2022 Volume 42 Pages 456-467
目的:血液透析患者の腎代替療法選択におけるSDMと自己管理行動との関連を検討する.
方法:血液透析患者61名に無記名自記式質問紙調査を行い,個人属性,血液透析自己管理行動尺度,SDM-C-patient尺度,療養行動の動機づけ尺度,慢性疾患患者の健康行動に対するセルフエフィカシー尺度を尋ねた.自己管理行動への関係モデルを構築し,共分散構造分析を実施した.
結果:食事制限と水分制限の遵守は,SDMの直接効果と,疾患に対する対処行動の積極性を介した間接効果が確認された.治療法の管理と合併症の予防は,SDMから疾患に対する対処行動の積極性を介した間接効果と,SDMから自律的動機づけを介した間接効果が確認された.身体と心理社会生活の調整は,SDMから疾患に対する対処行動の積極性を介した間接効果が確認された.
結論:血液透析患者の自己管理行動には,腎代替療法選択におけるSDMが影響していた.
Objective: This study examined the relationship between SDM: shared decision making and self-management behavior in the selection of renal replacement therapy when introducing hemodialysis.
Methods: We conducted a survey by sending self-administered questionnaires to 61 hemodialysis patients. The survey items included personal attributes, the hemodialysis self-management behavior scale, the SDM-C-patient, the motivation scale for medical treatment behavior, and the self-efficacy scale for health behavior of patients with chronic diseases. We constructed a relational model of self-management behavior and SDM, self-efficacy, and motivation, based on the conceptual framework and the results of the univariate analysis, and conducted covariance structure analysis.
Results: SDM had direct effects on compliance with dietary restrictions and water restrictions and indirect effects through positive coping behavior against disease. Regarding the management of therapy and prevention of complications, SDM had indirect effects through positive coping behavior against disease and autonomous motivation. Regarding the adjustment of physical and psychosocial living, SDM had indirect effects through positive coping behavior against disease.
Conclusion: Self-management behavior of hemodialysis patients was influenced by SDM in the selection of renal replacement therapy.
慢性透析療法は,患者が納得して血液透析や腹膜透析,腎移植の治療を開始するために,腎代替療法選択について,医療チームによる各治療法の詳細な情報提供の実施やIC(informed consent:以下ICとする)の重要性が指摘されている(猪阪ら,2020).しかし,医療者による治療選択の説明には偏りがあることが報告されており(中野ら,2006),現状は,腎代替療法選択時や腎代替療法導入時において詳細な情報提供が提供され,患者が納得したうえで意思決定がされていない可能性が考えられる.このような背景を受け,令和2年度の診療報酬改定より,末期腎不全患者への指導管理を評価する腎代替療法指導管理料が新設され,適切な腎代替療法選択により生命予後が改善することが期待されている(厚生労働省,2020).腎代替療法選択支援とは,単に腎代替療法の情報提供をするだけでなく,医療者と患者が協働で患者にとって最善の治療選択の決定を下すコミュニケーションの中で,患者の理解を促し納得した意思決定ができるように支援することである(猪阪ら,2020).腎代替療法選択支援については,SDM(shared decision making:以下SDM)が注目されている.このSDMは,治療に関する医学的な情報や最善のエビデンスと,患者の価値観や生活状況を,医療者と患者が双方で情報を共有しながら意思決定していくプロセスであり(Spatz et al., 2016),患者が納得して選んだ治療であることは,患者の満足感を生み(辻,2007;Robinski et al., 2016),治療に対して積極的な姿勢を示し,より健康的であろうとする行動に繋がると考える.
血液透析患者を含む慢性疾患を有する患者は,療養生活における治療の妨げとなるような不適切な行動の変容を促進し,適切な自己管理行動を獲得し維持することが,療養上の課題となる.これまでに,血液透析患者の自己管理行動に及ぼす影響として,自尊感情や自己効力感を高めること(松本ら,2018;川端ら,1998),ストレス対処能力を強化すること(永田・鈴木,2012)と同時に,患者の自律性を支援することの重要性が報告されている.山本・奥宮(2009)は,患者の自律性を支援するためのモデルとして「自己決定理論ヘルスケアモデル」(Deci & Flaste, 1995/1999)を参考に,血液透析患者が自律性支援を認知することと自己管理行動との関連を明らかにしている.ここで用いている自律性支援とは「患者の価値観を尊重しながら,患者自身が健康行動に対する責任能力を持つよう励ます(山本・奥宮,2009)」といった医療者側による一方向の側面を捉えているものであり,腎代替療法選択時に求められる「医療者と患者が双方で情報を共有しながら意思決定していく(Spatz et al., 2016;辻,2007)」といったSDMの観点,すなわち医療者と患者の双方の関係性については捉えきれていない.そのため,血液透析導入期のSDMの観点から,血液透析患者の自己管理行動との関連を明らかにする必要があると考える.そこで,血液透析導入期の腎代替療法選択におけるSDMの支援により,患者の意思決定プロセスの満足感や納得した治療選択が得られ,患者が主体的に治療に専念すること,すなわち,血液透析患者の自己管理行動が改善するという仮説に基づき,山本・奥宮(2009)のモデルを参考に,本研究の目的に添う形でSDMを概念枠組みに追加し検証する.
本研究の目的は,腎代替療法選択時に適切なShared Decision Making(SDM)を行うことで,血液透析導入後の自己管理行動が改善するという仮説に基づき,SDMと自己管理行動の関連をパス解析を用いて検討することである.
本研究は,血液透析導入期のSDMによって,血液透析導入後の患者の自己管理行動が決定づけられる直接効果と,内的要因である自己効力感と動機づけを介した間接効果に関連するものとしてモデルを構築した(図1).なお,このモデルは,自己決定理論に基づく「自己決定理論ヘルスケアモデル」(Deci & Flaste, 1995/1999)から自己決定理論構成概念の測定尺度日本語版を開発した山本・奥宮(2009)の自己決定理論ヘルスケアモデルを参考にした.

概念枠組み
本研究では,患者と医療者が相互に影響しあうことを特徴とし,患者のQOLを最大にすることを目的に,決定に関する満足と共に患者の成長を導き,双方向の交流から情報を共有し,望ましい決定の合意に至り,意思決定後もフォローされる動的な決定プロセスとした.
2. 自己管理行動本研究では,血液透析患者が食事療法と水分制限を遵守し,シャント管理・検査データ管理・服薬などの治療管理と合併症予防を行い,心理社会的な問題について調整をすることとした.
3. 血液透析導入期本研究では,血液透析が必要と診断された時から血液透析導入後3か月経過までの期間とした.
4. 腎代替療法選択本研究では,末期腎不全患者が,腎代替療法のメリット,デメリットについて情報提供を受け,治療についての思いや考えを表出する中で,患者の能力や生活状況,経済的背景を踏まえた治療法の選択や療養生活の意思決定をすることとした.
施設基準として,日本透析医学会認定施設であり,かつ透析看護認定看護師もしくは,慢性腎臓病療養指導看護師が所属している透析病床(15床以上)を保有する医療機関とした.便宜的サンプリングにより抽出した医療機関より,研究承諾の得られた12施設に通院している20歳以上の意思疎通がはかれ,透析歴が1年以上経過している血液透析患者409名を対象とした.本研究では透析歴1年以上の者を対象とした調査データのうち,透析歴1年以上4年未満の者のデータを分析対象とした.透析歴1年未満は,ある程度の残腎機能が維持されることで,食事制限や水分制限が緩和され,自己管理行動へ影響が示唆されることから除外した.透析歴4年以上の対象者は,血液透析導入期の腎代替療法選択支援がSDMによる支援であったかを想起するときに,記憶が不十分である可能性があるため除外した.なお,腎代替療法選択の意思決定支援に関する文献レビューにおいて,支援の効果の検証には治療選択後2年から6年以内を対象としており(松井・内田,2021),本研究では,血液透析導入期の腎代替療法選択支援がSDMによる支援であったかを想起するには,対象を4年未満とすることが適正と判断した.透析歴4年以上のデータについては,二次研究として,長期化する透析経験における自己管理行動を獲得・維持するために,動機づけと自己効力感との関連を検証することを目的とした分析に使用した.
2. 調査期間および調査方法調査期間は2020年2月~5月である.調査方法は,医療機関の施設長へ研究協力を依頼し,協力に対する同意を得た.協力の得られた施設の施設長へ,施設内で担当看護師の選出を依頼し,施設の看護師から,調査対象者に対し,本研究の趣旨について文書を用いて説明し,同意の得られた対象者へ質問紙を配布した.質問紙は対象者自身の投函による郵送法で回収を行った.
3. 調査内容本調査は,以下に示す5つから構成されている.なお,3)のSDMについては透析導入期の状況を尋ねるため,設問文を「今回の治療,介護,ケアの決定について,それぞれ最も当てはまるものにチェックをして下さい.」から,「血液透析を始めるときの状況について,それぞれ最も当てはまるものにチェックをして下さい.」に変えて,透析歴4年未満の患者のみに回答を依頼した.
1) 血液透析患者の個人属性および身体所見と検査データ個人属性および身体所見として,性別,年代,職業の有無,同居家族の有無,血液透析を導入した年月,慢性腎臓病を発症してから血液透析導入までの年月,初回透析時の中心静脈カテーテルの有無の7項目を設定した.検査データは,対象者の自己申告により,基礎体重(Dry weight:以下DWとする)(kg),中二日の体重増加量(kg),食事管理として直近の血清カリウム値(mEq/L),血清リン値(mg/dL)の4項目を設定した.
2) 自己管理行動野澤ら(2007)が開発した「血液透析自己管理行動尺度」を使用した.この尺度は【食事制限と水分制限の遵守】【治療法の管理と合併症の予防】【身体と心理社会生活の調整】の3因子33項目から構成され,「いつも実施している」4点,「だいたい実施している」3点,「あまり実施していない」2点,「まったく実施していない」1点の4件法であり,得点が高いほど,血液透析の自己管理行動が高いことを示す.信頼性と妥当性が確認されており,開発者の使用許可を得ている.
3) SDM(shared decision making)Goto et al.(2021)が日本語版を作成した「SDM-C-patient」を使用した.この尺度は,Kriston et al.(2010)が示すSDMの9ステップを含む尺度として開発され,医師と患者のみならず,暮らしを支える治療,介護,ケアに関わる全ての医療者と患者が双方に情報を共有しながら意思決定していくSDMの観点を評価するものである.1因子9項目で構成され,「よく当てはまる」5点,「おおむね当てはまる」4点,「どちらかというと当てはまる」3点,「どちらかというと当てはまらない」2点,「ほとんど当てはまらない」1点,「全く当てはまらない」0点の6件法で,得点が高いほど,患者が医療者と共に意思決定ができたと認識していることを示す.信頼性と構造妥当性が確認されており,開発者の使用許諾を得ている.
4) 自己効力感金ら(1996)が開発した「慢性疾患患者の健康行動に対するセルフエフィカシー(SE: self-efficacy)尺度」を使用した.この尺度は,【疾患に対する対処行動の積極性】【健康に関する統制感】の2因子24項目で構成され,「とても当てはまる」4点,「やや当てはまる」3点,「ほとんど当てはまらない」2点,「全く当てはまらない」1点の4件法である.得点が高いほど,慢性疾患を持ちながらも健康を維持する能力が高いことを示す.高い信頼性を備えており,開発者の使用許可を得ている.
5) 動機づけ山本・奥宮(2009)が開発した「療養行動の動機づけ尺度(TSRQ: Treatment Self-Regulation Questionnaire)日本語版」を使用した.この尺度は【自律的動機づけ】【他律的動機づけ】【無動機】3因子15項目から構成され「非常にあてはまる」7点,「おおむねあてはまる」6点,「どちらかといえばあてはまる」5点,「どちらともいえない」4点,「どちらかといえばあてはまらない」3点,「ほとんどあてはまらない」2点,「全然あてはまらない」1点の7件法である.各因子の項目数が異なるため,各設問の平均点を比較する.信頼性と構成概念妥当性の収束妥当性が確認されており,開発者の使用許可を得ている.
4. 分析方法回収された調査票のうち,調査内容の80%以上に記載があるもの,SDMについて回答のある透析歴4年未満を有効回答とし分析を行った.
1) 個人属性および身体所見と検査データと自己管理行動,SDM,自己効力感,動機づけとの関連初めに,DW(kg)と中二日の体重増加量(kg)から,体重増加率(%)を算出し,血清カリウム値は3.6~5.5 mEq/L,血清リン値は3.6~6.0 mg/dLを正常範囲とし,それぞれを4群に分けた.次に,個人属性および身体所見と検査データ,自己管理行動の下位概念との関連について,Shapiro-Wilk検定にてデータの正規性を確認したのち,Mann-WhitneyのU検定,Kruskal-Wallis検定,Pearsonの積率相関,Spearmanの積率相関を用いて単変量解析を行った.
自己管理行動とSDM,自己効力感,動機づけの関連については,Pearsonの積率相関またはSpearmanの積率相関を用いて相関係数を算出した.効果量でもある相関係数は,比較的大きな効果の目安とされる相関係数 ± .600を基準とした(大石・都竹,2009).
2) 血液透析患者の自己管理行動への関連要因血液透析患者の自己管理行動の下位概念ごとに,血液透析導入期のSDM,自己効力感,動機づけ,自己管理行動の関係モデルを共分散構造分析で検証した.共分散構造分析は,変数の5~10倍のサンプル数を確保することが推奨されている(Bentler & Chou, 1987;中村,2003).本研究では,自己管理行動の下位概念ごとのモデルには7つの観測変数を設定しており,モデルの検証に必要なサンプル数は35~70となる.仮説モデルは,概念枠組みに則りパスを引き,単変量解析で自己管理行動に関連を示した変数を加えた.モデルの適合度は,GFI:Goodness of Fit Index > .900,AGFI:Adjusted Goodness of Fit Index > .900,CFI:Comparative Fit Index > .900,RMSEA:Root Mean Square Error of Approximation < .08を基準として(大石・都竹,2009;小塩,2019),パラメータ推定値が有意(p < .05)でないパスと観測変数を削除し,モデルの適合度を確認し,最終モデルとした.以上の統計解析には,SPSS ver.24およびAmos Ver. 25を用い,全ての統計的有意水準を5%とした.
5. 倫理的配慮調査は無記名自記式質問紙法で行った.研究の説明文書に,研究目的,研究意義,研究方法を記載し,調査は自由意思であり,協力をしない場合にも治療やケアに影響しないことを書面で説明した.研究参加への同意は,調査票への同意のチェックをもって確認した.調査データは厳重に管理し,データ分析は統計学的に処理を行うことを説明した.なお,本研究は長野県看護大学において倫理審査を受け承認を得たうえで実施した(承認番号2019-15).
血液透析患者に対して409部の調査票を配布し,261部(回収率63.8%)が回収された.そのうち,調査内容の80%以上に記載があり,かつ透析歴4年未満の61部(有効回答率14.9%)を分析対象とした.
1. 血液透析患者の個人属性および身体所見と検査データ対象者は,男性45名(73.8%)で,60歳以上が41名(67.2%)であった(表1).就業ありが28名(45.9%)で,同居家族のないものが10名(16.4%)であった.体重増加率は平均で4.0%であり,3%未満が16名(26.2%),3%以上6%未満が37名(60.7%),6%以上が8名(13.1%)であった.
| 属性 | n | % | 自己管理行動 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 食事制限と水分制限の遵守 | p | 治療法の管理と合併症の予防 | p | 身体と心理社会生活の調整 | p | ||||
| 中央値(四分位範囲) | 中央値(四分位範囲) | 中央値(四分位範囲) | |||||||
| 性別1) | 男性 | 45 | 73.8 | 59.0(53.0~67.5) | .909 | 17.0(15.0~19.0) | .383 | 16.0(13.0~18.0) | .463 |
| 女性 | 16 | 26.2 | 60.0(55.3~65.5) | 18.0(16.3~19.0) | 16.5(12.0~18.8) | ||||
| 年代2) | 30代 | 1 | 1.6 | ― | .040* | ― | .097 | ― | .210 |
| 40代 | 5 | 8.2 | 55.0(52.0~67.5) | 18.0(15.5~19.5) | 14.0(11.5~18.5) | ||||
| 50代 | 14 | 23.0 | 50.0(51.8~68.8) | 18.0(17.0~19.0) | 15.0(10.8~17.3) | ||||
| 60代 | 18 | 29.5 | 56.5(47.0~63.3) | 17.5(15.0~19.0) | 16.0(12.5~18.3) | ||||
| 70代 | 18 | 29.5 | 59.0(56.0~67.0) | 16.0(15.0~18.0) | 16.5(15.0~18.3) | ||||
| 80代以上 | 5 | 8.2 | 85.0(63.0~86.5) | 19.0(17.5~20.0) | 18.0(15.0~22.0) | ||||
| 就業1) | あり | 28 | 45.9 | 61.5(53.0~68.5) | .783 | 18.0(17.0~19.0) | .072 | 16.5(11.5~18.8) | .948 |
| なし | 33 | 54.1 | 59.0(54.5~65.5) | 17.0(15.0~18.0) | 16.0(13.5~18.0) | ||||
| 同居家族1) | いる | 50 | 82.0 | 60.0(54.0~68.3) | .197 | 17.0(15.0~19.0) | .540 | 16.0(13.0~18.0) | .273 |
| いない | 10 | 16.4 | 57.5(47.0~61.8) | 18.0(15.0~19.0) | 18.0(14.0~19.3) | ||||
| 不明 | 1 | 1.6 | ― | ― | ― | ||||
| 透析導入までの期間2) | 1年未満 | 6 | 9.8 | 61.5(58.3~69.0) | .418 | 18.5(18.0~19.3) | .296 | 18.0(14.3~21.0) | .619 |
| 1年以上5年未満 | 22 | 36.1 | 56.5(48.5~67.3) | 17.5(15.8~18.3) | 15.5(13.0~18.0) | ||||
| 5年以上10年未満 | 14 | 23.0 | 62.0(56.8~67.3) | 17.0(15.0~19.0) | 16.0(14.8~18.3) | ||||
| 10年以上 | 18 | 29.5 | 59.0(53.0~69.5) | 17.0(15.0~19.0) | 16.0(11.8~18.3) | ||||
| 不明 | 1 | 1.6 | ― | ― | ― | ||||
| 中心静脈カテーテル1) | あり | 14 | 23.0 | 60.5(53.0~67.3) | .959 | 18.0(16.5~19.0) | .482 | 15.0(10.0~19.0) | .605 |
| なし | 47 | 77.0 | 59.0(53.0~67.0) | 17.0(15.0~19.0) | 16.0(14.0~18.0) | ||||
| 血中カリウム値2) | 3.5以下 | 5 | 8.2 | 57.0(49.5~63.5) | .129 | 18.0(18.0~19.0) | .235 | 16.0(15.0~18.0) | .954 |
| 3.6~5.5 | 41 | 67.2 | 59.0(51.5~66.5) | 17.0(15.0~19.0) | 16.0(13.0~18.0) | ||||
| 5.6~6.0 | 7 | 11.5 | 64.0(60.0~68.0) | 18.0(17.0~19.0) | 16.0(15.0~18.0) | ||||
| 6.1以上 | 3 | 4.9 | 47.0(43.0~53.0) | 15.0(14.0~16.5) | 15.0(12.5~17.0) | ||||
| 不明 | 5 | 8.2 | |||||||
| 血中リン値2) | 3.5以下 | 3 | 4.9 | 62.0(60.5~65.0) | .019* | 18.0(18.0~18.5) | .157 | 18.0(17.0~19.0) | .200 |
| 3.6~6.0 | 37 | 60.7 | 58.0(51.5~64.5) | 17.0(15.0~19.0) | 15.0(13.0~18.0) | ||||
| 6.1~7.0 | 10 | 16.4 | 65.5(58.3~74.0) | 18.5(17.0~19.3) | 16.5(14.8~18.5) | ||||
| 7.1以上 | 5 | 8.2 | 47.0(41.0~56.0) | 18.0(15.0~18.5) | 10.0(9.5~17.5) | ||||
| 不明 | 6 | 9.8 | |||||||
| Mean ± SD | 相関係数 | p | 相関係数 | p | 相関係数 | p | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 体重増加率3)4) | 4.0 ± 1.7 | –.258 | .044* | –.073 | .578 | –.081 | .537 |
| SDM4) | 29.5 ± 13.2 | .316 | .013* | .414 | .001** | .135 | .299 |
| 動機づけ | |||||||
| 自律的動機づけ4) | 5.2 ± 1.3 | .368 | .004** | .575 | .001** | .259 | .044* |
| 他律的動機づけ3)4) | 3.5 ± 1.1 | .260 | .043* | .181 | .164 | .251 | .051 |
| 無動機4) | 2.5 ± 1.3 | –.056 | .671 | –.430 | .001** | .005 | .968 |
| 自己効力感 | |||||||
| 疾患に対する対処行動の積極性3)4) | 45.9 ± 5.6 | .600 | .001** | .385 | .002** | .619 | .001** |
| 健康に関する統制感3)4) | 29.9 ± 5.2 | .477 | .001** | .212 | .101 | .442 | .001** |
1)Mann-WhitneyのU検定 2)Kruskal-Wallis検定 3)Pearsonの積率相関分析 4)Spearmanの積率相関分析 * p < 0.05 ** p < 0.01
【食事制限と水分制限の遵守】では,年代,血清リン値に有意な差がみられ,体重増加率に負の相関がみられた(表1).【治療法の管理と合併症の予防】と【身体と心理社会生活の影響】では,個人属性の比較で有意な差はみられなかった.
自己管理行動,SDM,自己効力感,動機づけとの関連を検証した結果,相関係数が.600以上を示したものは,【食事制限と水分制限の遵守】と自己効力感の【疾患に対する対処行動の積極性】,【身体と心理社会生活の調整】と自己効力感の【疾患に対する対処行動の積極性】であった(表1).
3. 自己管理行動の関係モデル【食事制限と水分制限の遵守】については,概念枠組みの変数の他に単変量解析で関連がみられた「年代」と「体重増加率」を加えた仮説モデルを検証した結果(図2),モデルの適合度はGFI = .798,AGFI = .588,CFI = .456,RMSEA = .222であった.そこで,仮説モデルで有意でなかった観測変数を削除して最終モデルを検証した結果(図3),モデルの適合度はGFI = .964,AGFI = .891,CFI = .983,RMSEA = .054となり,適合度の許容範囲を全て満たした.最終モデルでは【食事制限と水分制限の遵守】へは,【SDM】からの直接効果(0.21)と,【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介した間接効果0.15(=0.28 × 0.54)がみられた.

自己管理行動【食事制限と水分管理の遵守】の仮説モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < 0.001,** p < 0.01,* p < 0.05

自己管理行動【食事制限と水分制限の遵守】の最終モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < .001,** p < .01,* p < .05
【治療法の管理と合併症の予防】については,概念枠組みに則り変数を加えた仮説モデルを検証した結果(図4),モデルの適合度はGFI = .820,AGFI = .441,CFI = .471,RMSEA = .327であった.そこで,仮説モデルで有意でなかった観測変数を削除して最終モデルを検証した結果(図5),モデルの適合度はGFI = .981,AGFI = .905,CFI = .993,RMSEA = .050となり,適合度の許容範囲を全て満たした.最終モデルでは,【治療法の管理と合併症の予防】へは,【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介した間接効果0.10(=0.28 × 0.34)と,【SDM】から【自律的動機づけ】を介した間接効果0.20(=0.48 × 0.43)がみられた.

自己管理行動【治療法の管理と合併症の予防】の仮説モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < 0.001,** p < 0.01,* p < 0.05

自己管理行動【治療法の管理と合併症の予防】の最終モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < .001,** p < .01,* p < .05
【身体と心理社会生活の調整】について,概念枠組みに則り変数を加えた仮説モデルを検証した結果(図6),モデルの適合度はGFI = .820,AGFI = .441,CFI = .505,RMSEA = .327であった.そこで,仮説モデルで有意でなかった観測変数を削除して最終モデルを検証した結果(図7),モデルの適合度はGFI = .973,AGFI = .910,CFI = .990,RMSEA = .051となり,適合度の許容範囲を全て満たした.最終モデルでは【身体と心理社会生活の調整】へは,【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介した間接効果0.17(=0.28 × 0.62)がみられた.

自己管理行動【身体と心理社会生活の調整】の仮説モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < 0.001,** p < 0.01,* p < 0.05

自己管理行動【身体と心理社会生活の調整】の最終モデル
□は観測変数,→はパス係数を示し,誤差変数は省略した.*** p < .001,** p < .01,* p < .05
男女比は2.8対1.0と男性が多く,60歳以上の割合が67.2%と高い傾向にあり,40歳以下の若年層は9.8%であった.男女比,年齢層ともに全国平均と相違はなかった(日本透析医学会,2018).本研究の有職率は45.9%と全国平均33.7%に比べ若干高く,比較的透析歴の短い患者を対象にしたため,長期透析による合併症の影響を受けず,有職率が高い結果となったと思われる(全国腎臓病協議会,日本透析医会,2016).
2. 自己管理行動【食事制限と水分制限の遵守】への関係モデル【食事制限と水分制限の遵守】は,血液透析導入期の【SDM】が直接関係する可能性が示された.これは,血液透析患者の食事制限を含めた療養生活を早期に安定させていくためには,患者と医療者が対等な立場で,患者の考えや価値観,生き方を基にした治療の希望を共有するSDMの支援が求められ,食事制限を含めた自己管理の必要性についての理解を得たうえで患者の意思決定を進めることの重要性が示唆されたものと考える.患者自身が自己管理の必要性について認識を深めるためには,医療者が導入後の療養生活として具体的な食事や水分の制限をイメージできるように情報提供をするとともに,医療者と患者が双方で設定した食事や水分制限の目標に達するように繰り返し評価・相談をしながら,自己管理行動を獲得・維持できるよう支援することが求められる.内田(2021)は,患者の意思決定支援に関わる看護師には,SDMのプロセスを患者と共に丁寧に繰り返しながら,患者本人の意思が表現された言葉や,本人の意思や気持ちの変化,本人の望んでいること,本人にとっての最善など大切な情報を記録し,医療チームでの共有を推進する役割があると述べている.血液透析導入期のSDMを促進するための医療チームにおける看護師の役割は大きいと考える.
さらに【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介した間接的な関係の可能性が示された.これは,食事や水分の制限の情報を医療者と患者間で共有し,患者が食事や水分の制限を自主的に取り組む姿勢が得られることで,【食事制限と水分制限の遵守】の獲得につながるものと考える.金ら(1996)は,【疾患に対する対処行動の積極性】を高めることは,疾患に付随して生じる様々な心理的ストレス反応の表出を抑制する効果を明らかにしている.血液透析患者は,本来楽しむべき食事に制限や制約を伴うことから,飲食そのものをストレスとして感じる恐れがあるため,医療者による励ましやねぎらいにより,食事や水分制限の自己管理行動を獲得していくことが求められる.
なお,本研究は,山本・奥宮(2011)の結果と異なり,【自律的動機づけ】を介した【食事制限と水分制限の遵守】への関係は確認されなかった.本研究は,山本らとは違い,透析歴4年未満に限っていることがその理由と考える.つまり,透析治療が開始される初動の4年間は,自律的動機づけに示されるような「自分が元気でいることに責任を持ちたい」「私のやりたいと思っていることと一致するから」などの価値観の構築よりも,治療に専念し慣れることへの重要性が増すため,今回【自律的動機づけ】を介した【食事制限と水分制限の遵守】への関係は確認されなかったと考える.
3. 自己管理行動【治療法の管理と合併症の予防】への関係モデル【治療法の管理と合併症の予防】は,【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介して間接的に関係している可能性が示された.これは,医療者が血液透析導入期にある患者の疾患に対する理解や治療への期待について情報を得て患者のレディネスを見極める支援により,患者自身が医療者に「理解された」感覚を持つことになり,そのことが治療への関心を高め,【治療法の管理と合併症の予防】を獲得することにつながるのではないかと考える.【治療法の管理と合併症の予防】は,検査データ管理や服薬管理のほかに,血液透析患者特有のシャント管理の項目で構成されている.血液透析患者の生命線ともいえるシャントは,治療開始直後から自己管理が必要になる.さらに一日おきに反復して続く穿刺の痛みから,シャントへの陰性感情や治療継続の自信を喪失することにもつながる恐れがある.【疾患に対する対処行動の積極性】を低下させないために,医療者は治療に伴う疼痛の緩和や穿刺トラブルの回避に取り組むことに加え,患者が保有するシャントの機能と形態を良好に保持するための情報を,平易な言葉で具体的に説明することが求められると考える.
さらに,【SDM】から【自律的動機づけ】を介して間接的に関係している可能性が示された.これは,医療者と血液透析患者を対等なパートナーとして意思決定を行うことで,血液透析患者が,治療管理や合併症の予防に受け身ではなく主体性を持つことの重要性が示唆されたと考える.患者個々のシャントやデータの推移,服薬状況には差がみられる.個別性を重視した支援により,患者の治療への関心を高め,医療者任せでなく主体的に治療に参加することにつながるのではないかと考える.Deci & Flaste(1995/1999)は,自律性を支援するには,患者に主体性を置くことに加え,医療者側も患者に対し支配的であることを避ける必要があると述べている.Hoffman et al.(2014)は,EBM:evidence based medicineと患者を尊重するコミュニケーションの合流点でSDMが行なわれ,最適な患者ケアが実現するモデルを構築し,SDMの意識を持って患者と意思決定することの重要性を示した.すなわち,患者が疾患に対し主体性を持つことと医療者が支配的な関係性を解くことにより,患者中心の医療や最適な患者ケアの実現する.したがって,【治療法の管理と合併症の予防】獲得には,医療者は患者に対し自律性を阻害するような支配的な言動を避け,検査データや服薬の管理に関心が持てるよう個別性を重視した情報提供を行い,患者が主体的に治療に参加できるように関わることが求められる.
4. 自己管理行動【身体と心理社会生活の調整】への関係モデル【身体と心理社会生活の調整】は,【SDM】から【疾患に対する対処行動の積極性】を介して間接的な関係の可能性が示された.これは,血液透析患者の生活における優先事項や価値観をもとに治療選択や療養生活の選択ができるよう患者の希望を明らかにし共有することが,治療に対する対処行動の積極性を増し,体調面を考慮した心理社会生活の調整につながると考える.血液透析は,腎機能の一部しか代替できない治療上の特徴に加え,正常な腎臓に比べて短時間で血液を浄化するため,体内の恒常性に反する行為である.特に血液透析導入期は,尿毒素物質の除去により,浸透圧物質の急激な変化が生じ,頭痛,悪心・嘔吐などの症状を呈する不均衡症候群が起こる恐れがある(岡山・三村,2020).医療者が,血液透析導入期特有の合併症を丁寧に情報収集し,生活支援として家族や周囲の理解や協力状況を確認することで,血液透析患者を孤立させず,患者が生活の再建に困難感を示すことがないよう,療養生活を受容できるように支援することが重要であると考える.
なお,このモデルにおいても,【自律的動機づけ】を介した【身体と心理社会生活の調整】への関係は確認されなかった.透析歴が短い患者は,導入時期特有の身体的随伴症状の出現も伴い,透析治療に慣れることが優先され,療養生活の調整に対して自律的となるまでの到達は難しいと考えられる.
5. 本研究の限界と今後の課題本研究の限界として,4点考えられる.1点目は,日本透析医学会認定施設であり,かつ透析看護認定看護師もしくは,慢性腎臓病療養指導看護師が所属している透析病床より対象を抽出したため,血液透析導入期の医療者の関わり方に偏りがある可能性がある.2点目は,自己管理行動への影響としてすでに明らかになっている自尊感情やストレス対処能力(松本ら,2018;永田・鈴木,2012)について,本研究では対象者の調査負担を考慮して確認することができていない点である.3点目に,調査内容のうちSDMについては,血液透析導入期の状況を思い出して回答してもらったため,リコールバイアスの影響は,否定できない.4 点目に,分析対象者を調査内容の80%以上に記載があるもの,かつSDMについて回答のある透析歴4年未満に絞ったため,配布数に対する分析対象数の有効回答率が14.9%と低い点である.すなわち,本研究の調査対象は透析歴が1年以上経過している血液透析患者409名としており,全体の回収率は63.8%,調査内容の80%以上に記載があるものは221件(54.0%)であったが,そのうち,SDMについて回答のある透析歴4年未満は61件(27.6%),透析歴4年以上は160件(72.3%)である.今回,透析歴4年未満に限定して調査票を配布,回収した調査方法でないことが,有効回答率が低くなった原因と考える.なお,分析対象のサンプル数61件に関して,共分散構造分析におけるモデルの検証に必要なサンプル数については,観測変数の5~10倍の数を確保することが推奨されている(Bentler & Chou, 1987;中村,2003).本研究では一つのモデルに対して7つの観測変数を設定しており,モデル検証に必要なサンプル数は35~70となることから,サンプル数としてはやや少なく,分析結果の安定性が不足している可能性が考えられる.
血液透析患者の自己管理行動に,血液透析導入期のSDMがどのように関連するのか検証した結果,【食事制限と水分制限の遵守】には,血液透析導入期の【SDM】が,直接的に関係することに加え,【疾患に対する対処行動の積極性】を介した関係の可能性が示された.【治療法の管理や合併症の予防】には,血液透析導入期の【SDM】から,【疾患に対する対処行動の積極性】と【自律的動機づけ】を介した関係の可能性が示された.【身体と心理社会生活の調整】には,血液透析導入期の【SDM】から,【疾患に対する対処行動の積極性】を介した関係の可能性が示された.このことから,血液透析導入期の看護は,患者と医療者の対等な関係性の構築を促し,比較的身近な存在である看護師が,患者の抱く治療に関する制約や制限に対する困難事や問題点を共有するように支援することが求められ,ひいては血液透析患者の適切な自己管理行動を獲得でき,患者中心の療養生活を送ることに寄与する可能性が示されたと考える.
付記:本研究は,長野県看護大学看護学研究科に提出した修士論文の一部を加筆修正したものであり,第41回日本看護科学学会学術集会で発表をした.
謝辞:本研究にご協力くださいました病院施設の関係者の皆様,調査にご協力下さいました血液透析患者の皆様に心より感謝を申し上げます.
本研究は,令和2年度長野県科学振興会(NPS2020301)の研究助成を受け実施した.
利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.
著者資格:MIは研究の着想およびデザイン,統計解析の実施および草稿の作成すべてに貢献;YAは研究の着想およびデザインに貢献;SKは統計解析の実施および原稿への示唆,研究のプロセス全体への助言に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.