日本看護科学会誌
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原著
妊婦を対象にした災害への備え教育プログラムの効果検証
渡邊 聡子
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2020 年 40 巻 p. 224-234

詳細
Abstract

目的:妊婦を対象に災害への備え教育プログラムを提供し,その効果を検証することである.

方法:災害への備えに関する知識を得て,その知識を活用した演習を行い,さらに,自宅で自分たちに必要な備えを実施し,取り組んだ内容を参加者間で共有・情報交換する,この一連のプロセスに妊婦とそのパートナーが参加するという教育プログラムを開発し,自記式質問紙を用いて,本プログラムを受講した介入群21名と,プログラムで使用する冊子のみを受け取った対照群40名の災害への備え行動および知識の変化を比較し効果を評価した.

結果:行動および知識は介入群に有意に増加しており,特に,日ごろには実施率が低い災害時の連絡方法の取り決めなど,家族との調整を要する項目が増加した.

結論:本教育プログラムは,妊婦の災害への備え行動を促進させる効果が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To evaluate a disaster preparedness education program for pregnant women.

Method: A gap exists between disaster knowledge and disaster preparedness. Therefore, an educational program was developed to promote preparedness for pregnant women vulnerable to disasters. The program included participation of pregnant women and their partners, learning about disaster preparedness, exercising useful knowledge, implementation at home, and sharing and exchanging information. Changes in the disaster preparedness behaviors and knowledge of 21 women in the intervention group who participated in the program and 40 women in the control group who received a booklet were quantitatively evaluated using a self-administered questionnaire.

Results: Disaster preparedness behaviors and knowledge increased significantly in both groups, but the increase in the intervention group was more significant compared to the control group and included an increase in more complex items such as communication between families during disasters and confirm evacuation location and priorities.

Conclusion: This program may improve disaster preparedness behavior in pregnant women.

Ⅰ. 緒言

これまで経験したことのない災害が発生し,近い将来には巨大地震の可能性も指摘されている.災害への備えは喫緊の課題であり,なかでも,子ども,女性,高齢者など災害による影響を受けやすい人々のリスクを識別し,脆弱性を減らす適切な行動を促進させる必要性が言及されている(WHO & ICN, 2009).

妊娠期は変化と危機を合わせもち,これに災害などの急激な環境変化が加われば,心理的なストレスおよびマイナートラブルの増強や母子の生命が危険にさらされるリスクが高まる(ACOG, 2010山本ら,2010).妊婦特有の,より安全に,よりよくありたいというニーズも満たすことが難しくなる.また,あとに続く分娩や産後の経過,母子関係や家族関係の形成にも影響を及ぼすことから,妊婦やその家族が健康や生活の観点から災害に備えることは重要である.しかしながら,発生確率と被害状況が極めて曖昧なリスク事象に備えることは容易ではなく,漠然と災害への備えの必要性は捉えながらも,行動との間には隔たりがある(渡邊,2015).

知識や認識を行動につなげることは,行動科学や社会心理学分野の関心であると同時に,防災・減災対策が抱える課題でもある.社会心理学分野では,災害への備え行動に関連する要因として,リスク認知が重視されている一方で(元吉,2004),認知が行動につながるとは限らず(Paton et al., 2005),行動の出現まで射程に入れた方略の必要性がいわれている(海上ら,2012).一方,公衆衛生や看護学分野では,僅かではあるが,災害時要援護者(Eisenman et al., 20142009),地域住民(Ardalan et al., 2013),看護職(渡邊ら,2012)などを対象とした災害への備え行動を促すための教育的介入が行われている.妊婦については,知識の提供を主としたプログラムがあり(Yasunari et al., 2011),その結果では,経産婦や災害経験者に限定的であったが,一部の備え行動および知識が向上していた.このことからも,災害への備え行動を効果的に促すプログラムの開発は急務の課題である.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,妊婦が災害に具体的に備えるための教育プログラムを実施し,その効果を検証することである.

Ⅲ. 用語の操作的定義

妊娠-出産-産褥/育児期という経過の連続性と,災害による影響の継続性をふまえ,本研究では「妊婦の災害への備え」を,妊娠期に加えて,出産,産褥/育児期を見据え,妊婦が自身と子どもを含む家族の生命を守り,災害後の対応や回復のために講じる事前対策であり,具体的には,「身を守る」「安全に避難する」「家族とつながる」「災害後の生活に対応する」「災害時の健康を管理する」の5つの要素から構成される知識および行動と定義した.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,教育プログラムを受講した介入群と,教育プログラムで使用する冊子を受け取った対照群を比較する2群前後比較デザインである(図1).

図1 

研究のフローチャート

2. 研究対象者

研究対象者は,近畿圏の同一県内にある産科を併設する4病院で妊婦健康診査を受けている妊婦であり,①初回調査時の妊娠週数が14~24週未満である,②正常な妊娠経過である(日常生活に支障のある合併症や安静を要する合併症がない),③日本語が母語である,④パートナー(配偶者)がいる者とした.これに加えて,介入群では教育プログラムの全過程にパートナーが参加できる者とした.心身への負担を考慮し,安定期に入る妊娠16週以降に教育プログラムを開始し,遅くても妊娠37週までに調査が完了できるようにした.

必要標本数の算出に必要な効果量は,2群前後比較の既存研究がなかったため,1群前後比較によるBaker et al.(2012)の効果量d = .97(効果量大)や,著者らの先行研究(渡邊ら,2012)のデータを元に算出した効果量η2 = .22(効果量大)を参考に,3時点の2群比較を行うとして,効果量f = .40,両側有意水準5%,検出力80%で算出し,これに脱落者数を上乗せして各群45名とした.

3. 教育プログラムの概要

災害への備え行動を促すために,本プログラムには,災害への備えに必要な知識および行動を促す方略を含めた.まず,知識については,先行研究(兵庫県立大学大学院看護学研究科21世紀COEプログラム看護ケア方略研究部門看護ケア方法の開発プロジェクト母性班,2005)に加え,Sutton & Tierney(2006)Ewing et al.(2008)の文献を参考に,5つの視点([危険から身を守る][安全に避難する][家族とつながる][災害後の生活に対応する][災害時のこころとからだ])から,災害時に何が起こるか,被害を減らすためにどのような対策が必要か,何をどのように備えるか,その具体例を含めた(表1).これを冊子「もしもの時の安全と安心のために,災害に具体的に備えよう!」(A4版25ページ)にまとめ,教材とした.次に,行動を促す方略については,既存研究(Ardalan et al., 2013Baker et al., 2012Eisenman et al., 20092014渡邊ら,2012)より抽出した7つの要素:①災害に備える目的・意図を明確にする,②自分の状況の中で考える,③できることから始める,④心身に負担(脅威)にならない,⑤家族・同じ課題をもつ仲間と一緒に取り組む,⑥実施したことを確認する,⑦堅苦しくない(楽しみながらできる)を含めた.具体的には,まず,参加者(カップル)は事前に配布された冊子を個々に読むという【自己学習】に取り組んだ.次に,ワークショップに参加し,各セッションの前半の【講義】では自己学習内容を復習し,後半の【演習】では得た知識を使い,カップルで自分(たち)の状況で備えについて考えるワークを行った.各セッションの終わりには話し合った内容を発表し,他のカップルと意見を交換した.第1回ワークショップ受講後から1ヵ月間は,自分たちに必要な災害への備えに自宅でできることから取り組んだ.第2回ワークショップでは,参加者(カップル)はBefore-After形式で写真に記録した取り組み内容を示しながら,自分たちが何をどのように行ったか,実際にやってみて感じたり考えたりしたことを発表し合い,他のカップルと【情報共有・交換】を行った.各ワークショップの所要時間は1時間とし,同じ条件にするため講義や進行は研究者が一人で実施した.なお,参加者が1組の場合は,それ以前のワークショップで発表された内容を研究者が代わって紹介し共有した.

表1  教材(冊子)および第1回・第2回ワークショップの内容
冊子「もしもの時の安全と安心のために,災害に具体的に備えよう」の内容
〈はじめに〉
妊娠期の災害への備えの5つのポイント
1:身を守る
・災害時に危険になる箇所
・家の中の危険性/安全性を確認する視点
・家の中の安全対策の具体例
2:安全に避難する
・安全に避難するために事前に準備すること
・避難経路の安全性を確認する視点
・避難の判断に役立つ情報源 ・避難所の種類
・市町村から発令される避難情報の種類
・赤ちゃんと安全と避難する方法の一例
3:家族とつながる
・災害時に利用できる連絡手段
・家族が別々に避難した時のための準備
・通園通学している子どもが避難する場所や引き渡しのために事前に確認しておくこと
4:災害後の生活の変化に対応できるよう準備する
・電気,ガス,水が使用できない時に起こること
・代替品/代替方法
・被災後の生活基盤を取り戻すために必要な連絡先の一例
・持出物品を準備するための視点と具体例
・妊産褥婦や乳幼児に役立った物品と代替方法
5:災害時に自分の健康状態に気づき,対応できるよう準備する
・災害時の‘からだ’と‘こころ’の反応と対応
・災害時の妊婦や乳幼児を支援する機関や団体
・災害時に受診するための準備の視点
・病院に行く前に赤ちゃんが産まれそうになったら/産まれてしまった時の対応
☆付録:備蓄・非常用持ち出し物品の準備のヒント
第1回ワークショップの内容(60分) 所要時間
《オリエンテーション》挨拶・目的と方法の説明 3分
《セッション1:危険から身を守る》
【講義】落下,転倒,散乱,飛散等の視点から,災害時に危険になる箇所を伝える.安全対策の具体例を示す. 3分
【演習】自宅の間取り図に危険箇所を書き出し,物の落下,転倒,散乱,飛散等の視点から対応策を夫婦で話し合う.参加者間で共有し,課題の明確化を促す. 10分
《セッション2:安全に避難する》
【講義】災害発生時に陥りやすい心理,避難所の種類と機能,避難経路の安全性の視点,緊急情報の入手先,赤ちゃんを連れた避難方法について伝え,具体例を示す. 5分
【演習】ハザードマップを用い,自宅周辺で起こりうる災害,危険度,避難場所と経路を夫婦で確認する.参加者間で共有し,課題の明確化を促す. 10分
《セッション3:家族とつながる》
【演習】災害時に家族の安否がわかることの重要性と,災害時に使用可能な連絡手段について伝え,具体例を示す. 3分
【講義】災害時の連絡先,連絡手段,落ち合う場所を夫婦で話し合う.参加者間で共有し,課題の明確化を促す. 3分
《セッション4:災害後の生活に対応する》
【講義】災害が起きた時に生活(食事,排泄,衛生,清潔,保温)で起こること,これらへの対策について伝え,具体例を示す. 5分
【演習】電気,ガス,水が使用できない時に困ることを書き出し,代替品/方法を夫婦で話し合う.参加者間で共有し,課題の明確化を促す. 8分
《セッション5:災害時のこころとからだ》
【講義】災害時に妊産褥婦や乳幼児のこころとからだに起こり得ること,対応方法,過去の災害時における妊産褥婦の動向,病院に行く前に赤ちゃんが生まれそうになった時の対応,避難生活での健康管理と受診方法について伝える. 5分
《まとめ》質疑応答・次回までの課題および第2回ワークショップに関する説明 5分
第2回ワークショップの内容(60分)
【情報共有・交換】自宅で取り組んだ内容,方法,実施してみて感じたこと,気づいたこと,困ったことなどを発表,意見交換し,参加者間の学び合いを促す. 60分

本プログラムは,学習を「学習者自身が知識を構成していく過程」であり,「知識は状況に依存し」,「置かれている状況の中で知識を活用することに意味があり」,「共同体の中で相互作用を通じて行われる」とする構成主義の学習理論の考え方に立脚している(久保田,2013).なお,教材を含む教育プログラムの内容は,災害看護・母性看護学および教育学の研究者から助言を得た.

4. 調査項目

教育プログラムの効果の測定は,本研究用に作成した災害への備えの知識および行動に関する自記式質問紙を用いた.質問紙は,Blessman et al.(2007)Eisenman et al.(2009)Bourque et al.(1997)東京都(2006)高見ら(2011)西里ら(2011)小沼ら(2006)効果的な防災訓練と防災啓発提唱会議(2013)内閣府(2014)母性看護ケア方略の開発プロジェクト(2006),携帯電話会社ホームページ,日本未熟児新生児学会(2011)を参考に,冊子に含めた5要素:[危険から身を守る][安全に避難する][家族とつながる][災害後の生活に対応する][災害時のこころとからだ]に対応する58項目(うち行動は35項目,知識は23項目)とした.質問紙の内容妥当性は,災害・母性看護に精通し看護学博士号を有する専門家5名による質的評価および定量化評価を得た.内容妥当性係数(I-CVI)が0.80未満の2項目は削除し,I-CVI/AveとS-CVI/UAは0.8以上となった.行動については,「はい(1点)」「いいえ(0点)」の2件法,知識については,「正しい」「間違っている」「わからない」の3件法で回答を求め,正答の場合に1点を付与した.このほか,基本属性として,年齢,最終学歴,災害経験の有無,災害の種類と被害の程度,妊娠週数,妊娠歴,住居形態,居住年数,年収,同居家族,パートナーの年齢,子どもの年齢,就園/就学の有無を調査した.

5. データ収集と分析方法

研究対象者の選定は,医療施設の協力を得て行った.妊婦健康診査に来院した妊婦のうち,要件を満たし,研究に関心を示した人にくじを引いてもらい,割り付けに応じた研究内容を研究者が説明し協力を依頼した.研究協力への同意は,郵送による同意書の返信をもって確認した.

質問紙調査の時期は,介入群は冊子を配布する前(以下,初回調査),第1回ワークショップ受講から1ヵ月後(以下,1ヵ月後調査),第1回ワークショップ受講から3ヵ月後(以下,3ヵ月後調査),対照群は介入群と同様の冊子を配布する前,初回調査実施から1ヵ月後,初回調査実施から3ヵ月後であり,両群ともに計3回であった.回収はすべて郵送にて行った.データ収集期間は平成28年4月から平成29年1月であった.

対象者の属性は記述統計を行い,初回調査時の2群比較はStudent’sのt検定,χ2検定,Fisherの正確確率検定を行った.2群間で有意差がみられた項目は,これを説明変数に加えた重回帰分析を行い,知識および行動スコアの変化への影響を検討した.なお,各項目の重みについては,本研究終了時に測定したデータを用いて質問紙のα係数と主成分分析から求めたθ係数を算出し,知識項目の初回調査時はα係数.587,θ係数.645と若干低めであったが,その他のα係数は.766~.890と高めであり,θ係数がこれに近似していたことから,各項目が同じ重みで算出した合計点を分析に用いることができると判断した(表2).3時点の群間および交互作用の検定には,反復測定分散分析を用いた.また,スコア平均値の変化量の群間比較にはStudent’sのt検定を用いた.さらに,各項目の実施率と正答率の群間比較はχ2検定,Fisherの正確確率検定,群内比較はChochran Q検定,McMenar検定を行った.統計ソフトはSPSS ver. 22およびエクセル統計を用い,有意水準は5%未満とした.

表2  質問項目の信頼性係数
係数 行動35項目 知識23項目
初回調査 1ヵ月後調査 3ヵ月後調査 初回調査 1ヵ月後調査 3ヵ月後調査
α係数a .766 .870 .890 .587 .782 .810
θ係数b .840 .885 .902 .645 .786 .823

a:キューダー・リチャードソン公式20によるα係数 b:主成分分析により得られた第1固有値から求められる係数

6. 倫理的配慮

本研究は,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会(平成28年2月9日承認,博士13)の承認を得て実施した.また,研究協力者には研究目的,内容,プライバシー保護,途中辞退の自由,データ管理,結果の公表等について文書と口頭で説明し,同意書を交わした.また,対照群へは不利益がないよう介入群と同様の冊子を提供した.

Ⅴ. 結果

1. 対象者の概要

研究協力者は67名であり,介入群が22名,対照群が45名であった.研究開始当初は無作為に割り付けたが,介入群に不足が生じ,介入群のみ追加募集した.介入群の1名は体調不調のために途中で辞退し,対照群の5名は質問紙が未回収となったため,最終的に3回の質問紙調査を完遂した介入群21名,対照群40名を分析対象とした.表3に属性を示す.初回調査時に2群間で有意差がみられた項目は,「妊娠週数」(p = .01),「通院中の病院以外の産科・小児科の連絡先記入」の有無(p = .02),「持出物品の準備」の有無(p = .03),「胎動を感じない時の対応」に関する知識の正誤(p = .01)であった.

表3  研究協力者の属性
対象属性 介入群 n = 21 対照群 n = 40 群間比較 p
Mean SD/(%) Mean SD/(%) t値 χ2
妊婦の年齢a 33.9 SD5.6 32.8 SD4.2 .87 .39
妊娠週数a 初回調査時 17.8 SD2.1 19.4 SD2.3 2.57 .01
妊娠歴b あり 13 (61.9) 21 (52.5) .59
なし 8 (38.1) 19 (47.5)
最終学歴c 中学 0 (0.0) 1 (2.5) .85 .84
高校 3 (14.3) 7 (17.5)
専門・短大 9 (42.9) 18 (45.0)
大学 9 (42.9) 14 (35.0)
災害の経験b あり 18 (85.7) 36 (90.0) .69
なし 3 (14.3) 4 (10.0)
被害の有無c あり 12 (66.7) 28 (77.8) .51
なし 6 (33.3) 8 (22.2)
防災教育b あり 17 (81.0) 29 (72.5) .55
なし 4 (19.0) 11 (27.5)
同居家族c 10 (47.6) 19 (47.5) 3.50 .48
夫・親 0 (0.0) 1 (2.5)
夫・子 10 (47.6) 18 (45.0)
夫・子・親他 1 (4.8) 2 (5.0)
子どもの有無b なし 10 (47.6) 20 (50.0) 1.0
あり 11 (52.4) 20 (50.0)
夫の年齢a 36.5 SD7.2 34.2 SD5.2 1.44 .15
居住形態c 持家 12 (57.1) 24 (60.0) 1.0
賃貸 9 (42.9) 16 (40.0)

a:Unpaired Student’s t-test b:Fisherの直接法 c:χ2検定

2. 災害への備え行動および知識の変化

各時点におけるスコアの平均値および変化量を表4に示す.行動スコアの平均値を目的変数とし,教育プログラム受講の有無と各時点を説明変数とした反復測定の結果では,交互作用が有意であり(F = (1.79, 105.99) 56.18, p = .00),主効果は群(p = .00)と時点(p = .00)ともに有意であった.また,行動スコア平均値の変化量は,介入群は対照群に比べて有意に上昇していた(p = .00).

表4  各時点におけるスコアならびに変化量の平均値と検定結果
項目 時点 介入群 対照群 群間比較a 交互作用b 主効果c
変化量 n Mean SD n Mean SD p p 時点p 群間p
行動 初回 21 12.8 4.6 40 12.3 4.8 .69 .00 .00 .00
1ヵ月 22.7 4.3 15.9 6.1 .00
3ヵ月 26.4 3.9 17.0 6.2 .00
変化量1d 9.9 2.9 3.6 3.4 .00
変化量2e 3.7 2.8 1.1 2.6 .00
変化量3f 13.6 3.8 4.7 3.5 .00
知識 初回 21 11.6 3.3 40 11.6 2.7 .10 .01 .00 .04
1ヵ月 19.2 2.5 16.8 3.8 .01
3ヵ月 19.2 2.8 17.0 4.0 .03
変化量1d 7.7 2.9 5.3 3.7 .01
変化量2e –0.1 1.8 0.2 2.7 .74
変化量3f 7.6 3.5 5.5 3.8 .02

a.Unpaired Student’s t-test b.反復分散分析 c.Bonferroni法 d.変化量1:1カ月後調査スコア-初回調査スコア e.変化量2:3カ月後調査スコア-1カ月後調査スコア f.変化量3:3カ月後調査スコア-初回調査スコア

知識スコアの平均値を目的変数とした反復測定でも,交互作用が有意であり(F = (1.66, 99.00) 4.68,p = .01),主効果は群(p = .04)と時点(p = .00)に有意であった.また,知識スコア平均値の変化量は,1ヵ月後と3ヵ月後の差を除き,介入群は対照群に比べて有意に上昇していた(p = .01,02).

行動スコアの変化に及ぼす影響の強さをみるために,初回調査と3ヵ月後調査のスコア平均値の差を目的変数とし,初回調査時に群間差があった4因子および「教育プログラム受講」「大卒ダミー」「初回調査と3ヵ月後の知識スコア」の3因子を説明変数とした重回帰分析(減増法)を行った.その結果,行動スコアの変化には,「教育プログラム受講」(β^ = .78,p < .00)が最も強く,次いで「知識スコアの変化(初回~3ヵ月)」(β^ = .23,p = .00)が影響していた(表5).同様に,知識スコアの変化には,「行動スコアの変化(初回~3ヵ月)」(β^ = .37,p = .00)のみが有意であった.

表5  行動の変化(初回-3ヵ月後)を予測する回帰分析の結果
変数 B SEB β p 偏相関 トレランス VIF
教育プログラム受講 9.07 0.94 0.78 <.00** 0.79 0.81 1.23
初回調査時の妊娠週数 0.41 0.19 0.17 .03* 0.28 0.79 1.25
大卒ダミー 2.23 0.86 0.19 .01* 0.32 0.93 1.07
知識の変化(初回-3ヵ月後) 0.33 0.11 0.23 .00** 0.37 0.88 1.13
初回調査時の持出物品準備 1.52 0.86 0.13 .08 0.23 0.89 1.11
定数項 –8.51 4.00 .03*
F = 26.22** 調整済みR2 = .67

B:偏回帰係数 SEB:標準誤差 β:標準偏回帰係数 ** p < .01 * p < .05

行動35項目の実施率の変化を表6に示す.3ヵ月後調査で介入群にのみ有意に増加していた15項目のうち,9項目(Q6,Q12,Q13,Q19,Q22,Q28,Q31,Q33,Q34)は群間でも有意差がみられた.また,各群の前後比較で有意に増加していた12項目うち,8項目(Q7,Q15,Q16,Q17,Q18,Q25,Q30,Q32)は介入群で有意に増加していた.一方,5項目(Q5,Q11,Q24,Q27,Q29)は両群とも有意差がみとめられず,Q29以外は初回調査時に実施率が6割を超えていた.

表6  実施率の変化(備え行動35項目)
項目 介入群 n = 21(%) 郡内 対照群 n = 40(%) 郡内 群間
初回 1ヵ月後 3ヵ月後 p 多重比較 初回 1ヵ月後 3ヵ月後 p 多重比較 初回 1ヵ月 3ヵ月
危険から身を守る Q1.テレビ・パソコン類の落下防止対策 16(76.2) 20(95.2) 21(100) .02* 29(72.5) 33(82.5) 35(87.5) 1.0 .24 .15
Q2.冷蔵庫の転倒防止対策 1(4.8) 4(19.0) 8(38.1) .01* ①<③ 3(7.5) 3(7.5) 6(15.0) .37 1.0 .22 .06
Q3.電子レンジの落下防止対策 5(23.8) 13(61.9) 15(71.4) .00** ①<② ①<③ 12(30.0) 18(45.0) 18(45.0) .05 .78 .28 .06
Q4.背の高い家具の転倒防止対策 9(42.9) 15(71.4) 19(90.5) .00** ①<③ 27(67.5) 30(75.0) 31(77.5) .34 .10 .77 .30
Q5.大型家電・家具の安全な配置 15(71.4) 18(85.7) 18(85.7) .05 32(80.0) 32(80.0) 32(80.0) 1.0 .53 .73 .73
Q6.ガラスの飛散防止対策 2(9.5) 7(33.3) 7(33.3) .01* 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) .12 .00** .00**
Q7.身を守る安全な場所の確保 8(38.1) 16(76.2) 20(95.2) .00** ①<② ①<③ 1(27.5) 24(60.0) 21(52.5) .00** ①<② ①<③ .40 .26 .00**
Q9.寝室の履物の用意 3(14.3) 5(23.8) 4(19.0) .55 2(5.0) 3(7.5) 8(20.0) .01* .33 .11 1.0
安全に避難する Q8.自宅の避難経路の確保 14(66.7) 20(95.2) 20(95.2) .01* 32(80.0) 33(82.5) 34(85.0) .61 .35 .25 .41
Q11.分電盤のブレーカーの操作 14(66.7) 15(71.4) 17(81.0) .10 23(60.5) 27(67.5) 28(70.0) .34 .78 1.0 .54
Q12.自宅周辺の避難場所の確認 11(52.4) 20(95.2) 21(100) .00** ①<② ①<③ 25(62.5) 30(75.0) 28(70.0) .15 .59 .08 .01*
Q13.自宅近くの指定避難所の確認 9(42.9) 20(95.2) 20(95.2) .00** ①<② ①<③ 22(55.0) 25(62.5) 23(57.5) .50 .43 .01* .01*
Q14.避難経路の安全性の確認 5(23.8) 13(61.9) 14(66.7) .00** ①<② ①<③ 15(37.5) 19(47.5) 19(47.5) .26 .39 .42 .18
Q15.避難時の優先事項に関する家族間での確認 10(47.6) 19(90.5) 20(95.2) .00** ①<② ①<③ 17(42.5) 28(70.0) 28(70.0) .00** ①<② ①<③ .79 .11 .02*
Q16.ハザードマップによる揺れやすさの確認 7(33.3) 17(81.0) 18(85.7) .00** ①<② ①<③ 8(20.0) 17(42.5) 21(52.5) .00** ①<② ①<③ .35 .01* .01*
Q17.ハザ<ドマップによる浸水想定区域の確認 13(61.9) 20(95.2) 20(95.2) .00** ①<② ①<③ 17(42.5) 22(55.0) 24(60.0) .01* ①<③ .18 .00** .00**
Q18.居住地域の危険性に関する家族間で話し合い 7(33.3) 18(85.7) 21(100) .00** ①<② ①<③ 15(37.5) 19(47.5) 24(60.0) .01* ①<③ .79 .01* .00**
Q19.災害緊急速報の受信設定 14(66.7) 17(81.0) 21(100) .02* 29(72.5) 29(72.5) 32(80.0) .47 .77 .55 .04*
家族とつながる Q28.災害用伝言ダイヤルの体験 0(0.0) 3(14.3) 9(42.9) .00** ②<③ ①<③ 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) .04* .00**
Q29.携帯電話災害用伝言板の体験 2(9.5) 4(19.0) 7(33.3) .09 1(2.5) 2(5.0) 1(2.5) .37 .27 .17 .00**
Q31.緊急連絡リストの携帯 2(9.5) 15(71.4) 18(85.7) .00** ①<② ①<③ 2(5.0) 6(15.0) 7(17.5) .10 .60 .00** .00**
Q30.緊急連絡先の記入 2(9.5) 16(76.2) 19(90.5) .00** ①<② ①<③ 4(10.0) 12(30.0) 14(35.0) .00** ①<② ①<③ 1.0 .00** .00**
Q32.家族間の災害時連絡方法の取り決め 1(4.8) 16(76.2) 18(85.7) .00** ①<② ①<③ 4(10.0) 12(30.0) 15(37.5) .00** ①<② ①<③ .65 .00** .00**
Q33.家族で落ち合う場所の取り決め 7(33.3) 14(66.7) 19(90.5) .00** ①<② ①<③ 16(40.0) 19(47.5) 21(52.5) .09 .78 .18 .00**
災害後の生活に対応する Q10.懐中電灯の設置 7(33.3) 11(52.4) 14(66.7) .03* 12(30.0) 18(45.0) 19(47.5) .01* ①<② ①<③ .78 .60 .18
Q20.居住地域の指定避難所の備蓄内容の確認 0(0.0) 1(4.8) 8(38.1) .00** ①<② ①<③ 0(0.0) 1(2.5) 6(15.0) .01* ①<③ 1.0 .06
Q21.給水場所の確認 1(4.8) 2(9.5) 5(23.8) .04 3(8.1) 7(17.5) 10(25.0) .01* ①<③ 1.0 .48 1.0
Q34.災害用備蓄品の準備 16(76.2) 20(95.2) 21(100) .02* 21(52.5) 25(62.5) 27(67.5) .05 .16 .01* .01*
Q35.持ち出し物品の準備 13(61.9) 17(81.0) 19(90.5) .01* ①<③ 13(32.5) 20(50.0) 17(42.5) .06 .03* .03* .00*
災害時のこころとからだ Q22.地区の保健所・保健福祉センターの連絡先記入 0(0.0) 5(23.8) 12(57.1) .00** ①<② ①<③ 3(7.5) 3(7.5) 5(12.5) .67 .55 .11 .00*
Q23.通院病院以外の産科・小児科の連絡先記入 5(23.8) 11(52.4) 12(57.1) .01* ①<③ 1(2.5) 9(22.5) 11(27.5) .00** ①<② ①<③ .02* .02* .03*
Q24.マタニティカード・ステッカーの携帯 14(66.7) 15(71.4) 14(66.7) .61 21(52.5) 25(62.5) 24(60.0) .31 .41 .58 .78
Q25.母子健康手帳の携帯 10(47.6) 16(76.2) 19(90.5) .00** ①<② ①<③ 18(45.0) 24(60.0) 26(65.0) .02* 1.0 .26 .04*
Q26.妊婦健康診査での血液検査結果の携帯 5(23.8) 13(61.9) 15(71.4) .00** ①<② ①<③ 14(35.0) 22(55.0) 25(62.5) .02* ①<③ .56 .79 .58
Q27.妊娠経過と検査結果の把握 21(100) 21(100) 21(100) 39(97.5) 39(97.5) 39(97.5) 1.0 1.0 1.0 1.0

群内:Cochran Q test 多重比較:McNemar 注)多重比較はp < .05であったものを記載した ①:初回調査 ②:1ヵ月後調査 ③:3ヵ月後調査 群間:Fisher’s exact test ** p < .01 * p < .05

知識23項目の正答率の変化を表7に示す.各群の事後比較で有意な増加がみられた12項目のうち,4項目(Q1,Q2,Q4,Q23)は介入群で有意に増加していた.一方,7項目(Q5,Q8,Q9,Q16,Q17,Q18,Q19)は両群とも有意差がみとめられず,Q5以外は初回調査時に正答率が5割を超えていた.

表7  正答率の変化(知識23項目)
項目 介入群 n = 21(%) 群内 対照群 n = 40(%) 群内 群間
初回 1ヵ月後 3ヵ月後 p 多重比較 初回 1ヵ月後 3ヵ月後 p 多重比較 初回 1ヵ月 3カ月
危険から身を守る Q7.ガス使用中に地震が発生した時の対応 8(38.1) 12(57.1) 14(66.6) .03* 20(50.0) 34(85.0) 33(82.5) .00** ①<② ①<③ .40 .01* .38
Q5.飛散防止対策の方法 7(33.3) 8(38.1) 10(47.6) .50 12(30.0) 16(40.0) 16(40.0) .26 .97 .41 .29
Q8.室内でのガス漏れへの対応 14(66.7) 16(76.2) 16(76.2) .45 19(47.5) 22(55.0) 24(60.0) .31 .36 .17 .29
Q6.家具転倒防止対策の方法 8(38.1) 16(76.2) 15(71.4) .04* 15(37.5) 22(55.0) 21(52.5) .18 .39 .24 .43
安全に避難する Q9.集中豪雨の時の避難場所 19(90.5) 20(95.2) 19(90.4) .78 39(97.5) 39(97.5) 39(97.5) 1.0 .27 1.0 .33
Q12.赤ちゃんと避難する時の手段 19(90.5) 21(100) 21(100) .14 32(80.0) 38(95.0) 38(95.0) .02* .52 .54 .58
Q11.妊婦や子どもの一般的な避難開始の目安 6(28.6) 17(81.0) 18(85.7) .00** ①<② ①<③ 15(37.5) 28(70.0) 27(67.5) .00** ①<② ①<③ .96 .09 .62
家族とつながる Q1.災害用伝言ダイヤルの利用方法 6(28.6) 21(100) 21(100) .00** ①<② ①<③ 9(22.5) 31(77.5) 32(80.0) .00** ①<② ①<③ .38 .01* .04*
Q2.伝言ダイヤル・伝言板の体験日 1(4.8) 21(100) 21(100) .00** ①<② ①<③ 2(5.0) 23(57.5) 23(57.5) .00** ①<② ①<③ .90 .00** .00**
Q3.伝言ダイヤル・伝言板の保留期限 4(19.0) 14(66.7) 13(61.9) .01* ①<② ①<③ 4(10.0) 22(55.0) 19(47.5) .00** ①<② ①<③ .22 .00** .05
Q4.伝言ダイヤルの伝言数の制限 3(14.3) 20(95.2) 19(90.5) .00** ①<② ①<③ 7(17.5) 23(57.5) 25(62.5) .00** ①<② ①<③ .20 .01* .03*
災害後の生活に対応する Q10.備蓄飲料水の目安量 6(28.6) 18(85.7) 17(81.0) .00** ①<② ①<③ 15(37.5) 28(70.0) 27(67.5) .00** ①<② ①<③ .78 .13 .43
Q14.避難生活で不足しやすい栄養素の備え 15(71.4) 19(90.5) 20(95.2) .07 31(77.5) 39(97.5) 37(92.5) .00** ①<② .39 .27 1.0
Q15.避難袋の目安重量 5(23.8) 20(95.2) 17(81.0) .00** ①<② ①<③ 10(25.0) 24(60.0) 24(60.0) .00** ①<② ①<③ .08 .01* .12
Q16.調乳に使用する水の種類 12(57.1) 16(76.2) 17(81.0) .05 26(65.0) 27(67.5) 31(77.5) .22 .35 .44 .79
Q23.母乳やミルクが手に入らない時の代用 0(0) 11(52.4) 10(47.6) .00** ①<② ①<③ 1(2.5) 13(32.5) 11(27.5) .00** ①<② ①<③ .76 .03* .04*
災害時のこころとからだ Q13.原子力災害時における安定ヨウ素剤の優先者 5(23.8) 11(52.4) 11(52.4) .03* 7(17.5) 13(32.5) 18(45.0) .01* ①<③ .46 .23 .24
Q17.深部静脈血栓症の予防対策 20(95.2) 21(100) 21(100) .37 40(100) 40(100) 40(100) .34
Q18.災害後に心身の不調を感じた時の対応 21(100) 21(100) 21(100) 39(97.5) 39(97.5) 40(100) .61 1.0 1.0
Q19.災害時における産後うつのリスクと対応 21(100) 21(100) 21(100) 38(95.0) 40(100) 40(100) .14 .54
Q20.お腹の赤ちゃんが動かないと感じた時の対応 15(71.4) 19(90.5) 21(100) .02* 37(92.5) 40(100) 40(100) .05 .01* .12
Q21.自宅分娩になった時の赤ちゃんへの対応 15(71.4) 21(100) 20(95.2) .01* ①<② 24(60.0) 34(85.0) 35(87.5) .00** ①<② ①<③ .53 .09 .65
Q22.母乳が出ないと感じた時の対応 13(61.9) 20(95.2) 20(95.2) .00* ①<② ①<③ 26(65.0) 34(85.0) 36(90.0) .00** ①<② ①<③ .85 .22 .13

群内:Cochran Q test 多重比較:McNemar 注)多重比較はp < .05であったものを記載した ①:初回調査 ②:調査1ヵ月後 ③3ヵ月後調査 群間:Fisher’s exact test ** p < .01 * p < .05

Ⅵ. 考察

冊子のみを受け取った対照群に比べて,介入群の行動スコアが有意に増加し,また,その影響力からみても,本教育プログラムが行動を促したと考えられる.孫ら(2016)は,減災活動が低迷している原因の一つが,本来当事者となるべき人々の主体性の喪失にあり,課題の把握や解決方法の立案など一連のプロセスに関与できていないことを指摘している.稲垣・波多野(2001)は,学び手の能動性や有能さは,媒介となる活動を通して,学び手がその事項に取り組み,知識を構成していく中で培っていくものであると述べており,これを引き出すには知識を教えこむのではなく,学ぶべき事柄を学び手にとって身近なものに引き寄せ,媒介となる活動を考えだすことこそが重要となる.本プログラムは,参加者が災害への備えの視点をもち,自らの状況で何が必要であるかを考え,実際に取り組むという過程を経ており,これが災害への備えを自分事へと促し,主体性が発揮されて具体的な行動につながったと考える.特に,先行研究で実施率が低く(Yasunari et al., 2011),今回の初回調査時にも3割以下であった連絡方法(Q32)や落ち合う場所(Q33)の取り決めなど家族と調整を要する項目が8~9割に上昇したことは,パートナーとの間で課題に対する共通認識がつくられたことによる効果であったと考える.

また,介入群には及ばなかったが,対照群もハザードマップを用いた危険性の確認(Q16,Q17),地域にある災害関連の資源の確認(Q20,Q21),連絡先の記入(Q30,Q23),母子健康手帳や検査結果の携帯(Q25,Q26)など,自分ひとりでもできる項目が増加しており,知識を得るだけでも備えられる項目があるといえる.対照群の中には,家族間での確認や話し合いを要する項目(Q15,Q18,Q32)に取り組む人もいたが,実施率は3~7割と幅があり,情報を得るだけで行動に移せる人は限られていることが示唆された.

全般的には,行動変容は第1回ワークショップ後の1ヵ月間に顕著であり,この期間に,身近な人と,費用をかけずにできること(例えば,Q32,Q30,Q31,Q18,Q13,Q16,Q15,Q12)取り組む傾向にあった.これに対して,3ヵ月の時点では,自分で改めて調べること(Q20,Q22,Q33,Q19),体験すること(Q28),人手や道具を要するもの(Q4, Q2)などに取り組んでいた.つまり,取り組みやすいものから着手し,手間や時間を要するものは後になっている.そのため,備えを万全にしていくには,これに必要な時間的要因も考慮する必要があるといえる.さらに,今回の結果では介入後に少なくとも3ヵ月間は取り組みが継続されることが明らかとなった.

本プログラムは,災害への備えを促進させたが,参加への同意率は11.3%であり,低い参加率は課題となった.本プログラムの要件の一つである「パートナーの参加」は,備え行動を促すという点で効果的であったが,一方で参加しにくい要因になったと考える.これについては,参加するかどうかを検討する時点から動機づけを高める関わりの必要性が示唆された.今回は妊婦を介して文書でパートナーに参加を呼びかけたが,両親学級や健診に同行するパートナーに直接働きかける方法も考えらえる.また,提供方法の工夫として,パートナーも参加する両親学級の中に,パートナーとの調整を要する項目を含めたり,ICTを活用して自宅に居ながら参加できるようにするなどが考えられる.

今回の介入群のように,自らの意思でプログラムに参加し,これを災害に備える機会として活用できる人もいれば,関心が低い人もいる.また,知識と機会を利用し家族と一緒に取り組むことで促進される項目もあれば,知識を得るだけでも備えられる項目もある.すべての項目や,さまざまな備えの段階にある人を一つの方略で促進することは難しいため,各項目の備えやすさ/備えにくさを考慮し,また,備え行動の動機づけを段階的に捉えて,それぞれに応じて働きかけていくなど,さらなる検討が必要である.

Ⅶ. 研究の限界

本研究は当初ランダム化を行ったが,必要対象者数に満たなかったため介入群のみ追加募集しており,この点は結果を吟味する上での限界になっている.また,介入の特性上盲検化ができず,2群あるうちのどちらに割当てられたかを伝えた上で研究参加の可否を決定できるようにしたことから,選択バイアスは否めない.さらに,介入群の取り組み内容は記録や発表内容で確認可能な部分もあったが,対照群は自己報告のみであり,社会的望ましさのバイアスが働いた可能性は否定できない.また,質問紙は行動の有無のみを測定しており,その程度については確認できておらず,さらなる検討が必要である.

Ⅷ. 結論

災害への備えに必要な知識を習得し,妊婦がパートナーと一緒にその知識を活用して自分(たち)の状況で必要な備えについて考え,実施し,やったことに基づいて参加者間で学び合う教育プログラムは,妊婦の災害への備えの行動変容に有用であると示唆された.

付記:本研究は,平成28年度兵庫県立大学看護学研究科に提出した博士論文に加筆,修正したものである.

謝辞:研究にご協力いただきました皆様および研究協力施設の皆様に心より感謝申し上げます.また研究の全過程においてご指導くださいました山本あい子教授,高木廣文教授,増野園惠教授,池田雅則教授に深謝いたします.なお,本研究の一部は文部科学省科研究費助成金(15K11558)を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2020 公益社団法人日本看護科学学会
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