., 2015
学習において作り出され,発見され,開発された基本的な仮定 Bellot, 2012
グループに共有され授与された暗黙の前提 Ping et al., 2011
管理者の管理方針 管理者の考え方 組織管理への看護職の参加の可否
人材や資源の配置
リーダーシップとサポートの能力
Jafree et al., 2016
責任を負うことの共有 Hahtela et al., 2015c
価値観の柔軟性や団結,信頼の水準 Alharbi et al.,2014
メンバーの行動を統一するもの 規範的・社会的な接着剤 Mirjam et al., 2015; Alharbi et al., 2012, 2014; Beate et al., 2012
メンバーの方向性を同じくするもの Rocha et al., 2014
手順や目標に反映される特色 Alharbi et al., 2014
基本的な管理ツール
目標達成のための重要な焦点
Jane et al., 2013
メンバーに共通している態度 メンバーが従うべき決まり 共有された習慣的行為や規律 An & Kang, 2016
職場において強いられる規則や規範 Eskola et al., 2016
メンバーに共通する行動パターン メンバーの行動様式に表されるもの
組織の物品,シンボルやセレモニーに表されるもの
Yan, 2016
メンバーの思考,態度,行動を形成するもの Mijakoski et al., 2015; Sung & Myonghwa, 2015
メンバーの行動変容の動機 Sung & Myonghwa, 2015
グループの能力や行動パターンを作り出すもの Farahnaz et al., 2012
職場の特徴 サービスの性質 組織サービスの傾向 Vegro et al., 2016; Gountas & Gountas, 2016; Alharbi et al., 2012
行動・仕事の産物 Hahtela et al., 2015c; Chiang et al., 2012
質の高いケアを提供するための看護基盤の有無 Jafree et al., 2016
ケアや医療安全の質 Rocha et al., 2014
働く環境を作る要因 組織からのサポートに影響を及ぼす要因 Gountas & Gountas, 2016
組織の結束力を作る重要な要因 Kim et al., 2016
組織の結果を作る重要な要因 Azizollah et al., 2015
実践環境を作る要因
職場の総合的な満足度要因
職場の総合的なストレス要因
Hahtela et al., 2015a, 2015b

1) 【共有している判断の基準】

このカテゴリは,明文化されないがスタッフに共有されている考え方を示していた.サブカテゴリは[共有している価値観][共有している信念][共通認識][基本的な前提]であり,職場文化は職場を通して学ぶ価値観や信念,職場で共有された認識や暗黙の前提を示すものであった.

2) 【管理者の管理方針】

このカテゴリは,職場管理者の考え方や組織を束ねる方法に影響されることを示していた.サブカテゴリは[管理者の考え方][メンバーの行動を統一するもの]であり,管理者のリーダーシップとサポート能力,人材や資源の配置が職場文化を特徴づける.また,職場文化はグループメンバーの方向性,業務の目標や手順に反映される特色に反映されることを示すものであった.

3) 【メンバーに共通している態度】

このカテゴリは,看護職に見る共通態度は職場文化に基づいていることを示していた.サブカテゴリは[メンバーが従うべき決まり][メンバーに共通する行動パターン]であり,職場文化は職場で強いられる規則や規範で,職場メンバーに共通する行動を作り出すものであることを示すものであった.

4) 【職場の特徴】

このカテゴリは,職場文化が職場の特徴として体現されることを示していた.サブカテゴリは[サービスの性質][働く環境を作る要因]であり,職場文化は実践環境や組織の結果の要因となり,サービスの傾向や質に表れる特徴であることを示すものであった.

2. 先行要件

看護職の職場文化の先行要件として,2つのカテゴリを抽出した(表2).

表2 看護職の職場文化の先行要件
カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
業務に対するスタッフ意識の変化 職場を変えたいという意識 職場におけるいじめや嫌がらせ An & Kang, 2016
バーンアウト Farzianpour et al., 2016
退職行動 Kim et al., 2016
職場ストレス Eskola et al., 2016; Mijakoski et al., 2015
仕事に対する意識の低下 Hahtela et al., 2015a
病気による欠勤の増加 Hahtela et al., 2015b
ケアの質を良くしたいという意識 標準的なサービスの提供 Gountas & Gountas, 2016
患者が最良の結果に到達できるためのチーム作り Mirjam et al., 2015
ケアの改善 Alharbi et al., 2012, 2014; Catrin et al., 2014; Rocha et al., 2014; Scammon et al., 2014
患者安全の改善・向上 Rocha et al., 2014; Jane et al., 2013; Chiang et al., 2012; Farahnaz et al., 2012
マネジメントの改善意識 仕事の検証システムの欠如 Jafree et al., 2016
共通目標の達成 Azizollah et al., 2015
仕事満足度の向上 Hahtela et al., 2015c; Scammon et al., 2014
組織の刷新 Sung & Myonghwa, 2015; Bellot, 2012
必要な業務変更 Catrin et al., 2014; Beate et al., 2012
職場環境の創造 Jane et al., 2013
医療技術や実践・マネジメントの評価と改善 Pelieu et al., 2013
職場を囲む社会の影響 特定の集団で培われた様式 女性優位の集団によって形成された独特のもの Kim et al., 2016
自国の文化の価値観 Vegro et al., 2016
社会背景において習得,共有したすべて Hahtela et al., 2015c
病院の運営方針 病院運営業務への看護職の参加の可否 Jafree et al., 2016
組織外の人々の評価
組織的効果の向上
Yan, 2016
組織の特徴的な価値観や実践
組織の価値やルール体系
Vegro et al., 2016
病院の上層部により促進される病院の価値観 Jane et al., 2013
コスト意識の強化 Ping et al., 2011
看護以外の専門職の影響 他の専門家との相互作用で強化されたもの Eskola et al., 2016
異なる専門の文化を統合して作り出したもの Catrin et al., 2014

1) 【業務に対するスタッフ意識の変化】

このカテゴリは,[職場を変えたいという意識][ケアの質を良くしたいという意識][マネジメントの改善意識]という3つのサブカテゴリで構成され,看護職の業務に対する改善意識の高まりが職場文化の変革,再構築に繋がることを示していた.

2) 【職場を囲む社会の影響】

このカテゴリは,[特定の集団で培われた様式][病院の運営方針][看護以外の専門職の影響]という3つのサブカテゴリで構成され,組織を囲む社会や他職種の集団も看護職の職場文化の形成・変化に影響することを示していた.

3. 帰結

看護職の職場文化の帰結として5つのカテゴリを抽出した(表3).

表3 看護職の職場文化の帰結
カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
業務に取り組む意識の向上 業務に対する意識が高くなる 仕事満足度の向上 Gountas & Gountas, 2016; Yan, 2016; Hahtela et al., 2015c; Mirjam et al., 2015; Scammon et al., 2014; Ping et al., 2011
感情的懸念の低下
利用者指向の向上
Gountas & Gountas, 2016
組織への貢献度が高くなる 組織へのコミットメントの向上 Kim et al., 2016; Azizollah et al., 2015
職場に同意する傾向が高くなる Eskola et al., 2016
職場改革の積極性が増す Yan, 2016
コミットメントが持続する Azizollah et al., 2015
組織の目標達成に貢献する Rocha et al., 2014
個々の成長意欲が高くなる 学ぶことに意欲的になる Yan, 2016
仕事に対する関心が高くなる Mijakoski et al., 2015
質の高いケアを認識できる Hahtela et al., 2015a
自主的により難しい課題に挑戦するようになる
個々の行動の刷新を促進
Sung & Myonghwa, 2015
業務の質が向上 ケアの質が高くなる 質の高いサービスの提供 Vegro et al., 2016
専門職チームの強化 Mirjam et al., 2015
業務改善を行いやすい Catrin et al., 2014
業務の安全性が向上する 適正なエラー報告の実施 Jafree et al., 2016
安全に対する行動変容を促進
患者安全の実践
Chiang et al., 2012
患者安全に対する理解の向上 Farahnaz et al., 2012
患者のセルフケアへの関心が高くなる 患者のセルフケア能力が改善する Alharbi et al., 2014
患者の不安定さが低下
患者は退院後のセルフケアに関心が高くなる
Alharbi et al., 2012
適切な職場環境の構築 働きやすい環境になる 嫌がらせの減少 An & Kang, 2016
適切な労働環境の維持 Vegro et al., 2016
健康に働ける バーンアウトの低下 Farzianpour et al., 2016
病休者を減らす
病休の日数が減る
Hahtela et al., 2015b
転職率の低下 Jane et al., 2013
業務のモチベーションが低下 就業継続の意思が低下する バーンアウトの増加 Farzianpour et al., 2016; Mijakoski et al., 2015
病休の日数が大きく増加する Hahtela et al., 2015b
退職の認識が高くなる Hahtela et al., 2015b; Beate et al., 2012
転職率の上昇 Jane et al., 2013
業務のストレスが増加する ストレスが高くなる Eskola et al., 2016
同僚との対立やキャリア開発の問題によるストレス Hahtela et al., 2015c
専門職としての成長を妨害 Rocha et al., 2014
矛盾した考えや行動を強要 Bellot, 2012
自己犠牲の認識が高くなる Beate et al., 2012
業務への関心が低くなる 業務改革に抵抗 Catrin et al., 2014
事故の予防可能性の判断が低下 Pelieu et al., 2013; Casida et al., 2012
職場環境の悪化 職場の人間関係が低下する 嫌がらせの増加 An & Kang, 2016
スタッフの関係性の低下 Scammon et al., 2014
忠誠心,共感の認識が低下
批評の認識が高くなる
Beate et al., 2012
サービスの質が低下する 仕事満足度の低下 Scammon et al., 2014; Ping et al., 2011
患者満足度の低下
コスト意識の低下
Ping et al., 2011

1) 【業務に取り組む意識の向上】

このカテゴリは,[業務に対する意識が高くなる][組織への貢献度が高くなる][個々の成長意欲が高くなる]という3つのサブカテゴリから成り,職場文化が仕事満足度を向上させるとともに,組織へのコミットメントを持続させスタッフ個々の意識と能力を高める結果に繋がることを示していた.

2) 【業務の質が向上】

このカテゴリは,[ケアの質が高くなる][業務の安全性が向上する][患者のセルフケアへの関心が高くなる]という3つのサブカテゴリから成り,職場文化がサービスの質,業務の安全性を高める結果に繋がることを示していた.

3) 【適切な職場環境の構築】

このカテゴリは,[働きやすい環境になる][健康に働ける]という2つのサブカテゴリから成り,職場文化が適切な労働環境を維持し,離職者を減らし適切な労働環境の構築に繋がることを示していた.

4) 【業務のモチベーションが低下】

このカテゴリは,[就業継続の意思が低下する][業務のストレスが増加する][業務への関心が低くなる]という3つのカテゴリから成り,職場文化が矛盾した考えや行動をメンバーに強要することで,ストレスやバーンアウトの増加に繋がることを示していた.

5) 【職場環境の悪化】

このカテゴリは,[職場の人間関係が低下する][サービスの質が低下する]という2つのサブカテゴリから成り,職場文化がスタッフの関係性の低下や仕事満足度の低下という後ろ向きの結果に繋がることを示していた.

4. 概念モデル

本概念分析によって得られた先行要件,属性および帰結を概念モデルとして示す(図1).

図1

看護職の職場文化の概念モデル

5. 同義語

同義語には,組織文化を表現する「文化的,象徴的および想像上の体制」を抽出した(Rocha et al., 2014Vegro et al., 2016).組織においては,メンバーの行動を調整し,彼らの実践を導く価値観と基準の構造からなる文化的,象徴的および想像上の体制があり,この体制が組織文化を表すとされていた.

Ⅴ. 考察

1. 概念の定義

分析結果から,看護職の職場文化は「社会やスタッフ意識の変化に影響を受ける発展的な性質を持ち,職場の同僚が共有している判断基準と管理者の管理方針を基盤にしたメンバー共通の態度であり,職場の特徴を作る」と定義した.

2. モデルケース

モデルケースを用いて本概念を説明する.

看護師のAさんは先日妊娠が判明した.同僚は妊婦が働くと切迫流早産で休みがちになるので,そうなる前に辞めて欲しいと感じていた.一方,師長は女性活躍が謳われる社会の中,就業継続を希望するAさんを通してスタッフが長く働ける職場の形を皆で考える機会と思い病棟で話し合うことにした.

話し合いの後,師長はAさんの夜勤を減らす,同僚の休みの希望を保証する等,双方に勤務配慮を行った.同僚は適切な支援で妊婦も働けること,病棟を熟知する人が働いてくれると自分たちも安心なことに気づき,支援を面倒と感じなくなった.また,自分が妊娠しても働き続けられる職場にしたいと思いAさんの支援を自主的に行うようになった.Aさんが産休まで元気に勤務できたことが,妊婦を支援できる職場・妊婦が働ける職場という病棟の成功体験に繋がり,同僚が妊娠しても就業継続が出来る環境へと変化していった.

ここでは,妊娠したら辞めて欲しいという同僚の【共有している判断の基準】がある.しかし,女性の活躍の後押しする【職場を囲む社会の影響】もあり,師長は職場変革の必要性を感じていた.そのため,夜勤回数や勤務希望の保証など【管理者の管理方針】を明らかにし,話し合うことで妊婦の支援という【メンバーに共通している態度】に繋げた.さらに,スタッフの「適切な支援で妊婦は働ける」という気付きが支援行動を定着させ,妊婦を支援できる職場という成功体験が,妊娠しても働き続けられる職場という【職場の特徴】を生み出した.その結果,スタッフの【業務に取り組む意識の向上】に繋がり,【適切な職場環境の構築】に至ったと考える.

3. 概念の有用性

本概念分析では,看護職の職場文化形成には管理者の管理方針だけではなく,職場のメンバーが共有している価値観や認識等に基づいた判断の基準も要因となることが示された.看護部や病棟管理者と組織メンバー相互により生みだされる看護職の職場文化は,同じ対人援助職でも個人主義傾向で独立性が強い(川瀬,2013)とされる教員の職場文化と比較すると,チームや職場集団を重視する文化であると考える.そのため,本概念を使用した実践は看護部や病棟師長のリーダーシップの下,チームで取り組むことが大切である.

本概念を使用した職場実践として,スタッフの妊娠・出産や育児休暇の取得など,職場で共有する判断基準が当事者への対応に体現されるような状況を改善する一助になると考える.また,介護や病気療養など人生の様々なステージで一時的に離職が必要なスタッフを支援する際の職場環境の構築の過程や,業務の質の向上といった帰結を目指すための職場改革の過程に活用できると考える.さらに,今回得られた概念の属性を利用して自分たちの職場文化の要因調査や,異なる帰結を持つ職場の比較研究にも活用可能と考える.

看護職の職場文化は発展的な性質を持っており,職場改革の目的に合わせて新たな文化を創造していく事が可能である.そのため,妊娠・出産や育児をしながら誰もが迷うことなく就業継続できる職場を構築していくには,まず自分たちの職場文化に目を向け,自分たちが妊娠・出産或いは育児をしながら働くことに対して共有している判断の基準はどのような価値観や認識に依っているのかを明確にする必要がある.そして自分たちが目指す職場の構築に向けて,それら判断の基準を生み出している価値観や認識等を変えていく努力を重ねていくことが重要と考える.

4. 今後の課題

本概念の分析結果は英文献から得た結果であり,日本の看護職の職場文化に適応するかの検証が必要である.検証結果を踏まえ妊娠・出産・復職を支援しやすい職場を作るための具体的な方策を見出すことが今後の研究課題である.

Ⅵ. 結論

Rodgersの概念分析方法を用いて看護職の職場文化の概念分析を行い,4属性,2先行要件,5帰結を抽出した.看護職の職場文化は職場管理者の管理方針と職場のメンバーが共有している判断基準や態度が重要な形成要因であった.

謝辞:本稿を作成するにあたりご指導いただきました聖路加国際大学大学院の森明子教授,田代順子教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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