日本看護科学会誌
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医療福祉系学部をもたない看護系大学生の多職種協働に関する体験的学習の現状
井村 紀子大塚 眞理子
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2018 年 38 巻 p. 285-291

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Abstract

目的:医療福祉系学部をもたない看護系大学に在籍する学生の多職種協働に関する体験的学習の現状を明らかにする.

方法:医療福祉系学部をもたないA大学看護学部4年生を対象に,多職種協働に関する体験的学習について質問紙調査を行った.選択回答式質問は単純集計し,自由回答式質問は質的帰納的に分析した.

結果:看護学生は臨地実習で看護職以外の他の専門職と関わると共に,多職種と協働する看護師の行動を観察し,多職種協働に関わる知識を得ていた.「保健医療福祉における協働と連携をする能力」の卒業時到達目標を達成したと学生は評価したものの,チーム活動に関わる評価は相対的に低かった.また,他の専門職との立場の違いに加え,職種の専門性と役割の知識不足を感じ,他の専門職との間に障壁を抱いていた.

考察:看護学生は4年間の臨地実習を通し,多職種連携のための協働的能力について学んでいた.今後はチームで問題を解決する能力を向上させる教育の工夫が必要である.

Ⅰ. 緒言

医療の高度化と合理化,専門職の細分化を背景に,保健医療福祉の現場では多職種協働が不可欠であり,各専門職教育には多職種と協働できる人材育成が求められている.平成29年,看護学教育モデル・コア・カリキュラム(文部科学省,2017)が示され,看護系人材に求められる基本的資質および能力として,「保健・医療・福祉における協働」が明記された.そして,医療人として多職種と共有すべき価値観やチーム医療等の場で看護系人材が担うべき独自性等を看護基礎教育で教授する重要性が強調されている.

いくつかの看護系大学では,専門職連携教育(Interprofessional Education,以下IPE)を導入し,複数の専門職を目ざす学生が学びの場を共有し,相互に学び合うことを通して多職種協働に向けた基礎的能力を育む取り組みをしている.しかし,学部や教育機関を超えた教育に困難が伴うため(大塚ら,2004),IPEは一部の教育機関に限られている.特に,医療福祉系学部をもたない看護系大学ではIPEが一層難しく,教育の工夫が課題となっている.

看護系大学の学生も参加しているIPEの研究では,大学内外で行うIPE(酒井ら,2008前野,2014)やチーム医療に焦点化した臨地実習(風岡,2004)等の教育効果が明らかになっている.一方,医療福祉系学部をもたない看護系大学の多職種協働に関する教育の現状は明らかにされていない.

多職種協働については既に看護師国家試験出題基準(厚生労働省,2013)に明記され,基本的知識は教授されている.そこで,本研究は環境との相互行為を行い,新しい行動様式を身につける(今野ら,2002)という“体験的学習”に焦点を当て,4年間における多職種協働に関する学習の現状を明らかにすることを目ざす.また,本研究は学習の現状を明らかにするために,学生の知覚に着目する.知覚は,感覚器官ならびに記憶からの情報を組織,解釈し変形する過程であり,この過程を通して人は自己と他者,外界に存在する対象を知る(King, 1981/1985).したがって,学習主体である医療福祉系学部をもたない看護系大学の学生の知覚から体験的学習を探求することにより,学生の側から見た多職種協働に関する体験的学習の現状を明らかにできると考える.

Ⅱ. 研究目的

本研究は,医療福祉系学部をもたない看護系大学に在籍する学生の多職種協働に関する体験的学習の現状を明らかにすることを目的とする.

Ⅲ. 用語の定義

・体験的学習:本研究で用いる体験的学習とは,「人間が五感を働かせ全身で環境と相互行為を行い,それによって新しい行動様式を身につけること(青木ら,1988今野ら,2002)」をいう.ここでいう新しい行動様式を身につけることとは,習慣,知識,概念,体系,認知構造を獲得したり,組織化したりして(細谷ら,1990)行動を変化させることである.

・模範にしたいと知覚する:知覚は,感覚器官ならびに記憶からの情報を組織,解釈し変形する過程であり,この過程を通して人は自己と他者,外界に存在する対象を知る(King, 1981/1985)ことである.本研究においては,「学生が実習を通して出会った看護職の行動を見て,あのようになりたいと考えるようになっていくこと」とする.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象者

医療福祉系学部をもたないA大学(IPE未導入)看護学部4年生を対象とした.編入生は固有の経験をもつ可能性があるため除外した.

2. 測定用具

測定用具は対象者の特性および多職種協働に関する体験的学習について問う質問紙を独自に作成し,以下の①~④の質問項目への回答を求めた.

①看護職以外の他の専門職との体験的学習機会の有無とその場面の内容

②他の専門職と関わる際の障壁の有無とその理由

③模範にしたいと知覚する他の専門職と協働する看護職との出会いの有無とその看護職の行動

④学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標(文部科学省,2011)のうち,「保健医療福祉における協働と連携をする能力(10項目)」の到達目標の達成度(「できる」「ややできる」「あまりできない」「できない」の4段階で回答)

3. データ収集のための手続き

A大学看護学部長に承諾を得た後,対象者に質問紙を配布し,研究協力を依頼した.留め置き法により質問紙を回収した.データ収集は全ての臨地実習終了後の平成28年11月から平成29年1月である.

4. 分析方法

対象者の特性を問う質問は単純集計を行い,多職種協働に関する体験的学習については次のように分析した.

他の専門職との体験的学習機会の有無とその場面の内容は,体験的学習機会の有無を単純集計し,体験的学習場面の内容を記述内容の類似性により分類し場面数を集計した.他の専門職と関わる際の障壁の有無とその理由への回答は,障壁の有無を集計し,障壁を知覚する理由を次の手順により質的帰納的に分析した.まず一つの意味内容を含む記述を1記録単位とし,類似性により分類してカテゴリ名をつけた.次に,各カテゴリに含まれた記録単位の出現頻度を集計した.模範にしたいと知覚する他の専門職と協働する看護職との出会いの有無とその看護職の行動への回答は,看護職との出会いの有無を集計し,看護職の行動を,前述の障壁を知覚した理由と同様の手順を経て質的帰納的に分析した.学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標(文部科学省,2011)のうち,「保健医療福祉における協働と連携をする能力(10項目)」の到達目標の達成度は,質問項目毎に単純集計した.

分析の全過程は専門職連携教育の経験をもつ看護学研究者に助言を受けて進め,質的帰納的分析における分類とカテゴリ名は研究者間で繰り返し検討した.さらに,得られたカテゴリの信頼性は,質的研究の経験をもつ看護学研究者によるカテゴリ分類への一致率(Scott, W. A.の式)を算出し検討した.

5. 倫理的配慮

A大学看護学部長に研究協力の承諾を得た後,講義担当者と履修者である研究対象者に了承を得,授業終了後に研究説明と協力依頼の時間を設けた.書面を用いて研究目的,方法,倫理的配慮を説明した.特に,研究参加は自分の意思で決定できること,成績とは無関係であり不参加でも不利益は生じないこと,質問紙の回収は無記名による個別投函を用いることを説明し,匿名性や自己決定の権利等を保証した.本研究は宮城大学研究倫理専門委員会の承認を得て行った(承認番号685号).

Ⅴ. 結果

質問紙97部を配布し,59名からの回収を得た.回収率は60.8%であり,そのすべてが有効回答であった.

1. 他の専門職との体験的学習の機会とその内容

他の専門職との体験的学習の機会があったと回答した者は51名(86.4%)であった.具体的な学習場面は74場面で,全て臨地実習での体験であった.「他の専門職からの助言・情報の獲得」が最も多く29場面(39.2%),次いで「多職種との協働場面見学」20場面(27.0%),「他の専門職による支援場面見学」14場面(18.9%)であった.「他の専門職への患者支援に関する情報提供」,「他の専門職との話し合いへの参加」は各4場面(5.4%),「他の専門職との支援提供」2場面(2.7%),「他の専門職への看護学生としての意見表明」1場面(1.4%)であった.

2. 他の専門職と関わる際の障壁

他の専門職と関わる際に障壁を感じる者は44名(74.6%)であった.その理由を記述した50記録単位を意味内容の類似性により分類した結果,5カテゴリが形成された(表1).カテゴリ分類への一致率は70%以上であり,カテゴリは信頼性を確保していた.

表1 看護学生が他の専門職と関わる際に障壁を知覚する理由
サブカテゴリ カテゴリ:記録単位数(%)
仕事中に関わることへの困難さと申し訳なさ 立場の違いのために話しかけるタイミングや言葉の選択が難しいと感じる:21(42.0)
学生という立場から他の専門職に関わることへの不安や緊張
自分の発言が他の専門職の専門性に適したものなのかわからない
実習の場に応じた他の専門職と関わる方法がわからない
他の専門職とのコミュニケーションの仕方に難しさを感じる
看護職や他の専門職の専門性や役割についての理解が不足している 各専門職の専門性・役割に関する知識が不足している:10(20.0)
職種間で使用する用語の違いのために伝わりづらさや理解しにくさがある
専門性や価値観の違いがある 看護職との専門性・価値観の違いを感じる:8(16.0)
話しかけづらい雰囲気がある 看護職と看護学生の存在を仲間として価値づけていないように感じる:7(14.0)
過去に否定的な経験がある
他の専門職から看護職や学生への偏見や壁を感じる
関わる機会が少ない 他の専門職と関わる機会が少ないため関わりづらさを感じる:4(8.0)

3. 模範にしたいと知覚する多職種と協働する看護職の行動

「あのようになりたい」と知覚する多職種と協働する看護職との出会いがあった者は36名(61.0%)であった.その看護職の行動を記述した46記録単位を意味内容の類似性により分類した結果,6カテゴリが形成された(表2).カテゴリ分類への一致率は70%以上であり,カテゴリは信頼性を確保していた.

表2 看護学生が模範にしたいと知覚する多職種と協働する看護職の行動
サブカテゴリ カテゴリ:記録単位数(%)
他の専門職と積極的に対話する 多職種協働に不可欠な専門職相互の対話:11(23.9)
支援に必要な情報を,協働が必要な専門職に的確かつ簡潔に伝え,積極的に共有する
他の専門職と対等に,看護専門職としての意見を明確にかつ自信をもって伝える 対等な立場からの看護専門職としての意見表明:10(21.7)
他の専門職の意見や状況を考慮しつつ,根拠に基づき支援方針変更・支援方法を提案する
患者・他の専門職・学生に丁寧に,明るく,親しみやすい態度で接する 多職種協働の基本となる専門職としての態度・振る舞い:9(19.6)
他の専門職の立場・専門性を尊重する
問題解決に向け,患者と連携が必要な専門職との橋渡しをする 対象者に必要な支援提供に向けた専門職間の調整:6(13.0)
問題解決に向け,各専門職の意見を調整し,話し合いを進行する
問題解決に向け,他の専門職に助言を求める 支援提供に向けた他の専門職への働きかけ:6(13.0)
協働が必要な他の専門職へ迅速に情報を提供し,明確に支援を求める
他の専門職と共有した情報に基づき,看護を実践する 専門職間で共有した情報に基づく看護専門職としての実践:4(8.7)

4. 「保健医療福祉における協働と連携をする能力」の卒業時到達目標の達成度

卒業時到達目標10項目の達成度を調査した結果,約7割以上の者が全項目を「できる・ややできる」と評価した.相対的に低い評価だった4項目は,「チーム医療の中での効果的な話し合いをするための方法について説明できる」「在宅医療を推進するために保健医療福祉機関の連携・協働を含めた看護の活動・役割について説明できる」「ケアマネジメントやチームの連携方法について説明できる」「継続看護,退院支援・退院調整等,地域の関連機関と協働関係を形成する看護援助方法について説明できる」であった(図1).

図1

「保健医療福祉における協働と連携をする能力」の卒業時到達目標の達成度

Ⅵ. 考察

1. 他の専門職との体験的学習場面の特徴

最も多かった場面は,他の専門職からの“情報・助言の獲得”であった.看護学生はこの場面を通して対象者理解の新たな視点を得,各職種の専門性の理解を深めたと推測される.看護学実習中の学生は,治療や看護が学生の学習より優先されることが多いため,他者に支援を要請しにくい(山下ら,2003).つまり,“情報・助言の獲得”という学習場面は他の専門職から支援を受けられる有益な機会であるものの,学生がその機会を見出すことは難しいという特徴があると言える.このような機会は偶発的なものではなく,臨地実習に関わる教員と看護職が意図的に学習環境を調整していることを示唆し,実習前からの周到な準備の重要性を意味する.価値ある経験の形成には教育者が環境をどのように利用すべきであるのかを知り積極的に関与する必要がある(Dewey, 1938/2004).すなわち,看護学生が臨地の場に身を投じ,好機を逸することなく学びを深化させるためには,先ず臨地実習に関わる教員や看護職が,どのような環境によって学生の多職種協働に関する学びを導くことができるのかを認識する必要がある.そして,その認識のもとにケア対象者を取り巻く専門職とコミュニケーションをとり,様々な専門職が看護学生を支援できる体制を整える必要がある.

次に多かった場面は,多職種協働の場面や他の専門職による支援場面の“見学”であった.“見学”は観察学習とも言われ,他者の行動の観察を通し,自分の行動をどう組み立て導くのかというモデルの取り込みに繋がる(安彦ら,2002).一見,受動的に思える“見学”は,専門職チームの協働や看護職の役割を学ぶ貴重な機会だと言える.しかし,“見学”による学習は学習者の価値基準に基づき行われる特徴があるため,教員は看護学生がどのような体験をし,それをどのように受け止めているのかを知るとともに,その体験を学生と振り返り,意味づける必要がある.教員が学生と共に,既習の知識と実体験を往還し,それらを意図的に結びつけることにより,体験をこれまでとは異なるものへと導く可能性があり(Dewey, 1938/2004),この支援は教員の重要な役割と言える.

残りの場面は,他の専門職への情報提供や意見表明,他の専門職との話し合いや支援提供であった.これらは,看護学生が専門職チームの一員として関与した数少ない体験であり,他者に働きかける行動が伴っている.これらの場面で学生は自己の知識や技術を駆使して他の専門職に働きかけ,相手の反応を受け止めつつ行動したと推測される.出会った出来事が内面化され現実と深く関わるようになるには能動的かつ受動的な存在として,他者と相互行為をすることが不可欠である(中村,1992).つまり,看護学生は他の専門職との相互行為を通し多職種協働に関わる新たな行動様式を,現実味をもって学習したと言える.このように,学生が臨地の場で他の専門職と相互行為をするためには,看護の立場から対象者のケアについて発信する必要があり,対象および看護の専門性への理解がそれを支える.したがって,看護学生にとって大きな挑戦となるこの学習機会は,教員が学生のレディネスを十分考慮して設定する必要があり,高学年での実施が有効であると考える.

2. 学生が知覚する他の専門職と関わる際の障壁と教育上の課題

看護学生が他の専門職と関わる際に障壁を知覚する理由として【立場の違いのために話しかけるタイミングや言葉の選択が難しいと感じる】が最も多く,約4割を占めた.学生は他の職種との専門性の違いと,学生と職業人という二つの意味から“他の専門職との立場の違い”を感じていたと考えられる.そして,この立場の違いによりコミュニケーションの困難さや不安,緊張が生じていたと推測できる.さらに,学生は看護職を含む“各専門職の専門性・役割に関する知識不足”や“他の専門職と関わる機会の少なさ”を感じることによって障壁を抱いていた.協働的能力としての多職種連携コンピテンシーモデル(多職種連携コンピテンシー開発チーム,2016)では,「他職種を理解する」能力と「自職種を省みる」能力が含まれている.これらの能力は,多職種との協働的能力の一部であり,複数の職種との連携協働を通じて初めて学ぶことができると言われる.そのため,意図的に他の専門職と関わる機会を設けることがこれらの能力育成と職種間の障壁を克服することに繋がる.しかし,臨地実習中の看護学生と職業人という立場を超えた相互行為は,学生のレディネスによっては職業人とのコミュニケーションの困難さや不安,緊張を強く感じさせる可能性がある.そのため,学生が安心して学習できる手法として,異なる専門職を目ざす学生間で学びの場を共有し互いに学び合うIPEが必要と考える.前述の通り医療福祉系学部をもたない看護系大学でのIPEは困難を伴うが,課外での実施方策の模索やe-learningの活用等,各教育機関の現状に合わせた方法を検討することで実現する可能性があると考える.

また,学生は【看護職との専門性・価値観の違いを感じる】や【看護職と看護学生の存在を仲間として価値づけていないように感じる】ことにより障壁を抱いていた.学生は看護学を学ぶ途上にあるため,臨地の複雑な現象を理解することが困難であったり,誤解したりする.その傾向から,他の専門職の専門性や看護学との価値観の相違を理解しにくいために,陰性感情に繋がる可能性もある.それを回避するためには,教員が看護学生の体験を意味づけることが重要であり,教員には学生が遭遇した現象を教材化する能力が求められる.教材化とは事実や事象を教育プログラムの中に位置づけ,教材として価値を持たせることであり(辰野ら,1986),学習目標達成に向けた教育内容が内在する現象を選択し,再構成する必要がある(吉富ら,2004).つまり,教員は看護学の視点と多職種協働の視点から,看護学生が体験した現象の本質を捉え,多職種協働を学ぶ教材として価値を持たせる必要がある.そのためには,教員が動的な実践の場で起こる現象を教材として活用できるよう,臨地において場と時間を学生と共にし,好機を活かせるような指導体制を整えることが必要だと考える.加えて,教員自身が協働的能力としての多職種連携コンピテンシーモデル等を用いて多職種協働についての理解を深めることも重要である.

3. 修学期間における多職種協働に関する学びの現状

看護学生は,模範にしたいと知覚する多職種と協働する看護職と出会い,学びを得ていた.本研究で得られた看護職の行動を表す6カテゴリは,協働的能力としての多職種連携コンピテンシーモデルの2コア・ドメインと4ドメインの要素(多職種連携コンピテンシー開発チーム,2016)を全て含んでいた.これは,医療福祉系学部をもたない看護系大学の学生が臨地実習を通し,専門職として不可欠な協働的能力に関する知識を得たことを示している.また,「保健医療福祉における協働と連携をする能力」の卒業時到達目標を約7割以上の学生が達成できたと評価した結果もこれを支持する.つまり,医療福祉系学部をもたない看護系大学であっても教育の工夫により,多職種協働の基盤となる知識,特に専門職として不可欠な協働的能力に関する知識を獲得できること示す.一方,話し合い方法や連携方法,関係機関との協働関係の形成等,チーム活動に関わる目標の達成状況が相対的に低く,チームで問題解決を導くための知識や技術,態度を学ぶプログラムの必要性を示唆した.全国の看護系大学を対象とした調査(日本看護系大学協議会,2012)も同様の結果であり,看護系大学全体の課題と言える.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究はA大学1校の単年度調査であり,調査時点でのカリキュラムや対象者の特性が反映され,結果には限界がある.今後は,データを追加するとともに,教育プログラムの開発とその評価に向けた研究を進めることが課題である.

Ⅶ. 教育への示唆

医療福祉系学部をもたない看護系大学の学生は,4年間の臨地実習を通して多職種協働の基盤となる協働的能力に関する知識を獲得していた.今後,看護学生の学習をより充実させるためには,教員による学習環境の意図的調整や,学生の体験を教材化し意味づけることが不可欠である.また,看護学生のレディネスを考慮して他の専門職と相互行為をする機会を設定する必要があるとともに,他の専門職を目ざす学生とのIPEにより,過度な不安や緊張感を伴うことなく異なる専門性や価値観に触れ,協働的能力を育成する必要性が示唆された.加えて,チームで問題解決を導くための知識や技術,態度を学ぶためのプログラムの必要性が示唆された.

付記:本研究の一部は第 10 回日本保健医療福祉連携教育学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究に協力してくださいました皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NIは研究の着想および研究全体の実施,原稿作成;MOは分析,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言.全ての著者は最終原稿を読み承認した.

文献
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