Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Changes in SEIQoL and the Relationships between SEIQoL and A Disease-specific Scale as well as Health-related QOL in Elderly Total Hip Arthroplasty Patients
Yuka NishimuraMidori Furuse
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2020 Volume 40 Pages 32-39

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Abstract

目的:人工股関節全置換術(THA)を受ける高齢患者のSEIQoLの変化および疾患特異的尺度,健康関連QOLとの関連を明らかにする.

方法:初回THAを受ける65歳以上の患者30名を対象に,入院時,退院時,退院後6か月時で,SEIQoL—DWの半構造化面接及び疾患特異的尺度(JHEQ),健康関連QOL(SF-8TM)の質問紙調査を実施した.

結果:THAを受ける患者のSEIQoL Index Scoreは経時的に有意な点数の上昇が認められた.SEIQoL Index ScoreとJHEQ,SF-8TMとの関連は時期ごとに有意に関連する内容が異なっていた.

結論:THAを受ける高齢患者の術後QOLの改善が示唆された.また,入院時,退院時,退院後6か月時の時期により,重要視するQOLの内容が変化することが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To elucidate the changes in Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life (SEIQoL) and the relationships between SEIQoL and a disease-specific scale as well as health-related QOL in elderly total hip arthroplasty (THA) patients.

Methods: The subjects were 30 patients aged ≥65 years undergoing a first THA. Semi-structured interviews with the SEIQoL-Direct Weighting (DW) and questionnaire surveys with a disease-specific scale (Japanese Orthopaedic Association Hip-Disease Evaluation Questionnaire; JHEQ) and health-related QOL (8-item Short Form Health Survey; SF-8TM) were conducted at hospital admission, discharge, and 6 months after discharge.

Results: The SEIQoL Index Score rose significantly with time in THA patients. In the relationships between the SEIQoL Index Score and the JHEQ as well as SF-8TM, differences in significantly related content were seen at each point in time.

Conclusion: The results suggest that there were postoperative improvements in the QOL of elderly THA patients. They also suggest that the content of the QOL that is regarded as important differed at each time point, namely, hospital admission, discharge, and 6 months after discharge.

Ⅰ. 緒言

人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)は,変形性股関節症,関節リウマチ,大腿骨頭壊死症などの患者を対象に行われ,社会の高齢化と人工関節の改良により年々増加している(上杉ら,2006).関節疾患患者は,疼痛や関節可動域の制限,病期の進行とともに運動障害が加わるためQOLは著しい低下を来たしやすい.そこで,医療現場での患者立脚型アウトカムとして注目されたのが健康関連QOLである.QOLは主観的な要素を多く含むため,その客観的な評価には確立されたQOL測定の手法に基づいて正確に評価を行うことが重要である.

本邦におけるTHA後患者の評価については,疾患特異的尺度であるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)(Bellamy et al., 1988)を使った藤田・牧本(2016),Oxford Hip Score(OHS)(Dawson & Fitzpatrick, 1996)を使った上杉ら(2006),Harris Hip Score(HHS)を使った小野ら(2005)齋藤・佐竹(2018)がある.また健康関連QOLの包括的尺度であるMOS ShortForm 36-Item Health Survey(SF-36)(福原・鈴鴨,2005)をUmehara et al.(2016)木下ら(2015)が,SF8 Health Survey(SF-8TM)をFujita et al.(2013)が,効用値測定尺度であるHealth Utilities Index Mark3(HUI3)を泉ら(2010)が使用し,その有用性が明らかとなっている.

一方,対象者が自らの生活の質を決定する重要な5つの生活領域を抽出し,その満足の程度(レベル)と重みからQOLを評価するものに,個人の生活の質評価法(Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life: SEIQoL)(McGee et al., 1991)がある.SEIQoLは神経難病(中島,2007)やがん(坂下ら,2016)など多くの慢性疾患患者を対象に使用されている.久保田・藤田(2010)は,SEIQoLを使用した調査で,疾患特異的QOL尺度は患者自身の評価より低い評価となるケースがあることを指摘しており,生活の質という点において疾患特異的なQOLのみでは不十分と考える.しかし,日本でSEIQoLをTHA患者に使用した報告は藤田・牧本(2016)のみで,THA患者が選択する重要な生活領域について,あらかじめ選択肢を用意する独自の簡便化した方法であり,妥当性の検証はなされていない.

THA目的で入院した患者は,除痛,歩容改善,活動拡大に対する期待を持ち,手術で痛みを取り除くというだけでなく,仕事や趣味といった社会活動を充実させたいという希望を持っている(赤木ら,2011).特に65歳以上では,医療者側が行う客観的評価よりも主観的評価がより重要であることが示唆されている(田中ら,2016).そのため高齢患者の場合,単に除痛を目標とするのではなく,これまで消極的であった余暇活動が再開になり,あきらめていたことにもチャレンジしてみようといった意欲がわいてくるものも少なくないと考える.泉ら(1994)は,初回THAを受けた患者は日常生活関連動作の回復とともに生活の満足度も高め,その程度は術後3か月の時点からの日常生活関連動作の回復状況の評価が,その後の予測に有用としている.また,外川ら(2009)によると,THAを受けた患者の健康関連QOL及び移動動作能力は,術前と比較し術後6か月時で改善傾向を示したことが報告されている.

一方,人工関節の耐久性は患者の活動量により差が生じるため,愛護的に患者は術後のセルフケアを行うが,できない,してはいけないことに焦点を当てるのではなく,術後得られた効果を認め合い,維持できた生活動作については自信を持てるような支援が必要(大山ら,2010)とされている.疼痛や可動域の制限などにより,これまで制限されていた活動がTHAを受けることで拡大されることから,SEIQoLを用いて高齢患者のTHA前後の生活への適応や満足度を明らかにすることで支援の糸口が見いだせるのではないかと考えた.しかし,THA患者のSEIQoLと疾患特異的尺度,健康関連QOLとの関連については,十分な研究がなされていない.

本研究では,初回THAを受ける高齢患者の入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoLの変化および疾患特異的尺度,健康関連QOLとの関連を明らかにする.

Ⅱ. 対象と方法

1. 対象

調査対象者は,B病院で2017年3月から5月までに初回THAを受けた65歳以上の患者で,研究参加に同意が得られ,面接の会話内容の理解障害,あるいは患者自身の言語的回答が制限される表出障害のないものとした.

2. 調査期間

2017年3月9日から2017年11月27日

3. 調査方法

入院時,退院時,退院後6か月時に,自記式質問紙(SF-8TM,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票)を使用したアンケート調査と面接調査を実施した.面接調査ではSEIQoL-DWの計測方法に則し半構成的面接を行い,専用のSEIQoL-DW計測用紙に記載した.退院時とは術後から約2週間後の時期であり,退院後6か月時は外来受診時に調査を実施した.

4. 調査項目

1) 基本属性,疾患

年齢,同居者,職業の有無,THA適応となった疾患名,病歴,既往歴

2) 日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Hip-Disease Evaluation Questionnaire: JHEQ)

JHEQ(Matsumoto et al., 2012)は痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度で構成される股関節疾患特異的QOL尺度である.痛みは視覚的評価尺度(Visual Analog Scale: VAS)および6項目,動作,メンタルは各7項目,計21項目に関してアンケートにより患者白身から回答を得る.JHEQ scoreの各項目は「とてもそう思う」,「そう思う」,「どちらともいえない」,「そう思わない」,「まったく思わない」の5段階リッカートスケールで回答され各設問で0点から4点に点数化する.合計84点満点となっており,点数が高いほど評価がよいことを示す.また合計点には含まず単独の指標として,股関節の状態不満足度をVASにて評価をし,0点から100点の配点により点数が高いほど股関節に対して不満が強いことを表す.JHEQは日本の和式の生活様式に合った患者立脚型質問評価尺度であり,尺度の信頼性,妥当性は確認されている(平松ら,2013).

3) SF8 Health Survey:SF-8TM

SF-8TM福原・池上,2001福原・鈴鴨,2004)はSF-36v2®同様国際的に広く使用されている健康関連QOL尺度である.健康に関する8つの概念(下位尺度)からなり,疾患そのものや治療,ケアから影響を受ける身体的・心理的・社会的健康を測定する尺度である.8つの下位尺度は身体機能(Physical Functioning: PF),日常役割機能:身体(Role Physical: RP),体の痛み(Bodily Pain: BP),全体的健康感(General Health: GH),活力(Vitality: VT),社会生活機能(Social Functioning: SF),日常役割機能:精神(Role Emotional: RE),心の健康(Mental Health: MH)から構成される.8つの下位尺度得点をそれぞれ1項目によって推定する.各下位尺度は100点満点で評価し,点数が高いほどよりよい健康状態を示す.本研究では入院時と退院後6か月時では1か月間を振り返り設問に答えてもらうSF-8TMスタンダード版を使用した.そして,退院時には入院期間が約2週であり,術後の状態を振り返り設問に答えてもらうため,過去1週間の状態で答えるアキュート版を使用した.スタンダード版,アキュート版は振り返りの期間が異なるが質問内容は同様である.使用に関してはNPO健康医療評価研究機構に使用登録を行い,ライセンスを取得した.

4) 日本語版個人の生活の質評価法(A Direct Weighting procedure for Quality of Life Domains: SEIQoL-DW)

Hickeyらによって1996年に開発された生活の質ドメインを直接的に重み付けする個人の生活の質評価法のindex値を用いた.SEIQoL-DWは,世界各国で使われている生活に関する代表的な患者の報告するアウトカム(Patient Reported Outcome: PRO)であり包括的なQOL評価法の一つで,SEIQoLを簡便化した評価方法である(日本語版SEIQoL-DW事務局,2013).SEIQoL-DWの使用に際し,日本語版SEIQoL-DW事務局へ使用者登録を行った.

方法は半構造化面接によって行われる.面接者がまず個人の生活の質を決定する最も重要な5つの生活領域(キュー)が何かを回答者から引き出す.高さ10 cmのVASを用いて,挙げた各キューのレベルを評価する.さらに,5つのキューが相互の関連のなかでそれぞれがどのくらい重要か,専用のディスクを用いてその割合を示す.最後に,先に挙げた各キューそれぞれの「レベル」と「重み付け」を掛け合わせ総和を求めることで,QOLの包括的な評価スコア(SEIQoL Index Score)を計測する.被験者によって挙げられた5つのキューすべてのレベルが10㎝を示した場合には100%となる.

5. 分析方法

SEIQoL Index Scoreの経時的変化には分散分析のFriedman検定とGames-Howell法による多重比較を用いた.JHEQ,SF-8TMとSEIQoL Index Scoreとの関連はSpearmanの順位相関係数を求めた.

6. 倫理的配慮

対象者には研究の目的や方法,情報の守秘および本研究以外の目的で使用はしないこと,研究遂行に関しての個人情報の守秘義務の厳守,および調査結果の公表の範囲,予測される不利益,研究への参加協力は自由意志であり,断った場合でも受ける医療サービスには一切影響しないこと,研究の撤回方法について書面と口頭で説明し,同意書により同意を得て実施した.

なお,倫理的配慮については,山形大学医学部倫理審査委員会(承認番号第468)及び山形済生病院倫理委員会(承認番号第314)にて審査され,承認を得た.

Ⅲ. 結果

調査期間中にTHA目的にてB病院に入院した65歳以上の患者は36名であった.同意の得られなかった4名,術後の経過が良好にて退院後の6か月時の外来がなくなった患者1名,退院後6か月時に反対側THAの為に入院した患者1名を除外した30名を分析対象とした.

1. 基本属性および疾患

対象者の平均年齢は75.0 ± 5.59(平均±SD)歳であり,男性3.3%,女性96.7%であった.変形性股関節症が90.0%で最も多く,就業者は10.0%,独居者が16.7%,THAの反対側既往がある患者は36.7%であった(表1).

表1  基本属性 n = 30
項目 % 平均値±標準偏差
性別 男性 1 3.3
女性 29 96.7
年齢 全体 75 ± 5.59
75歳未満 16 53.3
75歳以上 14 46.7
同居家族 あり 25 83.3
なし 5 16.7
疾患名 変形性股関節症 27 90
関節リウマチ 1 3.3
不全骨折 2 6.7
就業の有無 あり 3 10
なし 27 90
反対側の既往 あり 11 36.7
なし 19 63.3

2. 入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index Score

入院時,退院時,退院後6か月時の比較において,SEIQoL Index Scoreで経時的に有意な得点の上昇がみられた(図1).

図1 

入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index score

3. 入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index ScoreとJHEQ,SF-8TMとの関連

SEIQoL Index ScoreとJHEQは入院時,退院時,退院後6か月時のメンタル及び,退院後6か月時は痛みと正の相関を示した(表2).SEIQoL Index ScoreとSF-8TMでは退院時のMH,MCS及び,6か月時のVTと正の相関を認めた(表3).

表2  入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index ScoreとJHEQの関連(n = 30)
JHEQ項目 SEIQoL Index Score
入院時 退院時 退院後6か月時
股関節の状態 .164 .461 –.331
痛み –.048 –.009 .373*
動作 .138 .190 .093
メンタル .416* .528** .369*
JHEQ score .161 .311 .339

Spearmanの順位相関係数 * p < 0.05 ** p < 0.01

表3  入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index ScoreとSF-8TMの関連(n = 30)
SF-8TM項目 SEIQoL Index Score
入院時 退院時 退院後6か月時
GH .190 .232 .352
PF –.113 .109 .091
RP .214 –.028 .094
BP –.164 .089 .111
VT .057 .163 .376*
SF .151 .246 .058
MH .163 .402* .247
RE .086 .247 .356
PCS –.001 –.075 .130
MCS .234 .418** .301

Spearmanの順位相関係数 * p < 0.05 ** p < 0.01

4. 重要な5領域(キュー)の割合

THA患者が生活の中で重要と捉えている領域のカテゴリーは入院時,退院時,退院後6か月時では割合に変化があった(図2).

図2 

SEIQoLのキューの割合(重複回答MA = 150,各項目の合計が100%)

Ⅳ. 考察

1. 対象者の特徴

対象者の平均年齢±SDは75 ± 5.59歳であり,約9割が女性であった.また,本研究対象者はそのほとんどが変形性股関節症によるものであった.日本の変形性股関節症患者は中高年の女性に多く,男性に比べ8~10倍多く発症する(坂巻,2005Jingushi et al., 2010).本研究実施期間中に対象者の条件に該当した患者は男性が1名のみであり,一般的な性比率と比較し女性の割合が多い結果であった.

2. THA患者のSEIQoL

1) SEIQoL Index Scoreの変化

JHEQ scoreの下位尺度全てにおいて入院時より退院時,退院後6か月と改善が認められた.またSF-8TMはすべての下位尺度で術後経過につれて得点が上昇しQOLの改善が認められた.これらはWOMACを使用した藤田・牧本(2016)の先行研究とほぼ同様の結果であり,SEIQoL Index ScoreはTHA患者のQOLの変化を見るのに適切ではないかと考えられる.

2) JHEQとSEIQoL Index Scoreとの関連

入院時,退院時,退院後6か月時の全ての時期において,SEIQoL Index Scoreはメンタルと相関を示していた.JHEQは従来使用されていたJOAスコア(平松ら,2015)にはないメンタル面での評価も含まれ,QOLをより多角的に評価することができるとされている.術後のメンタル面にも留意することで患者の満足度の向上にもつながると考えられる.

3) SF-8TMとSEIQoL Index Scoreとの関連

退院時のSEIQoL Index ScoreはMHとMCSで,退院後6か月時ではVTと正の相関がみられた.これらの結果から高齢者は退院後の生活において情緒的な側面が,包括的なQOLにおいて重要であることが考えられる.新岡(2017)は,QOLは多くの社会・心理要因と関連し概念の把握が難しくQOLの一面を測定しているに過ぎずないことを指摘している.SEIQoLは半構造化面接を行い,患者が大切と思う領域に焦点をあてることにより患者の価値観を反映できる.そのためTHAを受ける高齢者のQOL評価には,個別性が反映されるSEIQoL Index Scoreが有用であると考えられる.

4) 生活の質を決定する重要な5つの生活領域と満足度について

THA患者が重要視するカテゴリーの「家族」は入院時では3番目に,退院時では2番目に,術後6か月時では最も多く,藤田・牧本(2016)と同様の結果であった.本研究対象者の約8割は同居家族がいた.THA術後の患者は退院後の生活で肢位の制限などから日常生活のサポートを要する.また身体的なサポートだけでなく,情緒的な援助においても「家族」の存在がTHA後患者においては重要であることがうかがえる.そのため高齢患者においては,入院時から可能な限り家族も含めオリエンテーションや脱臼予防等指導を行うことで患者自身の自己管理行動を促すことができると考えられる.

一方,入院時は「趣味」や「自分の健康」といった項目が多く選択されていた.THA患者は術前の慢性疼痛を抱えている.慢性疼痛にはストレスやうつ等の心理的社会的因子が深く関与しているとされ(紺野,2013),本研究でも器質的な問題ではなく心因性の関与があったと考えられる.慢性疼痛は,内的動機付けが疼痛を緩和させる(城・松原,2017)ため,本研究対象者にも入院時,退院時,退院後6か月時での「趣味」を重要な項目として選択するものが多くいたと考えられる.退院時,退院後6か月時では「ADL」や「歩行」,「THA」の項目が多く選択されていた.退院時は,股関節障害の影響を受けるため退院後の生活で必須となる「歩行」,そして脱臼肢位をとらないように意識的に「ADL」を行う必要があるため,これらが多く選択されたと考えられる.加えて,退院後6か月時では「社交」の項目の割合が増加していた.除痛や歩行障害が改善したことで地域や社会への参加や,術前に制限していた友人との付き合いが重視されたと考えられる.

SEIQoL-DWは主観的なQOLを測定する方法である.経時的に計測を続けることで,その人が大切にしているものに何らかの変化があった場合や,危機的な状況への対処の仕方,受容の仕方なども含め,QOLの上昇や下降の原因をはっきりと把握することができる.特に高齢者においてはTHA術前の期待感を把握しておくことで,術後の満足度や,リハビリテーションの計画において個別性のある目標を設定することにも活用できるのではないかと考えられる.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究は術後6か月までの追跡調査であり,1施設のみで行われた症例数30名の調査のため,一般化するには更なる症例数の拡大と調査の継続が必要である.しかし,THAを受ける高齢患者のQOLに,術後の回復過程による変化を見出すことができた.特にSEIQoLによるQOL評価は,数値的な評価だけではなく個々の重要な5つの生活領域を明らかにすることが可能である.リハビリテーションの具体的な目標設定など,看護師や理学療法士・作業療法士による介入の方向性が示唆された.今後は,具体的な看護支援として術前後で患者自身や家族への指導方法や介入方法についても検討したい.

Ⅴ. 結論

初回THAを受ける高齢患者の入院時,退院時,退院後6か月時のSEIQoL Index Scoreには経時的に有意な得点の変化が認められ,術後QOLの改善が示唆された.SEIQoL Index ScoreとJHEQ,SF-8TMとの関連では,入院時,退院時,退院後6か月時の時期ごとに関連する項目の相違が認められ,重要視するQOLが変化することが示唆された.

謝辞:本研究の調査にご協力くださいました,A病院の患者の皆様並びに職員の皆様に厚く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YNは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献;MFは分析解釈,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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