2022 Volume 42 Pages 549-558
目的:患者のセルフマネジメントプログラムを機能させるために,看護師に対する強化の原理を活用した運用システムの効果を検討した.
方法:運用システムは,患者にプログラムに基づく判断の正否を看護師がFeedbackする行動(以下,FB行動)をリーダーが分化強化する.セルフマネジメントプログラムに運用システムを組み込み,病院A・Bに導入し,Standard-care期(S期),Intervention期(I期),Follow-up期(FU期)を設定した.
結果:I期に看護師のFB行動実行率は増加し,FU期で維持され,患者の判断実行率も増加した.病院A・Bで看護師のFB行動適正率は78.0%,70.9%に増加し,患者の判断適正率が69.5%,74.7%に増加した.
結論:運用システムは,セルフマネジメントプログラムに基づく看護師の適正なFB行動を増加させ,患者の適正な判断を増加させた.
Aims: This study aimed to develop an operational system based on the reinforcement principle for nurses to ensure proper functioning of the patient self-management program.
Methods: In the operational system, leader nurses provide differential reinforcement to the nurse’s feedback behavior on the correctness of the patient’s judgment. The system was incorporated into the self-management program and introduced to hospitals A and B, with Standard-care phase, Intervention phase (I phase), and Follow-up phase (FU phase) settings.
Results: During the I phase, the nurses’ feedback behavior execution rate increased and was maintained during the FU phase. The patient’s judgment execution rate also increased during the I phase. The feedback behavior adequacy rate of nurses at hospitals A and B increased to 78.0% and 70.9%, respectively, while the patient’s judgment adequacy rate increased to 69.5% and 74.7%, respectively.
Conclusions: These results demonstrate that this system increased not only the appropriate feedback behavior of nurses based on self-management program but also the patient’s appropriate judgment.
本邦では近年の超高齢化,疾病構造の変化,医療費の増大といった社会の状況に対応するために様々な政策が展開され,急性期病院における入院期間の短縮化,在宅医療への移行が進められている.治療を受ける患者は,退院後も医療者から指示された療養生活を自律的に調整する「セルフマネジメント」を余儀なくされるため,それを可能にする看護ケアを入院中から提供することが重要である.
この様な背景のもと,今日までに,患者のセルフマネジメントを支援する有用な看護ケアプログラムが数多く報告されてきた.これらのプログラムは,看護師チーム(Cockayne et al., 2014;Cebeci & Celik, 2011),多職種の専門職チーム(Hakanson et al., 2011;Theander et al., 2009;Tousman et al., 2007)により運用される報告,プログラム開発者,トレーニングを受けた者,又は専任でプログラムを担当する者が運用する報告(山口ら,2006;有永ら,2015;上星ら,2012;高見ら,2008;森山ら,2008;Yan et al., 2014;Zhang et al., 2014;Liao et al., 2014)があった.これらから,プログラムの継続的活用を実現するためには,必然的に多くの医療者がプログラムの運用に関与することになる.
この運用において,看護ケアプログラムが本来の効果を継続的に発揮するためには,当該プログラムに関わるすべての看護師が,プログラムに基づき適正な援助行動を確実に行い,それを継続することが必要となる.しかし,藤浪ら(2015)は,胃切除術後患者のための食事摂取量自律的調整プログラム(鎌倉,2014)の導入病棟では,看護師がプログラムに沿った援助だけでなくプログラムと異なる援助も実施していたことを報告した.深田ら(2015)も,同プログラムにおいて,専任で運用する看護師と比較して,病棟看護師による運用の際は,食事摂取後の症状がないときに食事摂取量を増加させる指導が不足する等の課題があることを報告した.岡(2007)は,慢性腎不全患者を対象とするEncourage Autonomous Self-Enrichment Programが臨床活用されているものの,一部で実施方法の誤りや効果が低下する事例があったことを報告した.これらは,複数の看護師がプログラムに関与するとプログラムが変形し効果が低下する可能性があることを示唆している.
プログラムが変形しない方策として,看護師の行動をマネジメントする視点から,行動科学における強化の原理に着目した.強化の原理とは,当該行動について,その行動が生起する契機となった事象(先行事象)と,行動後の環境変化(結果事象)の随伴性(以下,三項随伴性)の視点から捉え,行動に随伴した結果事象が当人にとって望ましいものであると,次の同様の場面(先行事象)では当該行動の生起が増加する原理をいう.また,行動を増加させた結果事象は強化子と呼ばれ,行動の直後に一貫して随伴する強化子は効力が高いことが報告されている(Miltenberger, 2001/2006).看護師にとっての強化子は,自らの援助に対する効果の実感,患者や上司・同僚からの言語的賞賛などが該当し得る.言語的賞賛は,強化子としての有効性が評価されているため(Cairns & Pasino, 1977;French et al., 1992),プログラムに基づく適正な援助に随伴して言語的賞賛が得られるならば,看護師はその援助行動を増加させると考える.
そこで,本研究は,患者のセルフマネジメントプログラムを適正に機能させるために,看護師に対する強化の原理を活用した「セルフマネジメントプログラム運用システム(以下,運用システム)」を開発し,その効果を検討した.
用語を以下のように操作的に定義する.
1.セルフマネジメント:患者が医療者から指示された療養生活を自律的に調整することをいう.
2.セルフマネジメントプログラム:患者が医療者から指示された療養生活を自律的に調整することを支援する看護ケアプログラムをいう.
3.プログラムリーダー(以下,リーダー):セルフマネジメントプログラム,運用システム及び強化の原理に関する研修会に参加し(確立操作),看護師に対し分化強化を行う者をいう.
4.強化の原理:行動科学における原理である.行動を「先行事象・行動・結果事象」の三項随伴性で捉えたときに,行動に随伴した結果事象が当人にとって望ましいものであると,次の同様の場面(先行事象)で当該行動の生起が増加する原理をいう.
5.ターゲット行動:変容させたい行動であり,本研究ではセルフマネジメントプログラムに基づく看護師の援助行動をいう.
6.強化子:行動を増加させた結果事象をいう.本研究では,看護師がセルフマネジメントプログラムに基づき適正な援助行動を行った場合に,リーダーから賞賛されることをいう.
7.確立操作:ターゲット行動を適正に生起させるための,強化力に影響する環境調整をいう.本研究では,リーダーに対し行う研修会をいう.
8.分化強化:ターゲット行動が適正であれば直後に強化子を随伴させ,不適正であれば修正する介入をいう.本研究では,看護師がセルフマネジメントプログラムに基づく適正な援助行動を行った場合には,リーダーが賞賛し,不適正の場合には修正することをいう.
9.FB行動:患者の判断が適正であれば賞賛し,不適正であれば修正するFeedback行動をいう.
患者のセルフマネジメントプログラムを適正に機能させるために,看護師に対する強化の原理を活用した運用システムを提案した.

運用システムと胃切プログラムの構造
運用システムの重要な仕組みは,セルフマネジメントプログラムに基づくケアを提供する役割を有する看護師の援助行動に対して,リーダーが分化強化を実施して,看護師の適正な援助行動を増加させることである.そのため,リーダーが適正な分化強化を行うことができるように,セルフマネジメントプログラム,運用システム及び強化の原理に関する研修会を確立操作として位置付けた.
2. 本研究で用いるセルフマネジメントプログラム運用システムの効果の検討には,胃切除術後患者のための食事摂取量自律的調整プログラム(鎌倉,2014)(以下,胃切プログラム)を用いた.胃切プログラムは,強化の原理に基づき開発され,胃切除術(幽門側胃切除術,噴門側胃切除術,胃全摘術,幽門輪温存幽門側胃切除術)を受けた患者が,入院期間中に自らの胃機能の状態を判断し食事摂取量を自律的に調節して食べる行動の獲得を支援する.患者は,術前と術後飲水開始時に看護師から胃切プログラムに基づく説明を受け,食事開始時から胃のリハビリテーション(以下,リハビリ)を開始する.リハビリでは,昼食前後に精密体重計による体重測定を行い,昼食後の体重と昼食前の体重の差を昼食摂取量とする.胃の機能を判断するために,食事に伴い出現する上腹部の張り・不快症状の有無を,体重測定の値と共に専用記録用紙(以下,リハビリ記録)に記載する.そして,上腹部の張りや不快症状がなければ翌日の昼食では食事摂取量を50 g増やすこと,上腹部の張りや不快症状があれば次の食事摂取量を同量あるいは50 g減らすことを教示し,それに沿って昼食摂取量の適否と次の食事摂取量の増減を判断する(以下,判断)ものである.看護師は,昼食後の検温時に患者が記載したリハビリ記録を確認し,患者の判断が適正であれば賞賛し,不適正であれば修正をするFB行動を行う役割を有する.
そこで,看護師のFB行動をターゲット行動と位置づけ,これを増加させるために運用システムを組み込んだ.すなわち,リーダーが看護師のFB行動の適否を分化強化し,そのための確立操作として研修会を受講した.
準実験デザインである.
独立変数は運用システム,従属変数は看護師のFB行動,患者の判断とした.
2. 研究対象施設運用システムの効果の検討には,胃切プログラムを用いた.そのため,研究対象施設は,がん診療拠点連携病院とした.運用システムの再現性を確認するために,当該プログラムが既に導入され数年が経過している病院(病院A)及び新規に導入する病院(病院B)の2施設とした.
3. 研究対象者看護師,リーダー及び患者が対象である.看護師は,2014年11月~2016年3月のデータ収集期間内に胃切プログラム導入病棟に所属している者とした.リーダーは,病棟管理者に,病棟看護チームの中心的役割を担う看護師の中から推薦された者とした.
患者は,データ収集期間内に胃切プログラム導入病棟に入院し胃切除術を受けた全患者のうち,認知機能に問題がなくリハビリ記録が記載できる者とし,各病院の研究協力者に条件を満たす患者の選定を依頼した.
4. 手続き 1) 実験スケジュール病院Aでは,看護師に対する研修前を「Base Line期(以下,BL期)」とし,それ以降は病院A・B共に,胃切プログラム実施期間を「Standard-care期(以下,S期)」,分化強化の組み込み期間を「Intervention期(以下,I期)」,分化強化を組み込まない期間を「Follow-up期(以下,FU期)」とした.
従って,病院AはBL期(12週),S期(19週),I期(15週),FU期(6週)の4期,病院BはS期(24週),I期(20週),FU期(8週)の3期となった.
2) 看護師への胃切プログラムに関する研修会の実施本研究では,胃切プログラムが変形することなく,看護師がFB行動を適正に実施できることを目的に,当該プログラムの専用マニュアルに基づく約1時間の研修プログラムを制作し,BL期とS期の間(病院BではS期の前)に看護師に対する研修会を実施した.さらに,看護師のFB行動の実施状況を把握することを目的に,既存のリハビリ記録に,看護師用の記録欄を設けたこと,看護師がFB行動を行った際は,患者の判断の適正・不適正の記載とサインすることを胃切プログラムに加えた.研修会は,すべての看護師が無理なく参加できるよう複数回開催し,すべての看護師が受講した.
3) リーダーへの研修会の実施(確立操作)リーダーに対し,①胃切プログラムが効果を発揮する仕組み,②胃切プログラム運用上の課題,③強化の原理,④分化強化に関する約1時間の研修プログラムを制作し,S期とI期の間にリーダーに対する研修会を実施した.また,リーダーの分化強化の実施状況を把握することを目的に,運用システム専用紙を作成し,リーダーには分化強化実施日,対象看護師の氏名とFB行動の適正・不適正,サインを記載するよう求めた.
看護師・リーダーに対する研修プログラムのテキストは,内容妥当性を確保するため,胃切プログラム開発者と行動分析学に関する研究実績のある共同研究者と共に作成され,研究者が研修を担当した.
5. データの測定 1) 独立変数に関する項目:運用システムの実働状況運用システム専用紙から,リーダーの分化強化の実行数と看護師のFB行動が適正か否に関するデータを収集した.I期開始後すぐに,研究者が各リーダーの分化強化に2~3回同行し,運用システム専用紙に記載事項が正確に記載されているかを確認した.また,リーダーの分化強化が適正か否かについては,まず患者が昼食摂取量の適否と次の食事摂取量増減を判断した結果に対する看護師のFB行動の適否について,リハビリ記録を確認した.次に,それに対するリーダーの分化強化の適否について運用システム専用紙を確認した.これらは複数の研究者で実施した.
2) 従属変数に関する項目:運用システムの効果 (1) 看護師のFB行動リハビリ記録から,FB行動の実行数と患者の判断が適正か否かに関するデータを収集した.さらに,看護師のFB行動が適正か否かについて,複数の研究者で確認した.
(2) 患者の判断リハビリ記録から,患者の判断の実行数と患者自身の判断が適正か否かに関するデータを収集した.さらに,患者の判断が適正か否かについて,複数の研究者で確認した.
3) 属性看護師及びリーダーについては,性別・年齢・看護師経験年数・病棟経験月数を,患者については,性別・年齢・術後在院日数・術後経口摂取開始日を,収集した.
6. 分析方法 1) 独立変数に関する項目:運用システムの実働状況リーダーの分化強化の総実行数を求め,看護師のFB行動総実行数に対する割合(以下,分化強化実行率)を求めた.そして,分化強化の総実行数に対する,適正な分化強化であった総数(以下,分化強化適正率)を求めた.
2) 従属変数に関する項目:運用システムの効果運用システム導入によって,看護師のFB行動と適正なFB行動,患者の判断と適正な判断が増加したかを確認するためにχ2検定を行い,有意差が確認された際はさらに調整済み標準化残差を確認した.その際に,各期における患者の判断の総必要場面数,看護師のFB行動の総実行数と総適正数,患者の判断の総実行数と総適正数を用いた.
3) 属性リーダーについては,年齢・看護師経験年数・病棟経験月数の記述統計を求めた.各期の看護師・患者の性別についてはχ2検定を行い,看護師の年齢・看護師経験年数・病棟経験月数及び患者の年齢・術後在院日数・術後経口摂取開始日については,正規性の検定結果に応じ一元配置分散分析,Kruskal-Wallisの検定を行った.
統計解析には,SPSS Statistics ver. 17.0を用い,有意水準は5%とした.
7. 倫理的配慮所属大学の倫理審査委員会(承認番号:26愛県大総第1-5号)と,病院A(承認番号:2014第1-088号),病院B(承認番号:第14-26号)の研究倫理審査委員会の承認を得た.また,胃切プログラム開発者からプログラム使用許可を得た.各対象者には,書面と口頭で本研究の目的・方法,参加は自由意志であり,参加せずとも不利益はないこと,匿名性の確保等を説明し,同意が得られた者を研究対象者とした.
リーダーは合計3名であり,属性は表1に示した.BL期に胃切プログラムの実施時期のみクリニカルパスに記載されていた.そして,I期において,リーダーは各自の判断で分化強化を開始した.リーダーの分化強化実行率は44.1%(26回),分化強化適正率は65.4%(17回)であった.

病院A 対象の属性
看護師数はBL期,S期,I期,FU期の順に22名,24名,20名,25名(総数35名),患者数は順に14名,16名,11名,15名であり,その他の属性は表1に示した.なお,看護師の病棟経験月数はBL期と比較してS期,I期では差を認めなかったが,FU期では有意に短かった(P = .008).
(2) 看護師のフィードバック行動(表2)患者の判断の総必要場面数に対する看護師のFB行動の総実行数の割合(以下,FB行動実行率)は,BL期の15.7%に比較し,S期に44.7%,I期に50.4%,FU期に49.5%と推移した(p < .001).調整済み標準化残差は,BL期が–6.9であったが,S期では1.8とプラスの方向に変化し,I期以降は2.0以上となり有意に実行率が高くなった.看護師のFB行動の総実行数に対するFB行動の総適正数の割合(以下,FB行動適正率)は順に37.5%,41.8%,78.0%,74.0%と推移した(p < .001).調整済み標準化残差は,BL期は–2.5,S期も–3.5であったが,FB行動実行率と同様に,I期・FU期では2.0以上となり有意に高かった.
| BL期(12週間) | S期(19週間) | I期(15週間) | FU期(6週間) | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 患者の判断の総必要場面数 | 153 | 123 | 117 | 101 | ||
| リーダーの分化強化 | 総実行数 | 26 | ||||
| 実行率(%) | 44.1 | |||||
| 総適正数 | 17 | |||||
| 適正率(%) | 65.4 | |||||
| 看護師のフィードバック行動 | 総実行数 | 24 | 55 | 59 | 50 | <.001 |
| 総非実行数 | 129 | 68 | 58 | 51 | ||
| 実行率(%) | 15.7 | 44.7 | 50.4 | 49.5 | ||
| 調整済み標準化残差 | –6.9 | 1.8 | 3.2 | 2.7 | ||
| 総適正数 | 9 | 23 | 46 | 37 | <.001 | |
| 総不適正数 | 15 | 32 | 13 | 13 | ||
| 適正率(%) | 37.5 | 41.8 | 78.0 | 74.0 | ||
| 調整済み標準化残差 | –2.5 | –3.5 | 3.2 | 2.2 | ||
| 患者の判断 | 総実行数 | 110 | 84 | 95 | 82 | .042 |
| 総非実行数 | 43 | 39 | 22 | 19 | ||
| 実行率(%) | 71.9 | 68.3 | 81.2 | 81.2 | ||
| 調整済み標準化残差 | –1.1 | –2.0 | 1.7 | 1.6 | ||
| 総適正数 | 43 | 40 | 66 | 60 | <.001 | |
| 総不適正数 | 67 | 44 | 29 | 22 | ||
| 適正率(%) | 39.1 | 47.6 | 69.5 | 73.2 | ||
| 調整済み標準化残差 | –4.3 | –1.8 | 3.0 | 3.5 |
注1)BL期はBase Line期を,S期はStandard-care期を,I期はIntervention期を,FU期はFollow-up期を示す.
注2)p値はχ2検定を示す.
注3)リーダーの分化強化実行率とは,I期における看護師のフィードバック行動総実行回数に対するリーダーの分化強化総実行数の割合である.
注4)リーダーの分化強化適正率とは,I期におけるリーダーの分化強化行動総実行回数のうちリーダーの分化強化総適正数の割合である.
注5)看護師のフィードバック行動実行率とは,各期における患者の判断の総必要場面数に対する看護師のフィードバック行動総実行数の割合である.
注6)看護師のフィードバック行動適正率とは,看護師のフィードバック行動総実行数のうち看護師のフィードバック行動総適正数の割合である.
注7)患者の判断実行率とは,各期における患者の判断の総必要場面数に対する患者の判断総実行数の割合である.
注8)患者の判断適正率とは,患者の判断総実行数のうち患者の判断総適正数の割合である.
患者の判断の総必要場面数に対する患者の判断の総実行数の割合(以下,判断実行率)はBL期,S期,I期,FU期の順に,71.9%,68.3%,81.2%,81.2%(p = .042)と推移し,調整済み標準化残差は,BL期で–1.1,S期で–2.0であったが,I期に1.7とプラス方向に転じ,FU期でも維持された.また,患者の判断の総実行数に対する判断の総適正数の割合(以下,判断適正率)は順に,39.1%,47.6%,69.5%,73.2%(p < .001)と推移した.調整済み標準化残差は,BL期で–4.3,S期も–1.8であったが,I期以後は2.0以上となり,有意に判断適正率が高かった.
2. プログラム新規導入の病院B 1) 運用システムの実働状況リーダーは合計5名であり,属性は表3に示した.S期開始時に,クリニカルパスに胃切プログラムの実施時期が記載され,さらに看護師のFB行動の実施予定が記載された.また,リーダーが胃切プログラム対象者リストを作成し,各リーダーはその患者を受け持つ看護師をリストアップして,確実に分化強化を実施する仕組みが設定された.リーダーの分化強化実行率は75.6%(65回),分化強化適正率は64.6%(42回)であった.
| S期(24週間) | I期(20週間) | FU期(8週間) | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| リーダー | 人数 | 5 | |||
| 性別【男/女】(人) | 0/5 | ||||
| 年齢(歳) | 39.0 ± 4.6 | ||||
| 看護師経験年数(年) | 17.0 ± 4.6 | ||||
| 病棟経験月数(月) | 41.7 ± 36.9 | ||||
| 看護師 | 人数 | 28 | 19 | 17 | |
| 性別【男/女】(人) | 3/25 | 1/18 | 1/16 | .746a | |
| 年齢(歳) | 28.7 ± 10.5 | 30.0 ± 8.7 | 31.6 ± 9.3 | .890b | |
| 看護師経験年数(年) | 7.5 ± 7.8 | 7.8 ± 7.8 | 9.6 ± 8.7 | .839b | |
| 病棟経験月数(月) | 24.7 ± 24.1 | 18.6 ± 26.7 | 13.5 ± 14.5 | .338b | |
| 患者 | 人数 | 14 | 13 | 6 | |
| 性別【男/女】(人) | 11/3 | 8/5 | 3/3 | .407a | |
| 年齢(歳) | 68.2 ± 8.7 | 63.2 ± 13.4 | 69.3 ± 15.5 | .455b | |
| 術後在院日数(日) | 13.6 ± 4.7 | 13.6 ± 7.0 | 18.3 ± 15.1 | .449b | |
| 術後経口摂取開始日(日) | 5.3 ± 1.4 | 5.1 ± 1.4 | 5.1 ± 1.9 | .938b |
注1)S期はStandard-care期を,I期はIntervention期を,FU期はFollow-up期を示す.
注2)p値のaはχ2検定,bは一元配置分散分析を示す.
注3)人数・性別以外は(平均値±標準偏差)で示す.
看護師数はS期,I期,FU期の順に28名,19名,17名(総数34名),患者数は順に14名,13名,6名であり,その他の属性は表3に示す.各期の対象の属性に偏りは認められなかった.
(2) 看護師のフィードバック行動(表4)看護師のFB行動実行率は,S期から87.9%と高値を示し,I期は92.5%,FU期は89.7%と高値であり,有意差を認めなかった(p = .567).FB行動適正率は順に,58.6%,70.9%,62.9%(p = .234)と推移し,有意差を認めなかった.
| S期(24週間) | I期(20週間) | FU期(8週間) | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 患者の判断の総必要場面数 | 99 | 93 | 39 | ||
| リーダーの分化強化 | 総実行数 | 65 | |||
| 実行率(%) | 75.6 | ||||
| 総適正数 | 42 | ||||
| 適正率(%) | 64.6 | ||||
| 看護師のフィードバック 行動 | 総実行数 | 87 | 86 | 35 | .567 |
| 総非実行数 | 12 | 7 | 4 | ||
| 実行率(%) | 87.9 | 92.5 | 89.7 | ||
| 総適正数 | 51 | 61 | 22 | .234 | |
| 総不適正数 | 36 | 25 | 13 | ||
| 適正率(%) | 58.6 | 70.9 | 62.9 | ||
| 患者の判断 | 総実行数 | 89 | 91 | 36 | .078 |
| 総非実行数 | 10 | 2 | 3 | ||
| 実行率(%) | 89.9 | 97.8 | 92.3 | ||
| 総適正数 | 54 | 68 | 22 | .100 | |
| 総不適正数 | 35 | 23 | 14 | ||
| 適正率(%) | 60.7 | 74.7 | 61.1 |
注1)S期はStandard-care期を,I期はIntervention期を,FU期はFollow-up期を示す.
注2)p値はχ2検定を示す.
注3)リーダーの分化強化実行率とは,I期における看護師のフィードバック行動総実行回数に対するリーダーの分化強化総実行数の割合である.
注4)リーダーの分化強化適正率とは,I期におけるリーダーの分化強化行動総実行回数のうちリーダーの分化強化総適正数の割合である.
注5)看護師のフィードバック行動実行率とは,各期における患者の判断の総必要場面数に対する看護師のフィードバック行動総実行数の割合である.
注6)看護師のフィードバック行動適正率とは,看護師のフィードバック行動総実行数のうち看護師のフィードバック行動総適正数の割合である.
注7)患者の判断実行率とは,各期における患者の判断の総必要場面数に対する患者の判断総実行数の割合である.
注8)患者の判断適正率とは,患者の判断総実行数のうち患者の判断総適正数の割合である.
患者の判断実行率はS期,I期,FU期の順に89.9%,97.8%,92.3%(p = .078),判断適正率は60.7%,74.7%,61.1%(p = .100)と推移し,判断実行率・判断適正率は共に有意差を認めなかった.
本研究は,患者のセルフマネジメントプログラムとしての胃切プログラムに運用システムを組み込み,リーダーの分化強化が看護師の適正な援助行動を増加させ,患者の適正な判断も増加させるかを検討するものである.本研究で機能した介入条件は,胃切プログラムに関する研修会の実施と運用システムであるリーダーの適正な分化強化である.
1. 胃切プログラムに関する研修会の効果BL期とS期の間(病院BではS期の前)に実施された看護師への胃切プログラムに関する研修会は,看護師のFB行動実行率を病院Aで15.7%から44.7%へ有意に増加させ,病院Bで87.9%の実行率を示し,看護師のFB行動実行率を増加させる効果が確認された.病院Aでは従来から胃切プログラムが導入されていたが,研修によってプログラムが再び機能し始めたことが確認された.また,病院Bでは初めてのプログラムの導入であり,プログラムの研修会が介入条件となったことが考えられる.
2. リーダーの適正な分化強化の実施状況リーダーの分化強化適正率については,両病院のリーダー共に約65%であり,誤った分化強化も実施されていた.リーダーの人数は,病院Aは3名,病院Bは5名であり,リーダーの分化強化適正率は,リーダー全員の分化強化総実行数に対する適正な分化強化であった総数であるため,個人に起因するかどうかは明確ではない.ただし,リーダーの病棟経験月数や胃切プログラムに関する理解状況が影響していることが考えられる.
3. 運用システムとしてのリーダーの分化強化の効果リーダーの分化強化による効果について検討した.病院Aでは,看護師のFB行動実行率とFB行動適正率がS期からI期に有意に増加しFU期で維持されたことから,リーダーによる分化強化の効果が確認された.病院Bでは,新しいプログラムを導入したことそのものが介入条件となり,看護師のFB行動実行率がS期では87.9%と学習結果として「天井効果」を示し,リーダーの分化強化が加わるI期で92.5%と増加し,FU期まで維持された.一方,看護師のFB行動適正率は,I期に70.9%に増加し,FU期で62.9%に低下し,リーダーの分化強化があるときだけFB行動適正率が増加した.これらのことから,リーダーの分化強化は,看護師のFB行動実行率と適正率を共に増加させ,特にFB行動適正率を増加させる効果があると考える.これは,分化強化を行うと,適正な行動が増加するというこれまでの知見(山崎・山本,2012;小野,2012)を支持するものである.なお,FB行動適正率が病院AではFU期で維持され,病院Bで低下したことについては,両病院のプログラムの実践経験期間の差が影響し,病院BではFU期においても看護師がリーダーによる分化強化に依存していた可能性が考えられた.
両病院の環境として,クリニカルパスに胃切プログラムの実施時期が示されていたが,病院Bでは看護師のFB行動の実施予定も記載され,さらにリーダーによる分化強化対象患者のリストアップも実施されていた.これらによってリーダーの分化強化実行率やI期での看護師のFB行動実行率が,病院Aと比較して高くなったことが考えられる.
4. 看護師の適正なFB行動と患者の適正な判断の関係S期と比較しI期では,両病院ともに看護師のFB行動適正率,患者の判断適正率が増加した.これは,リーダーによる分化強化が看護師の適正なFB行動を増加させ,さらに患者が胃切プログラムのもとで適正に食事摂取量の判断ができたと考える.ただし,FU期で病院Aでは患者の判断の適正率が維持されたが,病院BではS期の値に減少した.これは,病院BではFU期における患者数が6名と少なく平均年齢が高いことが影響したと推察される.
5. 今後の課題看護師のFB行動適正率を増加させるためには,リーダーの適正な分化強化を増加させることが必要である.そのためには,リーダーのセルフマネジメントプログラムそのものに対する理解を高めることが必要であり,確立操作として,リーダーに対する研修会に事例を用いた演習・理解度の評価を取り入れることや,リーダーの人数を確保することが重要な方策となる.また,看護師によるFB行動実行率を高めるために,病院Bで実施された方策として,患者のクリニカルパスに看護師のFB行動の実施予定日を示すこと,リーダーが分化強化の対象となる看護師をリストアップして把握することが考えられる.
セルフマネジメントプログラムにおけるターゲット行動を確定することができれば,本運用システムを組み込むことで患者のセルフマネジメント行動を増加させることができると考える.
分化強化を基盤とした運用システムは,看護師のセルフマネジメントプログラムに基づく適正な援助行動を増加させ,患者の適正な判断を増加させる効果が確認された.
付記:本研究は,愛知県立大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様,並びに研究実施施設の看護部長様,病棟の看護師長様・看護課長様に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:CFは研究の着想及びデザイン,データ収集,分析,解釈,草稿の作成を行い,YK・JFは研究のデザイン,分析,解釈,研究プロセス全体に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.