日本看護科学会誌
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原著
教職員に対する児童の急変対応の不安軽減プログラムの開発と評価
小林 浩平朝澤 恭子
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2020 年 40 巻 p. 65-73

詳細
Abstract

目的:学校教職員に対する児童の一次救命処置とエピペンの使用に関する不安軽減を目指し,急変対応の不安軽減プログラムの開発と評価を行う.

方法:小学校教職員に対して急変対応の不安軽減プログラムを開発し実施した.プログラム内容は学校管理下の心停止の実際,死戦期呼吸等であった.介入前後調査により,急変対応の不安,知識を対応のあるt検定を用いて比較した.

結果:239人に有効回答を得た.急変対応の不安は25.7 ± 4.8点から18.6 ± 5.6点に有意に減少し(p = .000),急変対応の知識は2.7 ± 1.5点から4.5 ± 1.0点に有意に増加した(p = .000).プログラムの活用度,満足度は,72.8%の対象者が高く評価した.

結論:プログラムにより急変対応の不安が軽減し,急変対応の知識が増加した.満足度,活用度の評価が高く,実用可能性のあるプログラムであることが示唆された.

Translated Abstract

Aims: To evaluate a basic life support and an anaphylaxis treatment program for reducing the anxiety and acute health deterioration of faculty members at elementary schools as an anxiety alleviation program through the assessment of its implementation process and outcome.

Methods: A quasi-experimental one-group pretest-posttest design was used to evaluate the scores of anxiety and knowledge of basic life support and anaphylaxis treatment before and after attending the intervention program. We developed a program comprising resuscitation from cardiac arrest, agonal respiration, and preventing an anaphylactic reaction for faculty members at elementary schools. Analysis was performed using a t-test.

Results: Valid responses were obtained from 239 participants. The participants’ anxiety scores significantly decreased after attending the intervention program from 25.7 ± 4.8 to 18.6 ± 5.6 (p = .000). The knowledge scores significantly increased from 2.7 ± 1.5 to 4.5 ± 1.0 (p = .000). The majority of the participants (72.8%) showed a high satisfaction rate and were in agreement with the expected utilization of the program.

Conclusions: The basic life support and anaphylaxis treatment program for reducing the anxiety had high utilization and satisfaction rates among the faculty members at the elementary schools evaluated, suggesting the feasibility of the program.

Ⅰ. 緒言

日本の小学校管理下の小学生死亡事故件数は,10年間で107件であり,そのうち突然死は55件,51.4%である(日本スポーツ振興センター,2018).小中学校管理下の児童・生徒における心停止で胸骨圧迫を含む蘇生の実施率は84.0%である(日本循環器学会AED検討委員会,2015).また,小中学校へのautomated external defibrillator(以下,AED)の配備は90.0%以上であるが,AED装着率は38.0%と低い(日本循環器学会AED検討委員会,2015).AED装着率は胸骨圧迫例のうち44.4%である(Mitani et al., 2014).学校現場での現場に居合わせた人であるバイスタンダーによる心肺蘇生は重要である(Murakami et al., 2014).しかし,学校管理下の心停止において,死戦期呼吸を心停止と認識できずに蘇生を開始しなかったケースや(三田村,2012),AEDの装着が遅れ蘇生後に死亡したケースが報道されている(桐淵・西山,2017).また,学校給食のアナフィラキシーに起因した児童の死亡事故は記憶に新しい(調布市教育委員会教育部指導室,2013).教職員の児童生徒の安全確保への責任は増す一方で,様々な緊急対処の能力が求められている.

教職員の75.6%はbasic life support(以下,BLS)の技術を習得できたと思っているが,87.6%は実施の不安や心配があり,その理由は実施による悪化の可能性である(清水・望月,2012).養護教諭対象の調査では,救助者となった時,傷病者に対する対応方法が間違っていなかったか,不安をもつことがあるかもしれない場合,消防などに相談できるサポート体制があったらいいと思うか?という問いに対し,消防,病院によるサポートの希望者は94.2%である(中村,2011).Cardiopulmonary Resuscitation(以下,CPR)を行い傷病者の社会復帰に貢献したバイスタンダーは不安,パニック,ショックを経験し(Mausz et al., 2018),72.2%に心的ストレス反応が認められている(田島ら,2013).一次救命処置実施後のバイスタンダーにおけるストレスは,罪悪感,自責,不安である(Mathiesen et al., 2016).バイスタンダーの心的ケアとしてサポート体制の必要性が指摘されている(漢那・小林,2014).

先行研究では,バイスタンダーへのBLS介入研究に関する26のシステマティックレビューにおいて,スキルアップが確認されているが,患者に有益なエビデンスは確認されていない(Cartledge et al., 2016).BLSトレーニングにより教職員の知識は増加するが(Dursun et al., 2018),実施意欲が16%と低く(Chew et al., 2009),心停止の状態にある人に対するBLS実施率も16%と低い(Kanstad et al., 2011).また,BLS実施後に状態が悪化した場合に訴えられる不安や感染の不安がある(Hamasu et al., 2009).BLS介入研究において,実施意欲の低さと実施後の状態悪化に対する不安が明らかであるが,不安軽減に焦点を当てたプログラムは見当たらない.以上を踏まえて,通常のBLSに「死戦期呼吸は心停止時に見られる呼吸である」「意識がない場合には,間違ってもよいから胸骨圧迫を開始する」「AEDを装着する」を強調して伝えることが重要である.この3点を構成した講習により,教職員の一次救命処置に対する不安が軽減する可能性があると考えた.

一方,小学生の食物アレルギー,アナフィラキシーの罹患率は増加しており,アナフィラキシー罹患率は小児の8.0%である(Sampson, 2016).アナフィラキシーで受診した患児の78.0%は食物除去を行っており(溝口ら,2017),健康調査票によりアレルギーを把握し,原因食物の除去を行ってもアナフィラキシーは起こりうる.アナフィラキシーの対応は事前に認識し,早期にアドレナリン自己注射エピペン®(以下,エピペン)を使用することである.教職員のエピペン使用に対する不安の内容は「実施のタイミング」と「保護者からのクレーム」である(村井ら,2013).2013年の給食でのアナフィラキシーを契機とした死亡事故では,アナフィラキシーの症状を確認してから14分間エピペンの投与が遅れている(調布市教育委員会教育部指導室,2013).小児に対してエピペンの重篤な副作用は考えにくく(公益財団法人日本学校保健会,2008),エピペンを誤投与しても副作用は一過性であり,重篤な副反応はない(柳田ら,2015).これらを踏まえ,通常のエピペン講習に,アナフィラキシーを疑えば恐れることなく早期にエピペンを使用すること,アナフィラキシー既往がある児を学校が預かる際に教職員と保護者間で,投与遅延の危険について話し合うこと,教職員が迷うことなく投与できる環境を整備することの付加が必要である.先行研究では,教職員のエピペン投薬訓練の必要性が指摘されている(Eldredge & Schellhase, 2012).小学校では症状出現時に45.9%が保護者に連絡し,児童へのエピペン投与実施率は10.0%である(Korematsu et al., 2017).eラーニングやワークショップによるアナフィラキシー教育は知識を増加させ(Salter et al., 2014),自己効力感が増加する(Sasaki et al., 2015).しかし,アナフィラキシー対応の訓練は36.0%しか実施されておらず(Hogue et al., 2016),実施困難理由は具体的なトレーニングの欠如が78.2%である(Polloni et al., 2013).

そこで,児童の急変時にバイスタンダーとなりうる小学校教職員の一次救命処置とエピペンの実施率を上げるために,既存の講習とは違い,不安軽減を焦点化したプログラムが必要であると考えた.小学校教諭の健康危機管理に関する意識調査において,一次救命処置とアナフィラキシー対応は,気になる対応の上位を占め,研修参加ニーズが高く,命に関わる専門性が高い内容であるため,対応に苦慮している(關・青栁,2017).BLSプロバイダーがエピネフリン管理を行うトレーニングプログラムが進展している背景から(Brasted & Dailey, 2017),BLSとアナフィラキシー対応の2項目を焦点化した.BLSプロバイダーコースは実技中心の講習会であり,胸骨圧迫の習得が含まれる.エピペン対応講習会はアナフィラキシー症状に関わる知識とエピペントレーナーを用いた実践的なロールプレイが主体である.そのため,小学生向けの具体的な急変対応処置,BLS開始のタイミング,エピペン使用の迅速なタイミングに焦点を当てた説明を独自に構成した.本研究の目的は,小学校教職員における児童の一次救命処置とエピペンの使用に対する不安軽減を目指し,急変対応の不安軽減プログラムの開発と評価を行うことである.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象者

関東圏の8施設における小学校の教職員に1群事前事後テストデザインの準実験研究を実施した.研究協力候補施設への依頼は研究者が機縁法で行い,施設の養護教諭に施設長を紹介してもらい,研究協力依頼を行った.サンプルサイズはCohen(1992)が開発した慣例により効果サイズ0.25,有意水準が0.05,検出力が0.8で,251名が妥当である.ほとんどの看護研究では効果サイズが0.2~0.4が一般的であり(Polit & Beck, 2010),本研究は不安軽減という心理的アプローチのため効果サイズを0.25に設定した.脱落率13%を考慮し(Al Enizi et al., 2015),288名と算出した.

2. 用語の定義

心肺蘇生法(Cardiopulmonary Resuscitation, CPR):心肺機能が停止した状態にある傷病者の自発的な血液循環と呼吸を回復させる試み,手技である.

一次救命処置(Basic Life Support, BLS):心肺停止傷病者に対し,心肺停止の認知,救急医療システムへの通報,気道確保,人工呼吸,心臓マッサージにより自発的な血液循環および呼吸を回復させる試みであり,医療従事者に限らず誰でも行える心肺蘇生法であり,AEDも含まれる.

胸骨圧迫:心臓マッサージを示す.

AED(Automated External Defibrillator):自動体外式除細動器心停止の際に機器が自動的に心電図の解析を行い,心室細動を検出した際は除細動を行う医療機器であり,非医療従事者でも使用できる.

死戦期呼吸:急な心停止で意識を失った際にみられる状態であり,下顎や鼻が不規則に動き,正常な呼吸活動は行われていない状態.

急変対応:心停止時における心肺蘇生とアナフィラキシーへの対応を示す.

3. 調査方法

研究対象候補施設の施設長に研究の目的,方法,倫理的配慮について説明し同意書への署名をもって同意を得た.施設長から研究対象候補者に研究協力依頼をする機会を得た.研究対象候補者に対し研究の目的,方法,倫理的配慮について文書と口頭で説明し,協力に対する同意を署名で得た.同意を得た研究対象者に対して,2018年3月~9月にプログラムを実施し,自記式調査票を用いて介入事前事後の調査を実施した.介入は研究協力施設の勤務時間内であり,施設長と研究者が業務に支障のない時間を調整した上で実施された.両調査票は事前に配布し,介入事前10分前と介入10分後の2回の回答を得た.各調査後に郵送法または留め置き法で回収した.

4. 調査項目

1) 属性

性別,教職員歴,心肺蘇生講習の受講歴等7項目の回答を求めた.

2) 急変対応の不安尺度

一次救命処置とアナフィラキシー対応に関する不安は,測定内容に一致する既存尺度が見当たらなかったため,研究者らがJRC(Japan Resuscitation Council)蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会,2015),学校保健会(2008)の資料を参考に独自に作成した.表面妥当性と内容妥当性は看護学修士以上の学位を持つ救急看護学の専門家3名以上で検討し作成した.心肺蘇生を開始する不安,胸骨圧迫の手技の不安,エピペン使用のタイミング判断の不安等の8項目4件法の回答を求めた.項目は「心停止後に心肺蘇生を開始する不安」「胸骨圧迫の手技の不安」「人工呼吸の手技の不安」「AEDを使用するかの判断の不安」「AEDを使用する手技の不安」「エピペンを注射する手技の不安」「エピペン使用のタイミング判断の不安」「エピペンを使用する症状判断の不安」であった.得点範囲は8~32点であり,高得点ほど急変対応への不安が高いことを示す.この尺度の信頼性と妥当性は本研究で確認した.

3) 急変対応の知識尺度

心肺蘇生に関する知識,エピペン使用に関する知識は,JRC蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会,2015),学校保健会(2008)の資料を参考に研究者らが独自に作成した.「心停止していない人に心臓マッサージを行うと危険である」「心停止していない人にAEDを付けても危険はない」「呼吸をしていないように見えたが自信がないので養護教員を呼ぶ」「死戦期呼吸は心停止を示すサインである」「アナフィラキシーに対する治療薬はエピペンである」「アナフィラキシーを疑ったため保健室に行かせる」「アナフィラキシーでない場合のエピペン注射は重篤な副作用がある」の7項目の回答を求めた.項目は正誤をランダムに設定し,「はい」「いいえ」のどちらかの選択を求め,正答の場合に加点した.表面妥当性と内容妥当性は看護学修士以上の学位を持つ救急看護学の専門家3名で検討し,修正後に用いた.得点範囲は0~7点であり高得点ほど急変対応の知識があることを示すことを前提に調査し,尺度の信頼性と妥当性は本研究で確認した.その過程で1項目減らし,6点満点となった.

4) プログラムのプロセス評価

プログラムに対する活用度,満足度,期待との一致度,時間の適切性,講師の対応に関する5項目4件法の回答を求めた.

5. 介入内容

1) 介入目的

次の2点であった.(1)学校管理下における心停止の実際と対応を理解し,心停止の対応不安が軽減する.(2)学校管理下におけるアナフィラキシーの実際と対応が分かり,アナフィラキシーの対応不安が軽減する.

2) プログラムの開発過程

本プログラムは「CPRを開始するタイミング」「エピペンを注射する際に生じる躊躇の除外」を骨子とした内容であった.BLS,エピペン実施の両方において間違って実施しても臨床上問題になる有害事象は報告されていないことを伝え,実施を躊躇させる要因を取り除くことを主眼に構成された.それに加えBLSでは死戦期呼吸を映像で学習し,反応がなく呼吸が正常でなければすぐにBLSを開始し,実施率を上げることも重点に置いた.エピペン使用は「一般向けエピペンの適応」に示される症状が出たときには注射を行う事を,保護者と確認しておく必要がある内容を構成した.プログラム開発はBLSインストラクターで豊富な講師経験があり,クリティカル領域の看護実践専門家である研究者と,看護学博士の学位を持ちプログラム開発経験のある研究者が共同で行った.急変対応の不安軽減を焦点化したオリジナルの介入研究は見当たらなかったため,JRC蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会,2015),学校保健会(2008)の資料を参考に研究者らがプログラム原案を作成した.公立小学校の養護教諭3名と討議を重ね,内容妥当性を検討後にプログラム修正を行い,構築した.

3) 急変対応の不安軽減プログラムの内容

(1)心停止の実際:学校性管理下における心停止および蘇生の実際.

(2)死戦期呼吸:死戦期呼吸の映像学習,呼吸をしているかわからない起因.

(3)心停止への対応とまとめ:胸骨圧迫時の副作用,迅速開始の必要性.

(4)心停止の判断と蘇生の開始:死戦期呼吸ケースの心肺蘇生演習.

(5)アナフィラキシーの実際:アナフィラキシーの実際とエピペンの副作用.

(6)アナフィラキシーの対応とまとめ:エピペン注射に関する注意点.

(1)~(6)の内容を60分間で研究者がレクチャーと演習を担当した.毎回,同一の研究者が担当した.そのため実施内容に差が生じないように,介入内容の遂行,介入量と時間の遵守,初期計画の遵守,参加者一様に作用,進行阻害要因がない,の5要素を満たしているか否かのフィディリティ評価(Hand et al., 2018)を共同研究者が行った.

6. 分析方法

分析は統計ソフトSPSS Statistics Version 23(IBM, Armonk, NY, USA)を用いた.尺度の信頼性と妥当性の検討は,因子分析,信頼性分析を行った.アウトカム評価は測定変数の介入前後比較を対応のあるt検定を用いて行った.プロセス評価の5項目4件法は度数分布表から統計量を得た.

7. 倫理的配慮

東京医療保健大学研究倫理審査委員会の承認(番号30-12)を得て実施した.

Ⅲ. 結果

研究参加に同意を得た関東圏の小学校8施設に所属する306人の教職員にプログラムを実施した.全8回実施し,参加者は25~50名/回であった.各施設は約350~1,000人の児童を有し約25~60人の教職員が勤務していた.8施設では毎年,心肺蘇生およびアナフィラキシー対応の訓練を施設内で実施していた.エピペンを所持している児童は1~5人/校で全施設に所属していた.プログラムは研究協力施設である小学校の体育館またはミーティングルームで行われた.306部の調査票を配布し,274部を回収した(回収率89.5%).2回共回収され,有効回答239部を分析データとして用いた(有効回答率78.1%).

1. 対象者の属性(表1

職員歴は平均12.3年であり,心肺蘇生受講歴は平均11.2回,エピペン講習の受講歴は平均5.0回であった.性別は男性34.3%,女性65.7%であった.教員が85.8%,事務等の教員以外の職員が14.2%であった.

表1  プログラム参加者の属性(N = 239)
項目 Mean SD
職員歴(年) 12.3 9.8
心肺蘇生受講歴(回) 11.2 9.5
エピペン®受講歴(回) 5.0 4.4
n %
性別 男性 82 34.3
女性 157 65.7
職種 クラス担任 175 73.2
養護教諭 22 9.2
音楽担当 5 2.1
体育担当 2 0.8
家庭科担当 1 0.4
事務 6 2.5
用務 1 0.4
その他 27 11.3
エピペン所持児童の
受持ち経験
あり 69 28.9
なし 170 71.1

2. 急変対応の不安尺度および急変対応の知識尺度の信頼性と妥当性(表2

急変対応の不安尺度の妥当性を検討するために,急変対応の不安尺度8項目で因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った.その結果,表2の通り内容的に妥当な因子構造が得られ,2因子8項目からなる急変対応の不安尺度とした.累積寄与率は69.4%であった.第1因子,第2因子ともに因子負荷量は.49~.96の範囲を取り,共通性は.53以上を示した.抽出された2因子を下位尺度とし,「心肺蘇生の不安」「エピペン使用の不安」と命名した.8項目のCronbach’s αは.84であり,2因子それぞれでは.84および.88であった.急変対応の不安尺度は2下位尺度8項目であり,信頼性と妥当性が確認された.

表2  各尺度の信頼性と妥当性の検討(N = 239)
尺度 Mean SD 負荷量平方和 項目数 因子負荷量 α係数
急変対応の不安尺度 25.7 ±4.8 69.4 8 .49~.96 .84
 心肺蘇生の不安 15.6 ±3.3 43.2 5 .62~.90 .84
 エピペン使用の不安 10.0 ±2.1 26.2 3 .49~.96 .88
急変対応の知識尺度  2.7 ±1.5 42.0 6 .29~.82 .71

因子分析および信頼性分析を用いた(急変対応の不安尺度は最尤法,急変対応の知識尺度は主因子法).

急変対応の知識尺度の妥当性を検討するために,7項目で因子分析(最尤法)を行い,「呼吸をしていないように見えたが自信がないので養護教員を呼ぶ」の1項目は共通性が.3未満であったため削除した.6項目で因子負荷量とCronbach’s αの値を確認しながら因子分析および信頼性分析を行い,表2の結果が得られた.「死戦期呼吸は心停止を示すサインである」の1項目は因子負荷量が.29であり,第2因子および第3因子のCronbach’s αが.7未満であった.6項目は知識の測定に必要な項目であり,得られた結果の中では最適であったため,研究者の判断で許容範囲とみなした.因子分析は主因子法,プロマックス回転を用いた場合に,累積寄与率は42.0%,因子負荷量は.29~.82の範囲を取り,Cronbach’sαは.71であり,6項目の急変対応の知識尺度を採択した.

3. 急変対応プログラム実施による前後比較(表3表4

プログラム実施の前後で急変対応の不安尺度得点および急変対応の知識尺度得点を測定した.介入による変化を検討するため,対応のあるt検定を用いて前後比較を行った.急変対応の不安尺度得点平均値は25.7 ± 4.8点から18.6 ± 5.6点に有意に減少し(t(238) = 22.2, p = .000),急変対応の知識得点平均値は2.7 ± 1.5点から4.5 ± 1.0点に有意に上昇した(t(238) = 14.5, p = .000).急変対応の不安尺度得点は全項目において減少し,急変対応の知識得点は全項目において増加した.対応のあるt検定を用いた属性別の前後比較においても全項目で有意に減少,増加した.さらに,どの属性が尺度得点の高低があるかをサブグループ分析するために,対応のないt検定を用いた属性別比較を行った.急変対応の不安は,職員歴12年未満群が12年以上群より高く(p = .007),エピペン受講歴5回未満群が5回以上群より高かったが(p = .011),介入後に群間差は改善された.急変対応の知識は,男性群より女性群が低く(p = .004),看護師資格なし群が看護師資格あり群より低く(p = .007),職員歴12年未満群より12年以上群が低く(p = .003),急変対応知識高値群より低値群が低かったが(p = .000),介入後に群間差が改善された.プログラム後は,心肺蘇生受講歴11回未満群が11回以上群より有意に不安が高く(p = .023),心肺蘇生受講歴11回未満群が11回以上群より有意に知識が低く(p = .028),エピペン所持児童受け持ちなし群があり群より有意に知識が低かった.

表3  急変対応および急変知識の属性別介入前後比較(N = 239)
項目 n 急変対応の不安 急変対応の知識
事前 事後 t値 p 事前 事後 t値 p
Mean SD Mean SD Mean SD Mean SD
対象者全体 239 25.7 4.8 18.6 5.6 22.2 .000 2.7 1.5 4.5 1.0 14.5 .000
性別
男性 82 25.5 5.4 17.9 6.4 13.2 .000 3.2 1.0 4.4 .9 8.3 .000
女性 157 25.8 4.4 18.9 5.2 17.8 .000 2.4 1.5 4.5 1.1 12.2 .000
職種
クラス担任 175 25.6 4.8 18.6 5.7 18.4 .000 2.6 1.4 4.4 1.1 12.5 .000
養護教諭 22 25.1 4.6 19.1 4.7 6.6 .000 3.5 2.0 4.8 1.3 3.0 .007
専科教員 8 24.6 3.5 17.4 4.1 3.9 .006 2.8 .9 4.1 1.2 2.6 .036
事務その他 34 26.3 5.2 18.1 6.2 9.9 .000 2.5 1.4 4.5 .9 6.6 .000
看護師資格
あり(養護教諭) 22 25.1 4.6 19.1 4.6 6.6 .000 3.5 2.0 4.8 1.3 3.0 .007
なし 217 25.7 4.8 18.5 5.7 21.2 .000 2.6 1.4 4.4 1.0 14.4 .000
エピペン所持児童受け持ち
あり 69 25.5 4.7 17.7 4.9 14.2 .000 2.6 1.5 4.7 .9 10.1 .000
なし 170 25.7 4.8 18.9 5.9 17.5 .000 2.7 1.5 4.4 1.0 11.0 .000
職員歴
12年未満 143 26.3 4.6 18.9 5.6 17.6 .000 2.8 4.9 4.4 1.1 10.7 .000
12年以上 96 24.6 4.9 18.0 5.7 13.6 .000 2.6 1.8 4.6 1.0 9.9 .000
心肺蘇生受講歴
11回未満 156 26.6 4.5 19.2 5.6 18.4 .000 2.6 1.3 4.4 1.1 11.9 .000
11回以上 83 23.8 4.8 17.4 5.5 12.6 .000 2.8 1.8 4.7 1.1 8.4 .000
エピペン受講歴
5回未満 169 26.2 4.5 18.7 4.6 19.2 .000 2.6 1.2 4.4 1.0 14.0 .000
5回以上 70 24.4 5.2 18.1 6.1 11.3 .000 2.9 2.0 4.5 1.1 5.9 .000
急変不安2群
不安得点低値 122 21.8 3.2 16.4 4.6 13.5 .000 2.7 1.6 4.5 1.1 10.8 .000
不安得点高値 117 29.6 2.2 20.8 5.8 19.6 .000 2.7 1.4 4.4 1.0 9.7 .000
急変知識2群
知識得点低値 107 25.1 4.6 19.5 5.8 15.0 .000 1.4 1.0 4.6 .9 23.6 .000
知識得点高値 132 26.1 4.9 19.0 5.5 16.3 .000 3.7 .9 4.3 1.1 5.2 .000

対応のあるt検定を用いた.

表4 

急変対応の不安および知識の属性別比較

N = 239)

4. プログラムに対するプロセス評価(図1

介入事後のプロセス評価において,77.8%がプログラムの内容に満足していた.期待との一致,時間の適切度,講師の対応も72.8%以上の高い評価を得た.さらに,フィディリティ評価は毎回5項目を満たしていた.

図1 

プログラムのプロセス評価

N = 239)

Ⅳ. 考察

1. プログラムの有用性

本研究は急変が生じた小学生の生命を守るために,小学校教職員に対してBLSの実施とエピペン使用の積極的な実施の不安を軽減する目的で実施された.多くの教職員は一次救命処置の実施に不安や心配があり(清水・望月,2012),エピペン使用に対する不安も大きい(村井ら,2013).この不安の軽減のために,「CPRを開始するタイミング」「エピペンを注射する際に生じる躊躇の除外」をメインにしたプログラムを構成した.そのため,BLS,エピペンを使用する手技については本プログラムで触れていない.それにもかかわらず「胸骨圧迫の手技の不安」「人工呼吸の手技の不安」「AEDを使用する手技の不安」「エピペンを注射する手技の不安」といった手技に対する不安も事後調査で有意に軽減した.この結果は,教職員のBLS,アナフィラキシー対応のすべての不安軽減につながることが考えられた.

急変対応の不安は全体的に減少したが,特に職員歴12年未満群,エピペン受講歴5回未満群といったトレーニング経験の少ない教職員に有用であることが示唆された.また,属性比較で急変対応の知識が低い,女性,看護師資格がない,職員歴12年以上,の背景を持つ教職員の知識獲得に有用であると示唆された.BLSトレーニングは短い受講時間と6か月後のフォローアップトレーニングがスキル維持に有用である(Nishiyama et al., 2015).JRC蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会,2015)において,BLSトレーニング後,3~12カ月以内に技能が衰えること,頻回のトレーニングがCPRの技能,救助者の自信とCPRを実施する意欲を改善させることが公表されている.したがって,特に職員歴が浅い教職員,心肺蘇生受講歴とエピペン講習受講歴が少数回である教職員,エピペン所持児童受け持ちの経験がない教員に対して,積極的なプログラム参加が推奨される.また,プログラムは短時間で,半年~1年に1回のスケジュールを計画することにより,不安軽減が効果的になると考えられる.さらに,エピペン所持児童受け持ちの経験がなく,心肺蘇生受講歴11回未満の教職員に対して,急変対応の知識が得られるようなアプローチが必要である.

2. 研究の限界と今後の課題

本研究では実技習得の客観的評価はしていないため,不安と実技習得の関連は検討していない.また,事後調査がプログラム実施後のみであったため,一定期間変化が持続したかの追跡調査が必要であった.さらに,急変対応の不安尺度および急変対応の知識尺度を作成したが,相関分析と確認的因子分析は未実施であり,さらなる妥当性の検証が必要である.急変対応の知識尺度は一部の因子負荷量の低さとCronbach’s αの低さが検討事項である.今後は,比較群を置いた二群比較調査を行い,プログラム効果を検討することが課題である.

Ⅴ. 結論

小学校教職員を対象に急変対応の不安軽減プログラムを実施した.その介入前後で評価を行い,有用性を検討した.プログラム事前事後の検討で,急変対応の不安尺度が有意に減少し,急変対応の知識が有意に増加した.参加者の満足度,活用度,期待との一致度の評価が高かった.介入の有無による2群比較は行っていないため,プログラムによる効果は言及できないが,今後に向けて実用可能性のあるプログラムであることが示唆された.

謝辞:本調査を実施するにあたり,ご協力いただきました小学校教職員の皆様に感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KKは研究の着想およびデザイン貢献,統計解析の実施および原稿作成;KAは原稿への示唆および研究全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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