2018 年 38 巻 p. 133-141
目的:病棟看護師を対象に面接調査を実施し,終末期がん患者の在宅療養移行支援における看護師の役割の認識を分析することを目的とした.
方法:がん診療連携拠点病院において,終末期がん看護を実践する看護師を対象に半構造化面接を実施し,得られたデータを質的帰納的に分析した.
結果:対象者は臨床経験年数3~7年の看護師6名であった.分析の結果,終末期がん患者の在宅療養移行支援における役割の認識として,16のカテゴリ,34のサブカテゴリが得られ,カテゴリの特徴から《患者と家族を中心に見据えた看護実践》《関連職種連携力の発揮》《自己の立場を自覚した行動》《役割開発への取り組み》の4つに分類することができた.
結論:終末期がん患者の在宅療養移行支援において病棟看護師は,自己の立場を意識した積極的支援と関連職種連携を重視し,自己の課題を内省して役割を獲得していくことも視野にあることが示唆された.これらの役割の認識と具体的な行動との関連,移行支援に関連する要因について検討していくことが今後の課題である.
わが国では,国民の2人に1人ががんに罹患し,約37万人ががんで死亡している現状にある(厚生労働省,2017).終末期がん患者の最期の療養場所は医療機関が主流となっており,がん患者の在宅死は9.9%に留まっている(政府統計の総合窓口(e-Stat),2017).終末期がん患者の在宅療養には,多彩な症状への対応,緊急時の対応の問題,家族内の役割調整や介護負担などの様々な困難がある(橋本ら,2015;石井ら,2011;大園ら,2015;山本ら,2015).しかしその一方で,住み慣れた家で人間関係を維持しながら最期の日々を過ごす患者の満足感,介護がもたらす家族の対処能力や繋がりの強化など,家族の成長に導く絆をもたらすといえ(角田,2008;山手,2010),最期までその人らしく過ごすための場として在宅療養を選択し,実現していくことは意義深いことであるといえる.
在宅終末期ケアの推進は国策としても取り組まれており,2007年のがん対策推進基本計画においては,緩和ケアに関する質の高い医療従事者の育成と在宅や施設で緩和ケアを受ける体制整備の推進が盛り込まれた.多死社会となる2025年問題も見据え,在宅医療連携拠点事業なども推進されている.がん対策基本法の施行から10年が経過し,2018年3月に第3期がん対策推進基本計画が公表された.緩和ケアおよび終末期医療に関する次期計画に着目すると,社会連携に基づくがん対策・がん患者支援において,質の高い在宅緩和ケア提供が課題として挙げられており,緩和ケアを推進する人材育成も継続した課題となっている(厚生労働省,2018).
これらの課題を達成するためには,専門看護師,認定看護師,退院調整看護師などの育成,効果的な地域連携システムの構築と運用などの取り組みが期待される.さらに,日々終末期がん患者と家族に関わる病棟看護師に着目すると,在宅療養への意思決定支援,在宅療養移行実現のための自職種および他職種との連携においてその活躍が大いに期待される(森・杉本,2012;宇都宮,2013).
しかし,病棟看護師の現状として,終末期の患者と家族を支える心理社会的なケアに課題があることが示唆され(Yoshioka & Moriyama, 2013),終末期のケアに関する知識や技術の未熟さ,自信のなさや感情コントロールといった問題の存在も議論されており(小野寺ら,2013;Sasahara et al., 2003),死が間近に迫る患者と家族に対する意思決定支援に影響を及ぼしていることが示唆される.また,終末期がん患者の在宅療養に対する看護師の消極的態度や在宅療養が選択肢として意識にのぼらないなどの根本的な問題点を指摘する報告もある(佐藤ら,2011).さらに,緩和ケアチームなどの終末期がん患者をとりまく専門職との連携の難しさ,連携不足なども指摘されている(DeMiglio & Williams, 2012;小川ら,2009;奥村,2011;Wittenberg-Lyles et al., 2014).
このような課題の改善に取り組むためには,まず,終末期がん患者の在宅療養移行支援において病棟看護師に求められる役割を明らかにし,看護師への教育的介入を視野に入れた研究の推進が求められるといえる.また,病棟看護師に必要な役割の分析においては,終末期がん患者の在宅療養移行支援を実際に推進している看護師を対象に調査を実施する必要がある.従って本研究では,がん医療の中核であり,地域との連携協力体制の整備が要件となっているがん診療連携拠点病院において,終末期がん患者の在宅療養移行支援を実践する病棟看護師を対象に面接調査を実施し,終末期がん患者の在宅療養移行支援における看護師の役割について質的帰納的に分析することを目的とした.
半構造化面接法による質的帰納的研究
2. 用語の操作的定義「役割の認識」とは,終末期がん患者の在宅療養移行支援において,病棟看護師が執るべき行動やあるべき姿勢として把握している事柄とした.
3. 研究対象対象者は,がん診療連携拠点病院において,終末期がん看護を実践する病棟看護師とした.対象者の選定基準として,終末期がん患者をケアする機会が多い病棟に所属する,臨床経験3~10年の看護師とした.除外基準として,病棟師長などの管理者,専門看護師や認定看護師などの資格取得者を設定した.選定基準における臨床経験年数については,対象施設の継続教育ラダーを確認し,基本的な看護実践に関するラダーをクリアし,チーム内で自律的に看護実践に取り組み始める臨床経験3年から中堅看護師としてチームの中心となって看護実践に取り組む臨床経験10年程度を基準とした.実際の選定においては,看護管理者に病棟の選定を依頼し,病棟管理者が推薦する看護師を対象者とした.
4. データ収集方法調査期間は,平成27年12月~平成28年1月とした.上記の対象者に対し,インタビューガイドを用いて半構造化面接を行った.対象者が指定する場所に研究者が出向き,プライバシーが確保できる個室でインタビューを実施した.面接時間は一人当たり40~50分とし,面接内容は記録用紙に記述するとともに,対象者の許可を得てICレコーダーに録音した.
5. 調査内容 1) 対象者の背景面接に先だって,対象者の臨床経験年数について情報を得た.
2) インタビュー内容インタビューガイドに沿って以下の内容に関する対象者の語りを得た.
(1)終末期がん患者の在宅療養移行に関わった経験とその内容.
(2)終末期がん患者の在宅療養移行に対する対象者の考えについて(支援の困難さ,調整の難しさ,家に帰ることの意義など).
(3)終末期がん患者の在宅療養移行支援において,看護師として自身が執るべき役割について.
(4)終末期がん患者の在宅療養移行について感じていることや考えていることについて.
6. 分析方法終末期がん患者の在宅療養移行支援における病棟看護師の役割の認識について,質的帰納的に分析した.インタビューの録音内容から逐語録を作成した.逐語録を精読し,終末期がん患者の在宅療養移行における看護師としての役割の認識に関わる文章を抽出し,意味内容のわかる範囲で区切り,コード化した.コード化された記述は類似性に基づき抽象化し,サブカテゴリとした.サブカテゴリの内容からさらに抽象度を上げ,カテゴリとした.結果の厳密性を確保するために,著者の解釈やカテゴリ化に歪みや偏りがないかについて共著者と議論したうえで,終末期がん看護のエキスパートにスーパーバイズを受けた.
7. 倫理的配慮本研究は,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:ERB-E-297).対象者には,研究の目的と概要,調査協力の任意性,拒否と中断の自由,不参加による不利益がないこと,個人情報の保護,関連学会での発表などについて文書で説明し,同意を得た.
対象者は,2施設のがん診療連携拠点病院の臨床経験年数3~7年の看護師6名であった.平均面接所要時間は,44.7 ± 7.1分であった(表1).
対象者 | 臨床経験年数 | 面接時間 |
---|---|---|
A | 4年 | 55分 |
B | 3年 | 41分 |
C | 4年 | 45分 |
D | 7年 | 51分 |
E | 6年 | 37分 |
F | 5年 | 39分 |
インタビュー内容の逐語録から,110のコードが得られた.分析の結果,16のカテゴリ,34のサブカテゴリが得られた.これら16のカテゴリは,その特徴から《在宅療養移行支援における患者と家族を中心に見据えた看護実践》《在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮》《在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動》《在宅療養移行支援における役割開発への取り組み》の4つに分類することができた(表2).カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,コードを「 」で示し,終末期がん患者の在宅療養移行支援に対する病棟看護師の役割の認識について役割の特徴ごとに説明する.
カテゴリ | サブカテゴリ | コード | |
---|---|---|---|
在宅療養移行支援における患者と家族を中心に見据えた看護実践 | 終末期にある患者自身の思いを尊重した関わり | 患者の認識を正確に把握する | まずは患者の認識の状態を正しく知ることが大切だと思っている 医師にIC内容を尋ねながらも,自分自身で患者の思いを聞くようにしている 家に帰って何が心配か,何が怖いか具体的に尋ねるようにしている 主治医からどのような説明を受けているのかということを患者に直接確認する |
家族から患者の思いを聴く | 患者の思いがつかめないときは,家族に患者の思いを尋ねてみる 家族を患者の代弁者として,意図的に情報を得ようとする | ||
患者のがんとの歩みを尊重した関わり | 患者の治療の過程を理解したうえで関わる | がん種による経過を踏まえた上で関わる 予後不良と知ったうえで治療に取り組んできた患者を尊重する 必要時には(長い経過を知っている)外来主治医と患者が面談できるように調整する | |
患者の心の揺らぎを予測した意図的な意思の汲み取り | 患者の意思を確認するためのきっかけの模索 | 仕事に関する話をすると今後のことの話を話されることもある 認定看護師の介入により,患者が(在宅療養移行に)意欲的になることがある 在宅に関するキーワードが出てきたときに,深く話すようにしている 検温や移送をしながらの方が本心をぽろっと言われることがある 外出時のことを話題に出し,家にいることのメリットを話題に出して在宅を勧めていく 緩和ケアナースの関わりを話のきっかけに患者から情報を得る | |
医師からの説明後に意図的に患者に関わる | ICの後は気をつけて意図的にかかわりに行く 医師の説明を聞いて患者がどう思ったかをくみ取って次につなげるようにしている IC後を見計らって,今後どうしていきたいかを聞くようにしている 医師からの話に対してどのように考えているのか患者に尋ね,話を(在宅へ)広げる | ||
患者と家族のアドボケーターとしての医師との関わり | ICの内容の把握 | 主治医のICには極力同席するようにしている 医師のICの内容を確認した上で患者と関わる | |
患者と家族の代弁者として医師に情報提供する | 患者の思いや予後の認識を主治医に伝える 患者の認識を正確に主治医に伝える 患者や家族の思いを積極的に医師に代弁するようになってきた 医師に積極的に患者の思いなどの情報を提供する 医師に積極的に患者や家族の思いを伝える役目がある | ||
在宅療養移行に向けて積極的に医師にアプローチする | ICに同席できなかったりカルテを見ても方針がよくわからない場合には積極的に医師に尋ねる 医師への相談は個別に行う 医師に積極的に在宅療養移行を促す | ||
終末期がん患者を抱える家族支援の実践 | 支援の対象として家族と関わる | 患者が家族に言いにくいいことを代弁して家族に伝える 患者抜きで意図的に家族と関わる 患者だけでなく,家族にも意識的にかかわるようにしている 疲れている家族を配慮したうえで声をかける | |
家族の介護力を査定する | 家族が家で患者をケアしていけるかどうか話を聴く 家族の介護力を見極める | ||
意思決定を支える組織的な症状マネジメント | 症状マネジメントのためのコンサルトを行う | 疼痛マネジメントが不十分な場合は,緩和ケア科の介入を依頼する (不十分な)症状マネジメントに関して,主治医に緩和ケア科の介入を提案する 早期に専門医にコンサルトして,症状を緩和してもらう 緩和ケアチームのナースに早期から介入してもらう | |
症状マネジメントにより患者のADLを維持する | 在宅療養移行に向けて,痛みを緩和し,ADLを落とさないように心掛ける 在宅療養移行に向けて,時間がかかっても食事がとれるように工夫する 一番つらいことは何かを患者に尋ね,そこを改善する関わりを重視する | ||
症状マネジメントにより患者の意思決定力を維持する | 症状をマネジメントすることで,患者の意思決定力を維持する 症状マネジメントしながら患者の療養場所の意向を確認していく | ||
在宅療養移行に向けた情報提供 | 社会資源に関する情報提供を行う | 社会資源などに関する知識を踏まえて情報提供する 社会資源のことは必ず説明し,まずは介護保険の申請に行ってもらう 家族が介護保険などの社会資源について知っているか確認する | |
具体的な介護方法を家族に指導する | 症状悪化に対する患者の不安に対し,対処法を伝える 外泊時などに排泄や食事の援助について家族に指導する | ||
在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮 | 在宅療養移行支援におけるメンバーシップの発揮 | チームメンバーとして自律的に在宅療養移行に関わる | 緩和ケアチームの依頼は看護師が判断して行う 先輩ナースになるべく頼らずに,自分で在宅療養移行支援に取り組む スタッフナースとして自律的に在宅療養移行に関わる 一スタッフから発信できることは多いと思っている 専門ナースがいても実際に身近な存在で関わる機会が多いのは病棟ナースである |
在宅療養移行を見越して早期からチームで動く | 入院した時から在宅に向けて調整すべきことや医師に確認すべきことを話し合っている 患者の意向が明らかになる前から在宅を見越してカンファレンスを進める 治療時から退院を視野に入れてこまめにカンファレンスをしている | ||
在宅療養移行支援のための情報共有と活用 | チーム内の情報共有 | チーム内の情報共有はとても大事にしている 在宅療養移行のタイミングを逸しないように,患者の意思やICの内容をチームで確認している プライマリーだけではなくチーム内の患者のことは意識してみている 患者から他のスタッフに伝えられた情報をカルテなどから得るようにしている 退院支援カンファレンスなどで自分が持っていない情報を得るようにしている | |
チームでケアが共有されるよう工夫する | 他のチームメンバーがわかるように詳細に記録を残す 他の看護師にしてほしいことを意図的に明示しておく 看護計画は患者独自のものが強調されるような書き方を工夫する | ||
在宅療養移行に向けたカンファレンス運営 | カンファレンスへの積極的参加 | 若手であってもカンファレンスで黙っているということはない 自分の持っている情報はカンファレンスで発信していこうと思っている | |
状況に応じたカンファレンス開催の調整 | 多職種カンファレンスが良いタイミングの時期に開催されるよう調整する カンファレンスを行う時期が遅くなるとあまり意味がない カンファレンスに必要なメンバー,職種はプライマリーナースが考える | ||
多職種カンファレンスを活用して在宅療養移行を推進する | 医療者カンファレンスを開き,意識の統一を図る 在宅に移行する患者には,医療者カンファレンスが必要だと擦り込まれている | ||
在宅療養移行に向けた組織のリソースの活用 | 他職種の知識やスキルを活用する | 退院調整ナースが病棟に来た際に,違う患者の相談もしてみる 地域に強い退院調整ナースから情報を得て,患者や家族への情報提供に役立てる 薬のことは薬剤師に相談する 専門的にかかわる緩和ケアナースの活躍は大きい 他部門や他職種と連携するのは当たり前 | |
在宅療養移行支援に関するロールモデルの活用 | 関わりの早い先輩ナースを見習う 先輩ナースに相談する 医師との関わりで難しい部分は先輩ナースの助けを求める | ||
院内の仕組みを活用する | 院内の仕組みが整っているので,そのきっかけや動き始めのとこを病棟看護師が担う 施設の環境や仕組みが活用できるよう関わる | ||
在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動 | 在宅療養移行に向けたプライマリーナースとしての自覚的行動 | プライマリーナースとしての存在を患者に認識してもらう | プライマリナースとして他の看護師が担当するときよりも意図的にかかわる時間を多くする 家族が来る時間など情報を得て意図的に関われるように時間管理する プライマリナースがいつも気にかけていることが患者に伝わるように関わる プライマリナースであることを患者にアピールする |
プライマリーナースとして患者の状況を把握する | 在宅療養に向けて,家族構成や職業などプライマリーとして詳しく把握する 患者の意思の吸い上げはプライマリーナースの役割だと思っている 患者や家族が不安に思っていることの把握はプライマリーの役割だと思っている | ||
プライマリーナースとして他部門と連携を図る | 地域連携の部署ともプライマリーナースが直接連絡を取る プライマリーナースの役割として,退院支援ナースに連絡や相談を行う 担当患者に関わる手続きはプライマリナースの役割だと思っている | ||
看護師の役割の範囲を意識した行動 | 看護師の役割を超えない関わりの認識 | がんの進行に関わることや病状に関わる内容の話は医師に一任している 予後告知に関しては看護師からの患者へのアプローチはしない | |
在宅療養移行支援における後輩指導 | 在宅療養移行支援に関して後輩指導する | プリセプティにも早めに医師に方針を確認し,患者や家族の思いを確認するように伝える プリセプティに対してアドバイスする | |
在宅療養移行支援における役割開発への取り組み | 在宅療養移行支援に対する自己の課題の認識 | 自己の実践を振り返る | 家族への説明について,退院支援ナースに任せっきりになっていることを反省している 退院調整ナースや先輩ナースがどうにかしてくれるという甘えもある カンファレンスでの発言を先輩ナースに頼ってしまう |
自己の課題を見出す | 頼れる先輩のように自分が成長していく必要がある 医師とカンファレンスを実施するには看護師のレベルを上げていかなければならない | ||
在宅療養移行支援における自己啓発 | 在宅療養移行を見越して自己の準備性を高める | 難しい事例の場合には,早期からどのようにかかわろうか考える 受け持ち患者の経過を見越して前もって準備をするなど自覚をもってやっている 早めに退院調整ナースに相談しておく 患者の行く末は自分にかかっているという思いがある 退院の話が出る前から退院支援ナースに情報提供し,相談しておく | |
在宅療養移行支援に関する学習意欲を持つ | 受けられるサービス等についてもっと詳しくならなければいけないと思っている 退院支援勉強会に参加したい 在宅療養移行支援に関する研修会に参加する |
在宅療養移行支援における患者と家族を中心に見据えた看護実践は,「まずは患者の認識の状態を正しく知ることが大切だと思っている」などが含まれる〈患者の認識を正確に把握する〉,〈家族から患者の思いを聴く〉から構成される【終末期にある患者自身の思いを尊重した関わり】,「予後不良と知ったうえで治療に取り組んできた患者を尊重する」などが含まれる【患者のがんとの歩みを尊重した関わり】,「在宅に関するキーワードが出た時に,深く話すようにしている」などが含まれる〈患者の意思を確認するためのきっかけの模索〉,〈医師からの説明後に意図的に患者に関わる〉から構成される【患者の心の揺らぎを予測した意図的な意思の汲み取り】,〈ICの内容の把握〉〈患者と家族の代弁者として医師に情報提供する〉〈在宅療養に向けて積極的に医師にアプローチする〉から構成される【患者と家族のアドボケーターとしての医師との関わり】,〈支援の対象として家族と関わる〉〈家族の介護力を査定する〉から構成される【終末期がん患者を抱える家族支援の実践】,〈症状マネジメントのためのコンサルトを行う〉〈症状マネジメントにより患者のADLを維持する〉〈症状マネジメントにより患者の意思決定力を維持する〉から構成される【意思決定を支える組織的な症状マネジメント】,〈社会資源に関する情報提供を行う〉〈具体的な介護方法を家族に指導する〉から構成される【在宅療養移行に向けた情報提供】の7カテゴリが含まれた.
これらのカテゴリから対象者は,終末期がん患者の在宅療養移行において,患者の自律的な意思決定に価値を置き,意思決定を支えるための患者の意思の把握や尊重,症状マネジメントに取り組み,在宅療養移行の主役として患者と家族を中心に見据えた看護実践を役割として認識していることが示された.
2) 在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮は,〈チームメンバーとして自律的に在宅療養移行に関わる〉〈在宅療養移行を見越して早期からチームで動く〉から構成される【在宅療養移行支援におけるメンバーシップの発揮】,〈チーム内の情報共有〉,「他のチームメンバーがわかるように詳細に記録を残す」などが含まれる〈チームでケアが共有されるよう工夫する〉から構成される【在宅療養移行支援のための情報共有と活用】,〈カンファレンスへの積極的参加〉,「多職種カンファレンスがよいタイミングの時に開催されるよう調整する」などが含まれる〈状況に応じたカンファレンス開催の調整〉,〈多職種カンファレンスを活用して在宅療養移行を推進する〉から構成される【在宅療養移行に向けたカンファレンス運営】,「地域に強い退院調整ナースから情報を得て,患者や家族への情報提供に役立てる」などが含まれる〈他職種の知識やスキルを活用する〉,「関わりの早い先輩ナースを見習う」などが含まれる〈在宅療養移行支援に関するロールモデルの活用〉,〈院内の仕組みを活用する〉から構成される【在宅療養移行に向けた組織のリソースの活用】の4カテゴリが含まれた.
これらのカテゴリから対象者は,自職種を中心とした看護チームおよび多職種連携チームにおけるメンバーシップも含め,関連職種で情報を共有し,有効なカンファレンスの運営や,院内のリソースの活用など能動的な連携により在宅療養移行を推進していくことを役割として認識していることが示された.
3) 在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動は,「プライマリーナースがいつも気にかけていることが患者に伝わるように関わる」などが含まれる〈プライマリーナースとしての存在を患者に認識してもらう〉,〈プライマリーナースとして患者の状況を把握する〉,〈プライマリーナースとして他部門と連携を図る〉から構成される【在宅療養移行に向けたプライマリーナースとしての自覚的行動】,「予後告知に関しては看護師から患者へのアプローチはしない」などが含まれる【看護師の役割の範囲を意識した行動】,「プリセプティにも早めに医師に方針を確認し,患者や家族の思いを確認するように伝える」などが含まれる【在宅療養移行支援における後輩指導】の3カテゴリが含まれた.
これらのカテゴリから対象者は,終末期がん患者の在宅療養移行支援において,プライマリーナースとしての積極的な患者家族との関わりや他部門との連携に加え,看護師としての役割の範囲を超えない行動,後輩指導などの教育的役割など,様々な自己の立場を適宜意識した行動を役割として認識していることが示された.
4) 在宅療養移行支援における役割開発への取り組み在宅療養移行支援における役割開発への取り組みは,「カンファレンスでの発言を先輩ナースに頼ってしまう」などが含まれる〈自己の実践を振り返る〉,「医師とカンファレンスを実施するには看護師のレベルを上げていかなければならない」などが含まれる〈自己の課題を見出す〉から構成される【在宅療養移行支援に対する自己の課題の認識】,「難しい事例の場合には,早期からどのように関わろうか考える」などが含まれる〈在宅療養移行を見越して自己の準備性を高める〉,〈在宅療養移行支援に関する学習意欲を持つ〉から構成される【在宅療養移行支援における自己啓発】の2カテゴリが含まれた.
これらのカテゴリから対象者は,終末期がん患者の在宅療養移行支援において自己の実践を内省して課題を明確にし,支援のための準備や学習などの自己研鑽に努めるといった適切な実践者としての役割を獲得するための取り組みを役割として認識していることが示された.
質的帰納的分析から抽出された終末期がん患者の在宅療養移行支援に対する病棟看護師の役割の認識からその特徴を考察し,今後の課題について述べる.
1. 終末期がん患者の在宅療養移行支援に対する病棟看護師の役割の認識 1) 在宅療養移行支援における患者と家族を中心に見据えた看護実践患者と家族を中心に見据えた看護実践として,7つのカテゴリが抽出され,それらは患者の自律的な意思決定に価値を置き,その価値を支えるためのケアを役割と認識していること意味していた.八尋・秋元(2012)は終末期がん患者の自己決定支援に関する看護師の価値観を分析しており,患者が自分の意思で決定することに価値を置き,残りの時間を自宅で過ごせるよう支援することも価値として含まれていたことを報告している.八尋らの研究対象者もがん診療連携拠点病院において終末期看護の経験が豊富な看護師であり,本研究における対象者も同様の環境において類似した価値観を持っていたことが推測される.病棟看護師の在宅療養移行支援の役割に焦点を当てた本研究においては,患者や家族に対する看護実践において積極的な役割の認識が示唆された.特に,治療期を含めた患者のがんの軌跡に敬意を払った上で患者の意思を尊重し,思いが揺らぐ患者に意図的に関わり,家族もケアの対象として捉えた役割などは,患者自身の真意や意向を尊重した主体的な意思決定を重視する看護師の考えが反映された役割の認識であり,患者の自己決定に対する病棟看護師の価値が具体化された役割であると考える.
また,症状マネジメントに関しては,その語りから患者の身体状況を維持することで意思決定力を保持する意図が読み取れた.このことから症状マネジメントを単なる苦痛緩和として捉えるだけではなく,患者家族の価値を尊重するためのケアとして捉えることができており,病棟看護師のケアに対する解釈の多様性と在宅療養移行支援における意識の高さが窺えた.
さらに,急性期病院から在宅に移行する終末期がん患者の退院支援における課題として,「医師の意向が優先される風土」の報告があり(井上,2015),患者家族の意思を尊重した退院支援の重要性が指摘されている.本研究においては,患者と家族のアドボケーターとしての医師との関わりも役割として認識されており,臨床現場における課題を見据えた役割が認識されていると考えられる.
ここまで終末期がん患者の在宅療養移行支援における看護実践に関する役割の認識について述べてきた.実際の実践に関連して河野(2014)は,終末期患者の退院支援に影響する要因として,患者と死について語ることができる程度を明らかにしている.このことは,終末期がん患者の在宅療養移行に対する態度や積極性に影響し,患者の真意や希望の語りを引き出す意図的な介入につながる重要なスキルであるといえ,本研究で認識した役割を実践に移す際の重要な示唆であるといえる.
2) 在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮在宅療養移行支援における関連職種連携力の発揮は,病棟内外の関連職種との有機的な連携により,終末期がん患者の在宅療養移行を推進していくことが役割として認識されていることを示している.
近年,緩和ケアチームや栄養サポートチームなど,組織横断的に活動するチームや専門看護師,認定看護師,薬剤師や理学療法士などの専門職が活躍し,コンサルテーション活動が活性化している.本研究の対象者は,がん診療連携拠点病院に所属する看護師であり,緩和ケアセンターが整備され,関連職種連携に対する意識の高い対象者であったことが推測される.そのため,多職種カンファレンスを活用して在宅療養移行を推進するなど,経験知に基づく役割の認識が語られていた.先行研究においても,在宅療養移行に向けた意思決定支援の関連要因に,終末期がん患者の在宅療養移行を実現した経験が含まれ(梶山・吉岡,2018),大川ら(2009)も在宅療養移行支援の積み重ねの重要性を述べているように,経験知が役割の認識に反映していたことが推察される.終末期がん患者の退院支援に関する報告においても,情報共有や多職種連携,カンファレンスによる連携強化などが挙げられており(井上,2015),実際の援助に必要な視点が役割として認識されていることが示唆された.また,メンバーシップの発揮も関連職種連携における役割として認識されていた.飯岡ら(2016)は学際的チームを基盤とするチームアプローチ評価尺度を開発しており,下位因子に「メンバーシップ」「チームへの貢献」が含まれている.このことからも,対象者が多職種チームの一員であることを自覚し,チームに貢献する積極的な活動を役割として重視していることの妥当性が支持されたと考える.
3) 在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動在宅療養移行支援における自己の立場を自覚した行動は,様々な自己の立場を意識した行動が役割として認識されていることを示している.
本研究の対象者は,臨床経験4年目以上の看護師であり,Benner(1984/1992)の段階的臨床能力における「中堅」に該当する.この段階は,優秀な看護実践に加えて組織的な役割遂行を実践できる段階とされており,終末期がん患者の在宅療養移行支援においても,組織やチームにおける多面的な自己の立場に基づく役割が認識されていたと考える.また,プライマリーナースとしての自身の存在を患者に伝え,患者の状況を把握し,他部門と連携するなどの積極的な役割の認識の一方で,予後告知や病状説明などは医師に一任するなどの認識は,ジェネラリストとしての責任の範疇を意識した結果であると考える.
4) 在宅療養移行支援における役割開発への取り組み在宅療養移行支援における役割開発への取り組みは,適切な実践者としての役割を獲得するための取り組みを役割として認識していることを示している.
前述したように,本研究の対象者は段階的臨床能力における「中堅」に位置しており,日本看護協会(2012)の継続教育の基準Ver. 2に示される標準クリニカル・ラダーにおけるレベルIIIに該当する.このレベルの自己教育・研究能力の項目では,自己教育活動への積極的な取り組みや指導的役割の実践が挙げられており,前述の後輩指導の役割の認識と共に,自己研鑽に努める役割の認識の妥当性が示唆された.ジェネラリストの能力開発においては,それぞれの組織のニーズに応じて自己の能力を査定し,主体的な学習によって自身の看護実践に組み込む自己研鑽が求められることが示されており(日本看護協会,2012),カテゴリが示す内容と合致しているといえる.また,対象者の役割開発への取り組みが役割として認識されていることによって,実際の援助行動の動機づけとなっていることが推測される.
これまで述べてきたカテゴリの特徴から,終末期がん患者の在宅療養移行支援における役割の認識は,積極的かつ意図的な内容であり,自己の立場を意識し,役割開発の視点まで含むものであった.またその内容も先行研究から裏付けられるものであり,対象者の経験年数を考慮した場合においても,臨床能力の段階と相応した認識であることが示唆された.但し,役割を認識しているということは,実際に支援できている場合もあれば,準備段階もしくは課題意識を持っている段階であるともいえる.従って,本研究で示唆された役割の認識を踏まえ,実際の支援内容を検証していく必要があると考える.
2. 本研究の限界と今後の課題本研究においては,終末期がん患者の在宅療養移行支援における病棟看護師の役割について広く役割を把握するために,とるべき役割として認識しているレベルのものについてもインタビューに含めたが,管理者から推薦されて面接を受ける立場上,模範的な回答になっていた可能性は否めない.また,実際の役割の認識と実際の行動には乖離があることが予測される.従って,本研究で得られたカテゴリ,サブカテゴリレベルから項目を作成し,病棟看護師を対象に質問紙調査を実施し,認識の実態および役割行動の実態を明らかにし,関連する要因を検討していくことが今後の課題である.
終末期がん患者の在宅療養移行支援に対する病棟看護師の役割の認識を明らかにすることを目的に,半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した.分析の結果,終末期がん患者の在宅療養移行支援において,《患者と家族を中心に見据えた看護実践》《関連職種連携力の発揮》《自己の立場を自覚した行動》《役割開発への取り組み》に分類される16のカテゴリが役割として認識されていた.本研究の対象者が終末期がん患者と家族の在宅療養移行に向けて積極的な役割の認識を有し,自己の課題を見出し,役割を獲得していく必要性を認識していることが示唆された.今後は実際の役割行動の実態を明らかにし,関連する要因を検討することが課題である.
謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費(15K11640)の助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SYは,研究の着想,研究計画,データ収集・分析の実施および草稿の作成を行った.HKは,研究フィールドの調整,分析,解釈,草稿への示唆および全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.
付記:本稿は,第36回日本看護科学学会学術集会で発表したものを一部加筆修正したものである.