2018 年 38 巻 p. 184-192
目的:II期以降の続発性リンパ浮腫患者が,複合的治療(以下CDT)を行う際のアドヒアランスを獲得していくプロセスを明らかにする.
方法:CDTのアドヒアランスが獲得されている10名の女性リンパ浮腫患者に対して半構造化面接法による質的帰納的研究を行った.
結果:患者がCDTのアドヒアランスを獲得するプロセスには,【知覚】【動機づけ】【実践】【医療者の存在】【障壁】の5つで構成されていた.それらは時間軸で4つの様相に分類されリンパ浮腫の増悪を知覚しCDTに取り掛かり始める様相から,リンパ浮腫を受け入れながらCDTの主体性ある取り組みが定着する様相へと変化していた.
結論:患者が,CDTを行う際のアドヒアランスの獲得には,楽であるという【知覚】が,やろうという【動機づけ】と連動して,【実践】を引き起こす正の循環が,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランスの獲得をもたらす可能性が示唆された.
がん治療に伴うリンパ節郭清術後に生じるリンパ浮腫は,がん治療後の後遺症であり患者のQuality of Life(以下QOL)に影響を及ぼす.罹患患者数については,近年の統計データがないため正確な数値は不明であるが,国内に15万人以上はいると推定されている(上山,2003).国際リンパ浮腫学会によるとリンパ浮腫の病期は0期からIII期に分類される(日本リンパ浮腫学会,2018).リンパ浮腫は,進行するメカニズムが十分に分かっていないため,対処をしてもII期にまで進行してしまう場合がある.II期以降の続発性リンパ浮腫になると非可逆性に分類され,皮下組織が線維化し,蜂窩織炎を繰り返すとともに外観の変化やActivity of Daily Livingの制限により,以前のような社会生活が送れなくなる.
リンパ浮腫の治療には,スキンケアや用手的リンパドレナージ,圧迫や運動,生活指導を組み合わせた複合的治療(Complex Decongestive Therapy:以下CDTと略す)が行われてきた.National Lymphedema Networkでは,具体的に①弾性着衣やバンデージの使用②運動の実施③皮膚や爪の清潔保持④患肢のケガや感染の回避⑤セルフリンパドレナージの実施⑥患肢の挙上⑦皮膚色の変化や温度・周囲径サイズなどのモニタリングの7つの行動をCDTのセルフケア行動として挙げている(Alcorso et al., 2015).弾性着衣やバンデージの使用については,国内のガイドラインでもBランクとして科学的根拠が示されており,(日本リンパ浮腫学会,2018),実臨床で実施されている.II期以降の続発性リンパ浮腫患者(以後,リンパ浮腫患者と略す)には,これらのCDTの実行が必須だが,圧迫は苦痛を伴い方法も複雑で実行率は50%に留まっている(Ridner et al., 2012).実行するには苦痛を伴うことや,複雑な手技を覚えることの負担があるという理由から,リンパ浮腫患者は主体性をもってCDTに取り組むことが困難である.欧米では,リンパ浮腫患者のCDTの主体的な取り組みを向上させる介入研究がされており,CDTの実行と継続のために日記などでセルフモニタリングを促す介入が検討されている(Ostby & Armer, 2015).これらの研究にはアドヒアランス,つまり治療遵守に関する用語が用いられており,リンパ浮腫患者がCDTを主体的に捉え,継続的に実行して習慣化することが重要であると示唆されている.しかし,リンパ浮腫患者はCDTの取り組みに主体性を持ちにくい状況にあり,効果的な看護援助については課題が多い.リンパ浮腫を放置すると更に症状が進行しQOLの低下を招くことから,リンパ浮腫患者はII期への移行時期にこそCDTを主体的に取り組むことが重要である.そのためにはリンパ浮腫が進行する移行時期のCDTへの取り組みを明らかにすることが重要である.先行研究では,CDTを実施した回数や頻度をアウトカム指標としてリンパ患者のアドヒアランスを調べた内容が報告されている(Sherman et al., 2015)が,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランスがどのように獲得されるのかというプロセスそのものを調べた研究は見られない.そこで本研究の目的は,リンパ浮腫患者がCDTを行う際のアドヒアランスを獲得していくプロセスの中で,影響するものを明らかにすることである.本研究によってリンパ浮腫患者の状況をアセスメントする手がかりを得ることができ,効果的な看護援助に繋げることができると考える.
アドヒアランス:リンパ浮腫患者がリンパ浮腫の病気やCDTについて十分に理解し,主体性を持って取り組むこと
複合的治療(CDT):リンパ浮腫に対する治療で,①弾性着衣やバンデージの使用②推奨する運動の実施③皮膚や爪の清潔保持④患肢のケガや感染の回避⑤セルフリンパドレナージの実施⑥患肢の挙上⑦皮膚色の変化や温度・周囲径サイズなどのモニタリングの7つの行動を示す(National Lymphedema Network, 2011)
半構造化面接法による質的帰納的研究デザイン
2. 調査期間2016年11月から2017年3月
3. 研究対象者K病院のリンパ浮腫外来に通院する女性患者10名とした.選定基準は,II期以降のリンパ浮腫でCDTに関する7つの行動のアドヒアランスを獲得しているリンパ浮腫患者とした.研究者が外来の診療記録から7つの行動を日々取り入れ習慣化している患者であると判断した.除外基準は,蜂窩織炎などで日々のCDTの実践が行えない者とした.
4. データ収集方法インタビューガイドを用いた半構造化面接を1回実施した.面接内容は,対象者の基本情報及びCDTの取り組みを聞いた.具体的には,はじめにどのようにリンパ浮腫に気づき,CDTの7つの行動に主体的に取り組み始めたのか,その当初から現在に至るまでの経過を聴取した.その際,CDTの実行が習慣化するには,何が影響したかを聴取した.面接は約60分間実施し,対象者の承諾を得て録音した.
5. 分析方法質的記述的研究法を用いた.面接内容から逐語録を作成し,繰り返し全文を読み全体像を捉えた.データはCDTに取り掛かり始めた当初から習慣化に至るまでの状況や実践に影響したものを含め,前後の文脈も捉えるように留意した.抽出した語りについて,それらがCDTのアドヒアランスの獲得に関するものやその前後の過程にあることに留意しながら意味内容を捉え一文化しコード化した.次に,意味内容が類似するものを集めて抽象度を上げた.共通の特性をもち研究課題に豊富で関連性ある多様なデータを提供する可能性を持つ者を選択する際に用いられる目的的サンプリングで対象者を選択した.10名に達した時点で意味内容が類似し飽和したと判断した.抽出した意味内容をサブカテゴリー,カテゴリー,大カテゴリーとした上で,その背景にある時期を加味しながらプロセスを導き出した.更にプロセスから様相を見出し,各様相がどのような段階かを明記した.分析過程で内容や解釈がデータに基づいているか客観的な視点を持つ研究者以外の2名の大学院生と共に内容を吟味した.また,質的研究,がん看護に精通している指導者のスーパーバイズを受け主観的なバイアスを排除し真実性を担保した.
6. 倫理的配慮対象者には,研究者から研究の趣旨と匿名性の保持,自由意思による参加,途中辞退の権利,結果の公表,データの保管と管理,および破棄の時期等について書面で説明し同意を得た.京都大学医の倫理委員会の倫理審査を受けて実施した.(承認番号:R0844)
対象者の概要を表1に示した.対象者の年齢は,平均54.6 ± SD13.4歳であった.リンパ浮腫の部位は上肢下肢が各5名であった.リンパ浮腫の発症期間は,平均3.0 ± SD5.7年であった.
A氏 | B氏 | C氏 | D氏 | E氏 | F氏 | G氏 | H氏 | I氏 | J氏 | |
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年齢 | 60代 | 60代 | 50代 | 40代 | 40代 | 50代 | 40代 | 50代 | 70代 | 40代 |
がんの種類 | 子宮体がん | 右乳がん | 子宮頸がん | 子宮頸がん | 子宮頸がん | 子宮頸がん | 右乳がん | 左乳がん | 右乳がん | 左乳がん |
リンパ浮腫の部位 | 左下肢 | 右上肢 | 両下肢 | 左下肢 | 左下肢 | 左下肢 | 右上肢 | 左上肢 | 右上肢 | 左上肢 |
リンパ浮腫発症期間* | 120M | 24M | 12M | 24M | 58M | 5M | 7M | 7M | 12M | 36M |
既往歴 | 無 | 無 | 有 | 有 | 無 | 無 | 無 | 有 | 有 | 無 |
職業の有無 | 有 | 有 | 有 | 有 | 有 | 無 | 有 | 有 | 有 | 有 |
家族構成(配偶者) | 有(同居) | 無 | 無 | 有(同居) | 有(同居) | 無 | 有(同居) | 有(同居) | 無 | 無 |
療養上のソーシャルサポートの有無** | 有(夫) | 有 | 有(夫) | 有(夫) | 有(夫,子供) | 無 | 有(夫,子供) | 有(夫,子供) | 有 | 有(両親) |
*発症期間のMは月を示した **ソーシャルサポートで家族の場合は,( )内に記載した
対象者から得られたコードは501,サブカテゴリーは45,カテゴリーは31であった.これらから,5つの大カテゴリーが導きだされた.大カテゴリーは,【知覚】【動機づけ】【実践】【医療者の存在】【障壁】であった.大カテゴリーはリンパ浮腫患者におけるCDTのアドヒアランスを獲得していくプロセスと共に変化していた.プロセスは4つの様相で構成されていた.様相ごとに大カテゴリーを【 】,カテゴリーを《 》,サブカテゴリーを〈 〉で示した(表2).対象者の語りを「」で示した.
様相 | 【大カテゴリー】 | 《カテゴリー》 | 〈サブカテゴリー〉 |
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様相1 リンパ浮腫の増悪を知覚し,CDTのアドヒアランスに取り掛かりはじめる様相 |
知覚 | リンパ浮腫の増悪を知覚 | 気にならない程度の部分的な浮腫を知覚する |
動作時に浮腫増悪を知覚する | |||
動機づけ | 他者からの指摘による触発 | 他者から浮腫を指摘され対処意欲が湧く | |
実践 | 一般的なCDTの理解と知識・技術の習得 | 本などから知識や技術を修得する | |
CDTについて理解する | |||
医療者の存在 | 一般的なCDTの知識・技術の教授 | 医療者から知識や情報を教わる | |
障壁 | CDT方法の複雑さ | 弾性着衣の取り扱いが面倒くさい | |
セルフリンパドレナージのやり方がややこしい | |||
精神的苦痛 | CDTの実施に神経質になりストレスになる | ||
病気や治療の優先課題 | がん治療中はリンパ浮腫を気にする余裕がない | ||
様相2 リンパ浮腫が生活に支障を来すため否応なしにCDTのアドヒアランスに取り組みだす様相 |
知覚 | 自分で習得したCDTではリンパ浮腫が改善しないことを知覚 | 一般的なセルフリンパドレナージでは,リンパ浮腫が改善しない |
動機づけ | 外見が変わることの懸念 | 履くものや着るものが困る | |
苦痛を回避したい思い | 苦痛があるときは和らげようと思う | ||
リンパ浮腫が進んでしまったことの焦りと不安 | 対処しても楽にならず,リンパ浮腫が増加してくる焦り | ||
次第にリンパ浮腫が一定して増えていくような不安 | |||
実践 | 専門家へのアクセス | 専門外来を紹介してもらう | |
意識的なCDTの開始 | 強迫観念をもってCDTを始める | ||
専門家から教わり意識してCDTを始める | |||
医療者の存在 | 個別性あるCDTの教授 | 専門的な弾性着衣の調節や自分に合わせたドレナージ方法を教授される | |
障壁 | 身体的苦痛 | 弾性着衣の装着がきつく困難感を抱く | |
セルフリンパドレナージの手技に疲れる | |||
不適切な実施 | 自分で行うCDT方法が不適切 | ||
様相3 リンパ浮腫の改善を知覚しCDTのアドヒアランスを獲得して取り組む様相 |
知覚 | 医療者から習得したCDTによりリンパ浮腫改善を知覚 | 医療者のサポート下で弾性着衣をしてリンパ浮腫の軽減を知覚する |
医療者のサポート下でセルフリンパドレナージをしてリンパ浮腫の軽減を知覚する | |||
動機づけ | 症状改善による意欲の向上 | CDTで楽さを自覚してから良さを感じ,続けようと思う | |
社会生活を継続したい願望 | 仕事や趣味を続けたいという思い | ||
リンパ浮腫を良くしたい願望 | これ以上酷くなりたくないからCDTを続ける | ||
実践 | 自分の生活に組み込んだCDTの実施 | 生活動作のパターンの中にとり入れる | |
楽に出来る環境に生活様式を変更する | |||
セルフケアを自己調節する | |||
セルフモニタリング | 医療者と共にリンパ浮腫の状態を把握する | ||
様相4 リンパ浮腫を受け入れながら,CDTのアドヒアランスの取り組みが定着する様相 |
知覚 | 慢性的なリンパ浮腫を知覚 | 注意しても慢性的な浮腫を知覚する |
自分の生活に組み込んだCDTをしても,発症前のような手足にならない | |||
動機づけ | リンパ浮腫の受け入れと生涯つきあう覚悟 | 長期スパンでリンパ浮腫に取り組む | |
セルフケアは必要不可欠だと捉える | |||
リンパ浮腫を受け入れ,前向きに取り組む | |||
実践 | 自分の生活に組み込んだCDTの習慣化 | 自分の生活に組み込んだ圧迫の習慣化やセルフリンパドレナージの習慣化 | |
セルフモニタリングの習慣化 | |||
様相3,4共通 | 医療者の存在 | 実践内容の確認と保証 | 技術の保証をうけ,動機づけになる |
浮腫を計測されると,自分でやる気が起きる | |||
精神的サポート | 定期的にリンパ浮腫について話を聞いてくれるのが支え | ||
技術によるケア | 専門家からの施術から,自分でやる意欲が増す | ||
障壁 | 体調不良 | 体調が悪い時CDTはできない | |
CDT以外の精神的苦痛 | リンパ浮腫以外の不安がある | ||
他の優先課題 | 社会活動が優先される |
CDT: complex decongestive therapyの略
リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得していくプロセスの中で,はじめに見られた様相1は,「リンパ浮腫の増悪を知覚し,CDTに取り掛かりはじめる様相」であった.
【知覚】は,《リンパ浮腫の増悪を知覚》というカテゴリーから成り,〈気にならない程度の部分的な浮腫を知覚する〉と,〈動作時に浮腫増悪を知覚する〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.
「手をよく使うと,例えば料理とかでも,包丁をよく使って野菜を細かく刻むとか割と時間をかけてすると,だるく痛くなる」(I氏)
【動機づけ】は,《他者からの指摘による触発》というカテゴリーから成り,〈他者から浮腫を指摘され対処意欲が湧く〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「知らない人から指を指されて,ものすごく噂されたことがあり傷付いた.その時,これは何とかしなければと思って腹が立った」(H氏)
【実践】は,《一般的なCDTの理解と知識・技術の習得》というカテゴリーから成り,〈CDTについて理解する〉〈本などから知識や技術を修得する〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.
「図書館でリンパの本を借りた.詳しく図解入りでリンパのマッサージが図解で説明してあった.大きくコピーしてずっとしていた」(I氏)
【医療者の存在】は,《一般的なCDTの知識・技術の教授》というカテゴリーから成り,〈医療者から知識や技術を教わる〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「詳しい看護師さんが,そこにバンドエイドしていたらあきません,雑菌がたまりやすいと言われたので,そうなんやと思った」(B氏)
【障壁】は,《CDT方法の複雑さ》《精神的苦痛》《病気や治療の優先課題》という3つのカテゴリーから成り,《CDT方法の複雑さ》は,〈弾性着衣の取り扱いが面倒くさい〉,〈セルフリンパドレナージのやり方がややこしい〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.
「パンフレットではよく分からなかった.矢印は書いてあるけど,順番にすると言いながら,最後に戻るって何かなと思った」(J氏)
次に,《精神的苦痛》は,〈CDTの実施に神経質になりストレスになる〉のサブカテゴリーで構成されていた.《病気や治療の優先課題》は,〈がん治療中はリンパ浮腫を気にする余裕がない〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「がんのことばかり考えていた.抗がん剤とかいろんなケアとか,再発したらどうしようとか.腕では死なないから後回しだった」(H氏)
2) 様相2リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得するプロセスで見られた様相2は,「リンパ浮腫が生活に支障を来すため否応なしにCDTのアドヒアランスに取り組みだす様相」であった.
【知覚】は,《自分で習得したCDTではリンパ浮腫が改善しないことを知覚》というカテゴリーから成り,〈一般的なセルフリンパドレナージでは,リンパ浮腫が改善しない〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「(腕の浮腫が)かちかちになったので,自己流マッサージとか,プリントをもらったのを見てやったが,全然効果がないと思った」(F氏)
【動機づけ】は,《外見が変わることの懸念》《苦痛を回避したい思い》《リンパ浮腫が進んでしまったことの焦りと不安》という3つのカテゴリーから構成されていた.ここでは,リンパ浮腫が進行し生活への支障を感じ,CDT実施に切羽詰まる動機が示されていた.《外見が変わることへの懸念》は,〈履くものや着るものが困る〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「(浮腫の発症前は)細い袖の服も着ていたが,浮腫側の腕は(細い袖は)良くないなと思ったら,あまり腫れたりせんようにと思う」(I氏)
《苦痛を回避したい思い》は,〈苦痛があるときは和らげようと思う〉のサブカテゴリーで構成されていた.《進行したリンパ浮腫への焦りと不安》は,〈対処しても楽にならず,リンパ浮腫が増加してくる焦り〉と〈次第にリンパ浮腫が一定して増えていくような不安〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.
「だんだん(左右の周囲径の)足の差は止まるどころか,差も開いてきて,足の甲まで腫れてきてどうしようそればっかりだった」(E氏)
【実践】は,《専門家へのアクセス》と《意識的なCDTの開始》の2つのカテゴリーから成り,《専門家へのアクセス》は,〈専門外来を紹介してもらう〉のカテゴリーで構成されていた.《意識的なCDTの開始》は,〈専門家から教わり意識してCDTを始める〉,〈強迫観念をもってCDTを始める〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.ここでは,患者自らの主体性ある実践行動が示されていた.
「(医療者から)何回も教えてもらって,自分でも巻いてもらったところを外して写真で撮って記録して,忘れないように努めた」(H氏)
【医療者の存在】は,《個別性あるCDTの教授》のカテゴリーから成り,〈専門的な弾性着衣の調節や自分に合わせたドレナージ方法を教授される〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「先生に話して,看護師さんを紹介してもらいマッサージ方法を教わった.その後リンパ外来でストッキングを教えてもらった」(F氏)
【障壁】は,《身体的苦痛》《不適切な実施》という2つのカテゴリーから成り,《身体的苦痛》は,〈弾性着衣の装着がきつく困難感を抱く〉〈セルフリンパドレナージの手技に疲れる〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.《不適切な実施》は,〈自分で行うCDT方法が不適切〉のサブカテゴリーで構成されていた.
「ずっと右手だけで左脚のマッサージをする動作をしていたら右肩が痛くなる」(A氏)
3) 様相3リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得するプロセスで見られた様相3は,「リンパ浮腫の改善を知覚しCDTのアドヒアランスを獲得して取り組む様相」であった.
【知覚】は,《医療者から習得したCDTによりリンパ浮腫改善を知覚》というカテゴリーから成り,〈医療者のサポート下で弾性着衣をしてリンパ浮腫の軽減を知覚する〉,〈医療者のサポート下でセルフリンパドレナージをしてリンパ浮腫の軽減を知覚する〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.ここでは,次第に進行していたリンパ浮腫が改善することを知覚していた.
「リンパ外来に来て,ドレナージを教えてもらって,朝晩一生懸命していたら1,2カ月後に2センチ前腕部周辺が変わっていた」(B氏)
【動機づけ】は,《症状改善による意欲の向上》《社会生活を継続したい願望》《リンパ浮腫を良くしたい願望》という3つのカテゴリーから構成されていた.《症状改善による意欲の向上》は,〈CDTで楽さを自覚してから良さを感じ,続けようと思う〉のサブカテゴリーで構成されていた.ここでは楽になったという知覚に基づいて,患者の中で強い動機づけが現れていた.
「すごい(リンパ浮腫の足の)軽さと楽さがあって.その日の夜とかもすごい軽さがあって,だからこそ,さあ頑張らねばと思った」(E氏)
《社会生活を継続したい願望》には,〈仕事や趣味を続けたいという思い〉というサブカテゴリーで構成されていた.最後の《リンパ浮腫を良くしたい願望》には,〈これ以上酷くなりたくないからCDTを続ける〉というサブカテゴリーで構成されていた.
【実践】は,《自分の生活に組み込んだCDTの実施》《セルフモニタリング》という2つのカテゴリーで構成されていた.《自分の生活に組み込んだCDTの実施》は,〈生活動作のパターンの中に取り入れる〉〈楽に出来る環境に生活様式を変更する〉〈セルフケアを自己調節する〉という3つのサブカテゴリーで構成されていた.《セルフモニタリング》は,〈医療者と共にリンパ浮腫の状態を把握する〉のサブカテゴリーで構成されていた.ここでは,様相1のような一般的なCDTではなく,自分の生活に合わせたCDTを実践していた.
「朝いつも台所から一日のスタートなので,台所にしゃがみこんで,そこに(弾性)ストッキングと,はく道具を置いている」(D氏)
4) 様相4リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得するプロセスで見られた様相4は,「リンパ浮腫を受け入れながら,CDTのアドヒアランスの取り組みが定着する様相」であった.
【知覚】は,《慢性的なリンパ浮腫を知覚》というカテゴリーから成り,〈注意しても慢性的な浮腫を知覚する〉,〈自分の生活に取り入れたCDTをしても発症前のような手足にならない〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.様相3で症状の改善を知覚したものの,長期的には慢性的な浮腫を知覚していた.
「ずっとマッサージしてスリーブをしていたら良くなっていく.少しは改善するけど(発症)前のところまで良くなることがない」(B氏)
【動機づけ】は,《リンパ浮腫の受け入れと生涯付き合う覚悟》というカテゴリーから成り,〈長期スパンでリンパ浮腫に取り組む〉〈セルフケアは必要不可欠だと捉える〉〈リンパ浮腫を受け入れ,前向きに取り組む〉の3つのサブカテゴリーで構成されていた.
「なってしまったのは仕方がないのでうまく付き合う.病気と一緒で,うまく付き合わないといけないと思うし,継続は力なりです」(C氏)
【実践】は,《自分の生活に組み込んだCDTの習慣化》というカテゴリーから成り,〈生活に組み込んだ圧迫やセルフリンパドレナージの習慣化〉〈セルフモニタリングの習慣化〉の2つのサブカテゴリーで構成されていた.様相3の自分の生活に組み込んだCDTがより習慣化されたことが示されていた.
「自然と生活に入れたのは,自分がドレナージするのが合ってきたというか,正しくできるようになってきたから」(E氏)
【医療者の存在】,【障壁】に関しては,様相3,4に共通した大カテゴリーで構成されていた.
【医療者の存在】は,《実施内容の確認と保証》《精神的サポート》《技術によるケア》の3つのカテゴリーで構成されていた.《実施内容の確認と保証》は,〈技術の保証を受け,動機づけになる〉,〈浮腫を計測されると自分でやる気が起きる〉という2つのサブカテゴリーで構成されていた.《精神的サポート》は,〈定期的にリンパ浮腫について話を聞いてくれるのが支え〉というサブカテゴリーで構成されていた.最後の《技術によるケア》は,〈専門家からの施術から,自分でやる意欲が増す〉というサブカテゴリーで構成されていた.
「自分のセルフケア手技について医療者から大丈夫,やれていると言われて励みになる」(H氏)様相3
【障壁】は,《体調不良》《CDT以外の精神的苦痛》《他の優先課題》という3つのカテゴリーで構成されていた.《体調不良》は,〈体調が悪い時CDTはできない〉というサブカテゴリーで,《CDT以外の精神的苦痛》は,〈リンパ浮腫以外の不安がある〉というサブカテゴリーで構成されていた.《他の優先課題》のカテゴリーは,〈社会活動が優先される〉というサブカテゴリーで構成されていた.
「例えば内視鏡の検査とかがあると何となくそっちのほうへ不安な気持ちが行ってしまい,スリーブをしていなかった」(I氏)様相4
リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランス獲得のプロセスは4つの様相から成ることが明らかとなった.結果から導きだされたプロセス全体の概要を図1に示した.
II期以降のリンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得していくプロセスの概要
*【 】は大カテゴリー,《 》はカテゴリー,点線内の4つの大カテゴリーはCDTのアドヒアランスのプロセスの中身として囲み,枠外には【障壁】を示す
第一に,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランスの獲得には,症状の特徴として常に浮腫の重だるさや,軽さといった【知覚】を患者自身が感じていた.そしてその【知覚】が【動機づけ】に関連していた.特に,様相3で,【知覚】の《医療者から習得したCDTによりリンパ浮腫改善を知覚》が,【動機づけ】の《症状改善による意欲の向上》へとつながることが示されていた.知覚が動機に直接作用することは,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランス獲得に特徴づけられるものと考えられる.つまり楽であるという【知覚】が,やろうという【動機づけ】と連動して,【実践】を引き起こす正の循環が,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランスの獲得をもたらす可能性が示唆された.CDTのアドヒアランスの獲得にはリンパ浮腫患者の知覚の変化に注目し,CDTの実践との関連性をアセスメントすることが重要である.
第二に,4つの様相の中で【動機づけ】は,不十分な状態から次第に強化された【動機づけ】へと変化していた.特に,様相3の《症状改善による意欲の向上》は,成功体験を基に自分でやれるという自己効力感が生じていると考えられた.リンパ浮腫や他領域に関する先行研究の中でも,自己効力感とアドヒアランスの関連性が示されている(仙波ら,2009;Bolle et al., 2015;Sherman et al., 2015;Tomaszewski et al., 2017).このことから,本研究は自己効力感をもつことがアドヒアランスには重要であるという先行研究を裏付けることとなり,自己効力感とアドヒアランスの強い関係性が示唆された.CDTのアドヒアランスの獲得には【動機づけ】を持つことが重要な位置づけにある.
2. CDTを行うアドヒアランス獲得のバリアとなるもの【障壁】では,《CDTの複雑さ》や《身体的苦痛》がみられた.このことは,先行研究でも同様の結果が得られていた(Ostby & Armer, 2015).【障壁】はその後の実践に繋がらなくなるため,最小限となるように抑える工夫が必要である.複雑なCDTをより分かりやすく教授する工夫や,身体的苦痛が回避できるよう適切なCDTの提案が必要である.
3. CDTのアドヒアランスを獲得し,習慣化に至る変化リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスが獲得されていくプロセスでは,【実践】が一般的な方法から次第に自分の生活に組み込んだ方法へと変化していく様相が明らかとなった.特に,様相3の《自分の生活に組み込んだCDTの実施》は,リンパ浮腫患者が教科書やパンフレットから習得したCDTではなく,個別性あるCDTに自らでカスタマイズさせたものであった.簡便化や生活に根付かせる動作は,アドヒアランス獲得に必要なスキルであり(Ostby & Armer, 2015;小林,2016),その動作は自分の生活習慣の一部になったからこそ継続されていく.すなわちリンパ浮腫患者が生活の中にCDTを取り入れる行動変容が起こると捉えることができる.このことから,リンパ浮腫患者のCDTのアドヒアランスが獲得された結果,生活に根差した自分のCDTを行うことにより,様相4のように《自分の生活に組み込んだCDTの習慣化》へと繋がると考える.
【医療者の存在】は,リンパ浮腫患者がCDTのアドヒアランスを獲得するすべてのプロセスの中で,支援者と捉えられていた.様相3,4の時期から《実践内容の確認と保証》,《精神的サポート》《技術によるケア》という支援は患者にCDTの継続意欲をさらに引き出すと考えられる.
臨床現場でリンパ浮腫患者に関わる看護師は,CDTのアドヒアランスの獲得のプロセスを理解し,各カテゴリーの項目をアセスメントの指標として捉えることが重要である.具体的には患者に浮腫の知覚を確認し,それが動機づけや実践内容に関連して変化しているかを確認し,そのプロセスに応じた援助が求められる.医療者の存在を支援者として捉えていたことから,患者が行えているCDT内容の確認と保証を意図的にフィードバックし,支援者としての役割を担うことが大切である.
本研究の限界は,一施設のデータ収集に限定し,対象者からの1回の半構造化面接による分析であること,対象者の選定が研究者のみで行われたことが挙げられる.さらに対象者が女性患者に限定したため,今後は男性患者を含めた内容の検証が課題である.
付記:本稿の一部は,第2回日本リンパ浮腫治療学会学術集会で発表した.
謝辞:本研究にご協力頂きました患者様ならびにご指導頂きました皆様に深く感謝申し上げます.本研究は,平成28年度安田記念医学財団の研究助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TIは,研究の着想・デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献,AHは,研究の着想・デザインへの助言,分析・解釈,原稿への示唆および研究全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.