日本看護科学会誌
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機能強化型訪問看護事業所と機能強化型への移行を検討している訪問看護事業所に勤務する看護師の教育ニーズ
小森 直美伴 佳子小林 成光
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2021 年 41 巻 p. 98-105

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Abstract

目的:本研究の目的は,機能強化型訪問看護事業所と機能強化型への移行を検討している訪問看護事業所に勤務する看護師の教育ニーズを明らかにすることである.

方法:首都近郊3県の訪問看護事業所の看護師(n = 964)を対象に郵送法による調査を実施した.

結果:456名から回答を得て,456名を解析対象とした.456名のうち,機能強化型訪問看護事業所および機能強化型への移行を検討している訪問看護事業所に勤務する52名の看護師の教育ニーズは,「緩和ケア」「在宅終末期ケア(看取りを含む)」が高かった.また,24時間対応体制加算の有無と「在宅終末期ケア(看取りを含む)」「腎瘻・膀胱瘻のケア」に有意差を認めた(p = .05).

結論:機能強化型訪問看護事業所および機能強化型への移行を検討している訪問看護事業所に勤務する看護師は,ターミナルケアの教育ニーズが高く,機能強化型訪問看護管理療養費算定要件に合致していると考えられた.

Translated Abstract

Objectives: The purpose of this study is to clarify the educational needs of nurses working at the functionally strengthening type of home-visit nursing establishments and the establishments which intend to shift to the strengthening type.

Methods: We conducted a mail-out survey for home-visit nursing facilities (n = 964) in three prefectures in the vicinity of Tokyo.

Results: A total of 447 out of 456 responders were analyzed. The educational needs by nurses working at 52 home-visit nursing establishments with enhanced functions and those without enhanced functions but indicated their intention to shift to the enhanced-function type found in “palliative care” and “end-of-life care at home (including care).” Educational needs were high. In addition, there was a significant difference in the educational needs of “end-of-life care at home” and “care for renal and bladder fistula” between nurses in the facilities with and without 24-hour operation (p = .05). There was no difference in the educational needs of nurses working at both home-visit nursing offices.

Conclusion: The educational needs of nurses working at home-visit nursing establishments that are considering a transition to function-enhanced home-visit nursing establishments and function-enhanced nursing establishments are high for cancer nursing and terminal care, and function-enhanced home-visit nursing management It was presumed that it would be affected by the requirements for calculating medical expenses.

Ⅰ. 緒言

近年,看取りを含むがん末期患者や難病疾患患者,医療的ケア児等,医療依存度の高い患者の長期療養の場は在宅へシフトし,在宅療養者の数は増加の一途を辿っている(厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室,2012).それに伴い,2014年の診療報酬改定によって新たに機能強化型訪問看護管理療養費1および2の加算が認められ,医療依存度の高い在宅療養者に訪問看護を提供することによって算定できるようになった.機能強化型訪問看護管理療養費の算定要件(以下,算定要件)は,看護師数や年間看取り件数,在宅がん医療総合診療料を算定している療養者数,超重症児等の小児の訪問看護を積極的に取り組んでいること,訪問看護事業所(以下,訪問看護ST)と居宅介護支援事業所が同一敷地内に設置されていること,24時間対応体制加算を届け出ていること等である.ほかにも,地域住民等に対する情報提供や相談,人材育成のための研修を実施していることが望ましいとしている.さらに,望ましいとしながらも,人材育成のための研修を「病院及び地域において在宅療養を支援する医療従事者の知識及び技術の習得等,在宅医療の推進に資する研修」と示し,実績の報告を求めている.しかし,機能強化型訪問看護管理療養費の算定ができる事業所(以下,機能強化型ST)に勤務する看護師の人材育成のための教育内容や方法は定めてられていない.機能強化型STに勤務する看護師の人材育成のためには,教育項目や方法等,ある一定の基準を示す必要があると考えた.

日本看護協会(日本看護協会,2016)によると,300床未満の93.8%の中規模病院において病院内で看護師の継続教育が行われており,72.9%の病院において職場内OJTが実施されている.それに比べ,訪問看護の事業所における継続教育の実施率は24.6%である(日本看護協会医療政策部,2014).訪問看護STに勤務する看護師は,病院や施設の看護師として働いた後に就業するものや未就業からの復職が多く,職業キャリアや年代も幅広い.このことから,訪問看護STは人材育成に課題を抱えているのではないかと考えた.

2019年度では訪問看護ST開設数9,964事業所のうち,244事業所が算定要件1を,246事業所が算定要件2を加算している(厚生労働省中央社会保険医療協議会,2019).2018年には,新たに人材育成等に一定の役割を担っている訪問看護STに対して算定要件3の加算が設けられた(厚生労働省保険局医療課,2019).

これまで,機能強化型STの利用者特性に関連する実施回数の多い訪問看護ケア項目のうち,病状観察やリハビリテーション,薬剤の管理・指導,医療処置の管理等であることがわかっている(大槻ら,2019),ほかにも,機能強化型STの実態や課題も明らかになっている(小野ら,2017).一方で,機能強化型STや機能強化型STへの移行を検討している訪問看護ST(以下,移行意思のある訪問看護ST)に勤務する看護師の教育ニーズ調査は行われていない.機能強化型STや移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の人材育成のためには,機能強化型STや移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師自身の教育ニーズをもとに,人材育成のための教育項目や方法等を導き出すことが望ましいと考えた.これらが明らかになることで,機能強化型STや移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の人材育成のための教育の充実,ひいては在宅医療の拡充に寄与できるものと考える.

Ⅱ. 研究目的

機能強化型STおよび移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の,教育ニーズを明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

舟島(2005)は,教育ニーズを「看護専門職者として望ましい状態と現状に乖離のある看護職が望ましい状態に近づくための教育の必要性である.乖離が小さい看護職者ほど専門職者として望ましい状態にある.」としている.これを前提に,本研究の教育ニーズは「訪問看護専門職者として望ましい状態に近づくための教育の必要性」と定義する.

Ⅳ. 方法

1. 調査対象

本研究の調査対象事業所の選定は,2017年5月時点の「介護サービス情報公表システム」の訪問看護事業者情報を検索し,事業開始予定の事業者は除いた首都近郊3県に登録のあった964事業所(みなし指定の事業所を含む)とした.この964事業所に勤務する看護師を対象に,無記名自記式質問票と研究依頼書,研究計画書を用いて郵送法による送付・回収を実施した.回答者の選定は,管理者に一任した.首都近郊3県は,都心から10 km~50 km圏内の後期高齢者人口増加率が200%を超えている(国土交通省,2015).そのため,ターミナル患者やがん患者の増加が見込まれ,機能強化型STが求められていると考えた.

2. 調査方法

本研究は,量的記述デザインによる調査研究として行った.調査実施期間は2017年7月から8月とした.無記名自記式質問票は,医学中央雑誌Web version 5,CiNii(1983~2011)を文献データベースとして利用し「訪問看護師」「継続教育」をキーワードに絞り込み,研究目的に沿った先行文献を分析した結果と,訪問看護研修テキスト(川越ら,2005)の単元に合わせた項目等を参考に作成した.

訪問看護STの属性は,算定要件である常勤数,非常勤数,併設施設の有無および種類,24時間対応体制加算の有無,機能強化型ST1および2,機能強化型STではない事業所には移行意思の有無,年間看取り数,筋委縮性側索硬化症等の厚生労働大臣の定める疾病等(以下,別表第7とする)の患者数,雇用形態とした.また,訪問看護STの属性は対象者全員に回答を求めた.

教育ニーズ調査は,機能強化型STおよび移行意思ありと答えた訪問看護STの看護師に絞って行った.対象者の属性は,年代,看護師としての勤務年数,訪問看護経験年数,現事業所での勤務年数とした.項目ごとに,1:全くそう思わない~6:非常にそう思うの6段階リッカートスケールで回答を求めた.教育環境及び研修に関する希望は,1回あたりの研修時間,開催曜日の希望,研修頻度,研修の取り扱い,年間教育計画の有無,訪問看護STの教育方法および教育ツールの項目とした.

3. 分析方法

データは,変数ごとに単純記述統計を行った.教育ニーズ調査の分析は,Kolmogorov-Smirnovの正規性の検定の実施後,教育ニーズと機能強化型ST群および移行意思群の比較,教育ニーズと算定要件である常勤数や非常勤数,併設施設の有無,24時間対応体制加算,年間看取り数,年間別表第7の患者数を比較した.比較はMann-WhitneyのU検定を実施した.分析には統計ソフトSPSS Ver. 25を用い,すべての分析で有意水準5%とした.

4. 倫理的配慮

本研究の対象者として同意,協力をするものに対して無記名自記式質問票の提出を求め,返信および調査票への記載をもって同意を得たこととした.また,無記名自記式質問票に識別番号を付与してID化するとともに対応表を作成して匿名加工情報化処理を行い,1か月間の質問票の撤回期間を設けた.さらに個人情報保護管理者を置いて事業所情報の管理を行った.質問内容は精選し,負担がかからないように配慮した.なお,本研究の無記名自記式質問票による調査は,防衛医科大学校の倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号2651).また,COIは該当しないと承認を受けて実施した(承認番号文28-232).

Ⅴ. 結果

1. 訪問看護STの属性

本研究は964部中456部が回収され(回収率47%),8割以上の回答があった447部を有効回答とし分析の対象とした(有効回答率98%).

訪問看護STの職位は,管理者240名(57%),看護師207名(46%)であった.訪問看護STの常勤数は,平均4.06(SD ± 2.35),非常勤数は平均2.9(SD ± 2.5)であった.併設施設は,居宅支援事業所91,病院32,ヘルパーステーション6であった.24時間対応体制加算ありは399(89%)であった.447訪問看護STのうち,機能強化型ST1は22(5%),機能強化型ST2は19(4%)であった.機能強化型ST以外の訪問看護STのうち移行意思のある訪問看護STは,406中92(23%)であった.機能強化型STでない理由について看護師不足と回答したものは178(44%)であった(表1).

表1  訪問看護STの属性
すべての訪問看護STの背景(n = 447)
項目 平均 (SD)
常勤数 4.06 (SD ± 2.4)
非常勤数 2.00 (SD ± 2.5)
年間看取り数 10.18 (SD ± 2.5)
年間別表第7の患者数 12.74 (SD ± 15.6)
項目 区分 人数 %
職位
管理者 240 57
スタッフ 207 46
機能強化型ST数
機能強化型1 22 5
機能強化型2 19 4
機能強化型なし 406 91
併設施設
あり 340 76
なし 107 24
24時間対応体制加算
あり 399 89
なし 48 11
機能強化型ST以外の訪問看護STの背景(n = 406)
機能強化型STへの移行意思
あり 92 23
なし 84 21
わからない 230 57
機能強化型STでない理由
看護師不足 178 44
療養者不足 107 26
居宅支援事業所がない 62 15
その他 59 15
併設施設の種類(n = 340)
居宅支援事業所 91 27
複数併設 89 26
病院 32 9
ヘルパーステーション 6 2
その他 122 36

※別表第7は,厚生労働大臣が認める疾病等.

2. 教育ニーズと対象者の属性

教育ニーズ調査に協力した看護師は52名(回収率11%)であった.うち,24名(46%)が管理者であった.対象者の年代は,45~50歳代15名(29%)が最も多く,看護師勤務年数は20から25年未満15名(29%)が最も多かった.訪問看護経験年数は1年以上5年未満21名(40%)が最も多かった(表2).

表2  機能強化型STおよび機能強化型STへの移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の属性と教育環境等
項目 区分 n %
対象者の属性 n = 52
年齢
25歳未満 1 1.9
25~30歳未満 0 0.0
30~35歳未満 3 5.8
35~40歳未満 3 5.8
40~45歳未満 13 25.0
45~50歳未満 15 28.8
50~55歳未満 7 13.5
55~60歳未満 5 9.6
60~65歳未満 3 5.8
65~70歳未満 2 3.8
看護師としての勤務年数
1~5年未満 1 1.9
5~10年未満 0 0.0
10~15年未満 7 13.5
15~20年未満 2 3.8
20~25年未満 15 28.2
25~30年未満 12 23.1
30~35年未満 9 17.3
35~40年未満 3 5.8
40以上 3 5.8
訪問看護経験年数
1~5年未満 21 40.4
5~10年未満 3 5.8
10~15年未満 12 23.0
15~20年未満 10 19.2
20~25年未満 6 11.5
25年以上 0 0.0
現訪問看護STでの勤務年数
1~5年未満 27 51.9
5~10年未満 7 13.5
10~15年未満 7 13.5
15~20年未満 8 15.4
20~25年未満 3 5.8
25年以上 0 0.0
職位
管理者 24 46.2
スタッフ 28 53.8
看護師の訪問看護STの属性
機能強化型1 18 34.6
機能強化型2 16 30.7
移行意思あり 18 34.6
項目 区分 n %
教育環境及び研修等 n = 52
訪問看護STの教育方法(複数回答可)
同行訪問と振り返り 49 94.2
ケースカンファレンス 47 90.4
職場内研修 39 75.0
伝達講習 39 75.0
技術演習 35 67.3
講師招聘講義 32 61.5
ステーション合同教育 20 38.5
e-ラーニング 10 19.2
年間教育計画の有無
あり 37 71.2
なし 15 28.8
訪問看護STが活用している教育ツール(複数回答可)
ケアマニュアル 26 50.0
技術チェックリスト 25 48.1
新採用者教育プログラム 20 38.5
現任教育プログラム 19 36.5
管理者育成教育プログラム 19 36.5
日本訪問看護財団OJTシート 17 32.7
訪問看護ラダー 11 21.2
研修の取り扱い(手当)
出張扱い(代休あり) 10 19.2
受講費の一部負担あり 8 15.4
有休扱い 5 9.6
交通費のみ支給 15 28.8
手当なし 14 26.9
1回あたりの研修時間の希望
1時間(60分) 4 15.4
1時間半(90分) 6 11.5
3時間(180分) 1 1.9
4時間 14 26.9
6時間 26 50.0
6時間以上 1 1.9
研修開催曜日の希望
平日夜 11 21.2
土曜午前 28 53.8
土曜午後 6 11.5
日曜午前 4 7.7
日曜午後 3 5.8
研修頻度の希望
2ヵ月に1回 22 42.3
1ヵ月に1回 21 40.4
3週間に1回 2 3.8
2週間に1回 7 13.5

訪問看護STでは,新採用者教育プログラムやケアマニュアル等の教育ツールを活用していた.看護師の1回あたりの研修時間の希望は6時間が26名(50%)で最も多く,研修開催曜日の希望は土曜午前が28名(54%),研修頻度の希望は2か月に1回22名(42%)が多かった(表2).

機能強化型STに勤務する看護師の教育のニーズのうち,平均値の高かった教育項目は,「がん症状のコントロール」4.9(±0.9),「緩和ケア」4.9(±1.0),「在宅終末期ケア(看取りを含む)」4.9(±1.1)であった.移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の教育ニーズは,「緩和ケア」5.5(±1.0),「麻薬の使用方法」5.4(±1.0),「在宅終末期ケア(看取りを含む)」5.4(±1.1)であった.機能強化型STおよび移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の教育ニーズは,全ての項目が4以上の平均値であった.一方で,算定要件のうち24時間対応体制加算の有無は,「在宅終末期ケア(看取りを含む)」「腎瘻・膀胱瘻のケア」の教育項目に有意差を認めた(p = 0.05)(表3).

表3 

訪問看護師の教育ニーズの分析

Ⅵ. 考察

1. 訪問看護ST属性

本研究の調査に協力した訪問看護STの常勤数と,機能強化型STではない事業所にその理由を聞いた結果,看護師不足と答えた事業所が最も多かったことから,機能強化型STを拡大するための喫緊の課題は訪問看護に携わる人材の確保にあると考えられる.小野ら(2017)は,機能強化を図るために必要な支援は訪問看護人材の確保であると述べている.今回の対象者の訪問看護STの常勤数は,算定要件1の7人以上,算定要件2の5人以上に届いていない.非常勤数に比べ常勤数が多い結果ではあるものの,約半数近くが非常勤であることから,この非常勤が常勤に移行するような支援が必要である.

看護師勤務年数20~25年未満15名(29%)や25~30年未満12名(23%)であったにも関わらず,訪問看護師経験年数1~5年未満21名(40%),現施設での勤務年数1~5年未満27名(52%)であったこと,年代25歳未満1名,25~30歳未満0名であったことから,新規訪問看護ST数の増加や,転職した訪問看護師の多さが推察できる.齊藤(2017)は,近年,医療依存度の高い療養者の訪問看護の増加や,新規事業所の開設や休止,廃止が相次いでいることは,少子高齢社会を背景に介護や看護をビジネス化する動きが加速し看護の質を維持するという課題に直面していると述べている.訪問看護は,療養者宅にひとりで訪問する看護提供体制から高い観察力や実践力が求められる.一方で,訪問看護STが小規模のため代替要員の確保ができず,外部研修には参加しづらい等が指摘されている(川上ら,2005久保谷ら,2010).そのため,転職した看護師や非常勤であっても,事業所内外にかかわらず看護師ごとのニーズに沿った人材育成の教育が受けられる環境を整えることが求められている.

2. 機能強化型STと移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の教育ニーズ

機能強化型STに勤務する看護師の教育ニーズは,「がん症状コントロール」,「緩和ケア」,「在宅終末期ケア(看取りを含む)」が高かった.機能強化型STではない移行意思のある事業所に勤務する看護師の教育ニーズは,「緩和ケア」「麻薬の使用方法」「在宅終末期ケア(看取りを含む)」が高かった.この結果から,がんに関わるターミナルケアの教育ニーズが高い傾向にあるといえる.また,機能強化型STに勤務する看護師の教育ニーズ「緩和ケア」「がん症状コントロール」「在宅終末期ケア(看取りを含む)」は,算定要件に合致している.これは,算定要件が機能強化型STの経営に直結するため,複数のがんに関わるターミナルケアを必要とする療養者を受け入れていることが考えられる.また,機能強化型STと機能強化型STではない移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の教育ニーズに,明らかな有意差は認めなかった.このことは,機能強化型STか否かにかかわらず,訪問看護STに勤務する看護師は同様の教育ニーズを持っていると推察できる.山本ら(2016)の研究においても,訪問看護師の教育ニーズのうち「がん患者の在宅療養」が最も高かったと述べている.今回,全ての教育項目が4以上の平均値を認めた.これは,看護師の学びたいという教育ニーズの表れといえる.

算定要件のうち24時間対応体制加算は,「在宅終末期ケア(看取りを含む)」「腎瘻・膀胱瘻のケア」の教育項目に有意差を認めた.それ以外の算定要件や,管理者と看護師の回答の比較に有意差は認めなかった.この結果から,機能強化型STおよび移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師は,ターミナルケアを必要とする場面に遭遇する機会が増加しているものと推察できる.秋山(1998)は在宅でターミナルケアを受ける人が確実に増えてきていると述べている.ターミナルケアは,機能強化型STに勤務する看護師に最も求められる看護技術である.Dorin et al.(2014)は,専門家は介護者とその家族の特定のニーズに対応する必要があると述べている.ターミナルケアの教育ニーズが高かったことは,看護師が最期まで在宅でという療養者・家族のニーズを支えるための能力,技術の習得を求めているためといえる.

「腎瘻・膀胱瘻のケア」と24時間対応体制加算に有意差を認めた理由は,推測の域は超えられないものの,夜間に「腎瘻・膀胱瘻のケア」が発生する数や,がん等の疾病によって「腎瘻・膀胱瘻のケア」を必要とする療養者が増加しているものといえる.大槻ら(2019)は,カテーテル管理等の医療処置管理,実施,指導を7割以上の利用者に実施していると述べている.今回の調査によって,より具体的な医療処置管理の内容が明らかになったものといえる.訪問看護は多種多様なケアをしなければならないため,必要な能力を促進するための幅広い教育の機会を提供する継続教育が必要である(Glajchen & Bookbinder, 2001).また,自分の技術が不十分であるという自覚から研修希望につながっている(飯吉ら,2000).このことから,先に定義した看護専門職の望ましい状態と現状の乖離や訪問看護の現状が教育ニーズとなって表れているものと推察できる.

機能強化型STおよび移行意思のあるSTは,さまざまな教育方法や教育ツールを活用していた.これは,病院の継続教育とは異なり,教育環境等に合わせて独自のスタイルを確立してきているものと推察できる.また,研修等の教育ニーズ調査の結果から,2ヵ月に1回,6時間程度の外部研修を希望する傾向がみられた.このことから,訪問看護STの経営に関わる者は,事業所内外にかかわらず看護師ごとの教育ニーズに応えるための支援を行わなければならない.

今回,首都近郊3県を対象に調査したが,機能強化型ST,意向意思のある訪問看護STともにデータ数が不足している.在宅看護は地域差もあることから,より広範囲な地域における調査が必要である.

Ⅶ. 結論

機能強化型STおよび移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師は,「緩和ケア」「在宅終末期ケア(看取りを含む)」の教育ニーズが高い.また,24時間対応体制加算は「在宅終末期ケア(看取りを含む)」「腎瘻・膀胱瘻のケア」の教育項目と有意差を認めた.このことから,機能強化型STおよび移行意思のある訪問看護STに勤務する看護師の教育ニーズは,ターミナルケアが高く,これらは算定要件に合致している.他方,機能強化型STの有無や転職した看護師,非常勤,訪問看護ST内外にかかわらず看護師の教育ニーズに応えるための支援と人材育成の教育が受けられる環境を整えることが求められている.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました協力者および事業所職員の皆様に感謝いたします.なお本研究は,平成28年度~令和2年度日本学術振興会科学研究費助成金基盤研究(C)課題番号16K12288の助成を受けた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NKは,研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,草稿の作成;KBおよびMKは,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.全ての著者が最終原稿を確認した.

文献
 
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