日本看護科学会誌
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原著
計画的行動理論に基づいた就労妊婦の身体活動におけるセルフケア行動
中村 康香川尻 舞衣子長坂 桂子
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2020 年 40 巻 p. 196-204

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Abstract

目的:計画的行動理論を用いて就労妊婦のセルフケア行動意図に影響する要因について明らかにする

方法:正常経過でフルタイム勤務の初妊婦7名を対象に産前休暇(以下,産休)取得前後の身体活動に関するセルフケアについて半構成的面接を行い,計画的行動理論に基づき質的記述的に分析した

結果:平均年齢は30.1歳,全員電車通勤であった.身体活動のセルフケアについて,産休前は仕事と妊娠の両立を図るため休息をとるという行動に対する態度と,母児の安全のために活動抑制を肯定する規範と活動を促進する2方向の主観的規範が認められた.妊娠という身体的要因や就労の環境的要因は,いずれも身体活動の阻害要因として位置づけられた.産休後は,様々な阻害要因が認められた.

結論:就労妊婦は,身体活動のメリットを理解している一方で,就労と妊娠を両立させるために休息を意識的にとっている.特に産休後は阻害要因となる身体的・環境的要因が多様であり,個人の生活に合わせた支援体制が必要である.

Translated Abstract

Purpose: To clarify self-care behavior, such as attitude toward the behavior, subjective norm, perceived behavioral control, and physical/environment factors of employed pregnant women using the planned behavior theory.

Methods: A semi-structured interview was conducted on self-care related to physical activity before and after taking maternity leave targeting seven primiparas who worked full-time and whose pregnancy progressed normally, and data were qualitatively descriptively analyzed based on the planned behavior theory.

Result: The average age was 30.1 years, and each commuted in trains. About self-care of physical activity, attitude toward behavior to take a rest to balance work and pregnancy before maternity leave. As a subjective norm, there was two-way subjective norms which was norms for affirming restraint on activities for the safety of mothers and children and to promote activities was extracted. The physical factors of pregnancy and the environmental factors of employment all served as obstacles to physical activity. After maternity leave, various inhibiting factors were recognized.

Conclusions: While employed pregnant women understand the benefits of physical activity, they consciously take rest to their balance work and pregnancy. Especially after maternity leave, physical and environmental factors that cause hindrance are diverse, and a support system tailored to the individual’s life is necessary.

Ⅰ. 緒言

妊娠判明時に就業していた女性の割合は2000~04年では63.7%であったのに対し,2010~14年には72.2%と年々増加しており(国立社会保障・人口問題研究所,2017),今後妊娠を継続しながら就労を継続する妊婦は増加することが予測される.

妊娠している女性が体を動かすことに関しては,産婦人科診療ガイドライン産科編2017(以下,産科ガイドライン)において,「適度な運動は健康維持・増進に寄与する可能性がある」としている.これは,妊娠中に少なくとも週に2~3回の有酸素運動を行っている妊婦では早産率を増加させずに身体機能を維持増進できること(Kramer & McDonald, 2006)や,特に禁忌のない妊婦では,妊娠中健康なライフスタイルの一部として有酸素運動あるいは健康運動を行うことを奨励していること(Davies et al., 2003)から言及されている.日本人妊婦を対象とした質問紙による身体活動調査によると,1週間当たり「非常に少ない」身体活動量の妊婦は,「中程度」の身体活動量の妊婦よりも1.16倍早産になりやすく(95%信頼区間1.05~1.29),また「少ない」身体活動量の妊婦は,1.07倍帝王切開になりやすい(95%信頼区間1.00~1.15)という結果も報告され,中等度以上の身体活動を推奨している(Takami et al., 2018).一般に健康づくりでは,「運動」のみならず,日常生活における労働,家事,通勤・通学などの「生活活動」を含めた安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作である「身体活動」全体に着目することの重要性がいわれている(厚生労働省,2013a).身体活動が行われる場面によって,余暇,仕事,家事・育児,移動といった4つの領域に分類(小熊,2014)し,それぞれの領域の身体活動量を考えることにより,個人の身体活動に対して検討することができる.以上のことから,「運動」だけに着目するのではなく,余暇活動や仕事などの生活活動も含めた「身体活動」について着目する必要がある.そして,妊婦が「身体活動」を適度に行うことで,妊娠生活を身体的にも心理的にも健康的に過ごすための支援をしていく必要がある.

実際の妊婦に対する身体活動のセルフケアに対する保健指導はどのように行われているのであろうか.川尻ら(2016)が行った,外来の妊婦健康診査(以下,妊婦健診)における妊婦に対する身体活動に関する保健指導の実態調査では,助産師自身としては身体活動に有益性は感じつつも,妊娠期間全体的に動くことを制限することや,助産師自身が目標を持たずに指導をしている曖昧性が明らかとなっている(川尻ら,2016).そして妊婦が主体的に調整するものであるという,ある意味妊婦自身にその判断をゆだねてしまう保健指導を行っていた.反対に妊婦側の考えとして,妊婦の身体活動についての信念として,妊娠中は,休息やリラクゼーションのほうが運動や活動的な生活スタイルを維持するよりも,より重要であると認識していることが報告されている(Clarke & Gross, 2004).行動計画理論を用いて妊婦の活動することと休息することの行動について焦点を当て明らかにした研究(Newham et al., 2016)では,活動することについての行動意図は妊娠経過とともに有意に減少し,休息するという行動意図は妊娠経過が進むにつれ有意に増加すると報告されている.つまり,妊婦自身が身体活動を行わないことを望ましいセルフケア行動であると認識しているということである.

妊婦が身体活動についてのメリットやデメリットを理解し適度に身体活動を行う,つまり適切なセルフケア行動をとれるよう支援するためには,妊婦が身体活動についてどのようにとらえ考えているのか,そしてどのようなことが影響しているのか把握したうえで,看護介入の支援方法を考えていく必要がある.

個人の健康行動を変えるための介入を行うに際し,行動とそれに影響を与える変数間の関連性を説明するための健康行動理論として,健康信念モデル(Becker et al., 1974)や社会的認知理論(Bandura, 1977)がある.しかし妊婦を対象とした場合,身体活動に関する行動の動機付けとして,健康を損なう危機感を高めることや,望ましい行動の結果を明確にすることは難しい.妊婦の身体活動には,お腹の中に子どもがいるという状況であるため,自分の態度や医療者,家族の助言のほかに,お腹の中のわが子の有益性に影響されて決定されるという特徴があることを踏まえ,本研究では計画的行動理論(Ajzen, 1991)を用いることとした.また体重増加や疲労など妊娠期間に変化する症状の影響や文化的信念を含めて理解できる特徴もある(Lee et al., 2016Hausenblas et al., 2008)ことから,先行研究においても妊婦の行動を説明するモデルとして計画的行動理論の枠組みが多く用いられている(Newham et al., 2016Jalambadani et al., 2018).本研究における妊婦の身体活動におけるセルフケア行動支援の示唆を得るための枠組みを計画的行動理論を基盤に用いて示した(図1).これは,人が行動しようとする行動意図には,行動に対する態度と主観的規範,そして行動の統制可能性が影響し,これらが実際に実行し維持するという行動につながるというものである.本研究においては,妊婦の身体活動に関するセルフケア行動についての行動意図につながる3つの要因について以下のように定めた.行動に対する態度は,妊婦が妊娠中の身体活動について,活動することが良いと思うかということを示し,主観的規範は,妊娠中に身体活動を行うことについて周りの人たちがどう思っているか,妊娠中に身体活動を行うことが社会的な常識に反していないかということを示す.また,行動の統制可能性は,妊婦自身が,身体活動の行動を実行するのに,どのくらい容易あるいは困難であると感じているのか,実行できる力があるのかどうかを示す.本研究ではさらに,妊婦の身体活動を行う行動意図や実行には身体的・物理的・環境要因には影響を与えているとした.本研究枠組みを用いて妊婦の身体活動を実行しようとする行動意図,あるいは実行しない(休息をとる)とする行動意図に影響する,行動に対する態度,主観的規範,行動の統制可能性を明らかにするとともに,それらに影響を与えている身体的・物理的・環境的要因を明らかにすることで,妊婦の身体活動におけるセルフケア行動支援の介入へとつなげることを期待した.

図1 

本研究の枠組み(計画的行動理論を基盤に作成)

就労妊婦は,通常妊娠34週以降に産前休業(以下,産休)を取得することにより,身体活動の1つの領域である「仕事」(小熊,2014)に関する身体活動量が大きく変化することとなる.つまり,就労妊婦は産休を機に,就労を中心としたこれまでの生活を再調整し,新たな身体活動に関するセルフケアを行っていくことが求められる.妊婦の身体活動に関する先行研究では,フルタイムで就労する妊婦は就労日の身体活動量が休日よりも有意に多いことや生活パターンの違いから身体活動量が時間帯により有意に異なることが明らかとなっている(中村ら,2016).また就労妊婦は妊娠末期において継続して就労している妊婦では身体活動に変化がないのに対して,妊娠末期に産休や退職などにより就労していない妊婦は,就労していた妊娠中期と比較して身体活動量が有意に減少するという報告(Kawajiri et al., 2019)もある.そのため,身体活動のセルフケアについても産休取得前後によって異なることが予測されるため,両時期において調査することが望ましい.特に妊娠末期は体重が増加しやすい時期であるため,本研究で就労妊婦の身体活動のセルフケア行動の行動意図に影響する要因や産休前後の実態が明らかになることで,産休後の生活の再調整や適切な身体活動のセルフケア行動のための支援に役立つことが考えられる.

本研究の目的は,就労妊婦が身体活動のセルフケア行動として,その行動意図に影響する,行動に対する態度,主観的規範,行動の統制可能性を明らかにするとともに,それらに影響を与えている身体的・物理的・環境的要因について,特に生活が大きく変化する産休前後における実態を明らかにすることである.

Ⅱ. 方法

1. 対象者

正規雇用で就労している初めて妊娠した女性で,すでに産休を取得しており,妊娠経過において,入院しておらず,運動や活動に制限がない,妊娠34週前後の女性とした.

2. 調査方法と内容

都内の産科を扱う病院の妊婦健康診査で来院した際に,妊娠中の身体活動に関するセルフケアについて半構成的面接法にてインタビューを行い,2016年8~9月にデータ収集を行った.インタビューは30分程度とし,10年以上の臨床経験及びデータ収集のためのインタビューの経験のある,博士の学位を持つ1名の助産師により行われた.インタビューの内容は,産休前後について妊娠中の健康を保つために「活動と休息に関して気を付けていたこととその理由」「妊娠してから,体を動かすことについて新たに始めたこととその理由」「妊娠しているから行動したほうがよいと思っていることとその理由」など身体活動に関するセルフケアについて尋ねた.基本的属性については診療録から収集した.

3. 分析方法

分析方法は,質的記述的研究(グレッグら,2007)を参考に行った.まず,インタビューは逐語録に起こし,身体活動に関する発言を簡潔な文章で表したものをコードとした(以下,「 」).それらのコードのうち計画的行動理論に基づいた本研究の枠組みの,行動に対する態度,主観的規範,行動の統制可能性および,身体的・物理的・環境的要因について抽出,分類した.次にそれらコードの類似性,同質性に従いカテゴリ(以下,[ ])に集約した.分析の厳密性を確保するために,分析過程において研究者間で検討を重ねるとともに,質的研究に精通しており,かつ母性看護学の専門家からのアドバイスを受けることで一貫性と確証性を確保した.また妊娠期間に就労をしていた経験のある助産師に分析結果を確認してもらい,また臨床現場で活用できそうか検討してもらうことで確実性と適用性の確保とした.

4. 倫理的配慮

研究参加時に研究の内容,研究参加についての自由意思,途中辞退の権利,匿名性の確保,結果の公表について口頭で説明し,書面にて同意を得た.また,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行った(NTT東日本関東病院 倫理・医療監査委員会;東総人医関病企第16-96号).

Ⅲ. 結果

1. 対象者の基本属性

分析対象者は7名で,平均年齢30.1歳(SD = 3.80),非妊時平均BMI 20.1 kg/m2(SD = 1.59),1日平均8.2時間(SD = .75)で週5日就労,全員電車を利用しての通勤であった.職種は,会社員/営業/事務が5名,メーカーの商品企画が1名,システムエンジニアが1名であった.インタビュー時間は平均26.6分(SD = 3.2)であり,インタビュー時には全員が産休を取得しており,平均33.6週(SD = 1.8)であった.

2. 身体活動のセルフケア

7名のインタビューデータより,身体活動に関するセルフケア行動について言及してあるコードが193,抽出され,28のカテゴリに集約された.

1) 行動に対する態度(表1

妊婦が身体活動を行うことに対する態度として,8つのカテゴリで構成された.産休前・産休後に共通して,[妊娠中は動いた方が良い],[妊娠前と同程度の身体活動が良い],[産休前の活動量を維持する]といった,身体活動を維持・促進させることのメリットの理解が抽出された.一方で,産休前においては,[仕事をしていれば身体活動は十分である],[仕事に支障が出ないように夜休息をとる]といった,就労そのものが身体活動を増加するものであるとらえ方であった.また産休前・産休後ともに,[妊娠中安全・健康に動く目安がわからない]とする態度も認められた.

表1  産前休暇取得前後の身体活動のセルフケア行動意図に対する態度,主観的規範および行動の統制可能性
産前休暇取得前 産前休暇取得後
カテゴリ コード(例) カテゴリ コード(例)
行動に対する態度 [妊娠中安全・健康に動く目安がわからない] 「活動について動きすぎか参考になるものがあると安心」 [妊娠中安全・健康に動く目安がわからない] 「どのくらい動くとよいか目安があればもうちょっと頑張れた」
[眠い時は寝る] 「(体の変化により),自然に寝ようとなった」 [眠い時は寝る] 「自然に1時間くらい横になっている」
[仕事に支障が出ないように夜休息をとる] 「次の日も仕事に行けるよう休息はしっかり取ろうと思い休んだ」 [産休前の生活リズムを崩さない] 「規則正しい生活をしたいと思っていた」
[仕事をしていれば身体活動はで十分である] 「仕事して動いているから日々の運動はしなくていい」 [妊娠中は動いたほうが良い] 「寝ているくらいなら体を動かしたほうが良い」
[妊娠中は動いたほうが良い] 「なるべく歩くようにしている」 [産休前の活動量を維持する] 「買い物や家事をして運動量が極端に減らないようにした」
[妊娠前と同程度の身体活動が良い] 「妊娠前のプール通いができなくなったのでできるだけ動きたい」
主観的規範 [無理をしない] 「普段の生活に比べ,ゆとりがある生活を心がけた」 [動きすぎず休んだほうがよい] 「休息をとることは気をつけなきゃいけない(けど,できていない)」
[好みでも,妊娠中安全でない運動は中止する] 「妊娠前のジョギングはできなくなったのでその分歩こうと思う」 [好みでも,妊娠中安全でない運動は中止する] 「バレーボールも妊婦にとって良くないスポーツだと思う」
[血行を良くするため動いたほうがよい] 「血行が良くなるように仕事中に社内を歩き回るのがよい」
[妊娠中は健康のために無理ない程度に動くのがよい] 「体調が第一,無理せず毎日少しでもいいから体を動かすのが大切」 [妊娠中は健康のために無理ない程度に動くのがよい] 「動けるときに動いたほうがよい」
[出産時の体力確保のために動いたほうがよい] 「インターネットで出産のときは体力が必要と聞いた」 [出産時の体力確保のために動く] 「産休後出産が恐怖になってきて,出産のために筋力をつける」
行動の統制可能性 [家事や仕事のついでならできる] 「普通の運動の代わりに仕事中書類出すついでに階段昇降した」 [買い物や散歩のついで活動ならできる 「散歩がてら10分程度遠くまで買い物に行くようにした」
[管理されないとできない] 「管理された状況にならないと怠惰になり運動しない」 [管理されないとできない] 「マタニティヨガのように強制力があるものでないと自分でしにくい」
[妊娠前から習慣になっている活動はできる] 「妊娠前から行っているフラダンスを運動を兼ねて欠かさず行った」 [妊娠前から習慣になっている活動はできる] 「妊娠前から行っていた階段昇降は,妊娠後もできると思った」

2) 主観的規範(表1

妊娠中に身体活動を行うことについて周りの人たちがどう思っているか,妊娠中に身体活動を行うことが社会的な常識に反していないかという主観的規範は,6つのカテゴリで構成された.産休前,産休後共に,[出産時の体力確保のために動いた方がよい][妊娠中は健康のために無理ない程度に動くのがよい]と聞いたり,[血行を良くするため動いたほうがよい]など活動を促進する規範が抽出された.一方で,産休前は[無理をしない],産休後は[動き過ぎず休んだほうがよい],そして産休前・産休後共通して[好みでも,妊娠中安全でない運動は中止する]といった,活動を抑制する規範も同時に抽出された.

3) 行動の統制可能性(表1

妊婦が身体活動を行うのに,どのくらい容易あるいは困難であると感じているのかという行動の統制可能性については,4つのカテゴリで構成された.産休前では[家事や仕事のついでならできる],産休後では,[買い物や散歩のついで活動ならできる],産休前・産休後ともに[管理されないとできない],[妊娠前から習慣になっている活動はできる]といった内容が抽出された.

4) 身体的・環境的・物理的要因(表2

身体的・環境的・物理的要因には,それぞれ2カテゴリ,7カテゴリ,1カテゴリの合計10カテゴリで構成された.妊婦が身体活動を行う際には,[子宮収縮や体の負担を避けるため活動しない]という身体的要因や,就労しているということで,[仕事で帰宅が遅く運動時間が確保できない][デスクワークで,椅子から立たない]という環境的要因が,身体活動を抑制する要因として抽出された.産休後は同様の[子宮収縮や体の負担を避けるため活動しない]という身体的要因のほかに,[通勤がなくなり活動量が減った][同伴者がいないから運動しない][悪天候や花粉の時期で戸外で活動できない]などの環境的要因と,[妊婦用水着を買うのが面倒で運動できない]という物理的要因が身体活動を抑制する要因として抽出された.しかし反対に,産休後は[人と話をしたいから外出する]という身体的要因が身体活動を促進する要因として認められた.

表2  身体活動のセルフケアに影響する身体的・環境的・物理的要因
産前休暇取得前 産前休暇取得後
カテゴリ コード(例) カテゴリ コード(例)
身体的要因 [子宮収縮や体の負担を避けるため活動しない] 「書類を1回1回だそうと思ったが,体が重く動かなかった」 [子宮収縮や体の負担を避けるため活動しない] 
[人と話をしたいから外出する]
「お腹が張りやすくなり,ウオーキングできていない」 
「家でゴロゴロしているだけだとつまらないので,リフレッシュも兼ねて動く」
環境的要因 [仕事で帰宅が遅く運動時間が確保できない] 「マタニティヨガも行きたかったが,帰宅が遅く,できなかった」 [通勤がなくなり活動量が減った] 「産休後は片道50分の徒歩通勤がなくなり運動量が減った」
[デスクワークで,椅子から立たない] 「デスクワークの仕事だと8~10時間座りっぱなし」 [同伴者がいないから運動しない] 
[悪天候や花粉の時期で戸外で活動できない] 
[産休後生活リズムが崩れとともに活動量が減った]
「人混みが怖いから一人で出かけるのをやめた」 
「散歩しようと思っても花粉症なので外を散歩する感じでない」 
「産休前の生活リズムが産休後に崩れてしまった」
物理的要因 [妊婦用水着を買うのが面倒で運動できない] 「マタニティ用の水着を買うのが面倒でやらない」

Ⅳ. 考察

本研究では,妊娠期の身体活動のセルフケア行動の行動意図に影響する要因について就労女性に焦点を当て,産休前後について調査を行った.その結果,妊娠中に身体活動を行うことについては,産休前後共に[妊娠中は動いた方が良い],[妊娠前と同程度の身体活動が良い]など,身体活動を維持・促進させることのメリットが理解されていた.しかしその一方で[妊娠中安全・健康に動く目安がわからない]とも考えていた.現代は健康維持に関する情報があふれており,妊娠期に行われる妊婦を対象とした身体活動に,マタニティビクスやマタニティヨガ,マタニティスイミングなどがある.また産科ガイドラインにおいても「適度な運動は健康維持・増進に寄与する可能性がある」としていることから,妊娠中に体を動かすことは良い影響がある,ということはかなり周知されていることがうかがえる.しかし,どの程度動いてよいのか,健康を維持するのにどの程度動いたほうがよいのか,などの事項については妊婦自身も不明なのである.運動に関しては,妊婦のスポーツの安全管理指針(越野,2003)で,1回60分以内で週に2~3回,心拍数150 bpm以下,自覚的運動強度で「ややきつい」以下の運動強度とする,というように運動の目安が提示されている.しかし,生活活動に関してはどうであろうか.産科ガイドラインにおける明記はない.身体活動の保健指導の実態調査(川尻ら,2016)では,実際の保健指導においては生活活動の種類を具体的に提案する指導は行われているが,生活活動の頻度や時間の目安について着目した指導はほとんど認められなかったとの報告がある.妊娠中に身体活動を行うことに前向きな就労妊婦に対して,動く目安が分からないという理由が,身体活動の行動意図を抑制する要因とならないよう,医療者は適切な保健指導を行っていく必要性がある.就労妊婦に特徴的だったこととして,産休前は[仕事をしていれば身体活動は十分である]といった,就労そのものが身体活動を増加しているものであるというとらえ方であることと,[仕事に支障が出ないように夜休息をとる]と就労と妊娠の両立を図るために,意識して休息をとっており,自ら身体活動のバランスをとっていたことである.就労妊婦の1日の身体活動量とその内容を調査した結果では,娯楽や運動よりも,家事や育児,そして就労に伴う活動が,1日の全体及び中強度のエネルギー消費に関与していたことが明らかとなっている(Schmidt et al., 2002).また都市部における電車通勤と車通勤者の低強度以上の身体活動量を調査した研究では,男女ともに通勤時の身体活動量が1日の身体活動量の6割強を占めているという報告がある.また,男性のみの調査であるが,電車通勤者の全体の身体活動量は車通勤者の2.9倍であった(中野・井上,2010).本研究の対象者は,全員が1日8時間以上の就労をしており,電車通勤であった.つまり,就労していることと電車通勤であることが1日の身体活動量に大きく関与した可能性があり,そのことで就労していれば十分活動しているという考えにつながっていると推察される.先行研究において就労妊婦は「職場に迷惑をかけたくない」という考えを持っており,職場に配慮を求めずに働いていたという体験(杉浦,2002)や,「職場に妊婦がいる負担感の体験」「思うように動けない妊娠期」や「就労と妊娠のバランスのとりにくさ」といった思いをしていることも報告されている(山中・富岡,2018).そのため,就労と妊娠の両立を図るために意識して休息をとるという身体活動に対する態度が認められたのであろう.このような就労妊婦が抱えている思いを尊重しながら,身体活動に関する保健指導として,就労における活動量を調整するべきなのか,反対に就労以外の生活活動について調整するべきなのかを妊婦自身の生活を踏まえて検討していくことが重要となる.

妊娠中に身体活動を行うことが周りの人たちがどう思っているかという主観的規範は,動いたほうがよいという身体活動を促進する方向性と,休んだ方がよいという身体活動を抑制する方向性の両方が認められた.これは,妊婦を対象とした運動のメリットが一般にかなり普及してきている(日本マタニティフィットネス協会,2011)ことと,実際の臨床の保健指導において妊婦が助産師から,妊娠中の身体活動は何らかの制限が必要であると指導されていること(川尻ら,2016)の両者が影響していると考えられる.先行研究においても,妊婦は,定期的な運動や活動的なライフスタイルを維持することよりも,妊娠中は休息とリラクゼーションが,より重要であると認識されていたという報告もある(Clarke & Gross, 2004).近年では,身体不活動(physical inactivity)の健康への影響も言及されており,例えば,糖尿病の27%,虚血性心疾患の30%が身体不活動に起因すると推測されており,それらに対する危険因子である高血圧・高血糖・過体重などと密接にかかわっていると報告されている(WHO, 2009).以上のことから,運動のメリットのみでなく,動かないことのデメリットを普及させることや,妊婦を対象とした身体不活動のエビデンスの構築,それらを医療者が保健指導で妊婦に指導できるようにしていくことが妊婦の健康を支援するためには必要である.

妊婦が身体活動を行うのに,どのくらい容易あるいは困難であると感じているのかという行動の統制可能性については,習慣化している身体活動や,家事や仕事,買い物や散歩と一緒の機会であれば,困難性は感じてはいなかった.厚生労働省の健康づくりのための身体活動指針であるアクティブガイドというパンフレットにも,今より10分体を動かすための手法として,1日を振り返り,例えば,きびきびと掃除や洗濯,家事の合間に「ながら体操」などと,個人の生活の中で一緒の機会に行えそうな方法を例示している(厚生労働省,2013b).一方で,[管理されないとできない]という,自発的な行動には限界を感じている様子もうかがえた.運動を定期的に行う習慣のない人であっても無理なく運動を継続できる方法として,慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センターが2015年より取り組んでいる,身近な場所に主体的・定期的に集まって行う運動「グループ運動」がある(齋藤・小熊,2017).また,高齢者を対象とした調査研究において,運動教室後の自主的な運動の継続理由の1つとして,仲間の存在や仲間とのかかわりが挙げられている(重松ら,2011).高齢者を対象とした研究であるが,行動を継続するために行う機会や仲間を利用することは妊婦を対象としても同様の効果が期待できると考える.つまり,妊婦を対象とした身体活動についての保健指導を行う際には,前述のような身体活動を行う機会に関する情報を提供することや,夫や家族の協力を得て一緒に行うといったことを提案することができる.妊娠期の身体活動パターンを調査した先行研究においても,運動習慣のない妊婦の3分の1以上が妊娠末期にはマタニティエクササイズのクラスに参加をしており,妊娠末期に増加した身体活動はマタニティエクササイズのみであったことを報告している(Santos et al., 2016)ことからも,妊婦を対象とした体を動かす教室などの紹介を行うことも推奨される.

最後に,妊婦が身体活動を行う際の,身体的・環境的・物理的要因として,様々な要因が認められた.そのほとんどが,身体活動を抑制する要因であった.特に環境的要因としては,就労していることでの時間の確保の難しさや,就労時の姿勢が挙げられた.そのため,就労中に工夫して身体活動を行えるような個人の就労状況に合わせた具体的な保健指導が必要となる.例えば,デスクワークで座位傾向にある女性に対しては,1時間に1回はトイレや水分摂取,気分転換に立ち上がることや,立ち上がったらついでに他の用事もしたり,遠回りをして用事を済ませたりすることなどが考えられる.物理的要因には産休に伴う生活スタイルや生活リズムの変化による要因も含まれた.就労中には意識をしなくても生活の中で体を動かすことができていたが,産休後はその機会がなくなり,人との交流も少なくなる.つまり身体活動を行うのが困難であるという,行動の統制可能性へと影響していることが予測できる.そのため,前述のように,身体活動を行えるような機会や仲間を提案することで,産休後も身体活動を継続できることにつながると考える.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は首都圏の電車通勤をしている就労妊婦に限定されたため,首都圏以外や通勤手段が異なる妊婦では異なるカテゴリが抽出される可能性がある.また,経産婦では育児に伴う生活活動も加わるため,身体活動を行うことに関する考え方も異なることが考えられる.しかし本研究では,初産の就労妊婦が考える身体活動の行動意図に影響する行動に対する態度,主観的規範,行動の統制可能性を明らかにすることができた.

本研究は,初妊婦を対象として,妊娠経過とともに減少すると報告されている身体活動について,本研究で明らかになった妊婦の身体活動への考え方や身体的・物理的・環境的要因に対して,身体活動減少の幅を少しでも低く抑えられるような看護介入プログラムの基礎資料となった.つまり,就労の特性を生かしながら,個人の生活活動を踏まえ,計画的行動理論に基づきながら,身体活動に対する矛盾した態度や就労と生活の調整の難しさに起因した低い統制可能性というような,身体活動を行うという行動意図へつながるようなアプローチ,そして就労といった生活上の時間の制約や産休取得に伴う生活のリズムの変化といった身体的・環境的・物理的要因の,身体活動を抑制するような要因を除外できるような具体的支援策を考案する一助となった.

Ⅵ. 結論

本研究では,計画的行動理論を用いて就労妊婦の身体活動に関するセルフケア行動意図に影響する行動に対する態度と主観的規範,そして行動の統制可能性を明らかにした.その結果,就労妊婦は,身体活動のメリットを理解している一方で,就労と妊娠を両立させるために休息を意識的にとっていた.身体活動を促進する規範と,身体活動を抑制する規範の両方が認められ,就労していることにより,容易に身体活動が行える一方で,就労しているから,身体活動を行うことは困難であるという,個人の就労状況により多様であった.産休前後により,「就労」という身体活動を行っている生活が変化することにより,体を動かすことに関する考え方も変化するとともに,特に産休後は阻害要因となる身体的・環境的要因が多様であることから,個人の生活に合わせた支援体制が必要である.

付記:本論文の内容の一部は,第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました妊婦の皆様,対象施設のスタッフの皆様に深く御礼申し上げます.なお,本研究は平成26年度一般財団法人ヘルス・サイエンス・センターの研究助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YN,KNおよびMKは研究の着想およびデザイン,分析に貢献,YNは草稿の作成;KN,MKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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