日本看護科学会誌
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原著
口腔ケアにおける精神科看護師と歯科医師との連携の実態
中島 富有子原 やよい窪田 惠子
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2018 年 38 巻 p. 229-236

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Abstract

目的:口腔ケアにおける精神科看護師と歯科医師との連携の実態を明らかする.

方法:精神科看護師を対象に,口腔ケアにおける歯科医師との連携に関して探索的記述研究(質問紙調査)を行った.

結果:有効回答186名のデータを分析した.口腔ケアにおいて,精神科看護師の約85%が歯科医師連携の課題を持っているが,約35%が歯科医師とまったく連携していないことが明らかとなった.看護師経験年数が長いと歯科医師と連携する傾向や精神科看護師自身の口腔QOLが低いと歯科医師と連携する傾向があった.歯科医師と連携している精神科看護師の方が,機能的口腔ケアを十分と思う傾向にあった.看護実践力が高い精神科看護師の方が歯科医師と連携し,さらに歯科医師連携の課題を持っていた.口腔ケアの重要性を強く感じる精神科看護師の方が,歯科医師連携の課題を持っていた.

結論:本研究では,口腔ケアにおいて歯科医師連携の課題を持ちながら,連携できない精神科看護師の存在が明らかになり,連携に向けた取り組みの必要性が示唆された.

Ⅰ. 緒言

口腔は,摂食・嚥下などの機能を持ち栄養に関与し,発音といったコミュニケーションに関わる.口腔の健康には,口腔の清潔を保つ器質的口腔ケアと摂食・嚥下などの口腔機能を維持・回復させる機能的口腔ケアが必要である(厚生労働省,2008).近年,健康において,口腔と全身の関連が解明され(深井ら,2016),口腔ケアの効果として,誤嚥性肺炎予防(van der Maarel-Wierink et al., 2013),認知症予防(Yamamoto et al., 2012),脳の活性化(森田ら,2012)などが明らかになった.

精神障がい者は,精神症状によって社会生活能力が低下し,口腔ケアが十分できないことがあり(Suresh et al., 2015),さらに治療薬(向精神薬)の副作用で口腔乾燥や嚥下障害などが生じていた(向井ら,2009).一般の人々と比較し,齲蝕の未処置や歯の喪失が多く歯周病が重症化傾向にあり(向井ら,2009松木ら,2011),口腔の健康問題は深刻である.

精神障がい者の口腔の健康問題には,精神科看護師が実施する口腔ケアが有効であった(本橋・齋藤,2014眞乘坊ら,2015).しかし,口腔の健康状態が重篤な場合,精神科看護師だけでは限界があり,歯科医師が実施する「専門的口腔ケア」が必要であった(青田ら,2013阿部ら,2010Shimpi et al., 2016).そのため,精神障がい者の口腔の健康回復・維持・増進には,精神科看護師と歯科医師との連携が必要である.上妻らの研究(2008)では,精神科看護師と歯科医師が連携することで,精神障がい者の口腔の清潔および咀嚼・嚥下機能が改善し,歯科受診の好感度が高まっていた.

現在,日本における超高齢社会に伴い,精神障がい者も高齢化し(厚生労働省,2016),口腔の健康問題が生じやすく,精神科看護師と歯科医師との連携強化が急務である.本研究では,精神科看護師に対する連携強化の教育が必要であると考えた.しかし,先行研究を概観すると,精神科看護師と歯科医師との連携に関する研究は少ない(Nakashima et al., 2017).看護師に対する口腔ケア方法の教育効果が明らか(神山ら,2016)になっていたが,精神科看護師に対する連携強化の教育研究は見当たらなかった.

本研究は,歯科医師連携強化の教育的示唆を得るため,口腔ケアにおける精神科看護師と歯科医師との連携の実態を明らかすることが目的である.

また,以下の連携に関連する内容に着目した.窪田ら(2017)の研究結果から,口腔を含めた健康問題に適切な看護を行う看護実践力が関連内容と考えた.また,先行研究(池田ら,2011)において,看護師のQuality of Lifeが職業に影響することから,本研究では,Quality of Lifeの中で,精神科看護師自身の口腔のQuality of Life(以下,口腔QOL)に着目して調査を行った.

Ⅱ. 用語の定義

1. 口腔ケア

口腔ケアは,厚生労働省の健康用語辞典(厚生労働省,2008)を参考に「口腔の清潔を保つ器質的口腔ケアと摂食・嚥下などの口腔機能を維持・回復させる機能的口腔ケアの双方を含んだ用語」とした.

2. 看護実践力

文献(坂下ら,2015定廣・山下,2002服部・舟島,2012)などをもとに,本研究では看護実践力について,「看護過程において,看護師が患者の抱える看護問題を解決するための看護問題対応行動力」とした.

Ⅲ. 本研究の概念枠組み

本研究の概念枠組みを図1に示した.本研究は,精神科看護師を対象に,口腔ケアにおける歯科医師との連携に関して探索的記述研究(質問紙調査)を行った.精神科看護師が看護実践力を基に口腔ケアを行い(坂下ら,2015窪田ら,2017),歯科医師が専門的口腔ケアを行うことで,精神障がい者の口腔の健康回復・維持・増進ができることを前提とした(青田ら,2013阿部ら,2010Shimpi et al., 2016).

図1

本研究の概念枠組み

精神科看護師が認識する歯科医師連携は,「病棟看護師の口腔ケアにおける歯科医師連携尺度(中島ら,2016)」を使用し調査した.さらに,歯科医師連携に影響する要因として,基本属性(看護師経験年数,年齢,性別),看護師自身の健康状態として口腔QOL,口腔ケアの実施に関する自己評価,看護実践力について調査した.看護実践力は「看護問題対応行動自己評価尺度(定廣・山下,2002)」,口腔QOLは「General Oral Health Assessment Index(以下,GOHAI)」の日本語版(内藤ら,2004)を使用した.

歯科医師連携の実態および連携に関連のある内容を分析し,その結果から精神科看護師を対象とした連携強化の教育的示唆を得られるようにした.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象とデータ収集方法

歯科医師との連携体制が整っている病院を選択し,承諾が得られた3つの精神科病院に勤務する准看護師を除いた精神科看護師226名を対象とした.研究対象の精神科病院は150床~300床で,1つは歯科がある病院,後の2つは歯科がないが歯科医院と連携があり,定期的な歯科医師による往診などを行っていた.看護部長を通し研究対象者に,研究参加依頼の説明書および質問紙を配布,回収ボックスで回収した.調査実施期間は,2017年8月~12月であった.

2. 調査内容

調査に必要な項目や尺度の妥当性は,先行研究(池田ら,2011窪田ら,2017Nakashima et al., 2017)などをもとに,研究者間で討議し,口腔ケアの見識が深い歯科医師,歯科衛生士にスーパーバイズを受けた.

1) 歯科医師連携に対する精神科看護師の自己評価

本研究で使用する「病棟看護師の口腔ケアにおける歯科医師連携尺度(以下,歯科医師連携尺度)(中島ら,2016)」は,信頼性・妥当性が確認され,看護師が歯科医師との連携を自己評価する尺度であった.10項目3因子からなり,5件法(よくある4点~全くない0点)で評定を定めていた.得点が高いほど連携があることを表し,合計得点は0~40点であった.

因子は,看護師が歯科医師連携を自己評価する第1因子【口腔ケアに対する意見交換】4項目0~16点および第2因子【患者・家族に関する情報共有】4項目0~16点,今後の歯科医師連携に向けた課題を示す第3因子【連携の課題】2項目0~8点であった.第1因子【口腔ケアに対する意見交換】は,歯科医師と口腔ケアの方針や計画の意見交換などの連携を示した.第2因子【患者・家族に関する情報共有】は,歯科医師と患者・家族に関する情報共有などの連携を示した.第3因子【連携の課題】は,口腔ケアにおける連携の課題を示した.

2) 歯科医師連携の影響要因

(1) 基本属性

性別,年齢,看護師経験年数とした.

(2) 精神科看護師自身の口腔QOL

GOHAI(内藤ら,2004)は,世界で広く使用される口腔のQOL尺度であり,過去3ヶ月における口腔問題の発生頻度を示した.信頼性・妥当性が確認され,12項目「いつもそうだった」~「めったになかった」の5件法で得点は12~60点であった.得点が高いほど,口腔のQOLが高いことを示していた.

(3) 口腔ケアの実施に関する自己評価

先行研究(熊坂ら,2007横塚ら,2012)などをもとに,口腔ケアの重要性の認識を「とても感じる」~「あまり感じない」の4件法,器質的口腔ケアおよび機能的口腔ケアをそれぞれ「十分できている」~「不十分」の4件法で自己評価する質問項目を作成した.

(4) 看護実践力

本研究で使用した「看護問題対応行動自己評価尺度(以下,行動自己評価尺度)」は,定廣・山下(2002)が開発し信頼性・妥当性が確認されていた.看護師が看護問題に対応する行動を自己評価する尺度であり,看護実践力を測定できた.「いつも行っている」~「あまり行っていない」の5件法25項目で,得点は25~125点であった.得点が高いほど,看護問題の解決行動の質が高いことを示すものであった.5つの因子によって構成され,各5項目で得点が5~25点であった.

因子は,「I.情報の組織化と活用による問題の探索と発見(以下,I問題の探索と発見)」「II.問題解決・回避のための患者生活・治療行動代行,症状緩和,生活機能維持・促進とその個別化(以下,II問題解決・回避)」「III.問題解決に向けた相互行為の円滑化(以下,III相互行為の円滑化)」「IV.問題克服に向けた患者への心理支援(以下,IV患者への心理支援)」「V.問題解決への自己評価(以下,V自己評価)」であった.

3. データ分析方法

得られたデータは,統計解析ソフトSPSS Version 25.0J for Windowsを用い,精神科看護師と歯科医師との連携ついて分析した.Kolmogorov-Smirnov検定でデータの正規性を確認後,ノンパラメトリック検定を行った.

4. 倫理的配慮

研究対象病院の院長および看護部長に,文書および口頭で研究の説明を行い,承諾を得た.研究対象者に対して,研究の目的,方法,回答の任意性,不利益はないこと,結果は学会などで公表するが匿名性が保持されること,質問紙の提出をもって同意が得られたとみなすことなどを文書で説明した.回答は無記名で,回収ボックスで回収した.尺度の使用については,開発者の許可を得た.本研究は,学校法人福岡学園倫理審査委員会により承認を得て実施した(承認番号 第344号).

Ⅴ. 結果

1. 対象者の概要

精神科看護師194名(回収率85.8%)の回答を得て,有効回答186名(有効回答率95.8%)であった.研究参加者の基本属性は,男性69名(37.1%),女性117名(62.9%),平均年齢が42.44 ± 10.01歳,看護師経験年数が平均15.90 ± 10.81年であった(表1).

表1 対象者の概要と口腔ケアの状況 n = 186
項目 結果
性別 男性 69名(37.1%)
女性 117名(62.9%)
平均年齢 42.44 ± 10.01歳
看護師経験年数 15.90 ± 10.81年
歯科医師連携尺度 10項目 合計の平均 10.03 ± 6.84点
0点 20名(10.8%)
第1因子【口腔ケアに対する意見交換】 合計の平均 2.74 ± 2.94点
0点 69名(37.1%)
第2因子【患者・家族に関する情報共有】 合計の平均 3.43 ± 3.34点
0点 63名(33.9%)
第3因子【連携の課題】 合計の平均 3.86 ± 2.23点
0点 27名(14.5%)
看護師の口腔QOL(GOHAI) 合計の平均 50.96 ± 8.22点
口腔ケアの重要性の認識 とても感じる 32名(17.2%)
感じる 137名(73.7%)
あまり感じない 17名(9.1%)
感じない 0名(0%)
器質的口腔ケア できている
合計39名(21.0%)
十分できている 1名(0.5%)
できている 38名(20.4%)
不十分
合計147名(79.0%)
やや不十分 125名(67.2%)
不十分 22名(11.8%)
機能的口腔ケア できている
合計36名(19.4%)
十分できている 1名(0.5%)
できている 35名(18.8%)
不十分
合計150名(80.6%)
やや不十分 111名(59.7%)
不十分 39名(21.0%)

2. 歯科医師連携に対する精神科看護師の自己評価

歯科医師連携尺度10項目合計の平均点(以下,歯科医師連携合計得点)が10.03 ± 6.84点であった.歯科医師連携合計得点が0点で,まったく歯科医師との連携がなく連携課題を持たない精神科看護師が20名(10.8%)存在した.因子毎の合計点の平均は,第1因子【口腔ケアに対する意見交換】2.74 ± 2.94点であった.その中で,まったく連携していない0点の精神科看護師が,69名(37.1%)存在した.第2因子【患者・家族に関する情報共有】3.43 ± 3.34点であった.その中で,まったく連携していない精神科看護師が63名(33.9%)存在した.第3因子【連携の課題】3.86 ± 2.23点であった.その中で,まったく連携への課題を持たない0点の精神科看護師が27名(14.5%)存在した(表1).

3. 精神科看護師の基本属性と歯科医師連携の関連

看護師経験年数は,歯科医師連携合計得点と第1因子【口腔ケアに対する意見交換】および第2因子【患者・家族に関する情報共有】に弱い相関が認められ(p < 0.01),看護師経験年数が長ければ,歯科医師との連携を行う傾向があった(表2).その他は,関連を認めなかった.

表2 口腔ケアにおける歯科医師連携と影響要因との相関 n = 186
項目 歯科医師連携合計得点rs 第1因子【口腔ケアに対する意見交換】合計得点の平均rs 第2因子【患者・家族に関する情報共有】合計得点の平均rs 第3因子【連携の課題】合計得点の平均rs
看護師経験年数 .277** .214** .256** .172*
看護師の口腔QOL(GOHAI) –.220** –.209** –.173* –.137・
重要性の認識 .144 .054 .079 .292**
器質的口腔ケアの自己評価 .126 .133 .183* .074
機能的口腔ケアの自己評価 .156* .198** .222** .082

Spearmanの順位相関係数の検定 rs:相関係数 ** p < 0.01 * p < 0.05

4. 精神科看護師自身の口腔QOLと歯科医師連携の関連

GOHAI合計得点の平均(以下,GOHAI得点)は50.96 ± 8.22点であった(表1).GOHAI得点は,歯科医師連携合計得点と第1因子【口腔ケアに対する意見交換】に弱い負の相関関係が認められ(p < 0.01),精神科看護師自身の口腔QOLが低いと歯科医師と連携する傾向があり,歯科医師と口腔ケアについて意見を交換する傾向にあった(表2).歯科医師連携の上記以外には,GOHAI得点において,年齢などの基本属性,口腔ケアの実施に関する自己評価,行動自己評価尺度との関連を認めなかった.

5. 口腔ケアの実施に関する自己評価と歯科医師連携の関連

口腔ケアの重要性については,「とても感じる」32名(17.2%),「感じる」137名(73.7%),「あまり感じない」17名(9.1%),「感じない」はいなかった(表1).重要性の認識と歯科医師連携の関連が認められたものは,第3因子【連携の課題】に弱い相関関係があり(p < 0.01),口腔の重要性を強く感じている方が連携の課題を持っていた(表2).

器質的口腔ケアが「十分できている」が1名(0.5%),「できている」38名(20.4%)であり,できていると感じている精神科看護師は合計39名(21.0%)であった.「やや不十分」125名(67.2%),「不十分」22名(11.8%)であり,不十分さを感じている精神科看護師の合計147名(79.0%)であった.機能的口腔ケアが「十分できている」が1名(0.5%),「できている」35名(18.8%)であり,できていると感じている精神科看護師が合計36名(19.4%)であった.「やや不十分」111名(59.7%),「不十分」39名(21.0%)で,不十分さを感じている精神科看護師は合計150名(80.6%)であった(表1).口腔ケアの自己評価と歯科医師連携の関連は,機能的口腔ケアと第2因子【患者・家族に関する情報共有】との弱い相関関係があり(p < 0.01),歯科医師と患者・家族に関する情報共有を行う精神科看護師の方が機能的口腔ケアを十分と思っている傾向があった(表2).その他は,関連を認めなかった.

6. 歯科医師連携と看護実践力との関連

行動自己評価尺度の合計得点の平均得点(以下,看護問題対応合計得点)は,89.09 ± 18.40点であった.因子の合計得点の平均は,「I問題の探索と発見」17.19 ± 4.21点,「II問題解決・回避」17.27 ± 4.03点,「III相互行為の円滑化」17.88 ± 3.98点,「IV患者への心理支援」19.00 ± 4.03点,「V自己評価」17.75 ± 4.18点であった.

歯科医師連携合計得点が0点で歯科医師とまったく連携していない精神科看護師とそれ以外の連携している精神科看護師の間で,行動自己評価尺度の得点を比較した.「看護問題対応合計得点」は,連携していない精神科看護師80.85 ± 14.00点,連携している精神科看護師90.08 ± 18.65点であった(p < 0.05).因子の合計得点の平均は,「I問題の探索と発見」の連携していない精神科看護師15.40 ± 2.91点,連携している精神科看護師17.41 ± 4.29点であった(p < 0.05).「II問題解決・回避」の連携していない精神科看護師15.50 ± 3.50点,連携している精神科看護師17.48 ± 4.04点であった(p < 0.05).「III相互行為の円滑化」の連携していない精神科看護師16.40 ± 3.19点,連携している精神科看護師18.05 ± 4.04点であった(p < 0.05).「IV患者への心理支援」の連携していない精神科看護師17.45 ± 3.36点,連携している精神科看護師19.19 ± 4.08点であった(p < 0.05).「V自己評価」の連携していない精神科看護師16.10 ± 2.69点,連携している精神科看護師17.95 ± 4.29点であった(p < 0.05).すべてにおいて,歯科医師と連携している精神科看護師の得点が有意に高く,看護問題対応行動得点が高い方が歯科医師と連携する傾向があった.

歯科医師連携尺度の因子の合計得点が0点で歯科医師とまったく連携していない精神科看護師とそれ以外の連携している精神科看護師の間で,行動自己評価尺度の得点を比較した.歯科医師連携尺度の第3因子【連携の課題】において,行動自己評価尺度の「II問題解決・回避」の合計得点の平均は,課題をまったく持っていない精神科看護師15.89 ± 3.76点,課題を持っている精神科看護師が17.50 ± 4.04点で有意に課題を持っている方が高かった(p < 0.05).そのため,健康問題解決・回避のために,患者生活・治療行動代行,症状緩和,生活機能維持・促進とその個別化の対応を行う看護師の方が,歯科医師との連携の課題を認識している傾向があった(表3).

表3

歯科医師連携と看護実践力との関連

 n = 186

歯科医師連携について,上記以外に,看護師経験年数などの基本属性,口腔ケアの実施に関する自己評価,行動自己評価尺度との関連は認めなかった.

Ⅵ. 考察

本研究では,精神科看護師の認識を分析し,口腔ケアにおける精神科看護師と歯科医師との連携の実態を明らかにした.精神科看護師と歯科医師との連携の有効性が先行研究(阿部ら,2010上妻ら,2008)で示されたが,本研究では歯科医師と連携がない精神科看護師が存在した.研究対象病院は歯科医師との連携体制があり,精神科看護師への教育的取組みで歯科医師連携の強化が期待できる.歯科医師と連携がなく連携の課題も持たない約10%の精神科看護師は,歯科医師連携の認識が低い状態であり,認識を高める教育の必要性が示唆された.

歯科医師連携尺度の第1因子や第2因子よりも第3因子における0点の割合が少ないことから,歯科医師と口腔ケアに対する意見交換や患者・家族に関する情報共有はなくても,連携の課題を持っている精神科看護師が存在した.また,歯科医師と連携している精神科看護師であっても,さらに連携する課題を持つことを示していた.厚生労働省(2011)推奨の歯科医師連携を目指し,精神科看護師が持つ連携の課題達成に向けた教育の必要性が示唆された.

熊坂ら(2007)は,看護師経験年数の長い方が口腔ケアの関心が強く口腔ケアに費やす時間が多い傾向を示した.本研究では,看護師経験年数が長くなると,歯科医師と連携を行う傾向が明らかになった.

看護師のQOLは,池田ら(2011)によって自己効力感や離職願望との関係が明らかされていた.本研究では,精神科看護師が自分自身の口腔QOLを低く評価する方が歯科医師と連携する傾向を認めた.特に歯科医師と口腔ケアに対する意見交換を行う傾向があった.口腔QOLを高く評価した精神科看護師に対して,歯科医師連携の認識を高める必要性が示唆された.口腔QOLの歯科医師連携への具体的な影響について,今後さらに研究を行う必要がある.

研究対象のほとんどの精神科看護師が,口腔ケアの重要性を感じながらも,不十分という自己評価をしていた.これらの結果は,先行研究の結果と,ほぼ同様であった(Nakashima et al., 2017).口腔ケアの重要性を強く感じる方が歯科医師との連携課題を持つ傾向があった.口腔ケアの重要性を感じるからこそ,質の高い口腔ケアを目指し歯科医師との連携の課題を持つと考えられた.

歯科医師と連携している精神科看護師は,機能的口腔ケアの自己評価が高くなる傾向があった.歯科医師が行う専門的な機能的口腔ケアの効果は高い(厚生労働省,2011上妻ら,2008).精神障がい者の機能的口腔ケアに対する認識は,精神科看護師より歯科医師が高く(高橋ら,2016),精神科看護師が歯科医師の影響を受け,機能的口腔ケアの認識が高まったと推測された.器質的口腔ケアと歯科医師連携に関連を認めなかったことから,器質的口腔ケアより機能的口腔ケアに歯科医師連携の効果を認識しやすいと考えられた.今後さらに研究を行う必要があるものの,歯科医師と連携した機能的口腔ケアの機会を設けることが,機能的口腔ケアの質向上につながる可能性が考えられた.

看護実践力と口腔ケアの関連が先行研究で明らかになっているように(窪田ら,2017),本研究でも,看護実践力が高い精神科看護師の方が歯科医師と連携し,さらに連携の課題を持つ傾向を示していた.精神障がい者は治療薬(向精神薬)の副作用で口腔の健康問題が生じ,誤嚥のリスクが高い(大藪ら,2017).精神疾患が重篤である場合,歯磨きや嚥下訓練などの口腔ケアに非協力的なことが多い(眞乘坊ら,2015).現在,精神障がい者が高齢化していることからも(厚生労働省,2016),精神科看護師には,精神的健康回復の看護実践力と共に,歯科医師連携の口腔ケアができる看護実践力が必要である.

看護実践として,健康問題解決・回避のために,患者生活・治療行動代行,症状緩和,生活機能維持・促進とその個別化の対応ができる精神科看護師の方が,歯科医師との連携の課題を認識している傾向があった.精神科看護師は,単純に口腔ケアのみを行うのではなく,患者を全人的に捉え看護問題の対応行動(定廣・山下,2002坂下ら,2015)として,口腔ケアを行っている.口腔ケアの方法だけを教育するのでなく,患者の個別性に応じた看護実践の中で歯科医師連携の口腔ケアを精神科看護師に教育する必要性が示唆された.

以上のことから,精神障がい者の口腔ケアにおいて精神科看護師が歯科医師連携の課題を持っていることや連携に関連ある事項が明らかになり,連携強化に向け教育的示唆を得ることができた.本研究の限界は,研究結果が精神科看護師の認識であり,口腔ケア実践における歯科医師連携の実態そのものではないことである.

Ⅶ. 結論

本研究では,精神科看護師の認識として,以下のことが明らかになった.

1.約85%が歯科医師連携の課題を持ち,約35%が歯科医師と連携がない.

2.看護師経験年数が長ければ,歯科医師との連携を行う傾向がある.

3.精神科看護師自身の口腔QOLが低いと歯科医師と連携する傾向がある.

4.看護実践力が高い方が歯科医師と連携し,連携の課題を持つ傾向がある.

5.口腔の重要性を感じる方が歯科医師連携の課題を持つ傾向がある.

6.歯科医師と連携する方が,機能的口腔ケアを十分と思う傾向がある.

付記:本研究は,福岡看護大学共同研究費の助成を得て行った.

謝辞:研究に,ご協力頂きました看護師の皆様,看護部長の皆様に,深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:FNは研究の着想およびデザイン,データ収集,統計解析の実施および論文作成すべてに貢献した.YHは研究のデザイン,データ収集,結果の分析に貢献した.KKは,結果の分析,研究のプロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

文献
 
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