2007 年 38 巻 1 号 p. 18-23
特定悪臭物質の酢酸エチル,硫化水素,アンモニアについて,臭気への認知要因を教示で実験操作して,臭気の快不快度への影響度合いを調べた.実験では,臭気の濃度と提示時間を制御して提示し,実験参加者がスライドバーによって連続的に評定した強度応答をリアルタイムで収録する臭気順応計測システムを用いた.154人の実験参加者は,提示される臭気について「健康によい」「健康に悪い」「どちらでもない」のうち,どれかひとつの教示を受けた直後,いずれかの悪臭の感覚的強度を10分間リアルタイムで評定し,終了後,快不快度を評価した.その結果,特定悪臭物質の快不快度においても,教示の影響が現れたが,影響の程度は悪臭物質やその濃度によって異なった.酢酸エチルでは教示の効果が有意で,「健康によい」というポジティブ教示群は,「健康に悪い」というネガティブ教示群よりも快に感じた.硫化水素では,低濃度の場合にのみ,教示の効果がみられ,ネガティブ教示群はポジティブ教示群よりも,また,コントロール教示群はポジティブ教示群よりも不快に評定された.アンモニアについては教示要因の影響はみられなかった.これらの結果は,公害臭気の対策で難題であった快不快の個人差の問題の解明に一歩踏み込むことができた.今後,臭気に対する順応過程の個人差やそれに関わる認知的要因を考慮することによってより実情に則した臭気対策が期待される.