Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
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Family Resilience in Family Carers of People with Parkinson’s Disease
Minako KawataTaeko ShimazuShigeaki Watanuki
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2021 Volume 41 Pages 354-362

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Abstract

目的:パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンスを明らかにすることである.

方法:家族介護者11名を対象に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:家族介護者は,逆境の中でも希望を持ち,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】を原動力として困難に対処していた.そして,生活を共にする中で培った【家族の力の柔軟な発揮】をし,理解されにくい難病でも【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】を構築していった.家族員各々が無理のない対処方法を見極め【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】により長期の療養生活にも対処していた.次第に家族は自信を深め,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】に立ち戻っていた.

結論:本研究で示したファミリーレジリエンスが,家族介護者の負担軽減や家族の相互理解の促進に寄与する可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the family resilience in family carers of people with Parkinson’s disease.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 11 family carers and contents were analyzed qualitatively and descriptively.

Result: Family carers had hope even in adversity, dealt with difficulties with a [positiveness that is not affected by swaying symptoms] as their motivation, and could [flexibly draw out the power of the family] that they had cultivated while living together. Even if it was an intractable disease that was difficult for people around them to understand, they tried to [connect with people outside the family without creating a wall in the mind]. They identified a reasonable coping method for each family member [shared with the family on a daily basis even if the situation swayed due to symptoms], and responded to long-term medical treatment. Overcoming adversity, they became more confident and their [positiveness that is not affected by swaying symptoms] was further strengthened.

Conclusion: It was suggested that the family resilience shown in this study may contribute to reducing the burden on family carers and promoting mutual understanding among families.

Ⅰ. 緒言

パーキンソン病は,静止時振戦,強剛,無動,姿勢反射障害などの運動症状や,自律神経障害,うつといった非運動症状など多様な症状を呈する.日本における患者数は人口10万人当たり100~180人で増加傾向にあり,根治療法は未確立で,薬物療法開始後数年が経過すると短時間で急激に症状が変化する症状の日内変動などの運動合併症が出現する(日本神経学会,2018).家族介護者は療養者の生活を支えている(牛久保,2005出村・岩田,2012)が,多岐にわたり一日のうちでも急激に変化し得るパーキンソン病に特徴的な症状への対処に,療養者と共に心身への負担を感じてもいた(仲井,2013冨安ら,2013Abendroth et al., 2012高野・今村,2013植木ら,2016).

一方,家族介護者自身も療養者から支えられていると感じ,介護体験を前向きに捉えようとも努めていた(植木ら,2016).このような,家族の相互作用により逆境を乗り越える概念としてファミリーレジリエンスがあり,慢性疾患患者の家族においてもファミリーレジリエンスの概念は適応可能であるとされている(Walsh, 2016Rocchi et al., 2017).ファミリーレジリエンスとは,個人のレジリエンスから発展した概念である.レジリエンスとは,ショック,負傷など不愉快なできごとに遭遇した後,すぐにもとの精神的に健康な状態に戻ろうとする能力を意味している(Oxford University Press, 2010).不運な出来事に直面した際に働く防御機能(Rutter, 1985)であり,内的・外的因子を含む環境との相互作用や適応プロセス全体を含んでいる(Grotberg, 1996).Walsh(2016)は,個人のレジリエンスを家族に活用可能なファミリーレジリエンスの概念へと発展させ,「危機状況を通して家族が家族として集結し回復していく可塑性」と定義し,これまでの家族機能を変化させ家族が危機的状況に適応することを可能にするとしている.

先行研究においてファミリーレジリエンスの概念は複数示され,その対象も幅広いが,個々の家族成員間の相互作用により家族としての恒常性を維持しようとするシステム論を前提としている点や,家族成員個々の要因と家族が利用可能な資源の活用について同時に捉えることができる点は共通している(Walsh, 2016石井,2009Hawley & DeHaan, 1996高橋,2013河原ら,2014).高橋(2013)は,概念分析の結果,ファミリーレジリエンスとは,【家族の相互理解の促進】,【家族内・家族外の人々との関係性の再組織化】,【家族の対処行動の変化】,【家族内・家族外の資源の活用】,【家族の日常の維持】であり,帰結として【家族の新しいパターンの確立】,【家族の成長】を挙げている.河原ら(2014)は,文献レビューを行い,ファミリーレジリエンスとは,困難な状況からいかに立ち直るかという回復力の他,危機に陥らないようにするための予備力であるとしている.文献研究(高橋,2013河原ら,2014)の分析対象となった国内文献の多くは,家族介護者個人のレジリエンスについて言及したものであり,家族を一つの単位として捉えた文献は事例検討や文献研究のみであった.海外文献では,がん患者や障害児等および家族介護者を対象とした研究が散見された.中平・野嶋(2016)は,精神障がい者および家族介護者を含む家族を対象としてファミリーレジリエンスを明らかにしており,状況に応じて家族の様相を変化させていく力が発揮されていたと述べている.しかし,一日の中でも症状が大きく揺れ動き捉えにくい特徴があるパーキンソン病療養者の家族を対象とした質的研究は見当たらず,研究を積み重ねる必要があると考えられた.

パーキンソン病療養者の家族介護者は,療養者の症状が揺れ動くため周囲の人々から病気への理解を得ることさえ諦めてしまうことや,「療養者を最も理解できるのは自分である」という家族介護者の自負心から社会資源の活用をためらう現状があり(植木ら,2016),家族が新しい対処方法を獲得していくまでに様々な障害や葛藤があることが伺える.療養者と生活する中でどのようにファミリーレジリエンスが機能しているのか家族介護者の視点で理解することは,家族内の力を引き出し,家族外からの新たな資源も取り入れた家族の適応を促すための支援に繋がると考えられた.そこで,本研究は,パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンスを明らかにすることとした.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,ファミリーレジリエンスという内的・外的因子を含む環境との相互作用や適応プロセス全体を含んだ(Grotberg, 1996),非常に複雑な体験を明らかにすることを目的としている.そのため,目の前の環境にできるだけ手を加えることなく関心ある現象に迫っていく自然主義的な手法(Sandelowski, 2000)であり,研究者の解釈を最小限にとどめ,複雑な人間の体験を明らかにするのに適している(グレッグら,2007),質的記述的研究デザインを用いた.

2. 研究参加者

研究参加者の条件は,パーキンソン病療養者と同居し主に介護を担う家族で,ファミリーレジリエンスについて十分に語ることのできる者としてパーキンソン病患者会代表者,もしくは研究参加者からの推薦を受けた者とした.

3. データ収集方法

本研究では,現象のより深い理解を目指すため便宜的サンプリングおよびスノーボールサンプリングを用いた.患者会代表者および既に協力を得た研究参加者に本研究の趣旨を説明した上で,本研究参加者の条件を満たす家族介護者について,可能な限り多様な続柄の家族介護者の紹介を依頼した.紹介を受けた会員及び会員の家族介護者に研究参加を依頼した.面接日程及び場所は,プライバシーの保護に留意し,研究参加者の希望に沿って調整した.面接方法は半構造化面接法とし,面接時間は,1回60分程度とした.研究参加者の疲労に配慮し,表情や仕草を観察し60分を超えても語りが継続する場合は,60分経過時点およびその後30分ごとに1回程継続意思について確認した.語りの内容は,了承を得てICレコーダーに録音し,研究参加者の表情,雰囲気,しぐさ,声のトーン,抑揚などはフィールドノートに記載した.

質問はインタビューガイドを基に,どのようにファミリーレジリエンスが機能しているのか,療養者との生活の様々な状況への対処方法,家族の長所や強み,支えとなる存在について詳細に聞き取った.その際,相手の話の流れを尊重し,沈黙の時間も見守る姿勢を保った.インタビュー開始前,基本情報として研究参加者の性別,年齢,続柄,職業の有無,介護を開始した時期,家族の人数,副介護者の有無,療養者の情報として年齢,利用している介護サービス,障がい者手帳の有無,Hoehn-Yahr重症度分類の記載を依頼した.

4. データ収集期間

データ収集期間は,2017年12月~2018年2月であった.

5. データ分析方法

家族介護者の体験を,①データの圧縮,②データの表示,③結論を導き出すこと・実証の3つの活動(Miles & Huberman, 1994)を通して質的帰納的に分析した.

データの圧縮として,カテゴリー化を行った.まず,家族介護者が語った言葉から逐語録を作成し,文脈全体を読み込んだ.次に,パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンスに着目し,文脈の意味内容ごとに区切った上で意味づけ(コード化),相違点や類似点について比較検討し類似しているものをまとめ,共通して内在する意味を抽出しサブカテゴリー,カテゴリー,コアカテゴリーとした.その際,研究目的に照合した上で家族介護者の特徴的な語りにも着目し,データから離れないよう注意し意味づけした.

データの表示として,カテゴリー間の関係性も検討しながら表1を作成した.

表1  パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンス
コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
揺れ動く症状に左右されない前向きさ 揺れ動く症状に左右されず前向きに療養生活と向き合う ショックをバネに病気と向き合う
揺れ動く症状を楽観的に捉える
逆境の中でも楽しみを見出す
症状が揺れ動く中でもうまく行ったことに目を向ける
困難な状況でも笑顔を忘れない
できることをするしかないと割り切って難病と向き合う
家族に降りかかった困難に意味を持たせる 家族の置かれた状況を意味づける
家族の強みに目を向ける
家族がこれまで大切にしてきた信念に目を向ける
逆境を糧に家族として成長する 病気をきっかけに家族の心理的距離が近づく
病気をきっかけに家族と親族や地域の人たちとの心理的距離が近づく
困難を乗り越える為に家族として成長する
家族が悩みを抱えることで他人を思いやれるようになる
家族の学びを周囲の人に役立てる
現在の家族の置かれた状況に感謝する
家族の力の柔軟な発揮 家族の絆を意識する 互いに感謝の気持ちを持つ
互いの存在を心の拠り所とする
互いに思いやりを持って接する
一緒に過ごす時間を持つ
療養者の力を家族の柔軟性で引き出す 症状に応じて柔軟に対処する
緩慢ながらも日常生活動作が自立できるよう環境を整える
療養者がもつ力を尊重する
生活の中にリハビリテーションを取り入れる
一緒に外出する機会を持つ
時には距離を置くことで手伝い過ぎない
心の壁を作らない家族の理解者とのつながり 親族とのつながりを強める 気にかけてくれる親族がいる
親族からの助言に支えられている
将来を見越して親族との関係を強める
今できる範囲で親族における役割を担う
家族で療養者仲間と助け合う 言いにくい症状も打ち明けられる療養者仲間がいる
家族で療養者仲間と活動する機会を持つ
自分たち家族の状況と療養者仲間の状況とを重ねて学ぶ
できる範囲で療養者仲間と助け合う
療養者仲間に認められることが家族の力になる
心の壁を作らず地域とのつながりを強める リハビリテーションとなる活動の場を地域で増やす
心の壁を作らず療養者が地域に溶け込めるよう工夫する
揺れ動く症状に応じて家族に合った支援を得る工夫をする 家族で納得した医療・介護を受けるための情報収集をする
社会資源を取り入れる時期を一緒に考える
民間サービスにも病気に合わせた対応を依頼する
症状に応じて家族の状況に合わせた福祉用具や住宅改修を検討する
揺れ動く症状が周囲の人にも伝わるよう工夫する
信頼できる協力者とつながる
家族各々を支えてくれる存在を得る
症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有 揺れ動く症状を日頃から共有する 共同で揺れ動く症状を捉える
生活の中から症状の変化を感じ取る
揺れ動く症状を書き出して家族で確かめ合う
様々なところから病気に関する情報を集める
揺れ動く感情を日頃から共有する 発話の障害を踏まえ日頃からよく話す
症状に伴う気分の浮き沈みも踏まえ日頃から互いの考えを伝え合う
病気により表情が乏しくなっても感謝や愛情を伝え合う
家族として無理のない対処方法を見極める 今できることをするしかないと割り切る
家族だからこそできることに目を向ける
長い療養生活を見越して無理はしない
愚痴や不満をひとりでため込まない

結論を導き出すこと・実証として,本研究結果の意味を引き出すため,先行文献との関係も探索し考察した.

なお,抽出された意味内容について研究者の誤認や解釈違いがないか家族介護者に適宜確認し,確実性を確保した.分析の全ての過程において,分析内容とデータとの一貫性について研究者間で繰り返し検討し,地域看護学および老年看護学分野の質的研究者のスーパーバイズを受けた.

Ⅲ. 倫理的配慮

研究参加の自由意思,研究参加の撤回と中断の権利の保障,匿名性の保持,プライバシーの保護,結果公表予定について説明し文書で同意を得た.本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守した.また,国立国際医療研究センター倫理審査委員会の承認を得た(承認番号NCGM-G-002378-01).

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

9組の家族の参加を得,2組は療養者1名に対し家族介護者2名であった.研究参加者である家族介護者は11名(男性3名,女性8名)であり,平均年齢は,62.3 ± 13.9歳(範囲34~84)であった.療養者との続柄は,配偶者8名(妻6名,夫2名),子の配偶者(嫁)1名,子2名であった.

療養者は9名,平均年齢70.7 ± 6.9歳(範囲58~81)であり,症状の自覚からの経過年数は,平均13.2 ± 3.3年(範囲10~18)であった.要介護認定は,要支援1が1名,要支援2が2名,要介護2が4名,要介護3が1名,要介護4が1名であり,Hoehn-Yahr重症度分類は,IIが2名,IIIが7名であった.なお,全てパーキンソン病患者会に登録のある療養者の家族介護者であった.

面接時間は,平均75.7 ± 41.9分間(範囲20~163)であった.

2. パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンス

パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリンスとして4コアカテゴリー,12カテゴリー,54サブカテゴリーが抽出された(表1).以下,コアカテゴリーは【 】,カテゴリーは『 』,サブカテゴリーは《 》で表記し,研究参加者を「家族介護者」,パーキンソン病療養者を「療養者」と表記した.

パーキンソン病の症状が進行すると,家族は療養者の揺れ動く症状に翻弄されるが,次第に『逆境を糧に家族として成長する』に至り,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】を原動力として困難に対処していた.そして,これまで生活を共にしてきた中で培った家族の絆に支えられ,症状が変動しても『療養者の力を家族の柔軟性で引き出す』ことができており,【家族の力の柔軟な発揮】をしていた.さらに,周囲の人々から理解されにくい難病であるからこそ,『揺れ動く症状に応じて家族に合った支援を得る工夫をする』よう努め,親族,療養者仲間や地域の人々など【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】を構築させていた.長期にわたる療養の中では,症状と共に揺れ動く家族各々の感情を尊重し合い,『家族として無理のない対処方法を見極める』ことも重要であり,【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】ができるよう努めていた.これらの努力により逆境を乗り越えることで家族は自信を深め,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】に立ち戻っていた.

1) 【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】

【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】とは,家族が,病気のために起こる様々な逆境の中でも希望を持ち続けることであった.家族介護者は,パーキンソン病の症状が揺れ動く中でも,療養者の強みに目を向け《揺れ動く症状を楽観的に捉える》よう心がけ,『揺れ動く症状に左右されず前向きに療養生活と向き合う』よう努めていた.

「ドパミンっていう薬を,(1日に)10回飲んでるから,[中略]まあ若干波はあるんだけどそれなりに,今も動けてるし.」(B)

そして,仮面様顔貌を呈し表情が乏しくなった療養者を笑わせようとあえておどけた態度をとり,《困難な状況でも笑顔を忘れない》ようにしていた.

「パーキンソンの人って大体表情が乏しくなるでしょ,能面みたいになって.[中略]なるべく,笑顔でいてほしい.[中略]そういう風に,自分から(笑顔を)作っていく努力はしないといけないんだろうな.」(D)

歩行障害の症状により療養者が転倒して骨折した際でも,パーキンソン病は65歳未満から介護保険の適用となることを知り早期にリハビリテーションを取り入れる契機になったと捉えるなど,困難な状況に置かれても《家族の置かれた状況を意味づける》ことで『家族に降りかかった困難に意味を持たせる』ことにつなげていた.

「骨折したのは,大変だったけどラッキーだったなって思います.」(I)

そして,パーキンソン病の症状が進行し療養者の日常生活に支障を来すようになっても,療養者からの家族介護者への気遣いが増え,かえって何でも話せる関係になれたとも感じており,《困難を乗り越える為に家族として成長する》体験をしていた.

「(病気になる前は)威張っていたけど,優しくなりました.[中略]何でも言えるようになった.」(A)

やがて,自分たち家族の悩みのみならず同じように悩みや困難を抱えた人々にも目を向け自分たちの体験を積極的に発信しようと努め,《家族の学びを周囲の人に役立てる》体験を重ねる中で『逆境を糧に家族として成長する』ことを実感していった.

「主人にね,大学病院だから,あなたはモルモットよ,って.でも,自分たちがいろんなことを,疑問を提供することで,次にこういう症例が出た時に,あ,こういう人がいてこういう時にこうしたらよくなったっていうデータをどんどんどんどん集めていくのが大学病院の仕事じゃないですか.」(D)

2) 【家族の力の柔軟な発揮】

【家族の力の柔軟な発揮】とは,これまで家族として共に生活する中で培ってきた関係性や愛情を糧として,揺れ動く症状にも柔軟に対処することで家族の力を最大限発揮し困難に対処することであった.

家族介護者は,歩行障害による転倒で骨折し一人で排泄することが困難になった療養者から,排泄介助の負担を減らすために夜間はおむつを使用することを提案され,家族介護者への気遣いを感じ取っていた.困難な状況下こそ《互いに思いやりを持って接する》ことで『家族の絆を意識する』ことに繋がり,家族の絆は療養生活の支えとなっていった.

「なかなか偉い人だから…あの,私がつぶれたらだめじゃないですか.だから(療養者の方から),“おむつでいい”とか言いましたよ.」(I)

そのような信頼関係を糧に家族介護者は,家族各々の力を引き出し,家族全体の力も最大限高めることができるよう努めていた.療養者の症状を見守り安全を確保しながら,旅行や買い物,貸農園やスポーツクラブなどの地域での活動に共に参加するなど,《生活の中にリハビリテーションを取り入れる》ことで療養者の機能低下の予防を図っていた.

「毎日リハビリするにはどうしたらいいかって,ご近所の方とお付き合いして,グランドゴルフへ入れていただいて.」(F)

そして,療養者の力を信じて最大限引き出すため,《時には距離を置くことで手伝い過ぎない》ようにもしており,『療養者の力を家族の柔軟性で引き出す』よう努めていた.

「(療養者が)一人で行って帰ってくると,元気になるんですよ.ついて行って何でもしてあげるのがいいわけでなくて.[中略]できることを奪ってはいけないと思いますね.」(I)

3) 【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】

【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】とは,パーキンソン病の症状が多様かつ長期的な経過をたどることを踏まえ,家族から周囲の人々に歩み寄り,信頼できる理解者を得てつながることであった.

家族は,療養者の症状の進行と同時に家族介護者も年齢を重ねていく状況に備え《将来を見越して親族との関係を強める》ために働きかけ,身近な存在である親族との関係を見直し,『親族とのつながりを強める』努力をしていた.

「(療養者に)兄がいるんですけど,[中略]やっぱり仲良くしていかないと,心細いだろうなと.私が死んじゃったら.」(I)

そして,患者会などに家族介護者も共に参加し,家族各々の悩みを共有していた.家族介護者は,療養者が突然off状態になり予定通りに行動できない状況や言葉が出にくくコミュニケーションがとりにくい状況の中でも,同じ病気を持つ仲間とならば安心して行動を共にすることができると感じていた.そして,パーキンソン病の症状の一つである排尿障害の話なども介護者同士ならば抵抗なく話題にできると感じ,《言いにくい症状も打ち明けられる療養者仲間がいる》ことに勇気づけられていた.『家族で療養者仲間と助け合う』ことは家族介護者と療養者双方にとって大きな支えとなっていた.

「同じ病気の(療養者を夫に持つ)奥さんがいて,いつもしゃべるんですけど,やっぱり,おんなじよーって.[中略]その人と話して,困ったねーって言って,ちょっと気が楽になったんだけど.」(A)

「病気を踏まえて,病気なんですって伝えて,でもいいよって言ってくれるような何か,自分が通えるようなところが欲しい.」(J)

さらに家族介護者は,既存の介護保険のサービスに留まらず,利用しているスポーツクラブなど民間サービスにもパーキンソン病であることを伝えることで,望んだ支援が受けられるよう調整していた.療養者は,on状態で何でもできるときには一見病気とはわからないこともあるが,《心の壁を作らず療養者が地域に溶け込めるよう工夫する》ことに努め地域のネットワークづくりも行っていた.このように,地域生活自体をリハビリテーションと捉え『心の壁を作らず地域とのつながりを強める』ことで,地域で活動する場を増やしていった.

「ご近所の方とお付き合いして,[中略]知ってもらうってだけでも,やっぱり違うのかなって.」(H)

また,地域の人々のみならず専門職にさえも,パーキンソン病の症状は時間や日によって揺れ動くことに加え個人差が大きいために伝わりにくいと考え,《揺れ動く症状が周囲の人にも伝わるよう工夫する》ことで周囲の人々への理解を求めていた.

「パーキンソンというのは,一人ひとりみな(症状や経過が)違うわけですね.[中略]先生に食らいつくのが上手な人は,先生に相談ができるわけですね.まあ,もちろん勉強はしてなきゃだめだよ.」(C)

地域生活の中では,近所のスポーツジムに病気のことを伝え協力を求めており,《民間サービスにも病気に合わせた対応を依頼する》ことも自ら積極的に行っていた.

「パーキンソンだからっていうことで,それのための,リハビリを,筋トレを,ちゃんとメニューを作ってくださいって,インストラクターにお願いして.」(H)

このような努力を経て周囲の人々にパーキンソン病への理解が広がるにつれ,次第に《家族各々を支えてくれる存在を得る》に至っており,『揺れ動く症状に応じて家族に合った支援を得る工夫をする』ことで家族の理解者を増やしていった.

「その人(ホームヘルパー)もいるからうまくいってるっていうのもあるんですよね.今までいろんな方がいて,どの方もよくって…ちょっと,ん?って思う方はやっぱりちょっとお断りしたりして,最終的にやっぱりその方が一番よくて.私たちもおかあさんも助かるっていうか.」(E)

4) 【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】

【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】とは,家族各々の負担も含め可能な対処方法を模索するために,揺れ動くパーキンソン病の症状や互いの感情について理解し合うことであった.

家族介護者と療養者は,《共同で揺れ動く症状を捉える》よう努め,生活を共にする中で些細な変化からも多様で揺れ動く症状やその時の思いを察知して『揺れ動く症状を日頃から共有する』よう努めていた.

「紙に書いていけばいいのよ,って.できなかったこととか,できたことも,その変化をね[中略]で,それを書くことによって,自分の反省にもなるじゃないですか.」(D)

さらに,症状に留まらずお互いの感情も共有できるよう努めていた.パーキンソン病の症状から表情が乏しくなりコミュニケーションの障害が生じるが,「ハグする(抱きしめる)」(H)ことで愛情を確かめ合うなど,これまで以上に《病気により表現が乏しくなっても感謝や愛情を伝え合う》ことの必要性を感じてもいた.療養者がoff状態の時には精神的にも落ち込みがちであり,家族介護者も療養者の精神状態に影響を受けていたが,『揺れ動く感情を日頃から共有する』ことができるような関係づくりを日頃から心がけていた.

「いろんなわだかまりがあっても,ハグするだけでも,もうすーっと解消されて.」(H)

そして,パーキンソン病の経過は長期にわたるため,揺れ動く症状や感情に対峙し続ける中で生じる家族各々の限界にも目を向け,《今できることをするしかないと割り切る》ことで,家族以外の人が介入することで状況が改善する場面も経験していた.

「私もなんか,ついついこう…いっぱいいろんなこと言っちゃったりとか,やっぱりそれが,(療養者にとって)キャパオーバーになっちゃうこともあるみたいで.だから,もうちょっと他の人としゃべる機会も増やさないとだめなのかなって.」(J)

しかし一方で,言葉にしなくても療養者の心の機微を察知するなど,《家族だからこそできることに目を向ける》ようにもしていた.

「主人はやっぱり,同情されるのが嫌みたい.[中略]そういう,心の葛藤を受け入れていって,取り除いていくのが…それが私の役目かなって感じて.」(D)

家族介護者は,自身の生きがいと介護とのバランスを考慮し,《長い療養生活を見越して無理はしない》よう努め,徐々に進行していく療養者の症状の中でも『家族として無理のない対処方法を見極める』よう努めていた.

「(患者会に家族も)一緒に行ってる方っていらっしゃるみたいなんですけど[中略]いつかはそうなるんだろうけども,私もまだやりたいことがあるから,今はまだいいかな?と思って.」(I)

「あんまり頑張りすぎるとね,ダメだってなると思う.その限界っていうのがわかんないからね.」(B)

Ⅴ. 考察

本研究結果について,揺れ動く症状の中で機能するファミリーレジリエンスとファミリーレジリエンスの機能を支える理解者の存在について考察し,看護への示唆を得た.

1. 揺れ動く症状の中で機能するファミリーレジリエンス

パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンスには,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】,【家族の力の柔軟な発揮】,【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】という,揺れ動く症状に家族が翻弄されないための方策が含まれていた.これらは,高橋(2013)ファミリーレジリエンスの概念分析の結果の【家族の日常の維持】や【家族の相互理解の促進】と共通し,かつ,変化に対応する前向きさや柔軟性,継続したコミュニケーションの重要性が強調されており,パーキンソン病に特徴的な,揺れ動くため捉えにくい症状に対処する家族の特徴が反映された結果となった.

パーキンソン病に特徴的な症状として発話の障害やうつ症状,表情が乏しくなる仮面様顔貌などがあり,様々な要因からコミュニケーションの障害を来しやすく,その障害の程度もその時々により変化している.そのため,【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】により家族内のコミュニケーションを深めることが常に求められていたと考えられた.さらに,パーキンソン病療養者の症状は揺れ動くがゆえに家族介護者は自身の限界を捉えにくく,無力感を抱き疲弊している現状もある(植木ら,2016).しかし,『家族として無理のない対処方法を見極める』中で《家族だからこそできることに目を向ける》ことで,療養者の心の葛藤を取り除けるのは家族介護者である「私の役目」(D)と感じており,家族介護者の無力感や介護負担を軽減するために重要と考えられた.このことは,Walsh(2016)の述べる家族が困難に対処する際に,その強みだけでなく,対処し得る限界も特定し受け入れる重要性とも一致する.

2. ファミリーレジリエンスの機能を支える理解者の存在

本研究で明らかになった【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】により,捉えにくい症状の理解者を得るにあたり,まずは家族自身が心の壁を取り払うことの重要性が明らかになった.家族介護者は,療養者が食事を食べこぼす姿や排尿障害による失禁にいたたまれぬ思いを抱き,療養者の障害を世間の目に晒したくないと感じている現状がある(植木ら,2016).疾患は異なるが,統合失調症などの精神障がい者の家族がファミリーレジリエンスを機能させるにあたり,まず精神疾患に対する家族自身の偏見を追い払うことが重要であったと述べられており(中平・野嶋,2016),本研究結果を支持していると考えられた.また,知的発達障害児を抱える家族においては,感情表出を促すことにより地域の資源を家族の力に組み入れて対処することができており(入江・津村,2011),パーキンソン病療養者の家族においても同様に,まず専門職が家族の理解者となることは重要と考えられた.

このような心の壁を取り払うことの重要性と共に,本研究結果では,多様な社会経済的資源の活用方法も見出された.ファミリーレジリエンスとして家族内外の資源が活用されていることは先行研究結果(高橋,2013)とも共通するが,本研究においては,介護保険などによる公的サービスに留まらず,『心の壁を作らず地域とのつながりを強める』ことや『揺れ動く症状に応じて家族に合った支援を得る工夫をする』中で,一般のスポーツジムなどの《民間サービスにも病気に合わせた対応を依頼する》など,多様で豊富な社会経済的資源が含まれていた.パーキンソン病療養者の家族介護者は,変動しながら緩徐に進行する多様な症状に直面する中で,これまでの療養者のその人らしさが徐々に失われていくような喪失感を抱いており(植木ら,2016),療養者が力を発揮することができ,その人らしくいられる場を広げるための方策に価値を置いていたと考えられた.療養者や家族介護者のニーズに合った支援を検討する上で多様な社会経済的資源の選択肢を持つことは重要である.McCubbin & Patterson(1983)は,長期にわたるストレスの累積による危機状態でも,新たな資源を活用する対処パターンを獲得することで家族の危機を乗り越え適応に向かう可能性を示唆していることは,本研究結果を支持していると考えられる.

3. 看護への示唆

本研究結果より,【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】や【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】など,捉えにくい難病に対処し家族の相互理解を深め周囲に理解を得るための方策が明らかになった.

本研究結果を活用し,専門職が家族への理解を深め家族指導にも取り入れることで,介護負担軽減や家族内の相互理解促進に寄与する可能性が示唆された.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究参加者は全て患者会に所属する療養者の家族介護者であり,よりファミリーレジリエンスが機能しやすく,豊富な情報を持っていた可能性があるが,全ての家族に適用するには限界がある.また,本研究対象者の多くは配偶者であったが,対象の属性に応じたファミリーレジリエンスについての今後の研究が求められる.

Ⅶ. 結論

パーキンソン病療養者の家族介護者におけるファミリーレジリエンスとは,【揺れ動く症状に左右されない前向きさ】,【家族の力の柔軟な発揮】,【心の壁を作らない家族の理解者とのつながり】,【症状と共に揺れ動く状況の日頃からの共有】で構成され,家族介護者の負担軽減や家族の相互理解の促進に寄与する可能性が示唆された.

付記:本研究は,平成30年度国立看護大学校研究課程部看護学研究科に提出した特別研究論文(博士論文)の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:調査に当たり,公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の研究助成金を活用した.

著者資格:MKは研究の着想,研究デザインと実施,分析,執筆の全てに貢献;TS及びSWは原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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