2021 Volume 41 Pages 710-717
目的:レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を活用し,在宅患者の医療処置実施状況と医療・衛生材料供給状況を推察すると共に,在宅医療提供量との関連を解析すること.
方法:NDBオープンデータ,SCR(Standardized Claim Ratio)データ,政府統計の総合窓口(e-Stat)から在宅療養指導管理料・在宅療養指導管理材料加算・衛生材料等提供加算の算定状況や在宅医療提供量に関するデータを抽出し,在宅医療提供状況との相関関係を分析した.
結果:自己注射,持続陽圧呼吸療法などを必要とする在宅患者が多く,これらに必要な医療・衛生材料が供給されていると推察された.在宅療養指導管理料などの算定状況は,在宅療養支援病院数,在宅療養支援診療所数,訪問看護ステーション数,訪問診療や訪問看護の提供量など在宅医療提供量によって地域差が生じていた.
考察・結論:今後は,算定状況が多かった医療処置を必要とする在宅患者への支援ならびに,在宅医療を提供する医療機関,在宅医療の充実が必要であると考える.
Objective: This study aimed to assess the medical treatment and medical and sanitary materials provided to patients under home care in Japan using data from the National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan (NDB) and to analyze the associations with the number and type of medical services that are made available at home for these patients.
Methods: Data on the reimbursement for home medical care management guidance, additional reimbursement for home medical care management guidance materials and provision of sanitary materials, and use of home medical care services were extracted from the NDB Open Data 2018, Standardized Claim Ratio 2018, and e-Stat (a portal site for Japanese governmental statistics). Correlational analyses were performed.
Results: Many patients under home care needed self-injection or continuous positive airway pressure. It was estimated that in most cases, medical and sanitary materials were provided to these patients. The amount of reimbursement for home medical care management guidance differed between regions, depending on the number of clinics and hospitals providing home care support, the number of home-visit nursing stations, and the extent of home medical services provided, such as home-visit medical care and home-visit nursing in each prefecture.
Discussion: In the future, patients who need home care services will require greater support and higher reimbursements. It is important to further increase and improve the quality of home care support and services provided by healthcare institutions and service providers.
2018年度,第7次医療計画がスタートし,2021年度「中間見直し」では,地域医療構想の実現に向けて,在宅医療等の必要量にどう対応していくか具体的な取り組みが検討される予定である(厚生労働省,2017).在宅医療において,医療依存度が高い患者の安全保障のひとつが,安全な医療処置の提供であり,患者への医療・衛生材料の提供もその鍵となる.
在宅患者向けの医療・衛生材料を提供するための診療報酬点数は,在宅療養指導管理料があり,注射針や酸素供給装置など定められている医療・衛生材料を提供する場合は,加算(在宅療養指導管理材料加算)を算定できる.在宅療養指導管理料は医療処置の種類ごとに定められ,算定した医師は,在宅患者に必要かつ十分な量の医療・衛生材料を提供することになっている.しかし,在宅療養指導管理料の算定は,月に1回,1種類,1箇所の医療機関に限定されている.また,在宅療養指導管理材料加算算定はあるものの,これまでに十分に供給されていないことや,訪問看護ステーション・利用者の経済的負担,医療機関の材料購入費が在宅療養指導管理料を超えている場合もあることなど指導管理料の運用の困難さが報告されている(前田ら,2004;Maeda et al., 2012;前田・山下,2017).このような背景から,平成28年診療報酬改定にて,医療依存度の高い在宅療養者への質の高い在宅医療・訪問看護提供への保障対策のひとつとして衛生材料等提供加算が創設された.衛生材料等提供加算は,訪問看護指示料を算定している医療機関が訪問看護利用者に衛生材料等を供給した場合に算定できる加算である.この加算の創設によって,在宅療養指導管理料算定に限らず,衛生材料等が提供できる仕組みとなったが,在宅療養指導管理料が算定されている訪問看護利用者は算定できないという制約がある.衛生材料等提供加算の算定や医療・衛生材料の供給状況を報告したものはまだない.
現在,高齢者人口の増加や退院支援の推進によって,医療処置を必要とする在宅患者の増加が予測されるが,その数や医療処置の種類などの実態は不明である.医療・衛生材料の供給は尚のこと不明である.平成28年から,高齢者の医療の確保に関する法律に基づき,レセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:以下NDBとする)が整備され一部が都道府県別に公開されている.そこで,最新のデータである平成30年度のNDBオープンデータを用いて(厚生労働省,2020),在宅で医療処置を必要とする患者数や医療処置の種類,医療・衛生材料供給状況を探るための解析を試みたいと考えた.
在宅療養指導管理料は,外来診療・訪問診療共に算定できることから在宅患者全体の医療処置実施状況の把握につながる.在宅療養指導管理材料加算は,特定の医療・衛生材料供給時に算定できることから,算定状況から在宅患者への特定の医療・衛生材料供給状況の把握につながる.衛生材料等提供加算は,訪問看護利用者への医療・衛生材料供給時に算定できることから,算定状況から,訪問看護利用者への医療・衛生材料供給状況の把握につながる.これまで,十分な医療・衛生材料が供給されていないことが指摘されているが(前田・山下,2017;Maeda et al., 2012;前田ら,2004),対象が訪問看護利用者であること,医療処置が限定されていることから,在宅患者の実態を示したものとはいえない.
本研究の目的は,NDBオープンデータにある在宅療養指導管理料(在宅療養指導管理材料加算含む)と衛生材料等提供加算の算定状況を用いて,次の視点で分析を行うことである.①在宅療養指導管理料の算定状況から,在宅患者全体の医療処置実施状況を推察する.②在宅療養指導管理材料加算と衛生材料等提供加算算定状況から,在宅患者への医療・衛生材料供給状況を推察する.③都道府県別算定状況と在宅医療提供量との関連を解析し,どのような在宅医療提供と有意な関連を示すか明らかにする.
今後,地域医療構想の実現に向けて,在宅医療提供量を増やさなければならないことは明らかである.在宅療養指導管理料など医療依存度の高い在宅患者向けの算定状況と関連する在宅医療提供内容は,在宅医療サービス充実への示唆を与えると考える.
在宅療養指導管理料35種類,在宅療養指導管理材料加算51種類,衛生材料等提供加算の都道府県別算定数は,第5回NDBオープンデータのレセプト情報にある第2部(データ編),医科診療行為,C在宅医療,都道府県別算定数から抽出した(厚生労働省,2020).NDBオープンデータとは国が高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づいて,保険医療機関から提供される医科レセプト,調剤レセプト,歯科レセプト,及び特定健診・特定保健指導のデータを収集・データベース化したものであり,医科レセプトは95%以上がカバーされている.
平成30年時点の都道府県別在宅療養支援病院,在宅療養支援診療所,訪問看護ステーション数は,厚生労働省在宅医療にかかる地域別データ集からデータ抽出した(厚生労働省,2021).都道府県別総人口は,e-Stat人口推計から平成30年10月1日のデータ抽出した(総務省,2019).
在宅療養指導管理料,在宅療養指導管理材料加算,衛生材料等提供加算のSCRデータは,内閣府医療提供状況の地域差SCRデータ一覧にある平成30(2018)年度診療分診療行為項番からデータ抽出した(内閣府,2021).SCRデータとは,Standardized Claim Ratioの略であり,レセプト情報等を集約したNDBを活用し,各診療行為(診療報酬の算定回数)を各都道府県の年齢構成の違いを調整し,レセプトの出現比として指数化した年齢調整標準化レセプト比である.SCRデータは,全国平均と同じ診療回数が行われた場合には指数が100となるものであり,地域差を性・年齢調整済みのスコアとして算出することで,医療提供状況の地域差を「見える化」するものとして活用されている.
2. 分析方法在宅療養指導管理料と在宅療養指導管理材料加算の実態を把握するため,それぞれの算定件数,全件数に占める割合として,在宅療養指導管理料算定割合,在宅療養指導管理材料加算料算定割合を算出した.
都道府県別の地域差を検討するため,在宅療養指導管理料,在宅療養指導管理材料加算,衛生材料等提供加算のSCRデータを比較検討した.ただし,SCRの算出されていない都道府県があるものは除き,在宅療養指導管理料16種類,在宅療養指導管理材料加算29種類のSCRを分析対象とした.なお,衛生材料等提供加算は訪問看護指示料の加算であるが,本研究は在宅患者の医療処置実施状況や医療・衛生材料提供状況を探る目的であることから,訪問看護指示料SCRは在宅医療の提供量を表す要因として用いることとした.
在宅医療の提供量を表す要因は,在宅療養支援病院数(人口10万人当たり),在宅療養支援診療所数(人口10万人当たり),訪問看護ステーション数(人口10万人当たり),在宅患者訪問診療料(I)1SCR,看取り加算(訪問診療料・往診料)SCR,訪問看護指示料SCR,特別訪問看護指示加算SCR,在宅患者訪問看護・指導料SCRとした.その他,在宅医療提供を示す診療料や訪問看護加算があるが,SCRが算出されていない都道府県があるため分析には用いなかった.
分析方法は,都道府県別の在宅療養指導管理料16種類,在宅療養指導管理材料加算29種類,衛生材料等提供加算のSCRデータを従属変数,在宅医療の提供量を独立変数とし,これらの関係を評価するためにスピアマン順位相関係数ρを算出し相関係数の検定を行い,p値は5%未満の場合を有意水準とした.統計解析には,統計ソフトSPSS Statistics Ver. 23.0(IBM)を用いた.
3. 倫理的配慮本研究は,公開資料のみを用いた解析であるため,倫理審査委員会への申請は行っていない.
在宅療養指導管理料は,在宅自己注射指導管理料(月28回以上)で在宅療養指導管理料算定全体の47.96%を占めていた.次いで在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2で26.57%,在宅自己注射指導管理料(月27回以下)8.87%,在宅酸素療法指導管理料(その他)7.41%,在宅自己導尿指導管理料3.25%の順に高い割合であった.在宅療養指導管理材料加算は,在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(CPAPを使用)と在宅持続陽圧呼吸療法材料加算が19.96%で最も多くを占め,次いで血糖自己測定器加算(60回以上)(1型糖尿病の患者を除く)13.38%,注入器用注射針加算(その他)8.15%であり,陽圧呼吸療法と自己注射に関する加算の割合が高かった.衛生材料提供加算の算定件数は,平成30年4月から平成31年3月まで14,654件であった.
種類 | 点数 | 算定件数 | 在宅療養指導管理料算定割合(%) |
---|---|---|---|
退院前在宅療養指導管理料 | 120 | 12,237 | 0.06 |
在宅自己注射指導管理料(複雑な場合) | 1,230 | 94,132 | 0.46 |
在宅自己注射指導管理料(月28回以上) | 750 | 9,865,321 | 47.96 |
在宅自己注射指導管理料(月27回以下) | 650 | 1,825,009 | 8.87 |
在宅小児低血糖症患者指導管理料 | 820 | 2,156 | 0.01 |
在宅妊娠糖尿病患者指導管理料 | 150 | 38,460 | 0.19 |
在宅自己腹膜灌流指導管理料 | 4,000 | 101,956 | 0.50 |
在宅自己連続携行式腹膜灌流頻回指導管理 | 2,000 | 18,381 | 0.09 |
在宅血液透析指導管理料 | 8,000 | 9,102 | 0.04 |
在宅血液透析頻回指導管理 | 2,000 | 45 | 0.00 |
在宅酸素療法指導管理料(その他) | 2,400 | 1,524,947 | 7.41 |
在宅酸素療法指導管理料(チアノーゼ型先天性心疾患の場合) | 520 | 2,158 | 0.01 |
在宅中心静脈栄養法指導管理料 | 3,000 | 75,067 | 0.36 |
在宅成分栄養経管栄養法指導管理料 | 2,500 | 74,703 | 0.36 |
在宅小児経管栄養法指導管理料 | 1,050 | 39,735 | 0.19 |
在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料 | 2,500 | 26,369 | 0.13 |
在宅自己導尿指導管理料 | 1,800 | 667,922 | 3.25 |
非侵襲中耳加圧装置指導管理料 | 1,800 | 36 | 0.00 |
在宅人工呼吸指導管理料 | 2,800 | 221,281 | 1.08 |
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料1 | 2,250 | 14,495 | 0.07 |
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2 | 250 | 5,466,507 | 26.57 |
在宅悪性腫瘍等患者指導管理料 | 1,500 | 8,199 | 0.04 |
在宅悪性腫瘍患者共同指導管理料 | 1,500 | 77 | 0.00 |
在宅寝たきり患者処置指導管理料 | 1,050 | 339,746 | 1.65 |
在宅自己疼痛管理指導管理料 | 1,300 | 7,045 | 0.03 |
在宅振戦等刺激装置治療指導管理料 | 810 | 24,314 | 0.12 |
在宅迷走神経電気刺激治療指導管理料 | 810 | 6,754 | 0.03 |
在宅仙骨神経刺激療法指導管理料 | 810 | 1,158 | 0.01 |
在宅肺高血圧症患者指導管理料 | 1,500 | 2,012 | 0.01 |
在宅気管切開患者指導管理料 | 900 | 91,067 | 0.44 |
在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料 | 1,000 | 2,020 | 0.01 |
在宅植込型補助人工心臓指導管理料 | 45,000 | 4,570 | 0.02 |
在宅経腸投薬指導管理料 | 1,500 | 3,665 | 0.02 |
在宅腫瘍治療電場療法指導管理料 | 2,800 | 717 | 0.00 |
在宅経肛門的自己洗腸指導管理料 | 950 | 355 | 0.00 |
合計 | 20,571,718 |
種類 | 点数 | 算定件数 | 在宅療養指導管理材料算定割合(%) |
---|---|---|---|
血糖自己測定器加算(20回以上)(1型糖尿病の患者を除く) | 350 | 918,093 | 2.75 |
血糖自己測定器加算(40回以上)(1型糖尿病の患者を除く) | 580 | 830,681 | 2.49 |
血糖自己測定器加算(60回以上)(1型糖尿病の患者を除く) | 830 | 4,464,757 | 13.38 |
血糖自己測定器加算(20回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 350 | 58,779 | 0.18 |
血糖自己測定器加算(40回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 580 | 65,253 | 0.20 |
血糖自己測定器加算(60回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 830 | 256,990 | 0.77 |
血糖自己測定器加算(90回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 1,170 | 233,975 | 0.70 |
血糖自己測定器加算(120回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 1,490 | 617,664 | 1.85 |
血糖自己測定器加算(30回以上)(1型糖尿病の患者を除く) | 465 | 1,237,447 | 3.71 |
血糖自己測定器加算(30回以上)(1型糖尿病・小児低血糖症等) | 465 | 64,431 | 0.19 |
注入器加算 | 300 | 30,559 | 0.09 |
間歇注入シリンジポンプ加算(1以外) | 1,500 | 3,251 | 0.01 |
間歇注入シリンジポンプ加算(プログラム付き) | 2,500 | 66,697 | 0.20 |
持続血糖測定器加算(2個以下) | 1,320 | 4,068 | 0.01 |
持続血糖測定器加算(3個以下) | 2,640 | 3,634 | 0.01 |
持続血糖測定器加算(5個以上) | 3,300 | 23,433 | 0.07 |
持続血糖測定器加算(間歇注入インスリンポンプ非連動・2個以下) | 1,320 | ― | ― |
持続血糖測定器加算(間歇注入インスリンポンプ非連動・5個以上) | 3,300 | 10 | 0.00 |
経腸投薬用ポンプ加算 | 2,500 | 3,335 | 0.01 |
注入器用注射針加算(1型糖尿病,血友病患者又はこれに準ずる患者) | 200 | 505,967 | 1.52 |
注入器用注射針加算(その他) | 130 | 2,718,248 | 8.15 |
紫外線殺菌器加算 | 360 | 70,239 | 0.21 |
在宅自己連続携行式腹膜灌流液交換用熱殺菌器加算 | 360 | 2,694 | 0.01 |
自動腹膜灌流装置加算 | 2,500 | 45,795 | 0.14 |
透析液供給装置加算 | 10,000 | 9,102 | 0.03 |
酸素ボンベ加算(その他) | 3,950 | 3,007 | 0.01 |
酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ) | 880 | 1,566,158 | 4.70 |
酸素濃縮装置加算 | 4,000 | 1,814,076 | 5.44 |
設置型液化酸素装置加算 | 3,970 | 36,652 | 0.11 |
携帯型液化酸素装置加算 | 880 | 72,408 | 0.22 |
呼吸同調式デマンドバルブ加算 | 300 | 1,330,764 | 3.99 |
在宅中心静脈栄養法用輸液セット加算 | 2,000 | 58,238 | 0.17 |
注入ポンプ加算 | 1,250 | 119,335 | 0.36 |
在宅経管栄養法用栄養管セット加算 | 2,000 | 177,836 | 0.53 |
特殊カテーテル加算(間歇導尿用カテーテル)(親水性コーティング) | 960 | 41,385 | 0.12 |
特殊カテーテル加算(間歇導尿用カテーテル)(親水性以外) | 600 | 303,775 | 0.91 |
特殊カテーテル加算(間歇バルーンカテーテル) | 600 | 32,667 | 0.10 |
人工呼吸器加算(陰圧式人工呼吸器) | 7,480 | 1,912 | 0.01 |
人工呼吸器加算(陽圧式人工呼吸器) | 7,480 | 77,113 | 0.23 |
人工呼吸器加算(人工呼吸器) | 6,480 | 145,890 | 0.44 |
在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(ASVを使用) | 3,750 | 104,850 | 0.31 |
在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(CPAPを使用) | 1,000 | 6,658,491 | 19.96 |
携帯型ディスポーザブル注入ポンプ加算 | 2,500 | 2,965 | 0.01 |
疼痛等管理用送信器加算 | 600 | 32,294 | 0.10 |
携帯型精密輸液ポンプ加算 | 10,000 | 5,684 | 0.02 |
携帯型精密ネブライザー加算 | 3,200 | 1,154 | 0.00 |
気管切開患者用人工鼻加算 | 1,500 | 107,619 | 0.32 |
排痰補助装置加算 | 1,800 | 44,685 | 0.13 |
在宅酸素療法材料加算(チアノーゼ型先天性心疾患) | 780 | 2,542 | 0.01 |
在宅酸素療法材料加算(その他) | 100 | 1,721,993 | 5.16 |
在宅持続陽圧呼吸療法材料加算 | 100 | 6,658,747 | 19.96 |
合計 | 33,357,342 |
在宅療養指導管理料の中で,在宅医療提供量と相関関係が複数みられたものは,在宅酸素療法指導管理料(その他)SCRと在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料SCRなどであった.在宅酸素療法指導管理料(その他)SCRは,在宅療養支援病院数(人口10万人当たり),在宅療養支援診療所数(人口10万人当たり),訪問看護ステーション数(人口10万人当たり),在宅患者訪問診療料(I)1SCR,特別訪問看護指示加算SCR,在宅患者訪問看護・指導料SCRと相関関係が有意にみられた.
在宅療養支援病院数(人口10万人当たり) | 在宅療養支援診療所数(人口10万人当たり) | 訪問看護ステーション数(人口10万人当たり) | 在宅患者訪問診療料(I)1SCR | 看取り加算(訪問診療料・往診料)SCR | 訪問看護指示料SCR | 特別訪問看護指示加算SCR | 在宅患者訪問看護・指導料SCR | ||
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在宅療養指導管理料SCR | 在宅自己注射(複雑な場合)SCR | .267 | .300* | .140 | .056 | –.043 | .242 | .027 | –.088 |
在宅自己注射月27SCR | .273 | .179 | .062 | –.047 | –.104 | –.062 | .126 | –.001 | |
在宅自己注射月28回SCR | .213 | .234 | .317* | –.010 | .026 | .155 | .173 | .000 | |
在宅妊娠糖尿病患者指導管理料SCR | –.104 | –.092 | –.183 | –.095 | –.035 | –.099 | –.273 | .035 | |
在宅自己腹膜灌流指導管理料SCR | .277 | .328* | .367* | .103 | –.219 | .214 | .228 | .077 | |
在宅酸素療法指導管理料(その他)SCR | .524** | .676** | .383** | .362* | .235 | .238 | .463** | .350* | |
在宅中心静脈栄養法指導管理料SCR | –.115 | .094 | .156 | .349* | .426** | .456** | .223 | .259 | |
在宅成分栄養経管栄養法指導管理料SCR | –.127 | .011 | .113 | .256 | .383** | .199 | .189 | .255 | |
在宅小児経管栄養法指導管理料SCR | –.267 | –.152 | –.387** | –.005 | .180 | –.117 | –.272 | .165 | |
在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料SCR | .006 | .234 | .301* | .584** | .554** | .499** | .429** | .443** | |
在宅自己導尿指導管理料SCR | .096 | .140 | .328* | .265 | .190 | .401** | .269 | .196 | |
在宅人工呼吸指導管理料SCR | .094 | .165 | .200 | .027 | .014 | .199 | .077 | .135 | |
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料SCR | –.031 | .091 | –.158 | –.004 | .206 | .077 | .071 | .072 | |
在宅悪性腫瘍等患者指導管理料SCR | –.359* | –.256 | –.208 | .057 | .377** | .079 | –.158 | .031 | |
在宅寝たきり患者処置指導管理料SCR | –.370* | –.199 | –.096 | –.060 | .092 | .257 | –.181 | –.125 | |
在宅気管切開患者指導管理料SCR | –.375** | –.182 | –.190 | –.052 | .233 | .143 | –.153 | .007 | |
在宅療養指導管理材料加算SCR | 血糖自己測定器加算(20回以上)SCR | .453** | .332* | .235 | –.058 | –.239 | –.042 | .051 | –.069 |
血糖自己測定器加算(30回以上)SCR | –.084 | –.160 | –.098 | –.378** | –.169 | –.161 | –.122 | –.218 | |
血糖自己測定器加算(40回以上)SCR | .321* | .184 | .193 | –.050 | –.123 | –.050 | .067 | –.069 | |
血糖自己測定器加算(60回以上)SCR | –.117 | .030 | .044 | .212 | .310* | .279 | .091 | .214 | |
血糖自己測定器加算(90回以上)SCR | .194 | .091 | .103 | –.159 | –.167 | –.097 | .112 | –.011 | |
血糖自己測定器加算(120回以上)SCR | .296* | .384** | .249 | .393** | .136 | .121 | .323* | .284 | |
注入器加算SCR | .157 | .224 | .117 | .204 | .232 | .026 | .351* | .293* | |
間歇注入シリンジポンプ加算(プログラム付き)SCR | .268 | .250 | .157 | –.032 | –.066 | .154 | .079 | –.056 | |
注入器用注射針加算(1型糖尿病,血友病患者又はこれに準ずる患者)SCR | .217 | .314* | .232 | .004 | –.031 | .022 | .218 | .157 | |
注入器用注射針加算(その他)SCR | .268 | .305* | .298* | .010 | .039 | .154 | .239 | .103 | |
在宅自己連続携行式腹膜灌流液交換用熱殺菌器加算SCR | .312* | .273 | .306* | .034 | –.322* | .096 | .150 | –.062 | |
自動腹膜灌流装置加算SCR | .041 | .154 | .268 | .295* | –.018 | .460** | .077 | .157 | |
酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ)SCR | .427** | .673** | .383** | .355* | .242 | .265 | .448** | .355* | |
酸素濃縮装置加算SCR | .565** | .720** | .442** | .336* | .171 | .248 | .477** | .343* | |
設置型液化酸素装置加算SCR | .000 | .003 | –.062 | –.048 | .120 | .015 | .115 | .115 | |
呼吸同調式デマンドバルブ加算SCR | .291* | .533** | .163 | .243 | .263 | .156 | .275 | .256 | |
在宅中心静脈栄養法用輸液セット加算SCR | –.098 | .027 | .039 | .094 | .275 | .275 | .153 | .187 | |
注入ポンプ加算SCR | –.078 | .030 | .056 | .364* | .444** | .375** | .253 | .282 | |
在宅経管栄養法用栄養管セット加算SCR | –.206 | –.041 | .011 | .247 | .433** | .237 | .094 | .248 | |
特殊カテーテル加算(間歇導尿用カテーテル)SCR | –.051 | .145 | .269 | .338* | .277 | .549** | .139 | .165 | |
特殊カテーテル加算(間歇バルーンカテーテル)SCR | .211 | .126 | .079 | .153 | .108 | .007 | .108 | .125 | |
人工呼吸器加算(陽圧式人工呼吸器)SCR | –.042 | .066 | –.013 | .054 | .132 | .154 | .080 | .142 | |
人工呼吸器加算(人工呼吸器)SCR | .214 | .259 | .305* | .055 | –.049 | .222 | .144 | .153 | |
在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(ASVを使用)SCR | .463** | .194 | .145 | –.281 | –.358* | –.238 | –.025 | –.226 | |
在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(CPAPを使用)SCR | –.031 | .100 | –.146 | .004 | .205 | .090 | .073 | .068 | |
気管切開患者用人工鼻加算SCR | –.026 | .092 | .101 | .159 | .297* | .200 | .174 | .288* | |
排痰補助装置加算SCR | .194 | .127 | .345* | .283 | –.013 | .358* | .165 | .173 | |
在宅酸素療法材料加算(その他)SCR | .574** | .662** | .404** | .302* | .147 | .188 | .483** | .304* | |
在宅持続陽圧呼吸療法材料加算SCR | –.012 | .098 | –.157 | –.018 | .189 | .068 | .055 | .048 | |
衛生材料等提供加算SCR | .390** | .326* | .392** | .042 | –.140 | .183 | .339* | .017 |
**:p < .01,*:p < .05.
在宅療養指導管理材料加算の中で,在宅医療提供量と相関関係が複数みられたものは,酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ)SCR,酸素濃縮装置加算SCR,在宅酸素療法材料加算(その他)SCR,血糖自己測定器加算(120回以上)SCRなどであった.酸素濃縮装置加算SCRは,在宅療養支援病院数(人口10万人当たり),在宅療養支援診療所数(人口10万人当たり),訪問看護ステーション数(人口10万人当たり),在宅患者訪問診療料(1)1SCR,特別訪問看護指示加算SCR,在宅患者訪問看護・指導料SCRと相関関係が有意にみられた.
衛生材料等提供加算と相関関係が有意にみられたのは,在宅療養支援病院数(人口10万人当たり),在宅療養支援診療所数(人口10万人当たり),訪問看護ステーション数(人口10万人当たり),特別訪問看護指示加算SCRであった.
在宅療養指導管理料は,1986年自己注射指導管理料に始まり,現在29種類設けられている.本研究の結果,在宅療養指導管理料の算定件数が多かったのは,在宅自己注射指導管理料(月28回以上)で全体の47.96%を占めていた.自己注射指導管理料は,糖尿病患者へのインスリン療法向けに設けられたが,その後,ホルモン療法,血液凝固製剤など多様な注射薬剤が認められるようになった.本研究では,注射薬剤の種類までは特定できないが,インスリン療法を中心に多くの在宅患者に在宅療養指導管理料が算定されていることが予測される.次に多かったのは,在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2で26.57%,在宅自己注射指導管理料(月27回以下)8.87%,在宅酸素療法指導管理料(その他)7.41%,在宅自己導尿指導管理料3.25%の順であった.訪問看護利用者への実施内容の報告によると,多いものから順に,浣腸・摘便,褥瘡予防,膀胱留置カテーテルの交換,酸素療法,胃瘻であり(総務省,2019),算定の多い医療処置とは異なる.このことは,算定で多かった自己注射や持続陽圧呼吸療法は,患者自身が処置や医療機器の設定を行うものであることから,訪問看護を利用している可能性は低いためと考える.今後,在宅医療の需要増加への対応には,自己注射・陽圧呼吸療法・酸素療法などの自己管理支援や,これらの医療処置が必要としつつ要介護状態になった場合への対応も準備していく必要があると考える.
2. 在宅患者への医療・衛生材料供給状況の推察在宅療養指導管理材料加算は,陽圧呼吸療法と自己注射に関する算定数が多かった.これらは,在宅療養指導管理料の算定数の多い医療処置内容と同じ傾向にあり,血糖自己測定器やCPAPなどの必要な医療機器等を供給していると推察された.ただし,在宅療養指導管理材料加算で設けられているのは,医療機器に該当する物が多く,ガーゼ・テープ・絆創膏・クレンメなどの医療・衛生材料ではない.これらは在宅療養指導管理料を算定している医療機関からの供給となるため,在宅療養指導管理材料加算からの推察はできない.
衛生材料等提供加算は,在宅療養指導管理料を算定していない訪問看護利用者に限定され,点数は80点と在宅療養指導管理料に比べると低い.これらのことから,算定件数は在宅療養指導管理料に比べると少なかったと考えられるが,加算が活用され,本加算に基づき衛生材料等が提供されているだろうことは本加算創設を評価できる算定結果であると考える.今後は,算定している訪問看護利用者が在宅療養指導管理料を算定しない(できない)理由を明らかにするとともに,提供されている衛生材料等の種類と量から点数に不足がないかなど改めて評価していく必要があると考える.
3. 都道府県別算定状況と在宅医療提供量との関連在宅療養指導管理料・在宅療養指導管理材料加算・衛生材料等提供加算のSCRは,複数の在宅医療提供量との間に有意な相関関係がみられた.つまり,在宅療養指導管理料など医療依存度の高い在宅患者向けの算定状況は,都道府県ごとの在宅医療提供量によって地域差が生じていた.特に複数の在宅医療提供量と相関関係があったものは,在宅酸素療法,在宅経管栄養法,120回以上の血糖自己測定に関する算定状況であった.つまり,酸素療法や経管栄養法などに関連する在宅療養指導管理料や加算は,在宅療養支援病院,在宅療養支援診療所,訪問看護ステーションの充実,訪問診療や訪問看護の提供量が多い都道府県で多く算定されていた.在宅療養支援病院,在宅療養支援診療所,訪問看護ステーションは,24時間365日の安心,看取りまで地域で支援できることを目標に創設・充実されてきた経緯があり,医療依存度の高い在宅患者への医療に貢献していることの現れであると解釈できる.また,相関関係にあった訪問診療や特別訪問看護指示は,医療依存度が高い患者に提供する在宅医療である.特にこれらを算定している医療機関や訪問看護ステーションの充実が,医療依存度の高い患者への在宅医療の充実には必要であることを裏付ける結果であったと考える.一方,在宅医療提供量と関連する項目が少なかったのは,在宅自己注射,人工呼吸器管理,持続陽圧呼吸療法などであった.これらは,外来診療での対応や,人工呼吸療法が必要となった原疾患の専門的な医療を提供する医療機関などを利用しているため関連する項目が少なかったと考えられる.
在宅医療のニーズは,都道府県ごとの人口構成,疾病構造,医療機関や介護サービスなどを総合して分析いく必要があるが,特に医療依存度の高い患者向けの在宅医療体制づくりには,訪問診療を行っている医療機関や訪問看護ステーションの充実が必要であると考える.
本研究は,NDBオープンデータとSCRデータを用い,在宅療養指導管理料等の算定状況を解析した.NDBオープンデータは公開基準により人口2000人未満の町村,紙レセプトの医療機関のデータは含まれていない.SCRデータは算出時に,分母となる性・年齢調整のための人口データは各都道府県別であるが,分子はその地域の医療機関で算定されたものとなるため,周辺地域からの流入が多い都道府県では高めに算出される公開データを使用している都合上,厳密性には欠ける部分がある.この点は結果解釈の上での限界である.
在宅療養指導管理料と在宅療養指導管理材料加算算定状況から,在宅では自己注射,持続陽圧呼吸療法,酸素療法などを必要とする患者が多く,これらに必要な医療・衛生材料が供給されていると考えられた.また,これらの算定数は,都道府県ごとの在宅療養支援病院数,在宅療養支援診療所数,訪問看護ステーション数,訪問診療や訪問看護の提供量によって地域差が生じていた.在宅医療の需要増加への対応には,算定が多かった医療処置を必要とする在宅患者への支援ならびに,在宅医療を提供する医療機関や訪問看護ステーション,訪問診療や訪問看護の充実が必要であると考える.
著者資格:SMは研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析解釈,論文執筆の全てに貢献;MF,NR,MMは研究デザイン,分析解釈,論文執筆の全てに貢献した.全ての著者は最終原稿を読み,承諾した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない