日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
看護師が新型コロナウイルス感染症に罹患してから職場復帰を果たしたのちまでの経験
勝倉 恵津子落合 亮太青盛 真紀林 ゑり子髙橋 和彦西口 悦子玉井 奈緒
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 44 巻 p. 950-960

詳細
Abstract

目的:本研究は新型コロナウイルス感染症に罹患した看護師を対象に,罹患後から職場復帰を果たしたのちまでの経験を明らかにすることを目的とした.

方法:新型コロナウイルス感染症と診断された看護師14名を対象に半構造化面接を実施した.分析には質的内容分析を用い,オミクロン株流行前後での経験の特徴も検討した.

結果:感染症発症から隔離期間中の経験として,【防ぎようのない感染】【周囲からの支え】【周囲へ感染させる不安と恐怖】【隔離生活の辛さ】などの9カテゴリ,職場復帰後の経験として【復帰後も続く長引く症状】【長引く症状による業務への支障】などの7カテゴリが抽出された.オミクロン株流行前罹患群では,患者に感染させる恐怖に関する発言者数が多く,流行後罹患群では,感染を防ぎきれない思いに関する発言者数が多かった.

結論:本研究結果から,周囲の支え,本人に合わせた業務配分などの必要性が示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to elucidate the experiences of nurses diagnosed with coronavirus (COVID-19) disease, from the onset of the illness until their return to work.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 14 nurses diagnosed with COVID-19. We analyzed the data using qualitative content analysis and compared the differences in experiences before and after the Omicron outbreak.

Results: For experiences from the onset of infection to the isolation period, nine categories were extracted, including: “infections that cannot be prevented,” “support from peers,” “anxiety and fear of infecting others,” and “struggles with isolation.” For experiences related to return to work, seven categories were extracted, including: “persistent symptoms that continued after returning to work” and “difficulties in working due to lingering symptoms.” The pre-epidemic Omicron variant group expressed greater concerns about infecting patients, whereas the post-epidemic Omicron variant group predominantly expressed feelings of vulnerability despite precautionary measures.

Conclusion: The results of this study highlight the need for support from colleagues and the necessity for accommodating work arrangements tailored to the unique needs of affected nurses.

Ⅰ. 緒言

新型コロナウイルスは短期間で世界的に流行し,2020年1月に日本国内初の新型コロナウイルス感染者が確認された(厚生労働省,2020).全数把握が可能であった2023年5月7日時点までの累積陽性者数は3300万人,死亡者数は7万4千人を超えている(厚生労働省,2023a).2021年12月には,日本国内初のオミクロン株の感染者が確認され,2022年1月以降,従来のデルタ株からオミクロン株への入れ替わりが急速に進み(国立感染症研究所,2022a),第6波以降はオミクロン株が主流となった.

医療従事者は,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)患者と接する回数が多く,感染リスクが高い.スコットランドの医療従事者を対象としたコホート調査では,患者と直接接する医療従事者は,患者と直接接しない医療従事者と比較しCOVID-19に感染するハザード比が3.3であった(Shah et al., 2020).看護師は患者の最も身近にいてケアを行う医療従事者であるため感染のリスクが高く,看護師は医療従事者の中で陽性者の割合が最も高かったことが報告されている(Gómez-Ochoa et al., 2021).看護師がCOVID-19に罹患した場合,欠勤に伴うマンパワー不足に加え,クラスター発生時には新規入院の受け入れ停止になるなど,医療提供体制に影響を与える.また後遺症の問題も指摘されており,WHOはCOVID-19に罹患したのち少なくとも2か月以上継続する症状を「post COVID-19 condition」(以下,PCC)と称している(WHO, 2022).スウェーデンの先行研究では,新型コロナウイルス陽性者は,ワーク・ライフ・バランス,社会生活,家庭生活において2か月以上にわたり支障を生じたことが報告されている(Havervall et al., 2021).以上より,患者のケアに直接関わる看護師がCOVID-19に罹患した際に周囲に与える影響やPCCに伴う支障が生じていることが予測される.

看護師がCOVID-19に罹患した場合,身体的・心理的・社会的な苦悩や負担を感じながらも業務に従事してきたことが報告されている.中国武漢で隔離期間中の看護師9名を対象とした質的研究では,対象者は苦闘,恐れ,心配,抑うつ症状を生じていた(He et al., 2021).トルコにおける複数の先行研究では,対象者は診断時の恐怖や不安,死への恐怖,スティグマなどの否定的な経験とともに,罹患経験に伴う専門性の向上,命の大切さ,隔離生活を乗り越える工夫,心的外傷後の成長といった肯定的な経験の両方を経験したとされている(Aydin & Bulut, 2022Durgun Ozan et al., 2022Özlük & Bıkmaz, 2021).日本国内では,第1波流行時に院内クラスターにより感染した看護師の研究として,患者の死に対する責任,看護師がクラスターによる感染後の混乱から立ち直っていたことや,復帰前後に抱いた不安や病院への不満,復帰後の充実感について報告されていた(新改ら,2022a, 2022b).

一方で,普段の職場や日常において感染した看護師が,職場復帰以降に経験した長期的な苦痛や苦悩,新型コロナウイルス流行初期とその後に罹患した場合の経験の違いは明らかにされていない.特にオミクロン株が主流となった第6波以降は大幅な感染拡大がみられ,看護師の罹患経験にも変化が生じている可能性がある.そこで本研究では,COVID-19に罹患した看護師が,罹患してから職場復帰を果たしたのちまでの経験を明らかにすることを目的とし,さらにオミクロン株流行前後における看護師の経験の違いについても検討する.

Ⅱ. 方法

1. 用語の定義

1) 経験

中木らの概念分析に基づいて「印象に残る出来事とそのときの心身の状態,特に認識・感情・欲望・価値観などの内面的変化や主観的に捉えたあるがままの状態」(中木ら,2007)とした.

2) 職場復帰を果たしたのち

罹患が疑われた時点から,職場復帰し身体的・心理的・社会的に罹患前に戻ったと研究協力者が感じた時点とした.

2. 研究デザイン

本研究のデザインは,質的内容分析の手法を用いた質的研究とした.本研究はConsolidated criteria for reporting qualitative research(COREQ)に準拠した(Tong et al., 2007).

3. 研究対象

首都圏における急性期A病院を便宜的に抽出した.研究協力者は以下の基準を満たす者とした:1.2019年12月から2023年7月の間に,新型コロナウイルス検査により陽性と判定された,または医師によりCOVID-19と診断された者,2.COVID-19罹患時に,患者に直接的なケアを提供する部署に看護師として勤務していた者.

研究協力者の選定は,対象施設内の職員専用エリアにポスターを掲示して公募を行った.研究協力者数をこれ以上増やしても新たな語りが得られにくいと研究者が判断した時点で公募を終了した.

4. 調査方法

インタビューガイドを使用した半構造化個別面接を対面にて実施した.インタビューは看護師として20年以上の経験があり,感染管理部門経験のある研究者1名が実施した.インタビューでは基本情報として,罹患時の年齢,同居者の有無,子どもの有無,職位,部署,発症日,感染経路,症状,後遺症の有無と後遺症の症状を尋ねた.次に,COVID-19に罹患していると判明した時の気持ち,身体的・心理的・社会的に辛かったこと,罪責感情,職場や家庭の受け入れ,罹患前の状態に回復するまでに要した期間,復帰した時の気持ち,復帰後に支障となったこと,病院の体制で良かったことや不満・要望などについて尋ねた.本研究で研究協力者が想起した期間は,COVID-19が疑われた時点から,職場に復帰し身体的・心理的・社会的に罹患前の状態と同様に業務が遂行できると感じられた時点とした.インタビューは1人につき1回実施した.

研究者が研究協力者に対し,同意書を用いて研究の趣旨を説明し研究の同意を得た.研究者は研究協力者に対し,許可を得てインタビュー内容を録音した.録音データに基づき逐語録を作成し,これを分析に用いた.データ収集期間は2023年1月から2023年7月であった.

5. 分析方法

Krippendorffの内容分析を用いて分析を行った(Krippendorff, 1980/1989).まず,逐語録を熟読しデータの全体像を把握した.次にCOVID-19に罹患した看護師の経験に相当すると思われるデータを抽出し,意味のまとまりを分析単位とした切片化を行った.分析単位ごとにそこに含まれる意味内容を端的に示すコードを作成した.続いて,意味内容が類似したコードをまとめ,サブカテゴリとした.これ以上抽象度を上げると一般的なカテゴリ名になりすぎるというところまでサブカテゴリをまとめ,カテゴリとした.カテゴリ,サブカテゴリに関して,同様の発言をした研究協力者数を算出した.加えて,2021年12月以前にCOVID-19に罹患した研究協力者をオミクロン株流行前罹患群,2022年1月以降をオミクロン株流行後罹患群とし,2群についてカテゴリ,サブカテゴリの発言者数を比較した.得られた結果は,質的研究の経験がある研究者2名と感染症看護専門看護師1名からスーパービジョンをうけた.解析には質的研究支援ソフト「NVivo®Ver.1.7.1Windows(QSRInternational)」を使用した.なお,結果の妥当性を確保するために,メンバーチェッキングとして全研究協力者に分析結果を送付し,結果と自身の経験に齟齬がないか確認してもらった.

6. 倫理的配慮

本研究は,横浜市立大学人を対象とする生命科学・医学系研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号F22120032).研究者は,自由意思での参加,研究に参加しなくても不利益を生じない,同意の撤回,個人情報が特定されないことを研究協力者に文章で説明し,同意を得た.研究協力者には,研究協力への謝礼として1,000円分の商品券を手渡した.

Ⅲ. 結果

1. 研究協力者の概要

14名の研究協力者に対してインタビューを実施した.インタビュー時間は中央値63分(範囲37~102分)であった.COVID-19罹患時の年齢は中央値42歳(範囲23~61歳),性別は女性13名(93%),罹患時に同居者がいた者は11名(79%),師長または主任の役職に就いていた者は5名(36%)であった.2021年12月以前にCOVID-19に罹患したオミクロン株流行前罹患群は8名,2022年1月以降に罹患したオミクロン株流行後罹患群は6名であった(表1).

表1 研究協力者背景

全研究協力者(n = 14) オミクロン前罹患群(n = 8) オミクロン後罹患群(n = 6)
n or Median % or 範囲 n or Median % or 範囲 n or Median % or 範囲
インタビュー時間(分) 63 37~102 65 50~102 52 37~78
性別 女性 13 93 7 88 6 100
年齢 罹患時年齢(歳) 42 23~61 36 23~51 43 32~61
同居者 同居あり 11 79 6 75 5 83
学童期までの子どもあり 2 14 0 0 2 33
役職 師長 3 21 2 25 1 17
主任 2 14 2 25 0 0
スタッフ 9 64 4 50 5 83
部署 病棟 8 57 7 88 1 17
救急 2 14 0 0 2 33
外来 2 14 0 0 2 33
その他 2 14 1 13 1 17

2. 分析結果

インタビューで得られた逐語録より,16のカテゴリ,70のサブカテゴリ,1023のコードを抽出した.分析の過程で,研究協力者の経験は感染症発症から隔離期間中と職場復帰後で大きく異なっていた.このため,本研究では対象者の経験を「感染症発症から隔離期間中の経験」(表2)と「職場復帰後の経験」(表3)の2つに大別した.カテゴリ,サブカテゴリは,全研究協力者において発言者数が多かった順に記載した.メンバーチェッキングでは,14名中12名の研究協力者から回答があり,回答した全員が,分析結果は妥当だと判断した.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,補足した言葉を( ),研究協力者の語りを斜体で示した.なお,本文中でカテゴリは全研究協力者の半数以上が言及したもののみ,サブカテゴリはオミクロン株流行前罹患群とオミクロン株流行後罹患群の半数以上が発言したもののみを示した.

表2 感染症発症から隔離期間中の経験

カテゴリ
 サブカテゴリ
全研究協力者(n = 14) オミクロン前罹患群(n = 8) オミクロン後罹患群(n = 6)
n % n % n %
防ぎようのない感染 14 100 8 100 6 100
感染しないように医療者としてやれることはやってきた 7 50 5 63 2 33
あやしいと思っていたがやっぱりコロナに罹患していた 7 50 5 63 2 33
まさか自分が感染するとは思わなかった 6 43 4 50 2 33
感染経路の心当たりがなかった 6 43 3 38 3 50
リスクの高い現場では感染予防に限界があった 4 29 1 13 3 50
いつかはかかると思っていた 3 21 0 0 3 50
家族から感染してしまうのは仕方なかった 3 21 0 0 3 50
周囲からの支え 14 100 8 100 6 100
同僚が気遣ってくれた 10 71 6 75 4 67
家族の支えがあった 10 71 7 88 3 50
上司が寄り添ってくれた 10 71 6 75 4 67
周囲から過剰な反応はされなかった 7 50 3 38 4 67
周囲へ感染させる不安や恐怖 13 93 8 100 5 83
一番の恐怖は患者に感染させることだった 11 79 8 100 3 50
同僚に感染させたかもしれない 9 64 7 88 2 33
家族に感染させていたらどうしよう 7 50 3 38 4 67
免疫力の低い患者にうつして重症化したらどうしよう 4 29 3 38 1 17
感染した自分が患者の死に関与したかもしれない 3 21 3 38 0 0
隔離生活の辛さ 13 93 8 100 5 83
隔離は孤独で辛かった 7 50 5 63 2 33
どのように隔離すればいいのかわからなかった 4 29 4 50 0 0
自分なりの過ごし方を模索した 4 29 3 38 1 17
隔離期間中は職場の役割を果たすことができず申し訳なかった 4 29 2 25 2 33
隔離期間中にあれこれ確認されて嫌な気分になった 3 21 1 13 2 33
家族の世話をするのが大変だった 2 14 0 0 2 33
管理部門からの支援 13 93 7 88 6 100
必要な対応について管理部門に気軽に相談できた 7 50 3 38 4 67
職員の検査体制がありがたかった 5 36 4 50 1 17
休みを確保してくれた 4 29 2 25 2 33
隔離生活のために病院の寮を借りられて助かった 2 14 2 25 0 0
経験したことがない症状 12 86 8 100 5 83
何もできないくらい症状が強かった 10 71 6 75 4 67
今までにない症状だった 6 43 4 50 2 33
インフルエンザやかぜとは病状が違った 3 21 1 13 2 33
罪責感 10 71 6 75 5 83
同僚に迷惑をかけた辛さがあった 9 64 5 63 4 67
自分の感染対策の不備を悔やんだ 5 36 3 38 2 33
自分のことより家族に申し訳ないと感じた 4 29 2 25 2 33
職場でどう思われるのか心配だった 4 29 3 38 1 17
感染した自分を責めた 3 21 3 38 0 0
親がショックを受けていた 2 14 2 25 0 0
見通しの立たなさ 4 29 3 38 1 17
この先よくなるのか不安だった 4 29 3 38 1 17
診断がつくまで身の置き場がなかった 2 14 2 25 0 0
職員・家族の受診体制整備への要望 4 29 2 25 2 33
職員の診察・処方を充実させてほしかった 2 14 1 13 1 17
  家族に対しても優先的に検査をしてほしかった 2 14 1 13 1 17
表3 職場復帰後の経験

カテゴリ
 サブカテゴリ
全研究協力者(n = 14) オミクロン前罹患群(n = 8) オミクロン後罹患群(n = 6)
n % n % n %
職場スタッフからの支え 13 93 7 88 6 100
同僚の気遣いに救われた 13 93 7 88 6 100
自分がいなくてもスタッフが協力して業務をこなしてくれた 8 57 5 63 3 50
いつも通りに接してくれた 5 36 3 38 2 33
自分のペースで仕事をさせてもらえた 5 36 4 50 1 17
上司が共感し寄り添ってくれた 5 36 3 38 2 33
スムーズな復帰 12 86 7 88 5 83
罹患した経験を看護に活かした 5 36 3 38 2 33
仕事に復帰することは嬉しかった 4 29 3 38 1 17
金銭的な不安はなかった 4 29 2 25 2 33
病院は適切な対応をしてくれた 4 29 2 25 2 33
長引く症状がなく復帰できた 3 21 2 25 1 17
職場に感染を広げていないことを確認出来て安心した 1 7 1 13 0 0
復帰後も続く長引く症状 11 79 6 75 5 83
長引く症状が苦しかった 9 64 5 63 4 67
長引く症状が理解されないのがもどかしかった 6 43 4 50 2 33
物忘れや思考にまとまりがない症状が生じた 4 29 3 38 1 17
症状の辛さについて院内のサポートを利用した 3 21 3 38 0 0
長引く症状による業務への支障 10 71 5 63 5 83
業務についていくのに必死で看護に不全感が生じた 5 36 2 25 3 50
患者の前で咳がでることには気を使った 4 29 2 25 2 33
物忘れや思考にまとまりがなく業務に支障を生じた 4 29 3 38 1 17
心理的サポートの必要性 7 50 7 88 0 0
心理士のサポートはありがたいと思った 5 36 5 63 0 0
罹患経験のある者同士でわかりあえた 4 29 4 50 0 0
病院の支援体制に関する要望 7 50 5 63 2 33
休暇の取り方に不安を覚えた 4 29 4 50 0 0
労災の手続がスムーズにいかなかった 4 29 4 50 0 0
上司の共感や配慮があるとよかった 3 21 1 13 2 33
公的な補償制度について情報を提供してほしかった 2 14 2 25 0 0
体調を考慮して業務量を配慮してほしかった 2 14 0 0 2 33
人員配置を調整してほしかった 2 14 1 13 1 17
後遺症にどのように配慮するか病院全体として方針を示してほしかった 1 7 0 0 1 17
職場での後ろめたさ 5 36 4 50 1 17
迷惑をかけてしまいいたたまれなかった 3 21 3 38 0 0
投げかけられた言葉にいつもより敏感になった 2 14 1 13 1 17
こんなに休んだうえにこれ以上辛いと言えなかった 1 7 1 13 0 0
1年目の立場で休んでしまい苦しんだ 1 7 1 13 0 0

1) 感染症発症から隔離期間中の経験

感染症発症から隔離期間における研究協力者の経験として,9のカテゴリ,39のサブカテゴリ,597のコードを抽出した.この時期の研究協力者の経験として抽出されたカテゴリは,発言者数の多かった順に,【防ぎようのない感染】【周囲からの支え】【周囲へ感染させる不安や恐怖】【隔離生活の辛さ】【管理部門からの支援】【経験したことがない症状】【罪責感】などであった.以下,各カテゴリをサブカテゴリと生データを引用しながら示す.

(1) 【防ぎようのない感染】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈感染しないように医療者としてやれることはやってきた〉〈あやしいと思っていたがやっぱりコロナに罹患していた〉〈まさか自分が感染するとは思わなかった〉〈感染経路の心当たりがなかった〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では〈感染しないように医療者としてやれることはやってきた(5/8名)〉〈あやしいと思っていたがやっぱりコロナに罹患していた(5/8名)〉〈まさか自分が感染するとは思わなかった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈感染経路の心当たりがなかった(3/6名)〉〈リスクの高い現場では感染予防に限界があった(3/6名)〉〈いつかはかかると思っていた(3/6名)〉〈家族から感染してしまうのは仕方なかった(3/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

コロナを扱っている病棟なので,外出することを控えているスタッフが多かったと思いますし,ワクチンもまだ接種してなかったので,いつどこで誰が感染してもおかしくないかなと思いました.みんなほんとに気をつけていたと思います.(ID7,オミクロン株流行前に感染)

(2) 【周囲からの支え】

このカテゴリは,研究協力者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈同僚が気遣ってくれた〉〈家族の支えがあった〉〈上司が寄り添ってくれた〉〈周囲から過剰な反応はされなかった〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈家族の支えがあった(7/8名)〉〈同僚が気遣ってくれた(6/8名)〉〈上司が寄り添ってくれた(6/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈同僚が気遣ってくれた(4/6名)〉〈上司が寄り添ってくれた(4/6名)〉〈周囲から過剰な反応はされなかった(4/6名)〉〈家族の支えがあった(3/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

(同僚が)1番心配してくれたので,看護師さんだな,みんな(と思いました).1番辛いところに手が届くじゃないけど,こういうことして欲しいなと思ったら先回りしてやってくれるので,普通に家族とかよりも,辛いところを全部ケアしてくれたような感じです.(ID3,オミクロン株流行前に感染)

(3) 【周囲へ感染させる不安や恐怖】

このカテゴリは,研究協力者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈一番の恐怖は患者に感染させることだった〉〈同僚に感染させたかもしれない〉〈家族に感染させていたらどうしよう〉〈免疫力の弱い患者にうつして重症化したらどうしよう〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈一番の恐怖は患者に感染させることだった(8/8名)〉〈同僚に感染させたかもしれない(7/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈家族に感染させていたらどうしよう(4/6名)〉〈一番の恐怖は患者に感染させることだった(3/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

その時に(コロナに)かかった患者さんの1人が,(中略)ほとんど末期みたいな感じの状態で,そのままコロナにかかってお亡くなりになった方がいて.私が(うつ)してしまったと,すごく思ったことがあって.(中略)自分が間接的に殺しちゃったとは思わないけど,一つの原因になっていると思うと悲しいし言葉がでてこない.(ID8,オミクロン株流行前に感染)

(4) 【隔離生活の辛さ】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈隔離は孤独で辛かった〉〈どのように隔離すればいいのかわからなかった〉〈自分なりの過ごし方を模索した〉〈隔離期間中は職場での役割を果たすことができず申し訳なかった〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈隔離は孤独で辛かった(5/8名)〉〈どのように隔離すればいいのかわからなかった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,半数以上の研究協力者が発言したサブカテゴリはみられなかった.

心理的にはやっぱり一人でいたので心細いというのはあるし,ほんとに熱が下がってくれればいいけど,下がった後,後遺症とか,ずーと残っちゃう人っているじゃないですか.ニュースとかで,そういうのに自分がなるんじゃないかとか.(ID2,オミクロン株流行後に感染)

(5) 【管理部門からの支援】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈必要な対応について管理部門に気軽に相談できた〉〈職員の検査体制がありがたかった〉〈休みを確保してくれた〉〈隔離生活のために病院の寮を借りられて助かった〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈職員の検査体制がありがたかった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈必要な対応について管理部門に気軽に相談できた(4/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

未知の(感染症という)感じだったから,どうしたらいいのかわからなかったけれど,(相談すると感染対策部門が)すぐに答えをだしてくれたので,すごく守られているなと思いながら働いていました.(ID4,オミクロン株流行後に感染)

(6) 【経験したことがない症状】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈何もできないくらい症状が強かった〉〈今までにない症状だった〉〈インフルエンザやかぜとは病状が違った〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈何もできないくらい症状が強かった(6/8名)〉〈今までにない症状だった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈何もできないくらい症状が強かった(4/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

発症してから1週間ぐらいはほとんど食べていなかったと思います.もう具合が悪くて,ベッドから基本的に降りることができない生活をしていて.筋力も落ちたし,辛かったとしか言いようがないです.(ID7,オミクロン株流行前に感染)

(7) 【罪責感】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈同僚に迷惑をかけた辛さがあった〉〈自分の感染対策の不備を悔やんだ〉〈自分のことより家族に申し訳ないと感じた〉〈職場でどう思われるのか心配だった〉.

感染時期別の比較では,半数以上のサブカテゴリの順序に両群で違いはなかった.

自分が(勤務に)穴を開けてしまったことで,勤務が崩れてしまったとか,あとは休みの人が結局(勤務に)出てこなきゃいけなくなったとか,何かそのへんは申し訳ない気持ちでいっぱいの中でお休みしました.(ID4,オミクロン株流行後に感染)

2) 職場復帰後の経験

職場復帰後の研究協力者の経験として,7のカテゴリ,31のサブカテゴリ,426のコードを抽出した.この時期の研究協力者の経験として抽出されたカテゴリは,発言者数の多かった順に,【職場スタッフからの支え】【スムーズな復帰】【復帰後も続く長引く症状】【長引く症状による業務への支障】【心理的サポートの必要性】【病院の支援体制に関する要望】などであった.

(1) 【職場スタッフからの支え】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈同僚の気遣いに救われた〉〈自分がいなくてもスタッフが協力して業務をこなしてくれた〉〈いつも通りに接してくれた〉〈自分のペースで仕事をさせてもらえた〉〈上司が共感し寄り添ってくれた〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈同僚の気遣いに救われた(7/8名)〉〈自分がいなくてもスタッフが協力して業務をこなしてくれた(5/8名)〉〈自分のペースで仕事をさせてもらえた(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈同僚の気遣いに救われた(6/6名)〉〈自分がいなくてもスタッフが協力して業務をこなしてくれた(3/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

日勤のメンバー表をマグネットで,ホワイトボードに張り付けていたんです.(中略)私が復帰した日のマグネット配置が,私の名前が中心にどんとあって,私の名前を円で囲むような形にマグネットの配置がなっていたんですね.前日に誰かが遊んだんでしょうけど.でも,それだけでも,なんか意識してくれているんだなと(うれしいなと思いました).(ID12,オミクロン株流行前に感染)

(2) 【スムーズな復帰】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈罹患した経験を看護に活かした〉〈仕事に復帰することは嬉しかった〉〈金銭的な不安はなかった〉〈病院は適切な対応をしてくれた〉.

感染時期別の比較では,両群ともに半数以上の研究協力者が発言したサブカテゴリはなかった.

お子さんの付き添いで個室に親子で入って,お母さんがすごく無理しようとしてたんですよね.その時に私の(コロナに罹患した)体験を伝えて,(中略)お母さんをちょっと休ませる方向に納得させるために,自分は(コロナに)かかって同じ苦しみをしたっていうときには(罹患経験を)使いました.(ID1,オミクロン株流行後に感染)

(3) 【復帰後も続く長引く症状】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈長引く症状が苦しかった〉〈長引く症状が理解されないのがもどかしかった〉〈物忘れや思考にまとまりがない症状が生じた〉〈症状の辛さについて院内のサポートを利用した〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈長引く症状が苦しかった(5/8名)〉〈長引く症状が理解されないのがもどかしかった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群で半数以上が発言した研究協力者のサブカテゴリは〈長引く症状が苦しかった(4/6名)〉のみであった.

1番辛かったのが,呼吸苦がずっとあって.横になって眠れなかったです.横になるともっと苦しくなるので,ずっと座って寝ていて,睡眠不足だし.(中略)ほんとに座ってずっと体育座りみたいな感じで壁に寄りかかっていました.ほぼ1ヵ月,2ヶ月満たない位で(症状が)1ヵ月は続きました.(ID7,オミクロン株流行前に感染)

(4) 【長引く症状による業務への支障】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈業務についていくのに必死で看護に不全感が生じた〉〈患者の前で咳がでることには気を使った〉〈物忘れや思考にまとまりがなく業務に支障を生じた〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群で半数以上の研究協力者が発言したサブカテゴリはみられなかった.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,〈業務についていくのに必死で看護に不全感が生じた(3/6名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.

自分のことで頭がいっぱいになりながら,倒れたらどうしようとか,しんどいしんどいっていうのが頭にありながら看護をしていたんですね.それって看護じゃないよな,とにかく業務をなんとかやりきってるだけの仕事で,看護の質としてはすごく悪かったと思う(ID1,オミクロン株流行後に感染)

(5) 【心理的サポートの必要性】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,以下のサブカテゴリから構成された:〈心理士のサポートはありがたいと思った〉〈罹患経験のある者同士でわかりあえた〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈心理士のサポートはありがたいと思った(5/8名)〉〈罹患経験のある者同士でわかりあえた(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群では,研究協力者が発言したサブカテゴリはみられなかった.

(コロナ流行初期のみ心理士が罹患者に送っていた)手紙の中に,長期療養した人たちが陥りやすい心理状況のケアとかが書いてあったので,それはすごく役に立った気がします.(中略)待っている人たちもこういう状況で待ってくれているなっていうのがわかったので,頼っていいんだなと思えることができたり,言いたくないことは言わなくていいんだな,みたいのが.サポートの手紙に入っていたので.(ID3,オミクロン株流行前に感染)

(6) 【病院の支援体制に関する要望】

このカテゴリは,発言者数の多かった順に,主に以下のサブカテゴリから構成された:〈休暇の取り方に不安を覚えた〉〈労災の手続きがスムーズにいかなかった〉〈上司の共感や配慮があるとよかった〉.

感染時期別の比較では,オミクロン株流行前罹患群では,〈休暇の取り方に不安を覚えた(4/8名)〉〈労災の手続きがスムーズにいかなかった(4/8名)〉のサブカテゴリについて半数以上が発言した.一方で,オミクロン株流行後罹患群で半数以上の研究協力者が発言したサブカテゴリはみられなかった.

他部署からリリーフをうけて,大半のスタッフが公休の消化をできない現状で,私は年休使わせてもらっちゃったから,あと残りの5日の,夏休みがあるけど,それは(夏休みの休暇取得を)あきらめようかなって.別に上司の指示ではないのだけど.(ID13,オミクロン株流行前に感染)

Ⅳ. 考察

本研究は,COVID-19に罹患した看護師が職場に復帰したのちまでの経験を明らかにし,さらにオミクロン株流行前後の罹患時期による経験の違いを検討したという点で新規性を有する.本研究で得られた重要な知見は以下の2点である:1.看護師は感染予防行動を徹底しながらも感染を防ぎきれず,感染した際には患者へ感染させることを最も恐れていた.オミクロン株流行前罹患群の特徴として,患者に感染させる恐怖や感染した自分が患者の死に関与したかもしれない経験を有し,オミクロン株流行後罹患群の特徴として,感染を防ぎきれない思いを抱いていた.2.看護師は職場復帰後も長引く症状とそれに伴う業務への支障を経験していた.以下,各2点について考察する.

1. 感染予防行動の限界と感染させる恐怖

【防ぎようのない感染】のカテゴリは,研究協力者全員から言及されており,本研究の協力者は感染予防の難しさを感じていたと推察される.さらに,このカテゴリにおける〈いつかはかかると思っていた〉〈家族から感染してしまうのは仕方なかった〉のサブカテゴリは,オミクロン株流行後罹患群では半数の研究協力者が言及していたが,オミクロン株流行前罹患群で言及した者はいなかった.オミクロン株の実効再生産数はデルタ株の2.3~4.2倍との試算(厚生労働省,2021)や,国内の医療従事者を対象とした調査でデルタ株流行期と比較し,オミクロン株流行期は医療従事者の罹患者が3.4倍に増加したと報告されている(Li et al., 2023).また,COVID-19流行初期は子どもへの感染例は少なかったが(国立感染症研究所,2022b),デルタ株流行の頃から子どもへの感染が増加し始めた(厚生労働省,2023b).オミクロン株はデルタ株と比較しても家庭内感染が調整オッズ比で2.9との報告もある(UK Health Security Agency, 2021).新型コロナウイルスの変異に伴い感染力が増加し,家庭内感染も増えたことから,オミクロン株流行後罹患群は,会食制限,業務内の対策だけでは感染を防ぎきれないという認識を抱いていたと推察される.

感染症発症から隔離期間中の経験における【周囲へ感染させる不安や恐怖】のカテゴリは,13名の研究協力者から言及されていた.このカテゴリにおいて最も発言者数が多かったサブカテゴリは,〈一番の恐怖は患者に感染させることだった〉であった.クラスターが多発していた状況をうけ(国立感染症研究所,2022c原田,2022)研究協力者は患者に感染させる恐怖を感じていたと考えられる.このサブカテゴリについては,オミクロン前罹患群では研究協力者全員が言及していたのに対し,オミクロン後罹患群での発言者は半数に留まった.オミクロン株流行前の変異株では重症化率が高く(厚生労働省,2022),本研究結果に影響した可能性がある.重症化率の高さとクラスター対策の難しさから,オミクロン株流行前罹患群は特に患者への感染の恐怖を感じやすかったと考えられる.

【周囲へ感染させる不安や恐怖】のカテゴリにおける〈感染した自分が患者の死に関与したかもしれない〉というサブカテゴリは,オミクロン株流行前罹患群のみから言及されていた.米国の退役軍人病院において,COVID-19で入院した患者の死亡率は5.9%であったと報告されている(Xie et al., 2023).COVID-19に罹患した看護師を対象にした国内の先行研究でも,【患者の死に責任を感じた】というカテゴリが抽出されている(新改ら,2022a).入院患者は,糖尿病,透析,高齢などのCOVID-19の重症化のリスク因子を有することが多く,患者が死に至る恐怖を研究協力者は感じていたと推察される.本研究を通して,オミクロン株流行前は,患者に感染させる恐怖や感染した自分が患者の死に関与したかもしれない経験の特徴を示したことは,本研究の意義と言える.

2. 長引く症状と業務障害

復帰後の経験において,【復帰後も続く長引く症状】のカテゴリは,11名の研究協力者から言及されていた.このカテゴリにおいて最も発言者数が多かったサブカテゴリは,〈長引く症状が苦しかった〉であった.女性医療従事者の45%が長引く症状を訴え,疲労・息切れ・睡眠障害・気分障害などの症状があったとの報告もあり(Gaber et al., 2021),女性の割合が多い看護師は長引く症状の割合が高い可能性がある.国内医療従事者のPCCについての実態は明らかではないが,本研究では,〈長引く症状が苦しかった〉のサブカテゴリに言及した研究協力者は9名と半数を超え,何らかの症状を有しながら業務にあたっていたと推察される.【病院の支援体制に関する要望】のカテゴリでは〈体調を考慮して業務量を配慮してほしかった〉〈上司の共感や配慮があるとよかった〉のサブカテゴリが抽出され,体調に対する配慮を望む声が聞かれた.復帰後の看護師に対して,業務量を調整しながら本人のペースに合わせ勤務できるよう支援することが必要と考えられる.

また,【復帰後も続く長引く症状】のカテゴリの中の〈物忘れや思考にまとまりがない症状が生じた〉のサブカテゴリでは,思考がまとまらない・普段はしないミスをしたなどの症状が語られた.COVID-19と診断され入院した患者2,696名に対する退院3か月後のアンケート調査では,7.2%の患者にBrain Fogの症状がみられたとの報告があり(Asadi-Pooya et al., 2022),本研究では4名の研究協力者がBrain Fogに相当する症状を語っていた.看護業務はマルチタスクが要求され,Brain Fogの症状を有する看護師は,看護業務に支障が生じることが推察される.看護師が長引く症状を有しながら業務にあたり,Brain Fogを含む症状によって業務への支障を経験していることを示した点は本研究の新規性と言えるだろう.

3. 看護への示唆

新興感染症の発生初期には,看護師は周囲へ感染させる恐怖を感じていた.そのため,周囲が共感的な対応を行うことで,安心して業務に集中ができると考える.また,復帰後はPCCを念頭においた,勤務体制や業務内容の配慮が望まれる.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究の限界として以下の4つがあげられる.1つ目は,研究協力者を単施設からリクルートしていた点である.2つ目は,研究者が感染管理担当者として研究対象施設で勤務していた点である.3つ目は,発言者数が14名と限られているなか,オミクロン株流行前後で,サブカテゴリにおける発言者数を比較した点である.4つ目は,罹患時期による想起バイアスが生じている点である.今後は,多施設における調査で,さまざまな看護師の罹患経験が反映される研究や,オミクロン前後に分けたカテゴリ化を実施することで,フェーズに応じた適切な比較が可能になると考える.

Ⅵ. 結論

COVID-19に罹患した看護師は,感染症発症から隔離期間中において,医療従事者として感染予防行動を徹底しながらも感染を防ぎきれなかった経験や,患者へ感染させることを最も恐れていた経験,隔離期間中における辛い症状や不安・孤独を経験していた.職場復帰後においては,周囲の支えによりスムーズな復帰を果たした研究協力者が存在した一方で,長引く症状に苦しんだ研究協力者も存在した.本研究の結果から,本人のペースに合わせた業務配分の必要性が示唆された.

付記:本論文は,横浜市立大学大学院医学研究科に提出した修士論文の一部に加筆修正を加えたものである.

謝辞:本研究に快くご協力いただきました研究協力者の皆様に深く感謝申し上げます.また,参加施設の看護部長ならびに看護部の皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:EKは研究の着想,デザイン,データの入手,分析,解釈,原稿執筆の全てを行った.NTおよびROは,研究の着想,デザイン,データの分析,原稿作成における重要な助言を実施した.MAは研究の進行,感染症看護専門看護師の立場から結果の解釈,研究プロセス全体への助言を実施した.EH,KT,ENは研究プロセス全体への助言を実施した.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2024 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top