2023 Volume 43 Pages 18-27
目的:性暴力被害直後の女性が産婦人科医療を受診した際に求められる看護実践能力を明らかにする.
方法:性暴力被害女性,支援経験のある看護職者,産婦人科医,支援員ら合計21名に半構造化面接にてデータを収集し,質的記述的に分析した.
結果:求められる看護実践能力は,【支援者としての準備】を基盤とし,自身の安全が著しく脅かされた性暴力被害女性への【被害者の安全・安心を守るための対応】であり,【被害者への法医学的なアセスメントとケア】とともに【被害者の回復を見据えた支援】を実践する能力であった.被害者支援における支援者自身のセルフケアと自己研鑽として【支援者自身を支える手立て】も求められていた.
結論:求められる看護実践能力は,性暴力の専門的な知識や技術を身に付け,トラウマの影響に配慮した被害者中心の支援を実践するためのものであり,被害者の回復を支援することが示唆された.
Purpose: This study aims to identify the nursing competencies required in supporting female victims of sexual violence who visit obstetrics and gynecology clinics immediately after the occurrence.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with a total of 21 female victims of sexual violence, nurses with support experience, obstetricians and gynecologists, and support staff. The interview data were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: Nursing competencies required in caring for female victims of sexual violence feeling their own security seriously threatened were based on ‘preparation as a supporter’, and included the following skills: ‘responding to protect the safety and security of victims’, ‘forensic assessment and care for victims’, and ‘providing support with a view to the recovery of victims’. Nurses were also required to have the competence to take ‘measures to support themselves’ as self-care and self-improvement to support victims.
Conclusions: The aim of the required nursing competencies was to acquire specialized knowledge and skills related to dealing with sexual violence, and to practice victim-centered support while paying attention to the effects of trauma. The findings suggest that these nursing skills enable nurses to support the recovery of victims.
女性への暴力は重大な人権侵害かつ世界的な公衆衛生上の問題であり(World Health Organization & London School of Hygiene and Tropical Medicine, 2010),性暴力の根絶には未然に防ぐ一次予防,被害者への迅速な対応アプローチである二次予防,被害者の回復と社会復帰へのアプローチである三次予防が必要になる(Dahlberg & Krug, 2006).
特に,医療には二次予防の役割が求められている.北米では,1970年以降,性暴力被害者に対して専門的なトレーニングを積んだ性暴力対応看護師(Sexual Assault Nurse Examiner,以下SANE)による被害後の速やかな対応が普及していった.その成果として,看護職者による性暴力被害者対応のための研鑽および実践の蓄積は評価され,専門性を担保するための教育内容やシステムの充実が図られ,SANEは二次予防に貢献している.
日本では2000年から特定非営利活動法人女性の安全と健康のための支援教育センターが,SANE養成や支援者養成の研修を始め,被害者中心の総合的な支援を展開する諸外国の実践例を紹介していった.しかし,性暴力被害者支援は進んでいない現状がある.20歳以上の被害女性だけでも無理やりに性交等された被害経験は6.9%と報告され(内閣府男女共同参画局,2020a)ており,延べ370万人以上いると推測される.加えて,被害を受けた女性の6割はどこにも相談しておらず,被害の潜在化が問題である.相談しない理由としては「恥ずかしくてだれにも言えなかった」が最多であり,支援体制の充実は喫緊の課題である.被害の潜在化の原因には,社会における性暴力被害に関する誤解や偏見,誤った理解,被害者支援の欠如があげられる.性暴力被害者に必要な対応が実践できる専門家による支援が必要とされ,性暴力被害者支援への看護職者の参画の必要性(福本ら,2015)や医療機関における被害者対応に関する事例報告が散見されるようになってきている.北米では,SANEが主に救急外来で24時間対応し,被害者の診察および検査,証拠採取を実施しており役割が明確になっている.日本では女性被害者の対応は産婦人科医療が担い,産婦人科医師による性犯罪被害者対応マニュアル(日本産婦人科医会,2008)が作成され,診察や検査が実施されている.その際に看護職者との協働は必須であり,現状の支援体制における看護職者の役割を明確にし,被害者中心の看護実践モデルの構築が望まれる.
Meijel et al.(2004),真嶋ら(2011)の看護実践モデル開発の手法は,根拠に基づいた看護介入の開発と評価に実績があり有用性が高い.特徴として看護介入ニーズの把握からモデル構築につなげるためのプロセスを持つ.ニーズを把握するための手法には帰納的抽出方法があり,新たな分野を開拓する際に関連領域の職種等からの幅広いヒアリング方法によるニーズ把握に用いられている(林ら,2008;日本看護協会,2016).当事者ニーズをケアに反映させる必要性(川西ら,2015)も論じられている.以上のことから,性暴力被害女性への看護実践モデル構築には,まず看護介入ニーズについて被害者自身のみならず支援に関わる多職種から把握することが必要であると考えた.
そこで,本研究は,被害直後の産婦人科医療における性暴力被害女性支援に求められる看護実践能力を明らかにすることを目的とする.実践能力の明確化は,看護実践モデルを導き出す質的メタ統合において重要なデータとなり,性暴力被害者支援における看護実践への示唆を得ることができる.
質的帰納的研究デザインを用いた質的記述的研究である.
2. 用語の定義看護実践能力:看護における基本的な能力群である,知識・技能・姿勢能力(価値観)を統合し,対象者に関わることができる能力とする.
3. 研究協力者研究協力者は,性暴力被害後に産婦人科受診経験のある女性,性暴力被害者支援経験のある看護職者,産婦人科医,ワンストップ支援センター支援員(以下,支援員)とした.研究協力の依頼方法は,性暴力被害女性においては,「20歳以上であり,被害後に産婦人科医療を受診した経験がある」ことを条件とし,国内の性暴力被害者支援団体と自助グループの2カ所に研究協力依頼を行った.性暴力被害者支援経験のある看護職者と産婦人科医については,被害直後の暴力被害者支援に取り組んでいる医療機関を医中誌または専門雑誌等より抽出できた5カ所に研究協力依頼を行った.研究協力が得られた3カ所の医療機関において協力者を公募した.支援員は,性暴力被害者支援に取り組んでいるワンストップ支援センターを検索し,3カ所に研究協力依頼を行った.研究協力の得られた2カ所の支援員を対象に公募した.
4. データ収集データ収集期間は,2014年3月20日~2017年7月6日であった.研究協力者には,半構造化面接を行い,本人の承諾を得てICレコーダーにて録音した.データ収集期間が長期に渡った理由は,まず当事者データの分析を進め,さらに医療者の公募に時間を要したためである.
性暴力被害女性には,被害直後の産婦人科医療受診時の経験,必要であると考える支援について,性暴力被害者支援経験のある看護職者には,被害直後の性暴力被害者への具体的な看護ケアと支援の経験について,産婦人科医師と支援員には,性暴力被害者支援の経験や具体的支援内容,看護職者に求める役割についてガイドを作成し,半構造化面接を行った.インタビュアーは質的研究に取り組んできた経験がある研究者1名であり,インタビュー方法や分析方法のトレーニングを重ねてきた背景がある.インタビューガイドは性暴力被害者支援の研究実績のある研究者と内容を確認し実施した.
5. データ分析半構造化面接データから逐語録を作成し谷津(2011)の分析手順に沿って行った.第1段階として洗い出し段階のコード化,第2段階としてまとめ上げ段階のサブカテゴリの作成,第3段階としてカテゴリの作成を行った.最終的にカテゴリからコアカテゴリを生成した.データ分析は「性暴力被害者支援における看護実践と求められる看護職者の役割」に焦点を当て,生データを精読し関連個所を抽出し分析を行った.
6. 真実性と信頼性の確保本研究における真実性の確保として,データを逐語化する際に忠実にデータから起こせるように注意した.加えて,各分析段階で質的研究の実績がある研究者1名と相互確認を行い,データに基づいた結果について検討を重ね信頼性を担保した.
7. 倫理的配慮本研究は,性暴力被害後の医療機関受診時についての面接のため,研究協力者の心理的負担が予測された.そのため性暴力被害者支援の実績のある心理カウンセラーにスーパーバイスを依頼し,研究者の面接に臨む姿勢を確認した.面接ガイドに沿いながら傾聴し,二次被害につながるような対応に注意を払った.被害女性の研究協力者は,支援団体または自助グループに参加し,体験を他者と語り合える者を対象とした.研究協力者には,自由意思による参加と研究途中における辞退を保証した.東京有明医療大学倫理審査委員会(承認番号:71)と茨城県立医療大学研究倫理委員会(承認番号:667/e97)の承認を得て実施した.
研究協力者は,自助グループに参加する性暴力被害後に産婦人科受診の経験のある女性6名,性暴力被害者支援経験のある看護職者6名,産婦人科医師4名,支援員3名,被害者支援に携わる医療ソーシャルワーカー(以下MSW)2名の合計21名であった.看護職者は全員,SANE研修修了者であった.性暴力被害女性の被害からの経験年数の平均は20.7年であった.看護職者および産婦人科医,支援員等の支援経験年数の平均は7.7年であった.1人当たりの面接所要時間は平均57 ± 12分であり,各々1回実施した.
協力者 | 年代 | 被害からの経過年数 | 支援経験年数 | SANE研修修了者 | |
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A | 性暴力被害女性 | 30歳代 | 19 | ||
B | 性暴力被害女性 | 40歳代 | 26 | ||
C | 性暴力被害女性 | 30歳代 | 17 | ||
D | 性暴力被害女性 | 30歳代 | 10 | ||
E | 性暴力被害女性 | 40歳代 | 30 | ||
F | 性暴力被害女性 | 30歳代 | 22 | ||
G | 助産師 | 40歳代 | 17 | * | |
H | 助産師 | 30歳代 | 10 | * | |
I | 看護師・教員 | 30歳代 | 1 | * | |
J | 看護師 | 40歳代 | 8 | * | |
K | 看護師 | 50歳代 | 1 | * | |
L | 助産師・教員 | 40歳代 | 2.7 | * | |
M | 産婦人科医師 | 50歳代 | 3 | ||
N | 産婦人科医師 | 40歳代 | 20 | ||
O | 産婦人科医師 | 40歳代 | 15 | ||
P | 産婦人科医師 | 40歳代 | 10 | * | |
Q | 支援員 | 50歳代 | 7 | * | |
R | 支援員 | 60歳代 | 1.5 | ||
S | 支援員 | 70歳代 | 13 | ||
T | 医療ソーシャルワーカー | 20歳代 | 3.4 | ||
U | 医療ソーシャルワーカー | 20歳代 | 3 |
分析の結果,5コアカテゴリと22カテゴリ,95サブカテゴリ,504コードが抽出された(表2).構成するコアカテゴリに【 】カテゴリに《 》,サブカテゴリに〈 〉,生データを「斜体」を用いて示す.生データにおける文脈の理解に必要な言葉は( )で補った.
コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|---|
支援者としての準備 | 性暴力の文脈に関する理解 | 性暴力・性犯罪とは何かを理解し医療現場の役割を理解する |
国内における性暴力・性犯罪の実態を理解する | ||
性暴力・性犯罪における国の政策や取組みを理解する | ||
性犯罪に関連した法律について理解する | ||
レイプ神話からの脱却 | 医療者自身が持つレイプ神話を顧み正しい認識を持つ | |
医療者自身がレイプ神話や被害者への偏見に囚われない | ||
影響力の自覚と回復への支援 | 被害者の回復にもさまざまなプロセスがあることを理解する | |
被害者への関わりで回復に効果的な対応を理解し実施する | ||
急性期からの適切な支援は被害者の回復過程に影響を与えることを理解して関わる | ||
急性期の関わりや言葉かけが回復に影響することを理解し対応する | ||
被害者の安全・安心を守るための対応 | トラウマの影響に配慮したケア | 急性ストレス障害(ASD)について理解する |
心的外傷後ストレス障害(PTSD)について理解する | ||
被害者へ被害早期に起こりえる症状や対応策を説明する | ||
被害者の様子を注意深く観察し解離症状の出現や感情麻痺という特徴的な症状を観察し支援する | ||
被害者の反応として理解力が低下している状態にあっても丁寧に説明する | ||
被害者に合わせた診察環境の整備 | 被害者の状況を確認し来院前に院内調整を行う | |
来院時間や方法について適切な助言を行い必要な場合は関係機関と連携を図る | ||
被害者の年齢や体格に配慮した診察環境を整える | ||
被害者のプライバシーを保障できるような環境調整を行う | ||
必要な物品,書類準備と診察介助 | 産婦人科診察の介助を行う | |
診察において必要な物品や書類を準備する | ||
診察に伴う被害者への負担に配慮した対応 | 産婦人科医と協働し被害者への負担に配慮した診察介助を行う | |
被害後の産婦人科診察における内診などの挿入行為がフラッシュバックを引き起こすトリガーに成りうることを理解し注意して関わる | ||
診察時の安心感につながる対応 | 内診台での診察の際に生じる得る苦痛や緊張に対して理解し和らげる対応をする | |
内診台での診察における羞恥心に配慮する | ||
被害者の気持ちに共感的態度を示す | ||
孤独感を抱かせない対応をする | ||
被害者の診察への不安や質問に対して丁寧に説明する | ||
被害者への法医学的なアセスメントとケア | 被害によるリスクのアセスメント | 被害状況について情報収集する |
被害者への問診を実施し必要な情報を得る | ||
被害によって生じ得る身体的影響をアセスメントする | ||
被害によって生じ得る精神的影響をアセスメントする | ||
既往歴,妊娠・月経・性交歴,避妊法などの産婦人科に関連した情報収集しアセスメントする | ||
全身観察を行い身体外傷の有無をアセスメントする | ||
被害状況とリスクに応じた検査・治療についての説明 | 被害者の状況に応じた適切な看護診断を行う | |
被害者の状況に応じた検査・治療を理解し説明する | ||
性感染症の検査方法や時期・治療や予防について理解し説明する | ||
妊娠のリスクを判断し必要な検査について説明する | ||
緊急避妊ピルについて知識を持ち説明する | ||
証拠採取の実施可能時期を理解し説明する | ||
提供できる診察や検査・治療について説明する | ||
適切な証拠採取 | レイプキット(性被害証拠採取検査セット)の正確な使用方法および使用上の注意点が分かる | |
証拠採取資料(検体)の取り扱い保存方法について理解する | ||
適切な証拠採取の方法について理解する | ||
体表面の証拠採取をする | ||
体内(口腔・膣・肛門)における証拠採取をする | ||
証拠保全のための写真撮影 | 受傷がある場合は適確な写真撮影と保存をする | |
記録作成と説明 | 被害者に実施した証拠採取資料(検体)について被害者に説明する | |
被害者に実施した証拠採取資料(検体)について記録する | ||
身体損傷検査の観察結果を正確に記録する | ||
カルテ・ケース記録を作成する | ||
刑事手続きの流れを理解し求められた際は説明する | ||
被害者の回復を見据えた支援 | 二次被害の防止 | 無理強いしない対応をする |
被害を彷彿とさせない対応をする | ||
被害者と医療者の対等性を意識し対応する | ||
異性の医療者が対応する際は配慮ある対応をする | ||
マニュアル対応ではない被害者の状態に合わせた対応をする | ||
被害者への偏見を持たない対応をする | ||
被害者を責めない対応をする | ||
「あなたは悪くない」を言葉や態度で表し被害者に伝える | ||
被害者の自己決定を支える | 正確な情報提供と選択肢の提示をする | |
選択肢には「被害者が拒否できる」ことも含めて提示する | ||
期限がある検査はその旨を伝え被害者の自己決定を支える | ||
被害者の受診目的を確認する | ||
説明等に対して被害者の理解が不十分な場合は補足し理解を促す | ||
被害者の理解を促進するために説明方法(紙媒体等の使用)を工夫する | ||
被害者の意思や希望を確認しながら尊重できる | ||
自分(支援者)の価値観を押し付けない対応をする | ||
被害者自身が診察結果や実施した検査・証拠採取について理解できるように説明する | ||
フォローアップ計画と実施 | 被害者の状態に合わせ帰宅後に必要な支援先をアセスメントする | |
フォローアップ計画を立案し関係機関と連携する | ||
帰宅場所・方法について情報収集し適切な支援をする | ||
費用面の説明 | 診察費用の支払方法や費用負担制度を理解し説明する | |
重要他者(キーパーソン)を含めたケア | 被害者家族等に起こりえる混乱や症状について理解する | |
重要他者(キーパーソン)は被害者の回復を助ける大事な存在であることを理解する | ||
被害者の家族関係を把握し重要他者(キーパーソン)を把握する | ||
被害者の家族以外の重要他者(キーパーソン)との繋がりや関係性を把握する | ||
被害者の重要他者(キーパーソン)にも支援と情報提供を行う | ||
多機関との情報共有と連携 | 警察と連携しながら被害者に関わる | |
支援センターの支援員と連携しながら被害者に関わる | ||
他科(精神科等)と連携しながら被害者に関わる | ||
弁護士と連携しながら被害者と関わる | ||
多機関と定期的に連携体制について話し合いの機会を持つ | ||
多機関連携においてリーダーシップを発揮する | ||
多機関連携においてコーディネーターの役割を担う | ||
支援者自身を支える手立て | 1人で抱え込まない体制作り | 看護職者自身が被害者支援において抱く思いや感情に気付く |
看護職者自身の思いやネガティブな感情も吐露できる場を作る | ||
支援を抱え込まず仲間で関わる体制を作る | ||
仕事以外の日常生活でリフレッシュをする機会を作る | ||
振り返りの機会を持つ | 仲間と支援における実践を共有し被害者への看護ケアを振り返る | |
性暴力被害者の声に耳を傾け支援のあり方を振り返る姿勢を持つ | ||
支援実践の共有と発展 | 回復過程を考慮した言葉かけや対応を学び実践する | |
定期的に研修会等に参加し被害者支援について知識や技術を高める | ||
被害者支援の実践や取組みを関連学会等で発表する | ||
連携先や被害者支援に関わる看護職者や医師とカンファレンスを行う |
このコアカテゴリは,3つのカテゴリから構成された.
《性暴力の文脈に関する理解》は,国内における性暴力を取り巻く事象を包括的に理解することであり,〈性暴力・性犯罪とは何かを理解し医療現場の役割を理解する〉と〈国内における性暴力・性犯罪の実態を理解する〉に加え,〈性暴力・性犯罪における国の政策や取組みを理解する〉,〈性犯罪に関連した法律について理解する〉から構成された.
《レイプ神話からの脱却》は,レイプ神話といった性暴力の被害者と加害者に対する文化的なステレオタイプから脱却することであり,〈医療者自身が持つレイプ神話を顧み正しい認識を持つ〉と〈医療者自身がレイプ神話や被害者への偏見に囚われない〉から構成された.
「(受診した被害者に対して)明らかな疑い『被害は無かったでしょう』みたいな,『酒に酔ってたあんたが悪いじゃん』みたいな,いわゆる強姦神話みたいなのがベースにあって,そういう思いのスタッフが対応しているのと,そうじゃない人が対応するのでは結果は同じだったのかなぁって.それぐらい(対応の)質が一定していない.看護職-G」
《影響力の自覚と回復への支援》は,支援者の対応が被害者の回復に影響を与えることを自覚した対応であり,〈被害者の回復にもさまざまなプロセスがあることを理解する〉と〈被害者への関わりで回復に効果的な対応を理解し実施する〉,〈急性期からの適切な支援は被害者の回復過程に影響を与えることを理解して関わる〉,〈急性期の関わりや言葉かけが回復に影響することを理解し対応する〉から構成された.
「すごい心が傷ついた人間が最初に出会う人が警察官だったり,看護師さんだったりするわけじゃないですか.だからあの傷つけられた心が最初に出会う人間がそういう本当に助けるべき被害者を助けられるべき専門的な立ち位置の人だったらその人たちこそが本当に被害者の人たちのその後の人生を左右すると思うんですよね.被害女性-C」
2) 【被害者の安全・安心を守るための対応】このコアカテゴリは,5つのカテゴリから構成された.
《トラウマの影響に配慮したケア》は,性暴力というトラウマ体験が被害者にもたらす影響を理解し被害者の状況に適した対応をすることであり,トラウマがもたらす反応を理解する〈急性ストレス障害(ASD)について理解する〉,〈心的外傷後ストレス障害(PTSD)について理解する〉と,〈被害者へ被害早期に起こりえる症状や対応策を説明する〉,〈被害者の様子を注意深く観察し解離症状の出現や感情麻痺という特徴的な症状を観察し支援する〉と,トラウマ体験後に起こり得る症状を理解した対応の〈被害者の反応として理解力が低下している状態にあっても丁寧に説明する〉から構成された.
「顔の表情が一番かなと思います.身体的な仕草は分かりますが,顔の表情はいまここに存在しているか,していないかという表情の読み取り.基本はのっぺらぼうですよね.表情をあまり変えない,泣かない,笑わない,無表情のまま『うん,うん』って首を振って,一般患者さんとはちょっと違うなぁっていう.看護職-C」
《被害者に合わせた診察環境の整備》は,被害者が安全に診察を受けるための環境を整えることである.来院前の支援調整として〈被害者の状況を確認し来院前に院内調整を行う〉,〈来院時間や方法について適切な助言を行い必要な場合は関係機関と連携を図る〉対応が求められ,診察環境の整備として〈被害者の年齢や体格に配慮した診察環境を整える〉,〈被害者のプライバシーを保障できるような環境調整を行う〉から構成された.
〈産婦人科診察の介助を行う〉と〈診察において必要な物品や書類を準備する〉から構成される《必要な物品,書類準備と診察介助》とともに,《診察に伴う被害者への負担に配慮した対応》である〈産婦人科医と協働し被害者への負担に配慮した診察介助を行う〉,〈被害後の産婦人科診察における内診などの挿入行為がフラッシュバックを引き起こすトリガーに成りうることを理解し注意して関わる〉ことが必要であり,〈内診台での診察の際に生じる得る苦痛や緊張に対して理解し和らげる対応をする〉,〈内診台での診察における羞恥心に配慮する〉,〈被害者の気持ちに共感的態度を示す〉,〈孤独感を抱かせない対応をする〉,〈被害者の診察への不安や質問に対して丁寧に説明する〉からなる《診察時の安心感につながる対応》によって構成された.
「やっぱりカーテン越しの器具の音がめっちゃ怖いんです私.カチャカチャ言われたらなんか見たことない自分がびっくりして,力抜いてって言われると入れているつもりないんですけど.~中略~本当にひざ掛けとかぎりぎりまで看護師さんがしてくれるので.本当に最低限だけ見せるのは.(器具が)見えたら見えたで怖いのでしょうけどいったい何を入れられてどんなものやっているのかな,音が痛いんですよ.被害女性-D」
「(看護師は被害者の)横にいますよね,真横に.やっぱり傍に立って.だから分かる範囲で,カーテン越しであれば分かる範囲で『次,何しているよ,これするよ』っていうような,次何するんやろうという不安を解消できているのかなぁと思います.看護職-J」
3) 【被害者への法医学的なアセスメントとケア】このコアカテゴリは,5つのカテゴリから構成された.
《被害によるリスクのアセスメント》は,〈被害状況について情報収集する〉,〈被害者への問診を実施し必要な情報を得る〉,〈被害によって生じ得る身体的影響をアセスメントする〉,〈被害によって生じ得る精神的影響をアセスメントする〉,〈既往歴,妊娠・月経・性交歴,避妊法などの産婦人科に関連した情報収集しアセスメントする〉,〈全身観察を行い身体外傷の有無をアセスメントする〉からなり,被害状況を踏まえた被害者のリスクアセスメントに基づく支援計画を被害者と共有することである《被害状況とリスクに応じた検査・治療についての説明》に続いていた.具体的に,〈被害者の状況に応じた適切な看護診断を行う〉,〈被害者の状況に応じた検査・治療を理解し説明する〉,〈性感染症の検査方法や時期・治療や予防について理解し説明する〉,〈妊娠のリスクを判断し必要な検査について説明する〉,〈緊急避妊ピルについて知識を持ち説明する〉,〈証拠採取の実施可能時期を理解し説明する〉,〈提供できる診察や検査・治療について説明する〉から構成されていた.
「もちろん緊急避妊だけじゃないですけど,証拠を採る上でもやっぱり72時間.今できることを,あなたが後悔しないために今やっておいたほうがいいということをいかに分かってもらうかっていうか,そういうことが急性期には求められているのかなって思って.看護職-I」
《適切な証拠採取》は〈レイプキット(性被害証拠採取検査セット)の正確な使用方法および使用上の注意点が分かる〉,〈証拠採取資料(検体)の取り扱い保存方法について理解する〉,〈適切な証拠採取の方法について理解する〉,〈体表面の証拠採取をする〉,〈体内(口腔・膣・肛門)における証拠採取をする〉から構成され,〈受傷がある場合は適確な写真撮影と保存をする〉の《証拠保全のための写真撮影》とともに,《記録作成と説明》としての〈被害者に実施した証拠採取資料(検体)について被害者に説明する〉,〈被害者に実施した証拠採取資料(検体)について記録する〉,〈身体損傷検査の観察結果を正確に記録する〉,〈カルテ・ケース記録を作成する〉,〈刑事手続きの流れを理解し求められた際は説明する〉から構成され,性犯罪の証拠となる体液の採取や外傷の証拠保全,正確な記録作成と実施内容の被害者への説明する能力が求められていた.
「基本的には警察がレイプキットをもってくるので.看護師として被害内容によって,これから診察にあたる上でどこまで診察すればいいかとか,どの辺りの証拠を採ればいいのかっていうことを把握して,診察すること,病院でできること,薬出したり検査についてって説明して,診察の介助につくって感じになります.看護職-E」
「こういう証拠採取を私たち(産婦人科医師)がやるしかない現状なのであれば,医者がもうちょっと積極的に関わらない限り,それをやる施設も増えないし,じゃ,それは,ナースでも大丈夫というような,全然問題ないんだということができれば.医師-M」
4) 【被害者の回復を見据えた支援】このコアカテゴリは,6つのカテゴリから構成された.
《二次被害の防止》は,加害者と被害者の間に生まれるパワーバランスや被害そのもの再体験に繋がる対応を意識しながら配慮ある対応であり,〈無理強いしない対応をする〉,被害体験に配慮した〈被害を彷彿とさせない対応をする〉,〈被害者と医療者の対等性を意識し対応する〉,〈異性の医療者が対応する際は配慮ある対応をする〉と,被害者の状態に則した対応として〈マニュアル対応ではない被害者の状態に合わせた対応をする〉,〈被害者への偏見を持たない対応をする〉とともに,被害女性の抱く自責への対応である〈被害者を責めない対応をする〉,〈「あなたは悪くない」を言葉や態度で表し被害者に伝える〉から構成された.
《被害者の自己決定を支える》は,被害者の状況に合った的確な選択肢の提示となる〈正確な情報提供と選択肢の提示をする〉,〈選択肢には「被害者が拒否できる」ことも含めて提示する〉,〈期限がある検査はその旨を伝え被害者の自己決定を支える〉,〈被害者の受診目的を確認する〉と,〈説明等に対して被害者の理解が不十分な場合は補足し理解を促す〉,〈被害者の理解を促進するために説明方法(紙媒体等の使用)を工夫する〉による被害者に必要な理解を促進するための対応があり,〈被害者の意思や希望を確認しながら尊重できる〉と〈自分(支援者)の価値観を押し付けない対応をする〉により被害者の意思を尊重する対応能力,〈被害者自身が診察結果や実施した検査・証拠採取について理解できるように説明する〉から構成され,被害者の自己決定プロセスに寄り添い支えることが必要とされていた.
「警察の人がこれとこれとか,おりもの取ってくださいとかいうのを一応先生に伝え,先生が『今警察でこういうものが必要と言われているんだけど,あなたはどうしたいですか』っていう確認は必ずしてからするので,勝手に写真も撮りませんし,おりものとか証拠採取とか,そういうのも絶対同意してから,医師が説明してやるという形とか.看護職-I」
《フォローアップ計画》は,〈被害者の状態に合わせ帰宅後に必要な支援先をアセスメントする〉,〈フォローアップ計画を立案し関係機関と連携する〉,〈帰宅場所・方法について情報収集し適切な支援をする〉から構成され,〈診察費用の支払方法や費用負担制度を理解し説明する〉の《費用面の説明》と,被害者の一番の身近な支援者となる重要他者への支援を行うことである《重要他者(キーパーソン)を含めたケア》として,〈被害者家族等に起こりえる混乱や症状について理解する〉,〈重要他者(キーパーソン)は被害者の回復を助ける大事な存在であることを理解する〉,〈被害者の家族関係を把握し重要他者(キーパーソン)を把握する〉,〈被害者の家族以外の重要他者(キーパーソン)との繋がりや関係性を把握する〉,〈被害者の重要他者(キーパーソン)にも支援と情報提供を行う〉から構成された.
「やっぱり大切なのは家族のケアじゃないかな.家族というか周辺人物.あのとき彼はものすごく私に適切な行動をとってあの限界まで面倒みてくれましたけど,それでも『あの時俺まだ何かできたかもしれないって』いう気持ちを持ち続けているんです.で,うちの親はすごい負い目みたいなものを感じていてうん.だから私にどう手出ししていいのか分からないみたいな感覚を持ってる.相手のことを大事に思っているほど周りが受けるダメージも甚大になる.被害女性-B」
《多機関との情報共有と連携》は,〈警察と連携しながら被害者に関わる〉,〈支援センターの支援員と連携しながら被害者に関わる〉,〈他科(精神科等)と連携しながら被害者に関わる〉,〈弁護士と連携しながら被害者と関わる〉の多機関との連携と,〈多機関と定期的に連携体制について話し合いの機会を持つ〉の連携における情報共有の機会や,〈多機関連携においてリーダーシップを発揮する〉と〈多機関連携においてコーディネーターの役割を担う〉から構成され,性暴力という犯罪でありかつトラウマの影響により中長期に渡り支援が必要になる被害者の支援体制を作り,被害者に必要な支援を提供するために協働する能力が求められていた.
5) 【支援者自身を支える手立て】このコアカテゴリは,3つのカテゴリから構成された.
《1人で抱え込まない体制作り》は,〈看護職者自身が被害者支援において抱く思いや感情に気付く〉,〈看護職者自身の思いやネガティブな感情も吐露できる場を作る〉,〈支援を抱え込まず仲間で関わる体制を作る〉,〈仕事以外の日常生活でリフレッシュをする機会を作る〉からなり,〈仲間と支援における実践を共有し被害者への看護ケアを振り返る〉と〈性暴力被害者の声に耳を傾け支援のあり方を振り返る姿勢を持つ〉の《振り返りの機会を持つ》から構成され,抱え込まない仲間との支援体制の構築や客観的に自分たちの実践を振り返る能力である.
「後で2人で,『今日の(被害者の)表情は何だったんだろう』っていうことは,やりとりはするんです.で,『あれは,この事件に対して何か思っていると思う.私たちに対して何か思っているんでしょうかね』っていう評価は2人で一応やりとりはする.看護職-K」
《支援実践の共有と発展》は,被害者支援のスキルアップにつながる〈回復過程を考慮した言葉かけや対応を学び実践する〉,〈定期的に研修会等に参加し被害者支援について知識や技術を高める〉と,実践を言語化し他者と共有する〈被害者支援の実践や取組みを関連学会等で発表する〉,〈連携先や被害者支援に関わる看護職者や医師とカンファレンスを行う〉から構成された.
被害直後の産婦人科医療における性暴力被害女性支援に求められる看護実践能力は,【支援者としての準備】を基盤とし,診察時の【被害の安全・安心を守るための対応】,【被害者の法医学的なアセスメントとケア】,【被害者の回復を見据えた支援】により産婦人科医療が担う急性期対応の役割を果たし,【支援者自身を支える手立て】としてセルフケアを発揮し専門性を高めるための能力であった.
International Association of Forensic NursesによるSANE教育ガイドライン(2018)では,SANEの主要コンピテンシーとして,『フォレンジック看護と性暴力の概要』,『被害者の反応と危機介入』,『地域機関との協働』,『性暴力に関する法医学的既往の聴取』,『身体的アセスメント』,『法医学的証拠採取』,『法医学的写真撮影』,『性感染症の検査と予防』,『妊娠リスク評価とケア』,『法医学関連書類の管理』,『帰宅/退院とフォローアップ計画』,『法廷での証言と法的検討事項』の12コンピテンシーが明記されている.SANEは,客観的な証拠採取および法医学的な検査に関する知識と性的暴行被害者の包括的な保健医療ニーズに関する知識を結びつける役割があり(Carter-Snell & Jakubec, 2013),この役割を果たすために12コンピテンシーが必要とされる.本研究結果と比較すると,被害者の安全・安心を守る対応,法医学的なアセスメント,回復を見据えた支援は類似しており,被害者のニーズに合わせた客観的な証拠採取や法医学的な対応が可能である看護実践能力が抽出されたと考えられる.一方,主な相違点として見出された看護実践能力は,内診台での診察環境の配慮や二次被害防止の具体的な能力である.看護職者は,証拠採取や検査を実施する立場になくとも被害女性が安全にかつ必要な診察や検査に臨めるように看護を展開し,被害女性への回復に焦点をあてた二次被害を予防しながら自己決定を支えるケアを実践していた.これらの被害者のニーズを受けとめ,被害者の責任を問うような行動をせずに,思いやりやを示し,検査について説明することは被害女性が求める質の高いサービスであり(Lechner et al., 2020),被害女性が求めるトラウマからの回復を支援できる可能性が高い看護実践と言える.
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターへの調査(内閣府男女参画局,2020b)の結果は,医療支援は累計で804件行われ,医療支援の内容は,「診察のみ」が403件で最も多く,次いで「性感染症検査」189件,「証拠採取・保管」74件,「緊急避妊」72件であった.これらの結果から,性被害後の急性期対応では証拠採取やリプロダクティブヘルスへの介入が重要な役割であると言え,本研究結果における被害状況のリスクアセスメントに基づいた看護実践能力はこれらの役割を果たす上で必要不可欠な能力である.
Ledray(2021)は,SANEは被害者の証拠採取を行い裁判になれば鑑定人として証言をすると述べており,SANEが被害者の証拠採取に全責任を負っていることが分かる.加えて,体液の証拠採取や生体の受傷記録は時間的な制約が生じるため,被害直後の診察において《適切な証拠採取》と《証拠保全のための写真撮影》の実践と責任を果たすことが必要になる.しかし,証拠採取における実践能力は「看護職者もできるようになるとよい」,「看護師職者ができるようになったら被害者支援が広がる」といったニーズが抽出されており,現時点での実践スキルには課題があると考えられた.『法的検討事項と訴訟手続き』は本研究結果からは見出されなかった能力である.この背景には日本における診察および診断書作成は医師が担っており,看護職者が被害者の検査や証拠採取,対応の責任を担っていない現状があると考えられた.以上のことから,国内における性暴力被害者支援において看護職者が担う役割については今後の検討課題である.
支援者が被害者の回復を支援するための実践が示され,【支援者としての準備】として《レイプ神話からの脱却》が看護師に求められていた.支援者の被害者へのスティグマやレイプ神話のような価値観に基づく対応は,二次被害に繋がり被害者の回復に影響を与えることが考えられ,支援者として被害者を支えるためには看護職者自身の性暴力への理解を深めていく必要がある.また,性被害は性犯罪でもあり,犯罪捜査機関である警察との連携が求められる.しかし,性被害の急性期対応における産婦人科医療の役割は,被害者の診察や治療,証拠採取を通して被害者の健康回復を支援することにあり,役割認識を明確にする必要がある.
加えて,トラウマケアの必要性が高いと考えられた.性暴力は,性的な暴力を用いて被害者を支配する行為であり,被害者は著しく安全を脅かされた体験をする.このような出来事は精神的衝撃を受けるトラウマ体験となりPTSDの原因になる.トラウマ体験後は,トラウマの記憶を繰り返し想起し,そのトラウマを思い出させる刺激を回避し,覚醒状態が亢進した症状が知られている.このようなトラウマ体験後に,産婦人科診察を受ける被害女性に対して,被害のフラッシュバックのトリガーになり得る内診を伴う診察時には,配慮ある《被害者に合わせた診察環境の整備》や《診察時の安心感につながる対応》が重要になる.特に被害直後は急性ストレス反応への理解も必要になる.被害者への無理解や配慮の無い対応は被害後の診察をネガティブな体験にする(家吉・加納,2018)ことから,被害者に起こりえるトラウマの影響に配慮した《被害者の自己決定を支える》実践能力は必要である.また,性暴力被害者の支援者は,被害者のトラウマ体験に触れることで二次的外傷性ストレスが生じトラウマを負うことがある(Raunick et al., 2015;Stamm, 1999/2007).看護職者自身の【支援者自身を支える手立て】は,セルフケアの実践であり,支援者同士で支え合い,実践を振り返り自己の研鑽を図るものであった.これらは,二次的外傷ストレスへの対応であり,この実践能力はトラウマケアに関わる支援者として,継続した質の高いケアを実践するために必要な能力である.
本研究から見出された看護実践能力は,性暴力被害女性のニーズに対応できる二次予防として適切なアプローチ方法であり,被害直後からの適切な支援によって被害者のその後の回復につながる三次予防に影響を与える能力と言える.
本研究結果は,被害直後に産婦人科医療を受診した性暴力被害女性への看護に求められる実践能力を抽出したものである.その為,男性被害者や他科を受診した被害者,未成年の被害者への支援における看護実践能力への応用や比較は出来ていない.本研究が抽出した性暴力被害女性支援における看護実践能力が臨床現場でどこまで実践可能なものであるのか検討する必要がある.
本研究で明らかになった性暴力被害女性支援のための看護実践能力は,産婦人受診経験のある被害女性だけでなく,現場で支援を実践する看護職,産婦人科医師,支援員,MSWの声から幅広く包括的に明示したものである.抽出されたサブカテゴリは具体的であり,今後の性暴力被害者支援における看護実践の指針になり得ると考える.本結果を基に被害者支援看護職者の教育や実践を評価していくことで,被害者への支援の質が向上することが期待できる.
付記:本研究は2019年度茨城県立医療大学大学院博士後期課程博士論文の一部を加筆・修正したものである.本論文の一部は,第4回,第5回日本フォレンジック看護学会学術集会において発表した.
謝辞・研究助成:本研究にご協力頂きました研究協力者の皆様に深く感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費25862210の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NIは,研究の着想・計画,データ収集・分析,草稿を作成した.NKは,計画,データ収集・分析,草稿に関する研究プロセス全体への助言を行った.著者全員が最終原稿を読み承認した.