におい・かおり環境学会誌
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特集 (食品の異臭 Part II)
食品の異臭 Part II
岩橋 尊嗣
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2010 年 41 巻 6 号 p. 371

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抄録

本誌2010年7月号で,食品の異臭に関する特集を企画し,PartIとして5編の記事を掲載した.本号では,その続編としてさらに5編を紹介する.
はじめに,氏田氏(日本生活協同組合連合会)は,「食品の異臭苦情について—日本生協連に寄せられる異臭苦情の状況と取り組み—」という題目で,日本生協連に寄せられた食品の異臭についての執筆である.大規模組織である日本生協連に寄せられた問い合わせ・苦情の中で,異味・異臭苦情は増加傾向にあるようだ(2008年は突出している).2000年〜2009年までの苦情背景を振り返って頂き,実際に寄せられた異臭苦情の区分けをさまざまな角度から行っていることが紹介されている.読者にとって非常に解り易く述べられている.また,異臭の原因訴追も徹底的に行っている様子がうかがえ,参考になる情報である.
川浦氏,小林氏((財)食品分析開発センターSUNATEC)らは,「食品の異臭クレームにかかわる検査」という題目での執筆である.食品分析の専門家からの視点で分析手法も含めて多くの事例が紹介されている.特に,実際の分析結果のクロマトグラムが数多く紹介されており,食品の正常品と異常品の違いが誰の目にも容易に理解できる.また,異臭対策についての記述もあり,我々の日常業務にとって対策指針の一助になるであろう.
以上の2編は,消費者からの異臭苦情(クレーム)を軸とした情報である.以下の2編は,商品(製品)そのものの臭気にかかわる情報である.
磯谷氏((独)酒類総合研究所)は,「清酒の貯蔵劣化臭「老香」とその前駆物質」という題目での執筆である.読者の方々で「老香」(ひねか)の読み方を知っている方は,おそらく少数派ではないだろうか.最適熟成期間を過ぎ,さらに貯蔵することを過熟といい,その時に出てくる“かおり”を老香というのである.本稿では,老香に関する著者の研究を中心に紹介されている.多種類の香気成分の中で,特にジメチルトリスルフィドが清酒のオフフレーバーのキー物質になっているとされる.日本酒の好きな方は是非「熟読」されてはいががでしょうか.
小松氏,大森氏(明治乳業(株))らは,「「あじわいこだわり製法」によるクリームの香味向上と食材由来の不快臭発生抑制効果」という題目での執筆である.著者らは,牛乳の原産地に影響されない差別化されたクリームの製造を目指し,製法を確立した.既存品と比較し,香味において明らかな優位性を見出している.ニンニク料理を食べた後に牛乳を飲むと“息のくささが軽減される”.古くから言われていることである.これは牛乳中のコロイドが作用するためであると理解されている.新規開発したクリームは,カスタードクリームの卵のオフフレーバー,カリフラワー調理時の異臭を抑制する効果があるとされる.
最終章は,和田氏,森氏,後藤氏(東京海洋大学),喜多氏((株)島津製作所)らは,「食品脂質劣化のにおい生成と抑制およびそのにおい測定」という題目での執筆である.食品のにおい変化の最大要因の一つは,脂質の劣化である.脂質の酸化反応すなわちラジカル反応が生起し,多種類の酸素含有化合物が産生され,これらが食品の異臭問題へとつながる.詳細な反応機構について記述され,さらに抗酸化剤,ラジカル捕捉剤を活用することでの酸化防止が可能であることも述べられている.また,分析事例として魚種によるにおい物質の違いを,分析結果に基づき紹介されている.これらは貴重なデータベースである.情報が多岐に渡るため,紹介しきれないが是非本文に目を通していただきたい.また,国連の専門機関である食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が1962年に合同で設立した「コーデックス委員会(Codex委員会 : 国際食品規格委員会)」の重要性についても触れられている.さらに,和田氏は将来的には食品にかかわるにおい物質についてもコーデックス委員会で規格化されるよう,日本としては指導的立場をとれるように努力することが望ましいと結ばれている.
Part I, Part IIを通し,合計10編の記事を紹介した.7月号掲載の特集も本号の内容とさまざまな箇所でリンクしてくる.是非7月号もお手元において本号を読まれることをお勧めしたい.最後に,ご多忙中にもかかわらず執筆依頼にご快諾いただいた著者の方々に対し,本紙面を借り厚く御礼申し上げる次第です.

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© 2010 (社)におい・かおり環境協会
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