Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Expert Nurses’ Medical Care Support for Outpatients with Liver Disease
Sachiko TakahiraHiromi Kobayashi
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2021 Volume 41 Pages 269-278

Details
Abstract

目的:熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様を明らかにする.

方法:肝疾患外来の経験と実績のある熟練看護師8名に半構造化面接を実施し,質的統合法(KJ法)を用いて分析した.

結果:熟練看護師は肝疾患患者に対し,【介入の焦点化と協力体制づくり】を前提条件として,【安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】【リスクを予測した受診勧奨と集中支援】【重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】ことを行っていた.また,肝炎治療の【副作用減少に伴うケア機会の減少】や,【肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】があるゆえに,患者との関係の形成や悪化の予防を一層重視していた.【社会と向き合う力の獲得】は全ての実践に影響を及ぼしていた.

結論:肝疾患患者への療養支援のあり様の特徴が明らかになった.肝疾患外来看護は,社会と向き合う力が問われることが示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study identifies how expert nurses provide medical care support for outpatients with liver disease.

Method: Semi-structured interviews were conducted with eight expert nurses who have experience in nursing outpatients with liver disease. The interview data were analyzed using a qualitative synthesis method (KJ method).

Results: Our study extracted seven symbolic marks of medical care support for outpatients with liver disease by expert nurses: focalizing interventions and building a cooperative system; supporting patients from the bottom using a polite and reassuring approach; recommending risk-prediction-based treatments and intensive support; assuming the burden and drawing on the patient’s original strength; reduced care opportunities due to the reduced side effects of hepatitis treatment; current situations where end-of-life patients with cirrhosis have to be cared for in acute hospitals; and nurses acquiring the ability to face society.

Conclusions: The characteristics of medical care support for patients with liver disease were identified. It is suggested that an important factor of outpatient nursing for liver disease is nurses acquiring the ability to face society.

Ⅰ. 緒言

日本の肝疾患の多くはウイルス性の肝疾患であり,適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し,肝硬変や肝がんといった重篤な病態に進行するおそれがある.加えて,肝炎ウイルスの感染者および肝炎患者に対し,不当な差別の存在が明らかになっている(厚生労働省,2016).つまり,肝疾患患者は,慢性化したのちに重篤な転帰となりかねないリスクをもち,感染症に対する偏見や差別への不安を抱えていると言える.

肝疾患の治療の状況を見ると,C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療は,副作用が強いことから患者の生活の質の低下が報告されてきた(濱田ら,2007).現在では,インターフェロン治療に代わり副作用の少ない経口薬のみでウイルス排除が可能となった.一方で,ウイルス排除後も肝発がんリスクは完全には消失しないと言われている(黒崎・田中,2020).また,B型慢性肝炎は,核酸アナログ製剤の治療が有効であるが,長期投与が必要である(日本肝臓学会,2021).つまり,C型慢性肝炎,B型慢性肝炎に代表される肝疾患は,薬剤の発展による治療効果が大きいが,長期に検査や治療を継続する必要がある疾患と言える.

加えて,肝疾患患者に対する課題として,肝炎に未だあるスティグマが不安や抑うつを招く可能性(Golden et al., 2006)が存在している.これらは,治療の副作用が減少した現在でもなくなっているわけではない.肝疾患のステージにより精神的な負担感に有意差はなく,患者には偏見や差別による生活上の困難があると報告されている(横山ら,2013).さらにC型慢性肝炎患者は,感染原因がわからないなど理不尽な感染への苦悩を抱き(高比良,2012),進行した肝疾患の患者は恐怖,怒り,悲しみ,罪悪感を経験している(Gray-Renfrew et al., 2020).このように,肝疾患患者は長期間,負の感情を経験しているが,偏見や差別を恐れて周囲に疾患を伝えづらく,苦悩を他者に理解してもらいにくい状況にある.そのため,肝疾患患者の長期療養に係る身体的・精神的負担を軽減する支援の検討が求められていると言える.

肝疾患患者への療養支援の先行研究では,看護師の介入を示したものはほとんどなく,伊藤ら(2014)の文献研究によれば事例研究の2件が報告されているのみである.二十軒(2018)は肝疾患患者の外来支援に関する15文献を検討し,外来受診時間内での慢性肝疾患患者への関わりに焦点をあてた文献がなかったと報告している.慢性肝疾患から肝がんへ移行する病みの体験を理解した支援の必要性(山田・名越,2010)が示されているが,具体的な支援方法は明らかでない.国外では,C型慢性肝炎の服薬遵守のための看護モデルの有効性(Williams, 2018)や,肝硬変患者に専念する看護師による病状管理の効果(Wundke et al., 2020)などの報告がある.これらより看護師は,肝疾患患者の病みの体験を理解し,治療の遵守や病状管理など幅広い支援を行う必要があり,その実践の場は外来である.しかし,肝疾患患者の外来受診時間内に,看護師がどのように関わり療養支援をしているのか,その実践に焦点をあてた報告は見当たらない.そこで本研究は,肝疾患外来の経験と実績のある熟練看護師を対象とし,外来で肝疾患患者にどのように療養支援を行っているかを明らかにすることが必要と考えた.それは,熟練看護師が行う療養支援は,多様な情報と推論により判断された看護行為であるからである(藤内・宮腰,2005).本研究により肝疾患患者への療養支援のあり様を明らかにできれば,肝疾患患者への外来看護全体の質の向上に寄与することができると考えた.

Ⅱ. 目的

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様を明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

肝疾患患者:慢性肝炎,肝硬変,肝がん等,長期に渡り治療を必要とする慢性肝疾患をもつ患者とする.

熟練看護師:Ericsson(1996)は「熟達化の10年ルール」つまり,素人から熟達者にまで成長するためには最低10年間の準備期間が必要であると示している.また佐藤(2007)は,ドレイファスモデルの中堅レベル「類似の科の患者を3~5年ほどケアした看護師」を熟達者としてとらええている.そのためEricsson(1996)佐藤(2007)の定義を合わせて検討し,本研究では熟練看護師を「看護師経験10年以上かつ肝疾患外来の看護経験が3年以上あり,看護実践の幅広い経験と肝疾患看護の専門的な知識と技能を有する看護師」とする.

療養支援のあり様:伊藤ら(2014)は,療養継続の支援を「肝疾患を持ちながらの闘病生活において,生活に留意しながら治療を続け,健康の増進を図るための手助け」と示している.「あり様」とは,物事が実際に存在するときに,どのように存在するかという点から見たときの,その物事のようすを示す(柴田ら,2008).そこで本研究では,療養支援のあり様を「肝疾患患者が生活に留意しながら治療を続け,健康の増進を図るための手助けがどのように存在するかという点から見たときの,その物事のようす」とする.

Ⅳ. 研究方法

1. 参加者

参加者は,日本肝臓学会肝臓専門医が所属し肝疾患の専門治療を行う施設に勤務する熟練看護師とした.参加者の募集方法は,肝疾患診療連携拠点病院,日本肝臓学会認定施設,一般病院を含む肝疾患の専門治療を行う9県155施設の看護責任者宛に研究依頼書を送付した.承諾が得られた5県8施設の看護責任者より,本研究の熟練看護師の定義に沿って参加候補者を推薦してもらった.参加候補者に研究者が直接依頼を行い,同意の得られた者を参加者とした.

2. 調査期間

2017年8月から2019年6月

3. データ収集方法

参加者に半構造化面接を行った.具体的には,肝疾患患者の治療や療養生活への思いに対する熟練看護師の受けとめ,印象に残る事例への看護実践の内容,肝疾患患者や家族からの相談内容と対応等を質問し,なるべく自由な語りを促した.参加者の特性として,年齢,看護師経験年数,肝疾患外来の経験年数を調査した.面接は個室で行い,承諾を得てICレコーダーに録音した.

4. 分析方法

データの分析には,質的統合法(KJ法)を用いた(山浦,2012).質的統合法(KJ法)は現象の実態と本質を把握しようとする質的分析方法で,看護の現象の豊富な記述から,看護現象を構造的に把握することに優れた方法論であり,確認可能性が保証されている(正木,2008).本研究では,外来の混沌とした状況や熟練看護師の複雑な看護の様相を取捨選択することなく全体として記述でき,その構造を見出すことができるため,質的統合法(KJ法)が適していると判断した.質的統合法(KJ法)を用いて,まず個別分析を行い各看護師の療養支援の独自性を明らかにし,次に全ての看護師の総合分析により熟練看護師が外来で行う療養支援のあり様を明らかにした.分析手順は以下の通りである.

1) 個別分析

逐語録より,熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援が表現されている部分を取り出し,1つの意味内容ごとに区切り内容を要約して元ラベルを作成した.次に並べた元ラベルを読み,意味内容に類似性のあるものを2~3枚集めた.そして,集まったラベルのセット全体が何を訴えかけているのかを読み取り,表札として文章化した.最終的なラベルが6~7枚になるまでグループ編成を繰り返した.そして,最終ラベルの訴える内容が意味の上で最もわかりやすく,一貫した相互関係配置となる構造図ができるように,ラベル同士の関係を配置して空間配置図を作成し,最終ラベルにシンボルマークを命名した.シンボルマークは,【事柄:エッセンス】の形で示した.事柄は全体におけるラベルの位置づけを表し,エッセンスはラベルの内容を凝縮した表現で示した.その後,空間配置図を説明する文章を作成し,各看護師の療養支援のあり様とした.

2) 総合分析

個別分析の終了後に総合分析を行った.総合分析の元ラベルは,個別分析の具体性とリアリティを残しながら,抽象度が高すぎないレベルとするため,8事例の個別分析の最終ラベルの2段階下のラベルを用いた.そして,個別分析と同様の手順でグループ編成,空間配置図の作成,説明文章の作成を行った.

5. 信用性の確保

分析の信用性を確保するために,研究者自身が質的統合法(KJ法)の初心者研修を複数回受講したうえで分析を行った.質的統合法(KJ法)の指導資格を持ち,指導経験が豊富な共著者と共に分析を行った.

6. 倫理的配慮

本研究は,長崎県立大学一般研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号318).また,参加者の所属施設の看護責任者の承諾を得て実施した.参加者には依頼書を提示して,自由意思による参加,同意撤回の権利,個人情報の保護とデータ管理,結果は匿名性を確保して学会および学術誌に公表することを説明し,同意の署名を得た.面接はプライバシー保持への配慮を行った.

Ⅴ. 結果

1. 参加者の特性と個別分析の結果の概要

参加者は看護師8名,年齢は34~55歳(平均44.4歳),看護師経験年数は10~30年(平均21.8年),肝疾患外来経験年数は3~7年(平均4.5年),面接時間は33~60分(平均47.3分)であった.7名が肝炎医療コーディネーターを取得していた.肝炎医療コーディネーターとは,「肝炎対策の推進に関する基本的な指針」(厚生労働省,2016)に基づき,都道府県が保健師や看護師,職域の健康管理者等を対象に養成を行い,各々が自分の業務の中で肝炎医療が適切に促進されるよう活動を行う.表1に参加者の特性と個別分析を通して明らかになった各看護師の療養支援のあり様を示した.複数の看護師が,肝炎の偏見からくる苦しさ,肝炎ウイルス検査陽性や肝がん診断時の衝撃という患者の重荷を捉え,それらに配慮した心理的支援を行っていた.また,きめ細かな関わりによる安心の提供や,患者の生活に自己管理を織り込み受診定着を図る支援を行っていた.さらに,肝炎ウイルス検査や肝炎治療導入の促進など予防活動を展開していた.

表1  参加者の特性と個別分析の結果の概要
参加者の特性 個別分析の結果の概要
A氏:40歳代
看護師経験:27年
肝疾患外来経験:5年
肝炎医療コーディネーター
A氏は,外来ケアの主軸を,患者像を掴むコミュニケーションとコーチングと捉えていた.これを踏まえて,患者の症状・治療に応じた関わりと,他職種をケアへ巻き込む働きかけを行っていた.A氏は患者像の把握にもとづき,きめ細かな関わりによる安心感の保証というケアの責任を果たしていた.さらに,肝炎治療終了者には脂肪肝予防の声かけと受診勧奨,肝炎ウイルス検査陽性者には患者の発信力に期待した受療勧奨という予防活動を展開していた.
B氏:40歳代
看護師経験:26年
肝疾患外来経験:5年
肝炎医療コーディネーター
B氏は,肝炎の偏見からくる患者の苦しさを代われない煩悶を抱き,患者の苦しさへの伴走を行っていた.そのため,医療費助成の手続きの説明や段取りにより患者の煩雑さの肩代わりを行い,外来記録の共有や患者評価の導入により,即時の問題解決のための内省を行っていた.また,治療の変化に応じたチーム医療の保証を行っていた.さらに,多職種と連携した患者の生活習慣への念入りな支援や,看護師への知識提供による肝炎治療導入の推進の活動を行っていた.
C氏:50歳代
看護師経験:30年
肝疾患外来経験:5年
肝炎医療コーディネーター
C氏は,受診間隔の遵守と途絶の防止による治療完遂支援や,他人に知られるリスクを回避した接近により心情を汲み取る支援,さらに,定期受診はするが自己管理の記録は持参しない等患者らしい自己管理への許容により前向きさを引き出す支援をしていた.これらは濃密で継続した看護の提供という結果をもたらしていた.C氏の支援は,患者の心情を慮りながら肝炎ウイルス検査陽性者への早期告知の促進や,医療費助成制度の壁に苦慮をしながら幅広い肝炎問い合わせへの対応といった,柔軟な姿勢や資質が基盤となっていた.
D氏:40歳代
看護師経験:26年
肝疾患外来経験:3年
肝炎医療コーディネーター
D氏は,患者の肝疾患診断時には療養への納得の促進,治療開始時には安全遂行のための理解の促進を行っていた.そして,生活から治療へ価値転換を促すために治療意欲を支え受診定着を図る支援を行っていた.そのために患者の状況を判断し他職種への連絡・相談や,家族を巻き込み自己管理の限界を突破する支援体制づくりを行っていた.これらはプライバシーと言葉に配慮した患者との対話にもとづき行われていた.
E氏:40歳代
看護師経験:19年
肝疾患外来経験:3年
肝炎医療コーディネーター
E氏は,肝炎ウイルス検査や肝炎訴訟の相談への対応により,病院と地域をつなぐ役割を担っていた.そして,顔馴染み効果を発揮し患者へ安心の提供を行っていた.その上で,定期検査の脱落を予測して電話連絡と検査予約の促しを行っていた.また,患者の治療理解の促進への関わりや,情報を織り込み待つ姿勢をもち自己決定を支える関わりを行っていた.そして,肝疾患の最新知識を活用して検査や治療の促進と副作用の観察を行っていた.
F氏:30歳代
看護師経験:10年
肝疾患外来経験:4年
肝炎医療コーディネーター
F氏は,肝疾患患者に具体的示唆を与えるため自ら学習機会の獲得を行っていた.これを基盤に,事前の情報収集により介入が必要な患者の見極めを行っていた.さらに,肝がん診断時には時間を捻出し真摯に患者の思いを聴くことや,肝がん進行に備えた情報収集と提供を行っていた.さらに,患者の疑問の表出と対応の場の確保や,多職種で実践する肝疾患進行の予防活動への参加は,肝がん診断時の心理的支援や,肝がん進行に備えた支援体制づくりに影響しあっていた.
G氏:40歳代
看護師経験:17年
肝疾患外来経験:7年
肝炎医療コーディネーター
G氏は,治療完遂に導く服薬間隔厳守の支援や,病気・感染・訴訟等多岐にわたる相談対応,最新知識に基づく教育活動など広範囲に及ぶ貢献をしていた.また,受診機会を逃さぬコミュニケーションや,肝炎ウイルス検査陽性者への不信感を払拭する言葉かけと知識の投入,根気よく聴き気持ちの収まりどころへ導くケアにより,やり場のない患者心情に深く入る関わりを行っていた.
H氏:40歳代
看護師経験:19年
肝疾患外来経験:3年
H氏は,肝硬変の終末期患者を急性期病院で対応せざるを得ない現状や,病状を知らない家族に協力を得る難しさを捉えていた.そのため,継続介入が必要な患者の共有と統一した介入,そしてハイリスク患者へのサポートを徹底していた.また,情報収集能力を高めて患者の全体像を把握することや,患者の生活に自己管理を織り込む働きかけを行っていた.これらの実践の結果,外来看護の力を発揮する仕組みづくりと,外来看護の成果の意識により,療養支援の質の保証を行っていた.

注)肝炎医療コーディネーター:「肝炎対策の推進に関する基本的な指針」(厚生労働省,2016)に基づき,都道府県が保健師や看護師,職域の健康管理者等を対象に養成を行い,各々が自分の業務の中で肝炎医療が適切に促進されるよう活動を行う.

2. 総合分析結果

総合分析は,ラベル123枚を用いた.8段階のグループ編成を経て,7つの最終ラベルの関係性に基づいて空間配置した.図には最終ラベルとシンボルマークを示した.以下,シンボルマークごとに説明したのち,7つのシンボルマークの関係性について説明する.なお,シンボルマークは【事柄:エッセンス】,最終ラベルは《 》,元ラベルは「 」の太斜体で示す.

1) 7つのシンボルマークからなる療養支援のあり様

(1) 【外来支援の戦略:介入の焦点化と協力体制づくり】

最終ラベルは,《熟練看護師が外来で患者を支援することは,患者やポイントを絞り込んだチームアプローチや,家族や他職種との協力体制など事前の戦略なしでは難しい現実にある》であった.例えば「外来看護師はそもそも体制が日替わりなので,継続が必要な外来患者に対し前日にカルテから関わりのポイントを抽出し,カルテに付箋をつけて注意喚起を行い,どの看護師も対応できるようにしている」(H氏)のように,外来患者に現実的に介入可能な方法を工夫していた.また,「外来看護師が患者に禁酒などの生活指導を行う時は,若く理解力のある患者であっても自身の欲求に流されがちなので,家族に来院を促して直接話をして,家族を巻き込んだ支援体制を作ることが大事だ」(D氏)のように,家族の力を借りて患者を支援していた.

(2) 【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】

最終ラベルは,《熟練看護師は,生き方や病識が捉えにくい肝疾患患者に対し,短時間で間欠的な接点しかない外来の場で診療の間接的な支援を行い,強固でなくとも根底で支えられる関係性を形成しようと努力している》であった.例えば「私は診察前に患者から情報を収集して医師に提供し,診察後には患者の不明点や疑問点を医師に戻して返答するなど,患者が診察を最大限活用できるようにしている」(A氏)のように,患者と医師へ情報の橋渡しを行っていた.また「患者は心の奥に悩みを抱えていても言っていいのか迷いがちだと思うので,肝炎を他人に知られるリスクを回避しつつ,外来看護師から患者へ声をかけて想いを引き出し,治療やメンタル面のサポートをしていきたいと思う」(C氏)のように,他者に病名を知られないよう細かく注意しながら声をかけ,いつでも聴く姿勢を示し,根底で支えられる関係づくりをめざしていた.

(3) 【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】

最終ラベルは,《熟練看護師は,肝炎検査や治療の啓発や受診途絶の予防,進行リスクの高い患者への集中支援など,患者自身には進行予測や切迫性の実感が困難だと承知しているからこそ肝疾患の悪化を防ぐ活動を行っている》であった.例えば「C型慢性肝炎の治療に大切なのは受診間隔と途絶の予防であり,私は治療導入時の患者に十分に説明を行うと共に,外来受診時は機会を逃さず関わり,未受診者への連絡や多職種が携われる工夫など,治療完遂に向けたきめ細やかな支援をしている」(C氏)のように,他職種に根回しをしながら未受診者への連絡や声かけなど,受診途絶を防ぐため細やかに対応していた.また「肝がんは症状がなく経過の予測が難しいため,いざ患者が動けなくなった時に混乱しないよう,外来看護師は患者や家族の療養への希望,往診医や看取り施設など情報を集めて事前に支援体制を整えることが大事だと思う」(F氏)のように先を読んで動き,患者や家族へ療養への備えを促していた.さらに「肝がんや肝不全など症状が進行する患者は,漏れ落とすと外来看護師が経過を把握しないまま悪化して緊急入院となるため,拾い上げと継続介入に力を入れている」(H氏)のように,リスクの高い患者の拾い上げと継続介入に力を入れていた.

(4) 【治療意欲の支持:重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】

最終ラベルは,《患者が自らの意思で治療や自己管理に向き合えるように,熟練看護師は患者の重荷をその身になって受けとめて言葉をかけ,その人らしさを引き出しながら支えている》であった.重荷とは,肝炎の偏見からくる苦しみや肝炎ウイルス検査陽性の衝撃,治療遵守の難しさ,自己決定の迷いなど患者の心理的負担を示す.例えば「肝炎ウイルス検査陽性判明者への看護面談は,患者が感染や差別への不安が強い場合や,拒否的な場合があり,看護師の気持ちも重苦しいが,患者の心境に寄り添って気持ちを和らげるよう言葉を選んで関わっていきたいと思う」(G氏)のように,患者に潜む否定的感情を引き受けて心理的受け入れを支えていた.また「私は,受診予定を遵守できない患者へ受診機会を逃さず自分から話しかけて,フレンドリーにスキンシップをとりながら患者の身になって丁寧に説明することで,素直に言葉を受け入れられたことがある」(C氏)のように,受診日を守る難しさを自分事として捉えて患者の身になって伝えることで遵守を促していた.そして「私は,過去に辛い治療経験があり新治療に踏み切れないC型慢性肝炎患者の思いを受けとめつつ,治療の情報をそれとなく提供する回数を重ねながら,自分で決めることを促している」(E氏)のように,患者の迷いを受けとめ,治療の情報を織り込みながら自己決定を待つ関わりを行っていた.

(5) 【肝炎治療の進歩:副作用減少に伴うケア機会の減少】

最終ラベルは,《インターフェロンフリー治療は,入院と外来の両方で治療導入がなされており,熟練看護師は治療開始時の説明や症状確認といった通常の対応は行うが,副作用に対するケアの機会が減り,関わりも浅くなったと感じている》であった.例えば「インターフェロン治療は副作用が強く,常に患者からの電話対応に備え,休日も看護が継続できるよう準備を行っていたが,インターフェロンフリー治療は副作用が格段に少なくなり,やるべき事が減った」(G氏のように,副作用減少によりケアの機会が減少したと感じていた.また,「インターフェロンフリー治療は高額な薬を飲み忘れなく確実に服用する説明は必要であるが,副作用症状は出ないため患者に深く聞くことはなくなり,看護師の関わりは浅くなった」(A氏)のように,治療中の患者への関与の程度が浅くなったと感じていた.

(6) 【肝硬変の行く末:肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】

最終ラベルは,《肝硬変の終末期患者は,今のところホスピスの対象外で,緩和ケアができる受け入れ先がなく,急性期病院で対応せざるを得ないのが全体的な課題だと思う》であった.例えば「肝がんの終末期患者はホスピスなど受け入れ先があるが,肝硬変の終末期患者はホスピスの対象外であり,緩和ケアができる受け入れ先がなく,対応が難しい」(H氏)のように,肝硬変が進行し終末期となる患者への対応の課題をとらえていた.

(7) 【社会と向き合う力の獲得:幅広い相談に対処できるよう研鑽】

最終ラベルは,《肝疾患外来の熟練看護師は,病気や仕事の心配から制度や訴訟に至るまで,幅広い相談窓口として社会と向き合う力が問われる実感をもち,業務内外での研鑽に努力している》であった.例えば「外来の肝疾患患者や家族から,病気の事,家族やパートナーへの感染の心配,仕事の継続,訴訟などの相談を受けた際は,答えられる事は看護師が回答し,わからない場合は専門医に回答を相談する」(G氏)のように,多岐にわたる相談窓口として社会と向き合う力量が問われていた.また「肝疾患の治療は急速に変化しており,患者の副作用の早期発見や,患者の質問に対応するためにも,自ら学んで最新治療の知識を得る必要があると思う」(E氏)のように,最新の知識を得る必要性を感じ研鑽に努めていた.

2) 療養支援のあり様の空間配置図

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様は図1のように示すことができた.図1について説明する.熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援は,【外来支援の戦略:介入の焦点化と協力体制づくり】を前提条件として,【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】ことや,肝疾患の【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】,さらには【治療意欲の支持:重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】ことを行っていた.また,【肝炎治療の進歩:副作用減少に伴うケア機会の減少】は,それゆえに患者との【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】ことがますます重要となり,一方で【肝硬変の行く末:肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】があるゆえに,【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】に力を注いでいた.【肝炎治療の進歩:副作用減少に伴うケア機会の減少】と【肝硬変の行く末:肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】は,肝疾患の治療や施策に影響を受ける療養支援のあり様として通底していた.このような中で熟練看護師は,【社会と向き合う力の獲得:幅広い相談に対処できるよう研鑽】を行っており,この努力はすべての実践に影響を及ぼしていた.

図1 

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様

Ⅵ. 考察

1. 熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様の特徴

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様は,外来支援の戦略を前提条件として,関係の形成,悪化の予防,治療意欲の支持の3つが相俟って行われることが見出された.また,肝炎治療の副作用減少に伴うケア機会の減少や,肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状があるゆえに,関係の形成や悪化の予防が一層重要となることや,社会と向き合う力の獲得が全ての実践に影響を及ぼすことが見出された.これらの特徴を考察する.

療養支援の前提条件として,熟練看護師は【外来支援の戦略:介入の焦点化と協力体制づくり】を行い,患者やポイントを絞り込みチームで同じ介入ができる体制を整えることや,家族や他職種との協力体制をつくり継続的な支援を行っていた.外来の看護職員の配置基準は低く,時間がない等継続看護が難しい現実がある.専門性の高い外来看護師は,患者が問題を抱えそうな時に「早めに家族にアプローチする」との報告がある(石井・島田,2017).つまり,熟練看護師が介入する患者やポイントを絞り,家族や他職種との協力体制を事前に築くことは,外来の人的制約や時間的制約に対応する現実的な戦略と言える.

特徴の1つ目として,熟練看護師は,患者と医師の情報の橋渡しや医療費助成の手続きの説明,安心の提供など,診療の間接的支援により【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】ことを行っていた.肝疾患患者は長い治療経過があり,肝臓の代償能が機能する時期は症状が少なく,看護師は患者の生き方や病識を捉えにくい.熟練看護師は,患者を代弁し医師との間を取り持つ等の支援を行い,患者の生き方や病識をとらえる努力していた.肝疾患患者の中には,偏見や差別を恐れて周囲に自分の病気を話せない者がいる.そのためC氏のラベルのように「肝炎を他人に知られるリスクを回避しつつ,外来看護師から患者へ声をかけて想いを引き出し」心理面のサポートを行っていた.肝疾患外来で安心して病気の話ができる関係を形成することは,患者がやり場のない心情を吐露して精神的安寧を保つために重要である.すなわち【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】は,援助を必要とする肝疾患患者の人間的状況に看護師が関わることへの意思をもち,責任ある応答を行うという高い実践力が求められる支援であった.

特徴の2つ目として,熟練看護師は,【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】を行っていた.熟練看護師は静かに進行する肝疾患に切迫感を抱くことは困難だと承知するからこそ,肝炎ウイルス検査や治療の啓発,受診途絶の予防により悪化を防ぐ活動を行っていた.またF氏のラベルのように「いざ患者が動けなくなった時に混乱しないよう,患者や家族の療養への希望,往診医や看取り施設など情報を集めて事前に支援体制を整える」助けをしていた.これはBenner(2001/2005)のいう「予測や予期」にもとづき支援がなされたといえる.またH氏のラベルのように「症状が進行する患者は,漏れ落とすと外来看護師が経過を把握しないまま悪化して緊急入院となるため,拾い上げと継続介入に力を入れ」1回の受診も逃さないようチームで集中支援を行っていた.つまり,【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】は,臨床経過の予測にもとづき行われ,熟練看護師が経験を重ねて習得した療養支援であることを示唆する.

特徴の3つ目として,熟練看護師は【治療意欲の支持:重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】ことを行っていた.重荷を引き受けるとは,Orlando(1961/1964)が「患者が自力では負いきれない心身両面の問題を代わって背負う行為が看護である」というように,専門職としての看護の機能の発揮と言える.例えばG氏のラベルのように「肝炎ウイルス検査陽性判明者への看護面談は,患者が感染や差別への不安が強い場合や拒否的な場合があり,看護師の気持ちも重苦しい」と,肝炎に対する患者の否定的感情をその身になって引き受けて,言葉をかけていた.つまり,患者の重荷を察して共感を言語化することにより,患者本来の力を引き出し,心理的受け入れを支えていたといえる.すなわち,【治療意欲の支持:重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】とは,他者に伝えづらい肝疾患をもつ患者の治療意欲を支持する療養支援と考えられた.

2. 肝疾患の治療や施策に影響を受ける療養支援のあり様

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様の特徴を述べてきたが,これらは,わが国の肝疾患の治療や施策に影響を受けることが示唆された.

C型慢性肝炎に対し,2014年に内服薬のみでウイルス排除が可能なインターフェロンフリー治療が認可された.熟練看護師は治療開始時の説明や症状確認など通常の対応は行うが,副作用に対するケアの機会が減り,関与の程度も従来の治療に比べ浅くなったと感じている.それゆえに,【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】ことがより一層重要となっている.また,【肝硬変の行く末:肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】について,「肝炎対策の推進に関する基本的な指針」(厚生労働省,2016)には,肝硬変に係る医療の体制が十分に整備されていない地域があることや,根治的な治療法が少なく患者の高齢化が進む現状が示されている.加えて,肝硬変は予後予測が難しく緩和ケアの導入が遅れやすい(官澤,2018).それゆえに熟練看護師は,症状が進行する患者を拾い上げてサポートを徹底することや,先を読んで受け入れ先を探すことなど悪化への備えを行っていた.

これらの肝疾患の治療や施策による影響に対応するため,熟練看護師は【社会と向き合う力の獲得:幅広い相談に対処できるよう研鑽】を行っていた.熟練看護師は,肝炎対策基本法にもとづく肝炎ウイルス検査や医療費助成制度,特別措置法にもとづく肝炎訴訟の相談に対応するため,肝炎医療コーディネーター取得や病院内の肝臓チーム参加,学習会などの学習活動を継続していた.つまり,肝疾患外来の熟練看護師は,相談対応において社会と向き合う力が問われる実感をもち,業務内外での研鑽に努力していたといえる.外来看護では,対人技術を重視した相談技術が求められる(数間,2017).看護師が多様な知識と対人技術を身につけることは,肝疾患患者への外来看護の質の向上に不可欠である.新たに肝疾患患者の外来看護に携わる看護師がこれらを身につけることができるように,研修の機会を設けるなどして社会と向き合う力の獲得を支援することが重要である.

Ⅶ. 結論

熟練看護師が外来で行う肝疾患患者への療養支援のあり様として3点を明らかにした.

1.【外来支援の戦略:介入の焦点化と協力体制づくり】を前提条件として【関係の形成:安心できる丁寧な関わりにより患者を根底から支える】【悪化の予防:リスクを予測した受診勧奨と集中支援】【治療意欲の支持:重荷を引き受け患者本来の力を引き出す】ことが相俟って行われていた.

2.【肝炎治療の進歩:副作用減少に伴うケア機会の減少】【肝硬変の行く末:肝硬変終末期を急性期病院で対応せざるを得ない現状】があるゆえに,患者との関係の形成や悪化の予防を一層重視した療養支援をしていた.

3.【社会と向き合う力の獲得:幅広い相談に対処できるよう研鑽】を療養支援の実践に活かしており,肝疾患外来看護には,社会と向き合う力が問われることが示唆された.

Ⅷ. 研究の限界と今後の課題

本研究は参加観察を行っておらず,肝疾患外来の熟練看護師への面接によるデータの範囲内での分析に限定される.しかし,面接により詳細なデータが得られたことから肝疾患外来での療養支援のあり様を把握できたと考える.今後は,本研究の知見をもとに,看護師が外来で行う療養支援の実施に影響を及ぼす構造を分析し,肝疾患患者に対する外来看護モデルを構築することが課題である.

付記:本研究の一部は第40回日本看護科学学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究にご協力くださいました参加者の皆様,ならびに参加者のご推薦を頂きました医療機関の関係者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,科学研究費助成事業若手研究(課題番号19K19608)「肝疾患患者に対する外来看護モデルの構築に関する研究」の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:STは研究の着想およびデザイン,データの入手,分析,解釈,原稿作成までの研究プロセス全体;HKはデータ分析,解釈,研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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