Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Ethnography of the Function of Ward Rules within the Therapeutic Framework of Psychiatric Hospital Wards
Makoto KannariIzumi SawadaRyoko MichinobuJunichi Yoshino
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2021 Volume 41 Pages 88-97

Details
Abstract

目的:精神療養病棟の治療構造における病棟規則の機能を明らかにすること.

方法:3施設4か所の精神療養病棟で月1回6か月間のエスノグラフィーを実施し,構造機能主義を理論的パースペクティブとして質的帰納的分析を行った.

結果:病棟規則の機能として,【管理指示型集団従属的規則運用パターン】の規則は,【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.【対話支持型個人主体的規則運用パターン】の規則は,【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.

結論:精神療養病棟の病棟規則は,患者の医療保護および社会防衛の機能と,患者を社会復帰に向ける機能を有していた.患者個人を支援する規則の内容と対話を用いた運用が,患者を社会復帰に向ける機能を果たすと示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the function of ward rules within the therapeutic framework of psychiatric hospital wards.

Methods: We conducted ethnography once a month for 6 months at 4 psychiatric wards at 3 medical institutions, and then performed qualitative inductive analysis from the theoretical perspective of structural functionalism.

Results: The “pattern of top-down administration-directed implementation of group-subordinate ward rules” functioned positively in order to ensure the continuation of a therapeutic framework based on a “closed facility environment wherein inpatients can live safely in a manner enabling peace of mind among members of the local community and psychiatric ward personnel.” The “pattern of dialog-supportive implementation of individual-oriented ward rules” functioned positively in order to ensure the continuation of a therapeutic framework in which “patients who had emerged from acute-stage psychiatric care and patients with chronic-phase conditions can receive medical care enabling them to move towards community interaction”.

Conclusion: Psychiatric ward rules served the functions of providing patients with medical care and protection, protecting members of society, and preparing patients for social rehabilitation. Our findings suggested that ward rules that support individual patients and their implementation utilizing dialog achieved the function of preparing patients for social rehabilitation.

Ⅰ. 研究背景

精神科病院への入院生活が長期になると自由な生活空間が制限され,入院中の規則に合わせた生活が余儀なくされる(上村ら,2013).その規則や制限は患者の自己決定よりも医療者の判断や家族の考え方が優先される場合が多く,常に患者との合意の上で成り立っているとは言えず(畠山,2010),時に患者と看護師の対立に発展する(菅原,2010).また,患者から看護師が受ける暴力の要因の1つにもなっている(清水ら,2008).さらに,精神科病棟の看護師たちが感じる倫理的な問題にもなっており(田中ら,2010),臨床の看護現場では規則や法律通りには必ずしも看護ができないという問題も生じている(木村・松村,2012).阿保(1988)は以前から「規則は看護者が日常的に直面せざるを得ない問題」と指摘しているが,海外文献も含めて精神科病院の病棟規則を主題として扱った研究はほとんどなく,これまで詳細な調査は行われていない.

そこで本研究は,精神科病院に2か月以上の入院になってしまう患者は種々の規則に直面する(小林,2004)とのことから,精神科特例による少ない専門職員の人員配置で,在院日数に制限がなく長期に渡り療養が必要な精神障害者が入院する精神療養病棟(植田ら,2012)に着目した.そして,精神療養病棟ではどのように病棟規則が機能しているかを明らかにすることを目的としてエスノグラフィーを行った.病棟規則の機能を明らかにするためには,パーソンズが定式化した構造機能主義の現象を変化しにくい構造と変化しやすい過程に分け,変化しやすい過程を構造の存続を維持するための機能的貢献によって説明を図る(宮台,2000)という理論的立場からの分析が必要である.構造機能主義とは,社会現象を社会構造と機能的要件の2つの概念によって説明する論法の総称(志田,2012)であり,機能的貢献は個人や集団や社会にとって役に立つようなプラスの機能を順機能,逆に阻害するようなマイナスの機能を逆機能と呼び(森下,2014),説明を図る.そのため,構造を精神療養病棟の治療構造,過程を病棟規則の内容・運用の過程とし,病棟規則の内容・運用の過程を精神療養病棟の治療構造の存続維持への機能的貢献によって説明をすることで,精神療養病棟の病棟規則の機能を探求できると考えた.

Ⅱ. 用語の定義

治療構造とは,本研究では精神療法の枠組みとしての狭義の意味ではなく,病院組織や入院治療環境,人間関係における相互作用など,治療的に作用する全体的でダイナミックな広義の意味を含む「入院環境における患者の疾病や障害を治したり癒したりする全体を構成する諸要素の関係やその仕組み」とする.

病棟規則とは,「病棟における,きまり,おきて,さだめ,物事の秩序」と定義し,入院案内や掲示物などで明文化されているものだけではなく,何かがあったときに看護師から規則で決まっていると説明されるような暗黙のうちに存在している隠れた規則も含めることとする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

社会学の構造機能主義を理論的背景としてエスノグラフィーの方法論を用いた研究である.

2. データ収集方法

病棟では独自の規則があるという多様性を考慮し,多施設複数の精神療養病棟を研究フィールドにすることとした.8施設への研究協力依頼の結果,A病院の閉鎖病棟,B病院の閉鎖病棟と開放病棟,C病院の開放病棟の3施設4か所の精神療養病棟で承諾が得られた.各精神科病院・精神療養病棟の概要を表1に示した.調査期間は2015年2月~8月で,月1回ずつ日勤の時間帯にフィールドワークを行った.なお,C病院の開放病棟では夜勤の時間帯での調査も許されたので,1度だけ夜勤の時間帯でのフィールドワークも行った.

表1  各精神科病院・精神療養病棟の概要
病院・病棟の病床数 看護人員配置 患者
A病院
閉鎖病棟
昭和40年代前半に開設
病院病床数 約150床
コの字型病棟
病棟病床数 約50床
看護配置数1日10人以上
9:00~17:00
看護職員1人あたり患者13人以内
17:00~9:00
看護職員1人あたり患者50人以内
平均年齢 50歳代後半
平均在院日数 約230日
任意入院 数名
医療保護入院 ほとんど
・統合失調症の患者が1番多い
・最近はうつ病の患者が増加傾向
・発達障害と認知症の患者が少数
B病院
閉鎖病棟
昭和40年代後半に開設
病院病床数 約200床
コの字型病棟
病棟病床数 約50床
看護配置数1日10人以上
9:00~17:00
看護職員1人あたり患者8人以内
17:00~9:00
看護職員1人あたり患者48人以内
平均年齢 50歳代前半
平均在院日数 約220日
任意入院 半数
医療保護入院 半数
・入院者の6割が統合失調症の患者
・入院者の数名は認知症を合併
B病院
開放病棟
昭和40年代後半に開設
病院病床数 約200床

2フロアIの字型病棟
病棟病床数 約50床
看護配置数1日10人以上
9:00~17:00
看護職員1人あたり患者8人以内
17:00~9:00
看護職員1人あたり患者49人以内
平均年齢 40歳代後半
平均在院日数 約145日
任意入院 すべての患者
医療保護入院 いない
・入院者の半数は統合失調症
・最近は比較的若い入院者が増加傾向
C病院
開放病棟
昭和50年代前半に開設
病院病床数 約200床
Lの字型病棟
病棟病床数 約60床
看護配置数1日12人以上
9:00~17:00
看護職員1人あたり患者6人以内
17:00~9:00
看護職員1人あたり患者30人以内
平均年齢 60歳以上
平均在院日数 10年以上
任意入院 2/3
医療保護入院 1/3
・入院者の95%が統合失調症の患者
・35年以上入院している患者がいる

フィールドワークでは,既存の書類の閲覧をし,個人情報に注意しながらフィールドノートに記録した.また,そこで起っていることを記述するために,参加観察はSpradley(1980/2010)を参考に消極的な参加による観察,もしくは大坪ら(2011)を参考に病棟看護師のシャドウイングからの観察を行った.そして,入院患者と病棟看護師へインフォーマルインタビューを行い,観察した内容の確認やその時に気になったことを質問し,フィールドノートに記録した.

さらに,病棟管理者や病棟規則を把握していると考えられる病棟看護師へフォーマルインタビューを依頼し,承諾の得られた病棟管理者5名と病棟看護師6名にフォーマルインタビューを行った.フォーマルインタビュー対象者の概要を表2に示した.フォーマルインタビューは,フォーマルインタビューガイドを用いて半構成的面接を行い,ICレコーダーに録音した.フォーマルインタビューガイドは,①病棟の決まり事,約束事の内容,②看護師の説明や対応,③患者の反応,④病棟規則に関連したエピソード,⑤病棟規則の誕生,変更,廃止,⑥病棟規則の感想について,対象者に自由に語ってもらった.

表2  フォーマルインタビュー対象者の概要
病院 病棟 職位 看護経験年数 精神科看護経験年数 現在の病棟看護年数 他の精神科病院の経験 他科の看護経験
A氏 A病院 閉鎖 師長 25年 25年 5~6年
B氏 A病院 閉鎖 看護師 24年 10年 3年
C氏 A病院 閉鎖 看護師 20年 3年 3年
D氏 B病院 閉鎖 師長 25年 24年 2年
E氏 B病院 閉鎖 看護師 28年 14年 1年3か月
F氏 B病院 閉鎖 看護師 15年 15年 8年
G氏 B病院 開放 師長 11年 11年 2年
H氏 B病院 開放 看護師 16年 11年 6か月(常日勤)
I氏 C病院 開放 師長 26年 21年6か月 20年
J氏 C病院 開放 主任 31年 14年 9年
K氏 C病院 開放 看護師 28年 18年 5年6か月

3. データ分析方法

フィールドノートの記録とICレコーダーの逐語録をデータとし,Roper & Shapira(2000/2003)を参考にして質的帰納的分析を行った.データは,意味のわかる最小単位の文脈を抽出してコード化した.そして,精神療養病棟の治療構造と,病棟規則の内容・運用の過程へと分離し,類似性や相違性を考慮してサブカテゴリー,カテゴリーを生成してパターン分類をした.その後,構造機能主義の理論に基づいて各カテゴリーの関係性を検討,精神療養病棟の治療構造と病棟規則の機能について図式し,構成概念と理論の一般法則化をした.

4. 妥当性と信憑性の保証

妥当性の確保として,データの収集や分析は既存の書類,参加観察とインフォーマルインタビュー,フォーマルインタビューのトライアンギュレーションを用いて行った.信憑性の確保として,精神看護学の専門家とエスノグラフィーに精通している医療人類学の専門家によるスーパーバイズを受けて分析した.分析結果は,各精神療養病棟の病棟管理者に内容を提示してチェックを受けた.

5. 倫理的配慮

本研究は,札幌医科大学倫理員会(承認番号:26-2-45)と各対象施設の倫理委員会の承認を得た.フォーマルインタビューの実施にあたっては,対象者へ口頭と書面で研究の趣旨,拒否しても不利益は被らないことなどについて説明し,同意書に署名をいただいた.参加観察やインフォーマルインタビューの実施にあたっては,Roper & Shapira(2000/2003)を参考にポスターを用いて研究の目的,方法,研究を断れる権利の保障などについて周知を図り,個人へ同意書に署名をいただくことはしなかった.そして,対象者から自分の観察を行ってほしくない旨や配慮が必要な場合は病棟管理者に申し出ていただき,対応を考慮することとした.参加観察は消極的な参加(Spradley, 1980/2010)による観察者の立場をとり,心理的負担や動揺が生じないよう不用意に患者へは近づかないようにした.なお,本研究では個人や施設が特定され得るデータは,本質を変えないように加工して表現することとした.

Ⅳ. 結果

フィールドワークの時間は計172時間30分,フィールドノートは計147ページとなった.フォーマルインタビューは計7時間32分の一人平均42分であった.分析の結果を,以下にカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕,フィールドノートの内容を“ ”,インタビューの内容を「 」で示した.

1. 精神療養病棟の治療構造

精神療養病棟は,〔急性期が過ぎ慢性化・長期化した患者が生活する場としての病棟〕であり,その生活の場は〔開放病棟であっても閉鎖病棟と同様の閉鎖的施設環境〕となっていた.それは〔入院患者が安全で地域住民・病院職員の安心が得られるための病院経営〕のもと形作られているという【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】であった.その中では,〔患者の社会復帰を目指す病院理念と病棟目標〕があり,〔病状の安定を図り社会復帰を念頭においた各種療法プログラムと医療相談〕が設けられ,〔退院支援は単身生活・共同住居・グループホーム等の地域生活へと繋げる〕という【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】が行われるという治療構造になっていた.

1) 【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】

(1) 〔急性期が過ぎ慢性化・長期化した患者が生活する場としての病棟〕

精神療養病棟に入院対象となるのは,病状が急性期を過ぎて慢性化,長期化した患者であり,病棟は治療の場だけではなく生活をする場ともなっていた.

“慢性化・長期化した患者が対象となる(B閉鎖,資料)”“患者にとって病棟は治療の場だけではなく,生活の場(家庭)のような存在(B閉鎖,資料)”

(2) 〔開放病棟であっても閉鎖病棟と同様の閉鎖的施設環境〕

開放病棟では,日中の病棟入口ドアの開錠時間に患者は病院の敷地内に行けるようになっていたが,病院が指定した許可範囲内の限定的な場だけとなっていた.夜間帯は廊下のドアを施錠することになっており,異性の病室側へ行き来できないようにしていた.開放病棟も閉鎖病棟も大部屋を中心とした環境で共同生活を送っており,プライベート空間は限りなく少ない環境にあった.

“病棟入口のドアは8:00~18:00が開錠時間(B開放,貼紙)”「病棟外にある隣の病棟の食堂のスペースが広いため,そこまでは患者さんが日中過ごしてよい場所として許可している(B開放,病棟師長)」“消灯21:00男性病室側と女性病室側を区切る詰所前にあるドアを施錠(C開放)”「4人部屋なのでプライベート(な空間)が少し取れないかもしれない(A閉鎖,B氏)」

(3) 〔入院患者が安全で地域住民・病院職員の安心が得られるための病院経営〕

物理的な閉鎖的環境は,病棟職員と患者の双方の安全と安心を得るために為されていた.また,地域住民の安心を維持し,病院が地域に貢献して安定的な経営を続けていくために為されていた.

「2人夜勤で仮眠に入ると患者対応が1人になるので,お互い不利益にならないように(閉鎖的環境に)なっている(A閉鎖,B氏)」「なぜ閉鎖病棟でドアに鍵をかけているのかというと,当院は住宅街にあり,地域住民の皆様にも安心していただくことが必要だから(A閉鎖,看護部長)」“地域に貢献でき,社会に役立ち,病院経営が安定的に続けていける病院を目指す(A閉鎖,資料)”

2) 【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】

(1) 〔患者の社会復帰を目指す病院理念と病棟目標〕

患者の社会復帰を目指すという病院の理念があった.そして,急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者の社会復帰を目指すことを病棟目標に掲げていた.

“病院方針は,社会復帰を図るとともに社会生活を支援する(C開放,資料)”“病棟目標は,1年間に2人の長期入院患者の退院支援を行う(B開放,資料)”

(2) 〔病状の安定を図り社会復帰を念頭においた各種療法プログラムと医療相談〕

病状の安定を図るための薬物療法だけではなく,患者個々の状態や退院までのステップに応じた各種療法プログラムを設けていた.また,医療相談を設け,患者個々の問題を一緒に考え,福祉サービスを紹介するなどの支援もあった.

“ゆったりとした環境の中で薬物療法,精神療法と並んで作業療法,生活指導が行われる(C開放,資料)”“プログラムを通じ,早期退院や社会復帰,デイケア通所に繋がるよう援助する(B病院,資料)”“医療相談は,病気や障害による思いがけない生活上の困り事や心配事を相談できる.(中略)必要に応じて色々な制度や福祉サービスなどを紹介する(A閉鎖,資料)”

(3) 〔退院支援は単身生活・共同住居・グループホーム等の地域生活へと繋げる〕

援助や支援は,すぐに社会復帰へと繋がるのではなく,退院後の単身生活,共同住居,グループホームなど患者の状態に合わせた地域生活へと繋げていた.

“リハビリテーションを行い地域で生活できるように援助する.退院後の単身生活,共同住居,グループホーム等の生活に繋がっていく(B閉鎖,資料)”

2. 精神療養病棟の病棟規則の内容と運用の過程

精神療養病棟の病棟規則の内容と運用の過程には,2つの規則運用パターンが存在していた.1つは【管理指示型集団従属的規則運用パターン】で,〔私物の詰所管理規則〕や〔看護職員による代理行為規則〕,〔集団的行動管理規則〕で患者を管理し,〔指示的コミュニケーションによる規則の運用〕が行われ,患者を管理する規則に違反する行動を患者がした場合には〔管理的制限を与える〕という規則の内容と運用の過程があった.もう1つは【対話支持型個人主体的規則運用パターン】で,〔私物の自己管理規則〕や〔個別的生活支援規則〕で患者を支援し,〔支持的コミュニケーションによる規則の運用〕が行われ,患者の言動に対して〔対話的褒賞を与える〕という規則の内容と運用の過程があった.

1) 【管理指示型集団従属的規則運用パターン】

(1) 〔私物の詰所管理規則〕

入院時や外出泊からの帰院時には患者の荷物チェックがあり,私物を詰所で預かる規則があった.また,患者に私物を渡す時間のきまりがあり,患者はその時間に詰所に行くことで受取ることができていた.受取る時間は厳守しなくてはならず,患者がその時間に遅れると受取ることができないようであった.

“患者が帰院すると,看護師は患者の荷物を確認する.詰所預かりの物は看護師が預かり,その患者の預かり棚に仕舞っている(C開放)”「コーヒーを渡す時間,煙草を渡す時間とか,時間のきまりがある(C開放,J氏)」“詰所に取りに来た患者に「時間通りではない」と看護補助者が断っている(C開放)”

(2) 〔看護職員による代理行為規則〕

病棟には売店の商品一覧表と購入伝票が用意されてあり,患者は決められた時間までに購入伝票を記入して看護師に渡すことにより,後でその商品を受取ることができていた.代金は事務に預けてある患者のお金から支払われていた.

“売店の商品一覧表が置かれている.購入伝票の記入は13:00までとなっている(B閉鎖)”“購入伝票をもとに病棟クラークが患者1人ずつの商品を売店で購入する.代金は事務に預けてある患者のお金から支払われる(B閉鎖)”

(3) 〔集団的行動管理規則〕

患者は日課に沿って集団で行動することになっていた.集団的行動は随所にみられ,看護師は患者を1つの集団にして患者の行動を管理していた.

“食事前には患者がデイルームの自分の名前が貼られてある席で待機している(C開放)”“患者が入浴の準備をしてデイルームに集まる.看護職員が声をかけた順番に入浴をする(C開放)”「30分ずつの時間で(中略)数人でお風呂に入らなければならない(A閉鎖,B氏)」“売店買物が許可されている患者6人を集団にして売店へ行く.看護師は「まとまって行くよ」と声をかけ患者集団の前後につく.購入後も全員で病棟へ戻る(B閉鎖)”

しかし,看護師は患者の入院生活が雁字搦めであり,患者の主体性を奪っていると感じていた.そこで,病棟管理者はこの集団的行動を管理する規則に対して変更を試みていたが,患者からの要請を受けて規則を元に戻していた.

「雁字搦めの生活をしているが故に彼ら(患者)から自主性を奪ってしまったりとか,彼ら(患者)らしい姿が見えてこなかったりとかある(B閉鎖,E氏)」「消灯時間を長くしたら患者が自由に過ごすかをやってみたが,21:00過ぎたら患者は寝るんですよ.(中略)デイルームが明るくて眠れないってなって,(中略)決められた生活から脱却するのは,なかなか難しい(C開放,I氏)」

(4) 〔指示的コミュニケーションによる規則の運用〕

患者を管理する規則を用いる看護師は,患者の言動の理由を問うことはせずに指示的に注意や指導を行い,患者に理解を求めていた.患者の言動が改善されない場合は,医師から注意や指導を行うことになっていた.

“患者の「Zさんにあれ(物)をあげようと思うから,預けているやつ出して」との訴えに,看護師は理由を問わずに「やり取りは駄目」と対応している(C開放)”“夜勤看護師の「他患者におやつやジュースをあげていた」との申し送りに対して,「主治医から注意を入れてもらおう」との意見が出る(C開放)”

(5) 〔管理的制限を与える〕

患者を管理する病棟規則に違反するような行動を患者がした場合,規則の内容と直接関係のない制限が看護師から患者へ与えられていた.患者は,患者を管理する規則に違反するような行動をとった場合に与えられる制限は当然であり,違反するような行動をとり続けると病棟に居られなくなると認識していた.

“患者が水を飲みすぎて治療枠内での体重を超すと1日煙草が貰えない.食事を捨てた患者も煙草が中止となる(C開放)”「規則について窮屈とは思っていない.たまに我慢ができない人がいるけど,看護師に注意や生活指導される.それでも我慢できない人は他の病棟に行くことになる(C開放,患者)」

2) 【対話支持型個人主体的規則運用パターン】

(1) 〔私物の自己管理規則〕

私物の自己管理が許可されている患者がおり,自己管理を行うにあたって患者は同意書に署名し,看護師から床頭台の鍵を貸与されることでお金も含めて私物の自己管理を行うことができていた.私物を自己管理している患者であっても,患者の状態や物の内容によっては自己管理できる時間のきまりがあった.

「鍵をお貸して自己管理の同意書を貰う.その段階で患者の責任ということになる(A閉鎖,A氏)」“6:30~16:00の間にコーヒー自己管理の患者や,おやつ自己管理でも16:30~9:30の間は詰所預かりとなる患者がいる(C開放)”

(2) 〔個別的生活支援規則〕

閉鎖的な施設の中で過ごしている患者に対して,看護師が付き添って外出し,近所へ買物に行けるようにするなど,看護師は生活支援ができる規則を設けて個別的に支援していた.また,病状が安定していて離院の可能性がない患者に対して,短時間ではあるが病棟外や病院外に出て過ごせるようにしていた.

「患者さんが売店に行きたいっていう時に看護師が付き添って買物に行けるようにした(A閉鎖,看護師)」“単独での外出が許可できない患者を対象に近所のスーパーまで看護師と行き,買物をしている(C開放)”“散歩カードを詰所に提出すると13:00~14:00の間で院外散歩に行くことができる(B開放)”

(3) 〔支持的コミュニケーションによる規則の運用〕

患者個人を支援する病棟規則を用いる看護師は,患者の言動に対して理由を問うことから始めて話をよく聞くなど,患者に支持的に関わっていた.時には患者と向き合って話を聞くために,適切な場所に移動する工夫をしていた.

「患者さんの要求があったらちゃんと聞き入れて,なるべく患者さんに沿うようにしてあげる.けして拒否的にしないで患者さんの状態に合わせて接するよう心掛けている(C開放,K氏)」“患者の個人的な訴えを聞く場合は,窓口ではなくミーティングルームなどに場所を変えて話を聞いている(B開放)”

(4) 〔対話的褒賞を与える〕

看護師は患者をアセスメントしてその状態を容認し,患者のできていることに目を向け,患者に肯定的な評価を伝えて褒めるなどの褒賞を与えていた.

「こちらから積極的に促すのではなくて,自分の気持ちで着替えができた時に褒めて動機づけしてもらっている(B閉鎖,看護師)」“看護師はコミュニケーションのなかで,患者に肯定的な評価を伝えている(B開放)”

Ⅴ. 考察

1. 精神療養病棟の治療構造について

精神療養病棟の治療構造の【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】は,患者への医療および保護と社会防衛的側面があり,藤野(2003)の「精神障害を危険視する偏見から,常に社会防衛のために精神障害者は精神科病院に強制入院させられ,精神科病院は保安の役割を担わされてきた」との見解と一致した.一方,【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】は,精神障害者の社会復帰を目指したものであるが,これは1987年の精神保健法により社会復帰という観点が導入され,2004年に示された精神保健医療福祉の改革ビジョンにより後押しされた取り組みである.そのため,法律や国の施策としての精神障害者の社会復帰の促進と一致しているようであった.以上のように精神療養病棟は,日本の精神保健医療福祉行政の歩みそのものが影響した治療構造となっていた.

2. 精神療養病棟の病棟規則の内容と運用の過程について

【管理指示型集団従属的規則運用パターン】は,患者を集団として捉えて管理する規則の内容と運用の過程であった.そのため,大橋(2008)が示した「日常的な生活に関する一般規則や集団生活のルール・文化」に類するものである.そして,菅原(2010)は「《病棟での代理行為に対する不満》と《病棟規則に対する不満》は,対立要因が看護師に向けられているのではなく,病棟の治療手続きに向けられていた」と述べているが,同様にこの規則の内容と運用の過程は集団管理を優先としているため,患者の不満へと発展する可能性がある.

【対話支持型個人主体的規則運用パターン】は,患者の集団ではなく患者個人に焦点が当てられている規則の内容と運用の過程であった.粟屋(1988)が「入院規則を運用するに当たっては,一方的に規則を押し付けないこと,いつもその患者が主人公であるよう配慮すること,時には規則に幅を持たせた使い方をすること」と述べている通り,この規則の内容と運用の過程は規則に幅を持たせ,一方的ではなく患者個人が主人公であるようであった.そして,住吉ら(2004)が「ある看護ケアが規則に反して“特別扱い”に映ったとしても,それがその患者にとって必要だと判断したなら,自信を持って看護を提供してよい」と述べている通り,患者個々のアセスメントをもとに規則を運用しているようであった.それはある特定の患者にだけというわけではなく,看護師が患者それぞれに〔個別的生活支援規則〕を運用しているため,看護ケアが規則に反して“特別扱い”をしているようではなかった.そのため,この規則の内容と運用の過程は,患者個人が主体的になれるような関わりがなされるため,大橋(2008)が示した「健康回復のための治療に必要な規則」であると言える.

3. 精神療養病棟の治療構造における病棟規則の機能についての検討

精神療養病棟の治療構造と病棟規則の内容と運用の過程の関係性を,構造機能主義の理論に基づいて説明を図ると,図1のように図式化することができた.

図1 

精神療養病棟の治療構造における病棟規則の機能

【管理指示型集団従属的規則運用パターン】を構成するサブカテゴリーを詳細にみると,〔私物の詰所管理規則〕や〔看護職員による代理行為規則〕,〔集団的行動管理規則〕という規則の内容は,患者の安全を守ることを重要視し,患者を管理するために設けていると考えられた.〔指示的コミュニケーションによる規則の運用〕や〔管理的制限を与える〕という規則の運用は,看護師が患者に指示して制限を与えることにより患者集団の統制を図るという規則の運用方法であり,患者を安全に保護して病棟で安定した生活が送れるように用いていると考えられた.このことから【管理指示型集団従属的規則運用パターン】は,入院患者の医療保護と社会防衛の役割を持つ【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】の治療構造の存続を維持するために順機能していることが示された.一方で,社会復帰の促進が行われる【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】へは,患者個人の自己決定やセルフケアを阻害することなどが考えられ,逆機能になっていることが示された.C病棟の開放病棟では,患者の病棟生活の改善をしたいと考えて〔集団的行動管理規則〕の変更を試みていたが,患者から旧態依然に戻すよう要請を受けて規則を元に戻していた.これは,規則があるおかげで自分では行為パターンを考える手間を省いてくれるという社会規範による負担免除(森下,2014)が生じていたことを示している.患者の視点からも【管理指示型集団従属的規則運用パターン】は長期入院患者のニーズのもと運用されている側面があり,【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】の中で患者が安住するという順機能となっていた.そのため,病棟管理者や病棟看護師は患者の病棟での生活が快適になるように望んでいるが,変更には難しさとジレンマを感じていた.

【対話支持型個人主体的規則運用パターン】を構成するサブカテゴリーを詳細にみると,〔私物の自己管理規則〕や〔個別的生活支援規則〕という規則の内容は,患者の自己決定能力やセルフケア能力を重要視し,早期退院を目指すために設けていると考えられた.〔支持的コミュニケーションによる規則の運用〕や〔対話的褒賞を与える〕という規則の運用は,看護師が患者個人に焦点を当てて患者とともに考え,対話の中で褒賞を与えることにより患者が主体となれるよう図るという規則の運用方法であり,患者が早期に退院できるよう用いていると考えられた.このことから【対話支持型個人主体的規則運用パターン】は,社会復帰の促進が行われる【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】の治療構造の存続を維持するために順機能していることが示された.一方で,患者の医療保護と社会防衛のための治療構造である【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】へは,〔個別的生活支援規則〕で患者が病院外でも過ごせるようにすることで,閉鎖的施設環境がもたらしていた地域住民や病院職員の安心を維持することを難しくさせることから,逆機能になっていることが示された.

4. 看護への示唆

宇佐美(2009)によると「精神疾患の特徴は,個人の自己決定能力を低下させやすいことであり,また長期入院は患者のセルフケア能力を低下させ,施設化させやすい」とあり,精神療養病棟では患者の自己決定能力やセルフケア能力に働きかけることが社会復帰に向けて必要である.しかし今回の研究において,長期入院患者らが自己決定を促されるような病棟規則の変更に対して,以前からある固定化された規則へと戻すように要請していたことから,【管理指示型集団従属的規則運用パターン】の規則の変更は容易ではなく,長期入院を生む構造は継続されることが伺えた.一方で,【対話支持型個人主体的規則運用パターン】は患者個人が主体となる規則の内容と運用であるため,患者の自己決定能力やセルフケア能力に働きかけることができ,入院期間の短縮や社会復帰に向けることができると予測される.

以上のように,患者が集団生活に従うようにする規則と患者個人を支援する規則が存在しており,これは精神保健医療福祉行政の入院中心から社会復帰・地域生活への移行という歩みにより治療構造が変化し,新たな病棟規則の内容と運用方法が生じたことを示していると考えられた.調査対象の病棟間では在院日数に差がみられており,社会復帰・地域生活へのシフトチェンジの在り方が各病院で異なっていることを示していることも考えられた.看護師は,このシフトチェンジの潮流を感じながらも,各病院の運営方針や組織風土に合わせた病棟規則を運用しており,患者を集団生活に従うようにする規則を運用している看護師にはジレンマが生じていた.今後は益々患者を社会復帰・地域生活へ移行させることが重要となってくることから,患者の退院を促進し得る【対話支持型個人主体的規則運用パターン】が看護の質の向上に寄与すると考えられた.

Ⅵ. 結論

精神療養病棟の病棟規則は,患者が集団生活に従うようにする規則の内容と管理的な運用があった.また,患者個人を支援する規則の内容と対話を用いた運用もあった.病棟規則の機能としては,患者の医療保護および社会防衛の機能と患者を社会復帰に向ける機能があった.患者個人を支援する規則の内容と対話を用いた運用が,患者を社会復帰に向ける機能を果たすと示唆された.

Ⅶ. 研究の限界

本研究では,患者からは参加観察およびインフォーマルインタビューによりデータを収集しているが,倫理的配慮としてフォーマルインタビューは行っていない.そのため,患者側からの視点がやや不足していることが考えられる.

付記:本研究は札幌医科大学大学院に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.研究の一部は第27回日本精神保健看護学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究の趣旨をご理解いただき,研究フィールドとして施設への参加を快諾し,研究者を受け入れて協力してくださった病院管理者,病棟管理者,病棟看護職員,患者の皆様に,心からの感謝とともに厚く御礼を申し上げます.

著者資格:MKは,ISとRMとJYの指導のもとに,研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行った.ISとRMとJYは,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
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