目的:一般病棟の認知障害高齢者に対する入院時から身体拘束の回避と解除を念頭においた転倒予防ケア行動評価尺度を開発し,妥当性と信頼性を検討した.
方法:全国の一般病棟看護師1,128名を対象に,尺度原案54項目の質問紙調査を実施した.分析対象を303名とした.
結果:探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)の結果,22項目5因子構造となり,【入院時から納得を目指す接近】【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】【その人らしさを尊重するケア者の態度】【拘束回避の転倒予防技術】【その人らしい活動支援】と命名した.モデル適合度はCFI = .949,RMSEA = .061,基準関連妥当性 .792,Cronbach α係数 .947,再テスト信頼性係数 .783であった.
結論:本尺度は,妥当性・信頼性を確認され,看護師がチームで認知障害高齢者への身体拘束回避の転倒予防ケアを継続する上で活用可能と示唆された.
Aim: The present study aimed to develop a fall-prevention care evaluation scale for older adults with cognitive impairment in a general ward from the time of admission to avoid physical restraint and to examine the scale’s validity and reliability.
Methods: We asked 1128 nurses in general wards across Japan to take a self-administered anonymous questionnaire survey comprising scale of the 54 items. We received 308 responses, a response rate of 27.3%. We analyzed 303 nurses.
Results: Our exploratory factor analysis (principal factor method: promax rotation) revealed a structure comprised of 5 factors and 22 items; the former were defined as [an approach that aims to convince from the time of hospitalization], [collaborative fall prevention that avoids the use of physical restraint], [care attitude that respects that person], [fall prevention technology to avoid restraint], and [Supporting activities that respect that person]. Model goodness-of-fit indices were as follows: CFI = .949, RMSEA = .061, a criterion-related validity of .792, a Cronbach’s alpha of .947, and a test-retest reliability coefficient of .783.
Conclusions: The above results show the validity and reliability of this scale. It was suggested that this scale could be used by a team of nurses to conduct fall-prevention care for the older adults with cognitive impairment to avoid physical restraints.
近年,病院の一般病棟では入院高齢者の17.5%に認知症,52.3%にその疑いが指摘されており(古田,2015),認知障害高齢者は約70%に上る.認知障害高齢者の転倒率は健常者と比べ8倍(Allan et al., 2009),大腿骨近位部骨折の発生率は2~3倍(Guo et al., 1998)と高い.要因には認知機能障害,運動障害,行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD),せん妄,向精神薬の副作用がある.予防に有効とされる多因子介入の転倒減少例が少ない(Vlaeyen et al., 2017)中,転倒リスクと安全確保を理由に,全国の一般病棟認知障害高齢者の44.5%に身体拘束(以下,拘束)が行われている(Nakanishi et al., 2018).拘束は,身体的・精神的・社会的弊害がありながら,看護師が緊急やむを得ないと判断した際は主治医の許可のもと一時的に認められている.しかし,解除されない,解除しても次の勤務で再拘束が行なわれる等,つなぎのある回避・解除となるための対策が求められる(臨床倫理ガイドライン検討委員会,2015).認知障害高齢者のBPSDやせん妄は拘束の主な理由とされ,拘束がBPSDやせん妄を誘発し(粟生田,2014)転倒リスクを高める連環があることから,入院時から拘束回避を念頭においたつなぎのある転倒予防ケアが必要である.
研究者が行った,拘束回避で転倒を予防する熟練看護師の思考と実践プロセスの研究(牧野・加藤,2019)では,入院時から,言語的コミュニケーション能力の低下から表出が難しい患者の不快や不安をアセスメントし,潜在的なニーズを満たして拘束を避けBPSDやせん妄を予防する中で,患者との信頼関係を形成し,治療や環境起因のストレスに配慮した環境を整え,活動を見守る転倒予防ケアを行っていた.一方で,行った拘束回避が継続されずに,勤務交代で拘束が行われる現状が明らかになった.背景には,認知障害高齢者の潜在的なニーズのアセスメント不足(鈴木ら,2014),BPSDやせん妄への対応困難から生じる苦手意識(小田・川島,2016),拘束をせずに転倒して法的責任を追及される懸念,認知障害高齢者には拘束具を準備し,予防的に拘束する病棟の実情(和田,2019)等が影響すると考えられた.このようなケアの問題点を把握する方法として尺度の活用があり,認知障害高齢者の転倒予防尺度には,有効性が報告された転倒予防看護質指標(鈴木ら,2014)や,認知症看護実践評価尺度(鈴木ら,2016)がある.それらはPerson-Centred Care(PCC)の概念を基盤にBPSDの発症予防等を枠組みにし,認知障害高齢者の生活の質を尊重した貴重な尺度である.これらの尺度はBPSDを発症させないケア提供は共通する部分ではあるが,前者は拘束回避に,後者は転倒予防に特化していない.入院時からつなぎのある拘束回避の転倒予防を実践するには,熟練看護師が行う拘束の回避・解除を念頭においた転倒予防ケアのプロセスを一体化し,他の看護師が踏襲できるように具体的な行動として提示した尺度が必要であると考えた.
本研究は,一般病棟の認知障害高齢者に対して,入院時から拘束の回避・解除を念頭においた転倒予防ケア行動(以下,拘束回避の転倒予防行動と略す)を評価する尺度を開発し,妥当性と信頼性を検討することを目的とした.本尺度は,認知障害高齢者に苦手意識や不安をもつ看護師でも,熟練看護師のプロセスを踏襲するツールとして活用できるため,入院当初からBPSDやせん妄発症の引き金となる拘束の回避を念頭においた転倒予防ケア行動を組織的に実現することにつながると考えた.行動の頻度を得点化することで,現状の客観視につながり,改善点がより明確になる.拘束の回避・解除に向けての変化の流れを確認でき,病棟全体の組織的な振り返りにつながる指標となると考えた.
認知障害高齢者は,認知症または軽度認知障害と診断された人および,せん妄や統合失調症による認知機能障害,看護師が家族からの情報や患者との会話や観察から経験的に認知機能の低下や障害があると判断した人を含む65歳以上の高齢者とした.
研究者らは,認知障害高齢者の入院時より拘束を回避して転倒を予防する熟練看護師の思考と実践行動のプロセスについて質的帰納的研究(牧野・加藤,2019)を行い,5カテゴリを明らかにした.この結果を基軸に,医学中央雑誌Web版(ver. 5)とCiNiiを用いて,‘転倒予防’‘認知症’‘拘束’‘看護実践力’をキーワードに2008~18年の原著論文で成果のあった先行研究から,拘束回避の転倒予防行動を表す概念として6概念のプロセス,すなわち患者の入院時より[拘束の回避技術]を導入して[転倒リスクアセスメント]を行い,[チームでの転倒予防連携]を並行しながら,[PCCを基盤としたケア]を用いて[納得を目指した信頼形成][最善のケアを模索]を行う流れを見出した.これらの概念のコードから,抽象度を揃えた拘束回避の転倒予防行動に関する111の質問項目を作成した.項目は熟練看護師の実践をプロセス順に提示することで,順序を把握して実施しやすい構成にした.次に,認知症看護,拘束解除,転倒予防に関する専門家8名を交え,質問項目の内容妥当性を検討して68項目に絞った.さらに,3施設の一般病棟看護師5名と看護師長2名の意見を求め,表面妥当性を検討して文章表現を修正した.4施設304名で予備調査を行い,天井・床効果のみられた項目を削除し,最終原案を54項目とした.
2. 本調査全国の看護師に無記名自記式質問紙調査と,2週間後の再テストを実施した.
1) 対象施設および対象者対象施設は,一般社団法人日本病院会のホームページに掲載された2,481の病院を,7地域(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国・四国,九州)に分け,病床数別に層化抽出(100~299床で2施設,300~499床で2施設,500床以上で1施設)を行い,各地域から5~8施設計44施設を選定して協力を依頼した.同意を得た施設への配布は,偏りを避け最大4病棟までとした.因子分析の対象数は項目の約5~10倍(松尾・中村,2002)とされる.54項目では対象者270~540名,全国調査の回収率は約30%と考え,1,000部以上を配布目標に,選定と依頼を繰り返した.対象者は一般病棟の看護師であり,除外対象者は,看護師長および,小児科,産科,集中治療室,救命救急部,精神科,緩和ケア,回復期リハビリテーション病棟,地域包括ケア病棟の看護師とした.
2) データ収集方法・期間同意の得られた施設の看護部長に,病棟の選定と,病棟単位で全数配布を依頼した.対象者には,文書にて調査目的と任意参加での協力,回答時期は1回目を1か月以内,2回目を1回目の2週間後と依頼した.同一の通し番号を付した2回分の無記名の質問紙と返信用封筒一式を配布し,個別郵送法にて回収した.調査期間は2019年7~同年11月であった.
3) 調査項目本尺度の54項目について,実施頻度を「1:ほとんど,2:あまり行っていない」「3:時々,4:たびたび,5:ほとんど,6:いつも行っている」の6件法で回答を求めた.基本属性は,性別,年齢,臨床経験年数,職位,所属病棟と特徴,認知障害高齢者への看護経験年数,認知症に関連する資格や学習経験内容を調査した.
本尺度の影響要因として,担当した認知障害高齢者が転倒・骨折を除く損傷・骨折した経験,実際に自分の裁量で認知障害高齢者に拘束を行わないで転倒予防を行っているかについて,「1:施設のマニュアル等があり行えない」と「2:滅多に行っていない」~「6:頻繁に行っている」の6件法で確認した.看護師の意識として,拘束しないで転倒予防できる,転倒予防のためなら拘束はやむを得ない,転倒は必ず予防しなくてはならないと思うか,病棟への意識として,責任を問われるので拘束解除したくない,拘束をしないと次の勤務帯の看護師に迷惑がかかると思うかについて,それぞれ「1:非常に思う」~「4:全く思わない」の4件法で確認した.
基準関連妥当性は,看護問題対応行動自己評価尺度(OPSN)(定廣・山下,2002)で確認した.本尺度の枠組みは熟練看護師の実践力を基準にしている.OPSNは看護問題の解決や回避を目指して適切に対応する看護師の行動の質を測定する尺度であり,看護実践能力と直結する.OPSNが高い看護師は,問題解決に向けての行動力が高いことから,拘束回避の転倒予防行動の実施頻度も高いと予測した.OPSNは構成概念妥当性と信頼性が確保されている.使用に際して許可を得た.
3. 分析方法54項目について,記述統計による項目分析を行った.項目削除の判断基準は,天井効果は(平均+標準偏差)>6,床効果は(平均-標準偏差)<1,Item-Total相関(I-T相関)はr < .400,Good-Poor分析(G-P分析)は上位群と下位群の有意差がないこと,項目間相関はr > .800として検討した.次に,整理した項目で探索的因子分析を行った.共通性と因子負荷量.400以下を基準に削除項目を検討し,得られた項目について確認的因子分析を行った.
最終的に得られた因子構造の妥当性は,構成概念,基準関連,判別妥当性で検討した.構成概念妥当性はモデル適合度指標(GFI: goodness of fit index, AGFI: adjusted GFI, CFI: comparative fit index, RMSEA: root mean square error of approximation, AIC: Akaike’s Information Criterion)を算出した.尺度合計分布の正規性をShapiro-Wilk検定で確認した後,基準関連妥当性はr > .700を基準に既存尺度OPSN得点とのPearsonの相関係数を確認した.実際に自分の裁量で拘束を行わない転倒予防を行っている頻度では,頻繁に・わりに・時々行っているを「高い群」,たまにしか・めったに行っていないを「低い群」,「マニュアル等があり行えない群」で一元配置分散分析を行い,尺度得点の有意差ありを基準に判別的妥当性を検討した.信頼性は,内的整合性,再現性と安定性について検討した.内的整合性はα > .700を基準にCronbach α係数を確認した.再現性と安定性は,r > .700を基準に再テスト信頼性係数を算出した.
看護職の属性別の傾向は,属性の2群は独立したサンプルのt検定,3群以上は一元配置分散分析を行った.統計処理は,統計用ソフトIBM SPSS Statistics ver.23,AMOS 23を使用した.
4. 倫理的配慮富山大学人間を対象とし医療を目的としない研究倫理審査委員会の承認(J2019002)を受けた.対象施設の看護部長に,書面による同意を得た.対象看護師に,研究の目的・意義・方法,参加への自由意思,結果の公表において個人情報の保護を厳守することを文書で説明し,個別郵送法による質問紙の提出にて同意の意思を確認した.
同意が得られた22都道府県22施設の1,128名の看護師に質問紙を郵送し,308名(回収率27.3%)から回答を得た.欠損を除き1回目303名(有効回答率98.4%),2回目133名(有効回答率98.5%)を分析対象とした.
1. 対象者の属性(表1,2)回答者の属性を表1に示す.年齢は37.9 ± 10.0歳,臨床経験は14.7 ± 9.8年,認知障害高齢者への看護経験は5年以上が204名(67.3%)であった.認知症に関連する有資格者は15名(4.9%),学習経験ありは262名(85.9%),担当した認知障害高齢者の転倒経験ありは268名(88.4%)であった.実際に自分の裁量で拘束を行わないで転倒予防を行っている頻度は,「頻繁に,わりに,時々行っている」は186名(61.4%),「たまにしか,滅多に行っていない」は39名(12.9%),「施設のマニュアル等があり,自分の裁量で行えない」は68名(22.4%)であった.
項目 | 内訳 | n | (%) |
---|---|---|---|
性別 | 男 | 18 | (5.9) |
女 | 285 | (94.1) | |
年齢(歳) | 平均±標準偏差 37.88 ± 9.98 | 範囲(21~62) | |
20歳代 | 87 | (28.7) | |
30歳代 | 76 | (25.1) | |
40歳代 | 101 | (33.3) | |
50歳代以上 | 39 | (12.9) | |
臨床経験年数(年) | 平均±標準偏差 14.69 ± 9.76 | 範囲(0.25~37) | |
1年未満 | 4 | (1.3) | |
1~5年未満 | 57 | (18.8) | |
5~10年未満 | 51 | (16.8) | |
10~15年未満 | 41 | (13.5) | |
15年以上 | 150 | (49.5) | |
職位 | スタッフ | 207 | (68.3) |
チームリーダー | 19 | (6.2) | |
主任 | 35 | (11.5) | |
副看護師長 | 37 | (12.1) | |
所属病棟 | 内科系 | 91 | (30.0) |
外科系 | 74 | (24.4) | |
内科外科系混合病棟 | 134 | (44.2) | |
所属病棟の特徴 | 超急性期 | 11 | (3.6) |
急性期 | 228 | (75.2) | |
亜急性期・慢性期 | 35 | (11.6) | |
認知障害高齢者への看護経験年数 | 1年未満 | 24 | (7.9) |
1~5年未満 | 65 | (21.5) | |
5~10年未満 | 59 | (19.5) | |
10~15年未満 | 51 | (16.8) | |
15年以上 | 94 | (31.0) | |
認知症に関連する資格注1) | あり | 15 | (4.9) |
なし | 270 | (89.1) | |
認知症に関する学習経験 | あり | 262 | (85.9) |
なし | 43 | (14.1) | |
担当した認知障害高齢者が転倒した経験 | あり | 268 | (88.4) |
なし | 34 | (11.2) | |
担当した認知障害高齢者が転倒により骨折を除く損傷をした経験 | あり | 117 | (38.6) |
なし | 151 | (49.8) | |
担当した認知障害高齢者が転倒により骨折した経験 | あり | 27 | (8.9) |
なし | 241 | (79.5) | |
実際に自分の裁量で身体拘束を行わないで転倒予防を行っている頻度 | 頻繁に行っている | 30 | (9.9) |
わりに行っている | 77 | (25.4) | |
時々行っている | 79 | (26.1) | |
たまにしか行っていない | 28 | (9.2) | |
めったに行っていない | 11 | (3.6) | |
マニュアル等があり行えない | 68 | (22.4) |
無回答は除く
注1)資格とは,専門看護師(老人看護・精神看護),認知症看護認定看護師,認知症ケア専門士他を指す.
対象者の属性 | n | (%) | 尺度合計 | p値 | |
---|---|---|---|---|---|
Mean | SD | ||||
認知症に関連する資格注1) | |||||
あり | 15 | (4.9) | 111.07 | 13.42 | .000 |
なし | 270 | (89.1) | 94.37 | 15.95 | |
学習経験の内容 | |||||
パーソン・センタード・ケア(PCC) | |||||
あり | 202 | (66.7) | 105.72 | 14.15 | .018 |
なし | 60 | (19.8) | 94.58 | 16.31 | |
転倒予防 | |||||
あり | 120 | (39.6) | 98.67 | 16.74 | .009 |
なし | 142 | (46.9) | 92.59 | 15.62 | |
身体拘束の弊害 | |||||
あり | 79 | (26.1) | 99.85 | 16.92 | .012 |
なし | 183 | (60.4) | 93.40 | 15.82 | |
看護師の意識 | |||||
身体拘束をしないで転倒予防できると思う | |||||
思う | 217 | (71.6) | 96.76 | 16.20 | .012 |
思わない | 83 | (27.4) | 91.51 | 15.93 | |
転倒予防のためなら身体拘束はやむを得ないと思う | |||||
思わない | 108 | (35.6) | 97.89 | 14.75 | .036 |
思う | 195 | (64.4) | 93.83 | 16.81 | |
転倒は必ず予防しなくてはならないと思う | |||||
思う | 258 | (85.1) | 96.25 | 16.06 | .005 |
思わない | 45 | (14.9) | 89.67 | 16.04 | |
病棟への意識 | |||||
責任を問われるので身体拘束を解除したくないと思う | |||||
思わない | 97 | (32.0) | 99.10 | 15.63 | .005 |
思う | 204 | (67.3) | 93.51 | 16.15 | |
拘束しないと次の勤務の看護師に迷惑がかかると思う | |||||
思わない | 94 | (31.0) | 98.06 | 16.01 | .044 |
思う | 208 | (68.6) | 94.01 | 16.21 | |
自分の裁量で身体拘束を行わないで転倒予防を行っている頻度 | |||||
高い群 | 186 | (61.4) | 97.42 | 16.35 | .000 |
低い群 | 39 | (12.9) | 84.03 | 15.39 | |
マニュアル等があり行えない群 | 68 | (22.4) | 96.82 | 14.40 |
無回答は除外した.対応のないt検定,一元配置分散分析.
注1)資格とは,専門看護師(老人看護・精神看護),認知症看護認定看護師,認知症ケア専門士他を指す.
看護師の意識と病棟への意識を表2に示す.‘拘束をしないで転倒予防できると思う’は217名(71.6%),‘転倒予防のためなら拘束はやむを得ないと思う’は195名(64.4%),‘転倒は必ず予防しなくてはならないと思う’は258名(85.1%),‘責任を問われるので拘束解除したくないと思う’は204名(67.3%),‘拘束しないと次の看護師に迷惑と思う’は208名(68.6%)であった.
2. 本尺度の因子構造(表3)54項目の回答分布では,「4:たびたび行っている」の回答が23.8~40.4%と最も多く,次に「5:ほとんど行っている」が28.7~43.6%を占めた.天井・床効果を示す項目はなかった.I-T相関では全項目r = .537~.786(p < .001)と正の相関,G-P分析では全項目で得点の上位群と下位群に有意差(p < .001)を認めた.項目間相関でr > .800を示す8組14項目の類似性を比較検討して5項目を削除し,49項目となった.次に探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った.6因子で収束せず,スクリープロットの傾きから5因子と仮定した.因子負荷量が低い1項目を削除し,48項目で収束した.しかし,確認的因子分析ではモデル適合度が低く,モデルの改良を要した.そこで,これ以上適合度が改善しないと確認できるまで,パス係数が有意でない22項目と,因子負荷量が基準に満たない4項目を削除した.本尺度は22項目5因子(表3)となり,全分散を説明する割合は64.12%を示した.
因子〈因子名〉クロンバックα係数 | 得点 | 因子負荷量 | 共通性 | I-T相関 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
質問項目の内容 | 平均値 | 標準偏差 | 最小 | 最大 | 因子1 | 因子2 | 因子3 | 因子4 | 因子5 | |||||
因子1【その人らしい活動支援】α = .905 | 18.98 | 5.21 | 5 | 30 | ||||||||||
45 | 少しでも日常生活の中でできること,楽しめることを探してケアを工夫している | 3.86 | 1.22 | .910 | .023 | .069 | –.100 | –.011 | .784 | .756 | *** | |||
43 | これまでの行動や生活歴から得意なことで生活のリズムを作っている | 3.69 | 1.25 | .885 | .014 | –.124 | .048 | –.029 | .710 | .706 | *** | |||
41 | 周囲の人と関わる機会を設けている | 3.76 | 1.22 | .884 | –.015 | .037 | –.023 | –.075 | .686 | .697 | *** | |||
37 | 趣味や関心に基づいて移動したい気持ちや,散歩などの機会を支援している | 3.75 | 1.24 | .626 | –.030 | –.015 | .080 | .196 | .655 | .715 | *** | |||
47 | 日々の転倒予防ケアに新しく学んだ知識や技術を取り入れている | 3.85 | 1.17 | .544 | .016 | .180 | .052 | .037 | .544 | .737 | *** | |||
因子2【入院時から納得を目指す接近】α = .877 | 23.81 | 3.82 | 13 | 30 | *** | |||||||||
5 | 入院時に,本人の意向を確認するような声掛けや応対を行っている | 4.67 | 0.99 | –.020 | .902 | –.061 | –.015 | .064 | .765 | .730 | *** | |||
4 | 入院時に,普段の様子を情報収集して接する糸口をつかむようにしている | 4.51 | 1.00 | .033 | .852 | –.119 | –.060 | .045 | .609 | .641 | *** | |||
2 | 入院時に,治療やケアの必要性についての理解状況をアセスメントしている | 4.90 | 0.91 | –.049 | .689 | .169 | –.098 | –.043 | .488 | .580 | *** | |||
6 | 入院時に,必要な情報を何度でも伝えて,安心できるようにしている | 4.65 | 0.94 | .098 | .630 | –.049 | .135 | .050 | .623 | .743 | *** | |||
8 | 入院時に,戸惑いや落ち着きのない様子がないか観察している | 5.02 | 0.86 | –.019 | .599 | .180 | .136 | –.104 | .595 | .696 | *** | |||
因子3【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】α = .863 | 24.00 | 3.81 | 12 | 30 | *** | |||||||||
18 | 身体拘束が解除出来ない原因を明らかにしている | 4.62 | 1.03 | –.043 | –.159 | .930 | .006 | .044 | .695 | .626 | *** | |||
17 | 身体拘束実施後も,一時的に解除して観察し必要性を再評価している | 4.72 | 1.04 | .135 | –.021 | .715 | –.043 | –.022 | .549 | .611 | *** | |||
19 | 互いの忙しさ・仕事のペース・限界を把握し,チームメンバーが協力して転倒予防している | 4.71 | 0.96 | –.067 | .079 | .631 | –.013 | .112 | .486 | .601 | *** | |||
20 | 転倒につながる重要な情報をチームメンバー内へ伝達している | 5.00 | 0.86 | –.038 | .208 | .599 | .083 | –.027 | .609 | .691 | *** | |||
16 | 疼痛をアセスメントし,早期に取り除くケアを行っている | 4.89 | 0.87 | .096 | .176 | .538 | .073 | –.040 | .584 | .703 | *** | |||
因子4【その人らしさを尊重するケア者の態度】α = .913 | 17.42 | 3.82 | 6 | 24 | *** | |||||||||
25 | 「家に帰りたい」の発言には,説得せず気持ちを汲み取るよう傾聴している | 4.39 | 1.02 | .001 | .009 | –.075 | .916 | –.027 | .735 | .723 | *** | |||
24 | BPSDを発症させない関わりを意識して行っている | 4.18 | 1.18 | .078 | –.107 | .044 | .832 | .050 | .772 | .761 | *** | |||
23 | 自信喪失や窮地に追い込まれたりしないように対応している | 4.57 | 0.99 | –.079 | .027 | .144 | .816 | –.051 | .738 | .741 | *** | |||
27 | 矛盾した内容を伝えてきても寄り添い,言葉の裏に隠された思いを汲み取るようにしている | 4.25 | 1.07 | .083 | .075 | .015 | .703 | .028 | .713 | .782 | *** | |||
因子5【拘束回避の転倒予防技術】α = .796 | 11.05 | 3.17 | 4 | 18 | *** | |||||||||
32 | 入院時に患者が落ち着くまで,誰かが傍に居るように配慮をしている | 3.64 | 1.19 | .007 | .023 | –.024 | –.019 | .776 | .596 | .552 | *** | |||
31 | 身体拘束を回避して転倒予防に取り組んでいる | 3.95 | 1.20 | –.045 | .025 | .194 | –.073 | .669 | .506 | .573 | *** | |||
33 | なじみの物を配置し,入院前の生活環境に近づけている | 3.45 | 1.35 | .188 | –.010 | –.075 | .096 | .648 | .663 | .652 | *** | |||
22項目全体 | 95.03 | 16.03 | 50 | 132 | ||||||||||
因子間相関 | 第1因子 | 1 | ||||||||||||
第2因子 | .567 | 1 | ||||||||||||
第3因子 | .543 | .663 | 1 | |||||||||||
第4因子 | .693 | .675 | .689 | 1 | ||||||||||
第5因子 | .710 | .503 | .450 | .578 | 1 |
因子抽出法:主因子法(プロマックス回転),尺度全体(Cronbach α = .947),全分散を説明する割合 64.118%,*** p < .001
22項目の得点分布を表3に示す.尺度合計の平均±標準偏差は95.03 ± 16.03(50~132)点であり,正規分布した.因子間相関はr = .450~.710と正の相関を認めた.
各因子の命名を以下に示す.因子1は,本人ができることや得意なことで生活リズムを作り,移動や散歩などの活動を支援する項目で構成され,【その人らしい活動支援】とした.因子2は,本人が納得や安心できる支援を行う項目で構成され,【入院時から納得を目指す接近】とした.因子3は,チームで拘束を解除できない原因を探り,解除や回避の追及のために協力する項目で構成され,【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】とした.因子4は,説得せず共感することや,窮地に追い込まない対応等PCCを表す項目で構成され,【その人らしさを尊重するケア者の態度】とした.因子5は,傍にいる,入院前環境に近づけるなどの拘束回避技術で構成され,【拘束回避の転倒予防技術】とした.
3. 妥当性と信頼性の検討(図1)モデル適合度指標(図1)は,GFI = .886,AGFI = .855,CFI = .949,RMSEA = .061であった.OPSNとのPearsonの相関係数はr = .792(p < .001)であった.Cronbach α係数(表3)は,全体でα = .947,各因子でα = .796~.905(p < .001)であった.再テスト信頼性係数は,全体でr = .783,因子1~5は順に,r = .772,.645,.582,.726,.703(p < .001)であった.
「一般病棟の認知障害高齢者に対する入院時から身体拘束の回避・解除を念頭においた転倒予防ケア行動評価尺度」確認的因子分析の結果
尺度合計点に有意差を認めた属性のみ表2に示す.対象者の性別・臨床経験年数・職位・所属病棟および,患者が転倒・骨折を除く損傷・骨折した経験,では有意差を認めなかった.尺度合計が有意に高い属性は,認知症に関連する有資格者(p < .001),PCC(p < .05)・転倒予防(p < .01)・拘束の弊害(p < .05)に関する学習経験者,看護師の意識では,‘拘束をしないで転倒予防できる’と思う群(p < .05),‘転倒予防のためなら拘束はやむを得ない’と思わない群(p < .05),‘転倒は必ず予防しなくてはならない’と思う群(p < .01),病棟への意識では‘責任を問われるので拘束解除したくない’と思わない群(p < .01),‘拘束しないと次の勤務の看護師に迷惑がかかる’と思わない群(p < .05),実際に自分の裁量で拘束を行わないで転倒予防を行っている頻度が高い群,マニュアル等があり行えない群(p < .001)であった.
平成28年衛生行政報告例(厚生労働省,2016)では,男性看護師の割合が7.3%,年齢構成は20歳代21.1%,30歳代26.7%,40歳代28.2%,50歳代17.8%であり,本研究の標本は性別や年齢構成において,全国分布との類似傾向が確認できた.よって,母集団を代表するデータとして妥当と考える.
2. 本尺度の妥当性と信頼性の検討構成概念妥当性は,探索的因子分析と確認的因子分析より5因子22項目の構造と検証され,全体の説明割合は64.12%あった.合計得点は正規分布であり,質問内容やリッカートの6段階が判別に適切であったと考える.適合度指標は,GFI,AGFI,CFIは .900以上,RMSEは .050以下は当てはまりが良く,.100以上は悪い(小塩,2018).本尺度は,CFI = .949と基準を満たし,GFI = .886,AGFI = .855,RMSEA = .061は基準に近似であり許容範囲内であることから,総合的に妥当と判断した.看護問題に適切に対応する看護師の行動の質を自己評価するOPSN尺度と,正の相関が確認できたことは,本尺度が実践行動の質を測る尺度であることの裏付けになり,基準関連妥当性が確認できたと考える.判別的妥当性は,施設のマニュアルがあり行えないものを除き,実際に自分の裁量で拘束を行わない転倒予防を行っている頻度が高い群の尺度合計得点が有意に高いことから,尺度の判別力を確認できたと考える.
信頼性は,Cronbach α係数が尺度全体,各因子共に基準を満たすことから,内的整合性が確認できたと考える.再テスト信頼性係数は,因子2【入院時から納得を目指す接近】が .645,因子3【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】が .582と基準を下回った.因子2は1回目の内容が影響した可能性,因子3は状況により変動する可能性が考えられた.尺度全体では .783と良好であり,全体の再現性や安定性は確認できたため,信頼性は確認されたと判断した.
3. 本尺度の因子構造因子1【その人らしい活動支援】は,PCCを基盤としたケアで構成された.因子寄与率は最も高いが全項目の平均値は3点台と低く,拘束回避の転倒予防行動として重要であるが実施頻度が低いことが推察された.患者が安全に活動できる環境整備や,見守る人員配置に課題のある施設が多いことが考えられた.複数病棟の認知障害高齢者を専属看護師で見守る院内デイケア活動(大澤・内掘,2006)のように,安全に活動でき見守る仕組みを組織的に構築して,拘束ではなくその人らしい活動を支援することが,治療ストレスを緩和し,患者を落ち着ける状態に導き(丸岡ら,2018)転倒予防につながると考える.
因子2【入院時から納得を目指す接近】は,納得を目指した信頼形成と転倒リスクアセスメントで構成された.急性期病棟では,認知障害高齢者に対する共感の姿勢が足りないこと(Cowdell, 2010),認知症ケアの改善には自己の関わりが高齢者に及ぼす影響への内省が必要であり(藤田ら,2015),共感はアセスメント,内省,チームワークと関連がある(小田・川島,2016).尺度を用いてアセスメントを行い,BPSDやせん妄を増幅させる関わりを内省することは,認知障害高齢者への共感を高め,拘束回避につながると考える.
因子3【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】は,最善のケアを模索とチームでの転倒予防連携で構成された.拘束回避は個々の看護師の努力だけでは行えず,組織のリスクマネジメントに影響され,看護管理者のリーダーシップが不可欠である(臨床倫理ガイドライン検討委員会,2015).担当看護師に拘束回避や解除の判断を委ねる状況は,予防的な拘束を増加させる.チームで拘束や解除の判断することが,看護師の精神的なゆとりを生み,患者への共感的な関わり(小田・川島,2016)や,看護の工夫(江口ら,2011)につながり,拘束回避・解除へ向けた検討を可能にする.拘束回避の転倒予防行動の推移を尺度で評価し,共有することは,課題の把握や行動の改善につながると考える.
因子4【その人らしさを尊重するケア者の態度】は,因子1と同様PCCを基盤としたケアで構成された.問題解決型思考では,認知障害高齢者の発言や理解できない行動は問題と扱われやすい.間違いを正し説得することが患者を窮地に追い込み,BPSDやせん妄を誘発し,拘束せざるを得ない状況を生む可能性がある.発言や行動の意図を探索し,尊重するケア者の行動内容を示したと考える.
因子5【拘束回避の転倒予防技術】は,概念も拘束の回避技術で構成された.全項目の平均値が3点台と低く,実施頻度が低いことが推察された.なじみの環境や落ち着くまで傍に居る行動は,せん妄の予防にも有効(粟生田,2014)であり,評価により,拘束回避の転倒予防技術の促進が期待されると考える.
4. 対象者の属性別の傾向認知症に関連する有資格者,PCC・転倒予防・拘束の弊害に関する学習経験者は,尺度合計が有意に高く,臨床年数や認知障害高齢者への看護年数は有意差がないことから,認知障害高齢者への拘束回避の転倒予防行動の実践には,経験年数より認知症・PCC・転倒予防・拘束の弊害に関する専門的知識の習得が重要であることが裏付けられた.また,‘拘束しないで転倒予防できると思う’自己効力感の高い人の尺度得点が有意に高く,拘束回避の転倒予防行動を増やすために,自己効力感が重要であることが裏付けられた.一方で,‘責任を問われるので拘束解除したくない’‘拘束しないと次の看護師に迷惑がかかる’と思う人の尺度得点が有意に低く,受け持ち看護師に責任を問う,拘束回避を責める病棟意識が,拘束回避の転倒予防行動を減らすことが示唆された.拘束の最小化には,拘束を行わずに見守れる,ケアできる意識を持てる組織風土を作り上げる必要性がある(和田,2019)ことからも,行動の実態を評価し,看護師が拘束回避の転倒予防行動に取り組む自己効力感を持てる支援が重要と考える.
5. 本尺度の活用可能性本尺度は,看護師が認知障害高齢者の入院時から熟練看護師のプロセスを踏襲して,拘束回避を念頭においた転倒予防行動を実施するツールとして活用し,実施頻度を自己評価し,ケアの改善点を確認するために活用できる.また,病棟全体でのケア内容の見直しや共有が,実施頻度の増加につながっているか評価でき,拘束回避を継続する病棟意識を共有するために活用できると考える.
6. 研究の限界と今後の課題同意の得られた施設の病棟毎に全数配布を依頼したが,回答は任意であり,認知障害患者の転倒予防に関心が高い回答者のデータであることは否めない.
因子2.3の再テスト信頼性はr = .582~.645より,回答時期や状況で変動しやすい項目の可能性が考えられ,再現性を高めることが課題である.
一般病棟の認知障害高齢者に対する入院時から拘束回避と解除を念頭においた転倒予防ケア行動評価尺度の開発を試みた.結果5因子22項目で構成され,【入院時から納得を目指す接近】【身体拘束を回避・解除する転倒予防連携】【その人らしさを尊重するケア者の態度】【拘束回避の転倒予防技術】【その人らしい活動支援】と命名した.因子妥当性,構成概念妥当性,基準関連妥当性,判別的妥当性および,内的整合性と再現性,安定性による信頼性が確保された.
付記:本論文の内容の一部は日本看護研究学会第46回学術集会にて発表した.
謝辞:研究にご協力下さいました全国の看護師と関係者の皆様に感謝申し上げます.本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K12394)の助成を受けて実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MMは研究の着想,デザイン,尺度作成,データ収集および分析,解釈,論文執筆の全プロセスに貢献.MKはデザイン,尺度作成,解釈,論文の推敲に貢献.SNはデザイン,尺度作成,データ分析および解釈,論文の推敲に貢献した.全著者は最終原稿を読み,承認した.